相続放棄とは、遺産相続の手続きにおいて、相続人が相続権を放棄することを指します。遺産のうち、借金などのマイナスの財産の割合が、プラスの財産よりも大きいなどの理由から、相続人が相続を拒否する場合に適用されます。また、相続の権利を放棄することで、他の相続人による手続きを円滑に進めるためにも行われます。
相続放棄を行う際には、さまざまな手続きや書類が必要です。全てのパターンに共通して必要となる書類が「被相続人の住民票除票(戸籍附票でも可)」と「申述人の戸籍謄本」です。しかし被相続人が誰なのかによっても必要な書類が異なるため、「自分の場合は何が必要なのだろう」と混乱してしまうかもしれません。
相続放棄の手続きや必要な書類については、専門家のアドバイスを受けることがおすすめです。書類が不十分だったり手続きが誤っていたりすると、後々トラブルの原因になる可能性があります。信頼できる専門家の助言を仰ぎながら、相続放棄手続きを進めることが賢明です。
本記事では、相続放棄に必要な書類をケースごとにご紹介します。また相続放棄に必要な書類だけでなく、必要書類の取得方法や費用、手続きの流れ、注意点などについても解説します。
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【ケース別】相続放棄の必要書類
相続放棄をする際に必要な書類は、誰が相続人となるのかケースごとに異なります。配偶者や子ども、孫、親、祖父母、兄弟姉妹など、関係する相続人によって、必要な書類が異なる場合があるのです。以下では、それぞれのケースにおける相続放棄の必要書類について詳しく解説します。
ケース別、相続放棄の必要書類
相続する人のケース |
必要書類 |
配偶者・子ども |
- 相続放棄の申述書
- 被相続人の住民票除票または戸籍附票
- 相続放棄する者の戸籍謄本
- 被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
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孫 |
- 相続放棄の申述書
- 被相続人の住民票除票または戸籍附票
- 相続放棄する者の戸籍謄本
- 被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 孫の親(被相続人の子ども)の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
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親 |
- 相続放棄の申述書
- 被相続人の住民票除票または戸籍附票
- 相続放棄する者の戸籍謄本
- 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 被相続人の子どもと孫の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
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祖父母 |
- 相続放棄の申述書
- 被相続人の住民票除票または戸籍附票
- 相続放棄する者の戸籍謄本
- 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 被相続人の子どもと孫の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 被相続人の直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
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兄弟・姉妹 |
- 相続放棄の申述書
- 被相続人の住民票除票または戸籍附票
- 相続放棄する者の戸籍謄本
- 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 被相続人の子どもと孫の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 被相続人の直系尊属の死亡の記載がある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
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甥・姪 |
- 相続放棄の申述書
- 被相続人の住民票除票または戸籍附票
- 相続放棄する者の戸籍謄本
- 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 被相続人の子どもと孫の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 被相続人の直系尊属の死亡の記載がある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 被代襲者(被相続人の兄弟姉妹=代襲相続人の親)の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
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相続放棄する場合すべてに共通する必要書類
相続放棄をする際は、被相続人との関係にかかわらず必要となる書類があります。具体的には、以下の通りです。
- 相続放棄の申述書
- 被相続人の住民票除票または戸籍附票
- 相続放棄する者(申述人)の戸籍謄本
相続放棄申述書には、被相続人や相続放棄を行う者の氏名や住所、相続財産の内容、相続放棄の理由が記載されます。
被相続人の住民票除票は、転出や死亡などによって住民登録が削除された際の証明書です。戸籍附票は、戸籍が作成されてからその戸籍から除籍されるまでの住所が記載された書類のことです。
これらの書類に加えて、相続放棄する人(申述人)の戸籍謄本も用意しましょう。
