遺産を分ける際の流れ
相続が発生したときの遺産分割をどのようにすすめていくか、流れについて解説します。
- 1.遺言書があればその内容に従う
- 2.遺産分割協議を実施する
- 3.遺産分割調停を申し立てる
- 4.遺産分割審判に移行する
1.遺言書があればその内容に従う
相続においては亡くなった人(以下「被相続人」)の意思が優先されますので、遺言書がある場合は、基本的に遺言書の内容に従って遺産分割が行われます。
遺言の内容通りの遺産分割でよければ、この後に解説する遺産分割協議や調停、審判手続きは不要です。ただし、遺言書の内容が、相続人が請求できる相続分(遺留分:民法1042条以下)を侵害するものである場合などは、遺留分侵害請求などで争われることもあります。そのため相続が発生した場合、まず遺言書があるかを確認することが必要です。
遺言には、「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類あり(民法967条)、利用されることが多いのは自筆証書遺言と公正証書遺言です。自筆証書遺言は、遺言者自らが、遺言書の全文、日付、氏名を自署、押印し、作成される遺言書です。
このとき注意しなければならないのは、自筆証書遺言は、法務局に保管されている場合を除き、家庭裁判所の検認手続きを受けなければならない点です(民法1004条)。
検認とは、相続人に遺言書の存在を伝え、遺言書の形式や記載内容、日付、署名などを明確にし、遺言書の内容を偽造、変造することを防止する手続きです。
そのため、他の相続人とトラブルにならないためにも、自筆の遺言書が見つかっても、勝手に開封してはいけません。
2.遺産分割協議を実施する
日本財団が実施したアンケート調査によると、60歳〜79歳の男女で、遺言書を準備している人の割合は全体の3.4%にとどまり、遺言書が作成されていないケースも多くあります。遺言書がない場合、相続人間で相続財産の分割方法を話し合う「遺産分割協議」を行います。
遺産分割協議は、相続人全員が集まらなければ無効です。音信不通の相続人を除いて行われた場合や被相続人に隠し子がいて、それを知らずに行われた遺産分割協議は無効となります。
また、相続人に未成年の子どもがいる場合、親(親権者)が代理して行いますが、親が相続人の場合、親と子どもの利害関係が対立しますので、家庭裁判者に特別代理人を選任する申立てを行う必要があります。
遺産分割協議で話し合いがまとまった場合、合意事項を書面でまとめ、相続人全員の署名・捺印のもと合意事項が決まります。一方、話し合いがまとまらず合意が得られなかった場合には遺産分割調停に移ります。
参考:日本財団|遺言、遺贈に関する意識・実態把握調査
3.遺産分割調停を申し立てる
遺産分割協議がまとまらなければ、相続人の1人もしくは何人かで他のすべての相続人を相手として、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てます。
遺産分割調停では、相続人だけでなく裁判官と2名の調停委員からなる家庭裁判所の調停委員会が関与します。提出された書類にもとづきながら相続人それぞれの事情や主張を聞き、法律的な解釈を含めて助言を行い、合意に向けた提案を行います。1回の調停に要する時間は、2時間程度です。
遺産分割協議であれば、相続人間の感情的な対立もありますし、双方が同じ主張を繰り返してまとまらないことがあります。遺産分割調停は、事実関係や法律的な解釈が必要な事項などに関して、裁判所のサポートを受けながら自主的な解決を目指す方法といえます。
ただし、遺産分割調停においても、遺産分割協議と同様に、相続人全員の合意がなければ調停は成立しません。調停を重ねても解決のめどが立たない場合、調停委員会が調停不成立の判断をすることもあります。
参考:裁判所|遺産分割調停
4.遺産分割審判に移行する
遺産分割調停がまとまらず調停が不成立となれば、自動的に遺産分割審判の手続きに移行します。
