還付金を受け取ってしまったら原則相続放棄はできない
還付金とは、税金などを納めすぎていた場合に支払われるお金です。
被相続人が、生前に税金を納めすぎていた場合、還付金の支払い請求権が発生します。被相続人の財産を相続する予定の相続人に、還付金が支払われる仕組みです。
還付金は、被相続人の財産の一部です。受け取ると、相続財産の一部を受け取ったとみなされ、原則として相続放棄ができなくなります。
ただし、医療費の自己負担額が上限以上になった場合に支払われる「高額療養費の還付金」は例外です。扶養家族が亡くなって発生したものであれば、受け取る権利は被保険者にあります。相続人を扶養し、被保険者である家族が受け取っても相続放棄には影響しません。
還付金の種類によって相続放棄できる・できないが異なります。相続放棄を検討している場合は、受け取る前に確認しましょう。
還付金や相続財産を受け取ってしまったら処分せず保管する
還付金や相続財産を受け取ったら、使用せずに保管しておきましょう。
相続放棄ができなくなるのは、受け取った還付金や相続財産を処分したり使ったりした場合です。受け取っても、使わずに保管しているだけであれば「処分行為」にはあたらないと判断される可能性があります。
ただし、受け取ってしまった旨は裁判所に届け出なくてはなりません。また裁判所の判断や保管の状況によっては、相続放棄ができなくなります。財産の一部を使用する、紛失する、破損するという行為は「財産の相続を承認した(単純承認)」とみなされる恐れがあるため、決して行わないようにしましょう。
保管する際は、被相続人が使っていた口座以外に新たな口座をつくり、相続人の財産とも分けて管理しましょう。
その後、弁護士などの専門家に相談してサポートを受けることをおすすめします。
受け取ると相続放棄に影響がある財産
被相続人のものだとみなされる財産は、受け取ると相続放棄ができなくなる可能性があります。受け取ると相続放棄に影響がある財産は、以下の通りです。
- 現金や預貯金
- 不動産・動産・株式・債権
- 被相続人が受取人になっている保険金や退職金
- 被相続人に対する未払いの給与
- 所得税の還付金
現金・預貯金
被相続人の現金・預貯金は、相続財産です。相続放棄をする・しないに関係なく、他の相続人にも相続する権利のある財産を勝手に下ろす・使うなどの行為は、不法行為に当たりかねません。相続放棄が認められないだけでなく、他の相続人とのトラブルにも発展します。
ただし、被相続人の存命中に発生した入院費用や葬式費用、墓石の購入費など、被相続人のために使う場合は、現金や預貯金を使用しても「相続財産の処分には当たらない」と判断されます。領収書や明細書を証拠として保管しておきましょう。
不動産・動産・株式・債権等
不動産や不動産の権利・有価証券・自動車などの動産・ゴルフ会員権なども、相続財産です。
また被相続人名義の借金や未払いだった税金、医療費に関しても、相続財産の一部です。マイナスの相続財産に関しても、手をつけてしまうと相続放棄が認められなくなる可能性があります。相続放棄を検討している際は、支払いや精算などはしないように注意しましょう。
被相続人の形見分けを行う場合は、品物の価値で判断します。無価値とみなされる品物であれば、相続財産の処分には当たりません。ただし価値の有無を判断するのは、裁判所です。安易な考えで形見分けを行わず、弁護士などの専門家に相談しましょう。
被相続人が受取人となる生命保険金・死亡退職金
保険金は、受取人の「固有財産」です。被相続人が受取人となっている生命保険金は、被相続人の固有財産であり、相続財産です。
また死亡退職金に関しても同様に、受取人の固有財産にあたります。ただし、死亡退職金が相続財産になるかどうかは、勤務していた会社の退職金制度の制度で決まります。
支給基準や受給者の範囲、受給順位など、会社ごとの規定などを含め、状況判断が必要です。
被相続人の未払い給与
給与は、労働への対価として支払われるお金です。被相続人が亡くなってから支払われる給与も、被相続人の財産として扱われます。被相続人に対する未払い給与を相続人が受け取ると、相続放棄ができなくなる可能性が高いでしょう。
ただし、死亡退職金と同様に会社の支給規定により、相続財産として扱うか否かが異なります。未払い給与を受け取る前に会社の支給規定を確認しておくことをおすすめします。
所得税の還付金
被相続人が払い過ぎていた所得税は、被相続人の財産です。確定申告で還付金は受け取れます。会社員の場合、亡くなった時点で年末調整が行われ、払いすぎた所得税は還付されるのが一般的です。
