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土地は亡くなった人の名義のままでも大丈夫?リスクや必要手続きを解説

土地は亡くなった人の名義のままでも大丈夫?リスクや必要手続きを解説

「土地を亡くなった人の名義のままにしておいても問題ない?」「名義変更をしないリスクはある?」土地所有者が亡くなり相続人になったはいいけれど、名義変更の必要性や方法がわからず困っているという人もいるのではないでしょうか。

土地・建物は亡くなった人の名義のままではいけません。法改正により、「相続による所有権移転登記」が義務付けられたためです。

正当な理由なく「不動産を相続した事実を知ったときから3年以内」に相続登記を行わないと、「10万円以下の過料」が科されるおそれがあります。

また、名義を変えずに放置しておくことは、以下のような問題につながります。

  • 相続関係が複雑化し、遺産分割協議に時間がかかる
  • 土地の売却や活用ができなくなる
  • 相続人が認知症になり遺産分割協議ができなくなる

遺産分割協議が長引いている場合は、相続人が複数いても単独で申出ができる「相続人申告登記」をしておくと、ひとまず申請義務を履行したことになります。期限に間に合いそうになければ、利用を検討してみてもよいでしょう。

この記事では、亡くなった人の名義のままになっている土地の相続登記や登記しないことで起きるリスクについて解説します。名義変更にかかる費用や「相続土地国庫帰属制度」についても解説しているため、ぜひ最後までご覧ください。

亡くなった人の名義のままになっている土地の相続登記手続き

土地が亡くなった人(被相続人)の名義のままになっているなら、相続登記が必要です。

「相続登記」とは、法務局に備わっている公の帳簿「登記簿」の情報を、現在の所有者から相続人に変える手続きです。

所有者が亡くなると、その不動産はいったん相続人の共有財産になります。有効な遺言書があれば遺言書どおりに相続しますが、ないなら以下のうちいずれかの方法で遺産を分けます。

  • 遺産分割協議を行う
  • 法定相続割合どおりに分ける

「遺産分割協議」とは、相続人全員が話し合い、遺産をどのように分けるかを決めることです。また、「法定相続割合」とは、民法が定める相続人ごとの取り分です。

長年名義を変えずに放置されている土地は「未登記土地」「所有者不明土地」などと呼ばれ、環境の悪化や公共工事の妨げになるなどの社会問題になっています。行政も所有者の死亡を把握しきれず、登記上の所有者の子孫ですら、その土地の存在を知らないというケースも少なくありません。

そのような問題が起こる原因のひとつに、これまで相続登記が任意であったことが挙げられます。しかし、現在相続登記は義務化され、放置した際の罰則も設けられました。未登記土地などの解消につながることが期待されています。

2024年4月1日から相続登記が義務化される

前述のとおり、相続登記は2024年4月1日から義務化されました。土地や建物の名義を変えないまま放置していると、罰則を受ける可能性があります。

ここでは、相続登記の義務化について解説します。

  • 相続登記は3年以内に行う必要がある。施行日より前に発生した相続も対象になる
  • 正当な理由なく期限内に相続登記をしなければ、10万円以下の過料が科される可能性がある

改正法が施行されてから3年以内に相続登記をしなければいけない

相続登記は、「相続によって自己が不動産を取得した事実を知ったときから3年以内」に行う必要があります。「知ったときから」であるため、相続の事実を知らずに過ごしていた期間はカウントされません。

また、この「相続」には、遺言で取得したケースも含まれます。遺産分割協議を行った結果不動産を取得したときは、「遺産分割の完了から3年以内」です。

相続人が複数名存在するケースでは、相続人のうち、最後に相続の開始を知った相続人の認知した日からカウントします。

なお、施行日より前に発生した相続も義務の対象です。

相続登記が未完了なら、2027年3月31日までに登記する必要があります。改正法施行後に不動産の取得を知った場合は、「認知した日から3年以内」が期限です。

参照:相続登記が義務化されました(令和6年4月1日制度開始)〜なくそう所有者不明土地!〜|東京法務局

法改正によって10万円以下の過料が科せられる場合がある

相続登記を期限内に行わなければ、10万円以下の過料が科せられる可能性があります。罰則を受けるのは、違反に正当な理由がなかった場合です。

「正当な理由」とは、以下のようなことを指します。

  • 相続関係が複雑で、相続人調査に時間がかかる
  • 遺言書の内容をめぐって裁判が行われている
  • 申請義務者が重病やけがなどで申請できない
  • 申請義務者がDV被害者であり、登記したことが原因で危険にさらされるおそれがある
  • 申請義務者が経済的に困窮しており、登記費用が負担できない