遺産分割審判は、相続人から提出された資料や聞き取りした事情などすべての証拠書類を考慮して家庭裁判所が審判する手続きです。調停委員が話し合いに関与して助言しながら、相続人間の合意形成を図る遺産分割調停とは異なります。
遺産分割審判は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所で行われますが、相続人間で管轄合意書を提出した場合は、その場所で行います。
なお、遺産分割調停が不成立の場合、自動的に遺産分割審判へ移行しますが、話し合いによる解決が難しいと分かっている場合は、遺産分割調停を行わずに遺産分割審判を申し立てることも可能です。
家庭裁判所では、特定の事件について、訴訟を提起する前に調停を申し立てなければならないという「調停前置主義」をとっていますが、遺産分割審判の申立ては、この訴訟にはあたらず、遺産分割調停を経ずに申し立てることができます。
ただし、遺産分割調停をせずに遺産分割審判を申し立てた場合でも、多くの場合は裁判官が職権を行使し、遺産分割調停が先に行われます。
遺産分割審判を行う流れ
ここでは遺産分割審判の具体的な流れや期間の目安について解説します。
- 1. 遺産分割協議・調停が不成立になる
- 2. 審判期日が決まったら呼出状が届く
- 3. 遺産分割審判が始まる
- 4. 裁判官による審判が行われる
- 5.審判内容が不服の場合は即時抗告を行う
1. 遺産分割協議・調停が不成立になる
相続人間の話し合い(遺産分割協議)で合意が得られず、その後の遺産分割調停が不成立となれば自動的に遺産分割審判に移ります。そのため、改めて遺産分割審判の申し立てをする必要はありません。
遺産分割審判の申し立て費用は、収入印紙1,200円と予納郵券(郵便切手)です。
予納郵券は、裁判所が訴状や呼び出し状、判決書などの書類を送付する際に使われ、審判終了後に余ったものは返還されます。
ただし、遺産分割調停が不成立となり審判手続きに移行する場合は、調停申し立て時に遺産分割審判の申し立てがあったものとみなされますので必要ありません。
2. 審判期日が決まったら呼出状が届く
審判の申し立てから2週間程度で、家庭裁判所からすべての審判の当事者(相続人や相続分を譲り受けた人)に呼出状が送付され、審判手続きについて知らされます。
- 審判の手続きに移行したこと
- 審判の期日(第1回期日)
- 審判が行われる家庭裁判所
- 必要書類 など
審判手続きで提出する、主張書面や証拠資料を準備します。
当事者の主張を記載した書面を「主張書面」といいます。この主張を裏付ける証拠を「証拠資料」といい、戸籍謄本や住民票などの身分関係を証明するものや不動産の登記事項証明書などがあたります。また、裁判所は、当事者に対し必要に応じて主張書面や証拠資料の提出を求めることができます。
ただし、審判手続きに移行する前の調停で、当事者双方の主張や証拠書類が提出されていることも多いです。
3. 遺産分割審判が始まる
1回目の期日を迎えると、双方当事者は裁判所に出頭し、審判手続きが始まります。
裁判官と相続人全員が1つの部屋に集まり、証拠や書面の提出、主張に関する補足説明などを行います。
1回目の審判期日では、これまでの主張や提出された証拠資料の確認が行われることも多く、すべての主張や資料が出し尽くされている場合は出頭しないこともあります。
開催される頻度は約1~1.5ヶ月に1回
遺産分割審判は1回で終わることは少なく、当事者双方の主張と証拠が出し尽くされ争点が明確になるまで、第2回、第3回と期日を設定し審理が進められます。遺産分割審判は、1ヶ月から1.5ヶ月に1回程度のペースで行われ、1回で終わるものから20回以上の審理が行われるものもあります。
図表1は、遺産分割事件の審理回数※をまとめたものです。
図表1
実施期日回数 |
事件数 |
全体に占める割合 |
0回 |
1009 |
7.7% |
1回 |
1673 |
12.8% |
2回 |
1880 |
14.4% |
3回 |
1578 |
12.1% |
4回 |
1305 |
10.0% |
5回 |
1020 |
