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相続放棄しても生命保険は受け取れる?受取人指定なしのケースも紹介

相続放棄しても生命保険は受け取れる?受取人指定なしのケースも紹介

裁判所が発表している「令和5年司法統計年報」によると、相続放棄の受理件数は年間で約28万件を超えています。相続放棄を検討しているものの、生命保険金の受け取りにどのような影響を与えるのか気になっている人もいるでしょう。

生命保険の死亡保険金は民法上の相続財産に当たらず「受取人固有の財産」として扱われるため、相続を放棄したとしても受け取ることが可能です。ただし生命保険の死亡保険金は、みなし相続財産として相続税の課税対象になります。さらに「500万円×法定相続人の数」の相続税の非課税枠は適用されないため、相続税の負担が重くなることがあります。

また、そもそも受取人として指定されていない場合などは、保険金を受け取れない可能性が高くなる点には注意が必要です。

今回の記事では、相続放棄した上で生命保険金を受け取れるケースや、保険金にかかる税金の計算方法を解説します。相続トラブルを回避するための相続放棄や生命保険の活用方法も紹介しますので、保険金を受け取るべきか迷っている人はぜひ参考にしてください。

相続放棄しても生命保険の受け取りは可能

生命保険の死亡保険金は、基本的に相続放棄をしても受け取れます。なぜなら、死亡保険金は遺産ではなく、受取人の固有財産として扱われるからです。

相続放棄とは?
資産や負債など、被相続人の財産に関する権利・義務の承継を拒否することを指します。相続放棄をするためには「自己のために相続の開始があったことを知ったときから3ヶ月以内」に家庭裁判所への申し立てが必要です。

たとえば、契約者と被保険者(保障の対象者)が夫、受取人が妻となっている生命保険を契約している場合、妻が相続放棄をしたとしても死亡保険金を受け取れます。死亡保険金は民法上の「相続財産」ではないため、相続放棄によって受け取れなくなることはありません。

相続放棄で生命保険を受け取れないケースもある

生命保険の契約内容によっては、相続放棄をすると保険金や給付金が受け取れない場合もあります。

  • 契約上の受取人になっていない
  • 被相続人が保険金を受け取る契約内容になっている

それぞれ詳しくみていきましょう。

契約上の受取人になっていない

契約上の受取人になっていない場合、相続放棄の有無にかかわらず、生命保険の保険金を受け取ることはできません

たとえば契約者と被保険者が夫、受取人が子となっている生命保険契約では、子の代わりに妻が保険金を受け取ることはできないので注意しましょう。

生命保険の受取人は保険証券で確認できます。基本的に被保険者の死亡日以降は受取人を変更できないため、必要があれば保険期間中に変更手続きをしておくことをおすすめします。

被相続人が保険金を受け取る契約内容になっている

被相続人が保険金受取人になっている場合、保険金は被相続人の相続財産です。保険金は遺産分割協議や遺言などに基づいて相続人同士で分け合うことになりますが、相続放棄をしている人は相続人ではないため保険金を受け取ることはできません。

相続放棄をすると受け取れなくなる給付金・保険金の代表例は以下の通りです。

  • 医療保険の入院給付金
  • 生命保険の解約返戻金

医療保険の受取人は、原則として被保険者以外を指定することはできません。被相続人を被保険者とする医療保険に加入しており、そのまま亡くなった場合、家族が請求することで保険会社から入院給付金が支払われます。この入院給付金は通常の相続財産として、遺産分割の対象です。

契約者・保険料の負担者が夫で、被保険者が妻となっている生命保険では、基本的に解約返戻金の受取人は夫です。契約者が亡くなった場合は、契約者を変更することになりますが、解約返戻金を受け取る権利(生命保険契約に関する権利)は通常の相続財産としてみなされます。

相続放棄した場合の生命保険にかかる税金

相続放棄をした人が生命保険の死亡保険金を受け取った場合、基礎控除は受けられるものの「死亡保険金の非課税枠」は適用されないため、相続税の負担が重くなる可能性があります。

また、契約形態によっては相続税ではなく、所得税や贈与税が課されるケースもあることを理解しておきましょう。

相続税は課税される

生命保険の死亡保険金は、税法上「みなし相続財産」として、相続税の課税対象になります。みなし相続財産とは、被相続人の死亡をきっかけに権利が生じた財産のことです。

相続放棄している場合も相続税を支払う必要があるため、死亡保険金を満額受け取れるとは限らないことをおぼえておきましょう。

相続税の基礎控除を受けられる

相続放棄した人が生命保険の死亡保険金を受け取る場合、相続税の基礎控除額を受けることが可能です。相続税の基礎控除とは、遺産の総額から「3,000万円+600万×法定相続人の数」を差し引ける仕組みを指します。

