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特定の相続人に遺産を渡したくない!できる対策を徹底解説

特定の相続人に遺産を渡したくない!できる対策を徹底解説

「不仲の兄弟に遺産を渡したくない」「老後の面倒を見てくれた息子の嫁に遺産を残したい」など、
家族間の不仲や、家族以外に財産を渡したい人がいることなどを理由に、特定の相続人に遺産を渡したくないと考えている人もいるでしょう。

民法では「法定相続人」が定められているため、何も対策を取らなければ被相続人の意思にかかわらず、法定相続人が遺産を引き継ぐことになります。

特定の相続人に遺産を渡さないためには、以下のような対策が考えられます。

  • 遺言書を作成する
  • 生命保険を活用する
  • 生前贈与で遺産を減らしておく
  • 遺贈・死因贈与を行う
  • 配偶者とは離婚し、養子とは離縁する
  • 相続人廃除を検討する
  • 養子縁組を組んで相続人の数を増やす

ただし、これらの対策を実行したとしても、特定の相続人から相続権を奪うことは簡単ではありません。相続する遺産額を極力減らすというのが現実的な対処方法になるでしょう。

今回は、遺産を渡したくない相続人がいる場合の対処法や注意点を詳しく解説します。自身の遺産相続に関して悩んでいる人は参考にしてください。

特定の相続人に遺産を渡したくない場合でも相続権は簡単に剥奪できない

特定の相続人に遺産を渡したくない場合でも、被相続人が相続権を一方的に剥奪することはできません

民法では、亡くなった人の財産を相続する権利を持つ「法定相続人」が定められています。遺言がない場合は、法定相続人全員で話し合い、遺産分割の方法を決めることになっているため、誰か特定の人を相続人から外すことはできません。

遺言書がある場合は、法定相続人以外が相続することも可能ですが、法定相続人の生活を保障をする観点から、一定の制約(遺留分)が設けられています。

遺留分とは?
法定相続人に最低限保証されている遺産の取り分のことです。

遺留分は被相続人の配偶者や親・子などに認められていますが、たとえば配偶者のみが相続人になる場合は、最低限遺産の2分の1を相続する権利があります。

このように、法定相続人の権利は民法によって保護されているため、被相続人の一存で相続権を簡単に剥奪することはできなくなっているのです。

特定の相続人に遺産を渡さないための対処方法

特定の相続人に遺産を渡したくない場合は、以下の方法を検討してみましょう。

  • 遺言書を作成する
  • 生命保険を活用する
  • 生前贈与で遺産を減らしておく
  • 遺贈・死因贈与を行う
  • 配偶者とは離婚し、養子とは離縁する
  • 相続人廃除を検討する
  • 養子縁組を組んで相続人の数を増やす

どの方法が適しているのか悩んだ場合は、弁護士など法律の専門家に相談することをおすすめします。

遺言書を作成する

法的効力のある遺言書で誰にどの財産を残すのか指定し、特定の相続人に渡さない旨を記載しておくことで、自身の望む形での相続を実現しやすくなるでしょう。

ただし、この方法は遺留分がない被相続人の兄弟姉妹に対しては有効ですが、配偶者・直系尊属・直系卑属からは遺留分侵害請求をされる可能性がある点に注意が必要です。

遺留分侵害請求とは?
不平等な相続が行われ、遺留分に相当する遺産を受け取れなかった相続人が、遺産を多く受け取った人に対して遺留分侵害額相当の金銭を請求する手続きのこと。

なお、遺留分は法定相続分よりも少ないため、遺留分に見合う金額のみを相続させる旨を遺言に記載することで、トラブルを防ぐ方法があります。

たとえば、1億円の遺産がある場合、長男と次男の2人で相続するケースを想定しましょう。法定相続割合に基づき相続した場合、それぞれが遺産の半分、つまり5,000万円ずつを相続することになります。

次男にはなるべく遺産を渡したくない場合、次男の遺留分(4分の1)に相当する2,500万円のみを残すよう遺言書に記載しておけば、遺留分侵害請求のリスクを減らしつつ、相続させる遺産を減らすことができます。