7.8% |
6~10回 |
2936 |
22.6% |
11~15回 |
984 |
7.5% |
16~20回 |
345 |
2.6% |
21回以上 |
251 |
1.9% |
※令和4年度司法統計年報をもとに作成
※審判と調停を合わせたもの
6回〜10回の実施期日の割合がもっとも多くなっていますが、半数以上の事件は5回までで審理が終了しています。複雑な事案や当事者間の主張の食い違いが大きい事案ほど審理回数も増える傾向です。
参考:裁判所|令和4年度司法統計
審判にかかる期間は約3~8ヶ月
遺産分割審判にかかる期間は、概ね3〜8ヶ月です。
図表2は審判にかかる期間をまとめたものですが、全体の約3割が6ヶ月以内、約6割が1年以内に審理が終了していることが分かります。ただし、1年を超えるものも3割程度あります。
図表2
審理期間 |
事件数 |
全体に占める割合 |
1月以内 |
248 |
1.9% |
3月以内 |
1159 |
8.9% |
6月以内 |
2849 |
21.9% |
1年以内 |
4183 |
32.2% |
2年以内 |
3088 |
28.7% |
3年以内 |
972 |
7.4% |
3年を超える |
482 |
3.7% |
※令和4年度司法統計年報をもとに作成
参考:裁判所|令和4年度司法統計
4. 裁判官による審判が行われる
当事者双方の主張や証拠が出し尽くされ、審理が十分に尽くされたと裁判所が判断すれば審理は終了し、最後の審判期日が指定されます。
審判がされると、審判内容が記載された書類(審判書)が作成され、審判の当事者の自宅に送付されます。
なお、遺産分割では訴訟(裁判)を起こすことはできず、遺産分割審判が最終的な結論となります。
ただし、遺産分割審判で争うことができるのは、次のような点です。
- 誰がどの遺産を取得するのか(遺産分割方法)
- 寄与分を認めるか
- 遺留分が認めれるか
- 特別受益を認めるか
そのため、以下のような遺産分割の前提の部分に問題がある場合は、遺産分割協議の前に訴訟によって解決する必要があります。
- 相続財産に含まれるかいなか
- 相続人に含まれるかいなか相続遺産の範囲
- 相続財産が無断で使われている
- 使途不明金の有無
- 遺言書の有効性 など
5.審判内容が不服の場合は即時抗告を行う
遺産分割審判で下される最終的な結論は、ほとんどの場合、法定相続分に従い分割するという結論です。裁判所の審判に納得できない場合は、不服申立て(即時抗告)を行い、上級の裁判所(高等裁判所)の判断を仰ぐことができます。
即時抗告は、審判の告知を受けた翌日から2週間以内にする必要があり、期限を過ぎると家庭裁判所の審判は確定します。
不服申立てを行うときは次の資料を準備し、家庭裁判所に提出します。
- 抗告状※他の相続人などの人数分の写しを添付
- 即時抗告する理由を証明する証拠書類
- 収入印紙1800円分
- 連絡用の郵便切手
このとき、即時抗告の理由が不十分であれば、申立てが棄却される可能性もある点には注意が必要です。
ここまで遺産分割審判の流れについて解説しましたが、審判期間中であっても当事者同士で遺産分割の調停(話し合い)を行うことはできます。審判手続き外の話し合いによって相続人間の合意が得られれば、審判を終了させることができます。
遺産分割審判による効果
裁判所による遺産分割審判が下されると、それまでと何が変わるのでしょうか。ここでは遺産分割審判の効果について解説します。
強制執行が可能になる
遺産分割審判が下されると、相続人が審判の内容に従わない場合、強制執行が可能になります。
遺産分割審判で当事者に送付される審判書は、債務者(何かする義務を負う人)に強制的に履行させるために必要となる公的機関が作成した文書(債務名義といいます)です。そのため強制執行が可能になります。
強制執行は、請求する内容に応じて、直接強制、間接強制、代替執行の方法があります。
直接強制は、国家権力を用いて強制的に相手方に債務を履行させる方法です。審判内容に従って金銭を支払わない相続人などがいた場合、給与や財産を差押える方法などがあたります。