なお、書類ではありませんが、収入印紙や切手も用意しなければなりません。
配偶者・子どもが相続放棄するケース
配偶者や子どもが相続放棄するケースでは、以下の書類が必要です。
- 相続放棄の申述書
- 被相続人の住民票除票または戸籍附票
- 相続放棄する者の戸籍謄本
- 被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
被相続人の配偶者や子どもは、いかなるケースでも相続人として認められます。被相続人の死亡が確認されれば、配偶者や子どもが相続人であることが明白になります。相続人が他の人であるケースに発生するような特別な条件もなく、必要な書類も容易に入手可能です。
孫が相続放棄するケース
孫が相続放棄するケースでは、以下の書類が必要です。
- 相続放棄の申述書
- 被相続人の住民票除票または戸籍附票
- 相続放棄する者の戸籍謄本
- 被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 孫の親(被相続人の子ども)の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
たとえば父親がすでに亡くなっており、さらに父方の祖父母も亡くなった場合を考えましょう。このケースでは、孫が父親の代わりに、父方の祖父母の遺産を相続することになります。また父親と父方の祖父母が同時に亡くなった場合(死亡の時系列が不明な場合も含む)、孫は父親の代わりに祖父母の遺産を相続することになります。
親が相続放棄するケース
親が相続放棄するケースでは、以下の書類が必要です。
- 相続放棄の申述書
- 被相続人の住民票除票または戸籍附票
- 相続放棄する者の戸籍謄本
- 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 被相続人の子どもと孫の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
被相続人に子どもがいない場合(それらの存在が元々ないか、あったとしても被相続人よりも先に亡くなった場合など)、相続人としては、第2順位の被相続人の父母などの直系尊属が相続権を有します。上記の書類を用意することで、相続放棄の手続きが可能です。
祖父母が相続放棄するケース
祖父母が相続放棄するケースでは、以下の書類を用意してください。
- 相続放棄の申述書
- 被相続人の住民票除票または戸籍附票
- 相続放棄する者の戸籍謄本
- 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 被相続人の子どもと孫の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 被相続人の直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
亡くなった人の祖父母が相続する場合は、以下の条件を満たしていなければなりません。
- 被相続人に子ども・孫がいないこと=第一順位の相続人がいない
- 被相続人の父母がどちらも、被相続人よりも先に(又は同時に)死亡している
兄弟姉妹が相続放棄するケース
兄弟姉妹が相続放棄する場合は、以下の書類が必要です。
- 相続放棄の申述書
- 被相続人の住民票除票または戸籍附票
- 相続放棄する者の戸籍謄本
- 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 被相続人の子どもと孫の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 被相続人の直系尊属の死亡の記載がある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
兄弟姉妹が相続する場合、以下の条件を満たしている必要があります。
- 被相続人に子どもや孫などがいない(第一順位の相続人がいない)
- 被相続人の父母や祖父母などの直系尊属が、全員、被相続人より前に(又は同時に)死亡している(第二順位の相続人がいない)
甥・姪が相続放棄するケース
甥・姪が相続放棄するケースでは、以下の書類を用意してください。
- 相続放棄の申述書
- 被相続人の住民票除票または戸籍附票
- 相続放棄する者の戸籍謄本
- 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 被相続人の子どもと孫の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 被相続人の直系尊属の死亡の記載がある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 被代襲者(被相続人の兄弟姉妹=代襲相続人の親)の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
甥・姪が相続人として認められるのには、以下のような条件を満たしていなければなりません。
- 被相続人に子どもや孫などがいない
- 被相続人の父母や祖父母などの直系尊属が被相続人より前に(又は同時に)死亡している
- 被相続人に兄弟姉妹(あなたの父又は母)がいたが、被相続人より前に(又は同時に)死亡している
相続放棄の必要書類の取得方法と費用
相続放棄をするには、特定の書類が不可欠です。全国の家庭裁判所に様式が用意されていますが「裁判所ホームページ」からも入手可能です。
手続きは比較的簡単ですが、一般的に数百円ほどの費用がかかります。地域や手続きの内容によって発生する費用に差が生じるため、自治体ごとに確認してください。
相続放棄の必要書類は裁判所の窓口や役所で取得する
相続放棄をするために必要な書類は通常、裁判所の窓口や地域の役所で入手できます。
相続放棄申述書は相続放棄を行う際に家庭裁判所に提出する書類で、裁判所の窓口で取得できるほか、裁判所のホームページからもダウンロード可能です。
参照:裁判所ホームページ
