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遺留分侵害額請求の時効は?期限内に行うべき手続きをわかりやすく解説 

遺留分侵害額請求の時効は?期限内に行うべき手続きをわかりやすく解説
梅澤 康二 弁護士
監修者
梅澤 康二 弁護士
2008年に第二東京弁護士会登録。日本の4大法律事務所の一つであるアンダーソン・毛利・友常法律事務所において実務経験を積み、退所後2014年8月に設立。債務整理・離婚・相続に関する法律相談のほか、一般民事や刑事事件に係る法律相談など幅広い分野をサポート。常に思いやりとクオリティを意識した職務に定評がある。

不公平な遺言によって遺留分に相当する財産を受け取れない場合、本来受け取れるはずの金額を受け取るために、遺留分侵害額請求を行う権利があります。

遺留分侵害額請求には1年、5年、10年といった期間制限が設けられています。詳細は後述しますが、期間内に権利行使しなければ以降、遺留分について主張することができなくなります。

遺留分の問題は親族間で対立が生じやすく、権利行使が躊躇されることもあるかもしれません。また、具体的な請求手順が分からないでなんとなく放置してしまうこともあり得ます。しかし、このように漫然と対応した場合、権利が消滅してしまうかもしれません。

このような不利益を避けるには、相続の問題が発生した時点で、早いタイミングで弁護士に依頼することが有用です。専門家に依頼すればご自身の遺留分を受け取る権利を守りながら、法律面や精神面でのサポートを受けることができます。具体的なメリットは、以下の通りです。

  • 正確な遺留分侵害額を算出してもらえる
  • 請求に関する手続き・交渉をすべて任せられる
  • 調停・訴訟になっても任せられる

当記事では、遺留分侵害額請求の時効の解説や、期限内に行うべき手続き、時効を止める方法や注意点について解説します。ぜひ参考にしてください。

遺留分侵害額請求には1年・5年・10年の期間制限がある

遺留分侵害額請求には1年・5年・10年の期間制限が存在します。概要は以下の通りです。

  • 相続開始と遺留分侵害を知ってから1年(時効期間)
  • 相続開始から10年(除斥期間)
  • 遺留分侵害額請求の意思を表示してから5年(時効期間)

詳細についてはそれぞれ以下で説明します。

相続開始と遺留分侵害を把握してから1年

第千四十八条 遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。
引用元 民法1048条(遺留分侵害額請求権の期間の制限)

相続の手続きが開始され、遺留分の侵害が発覚した場合、1年以内に遺留分侵害額請求の意思表示を行わなければ、遺留分についての権利を失います。相手方がこの消滅時効を主張しなければ、権利を確保できますが相手がどのように対応するかはコントロールできませんので、自ら権利を確保してく姿勢が大切です。

なお、この権利行使は訴訟提起などの正式手続までは不要であり、単に相手に対して遺留分についての権利を行使する旨通知すれば足ります。そのため、遺留分侵害があるとわかった場合、取り敢えず遺留分について請求するということを相手に文書やメールで伝えておくべきでしょう。

相続開始から10年

相続や遺留分侵害の事実を把握していなくても、相続開始から10年が経過したタイミングで、遺留分の権利は当然に消滅します(このように当然に権利を消滅させる期間を除斥期間といいます。)。

要するに、何も知らないまま(知らされないまま)10年が経過していたという場合には問答無用で権利を失ってしまいますので、被相続人の現状について最低限の注意は必要でしょう。

除斥期間は時効とは異なり、相手の権利主張は不要ですし、その進行を止める手段もありませんので、自分に何ら落ち度がなくても相続開始から10年が経過すれば、遺留分を主張する手段は存在しなくなると認識しましょう。

遺留分侵害額請求の意思を表示してから5年

上記の1年・10年という期間内に遺留分について権利行使の意思を表明すれば一応権利は保全されます。しかし、その意思表明から5年が経過すると相手に対する具体的な遺留分侵害請求債権が消滅時効によって消滅してしまいます。

これは消滅時効であるため、相手の対応によっては権利消滅を免れる可能性はありますが、あまり期待ができないことは上記のとおりです。そのため、相手に遺留分侵害について権利を主張した場合、5年の間に具体的な請求を行い、相手が応じない場合は訴訟提起などが必要となることに十分注意しましょう。

第百六十六条 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。

一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。

二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
引用元 民法166条(債権等の消滅時効)