上記のような事情があるときは、期限内に申請できなくても義務違反にならないとされています。上記に該当しないケースでも、申請できない事情があり、その事情に正当性が認められるなら罰則はありません。

なお、申請義務に違反しても、すぐに罰則を受けるわけではありません。まず、法務局から義務を履行するよう催告されます。

ただし法務局からの催告を受けても、そのあと登記を行えば問題ありません。申請できない事情があるときは催告を無視せず事情を説明し、登記官の判断を仰ぎましょう。

参照:相続登記の申請義務化について|法務省

土地を亡くなった人の名義のままにしておくリスク

土地を亡くなった人の名義のままにしておくことは、相続登記の申請義務違反に該当する以外にもリスクがあります。ここでは、名義変更をしないリスクについて解説します。

  • 相続開始から時間が経つとその間に新たな相続が発生し、相続関係が複雑化する
  • 土地の名義を変更していない状態では売却・活用できない
  • 長年相続登記せずに放置することで相続人の高齢化が進み、相続人が認知症になるリスクが高まる

相続関係が複雑化し、遺産分割協議に時間がかかる

相続開始から時間が経つと相続関係が複雑化し、遺産分割協議に時間がかかる場合があります。相続登記を行うまでの間に相続人が亡くなり、新たな相続が発生する可能性があるためです。

新たに発生した相続によって権利が子どもや孫に移ると、以下のような問題が発生します。

  • 相続人が増える
  • 戸籍を取得する手間が増える
  • 相続人同士の関係が薄く、話し合いがまとまりにくい
  • 連絡の取れない相続人がいる

遺産分割協議は、相続人全員の参加が必要です。ひとりでも欠けていると成立しません。そのため相続人の人数が増えると、全員で協議を行うこと自体が困難になります。

また、相続登記の際には、相続人全員の戸籍を提出しなければなりません。相続権が子どもや孫に移ると、子どもや孫の戸籍まで取得しなければならなくなるため、戸籍を揃えるだけでも一苦労でしょう。

さらに、コンピュータ化される前の古い戸籍は解読が難しく、相続人が多ければ多いほど相続人を見落とすリスクが高くなります。

そのほか、相続人同士のつながりがなく、話し合いがまとまりにくいという問題もあります。中には、戸籍を取得してはじめて異父兄弟や異母兄弟の存在を知るケースもあり、手紙を送っても反応がなかったり、話し合いに応じてもらえなかったりといったことも珍しくありません。

相続関係が複雑なケースでは、自力で対応しようとしてもうまくいかない可能性が高いです。そのあとの相続登記も見越して、不動産登記の専門家である司法書士に相談することをおすすめします。

土地の売却や活用ができなくなる

土地が亡くなった人の名義のままでは、そもそも売却や活用ができません。売却・活用するには、まず亡くなった人から相続人に名義を変更する必要があるためです。

たとえば亡くなった親の家を売却しようと考えている場合、相続登記が完了していなければ、買い手がついても買主への所有権移転登記ができません。相続登記が完了し、相続人の名義になってはじめて買主への所有権移転が可能になるのです。

相続登記を行う場合、申請そのものよりも準備に時間がかかります。とくにもめごとがないケースでも、以下のような準備だけで数カ月かかるでしょう。

相続人調査 ・戸籍の収集(亡くなった人の出生から死亡までの戸籍+相続人全員の戸籍)
・相続関係説明図の作成
財産調査 ・名寄帳(なよせちょう)の取得
・名寄帳に記載されている不動産の「登記事項証明書」「固定資産評価証明書」取得
遺産分割協議 ・遺産分割協議書の作成
・相続人全員の印鑑証明書取得

