遺産相続の平均額は2,000~3,000万円
2020年にMUFG資産形成研究所が行った調査によると、遺産相続の金額の平均値は3,273万円、中央値は1,600万円でした。また、2018年に三菱UFJ信託銀行が行った調査によると、全体の平均額は2,114万円であることから、遺産相続の平均額は2,000~3,000万円であると推測できます。
しかし、相続した遺産の金額別でみると、割合が最も多かったのは500~1,000万円で、1,000万円未満が全体の55.7%と過半数を超えています。
相続した遺産の金額 |
割合 |
100万円未満 |
9.0% |
100~200万円未満 |
11.1% |
200~300万円未満 |
8.0% |
300~500万円未満 |
8.6% |
500~1,000万円未満 |
19.0% |
1,000~2,000万円未満 |
17.0% |
2,000~3,000万円未満 |
8.9% |
3,000~5,000万円未満 |
7.8% |
5,000~1億円未満 |
6.5% |
1億円以上 |
4.1% |
全体の平均額は2,114万円ですが、上記の調査結果を踏まえると一般的な家庭での相続額は1,000万円前後になる可能性が高いです。なお、相続税は遺産額から基礎控除額を引いた額を対象に課税されます。相続税の基礎控除額は「3000万円+(600万円×法定相続人の人数)」であり、最低でも3,600万円の控除を受けられるため一般的な遺産額であれば相続税を支払う必要はありません。
万が一基礎控除額を超えそうな場合は、税額計算など複雑になるため専門家に相談するのがおすすめです。
退職前後世代が経験した資産承継に関する実態調査|三菱UFJフィナンシャル・グループ
男女別の平均額は男性2,885万円・女性1,301万円
2018年に三菱UFJ信託銀行が行った調査によると、男女別の平均額は男性が2,885万円、女性が1,301万円でした。しかし、相続した遺産の金額別でみると、男性全体で割合が最も高かったのは1,000~2,000万円、女性全体では500~1,000万円で、男女共に1,000万円未満が過半数を超えていることから、実際に相続できる金額は平均額よりも少ない可能性が高いです。
相続した遺産の金額 |
男性の割合 |
女性の割合 |
100万円未満 |
9.1% |
9.0% |
100~200万円未満 |
11.4% |
10.8% |
200~300万円未満 |
7.9% |
8.0% |
300~500万円未満 |
6.5% |
10.8% |
500~1,000万円未満 |
15.2% |
22.9% |
1,000~2,000万円未満 |
18.5% |
15.5% |
2,000~3,000万円未満 |
8.5% |
9.3% |
3,000~5,000万円未満 |
8.8% |
6.8% |
5,000~1億円未満 |
7.9% |
5.0% |
1億円以上 |
6.2% |
1.9% |
また、第一生命が過去に行った調査によると、父母別で受け取った遺産相続の平均額は、父親からは778万円、母親からは631万円で、父親が亡くなったときの相続額の方が高い傾向があります。
遺産を相続した人の平均年齢は40~50歳前後
2007年に第一生命経済研究所が行った調査によると、50歳以上で父親が亡くなったときの子どもの平均年齢は39.1歳、母親が亡くなったときの子どもの平均年齢は46.4歳でした。しかし、現在は当時よりも平均寿命が伸びているため、相続人の平均年齢も伸びているものと考えられます。
なお、厚生労働省が公表している「令和4年度簡易生命表」によると、令和4年時点の日本人の平均寿命は男性が81.05歳、女性は87.09歳で、男女共に80歳を超えています。第1子出生時の親の平均年齢は30歳前後なので、平均寿命から逆算すれば子供が初めて親の遺産を相続した時点の平均年齢は40~50歳前後であることが推測できます。
兄弟や姉妹がいる場合、初めて相続が発生する時期は年齢的にもそれぞれが家庭を持ち子供がいるなど、金銭的に余裕がない時期の可能性が高いです。遺産額が平均的で相続税が発生しなくても、相続対策をしなければ配偶者や兄弟姉妹間でトラブルに発展する可能性があるため、事前に配分を決めるなど対策しておく必要があります。親族間での話し合いや遺言の作成など、早いうちから準備を進めておきましょう。