生命保険を活用する

保有する資産を現金や有価証券ではなく、生命保険に変えておくことで、特定の相続人にわたる遺産を少なくできます。生命保険で遺族が受け取る死亡保険金は受取人の固有財産となり、原則として遺留分の対象にならないためです。

ただし、一部の人だけに多額の生命保険金が支払われた場合、例外的に特別受益に該当し、遺留分侵害請求の対象になるケースもあるため注意しましょう。

特別受益とは?
故人から生前贈与や遺贈などによって、一部の相続人が特別に受け取った利益のこと。

特別受益にあたるかどうかは、以下のような事情を総合的に考慮して判断されます。

  • 支払われる保険金の額
  • 遺産総額に占める保険金額の割合
  • 受取人と被相続人の同居の有無
  • 被相続人の介護等に対する受取人の貢献度合い

遺産総額約1億134万円に対して、1億570万円(遺産総額の約104%)と巨額の保険金が支払われたケースでは、特別受益に該当すると判断されています。

生前贈与で遺産を減らしておく

生前贈与とは、生前に財産を無償で与えることです。生前贈与を実施して遺産を減らしておけば、相続が発生した時に特定の相続人にわたる財産を減らせます

ただし、一部の相続人に対する生前贈与の額が極端に大きい場合は、相続人が「特別受益の持ち戻し」を主張する可能性があります

特別受益の持ち戻しとは?
一部の相続人が特別な利益の提供を受けている場合に、特別利益を含めて相続分を計算すること。相続人間の不公平感をなくす目的で設けられている制度です。

遺言書で「持ち戻し免除の意思表示」をしておけば、特別受益を相続財産に加算する必要はなくなりますが、相続開始前10年以内の生前贈与は遺留分侵害額請求の対象となるため、生前贈与だけで特定の相続人を排除する対策は困難です。

したがって、特定の相続人に対して遺産を渡したくない場合は、生前贈与のみに頼らず、他の手段も検討することが望ましいでしょう。

遺贈・死因贈与を行う

特定の相続人に対して遺産を渡したくない場合は、法定相続人以外の第三者に遺贈・死因贈与を行うのも一つの手です。

遺贈とは?
遺言書によって財産を無償で譲ること。
死因贈与とは?
贈与者が亡くなったときに、指定した財産を譲る贈与契約のこと。

たとえば公益団体に寄付をしたり、法定相続人以外でお世話になった人に財産を残したりすることで、特定の相続人に渡さずに済む可能性があります。

ただし、遺贈や死因贈与も遺留分侵害額請求の対象に含まれるため、完璧な対策にはならないでしょう。

配偶者とは離婚し、養子とは離縁する

配偶者と離婚した場合や養子と離縁した場合は、他人になり法定相続人から外れるため、相続の権利がなくなります。遺留分の侵害請求もできません

元配偶者との間に生まれた子については相続権がありますが、連れ子の場合は養子縁組をしていない限り相続人には該当しないため注意しましょう。

相続人廃除を検討する

相続人廃除とは、被相続人の意思によって、推定相続人の相続権を強制的に奪う方法のことです。

推定相続人とは?
仮に、現時点で相続が発生した場合に、法定相続人となる可能性がある人のこと。

廃除を求めることができる相手方は、遺留分を有する相続人です。兄弟姉妹は遺留分がなく、遺言書に「相続人から外す」旨を記載することで対処できるため、廃除はできません。

ただし相続人の廃除は、法律上認められた相続権を奪う強制力の高い措置であるため、以下のような要件を満たした場合しか認められません

  • 推定相続人が被相続人に一方的な虐待をしていた
  • 推定相続人が被相続人に重大な侮辱を加えていた
  • 推定相続人に著しい非行がみられた

また廃除理由を立証する必要があるため、実際に認められるケースは2割程度と少なくなっています。不仲であることだけを理由に廃除が認められるケースは少ないため、実際に手続きを希望する場合は弁護士などの専門家に相談した方がよいでしょう。