還付金も被相続人の相続財産の一部として扱われます。相続人が受け取ってしまうと相続放棄ができなくなるリスクがあるため、受け取っても処分せずに保管しましょう。
受け取っても相続放棄に影響がない財産
財産には、受け取っても相続放棄に影響を与えない財産もあります。相続放棄に影響がない財産であれば、受け取ったり引き継いだりした後でも相続放棄が行えます。
以下をチェックしておきましょう。
- 被相続人以外が受取人の生命保険金・死亡退職金
- 香典・ご霊前
- 仏壇・お墓
- 遺族年金・未支給年金
被相続人以外が受取人となる生命保険金・死亡退職金
被相続人が亡くなったことで発生する生命保険金・死亡退職金のうち、被相続人以外が受取人として指定されているものは、相続人固有の財産として扱われます。
指定されている受取人に限り、受け取りが可能です。
香典・御霊前
香典やご霊前は、喪主・遺族に対する「贈与」です。喪主の負担で行われる葬儀に対し、経済的な負担を軽減することを目的としています。被相続人の財産ではなく、相続人の財産で
もありません。
相続人に対する贈与として受け取りましょう。
ただし、金額によっては贈与税が発生する可能性があるため、注意が必要です。
仏壇・お墓
仏壇やお墓は、祭祀財産として扱われます。祭祀財産は相続財産ではないため、受け取っても相続放棄に影響を与えません。法律では、遺産相続とはわけて考えられています。
祖先の祭祀を主宰するものが受け継ぐこととされており、相続を放棄しても承継が可能です。
ただし、被相続人の相続財産から新たに仏壇やお墓を購入した場合、祭祀の承継とはみなされません。新たに購入する際は注意しましょう。
遺族年金・未支給年金
相続放棄を行っても、遺族年金・未支給年金を受給する権利があります。
遺族年金は、被相続人が支払っていた社会保険料・年金保険料により、遺族に支払われる年金です。遺族が支給対象となっており、相続財産にはあたりません。
また被相続人が受け取る予定だった未支給年金も、遺族の生活を補償するためのものです。相続財産にはあたらず、受け取りが可能です。
相続財産になるか判断が分かれる財産
高額療養費の還付金は、相続財産になるか判断が分かれる財産です。毎月1日から末日までにかかった医療費の自己負担額上限を超えると、超えた分のお金が高額療養費の還付金として払い戻されます。
還付金の請求権は被相続人の生前に発生しているのが原則です。よって、相続財産とみなされます。受け取ると、相続放棄ができません。
ただし、亡くなった人が扶養家族だった場合、還付金の受取人は被保険者です。その場合は相続財産には含まれず、受け取っても相続放棄には影響しません。
相続放棄前後にしてはいけないこと
相続放棄を検討している場合、何より気を付けるべきなのは「相続財産には手を付けないこと」です。
いざ相続放棄をしようと思ったらできなかった…という事態を招かないように、相続放棄前後にしてはいけないことをチェックしておきましょう。
- 被相続人が所有している不動産を解体・売却する
- 家具・家電・車などを処分する
- 被相続人が契約している賃貸物件を解約する
- 被相続人の資産で負債を支払う
- 被相続人が契約しているクレジットカードや携帯電話を解約する
被相続人が所有する不動産の解体や売却
被相続人所有の不動産は、当然ながら相続財産です。相続放棄の前後に解体・売却を行うと、単純承認とみなされます。
処分の際は、他の相続人もしくは相続財産清算人に依頼しましょう。
ただし破損箇所の修理・修繕など、資産として維持するための保存行為であれば、相続放棄に影響はありません。
家具・家電・車などの処分
資産価値のあるものは、すべて相続財産です。被相続人所有の家具・家電・車などの処分も行ってはいけません。処分すると、相続放棄が認められません。
「遠方でなかなか行けないから代わりに車を処分しておいてほしい」「家電を粗大ごみとして出しておいてほしい」など、他の相続人から処分を頼まれても、相続放棄を検討している場合は応じずに断りましょう。
被相続人が契約する賃貸物件の解約
被相続人が契約している賃貸物件には、被相続人の「賃借権」が発生しています。安易に賃貸契約の解約を行わないよう、気を付けましょう。賃貸物件を解約したい場合、所有不動産の解体・売却と同様に、他の相続人もしくは相続財産清算人に行ってもらいます。
しかし、家賃滞納などの理由で大家さんや管理会社側から解約となれば、相続人の意思で処分したことにはなりません。