また、書類を揃えて法務局に相続登記を申請したとしても、その場で登記してもらえるわけではありません。申請が受理されてから登記が完了するまで、1〜2週間程度かかります。

さらに、書類に不備があれば法務局に出向き、補正対応をしなければなりません。補正が完了するまで審査は一時ストップするため、その分審査期間は余分にかかります。

このように、相続登記は準備期間も含めて時間がかかることを知っておきましょう。買主から「売ってほしい」と言われたときや、価格変動で売り時になったタイミングを逃してしまう可能性がある点に注意が必要です。

相続人が認知症になると遺産分割協議ができなくなる

相続人が認知症になると、遺産分割協議ができなくなります。遺産分割協議は法律行為であり、参加するには意思能力が必要であるためです。

意思能力がない状態で行った協議は無効です。ほかの相続人が代筆することも認められていません。

相続人が高齢になれば、認知症のリスクも当然高くなります。土地の所有者が亡くなった時点では認知症になっていなくても、登記を先延ばししているうちに相続人の高齢化が進み、認知症を発症するケースも少なくありません。

相続人が認知症になってしまった場合でも、「成年後見制度」を利用すれば、成年後見人が本人に代わって遺産分割協議を行えます。成年後見人制度とは、認知症や障害などによって意思能力が低下した人に代わって、「成年後見人」として選ばれた人が法律行為や財産管理を行う制度です。

ただし成年後見制度には、以下のように不便な面もあります。

  • 親族ではなく弁護士などの専門家が成年後見人に選ばれるケースが多い
  • 親族以外が成年後見人になった場合、報酬を支払う必要がある
  • ほかの相続人と成年後見人の意見が食い違う可能性がある

成年後見人を選任するのは家庭裁判所です。

成年後見開始を申立てる際、申立書では後見人にしたい人を「候補者」として指定できます。しかし候補者が選任されるとはかぎらず、多くの場合弁護士や司法書士といった専門家が選任されます。

専門家が後見人になった場合、月額2〜6万円の報酬が後見終了までかかり続けます。

参照:成年後見人等の報酬額のめやす|大阪家庭裁判所・大阪家庭裁判所堺支部・大阪家庭裁判所岸和田支部
参照:手続きの流れ・概要 東京家庭裁判所後見センター|裁判所

「相続人申告登記」は遺産分割協議が長引く場合に役立つ

「相続人申告登記」は、相続登記の義務化にともなって設けられた制度です。申出をしておくことでひとまず相続登記の申請義務を果たせるため、申請期限までに相続登記を行えないときに役立ちます。

ここでは、相続人申告登記について解説します。

  • 相続登記の期限内に申出ると、申出人の情報が登記に付記される
  • 「申請義務を履行したとみなされる」などのメリットがある
  • 遺産分割協議後に相続登記が必要、売却できないなどの注意点がある

「相続人申告登記」の概要

「相続人申告登記」とは、相続人が登記申請義務をより履行しやすくなるよう新設された制度です。

前述のとおり相続登記は義務化され、3年以内に行わない場合は10万円以下の過料が科されます。

しかし、中には相続登記を申請したくても、正当な理由があって申請できないケースもあります。そのような場合でも、申告登記を行えば登記申請義務を履行できるため、過料の心配をする必要がありません。

申告登記を行う場合、相続人は法務局に対し、相続登記の期限内に以下の申出を行います。

  • 登記上の所有者が亡くなり、相続が発生したこと
  • 自分がその相続人に該当すること

相続人からの申出を受けた登記官は審査を行い、申出人の氏名や住所といった情報を登記に付記します。

相続登記義務化の背景には、「未登記土地」「所有者不明土地」の増加があります。申告登記によって土地所有者の相続人が明らかになれば、土地を活用したい国や個人は相続人に対して連絡を取ればよいため、土地が塩漬けになるリスクを軽減できるでしょう。