間接強制は、相手に経済的な負担を与え、心理的に債務の履行を促すことで間接的に強制する方法です。建物を明け渡さない相手方に対し、間接的に金銭の負担をかけることで明け渡しに応じさせる場合などです。
代替執行は、相手方でなくても履行が可能な債務の場合に、国が第三者に依頼して代わりに債務を履行し、かかった費用を相手方から取り立てる方法です。建物の取り壊しなどで本人の代わりに取り壊し、その費用を回収する場合があたります。
不動産の名義変更・預金解約が行えるようになる
遺産分割審判によって、他の相続人の協力がなくても不動産の名義変更や預金の解約が可能となります。
例えば、相続に伴う不動産の名義変更(相続登記)を行うには、相続人全員が署名、捺印した遺産分割協議書と全員の印鑑証明書などの書類が必要となり、相続人全員の協力が必要です。
この点、遺産分割審判の審判書において、不動産登記の名義変更が命じられていれば、単独でも名義変更手続きを行うことができます。
遺産分割調停と遺産分割審判の違い
遺産分割調停で合意が得られなければ遺産分割審判にすすみますが、それぞれの手続きにはどういった違いがあるのでしょうか。
調停は話し合い、審判は裁判所が決める
遺産分割調停と遺産分割審判では結論に至るプロセスに違いがあります。
遺産分割調停は、相続の当事者のほかに裁判官と調停委員(民間人から選出)が相続人の話し合いに関与し、法律的な助言を受けながら当事者全員の合意を目指す手続きです。
そのため、特定の当事者の主張だけが認められるのではなく、全員が納得できる結論を得ることができなければ、合意できず不成立となります。
一方、遺産分割審判は、調停委員の関与はなく、当事者それぞれの主張や証拠から、相続人の事情を考慮しながら裁判所が判断する手続きです。
そのため、審判において当事者間で話し合いが行われることはなく、当事者全員が納得できる結論が出ない場合もあります。裁判所は、証拠書類やその他一切の事情を考慮したうえで、強制的に結論を出します。
調停は他の相続人と直接会わず、審判は集合することが多い
遺産分割調停が始まると、当事者はそれぞれ別の場所で待機し、それぞれ調停委員の部屋へ呼ばれます。そのため、当事者同士が顔を合わせることは基本的にありません。
一方、審判手続きは、当事者間で話し合いするわけではありませんが、裁判官とともに一同に会して行われます。そのため審判の期間中は、顔を合わせることが多くなります。
審判では相続人が意図しない結果になることがある
遺産分割調停は、調停委員会の助言や提案を受けながら、当事者間で合意を目指します。そのため、合意できれば当事者全員が納得しやすい結論といえますし、合意が得られなければ不成立に終わります。
その一方、遺産分割審判は時間がかかる場合があっても、それぞれの主張や証拠にもとづき裁判官が判断を下し、最終的に何らかの結論を得る手続きです。そのため、審判では、相続人が意図していない結果となることもあります。
遺産分割審判を有利に進めるためのコツ
遺産分割審判を有利にすすめるためには、どういった点に注意すべきでしょうか。審判を有利にすすめるコツについて解説します。
客観的な証拠を揃えておく
遺産分割審判を有利にすすめるには、客観的な証拠を揃えておくことが大切です。
遺産分割審判では、当事者それぞれの主張について、裁判官は、公平性に配慮しながら判断を下さなければなりません。そのためには、当事者の主張を裏付ける法律的な根拠や証明する客観的な証拠に基づいて判断することが重要です。
そのため、審判手続きでは、感情的な意見や個別の事情よりも、裁判所の考え方を軸に、法律的な主張や客観的な証拠を揃えておくことが重要になります。当然ですが、主張や客観的証拠があっても、提出しないものはないものと扱われます。
自分だけの利益を考えた無理な主張はしない
自分の利益だけを考えた無理な主張をしないことも大切です。