主な年齢の平均余命|厚生労働省
中高年者の遺産相続に関する調査|第一生命保険相互会社
子どもに相続遺産を明らかにしていない親は半数以上
三菱UFJ信託銀行が行った調査によると、子どもにすべての相続遺産を明らかにしている親の割合は13.6%なのに対し、全く明らかにしていない親の割合は52.5%と半数以上を占めています。
すべての財産を明らかにしている |
13.6% |
7割程度の財産を明らかにしている |
8.5% |
5割程度の財産を明らかにしている |
8.2% |
3割程度の財産を明らかにしている |
4.9% |
ごく一部の財産(1割以下)だけ明らかにしている |
12.3% |
全く明らかにしていない |
52.5% |
財産を明らかにしていない理由としては、「子どもが相続財産をあてにするのは好ましくない」が35.6%と最も多く、「話をする時期ではない」が27.0%、「どの程度の遺産を子どもに相続するか決めていない」が24.1%でした。また、60%以上の人が「相続について子どもと話したことがない」と回答しています。
このように、相続について子どもと話している人や親の財産を把握している人は少ない傾向にあります。親が元気なうちに相続について話し合っておかないと、相続時の財産調査に手間がかかったり、相続トラブルに発展したりする可能性が高いため、トラブルを未然に防ぐためにも対策を考えておく必要があります。
遺言と相続に関する実態調査|三菱UFJ信託銀行
相続した遺産のうち現金・預貯金と不動産の割合が多い
国税庁が公表している「相続税の申告実績の概要」によると、相続した遺産のうち現金・預貯金と不動産(土地・家屋)の割合が多数を占めていることが明らかになっています。
相続した遺産の内訳 |
平成30年 |
令和元年 |
令和2年 |
令和3年 |
令和4年 |
現金・預貯金 |
32.3% |
33.7% |
33.9% |
34.0% |
34.9% |
土地 |
35.1% |
34.4 % |
34.7% |
33.2% |
32.3% |
家屋 |
5.3% |
5.2% |
5.3% |
5.1% |
5.1% |
有価証券 |
16.0% |
15.2% |
14.8% |
16.4% |
16.3% |
その他 |
11.3% |
11.5% |
11.3% |
11.3% |
11.4% |
現金・預貯金は30~35%前後
相続した遺産のうち、現金・預貯金の割合は30~35%前後で推移しています。現金・預貯金は、被相続人が亡くなった時点で残っていた金額を相続財産として計上・申告する必要があります。財布の中にある現金やタンス預金、貸金庫で保管している現金、亡くなる直前に引き出した現金、相続開始後に使った現金もすべて相続財産として計上しなければなりません。
もし、手元に現金があることを知りながら故意に相続財産として計上・申告しなかった場合、税務署に見つかると延滞税や重加算税などのペナルティが課される恐れがあります。「現金ならバレないだろう」と軽く考えてしまいがちですが、相続時に税務調査が入ればほぼ確実にバレるので、相続税は必ず正確に申告しましょう。
土地や家屋は35~40%前後
相続した遺産のうち、土地や家屋といった不動産の割合は35~40%前後で推移しています。バブル崩壊前の地価が高かった頃は、不動産の割合が60%を占めていたこともありました。
土地・家屋別の割合は家屋が5~6%前後、土地は32~34%前後で、土地の割合の方が高いです。遺産の内訳の中でも不動産の割合が大きいのは、もともとの不動産の資産価値が高く、相続税の税制優遇が受けられる資産であることから、節税対策として不動産を所有するケースが多いのが主な要因です。
ただし、不動産は現金のように複数の相続人で分けるのが難しいため、分配の際にトラブルが発生するケースも多いです。その場合、「代償分割」ができればスムーズに話を進められます。代償分割とは、不動産など物理的に分割できない遺産を相続した1人が、ほかの相続人に対して現金などで本来相続できるはずだった遺産と相当の額を代償金として支払うことで分割する方法です。
たとえば相続人は姉と妹の2人で、2億円の価値がある不動産が相続遺産として残り姉が不動産を相続したとします。代償金の決め方に決まりはなく、双方が納得していれば自由に決められますが、基本的には「法定相続分」に沿って決めます。
