死亡保険金は相続遺産でどう扱われる?
生命保険会社から支払われる死亡保険金は、みなし相続財産という扱いのため、遺産分割の対象外です。
遺産相続には、遺留分(法定相続人が最低限受け取れる金額)がありますが、死亡保険金に関しては、遺留分であっても分割の対象になりません。
ただし、死亡保険金の金額によって相続税がかかる場合があります。
どのくらいの税金が課せられるのかは、法定相続人の人数や生前の借金の有無などから計算することができます。
みなし相続財産のため遺産分割の対象外
みなし相続財産とは、死亡保険金や死亡退職金など被相続人が亡くなったことをきっかけに受け取れる財産のことを言います。
死亡保険金は、亡くなった方が所有していた財産ではなく、受取人の財産としてみなされるため、分割の対象外になるのです。
(例)夫が死亡し、妻と子供で遺産を分割する場合
受取人が妻になっている死亡保険金は、妻の財産とみなされるため、子供へ分割することなく妻が全額受け取る。
したがって、仮に相続の分割協議の際、他の法定相続人から分割を要求されたとしても、原則的には、分割に応じる必要はありません。
みなし相続財産=相続税の課税対象になるもの
ただし、みなし相続財産である死亡保険金には、相続税がかかる場合があります。
分割せずに満額受け取れる代わりに、受け取った金額に対して税金がかかるということです。
一定の金額を超える場合は、相続税の申告や納税をしなければなりません。
相続税の計算は「課税対象額×税率-控除額」
死亡保険金に課せられる相続税は、非課税枠や控除金額、法定相続人をもとに算出した課税対象額に適用されます。
相続税の計算は、以下2ステップで行いましょう。
- 課税対象額=保険金の額-非課税枠
- 相続税=課税対象額×税率-控除額
適用される非課税枠は3種類あります。
- 生命保険非課税枠:500万円×法定相続人の数
- 基礎控除:3,000万円+600万円×法定相続人の数
- 債務控除:被相続人が生前に残した借金+葬儀費用
税率は課税対象額の金額によって異なりますが、一般家庭の死亡保険金であれば10%〜20%程度が目安です。
参照:相続税の税率(国税庁)
なお、受取人が配偶者である場合は相続税がかからないケースが多いです。
これは、1億6,000万円以下または配偶者の法定相続分相当額のどちらか多い金額までは、相続税が課せられないためです。
死亡保険金は遺留分も対象外
死亡保険金は遺留分も分割の対象になりません。
遺留分とは、相続人に対して最低限保証された遺産取得分です。
遺言の内容にかかわらず一定額を取得できる権利なので、必ず分割しなければならないように感じるかもしれません。
しかし、そもそも死亡保険金は相続遺産に含まれていないため、遺留分とは関係なく全額受け取れます。
相続放棄した場合も死亡保険金は受け取れる
故人に債務があるなどの理由で相続放棄をした場合、死亡保険金はどうなるのでしょうか。
相続放棄をした場合でも、受取人に指定されていれば、死亡保険金は受け取れます。
また、受取人が指定されていなかった場合も、生命保険会社の約款に「受取人=法定相続人」と記載があれば、同様に受け取れます。
相続放棄を検討されている方の多くは、被相続人に負債があるなど、複雑な事情を抱えていることが多いです。
しかし、故人の借金(被相続人の財産)と死亡保険金(受取人のみなし相続財産)は別です。
相続せずに死亡保険金のみ受け取ることは可能ですので、ご安心ください。
ただし、生命保険の中でも以下のような部分は、相続放棄してしまった場合は受け取れないので注意しましょう。
- 医療保険の入院給付金など、亡くなった人自身が受取人に指定されているもの
- 亡くなった人が契約者の生命保険の解約返戻金 など
死亡保険金の受取人が注意すべきポイント
ここからは、死亡保険金の受取人が注意すべきポイントを2つご説明します。
- 受取人によって発生する税金が異なる
- 死亡保険金が高額な場合、特別受益に該当することがある
ここまでは主に相続税についてご説明してきましたが、実は、保険の契約によっては所得税や贈与税が課せられる場合もあります。
また、死亡保険金の金額によっては、他の相続人の方と平等になるよう協議しなければならないケースもあります。
ひとつずつ、詳細を見ていきましょう。
受取人によって発生する税金が異なる