遺産分割方法を決めるにあたって、相続遺産だけでなく、それぞれの相続人の年齢や職業、生活や心身の状況などを考慮して決めることが求められます(民法906条)。裁判官も相続における一切の状況を考慮して判断することになります。
そのため、自分の立場だけを考えた一方的な主張をしても認められにくいでしょう。もし可能であれば、相手方の年齢や生活環境などに配慮した主張ができれば、認められやすくなります。
当然ですが、客観的事実にもとづかない主張やウソは、それが間違いと分かると不利になってしまう点には注意が必要です。
主張を裏付ける証拠集め、法的に正しい主張をするためには、専門家である弁護士に依頼することをおすすめします。
遺産分割審判や調停で弁護士に依頼するメリット
遺産分割審判では客観的な証拠と法的根拠にもとづく主張が大切です。そのために、弁護士に依頼することが考えられます。
ここでは遺産分割協議や調停で弁護士に依頼するメリットを解説します。
- 法律に基づいた主張をしてもらえる
- 代理人として出席してもらえる
- 裁判所や他の相続人たちとのやり取りを任せられる
法律に基づいた主張をしてもらえる
1つめのメリットは、法律に基づいた主張をしてもらえる点です。
審判手続きにおいては、法律的な根拠に基づく主張や証拠が大切になりますが、一般の人では事実関係の主張は可能でも法律的な主張やその証拠を収集することは難しい場合も多くあります。
また、遺留分や特別受益などは、証拠を集めて積極的に主張しなければ認めてもらえないものもありますが、一般の人では分からない場合もあり、主張や証拠書類を出さなければないものと判断されます。
調停の場において、調停委員会の人も相続人の主張を聞いて助言をくれますが、どちらか一方に有利となる進め方はできません。
弁護士に依頼することで、法律的な主張や必要な証拠の提出などを本人の代わりにしてもらえる点はメリットといえます。それによって、最終的な遺産分割で受け取れる金額が大きく変わる可能性もあるでしょう。
代理人として出席してもらえる
弁護士に依頼することで、調停や審判期日に代理で出席してもらうことができます。
調停の申し立て先は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所もしくは当事者が合意した家庭裁判所となり、審判の場合は、被相続人最後の住所地を管轄する家庭裁判所もしくは当事者が合意した家庭裁判所です。そのため、場合によっては遠方の裁判所に毎回出頭しなければならない場合もあります。
また、審判において、他の相続人と直接話をすることはなくても、もともと仲が良くないと、顔を合わせることで感情的になってしまうこともあるかもしれません。
弁護士が代理で審判手続きに出席することで、時間や手間だけでなく心身的な負担を減らすことができます。
裁判所や他の相続人たちとのやり取りを任せられる
裁判所や他の相続人たちとのやりとりを任せられる点もメリットです。
弁護士に依頼せず調停にのぞむことも可能ですが、調停委員の質問に答えることが難しかったり、必要な主張や証拠が提出できないことがあります。
また、裁判所へ提出する書類の収集・作成、やり取りを任せることができます。
まとめ
遺産分割審判は、遺産分割協議でも、遺産分割調停でも合意できなかった事件について、裁判所が客観的な立場から判断し、紛争を解決する制度です。
そのため、遺産分割調停と遺産分割審判は、いずれも裁判所を利用する点は共通しますが、手続きの進め方には大きな違いがあります。
遺産分割審判では、調停とは異なり、客観的な証拠や法律に基づく主張が大切になります。一般の人が遺産分割審判をすすめるにしても、必要な主張を漏れなく行ったり、主張のための客観的な証拠書類を収集することが難しい場合もあります。
その場合、弁護士に依頼することを考えましょう。代理人として審判手続きに出席してもらえるだけでなく、法律的な主張や証拠の提出、裁判所とのやりとりを任せることができます。自ら審判手続きを行うより有利にすすめやすくなるでしょう。
遺産分割審判に関するよくある質問
遺産分割審判を欠席するとどうなりますか?