法定相続分とは、法律で相続が認められた血縁者である「法定相続人」の分配方法であり、遺言書がない場合は法定相続分を基に遺産の配分を決めるのが一般的です。兄弟姉妹の場合は全員で均等に分配するのが法定相続分として定められているため、先ほど例に挙げた姉妹の場合は妹にも1億円の遺産を相続する権利が発生します。
そのため、不動産を相続した姉が妹に対して1億円の代償金を支払えば、代償分割は成立します。しかし、実際には不動産と少額の預金しか残っておらず、代償分割ができずに困るケースも多いです。
その場合は、不動産を売却して現金化し相続人同士で分割する「換価分割」を行うのも選択肢の1つです。遺産のうち預金額が少なくても誰が不動産を相続して代償金を支払うかでトラブルになるリスクを防げます。しかし、被相続人と同居していた相続人や親族がいる場合は、新たな住居の確保など別のトラブルが発生する可能性もあります。そのため、弁護士など相続に関する専門知識を持った第三者を交えて話し合いをするのがおすすめです。
有価証券は15%前後・その他の遺産は10%前後
相続した遺産のうち、有価証券の割合は15%前後、その他の遺産の割合は10%前後で推移しています。有価証券とは、株券や社債のように財産としての価値がある証券のことです。
相続対象となる有価証券には、上場株式や非上場株式、公社債などがあり、評価額の計算方法は有価証券の種類によってそれぞれ異なります。
有価証券の種類 |
相続税評価額の計算方法 |
上場株式 |
株価×株数
※計算に用いる株価は、下記の4つのうち最も低い株価を選択
・相続発生日の終値(相続発生日に終値がなければ、前後の最も近い日の終値)
・相続発生日の月の取引日ごとの終値の平均値
・相続発生日の前月の取引日ごとの終値の平均値
・相続発生日の前々月の取引日ごとの終値の平均値 |
非上場株式 |
類似業種比準価額、純資産価額、配当還元価額などを参考に個別に評価 |
上場利付公社債 |
(相続発生日の最終価格+源泉所得税額相当額控除後の既経過利息の額)×券面額/100円 |
その他の利付公社債 |
(相続発生日の発行価格+源泉所得税額相当額控除後の既経過利息の額)×券面額/100円 |
その他の遺産には、自動車や家財、貴金属、美術品、知的財産権、電話加入権、ゴルフ会員権などの資産価値がある動産・権利が含まれます。その他の遺産は多岐にわたるので、どこまで相続財産に計上されるのかの判断については専門家にご相談ください。
令和4年分相続税の申告事績の概要
遺産相続手続きの大まかな流れ
遺産相続手続きの大まかな流れは下記の通りです。
- 死亡届の提出や葬儀などを済ませる
- 遺言書の有無や相続人の調査・確認を行う
- 相続財産を調査して把握する
- 3ヶ月以内に遺産を相続するかを判断する
- 相続人全員で遺産分割協議を行う
- 相続登記や遺産の換金などを行う
- 相続を知ってから10ヶ月以内に相続税を申告する
ここからは、遺産相続手続きの流れをステップごとにそれぞれ詳しく解説していきます。
1. 死亡届の提出や葬儀などを済ませる
遺産相続手続きを行う前に、死亡届の提出や葬儀など下記の手続きを済ませる必要があります。
- 死亡届・埋火葬許可申請書の提出
- 通夜・葬儀
- 世帯主の変更届の提出
- 年金受給停止手続き
- 各種保険の資格喪失手続き・保険証の返却
被相続人が亡くなった後に受け取る死亡届は、役所に置いてある埋火葬許可申請書と共に、死亡から7日以内に故人の本籍地または死亡地、届出人の所在地の役所に提出しなければなりません。死亡届・埋火葬許可申請書を提出しないと、火葬の際に必要な「火葬許可証」が発行されないので、通夜・葬儀を執り行う前に取得しておきましょう。
通夜・葬儀を執り行った後は、死亡から14日以内に国民健康保険や社会保険などの各種保険の資格喪失手続きと保険証の返却を行います。故人が年金受給者だった場合は、死亡から14日以内に年金事務所または年金相談センターで年金受給停止の手続きを行わなければなりません。
ただし、マイナンバーの登録が済んでいれば、死亡届を提出した時点で手続き完了になるので手続きは不要です。また、故人が世帯主だった場合は、故人の住所地の役所に世帯主の変更届を提出する必要があります。ただし、下記のいずれかに当てはまる場合は、世帯主の変更届の提出は必要はりません。