死亡保険金の契約は「契約者」「被保険者」「受取人」の三者が定められています。
- 契約者:保険料の支払いをする人
- 被保険者:支払いの対象となる人(亡くなった方)
- 受取人:保険金を受け取る人
これが誰になっているかによって、課せられる税金が変わります。
(例)夫・妻・子供の三人家族で、夫が死亡した場合
かかる税金 |
契約者 |
被保険者 |
受取人 |
相続税 |
夫 |
夫 |
夫 |
所得税 |
夫 |
妻 |
妻 |
贈与税 |
妻 |
夫 |
子 |
【相続税】契約者と被保険者が同一の場合
契約者と被保険者が同一で、受取人が異なる場合は、相続税が課せられます。
(例)契約者の夫が自分に死亡保険金をかけ、妻を受取人に指定していた
これは前項でご説明してきたとおり、死亡保険金が妻の固有のみなし相続財産という扱いになるため、妻に相続税がかかります。
【所得税】契約者と受取人が同一の場合
契約者と受取人が同一の場合、所得税が課せられます。
(例)妻が亡くなったときに備えて、夫が契約をし、受取人を夫自身にしていた
この場合、死亡保険金は妻からの相続ではなく、夫の一時所得や雑所得としてみなされます。
死亡保険金は、契約によって2種類の受け取り方があります。
- 一時金として一括で受け取る:一時所得
- 年金として毎年定められた金額を受け取る:雑所得
どちらを選択しているかによって課税対象額の計算方法が異なります。
一時金の場合
受け取った死亡保険金から、今まで支払った保険料の合計金額と特別控除額(最大50万円)を差し引き、二分の一を掛けた金額
年金の場合
課税部分と非課税部分に分けられ、課税部分が雑所得として毎年の所得税の対象となる
受け取り方によって所得税の計算方法が変わりので、相続の際には保険契約を確認しましょう。
【贈与税】契約者・被保険者・受取人が異なる場合
契約者・被保険者・受取人全てが異なる場合、贈与税がかかります、
(例)妻が亡くなったときに備えて、夫が契約をし、受取人を子供にしていた
この場合、保険料を支払っている人や亡くなった人ではなく、別の人が受け取るため、贈与と見なされます。
子供=法定相続人ではありますが、契約者から保険金を受け取る権利を贈与されたという考え方なので、贈与税がかかるということです。
贈与税の課税対象額は、死亡保険金から基礎控除(110万円)を引いた金額です。
特別受益に該当する場合もある
ここまで、基本的に死亡保険金は分割の対象にならないというご説明をしてきましたが、実は特別受益に該当する場合は注意が必要です。
死亡保険金が他の相続財産に比べて高額な場合、特別受益に該当することがあります。
特別受益は遺贈や生前贈与で得た利益を指す
特別受益とは、遺贈や生前贈与で特別に得た利益を指します。
遺贈と生前贈与の違いは、以下のとおりです。
- 遺贈:遺言によって遺産を無償で譲ること
- 生前贈与:被相続人が存命中に財産を譲渡すること
死亡保険金は、故人の財産ではないため、基本的には特別受益にあたりません。
また、特別受益の範囲は、民法903条1項で「遺贈を受けた者」あるいは「婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者」と定められています。
こちらに当てはまるのは、婚姻の際の結納金や大学の学費などですので、この定義であっても死亡保険金は該当しません。
では、死亡保険金が特別受益に当てはまるのはどんなケースなのでしょうか。
死亡保険金が特別受益となるケース
死亡保険金が特別受益として扱われるのは、被相続人が遺した財産の総額のうち、死亡保険金の割合が高額すぎるときに該当します。
(例)夫が死亡。妻が受取人の死亡保険金額が5,000万円、それ以外の相続財産が500万円
このようなケースでは、妻のみが高額な死亡保険金を得られ、その他の法定相続人は500万円を複数人で分割することになり、著しい不公平が出てしまいます。
これを防ぐために、死亡保険金が特別受益扱いとなる可能性があります。
死亡保険金が特別受益に当たるかについては、以下の要素を加味したうえで判断されます。
- 保険金の額やそれに対する遺産総額に対する比率
- 亡くなった方との同居の有無・年数
- 介護の貢献度 など
たとえ死亡保険金が高額だったとしても、受取人である妻が長年にわたって1人で介護をしていたのであれば、他の相続人との間に著しい不公平があったとは言えないため、特別受益とならない可能性もあります。