法定相続人には相続放棄した人も含むので、たとえば法定相続人が2人(うち1人は相続を放棄)のケースでは、3,000万円+600万×2人=4,200万円が基礎控除額になるため、死亡保険金が4,200万円を超えない限り相続税はかかりません。

死亡保険金の非課税枠は適用されない

生命保険の死亡保険金は遺族の生活保障に必要不可欠なお金と考えられているため、相続税の基礎控除とは別に「500万円×法定相続人の数」の非課税枠が認められています。

法定相続人とは?
民法で定められている被相続人の財産を相続できる人のことです。法定相続人になれるのは、被相続人の配偶者・血族(子・孫・親・兄弟姉妹)です。相続放棄をした場合は、はじめから相続人でなかったものとされます。

ただし、非課税枠が認められるのは相続人が保険金を受け取る場合のみです。相続放棄してしまうと非課税枠は適用外となるため、相続税の基礎控除額を超えるような多額の死亡保険金を受け取る場合は注意しましょう。

なお、配偶者には遺産に対して税額の軽減が適用されるので、配偶者が相続した財産のうち、1億6,000万円または法定相続分のどちらか大きい金額までは相続税がかかりません

条件によってかかる税金は異なる

生命保険の死亡保険金に対してかかる税金の種類は、以下のように保険の契約形態によっても異なります。必ずしも相続税が発生するとは限らないため、おぼえておきましょう。

保険契約者 被保険者(死亡した方) 受取人 税金の種類
A B A 所得税
A A B 相続税
A B C 贈与税

契約者と保険金受取人が同じ契約で死亡保険金を受け取った場合、一時所得として扱われます。一時所得は「死亡保険金額-支払済保険料-50万円」で計算でき、一時所得の1/2が所得税の課税対象です。つまりこれまでに支払った保険料が大きいほど、課税額も少なくなります。

契約者と被保険者が同じ場合は、相続税の課税対象です。

契約者、被保険者、保険金受取人が全て異なる人の場合は贈与税の対象になります。ただし、贈与税は相続税と比べると控除額が少なくなりやすい(基礎控除110万円や相続時精算課税制度における2,500万円の特別控除など)のが特徴です。税負担が重くなることもあるので、相続目的で加入する場合はなるべく贈与税が発生する契約形態は避けたほうがよいでしょう。

相続税の税率

相続税については、遺産額に対して税率が段階的に適用される「超過累進課税」が用いられています。以下は相続税の速算表です。

法定相続分に応ずる取得金額 税率 控除額
1,000万円以下 10%
1,000万円超から3,000万円以下 15% 50万円
3,000万円超から5,000万円以下 20% 200万円
5,000万円超から1億円以下 30% 700万円
1億円超から2億円以下 40% 1,700万円
2億円超から3億円以下 45% 2,700万円
3億円超から6億円以下 50% 4,200万円
6億円超 55% 7,200万円

たとえば、生命保険金の死亡保険金1億円を受け取り、相続放棄をしたケースを考えてみましょう。法定相続人が2人いる場合、相続税の課税対象額は1億円ー(3,000万円+600万×2人)=5,800万円です。上記表内の「5,000万円超から1億円以下」に該当するため、5,800万円×30%−700万円=1,040万円が相続税額になります。

生命保険を受け取った後の相続放棄について

生命保険の受取人が被相続人以外であれば、保険金を受け取った後でも相続放棄することは可能です。一方、受取人が被相続人本人になっている場合、保険金を受け取ると相続を承認したものとみなされ、相続放棄はできなくなくなります。

「相続財産」としてみなされるかどうかによって、相続放棄できるタイミングも変わります。

受け取り後の相続放棄が可能なケース

亡くなった本人以外が生命保険の受取人に指定されている場合、生命保険の保険金は相続人固有の財産です。

この場合、保険金を受け取っただけでは、被相続人の財産を相続したことにはならないので、保険金受け取り後に相続放棄することも認められます。

ただし、保険金以外にも不動産や現金などの財産も併せて受け取っている場合は、相続を放棄することはできません

受け取り後の相続放棄ができないケース

亡くなった本人が生命保険の受取人に指定されている場合、生命保険の保険金は被相続人の財産として扱われます。

この状況で保険金を受け取ると「相続財産の一部を処分した」とみなされ、その結果、相続を承認(単純承認)したことになります。単純承認をすると相続放棄はできなくなってしまうので注意が必要です。