- 故人が1人暮らしで、世帯に誰も残っていない場合
- 故人と2人暮らしで、世帯に1人しか残っていない場合
- 世帯主になれる15歳以上の人物が1人しかいない場合
2. 遺言書の有無や相続人の調査・確認を行う
死亡届の提出や葬儀など必要な手続きを終えたら、次に遺言書の有無を確認しましょう。故人が遺言書を残していた場合、法定相続よりも遺言書の内容が優先されます。法定相続とは、法律で定められている相続人や相続割合のことで、遺言書がない場合は基本的に法定相続に基づいて相続人や割合が決まります。
そのため、相続手続きが終了した後に遺言書が見つかると、内容によっては相続手続きをやり直さなければなりません。
故人が自分で作成する「自筆証書遺言」を作成していた場合は、自宅内の金庫や引き出し、入院先の病院や入所先の介護施設、法務局などで保管されている可能性が高いです。一方で故人が公正役場で公証人に作成してもらう「公正証書遺言」を作成していた場合は、公証役場に原本が保管されています。そのため、公証役場で遺言書の有無を確認可能です。
もし、自筆証書遺言が見つかった場合は、遺言書を開封する前に家庭裁判所で「検認の申立て」を行う必要があります。検認の申立てをせずに勝手に開封してしまうと、他の相続人から偽造や変造を疑われたり、5万円以下の過料に処されたりする恐れがあるので注意が必要です。また、封がされていない遺言書であっても検認の申立ては行うようにしましょう。
ただし、下記に当てはまる場合は検認の申立ては不要です。
- 法務局で自筆証書遺言を保管していた場合
- 公正証書遺言の場合
いくら探しても遺言書が見つからない場合や遺言書で遺産分割の方法が指定されていなかった場合は、民法で定めている法定相続人が遺産を相続することになるため、法定相続人の調査・確認を行う必要があります。相続人調査の大まかな流れは下記の通りです。
- 相続人の範囲や順位を確認する
- 故人が死亡した時点の戸籍謄本を故人の本籍地の役所で取得する
- 取得した戸籍謄本で前の戸籍が記載されていた場合は、その戸籍の本籍地で戸籍謄本を取得し、その要領で出生時の戸籍まですべて取得する
- 取得した戸籍謄本に記載されている相続人全員の戸籍を取得する
3. 相続財産を調査して把握する
遺言書の有無と相続人の調査・確認が完了したら、次に故人の相続財産を把握するための調査を行います。現金・預貯金、不動産などのプラスの財産だけでなく、借入金や未払金などのマイナスの財産も忘れずに調査しましょう。
相続財産の調査をしっかり行わないと相続税の計算が正確に行えないほか、後で相続対象の財産が見つかった場合は遺産分割協議をやり直さなければならない可能性もあります。
遺産分割協議とは、遺産の配分を決めるために相続人同士で話し合うことを指します。遺産分割協議は相続人全員が参加しなければ話を進められないため、やり直しとなると時間も手間もかかります。
また、相続財産をすべて把握していないと、マイナスの財産があることに気づかずに相続手続きを進めてしまい、相続によって負債を抱えてしまうリスクもあるため注意が必要です。
4. 3ヶ月以内に遺産を相続するかを判断する
相続財産の調査・確認が完了したら、死亡日または相続開始を知った時点から3ヶ月以内にどのような方法で遺産を相続するかどうかを判断します。遺産相続の方法には、下記の3つの方法があります。
- 単純承認:プラスの財産もマイナスの財産もすべて相続する方法
- 限定承認:プラスの財産の範囲内でマイナスの財産も相続する方法
- 相続放棄:プラスの財産もマイナスの財産もすべて相続しない方法
限定承認や相続放棄を選択する場合は、死亡日または相続開始を知った時点から3ヶ月以内に家庭裁判所で手続きを行わなければなりません。何も手続きをせずに3ヶ月を過ぎてしまった場合や、3ヶ月以内に相続財産の全部または一部を処分した場合は自動的に単純承認が選択されます。
プラスの財産よりもマイナスの財産の方が多い場合、単純承認を選択すると相続によって大きな債務を抱えることになるため、早めにすべての相続財産を把握して相続の方針を判断する必要があります。
5. 相続人全員で遺産分割協議を行う
相続人が複数人いる場合は、相続人全員で遺産分割協議を行います。遺産分割協議とは、誰がどの財産をどの割合で相続するかを相続人全員で話し合う手続きです。