住民票除票や戸籍謄本などは役所で取得できる書類です。住民票除票とは、移転や死亡などによって除かれた住民票のことを指します。戸籍附票とは、戸籍が作成されてから(または戸籍に登録されてから)除籍されるまでの住所が記録された書類を指します。
被相続人が亡くなった場合、住民登録をしていた役所で住民票除票を取得できます。戸籍附票は被相続人の本籍地の役所で入手可能です。遠方の場合は、郵送でも取得できるため、適切な管轄の役所に問い合わせてください。
戸籍謄本または戸籍全部事項証明書は、個人の戸籍に関する情報を確認する公文書です。この書類は、申請者の本籍地の役所で入手できます。居住地が本籍地と異なる場合、居住地の役場では入手できないため注意してください。
相続放棄の必要書類の費用は数百円程度
自ら相続放棄の手続きを行う場合は、必要書類を揃えるのに数百円〜数千円の費用が発生します。費用の内訳は、以下を参考にしてください。
- 被相続人の住民票除票または戸籍附票:300円
- 申述人の戸籍謄本:450円
- 被相続人の死亡記載のある戸籍謄本:450円(除籍謄本の場合は750円)
- 郵送の場合には定額小為替が1枚200円
- 収入印紙:申述人1人につき800円
- 連絡用の郵便切手:400~500円
相続放棄の手続きを専門家に委託する際には、そのサービスに対する報酬が発生します。一般的には数万円が相場とされていますが、弁護士や司法書士によって料金は異なるでしょう。相続放棄の期限が過ぎてから手続きを依頼する場合、報酬が高くなる傾向があります。事前に状況を説明し、料金の見積もりを依頼しましょう。
相続放棄の手続きの流れ
相続放棄の手続きは、相続人自身が実施することができますが、その際には専門的な知識が必要です。そのため、家庭裁判所で相談を受けながら必要書類を整えていくことが重要です。もしも手続きに不安がある場合は、弁護士や司法書士などの専門家に相談し、一部または全体の手続きを代行してもらうこともおすすめです。相続人が自ら相続放棄手続きを行う手順は、本章の通りです。
1. 家庭裁判所に書類を提出する
申述書に必要事項を記入した後は、戸籍謄本などの必要書類と一緒に、亡くなった人の最終住所地を管轄する家庭裁判所に提出します。ただし、家庭裁判所はどこでも受け付けているわけではない点に留意してください。申込書類を提出するのは、亡くなった方の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。
2. 照会書・回答書が届いたら回答して返送する
家庭裁判所に必要書類を提出すると、ケースによっては照会書と呼ばれる書類が送られてきます。これは家庭裁判所からの質問書です。照会書に含まれる質問に答える形で、回答書を返してください。回答書の期限は3ヶ月以内と定められているため、相続放棄する場合は必ず期限内に提出してください。
ただし、回答によっては相続放棄が拒否される可能性もあります。また一度拒否されると、再び相続放棄を申請することはできません。弁護士のアドバイスに従って回答書を作成することで、より確実に相続放棄の手続きが行えます。
3. 家庭裁判所より相続放棄申請受理通知書が届く
照会書への回答に問題がなければ、通常は1週間から10日ほどで相続放棄申述受理通知書が届きます。この通知書が届いた時点で、相続放棄が承認されたことを意味します。なお相続放棄をしたことを債権者に証明する場合は、相続放棄申述受理証明書が必要になります。証明書の申請用紙は受理通知書と一緒に同封されていますので、必要であれば別途申請してください。
相続放棄の期限と注意点
相続放棄には、期限が存在します。具体的には、3ヶ月以内に手続きを完了させなければなりません。特別な理由なく、この期間を過ぎてしまうと相続放棄ができない可能性も生じます。しかし期間内であっても、特定のケースでは放棄ができない場合があります。そのため、手続きの際には慎重に行動し、条件を十分に把握することが必要です。相続放棄に関する法的な知識や手続きについて理解を深め、スムーズに進めるための注意点を探っていきましょう。
相続放棄は3ヶ月以内にする必要がある
相続人は、相続が始まったことを知った時点から、3か月以内に相続放棄手続きを完了させなければなりません。相続財産の調査と必要書類の収集には時間がかかるため、3か月という期間は予想以上に短く感じられるかもしれません。
ただし3か月の期限を過ぎても、必ずしも相続放棄が不可能になるわけではありません。家庭裁判所に申し立てを行い、裁判所が相続放棄の期限延長を認める相当な理由がある場合には、相続放棄が認められるケースもあります。ただし通常の手続きよりも、相続放棄を認められるハードルは高くなります。
期間内でも相続放棄ができないケースがある
相続放棄ができる期間内でも、以下のような行為をした場合は相続放棄ができません。
- 被相続人宛ての請求書が来ていたので被相続人の財産で支払ってしまった
- 被相続人が所有する家財等を自分のものにした
- 不動産(持ち家など)の取り壊し・売却等をおこなった
- 被相続人名義の預貯金を引き出し使ってしまった
上記のような行為は、いずれも相続権を有する者にのみに認められる行為です。そのため上記の行為を行ってしまうと、法定単純承認が成立してしまいます。法定単純承認とは、問題なく遺産を相続することを認めるもの旨を表したものです。法定単純承認が成立すると、相続放棄ができなくなります。
まとめ
相続放棄に必要な書類は、被相続人との関係によっては、予想以上に多くなることもあります。書類を集めるのに時間がかかると、相続放棄の期限が過ぎてしまう可能性があるので、注意してください。自分で書類を揃えるのは大変であり、「書類を集めるのに時間がかかって、期限を過ぎるのではないか」という心配がある場合は、弁護士や司法書士に相談することをおすすめします。相続放棄の手続きは、一人当たり数万円程度で依頼できる場合もあるため、まずは相談窓口などへ問い合わせてみてください。
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