なお、相続人廃除には、生前に廃除の申し立てを行う方法と、自分の死後に遺言執行者が代わりに廃除の申し立てを行う方法があります。

養子縁組を組んで相続人の数を増やす

特定の相続人に対してなるべく遺産を渡したくない場合は、養子縁組をして相続人を増やし遺留分を減らす方法も有効です。

たとえば、相続人が長男と次男の2人だけの場合、それぞれの遺留分は4分の1ずつになります。しかし、養子縁組をして子が一人増えた場合は、長男と次男の遺留分は6分の1ずつに減ります。

ただし、養子縁組によって遺留分を減らされた相続人から、養子縁組無効確認の訴えが提起される可能性があります。遺留分を減らすだけの目的で養子縁組をした場合、無効となる可能性も高いため、注意しましょう。

相続欠格に該当する人は遺産を受け取れない

相続欠格とは、相続人が民法891条の欠格事由に該当した場合に犯罪行為をした場合、相続権を喪失させる制度です。

(相続人の欠格事由)
第八百九十一条 次に掲げる者は、相続人となることができない。
一 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
二 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。
三 詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
四 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
五 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者
民法 e-Gov

相続欠格に該当すると、相続人廃除とは異なり、被相続人の意思に関係なく自動的に相続権が剥奪されるため、裁判所での手続きは不要です。遺留分や遺言書の内容は考慮されず、遺産は一切受け取れなくなります。

相続開始後に遺留分を減額する方法

相続開始後に遺留分侵害請求をされた場合、正当な内容であれば、基本的に請求に応じなければなりません。しかし、その請求内容の妥当性を争うことによって、遺留分を減額できる可能性もあります。

特定の相続人に対して遺留分をなるべく渡したくない場合は、以下の方法を試してみるのも一つの手です。

  • 不動産の評価額を下げて遺留分額を減らす
  • 遺留分侵害額請求の時効・除斥期間を過ぎていれば主張する
  • 遺留分侵害額請求の権利濫用を主張する

それぞれ詳しく解説します。

不動産の評価額を下げて遺留分額を減らす

不動産が相続財産に含まれている場合、評価額に応じた遺留分侵害額の請求が行われる場合があります。しかし、請求された際、不動産評価額が適正ではないとして争い評価額を下げることで、遺留分額を減らすことも可能です。

不動産の評価方法には、以下の5つがあります。

評価方法 概要
公示価格 国土交通省や都道府県が毎年発表する土地の価格
実勢価格(時価) 市場で売買が成立するときの価格
相続税路線価 相続税の算出に用いられる基準価格
固定資産税評価額 固定資産税の算出に用いられる基準価格
不動産鑑定評価額 不動産鑑定士が評価した価格

同じ不動産でも評価方法が違えば、評価額や遺留分の請求額も変わります。

遺留分を請求する側は、なるべく価格が高くなる評価方法(時価)を選ぶのが一般的です。一方、
遺留分を請求された場合には、なるべく価格が低くなる評価方法を選ぶことで遺留分を減らせる可能性があります。

こちらの主張が通らなくても、妥協案として遺留分請求額を引き下げられることもあるので、試してみる価値はあるでしょう。

遺留分侵害額請求の時効・除斥期間を過ぎていれば主張する

遺留分侵害額請求には消滅時効や除斥期間が設けられています。消滅時効は、相続の開始と遺留分の侵害の両方を知ってから1年以内、除斥期間は相続開始から10年以内です。

消滅時効とは?
一定期間権利が行使されない場合に、権利を消滅させる制度のこと。
除斥期間とは?
法律上で定められた、権利を行使できる期間のこと。時効とは異なり、中断や停止はできない

遺留分侵害額請求をされた時点で、時効または除斥期間を経過していることを主張すれば、請求を拒否できます。

遺留分侵害額請求の権利濫用を主張する

遺留分侵害額請求の権利濫用が疑われる場合、それを主張することで遺留分を拒否または減額できる場合があります。たとえば、相続人間で「遺留分を請求しない」という合意を反故にして遺留分の請求を行った場合などは、権利濫用が認められる場合があるでしょう。

遺留分は民法で保護されている相続人の正当な権利であるため、権利濫用と判断されるケースは限定的です。しかし、なるべく遺留分を渡したくない場合は、念のため確認してみたほうがよいでしょう。