相続割合は民法で定めている「法定相続分」が基準になりますが、相続人全員が合意すれば自由に相続割合を決められます。なお、未成年の相続人や認知症・知的障がいなどで十分な判断能力がない相続人は遺産分割協議に参加できないため、代理人が本人の代わりに参加します。
- 未成年者の場合:親権者(親権者と未成年者の間で利益相反が発生する場合は特別代理人の選任が必要)
- 十分な判断能力がない場合:成年後見人または特別代理人
遺産分割協議には特に期限はありませんが、遺産分割協議が終了しないと相続手続きが進まないので注意が必要です。遺産分割協議が終了したら、遺産分割協議書を作成して話し合いで決めた内容を書面で残しておきます。
遺産分割協議は口頭のみでも法的に有効ですが、書面に残しておかないと後で相続トラブルに発展した際に証明が難しくなるため、遺産分割協議書は必ず作成しましょう。
6. 相続登記や遺産の換金などを行う
遺産分割協議書の作成が完了したら、その内容に基づいて遺産を相続するために、相続登記や名義変更、遺産の換金などの手続きを行います。故人名義の銀行口座を名義変更・解約する場合、手続き方法は金融機関によって異なりますが、一般的には相続人全員の署名・押印がされた相続届の提出が必要です。
不動産を相続した場合は、不動産を管轄する法務局で相続登記の手続きを行い、相続人名義に変更しましょう。手続きを行わないと不動産の売却が行えないので、すぐ売却する場合でも相続登記の手続きは必須です。
もし、正当な理由もなく相続によって取得した不動産の登記を3年以内に行わなかった場合、10万円以下のペナルティが発生する可能性があるため注意が必要です。相続登記の手続きは自分でも行えますが、手続きが複雑で難しいため、登記の専門家である司法書士に依頼するのをおすすめします。
7. 相続を知ってから10ヶ月以内に相続税を申告する
相続財産の総額が相続税の基礎控除額を超える場合は、死亡日または相続開始を知った時点から10ヶ月以内に税務署で相続税の申告・納税の手続きを行わなければなりません。
申告が遅れたり行わなかったりした場合、脱税と見なされてペナルティを課されるリスクがあります。そのため、遺産分割協議は早めに行い、相続税が発生する場合は必ず期限内に相続税の申告を行いましょう。
なお、相続税の課税対象となる財産や基礎控除額の計算方法については、後ほど詳しく解説します。
遺産相続をする際に知っておきたい相続税の課税対象
遺産相続をする際には、正確に相続税を計算するためにも下記の点についてしっかりと理解しておく必要があります。
- 相続税の課税対象となる財産
- 相続税の課税対象は基礎控除額を超過した分
ここからは、上記の点についてそれぞれ詳しく解説していきます。
相続税の課税対象となる財産
相続税の課税対象となる財産は、大きく分けると下記の3つあります。
- プラスの相続財産
- みなし相続財産
- 生前贈与財産(相続発生前の3年以内の生前贈与・相続時精算課税制度を適用した生前贈与)
ここからは、それぞれの課税対象となる財産について詳しく解説していきます。
プラスの相続財産
相続人は現金・預貯金や不動産などのプラスの財産だけでなく、借入金や未払金などのマイナスの財産もすべて相続しなければなりませんが、相続税の課税対象になるのはプラスの相続財産のみです。
- 現金・預貯金
- 有価証券(株式・債券・投資信託など)
- 不動産
- 自動車やバイク
- 貴金属・宝石
- 美術品(絵画・骨董品など)
- 知的財産権(特許権や著作権など)
- 電話加入権
- ゴルフ会員権
下記のようなマイナスの相続財産や葬儀費用は、相続税の課税対象にはなりません。
- 金融機関や個人からの借入金
- 医療費や介護費、クレジットカード、税金などの未払金
- 住宅や車のローンの残額
- 連帯保証債務
- 葬儀費用
また、下記のような非課税財産も相続税の課税対象外です。
- 墓地や墓石、仏具、仏壇、神棚など、礼拝のために使用する財産
- 公益事業を目的としている財産
- 国や地方公共団体などへの寄付金
- 条例による給付金受給の権利等
- みなし相続財産の非課税枠
みなし相続財産
相続税の計算では、被相続人から直接相続した財産だけでなく、「みなし相続財産」に該当する財産も課税対象となる相続財産として計上しなければなりません。みなし相続財産とは、被相続人の死亡後に受け取る財産のことで、代表的なみなし財産としては下記の2つが挙げられます。