申告登記は、相続人だけでなく国にとってもメリットの大きい制度だといえます。

相続人申告登記を利用するメリット

相続人申告登記を利用するメリットは以下のとおりです。

  • 期限内に申出をすると相続登記の義務を履行したとみなされる
  • 相続人が複数名いても単独で制度を利用できる
  • 相続登記申請時よりも少ない添付書類で申出ができる

期限内に申告登記を行うと「相続登記の義務を履行した」とみなされるため、相続登記が行えない状態でも過料から免れられます。

また、相続登記は相続人全員の合意が必要ですが、申告登記の場合は相続人が複数いても、相続人のうちひとりが単独で手続きできます。相続登記を申請するときよりも、添付しなければならない書類が少なくて済む点もメリットです。

通常、相続登記を行うためには被相続人の出生から死亡までの戸籍や相続人全員の戸籍など、多くの書類を揃えなくてはなりません。法定相続分以外の持分で登記するなら、遺言書や遺産分割協議書も必要です。

しかし相続人申告登記では、以下の3点だけで手続きできます。

  • 申出書
  • 申出人が登記上の所有者の相続人であると証明できる戸籍
  • 申出人の住所が証明できるもの(省略可能)

申出書は、法務省のホームページに様式が掲載されています。WEBブラウザ上で登記申請できるシステム「かんたん登記申請」でも作成・送信可能です。

「申出人が登記上の所有者の相続人であると証明できる戸籍」は、たとえば所有者と申出人の親子関係がわかる除籍謄本などが該当します。所有者との関係によって取得すべき証明書が異なるため、どのようなものを取得すればよいのかわからない場合は、市区町村役場の窓口で相談するとよいでしょう。

申出人の住所が証明できるものとは、住民票や戸籍の附票などが該当します。申出書に氏名のふりがな(外国籍の場合はローマ字氏名)、生年月日を記載すれば添付を省略できます。

ただし、国内に住所がないときは省略できません。その場合は以下の書類が必要です。

  • 日本国籍:在留証明書など
  • 外国籍:居住国の政府が発行する住民票に相当する証明書

参照:相続人申告登記について|法務省
参照:かんたん登記申請

相続人申告登記の注意点

相続人申告登記を利用する際の注意点は、あくまでも相続人が誰であるかを証明する制度であり、相続登記のように所有権を移転するものではない点です。

そのため、相続した不動産の売却や活用、抵当権の設定といったことはできません。売却などを行いたいなら、相続登記を申請して相続人に所有権を移す必要があります。

また、遺産分割協議が完了したときは、協議完了から3年以内に相続登記をしなければなりません。それを怠れば、結局「10万円以下の過料」という罰則を受けてしまいます。「申告登記をしておけば、相続登記は必要ない」というわけではない点に注意しましょう。

申告登記はとりあえずの対処法であり、相続手続きが完結するものではありません。申出をしても相続登記をしない場合のリスクが発生する可能性は残るため、最終的に相続登記は行う必要があることを念頭に置いておきましょう。

不要な土地を国へ返却する「相続土地国庫帰属制度」という制度もある

相続したものの、遠方に住んでいて活用できない・管理が難しいなどの理由から土地を手放したいときは、「相続土地国庫帰属制度」を利用する方法もあります。

相続土地国庫帰属制度とは、所有者不明土地の発生を予防するために創設された、不要な土地を国に返却する制度です。

ただし無条件で制度を利用できるわけではなく、一定の要件を満たす必要があります。また、制度が利用できる場合でも、土地1筆あたり1万4,000円の審査手数料や、管理費用をもとに算出した10年分の負担金を納付しなければなりません。

放棄の認められない土地は以下のとおりです。

  • 敷地内に建物がある
  • 担保権などの権利が設定されている
  • 通路や用悪水路、ため池などの用途で他人が使用している
  • 土壌汚染が認められる
  • 境界が確定していない
  • 所有権について争いがある
  • 勾配30度以上、高さ5m以上の崖がある
  • 敷地内に土地の管理・処分を阻害する工作物や車両、樹木などがある
  • 除去しなければ土地を管理・処分できない有体物が地下にある
  • 現状のままでは土砂崩落のおそれがあるなど、通常の管理・処分をするのに費用・労力がかかる