判断に迷う場合は、法律の専門家である弁護士に相談することをおすすめします。

特定の相続人に遺産を渡したくない場合に気を付けること

特定の相続人に遺産を渡したくない場合には、以下の点にも注意しましょう。

  • 念書を書かせても無効になる
  • 遺言書に書いても遺留分侵害額請求は回避できない
  • 相続廃除・欠格でも遺留分は子どもに受け継がれる

念書を書かせても無効になる

相続人に「遺留分を放棄する」旨の念書を書かせても無効になるので注意しましょう。なぜなら、遺留分の放棄には家庭裁判所の許可が必要だからです。

遺留分の放棄は、原則として以下の条件を満たした場合に認められます。

  • 本人の自由意志に基づいて放棄を望んでいる
  • 遺留分を放棄する合理的な理由が存在する
  • 遺留分放棄に見合う経済的な代償を受け取っている

念書の存在を理由にして、遺留分侵害請求を拒否することはできません。

遺言書に書いても遺留分侵害額請求は回避できない

親や子ども、配偶者などには最低限の遺産をもらえる権利として「遺留分」が認められているため、遺言書で「特定の相続人に対して相続させない」と指定しても、遺留分を侵害された人から遺産を多く受け取った人に対して金銭的な補償を求めて訴えが提起される(遺留分侵害額請求)可能性があります。遺産を渡したくない人にもお金がわたってしまう可能性が高いため、注意が必要です。

また、遺言書に書かれた内容のうち、法的拘束力があるのは、以下の法律で定めた事項(法定遺言事項)のみです。

  • 相続人の廃除、廃除の取消し
  • 相続分の指定
  • 遺産分割方法の指定
  • 遺産分割の禁止
  • 特別受益の持ち戻し免除
  • 子の認知 など

「遺留分を請求しないように」といった内容や葬儀方法の希望などは「付言事項」として扱われるため、法的拘束力はありません。付言事項に対して遺留分の権利を持つ人が応じるかどうかは別なので、遺言書によって遺留分侵害額請求を回避することは難しいと考えた方がよいでしょう。

相続廃除・欠格でも遺留分は子どもに受け継がれる

特定の相続人の相続廃除・欠格が決まっていても、遺留分はその子どもに受け継がれ、代襲相続が発生します。

代襲相続とは?
本来相続人になる人が亡くなっている場合に、その子などが代わりに相続人になること。

たとえば、法定相続人である長男を相続廃除したとしても、長男が亡くなった場合はその子に代襲相続が行われます。相続廃除・欠格は、代襲相続人に影響しない点に注意が必要です。

弁護士に相談することで遺留分侵害額請求の確率を下げられる

遺言書で相続割合を指定しても、それが公平性に欠ける内容だった場合は遺留分侵害請求をされるリスクがあります。

しかし、弁護士に相談すれば、過去の事案や判例を参考にしながら、相続人の主張や感情を考慮し、納得できる遺言書を作成できるでしょう。さらに、弁護士に遺言執行者になってもらえば、法的知識に基づいてスムーズに手続きを進めてもらえるため、自身の希望に近い相続を実現できる可能性が高くなります。

遺留分に関するトラブルを避けるためには、相続に強い弁護士に事前に相談し、対策を立てておくことが重要です。

まとめ

特定の相続人に対して遺産を渡したくない場合、遺言書の作成や生前贈与、生命保険の活用などさまざまな対策が考えられます。しかし、どの対処法を選んだとしても、配偶者や子などの法定相続人には、民法で遺留分が認められているため、公平性に欠ける相続が行われた場合、遺留分侵害額請求をされるリスクがあります。

相続人廃除の手続きをすれば、遺留分を渡さずに済むこともありますが、認められるケースは少ないです。そのため、完全に遺産を渡さないというのではなく、なるべく渡す遺産を減らすというのが現実的な対処法になるでしょう。

遺留分侵害のリスクを下げ、なるべく円満に相続手続きを進めたい場合は、早めに弁護士に相談し、サポートを受けながら遺言書の作成などに取り組むことをおすすめします。