遺留分侵害額請求とは侵害された遺留分を請求すること

遺留分侵害額請求を説明するために、まずは遺留分について解説いたします。
遺留分とは、遺産について法定相続人に認められる最低限の取り分のことです。

そして遺留分侵害額請求とは、遺言によって相続人の遺留分が侵害されている場合に、その侵害分について金銭での補填を求める権利です。

遺留分侵害額請求の方法に決まりはありませんが、ご自身で請求を行って、相手と直接連絡を取らなければなりません。不安を感じていたり、具体的な手順が分からなかったりする場合は、弁護士へ相談することをおすすめします。

遺留分侵害額請求の期限内に行うべき手続き

遺留分侵害額請求の期限内に行うべき手続きは以下の通りです。

  • 遺留分を侵害した相手と協議をする
  • 遺留分について権利行使の意思を表明する
  • 請求調停を申し立てる
  • 訴訟を起こす

遺留分を侵害した相手と協議をする

遺留分を侵害している相手との協議で解決できないか検討してみましょう。遺留分を侵害されている状況や心情を理解してもらうためにも、相手と直接話し合う場を設けることが望ましいです。

この場合、感情的な対立を避けつつ、遺留分についての自身の見解を具体的かつ明確に主張することが大切です。遺留分侵害があれば金銭補償の義務があることは法律から明らかですので、相手方が一定の理解を示せば、侵害された遺留分を支払ってもらえるかもしれません。

遺留分を巡る問題は家族内の対立を生むことがありますが、問題解決のためには根気強く話し合うことが大切です。

遺留分について権利行使の意思を表明する

相手方との話し合いがまとまらない場合、遺留分の権利を保全するため権利行使の意思を表明する必要があります。この意思表明の手段にルールはありませんので、対面、電話、メール等のいかなる方法でも取り得ます。

しかし、後日、意思表明をしたことが争われる可能性もありますので(特に対面や電話の場合)、相手に対して内容証明郵便を送付したり、少なくともEmailなどの記録の残る手段で意思表明をすることを推奨します。調停や訴訟に発展するケースに備えて、きちんと証拠を残しておくことが何より大事です。

なお、内容証明郵便は「いつ」「誰から」「どのような文書を送ったのか」を公的に証明してもらえますので、証拠として有益です。

請求調停を申し立てる

相手方との話し合いで事態が収束しない場合は、家庭裁判所へ請求調停訴訟を起こす調停でも相手と合意できない場合は、遺留分侵害額請求訴訟を提起する必要があります。

請求金額によって、訴訟の提起先が異なります。簡易裁判所は請求金額が140万円以内、地方裁判所は請求金額が140万円を超える金額となります。

訴訟を起こす際には、裁判所に提出する訴状の作成や提訴の手続きなどが必要です。遺留分侵害額請求権の発生日から時効までの期間に注意しながら、適切に手続きを進めましょう。訴訟を起こすには高度な法的知識が求められるため、弁護士に依頼することをおすすめします。

裁判所の判決文には請求の認容・棄却やその根拠が記載されます。判決に異議がある場合、いずれの当事者も2週間以内に控訴することができます。

遺留分侵害額請求債権の時効を止める方法

遺留分侵害額請求の時効を止める方法をご紹介します。

  • 相手方に催告する
  • 裁判を起こす

相手方に内容証明郵便を送付する

遺留分侵害額請求債権の時効を止める方法として、まずは相手方に内容証明郵便を送付することが挙げられます。遺留分侵害額請求について具体的請求を行う書面を通知することで、6ヶ月間は時効完成が猶予されます。
このような督促を内容証明郵便で行えば督促をした事実を後に争われるリスクを回避できます。。

内容証明郵便の内容

遺留分侵害額請求に関する内容証明郵便には、法律上の規定や特定の書式、テンプレートは存在しません。
内容証明郵便の内容のポイントは、遺留分を侵害している相手に対して「遺留分侵害額請求を行使する意向を通知すること」です。したがって、以下の内容を含めることが重要となります。

  • 請求者の名前(ご自身の名前)
  • 請求の対象となる相手(送付先)
  • 請求の対象となる遺言・遺贈・贈与の内容
  • 遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを要求する旨
  • 請求の日時

なお、このような催告をするにあたって、遺留分侵害額まで明示することは求められていませんので、金額の算定が難しい場合は取り敢えず遺留分侵害について補償を求める旨記載していれば十分です。この場合、消滅時効の猶予期間(6ヶ月間)に金額を算定して訴訟提起すれば金銭債権の時効にかかることはありません。一例として、書面のサンプルを以下に記載します。ぜひご活用ください。

