相続放棄をすると、家族や親戚の誰かが代わりに相続または相続放棄の手続きをすることになるため、費用や手間の面で迷惑をかける可能性があります。
相続放棄で不要なトラブルを招かないようにするためにも、以下のような対策をとっておくとよいでしょう。
- 相続放棄することを事前に伝える
- 全員で相続放棄を行う
- 限定承認を活用する
- 次順位の相続放棄の費用を負担する
- 被相続人に関する情報を次順位の人に渡す
また、そもそも相続放棄した場合に影響が出る親族の範囲は限られています。3親等内の親族に対して相談や調整を事前にしておけば、基本的に相続放棄をしても問題ないでしょう。
今回の記事では、相続放棄をすると誰に・どんな迷惑がかかる可能性があるのか、また迷惑をかけないための対処法について詳しく解説します。相続放棄の仕組みや注意点も説明しますので、相続放棄すべきか悩んでいる人は参考にしてください。
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相続放棄は親族に対して「費用」「手間」で迷惑がかかる
相続放棄をすると、親族に対して金銭的・時間的に負担をかける可能性があるため、注意が必要です。
民法によって相続人となれる人の範囲や優先順位は決まっています。配偶者は常に相続人となり、その他の親族は以下の優先順位に基づいて相続することになります。
相続順位 |
相続する人 |
第1順位 |
子(代襲相続が発生した場合は孫) |
第2順位 |
親や祖父母など直系尊属 |
第3順位 |
兄弟姉妹(代襲相続が発生した場合は甥・姪) |
代襲相続とは?
本来の相続人が亡くなっている場合に、その子が代わりに相続すること。
相続放棄をした場合、始めから相続人ではなかったものとされ、次順位の相続人に相続権が移ります。たとえば配偶者と子が2人いる場合、配偶者が相続放棄をすると子2人が相続をし、配偶者と子2人が全員相続を放棄した場合は、親や祖父母が相続をすることになります。さらに親や祖父母も相続を放棄した場合は、兄弟姉妹などが相続をするということです。
借金が多いことなどを理由に相続放棄をする場合は、次順位の相続人も同じように相続放棄をする可能性が高いでしょう。相続放棄をする際には弁護士などの専門家の意見を参考にしながら、その場合、本来相続人になる予定がなかった人に、余計な手続きの手間や金銭的な負担を強いることになるかもしれません。
だからといって、親族に迷惑をかけたくないという理由だけで相続放棄を諦めるのは難しい場合もあるでしょう。相続放棄することをあらかじめ伝えておく、相続放棄の費用を負担するなどして手続きを進めていくのが現実的な対策になります。
相続放棄で親戚に迷惑をかけないための対処法
相続放棄で親戚に迷惑をかけたくない人は、以下のような対処法があることを知っておきましょう。
- 相続放棄することを事前に伝える
- 全員で相続放棄を行う
- 限定承認を活用する
- 次順位の相続放棄の費用を負担する
- 被相続人に関する情報を次順位の人に渡す
それぞれ詳しく解説します。
相続放棄することを事前に伝える
トラブルに発展することを防ぐためにも、身近な親族に対しては相続放棄することを伝えておきましょう。
相続放棄をしたときに、親族にその事実を伝える法的義務はありません。しかし、突然、故人の債権者から借金や税金の督促が来て相続放棄したことを知った場合「なぜ先に言ってくれなかったのか」と不信感を抱かれ、親族関係が悪化する可能性もあります。
なるべく手続きをする前に相続放棄することを伝えた上で、裁判所から相続放棄申述受理通知書が届いたら、相続放棄手続きが完了したことをメールや手紙など、「自己のために相続の開始があったことを知った日」の記録が残る形で伝えましょう。
全員で相続放棄を行う
法定相続人全員が相続放棄をすれば、借金を相続する人がいなくなるので、親戚に迷惑をかけることはなくなります。
相続放棄は家庭裁判所に対して、相続人全員での「同時申立て」も可能です。同時に申請を行えば、被相続人の戸籍謄本など、共通する書類は1通のみの提出で済みます。さらに弁護士や司法書士などの専門家に依頼する場合も、複数人で依頼した方が費用が安くなるケースも多いため、相続放棄にかかる手間やコストを抑えられる可能性があるでしょう。
ただし、同時申立てができるのは同順位の相続人のみです。たとえば被相続人の兄弟姉妹4人が同時申し立てをすることはできますが、被相続人の親と被相続人の兄弟姉妹が同時申し立てすることは認められていません。
限定承認を活用する
限定承認を活用することで、親戚に迷惑をかけないようにする方法もあります。限定承認とは、プラスの財産とマイナスの財産を相殺して、残った財産があれば相続するという制度です。もし借金などの債務が多くマイナスが残った場合でも、それを受け継ぐ必要はありません。
限定承認は相続人の地位を放棄することにはならないので、他の法定相続人に迷惑をかける心配はなく、親族間トラブルを避けやすくなるでしょう。
ただし、限定承認をするためには、相続人全員の同意が必要です。また、財産目録の作成や準確定申告、債権者への債務弁済が必要になるなど、手続きが複雑になりがちなので、限定承認を検討する場合は、弁護士などの専門家に相談してみた方がよいでしょう。
次順位の相続放棄の費用を負担する
金銭面で迷惑をかけたくない場合は、次順位の相続人が相続放棄する際の費用を負担することで、親族の理解を得やすくなるでしょう。