ただし、生命保険金と死亡退職金の非課税枠は相続税の課税対象外です。生命保険金と死亡退職金の非課税枠の金額は、どちらも「500万円×法定相続人の人数」と定められています。課税対象となるのは非課税枠を超過した部分のみで、非課税枠内であれば相続税はかかりません。
生前贈与財産(相続発生前の3年以内の生前贈与・相続時精算課税制度を適用した生前贈与)
相続税を節税するための対策として生前贈与が挙げられますが、「相続発生前の3年以内の生前贈与」と「相続時精算課税制度を適用した生前贈与」は相続税の課税対象となる点に注意が必要です。
相続時精算課税制度とは、60歳以上の親や祖父母が18歳以上の子どもや孫に対して生前贈与する際に、2,500万円までの贈与税が控除される制度です。贈与者が亡くなった後、受け取った財産を相続遺産に含めて相続税を算出します。
後から相続税が発生してしまいますが、贈与者が亡くなる前の3年以内に贈与された財産には贈与税と相続税どちらも発生してしまうため、贈与税を大幅に節約できるのが大きなメリットです。
また、年110万円まで認められている贈与税の非課税枠も同時に利用できるため、同じ年に贈与する場合は最大2,610万円まで贈与税の控除を受けられます。
ただし、下記に該当する贈与は3年以内に行われた贈与であっても相続財産として計上されないので、相続税はかかりません。
- 孫や子供の配偶者など、法定相続人ではない人への贈与
- 「贈与税の配偶者控除の特例(おしどり贈与)」の制度を利用した贈与
- 「結婚・子育て資金の一括贈与」の制度を利用した贈与
- 「教育資金の一括贈与」の制度を利用した贈与
- 「住宅取得等資金の贈与」の制度を利用した贈与
相続税の課税対象は基礎控除額を超過した分
相続税は、課税対象となる相続財産の総額から基礎控除額を差し引いて残った部分に対して課税されます。基礎控除額が相続財産の総額よりも多ければ、相続税は一切かかりません。相続税の基礎控除額は、下記の計算式で算出できます。
3,000万円+(600万円×法定相続人の人数)
法定相続人の人数が多ければ多いほど基礎控除額が多くなり、相続税も安くなるため、法定相続人の人数は正確に把握する必要があります。なお、法定相続人の人数を数える際には下記の点に注意が必要です。
- 相続放棄をした法定相続人も人数にカウントする
- 相続欠格・廃除された法定相続人は人数にカウントしない
- 相続欠格・廃除された法定相続人に代襲相続人がいる場合、代襲相続人の人数がカウントされる
- 別の親と特別養子縁組を結んでいる実子は人数にカウントしない(普通養子縁組の場合は人数にカウントする)
相続税の計算方法と流れ
相続税を計算する際の大きな流れは下記の通りです。
- 課税対象となる遺産の総額を計算する
- 課税遺産が基礎控除額を超過するのかを計算する
- 遺産を分配し、相続人ごとの課税金額と相続税の総額を計算する
- 相続人ごとの相続税負担金額を計算する
ここからは、相続税の計算方法や流れについてそれぞれ詳しく解説していきます。
1. 課税対象となる遺産の総額を計算する
まずは、課税対象となる遺産の総額がいくらあるのか把握する必要があります。前述の通り、課税対象となる遺産は大きく分けると下記の3つの財産があります。
- プラスの相続財産(現金・預貯金、有価証券、不動産などの金銭的価値のある相続財産)
- みなし相続財産(生命保険金や死亡退職金など、被相続人の死亡後に受け取る財産)
- 生前贈与財産(相続発生前の3年以内の生前贈与・相続時精算課税制度を適用した生前贈与)
上記の財産をすべて洗い出して、総額がいくらになるのか計算しましょう。マイナスの財産や非課税財産、葬儀費用は課税対象にならないので、課税対象となる遺産の総額から差し引いてください。
2. 課税遺産が基礎控除額を超過するのかを計算する
課税対象となる遺産の総額が分かったら、基礎控除額を算出して相続税が発生するのか確認しましょう。相続税の基礎控除額は、下記の計算式で算出できます。
3,000万円+(600万円×法定相続人の人数)
課税対象となる遺産の総額が基礎控除額以下であれば相続税は発生しないため、相続税の申告や納税は不要です。もし、課税対象となる遺産の総額が総額基礎控除額を超過した場合は、超過した部分が相続税の課税対象になります。