遺留分侵害額請求書通知書 XXXX年XX月XX日
被相続人○○○○は、長男である貴殿に対し、全財産を相続させました。しかし、私は被相続人の○○として、被相続人の遺産のうち6分の1につき、遺留分を有しています。よって、私は、貴殿に対し、遺留分侵害額の請求をします。
通知人:東京都〇〇 名前
被通知人:東京都〇〇 名前

内容証明郵便の発送方法

内容証明郵便を発送するにあたって、郵便局に行くか、インターネット上で手続きを行う方法があります。

郵便局にて手続きを行うときは、集配郵便局及び支社が指定した郵便局でのみ内容証明郵便を利用できます。利用する予定の郵便局にあらかじめ問い合わせを行ってください。

インターネット上で手続きする場合、e内容証明を利用します。郵便局での手続きよりも料金が低いうえに、郵便局へ行く手間を省けるのがメリットです。インターネット上の操作に慣れているなら、e内容証明の利用も検討してください。

用紙のサイズや枚数に制限はありません。ただし1行あたりの字数と1枚あたりの行数には制限があるため、郵便局の公式HPから事前に確認しておきましょう。

金銭債権の時効を止めるには裁判を起こす必要がある

相手に対する督促はあくまで消滅時効の完成を6ヶ月間猶予するだけです。そのため、督促しても6ヶ月間これを放置すれば消滅時効が完成してしまうおそれがあります。

遺留分侵害額請求債権の消滅時効を確定的にリセットするためには、裁判を起こす必要があります。この債権の消滅時効期間は5年間であるため、この期間の間に具体的なアクションを起こす必要があると認識しましょう。

なお、2020年3月31日以前に遺留分の権利を行使する旨表明している場合、その金銭債権の時効は10年間となることに注意しましょう。

金銭債権の消滅時効は、裁判を起こすことで更新され、再び5年間の消滅時効が始まります。(なお、裁判で権利が確定した場合には消滅時効期間は10年間となります。)

時効消滅までの5年間が過ぎるのを防ぐためにも、請求権の行使日(時効の起算日)を正確に管理しましょう。

遺留分侵害額請求の時効における注意点

遺留分侵害額請求の時効について注意すべきポイントは、時効の起算点が争いとなる場合がある点です。

また遺留分の権利者が遺言の効力を争う場合、遺留分侵害額請求権の時効がその間に進行してしまう可能性があります。遺言の無効を主張して裁判を起こしたとしても、必ずしも遺留分について権利行使を表明したことにはならないことには注意しましょう。

時効をいつから計算すべきかの判断が難しい

遺留分侵害額請求の時効について注意すべきポイントは、時効の起算点が争いとなる場合がある点です。すなわち、遺留分の1年の消滅時効は、相続の開始や遺留分を侵害する贈与や遺贈の存在を知った場合とされており、どの時点を「知った」とみるかが争われることがあります。

民法1048条には「相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時」と記載があります。

第千四十八条 遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。
引用元 民法1048条(遺留分侵害額請求権の期間の制限)

仮に相続の事実を知っていても、遺言の内容を把握していなければ「知った」場合にはなりませんし、遺言の内容を知っても遺産の内容がわからなければ遺留分侵害の事実を「知った」とはいえません。

このように、遺留分侵害の事実を「知った」といえるのがどの時点であるかは、ケースバイケースなところがあり、結局、いつを時効の起算点とすればよいかわからないということもあり得ます。この点はいつまでに権利行使すべきなのかに関わる重要な点ですので、不安な場合は弁護士に相談するなど早めの対応を心がけましょう。

遺言書で争い中も時効は進む場合がある

遺留分はこれを侵害する遺言書が存在する場合に問題となる権利ですが、そもそも遺言の有効性が争われている場合はどうでしょう。

結論からいえば、遺留分権利者が遺言の効力を争う場合であっても、これが直ちに遺留分の権利の消滅時効を停止させる理由にはなりません。そのため、当該紛争期間中も遺留分の権利についての消滅時効は進行する可能性があります。

この点についての最高裁判例では、被相続人の相続前に財産の大部分が第三者に贈与されていたケースにおいて、遺留分権利者が当該贈与の効力を争ったとしても、その主張に正当な根拠があり、贈与が無効であることを信じて遺留分の権利を講師しなかったことを是認し得る特段の事情がない限り、遺留分の消滅時効は進行すると判断しています(最高裁判所昭和57年11月12日第二小法廷判決)。