買い手を探す必要がない、売却しにくい農地や山林も対象になるといったメリットがある一方で、制度を利用するのに費用がかかる、審査に時間がかかるといったデメリットもあります。相続土地国庫帰属制度は、土地を持て余してしまったときの最終手段と考えておくとよいでしょう。

参照:相続土地国庫帰属制度の概要|法務省

亡くなった人の名義のままになっている土地を相続する方法

亡くなった人の名義のままになっている土地を相続するには、どのような手続きを行えばよいのでしょうか。ここでは、土地を相続する方法について解説します。

  • 戸籍を取得し相続人を確定させ、「相続関係説明図」を作成しておく
  • 相続人全員で遺産分割協議を行い「遺産分割協議書」を作成する
  • 書類が整ったら法務局に相続登記を申請する

相続人を確定させる

亡くなった人(被相続人)の名義のままになっている土地を相続する場合、まずは相続人調査を行い、相続人を確定する必要があります。

相続人は、被相続人の戸籍をたどって調査します。被相続人の「出生から死亡まで」の戸籍を取得し、相続人をひとりずつ拾っていきましょう。

相続人調査の際の注意点は以下のとおりです。

  • 被相続人の死亡後に相続人が亡くなっている場合、その子どもだけでなく配偶者も相続人になる
  • 被相続人が再婚している場合、前夫・前妻との間に子どもがいることがある

長年相続登記が行われていないケースでは、相続関係が複雑になっていることがあります。取得した戸籍をもとに、「相続関係説明図」を作成することをおすすめします。

相続関係説明図とは、被相続人の相続関係が一目でわかる家系図のようなものです。説明図と戸籍を照らし合わせながら進めていくと自分の中で相続関係が整理でき、相続人の漏れを防げます。説明図は相続登記にも使用できるため、このタイミングで作成しておくとよいでしょう。

相続人が確定したら遺産分割協議に進みますが、万が一相続人が漏れていた場合、協議を行っても無効になってしまいます。戸籍が揃い相続関係説明図が完成したら、一度司法書士や行政書士などの専門家にチェックしてもらうと安心です。

そのほか、相続人が認識していない財産が隠れている可能性もあります。被相続人が所有している不動産は、市区町村役場で取得できる「名寄せ帳」で確認できます。すべて把握しているつもりでも、念のため財産調査をしておきましょう。

遺産分割協議を行い、相続登記に必要な書類を作成する

相続人が確定したら遺産分割協議を行い、相続登記の準備をしましょう。

遺産分割協議には相続人全員の参加が必要です。ただし「全員の参加が必要」といっても、一カ所に集まる必要はありません。電話やZoomなどを用いてそれぞれに同意を得るかたちでも問題ありません。

たとえば、被相続人の子どもAが土地を単独で相続する場合、ほかの相続人全員に「Aが単独で取得する」ことについて同意を得ます。スムーズに同意を得られればよいですが、中には以下のようなケースもあります。

  • 相続分相当の金銭を要求してくる
  • そもそも連絡がつかない

同意する代わりに、自己の相続分相当の金銭を求めてくるケースがあります。

たとえば相続人が被相続人の子どもA、Bの2人で、1,000万円の土地をAが単独で相続しようとしている場合、本来Bにはその土地の2分の1を相続する権利があります。そのためAは、Bから500万円を要求される可能性があるのです。

また、そもそも連絡がつかず、協議できないケースもあります。この場合は「相続人全員での遺産分割協議」が実現できなくなるため、司法書士や弁護士などの専門家に相談しましょう。相手が前婚での子どもで連絡先がわからない、手紙を送っても音沙汰がないといった場合も同様です。

話し合いがまとまったら、協議の内容をまとめた「遺産分割協議書」を作成し、全員で署名・押印しましょう。

使用する印鑑に決まりはありませんが、実印での押印が一般的です。各自実印で押印し、印鑑証明書を1通ずつ準備してもらいましょう。印鑑証明書は相続登記の際、実印で押印したことの証明として遺産分割協議書に添付し、法務局へ提出します。