家庭の事情によって異なりますので、判断が難しければ、弁護士などに相談するのがおすすめです。
生命保険契約照会制度で内容を確認しよう
死亡保険金は、被保険者が亡くなったら自動的に下りるわけではなく、保険会社へ連絡・請求をしなければ受け取れません。
しかし、認知症や危篤状態で会話ができなかったり、一人暮らしの親族が亡くなったりした場合など、保険契約の有無そのものが分からないというケースがあります。
このような時には生命保険契約照会制度で、どこの保険会社と契約しているかを確認することができます。
照会できる方は以下のとおりです。
- 法定相続人
- 法定相続人の法定代理人(未成年の親権者、成年後見人に指定されている者など)
- 法定相続人の任意代理人(弁護士や司法書士など、一般社団法人生命保険協会に認定された者)
- 遺言執行者
一般的には、法定相続人の代表者が照会申請をすることが多いです。
誰が行うかによって必要書類が異なりますが、法定相続人が申請する場合は、法務局認証済みの「照会対象者の法定相続情報一覧図」が必要になりますので、あらかじめ取り寄せましょう。
参照:一般社団法人生命保険協会
死亡保険金の遺産分割で悩んだ時は専門家に相談しよう
遺産相続において、死亡保険金にまつわる悩みを持つ方は多いです。
保険会社の約款が難しかったり、支払い拒否されてしまったが理由が分からないなど、個人で対処するのが難しいケースもあります。
また、死亡保険金がどの税金に該当するのかの判断や、複雑な計算も必要になってきます。
死亡保険金を含む遺産の分割で悩んだ際には、相続や保険会社に詳しい弁護士や税理士に相談するのがおすすめです。
約款が難しく感じる
話し合いの過程で生命保険会社の約款(やっかん)を読まなければならない場面もあります。
(例)
- 保険金の受取人が「指定なし」になっている
- 受取人に指定されている人が先に亡くなっていた など
ここまでご説明してきたとおり、原則、死亡保険金は遺産分割の対象外ですが、受取人がいない場合、相続財産として扱われるのかが保険商品によって異なるため、約款を参照する必要があります。
しかし生命保険の約款は文字が細かく、量も多いので、理解が難しいケースも珍しくありません。
理解が難しいと感じたら、保険会社や相続について詳しい弁護士に相談するのがおすすめです。
保険会社に支払いを拒否されてしまった
死亡保険を契約していたとしても、保険金の支払いを拒否されてしまう場合があります。
- 保険金の支払事由にあてはまらない
- 免責事由にあてはまる
- 契約時に告知義務違反があった など
心当たりがない、契約書や約款を読んでも分からないなどの場合は、保険会社に詳しい弁護士に相談しましょう。
保険会社の主張が妥当なのかや、裁判で請求が認められるかなどを聞くこともできますし、保険会社に対して交渉を行ってくれる場合もあります。
死亡保険金の支払い請求権は3年で時効になるので、こじれてしまう前に相談しましょう。
死亡保険金にかかる税金について知りたい
死亡保険金を受け取った際、相続税・所得税・贈与税のどれに該当するかや、具体的な金額になるのかを知りたい場合は、相続に詳しい税理士に相談しましょう。
正確な金額を出してもらえるのはもちろん、死亡保険金以外の相続分についても併せて相談できるため、遺産分割協議がスムーズに進みます。
まとめ
相続で遺産を分割する際、死亡保険金は分割の対象外です。
受取人に指定された方固有の「みなし相続財産」として扱われるので、原則、下りた保険金は受取人の方が全額受け取れます。
ただし、死亡保険金を受け取る際には、税金がかかる場合があります。
死亡保険金に課せられる税金は「相続税」「所得税」「贈与税」の三つがあり、どれに該当するかは契約者・被保険者・受取人の関係によって変わります。
非課税枠や控除等を差し引いても一定の金額を超える場合は、税の申告や納税をしなければなりません。
また、死亡保険金が高額な場合、特別受益として扱われることがあります。
ご自身が該当するのかは、同居の年数や介護への貢献度など、家庭の事情によって異なります。
遺産分割協議の際は、上記の点を踏まえて話し合い、難しければ専門家に相談しましょう。
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