3. 遺産を分配し、相続人ごとの課税金額と相続税の総額を計算する
課税対象となる遺産の総額が基礎控除額を超過していた場合は、相続人ごとの課税金額と相続税の総額を計算します。まずは、下記の計算式で課税遺産総額(基礎控除額を超えた部分の金額)を算出しましょう。
課税対象となる遺産の総額-基礎控除額
課税対象となる遺産の総額が2億円、法定相続人が配偶者・長男・長女の3人の家族を例に挙げると、課税遺産総額は下記のようになります。
- 基礎控除額:3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円
- 課税遺産総額:2億円-4,800万円=1億5,200万円
課税遺産総額が分かったら、次に法定相続分で遺産を分配したものと仮定して相続人ごとの課税金額を計算します。法定相続分とは、法律で認められている法定相続人が相続できる割合です。法定相続人には以下の順番で優先順位があります。
- 常に相続人:配偶者
- 第1順位:被相続人の子供
- 第2順位:被相続人の両親
- 第3順位:被相続人の兄弟・姉妹
配偶者がいる場合は、配偶者のみか配偶者と存命する最も順位が高い相続人の組み合わせでしか相続できません。配偶者がいない場合も、最も順位が高い相続人のみですべてを相続するため、全員が相続人になれるわけではありません。法定相続分は以下の割合で定められています。
法定相続人 |
法定相続分 |
被相続人の配偶者と子供 |
配偶者:2分の1
子供:2分の1(全員合わせて) |
被相続人の配偶者と両親 |
配偶者:3分の2
両親:3分の1(父母合わせて) |
被相続人の配偶者と兄弟姉妹 |
配偶者:4分の3
兄弟姉妹:4分の1(全員合わせて) |
相続人ごとの課税金額を求める計算式は下記の通りです。
課税遺産総額×法定相続分
これを、先ほど挙げた家族に当てはめてみると、相続人ごとの課税金額は下記のようになります。
- 配偶者:1億5,200万円×2分の1(法定相続分)=7,600万円
- 長男:1億5,200万円×4分の1(法定相続分)=3,800万円
- 長女:1億5,200万円×4分の1(法定相続分)=3,800万円
相続人ごとの課税金額が分かったら、それぞれの課税金額に相続税の税率をかけ、その後に控除額を差し引いて、相続人全員で負担する相続税の総額を求めます。相続税の税率や控除額は、法定相続分に応じた遺産の取得金額によって変わります。
法定相続分に応じた遺産の取得金額 |
税率 |
控除額 |
1,000万円以下 |
10% |
0円 |
1,000万円超~3,000万円以下 |
15% |
50万円 |
3,000万円超~5,000万円以下 |
20% |
200万円 |
5,000万円超~1億円以下 |
30% |
700万円 |
1億円超~2億円以下 |
40% |
1,700万円 |
2億円超~3億円以下 |
45% |
2,700万円 |
3億円超~6億円以下 |
50% |
4,200万円 |
6億円超 |
55% |
7,200万円 |
これを、先ほど挙げた家族に当てはめてみると、相続税の総額は下記のようになります。
- 配偶者:7,600万円×30%(税率)-700万円(控除額)=1,580万円
- 長男:3,800万円×20%(税率)-200万円(控除額)=560万円
- 長女:3,800万円×20%(税率)-200万円(控除額)=560万円
相続税の総額:1,580万円+560万円+560万円=2,700万円
この2,700万円が、相続人全員で負担する相続税の総額になります。
4. 相続人ごとの相続税負担金額を計算する
相続人全員で負担する相続税の総額が分かったら、最後に各相続人が実際に税務署で納めなければならない相続税の負担金額を求めます。各相続人の相続税負担金額は、下記の計算式で算出できます。
相続人全員で負担する相続税の総額×各相続人が実際に遺産を相続した割合=各相続人の相続税負担金額
実際に遺産を相続した割合は、下記の計算式で算出できます。
実際に相続した財産の総額÷課税対象となる遺産の総額
たとえば、先ほど挙げた家族が遺産の2億円を下記のように分配したとします。
- 配偶者:6,000万円
- 長男:1億円
- 長女:4,000万円
この場合、相続人ごとの相続税負担金額は下記のようになります。