土地の登記を行う

遺産分割協議が終わり遺産分割協議書が作成できたら、必要書類を揃えて相続登記を申請します。

登記の申請先は「不動産の所在地を管轄する法務局」です。申請の混み具合にもよりますが、登記が完了するまでに1〜2週間かかると考えておきましょう。

不備があれば、申請書に記載した連絡先に登記官から連絡が入ります。追加資料の提出であれば担当の登記官あてに資料を郵送すればよいですが、追記や訂正が必要なら法務局に出向く必要があります。補正に時間がかかると、その分完了までの時間が延びる点に注意が必要です。

登記が完了すると「登記完了証」と「登記識別情報通知」が交付されます。登記識別情報通知は昔でいう「権利証」です。

交付するかしないかは申請時に選択できます。しかし交付しなかった場合、売却の際にわざわざ費用をかけて本人確認をしなければならなくなります。自分が亡くなるまで所有するつもりがないなら、交付しておいたほうがよいでしょう。

登記の完了をもって未登記土地の相続手続きは完了します。

土地の名義変更にかかる費用

土地の名義変更にはさまざまな費用がかかります。ここでは、名義変更にかかる費用について解説します。

  • 相続登記申請時に「固定資産税評価額×1,000分の4」の登録免許税がかかる
  • 戸籍や固定資産評価証明書などの書類取得に5,000〜1万円程度かかる
  • 名義変更の原因によって、相続税や贈与税、譲渡所得税がかかる
  • 相続登記の申請手続きを司法書士に依頼した場合、報酬として5〜10万円程度かかる

登録免許税:相続の場合は「固定資産税評価額×1,000分の4」

相続登記を申請する際は、「固定資産税評価額×1,000分の4」の登録免許税がかかります。登録免許税とは、登記申請の際に法務局に支払うべき税金です。

たとえば、1,000万円の土地1筆を相続する場合の登録免許税は以下のとおりです。

1,000万円×1,000分の4=4万円

上記の例では、4万円の登録免許税がかかります。固定資産税評価額が高額になると登録免許税の金額も高額になるため、あらかじめどの程度登録免許税がかかるかを確認しておくとよいでしょう。

なお、登録免許税は以下の方法で納付します。

  • 収入印紙を申請書に貼りつける
  • 事前に銀行・郵便局で納付する
  • 電子納付する
  • クレジットカードで支払う

収入印紙は、法務局の証明書発行窓口で購入できます。

以下に該当する場合は登録免許税が免除されるため、納付する必要はありません。

  • 不動産の評価額が100万円以下
  • 1次相続発生時に相続登記を行わず、2次相続で相続登記を行う場合の1次相続の登録免許税

1については令和7年3月31日まで適用されます。2については「平成30年4月1日〜令和7年3月31日まで」に亡くなった人の登記が対象です。また、免除の適用を受けるには、申請書に以下の文言を記載する必要があります。

  • 1:「租税特別措置法第84条の2の3第2項により非課税」
  • 2:「租税特別措置法第84条の2の3第1項により非課税」

参照:相続登記の登録免許税の免税措置について|法務局

書類取得にかかる費用:5,000~10,000円

相続登記に必要な書類を取得するのに5,000〜1万円程度かかります。ただし、ケースによってはさらに高額になる場合があるため、実際にどの程度かかるかはケースによると思っておいたほうがよいでしょう。

たとえば、以下のようなケースは戸籍の取得費用が高額になる傾向にあります。

  • 被相続人の転籍回数が多い
  • 被相続人の結婚・離婚回数が多い
  • 相続人の人数が多い
  • 相続関係が複雑

なお、戸籍以外に取得費用がかかる書類には、固定資産評価証明書、印鑑証明書などがあります。取得にかかる手数料はそれぞれ以下のとおりです。

証明書の種類 1通あたりの交付手数料
除籍・改製原戸籍謄本 750円
戸籍謄本 450円
戸籍附票 200〜300円
住民票 200〜300円
固定資産評価証明書 200〜300円
※無料で登記用を取得できる市区町村もあり
印鑑証明書 200〜300円
登記事項証明書 480〜600円
※オンライン請求・窓口受取:480円、オンライン請求・郵送受取:500円、窓口請求・窓口受取:600円