とくに弁護士などの専門家に相続放棄の手続きを依頼する場合、2人目以降については報酬を安く設定しているケースもあり、費用を抑えられる可能性もあります。
被相続人に関する情報を次順位の人に渡す
相続放棄の手続きで必要になる「被相続人の住民票除票又は戸籍附票」「被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本」などを、次順位の人の代わりに取得してあげるのも一つの手です。
次順位の相続放棄の費用を負担することが難しい場合は、手続きの負担を減らしてあげるだけでも、親族からの印象は良くなるでしょう。
相続放棄は必ずしも親戚に迷惑がかかるわけではない
相続放棄をした場合は次順位の相続人に相続権が移っていきますが、相続できる人の範囲は民法によって一定の範囲までとされています。また、法定相続人が全員相続放棄した場合、国庫に財産が帰属するため、必ずしも親戚に迷惑がかかるとは限らないことをおぼえておきましょう。
相続人になる親戚は限られている
法定相続人になれる親族は基本的に以下のとおりです。
代襲相続が発生しない限り、孫や甥、姪が相続人になることはありません。とくに相続放棄をした結果、甥や姪が相続することになるのは、以下の条件を全て満たすケースに限られます。
- 被相続人の子や孫がいない
- 被相続人の両親や祖父母が亡くなっている
- 被相続人の兄弟姉妹が亡くなっている
また、法定相続人になれる配偶者や血族以外の親戚(被相続人の伯父や叔母、従姉妹など)に迷惑がかかることは基本的にありません。
法定相続人がいなくなったら財産は国庫に入る
法定相続人が全員相続放棄をして相続する人がいなくなってしまった場合は、裁判所によって相続財産管理人を選定し、被相続人の財産を精算します。
特別縁故者がいる場合は財産分与が行われることもありますが、特別縁故者がいない場合や財産分与をして残った財産がある場合は、最終的に国庫に帰属することになります。
特別縁故者とは?
亡くなった人と特別親しい関係にあった人で、法定相続人がいない場合に被相続人の財産を相続できる人のこと。
相続放棄に関する注意点
相続放棄の手続きを行う際は、以下の点に注意しましょう。
- 熟慮期間を過ぎると相続放棄できない
- 相続放棄が受理されると撤回できない
- 相続放棄手続きの必要書類に不備があると受理されない
- 相続放棄しても管理義務は残る
それぞれ詳しく解説します。
相続する財産に手を付けると相続放棄できない
民法921条によると「相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき」は、単純承認をしたものとみなされます。
単純承認とは?
被相続人のプラスの財産とマイナスの財産(負債)をすべて相続すること。
たとえば、被相続人の預貯金を勝手に使ったり、不動産や車を売却したり、被相続人の借金を返済したりすると相続放棄が認められません。被相続人の預貯金から葬儀代を支払った場合など一部例外はありますが、勝手に故人の財産に手をつけると、相続放棄できなくなる可能性があるので注意しましょう。
熟慮期間を過ぎると相続放棄できない
民法915条では「相続人は自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に相続の承認または放棄をしなければならない」と定めており、これを熟慮期間と呼びます。
熟慮期間を過ぎると基本的に相続放棄できないので、なるべく早めに財産調査や裁判所への申し立てを進めましょう。ただし、やむを得ない事情があるときは、3ヶ月を超えていても相続放棄できるケースもあります。その場合は、裁判所に対して期間伸長の申立を行いましょう。
相続放棄が受理されると撤回できない
相続放棄は一度申請が受理されると、基本的に撤回することはできません。相続放棄したあとにマイナスの財産よりもプラスの財産が多かったことがわかったとしても、相続できなくなってしまうため、慎重に判断しましょう。
相続放棄手続きの必要書類に不備があると受理されない
相続放棄の手続きをする際は、相続放棄の申述書に加え、被相続人の住民票除票又は戸籍附票、申述人(放棄する方)の戸籍謄本などの添付書類を用意する必要があります。
申述書に漏れや誤りがあると、裁判所から修正を求められるため、手続きが受理されません。被相続人との関係性によっても、必要な添付書類の種類は異なるため、事前にどんな書類を準備すべきか把握しておきましょう。
相続放棄しても管理義務は残る
民法940条では、相続放棄をしたとしても、相続財産を「現に占有している」ときは、相続人または相続財産の清算人に財産を引き渡すまで、財産の管理義務が生じるとしています。
たとえば親の自宅で一緒に暮らしていた子が、親の死後、相続放棄をした場合、次順位の相続人に兄弟姉妹がいるとしても、現に占有している子が相続財産である自宅を管理し続けなければならないということです。
まとめ
相続放棄をすると、次順位の親族に相続権が移ります。次順位の親族も相続放棄をした場合、手続きの費用や手間がかかるため、迷惑をかけてしまうことがあるかもしれません。しかし、故人の借金が多い場合など、どうしても相続放棄せざるを得ない時は、親族に対して事前に一声かけておく、相続放棄する際にかかる費用を負担するなどの対策を講じた上で、手続きを進めましょう。
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