(法定単純承認)
第九百二十一条 次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
二 相続人が第九百十五条第一項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。
三 相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。
e-Gov法令検索 民法

原則として単純承認の撤回はできないため、必ず受取人を確認してから保険金を受け取るようにしましょう。

相続放棄と生命保険を活用して相続トラブルを回避できるケース

以下のようなケースでは、相続放棄をした遺族を生命保険金の受取人に指定することで「争族」を避けられるでしょう。

  • 相続財産の分割(換金)が難しい場合
  • 被相続人に借金や連帯保証人の責任がある場合

それぞれ詳しく解説します。

ケース1.相続財産の分割(換金)が難しい場合

相続財産に不動産や自社株など換金が難しい資産が含まれる場合、分割方法や評価方法などを巡って遺族間での争いが起きる可能性があります。

このようなケースでは、不動産や事業の後継者が実物資産を相続し、残りの相続人が相続放棄をしつつ生命保険金を受け取ることで公平性が保たれ、スムーズな遺産分割を実現できるでしょう。

ケース2.被相続人に借金や連帯保証人の責任がある場合

被相続人に借金がある場合、そのまま相続をすると借金の返済義務も引き継ぐことになります。しかし、被相続人があらかじめ家族を受取人に指定して生命保険に加入しておけば、相続放棄をすることで借金の返済義務を免れる一方で、生活資金として生命保険金を受け取ることが可能です。

また、被相続人が借金の連帯保証人になっている場合、相続した人が連帯保証人としての責任も引き継ぐことになります。借金をしている人が返済不能になった場合、連帯保証人が返済しなければなりませんが、相続放棄をすれば連帯保証人の義務を免れることが可能です。

生命保険に加入しておけば、家族は被相続人の死後も安心して生活ができるでしょう。

親族全員が相続放棄をした場合は相続財産管理人の選任が必要

相続人全員が相続放棄をしたとしても財産や負債自体は残ってしまいます。相続放棄をするだけで権利関係が自動的に精算されるわけではないため、相続財産管理人を選任して財産の管理や整理が必要です。

相続財産管理人を選任する際は家庭裁判所へ申し立てます。選任されるまでは1〜2ヶ月かかるため、その間は相続人が代理で財産を管理しなければなりません。

生命保険の受取人指定なしのケースは法定相続人が受取人になる

以下のような理由で、生命保険の受取人が指定されていないケースがあります。

  • 契約時に生命保険の受取人を指定していなかった
  • あらかじめ指定していた受取人が死亡した

契約時に生命保険の受取人を指定していなかった場合は、保険会社の約款に従うことになりますが、法定相続人が受取人となるケースが一般的です。

配偶者は必ず法定相続人になり、血族については以下の優先順位に基づいて相続人が決まります。

優先順位 血族の種類
第1順位 子および代襲相続人(孫)
第2順位 直系尊属(両親・祖父母)
第3順位 兄弟姉妹および代襲相続人(甥・姪)

あらかじめ指定していた受取人が死亡している場合は、「指定されていた受取人の法定相続人」が新たな受取人になります。

相続放棄しても受け取れるその他の財産

生命保険の死亡保険金以外で、相続放棄しても受け取れる財産は以下の通りです。

  • 死亡退職金
  • 遺族年金

死亡退職金:労働者が死亡した場合に支払われる

死亡退職金とは、労働者が亡くなった場合に、勤務先から遺族に対して支払われる退職金です。退職金規定や就業規則によって具体的な受取人を定めている場合は、受取人固有の財産として認められるため、相続放棄をしても受け取ることが可能です。

一方、受取人の規定がない場合は、通常の相続財産として扱うことになるので相続放棄をすると受け取れません。

遺族年金:国民年金や厚生年金の加入者が亡くなって要件を満たす場合に受け取れる

遺族年金とは、国民年金や厚生年金などに加入している人が亡くなった際に、一定の要件を満たす遺族が受け取れる年金です。

遺された家族の生活保障を主な目的としているため、遺族固有の財産として相続放棄をしても受け取れるようになっています。

まとめ

相続放棄をしても、生命保険の死亡保険金は受け取れます。これは死亡保険金が遺産ではなく、受取人の固有財産として扱われるためです。しかし、契約上の受取人として指定されていない場合や、被相続人が受取人となっている保険契約については、相続放棄をすると保険金が受け取れなくなる点には注意しましょう。

また、相続放棄をした人が保険金を受け取った場合、基礎控除は適用されるものの、死亡保険金の非課税枠は認められないため、相続税の負担が発生する可能性があります。相続放棄の制度と生命保険をうまく活用することで相続トラブルを回避できるケースもあるため、基本的な知識を身につけてから