登記事項証明書は不動産の所在や地番、地目、地積、所有者など、現在の登記状況がわかる書類です。登記に添付する必要はありませんが、申請書を作成する際は正しい情報が必要になるため、1通取得しておくとよいでしょう。

必要な書類

相続登記には、以下の書類が必要です。

  • 登記申請書
  • 遺産分割協議書
  • 相続人全員分の印鑑証明書
  • 相続関係説明図
  • 被相続人の戸籍(出生から死亡まで)
  • 被相続人の住民票除票または戸籍附票
  • 相続人全員の戸籍
  • 不動産を相続する人の住民票または戸籍附票
  • 固定資産課税明細書または固定資産評価証明書(最新のもの)

上記のうち、登記申請書と遺産分割協議書、相続関係図は自分で作成する必要があります。登記申請書の様式や見本は法務局のホームページに掲載されています。「登記事項証明書」で登記の情報を見ながら作成してみましょう。

そのほかの書類は市区町村役場で取得できます。

戸籍はこれまで「本籍地の市区町村役場」でないと取得できませんでしたが、2024年3月1日から「広域交付制度」が開始されたことによって、最寄りの市区町村役場で取得できるようになりました。本人以外でも、配偶者や子ども・孫、父母、祖父母であれば取得可能です。

ただし、すべての戸籍を取得できるわけではありません。たとえば、以下の証明書は広域交付制度の対象外です。

  • 戸籍抄本
  • 戸籍附票
  • コンピュータ化される前の一部の戸籍・除籍

そのほか、地区町村によっては、住民票や印鑑証明書をコンビニで取得できる場合もあります。

参照:不動産登記の申請書様式について|法務局
参照:相続による所有権の登記の申請に必要な書類とその入所先等|法務局

各種税金(相続税・贈与税・譲渡所得税)

土地の名義変更を行うと、相続税や贈与税、譲渡所得税といった税金がかかります。ここでは、各種税金について解説します。

  • 相続財産の総額が相続税の「基礎控除額」を超えると相続税がかかる
  • 年間110万円以上の贈与があると贈与税がかかる。土地の名義を無償で子どもに変更する、といった場合も贈与に該当する
  • 不動産を売却して利益が出ると譲渡所得税がかかる

相続税

相続財産の総額が相続税の「基礎控除額」を超えた場合、相続税が発生します。基礎控除額は以下のように計算します。

3,000万円+(600万円×法定相続人の人数)

たとえば法定相続人が3人のケースでは、相続財産の総額が4,800万円までであれば相続税は課税されません。

3,000万円+600万円×3人=4,800万円

なお、基礎控除以外にも、相続税を軽減できる制度があります。以下のとおりです。

配偶者控除 被相続人の配偶者(内縁関係は含まれない)が受けられる控除。
相続した財産が、以下のうち多いほうの金額までであれば相続税はかからない。

・1億6,000万円
・配偶者の法定相続分

ただし、相続税の申告期限(被相続人の死亡を知った日の翌日から10カ月以内)までに遺産分割協議が完了している必要あり。

未成年者控除 相続人が未成年である場合に受けられる控除。
18歳になるまでの年数に応じて、年間10万円の控除が可能。

控除額=(18歳ー相続が発生したときの年齢)×10万円

【例:未成年者が10歳で相続人になったケース】

(18歳ー10歳)×10万円=80万円

上記のケースでは、80万円控除される。

障害者控除 相続人が障害者である場合に受けられる控除。
85歳になるまでの年数に応じて、年間10万円(特別障害者なら20万円)の控除が可能。

控除額=(85歳ー相続が発生したときの年齢)×10万円(もしくは20万円)