遺産分割審判の期日に欠席した場合、審判結果に不利に働く可能性があります。
書面で提出した主張内容や証拠書類は考慮されるものの、書面では伝えきれない状況や漏れがあっても補足できません。
また、相手方の主張が間違っている場合や虚偽の主張をしている場合にも訂正や反論ができない可能性があります。
そのため、期日に出頭することが難しい場合、できるだけ早めに裁判所に連絡し、期日の変更ができないか確認してみましょう。それが難しければ、できる限りの主張内容と証拠書面を揃えて提出しておくことが大切です。
なお、当事者が裁判所の遠方に居住し、相当と認められる場合には、裁判所の判断で電話会議システムの利用ができる場合があります。
遺産分割審判で不動産を分割する方法にはどのようなものがありますか?
遺産分割でもめやすい要因の1つは、不動産の分割方法です。不動産は、預貯金や現金と異なり、平等に分割することが難しいうえ、財産の評価が分かれることが多いことから、相続人間の意見の調整が難しくなります。
不動産を分割する方法には次の4つがあります。
・現物分割
現物分割は、相続人がそのままの形で不動産を引き継ぐ方法です。
不動産が複数ある場合は、土地を相続人A、マンションを相続人Bという形で分割することが考えられます。
ただ、不動産が1つの場合、土地であれば土地を分筆し、各相続人間で分けることが可能な場合もありますが、建物は分割することはできません。
また、土地を分筆することによって、間口が狭くなったり、接道状況が悪くなったりと、不動産の価値が大きく下がることがあります。
現物分割は、土地や建物をそのまま残すことはできますが、相続人間で公平に分けることが難しい方法でもあります。
・代償分割
代償分割は、特定の相続人が不動産を取得する代わりに、他の相続人に金銭(代償金)を支払う分割方法です。
例えば、不動産を保有し続けるか売却して処分するか、相続人間で意見が分かれる場合もあります。また、相続の以前から親と同居していた子どもが実家をそのまま相続したいというケースもあるでしょう。
代償分割は、このような場合のほか、現物分割が難しい場合や分割すると資産価値が大きく減ってしまう場合にも活用しやすい方法です。
ただし、不動産の権利を取得する相続人に、代償金を支払う能力があることが必要です。また、不動産の価値を正確に評価しなければ、代償金の額などで相続人間でもめる可能性があります。
・換価分割
換価分割は、不動産を売却し、売却代金を相続人の間で分割する方法です。
相続した不動産に住んだり、利用したりする相続人がいない場合、代償金の支払が難しい場合などに利用できる方法です。
換価分割は金銭に変えることで相続分に応じて均等に分けやすいため、相続人間でもめる可能性が低い方法といえます。
・共有分割
共有分割は、不動産の持ち分を相続人同士で共有する方法です。これまでの現物分割や代償分割、換価分割でも分けることが難しい場合や相続人間の話し合い自体が困難な場合にとられる方法です。
また、不動産を保有しつづけるか売却するか、すぐに結論を出すことが難しい場合なども、とりあえず共有名義にして所有する場合があります。
例えば、相続人が被相続人の配偶者と子ども2人で、法定相続分に従って共有分割する場合、配偶者の持ち分は1/2、それぞれの子どもの持ち分は1/4で相続登記します(民法900条)。
ただし、共有にすると、将来不動産を売却したい、賃貸に出したいとなっても、他の共有者の同意が必要となり、自由に利用処分できなくなる点に注意が必要です。
また、共有者の1人が亡くなり相続が発生した場合、共有者の相続人が新たに共有者となり、権利関係が複雑になる可能性があります。
なお、遺産分割審判における不動産の分割方法は、まず現物分割を検討し、それが難しい場合は代償分割、代償分割も相当ではなければ換価分割が検討されます。そして、いずれも分割方法として妥当でないと判断された場合、最後に共有分割となります。
そのため、不動産の分割方法についても、相続人の希望通りにならない可能性がある点に注意が必要です。
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