例えば父が亡くなり「長女のみに遺産を相続させる」という遺言書があったものの、父が生前に認知症の気があり遺言能力に疑義があるというケースが考えられます。

この場合、次女は「遺言は無効である」として、遺言無効確認訴訟を起こしましたが、そのような主張に正当な根拠があり、かつ、これを信じて遺留分を主張しなかったことがやむを得ないといえるような状況にない限り、遺留分侵害権請求の時効が進行すると考えるべきでしょう。

そのため、遺言の無効を主張して裁判を起こす場合でも、遺留分についても予備的に権利行使しておくことで遺留分を受け取る権利を守ることにつながります。

弁護士に遺留分侵害額請求について相談するメリット

遺留分侵害額請求は、親族との争いが生まれやすいため、感情的なやり取りによるトラブルが発生することが想定されます。具体的な手順が分からなかったり、行動することをためらったりした結果、時効を迎えてしまう事態は避けなければなりません。

相続の問題が発生した時点で、早いタイミングで弁護士に依頼することで、ご自身の遺留分を受け取る権利を守りながら、法律面や精神面でのサポートを受けることができます。具体的なメリットは、以下の通りです。

  • 正確な遺留分侵害額を算出してもらえる
  • 請求に関する手続き・交渉をすべて任せられる
  • 調停・訴訟になっても任せられる

正確な遺留分侵害額を算出してもらえる

遺留分侵害額を正確に算出するためには、相続前から1年以内の贈与や10年以内の特別受益を考慮する必要があります。相続財産からの資産の移動や不当な取り扱いがあった場合に、上記を考慮して遺留分侵害額を正確に算出することが求められるためです。

遺留分侵害額を計算するには、相続財産の調査が欠かせないことから、専門的な知識と経験を有している弁護士に依頼することが効果的です。

弁護士に相談することで、相続財産の調査から遺留分侵害額の計算、さらに効果的な対策の提案まで、包括的なサポートを受けることができます。

また弁護士は時効に関する問題など、法的な観点からも遺留分侵害額請求に関するアドバイスを行ってくれます。そのため法律の知識が無い人でも安心して相談できるため、金額面の大小で悩んでいる方の不安が取り除かれるでしょう。

請求に関する手続き・交渉をすべて任せられる

遺留分侵害額請求に関する手続きや交渉にあたっては、法律に関する知識と経験が必要です。弁護士に依頼することで、請求に関する手続きから交渉まで全てをお任せすることができます。遺留分侵害額請求における手続きや法的な要件を熟知しており、ご自身で手続きを行うよりも迅速かつ効率良く進められます。

また弁護士に依頼することで、相手と直接対峙せずに済みます。弁護士が代理交渉を行ってくれることで、感情的な対立やストレスを避けられるのもメリットです。

特に遺産相続といった家族間の問題が絡む場合、直接話し合いを行うことで関係性が悪化する可能性もあります。弁護士を介することで、冷静な立場から問題解決に向かえるはずです。

弁護士は相談者の利益を最優先に考え、戦略面からも状況に応じた最適解を提案してくれます。遺留分侵害額請求は、金銭的な損失だけでなく感情的な負担も大きいタスクですが、弁護士のサポートを受けることで、ご自身が納得できる結果を得やすくなります。

調停・訴訟になっても任せられる

遺留分侵害額請求において、相手方が請求に応じない場合、調停や訴訟に進む可能性があります。一般の人々にとっては調停や訴訟は不得手な領域となるため、弁護士に依頼することで、法的な手続きや文書作成を適切に行なってもらえます。

さらに弁護士に依頼することで精神的な負担も軽減されます。調停や訴訟は非常にストレスがかかるため、ご自身で直接全てを担当することは精神的な負担が大きいです。しかし弁護士に依頼すれば、調停や訴訟による負担を弁護士が代わりに引き受けてくれます

相談者は心身ともに安心して調停や訴訟に臨めることで、目の前の状況に対して前向きに対処しやすくなるでしょう。

まとめ

遺留分侵害額請求には1年・5年・10年の期間制限があります。これらの期間制限について的確な対応がなければ、権利が消滅してしまうこともあり得ます。

遺留分は法定相続人に認められた当然の権利であり、その権利を確保することはご自身の利益に直結します。そして上記対応について弁護士に依頼することで的確に権利を保全しつつ、これを実現することが可能となるでしょう。なかなか行動に移せないとお悩みの方は、弁護士事務所の無料相談を活用してみましょう。