【例:障害者が70歳で相続人になったケース】

・(85歳ー70歳)×10万円=150万円
・(85歳ー70歳)×20万円=300万円

上記のケースでは、150万円もしくは300万円が控除される。

上記で紹介した控除のほかにも、相続税にはいくつか控除制度が用意されています。たとえば、相続開始前3年以内に贈与を受けている場合に、相続税から納付済の贈与税額が控除される「贈与税額控除」や、相続から10年以内に新たな相続が開始した場合に相続税が一定額控除される「数次相続控除」などがあります。

利用できる制度がないか探してみるのもよいかもしれません。

参照:No.1191 配偶者控除|国税庁
参照:No.4164 未成年者の税額控除|国税庁
参照:No.1160 障害者控除|国税庁

贈与税

不動産の名義変更を行うことで、贈与税が発生することがあります。

「贈与」とは、個人が金銭や不動産、貴金属といった財産を無償で渡す契約のことです。相手が他人でも子どもや孫でも、無償で財産を渡す行為は贈与にあたり、贈与した財産が年間110万円を超えると贈与税がかかります。

たとえば、無償で親の土地を子どもの名義に変更した場合も贈与に該当します。

土地の評価額が110万円を超えていると贈与税がかかるため、名義変更をする際は贈与税がどの程度かかるかを調べたうえで行う必要があるでしょう。

110万円超えの土地であっても、年間110万円までに収まるよう持分の割合を調整し、何年かにわたって贈与すれば贈与税はかかりません。しかし、その場合は「定期贈与」と判断される可能性があります。

定期贈与とは、たとえば110万円の贈与を10年繰り返した場合に、「1,100万円の贈与を受けた」とみなされることです。定期贈与とみなされないためには、毎年贈与契約書を交わす、時期をずらすなどの工夫が必要です。

なお、贈与税の税率は国税庁のホームページに掲載されている「贈与税の速算表」で確認できます。兄弟間・夫婦間・親子間(子どもが未成年)の贈与であれば「一般贈与財産用」、父母・祖父母から子ども・孫への贈与で、贈与を受けた年の1月1日時点で子ども・孫が成人しているなら「特例贈与財産用」を使用します。

参照:No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)|国税庁

譲渡所得税

不動産を売却した際に利益が出ると、譲渡所得税がかかります。課税譲渡所得金額は以下の方法で計算します。

収入金額ー(取得費+譲渡費用)ー特別控除額

取得費とは、不動産の購入費や購入の際にかかった税金、仲介手数料などが該当します。一方譲渡費用とは、不動産を売却する際にかかった印紙税や仲介手数料などのことです。

上記で計算した譲渡所得に所得税・住民税がかかったものを総称して「譲渡所得税」といいます。

参照:No.1440 譲渡所得(土地や建物を譲渡したとき)

司法書士への報酬:5~10万円程度

相続登記を司法書士に依頼した場合、司法書士への報酬として5〜10万円程度かかります。

ただし一律の報酬基準は平成15年に撤廃されているため、報酬額は依頼する事務所によって異なります。相続人の人数や不動産の数などによっても前後するため、上記の金額はあくまでも目安と思っておきましょう。

相続登記は自分でも申請できますが、戸籍の収集や遺産分割協議書の作成など、慣れていないと対応しづらい作業もあります。「連絡がつかない」「連絡はつくが協議に応じてくれない」というような相続人がいるケースも少なくないため、手に負えないと感じたら司法書士に相談しましょう。

しかし、相続人同士でトラブルになっているような場合は、司法書士でも対応できない可能性があります。その場合は弁護士に相談することをおすすめします。

まとめ

亡くなった人の名義のままになっている土地の相続登記や、放置するリスクについて解説しました。

記事の中でも解説したとおり、亡くなった人の名義のまま土地を放置すると、遺産分割協議が困難になる、土地を売却・活用できないといったリスクが発生する可能性があります。

何より、相続登記は2024年4月1日から義務化されました。正当な理由なく申請義務を怠ると、10万円以下の過料に科されることがあるため、放置せず期限内に申請しましょう。

また、「相続人申告登記」を行えばいったん申請義務を履行したことにはなりますが、遺産分割協議が完了したときには再び義務が発生することも忘れてはいけません。自分で対応することに不安がある場合は、司法書士や弁護士といった専門家を頼りましょう。