- 配偶者:2,700万円×(6,000万円÷2億円=30%)=810万円
- 長男:2,700万円×(1億円÷2億円=50%)=1,350万円
- 長女:2,700万円×(4,000万円÷2億円=20%)=540万円
上記の計算式によって算出された金額が、各相続人が実際に税務署へ納めなければならない相続税の金額です。しかし、相続人によっては配偶者控除や未成年控除などの各種控除を利用することで、相続税の負担を軽減できる場合があります。
先ほど挙げた家族のケースだと、配偶者には配偶者控除が適用されます。配偶者控除とは、配偶者が実際に取得した遺産の総額が下記の金額のどちらか多い方の金額までは、配偶者の相続税がかからないという制度です。
先ほど挙げた家族のケースだと、配偶者は1億6,000万円まで相続税がかからないため、上記で算出した810万円を税務署に納める必要がなくなります。ただし、各種控除は税務署に相続税を申告しないと利用できないため、配偶者控除によって相続税がゼロになったとしても、相続税の申告は必要です。
まとめ
今回は、遺産相続の平均額について民間企業の調査データをもとに紹介しました。平均で見ると2,000~3,000万円であると推測できますが、相続財産の金額別でみると1,000万円未満が過半数を占めていることから、実際に相続する金額は平均額よりも少なくなる可能性が高いです。
なお、遺産相続の平均額を超える場合は相続税が発生する可能性があるため、相続税の負担を抑えたい方は早めの対策が必要です。ただ、相続手続きや対策は非常に複雑なので、近々親の遺産を相続する予定がある方や早めに対策しておきたい方は、遺産相続に強い専門家に相談するのをおすすめします。
相続に関するよくある質問
相続トラブルを回避するためにできることはありますか?
相続トラブルを回避するには、事前に以下の準備をしておくのがおすすめです。
- 相続できる財産は全体でどのくらいあるのか明らかにしておく
- 遺言書を作成しておく
- 被相続人と推定相続人で話し合いをしておく
相続できる財産がどのくらいあるのかわからない状態で亡くなってしまうと、財産調査に時間がかかり相続手続きがスムーズに進みません。そのため、「財産目録」を作成してどこにどのくらいの財産があるのか残しておくと相続トラブルの防止につながります。
あとから遺産が見つかると、相続税の申告や相続人同士での話し合いなど多くの手続きをやり直さなければならない可能性があるため、必ず全財産については明らかにしておきましょう。
また、遺言書が無い場合は法定相続分を基準に決めるか相続人同士で話し合って配分を決めるため、トラブルが起こりやすいです。遺言書があれば、法定相続分よりも最優先して配分が決められるため、相続人同士でのトラブルを防げる可能性があります。
ただし、すべての配分を被相続人の独断で決めると、生前の被相続人との関係性から配分に対して不満を訴える相続人が出てくる可能性があります。たとえば、生前に被相続人の介護をしていた相続人と、介護はせずに被相続人から援助を受けていた相続人の配分が同じだった場合、介護をしていた相続人が不満を訴えてトラブルになる可能性が高いです。
そのため、被相続人だけで配分を決めるのではなく、推定相続人と被相続人を交えて話し合いをしておくのがおすすめです。
相続税を納める人の割合はどれくらいですか?
相続税は、課税対象の財産から基礎控除額を引いた額に対して課税されます。基礎控除額は「3,000万円+(600万円×法定相続人の人数)」で算出可能です。法定相続人が1人だったとしても
最低3,600万円の基礎控除があるため、3,600万円以下であれば相続税は発生しません。
2018年に三菱UFJ信託銀行が行った「遺言と相続に関する実態調査」よると、全体の81.6%の遺産相続額が3,000万円未満でした。そのため、少なくとも80%以上の人には相続税は発生していないことがわかります。
また、3,000万円以上相続した人の中にも法定相続人が2人以上いる場合、基礎控除額は4,200万円以上になり相続税が発生しない人も一定数いることが推定されるため、実際に相続が発生する人は20%にも満たないでしょう。
無料相談・電話相談OK!
一人で悩まずに士業にご相談を
- 北海道・東北
-
- 関東
-
- 東海
-
- 関西
-
- 北陸・甲信越
-
- 中国・四国
-
- 九州・沖縄
-