被相続人の資産を使っての負債の支払い
借金や未払いの税金、入院費などを含め、負債の支払いで被相続人の財産を使用した場合も、財産の処分とみなされます。
被相続人の相続財産ではなく、相続人の資産や受取人として受け取った保険金からの支払いであれば、相続放棄には影響を与えません。そもそも相続放棄をすると被相続人の負債の支払い義務は発生しないため、取り立てなどに応じる必要はないでしょう。
ただし入院費は、相続放棄をしても連帯保証人になっていると支払い義務が生じる可能性があります。
被相続人が契約する携帯電話やクレジットカードの解約
被相続人が契約していた携帯電話やクレジットカードは、相続財産になるかどうか判断が難しいところです。無駄な支払いをしないことで相続財産を守る「保存行為」と判断されるケースもありますが、保存行為に該当するかどうかは状況によって異なります。
解約・名義変更の手続きは財産の処分とみなされる可能性があると考え、そのままにしておきましょう。
携帯電話会社やクレジットカード会社には、契約者が亡くなったことを伝えておけば問題ありません。その後、他の相続人もしくは相続財産清算人に手続きを依頼します。
相続放棄の流れ
相続放棄を行う場合、以下の流れで手続きを行います。
- 相続財産を調査する
- 書類と費用を用意する
- 書類を提出し、照会書を受け取る
- 相続放棄申述処理通知書を受け取る
相続放棄の申述書を提出してから、3週間~1ヶ月で相続放棄が認められます。
1.相続財産を調査する
相続放棄をするべきかどうかを判断するためには、被相続人の財産調査が必要です。調査を行うと、被相続人のプラスの財産・マイナスの財産が把握できます。調査してから相続放棄をするべきかどうか判断しましょう。
相続財産は、主に預貯金と不動産に分けられます。預貯金は通帳や金融機関からの郵送物でチェックしましょう。一方で不動産は、固定資産税通知書や名寄帳などで確認可能です。
また、被相続人が消費者金融などから借入をしていた場合、過払い金が発生しているかもしれません。過払い金も、相続人のプラスの財産です。過払い金調査も合わせて行うことをおすすめします。
財産調査を行っても、相続放棄に影響はありません。財産調査は相続人が実施できるものの、隠れた財産まで調査するのは困難です。専門家に依頼すると、スムーズに調査が行えるでしょう。
2. 必要な書類と費用を準備する
相続放棄をする場合、まずは必要な書類と費用を準備します。
- 相続放棄の申述書
- 被相続人の住民票除票(戸籍附票)
- 相続放棄をする相続人の戸籍謄本
以上が相続放棄に必要な書類です。そのほか、被相続人との続柄によって必要な書類が異なります。
必要書類一覧
配偶者・子ども |
被相続人の死亡が記載されている戸籍謄本 |
代襲相続人の孫 |
被相続人の死亡が記載されている戸籍謄本、被代襲者(本来の相続人)の死亡の記載のある戸籍謄本 |
父母や祖父母 |
被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本、子どもや代襲者の中で亡くなっている人の出生から死亡までの戸籍謄本、相続放棄する人よりも下の代の直系尊属の中で亡くなっている人の死亡が記載されている戸籍謄本 |
兄弟や姉妹 |
被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本、子どもや代襲者の中で亡くなっている人の出生から死亡までの戸籍謄本、被相続人の直系尊属の死亡が記載されている戸籍謄本 |
甥や姪 |
被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本、子どもや代襲者の中で亡くなっている人の出生から死亡までの戸籍謄本、被相続人の直系尊属の死亡が記載されている戸籍謄本、被代襲者の死亡が記載されている戸籍謄本 |
書類を用意するのと同時に、相続放棄に必要な費用を用意します。必要な費用は、書類の取得にかかる費用とは別に、手続きの手数料である収入印紙800円と、家庭裁判所から書類を送付してもらうための郵便切手代が必要です。郵便切手の金額は申述を行う家庭裁判所に確認しましょう。
また専門家に手続きを依頼する場合、相談費用・代行費用も用意します。手続きを依頼する際の費用も、依頼先に確認しておきましょう。
3. 家庭裁判所に書類を提出し、照会書の到着を待つ
必要書類をそろえたら、家庭裁判所に提出します。窓口もしくは郵送で提出可能です。書類提出後、内容に不備がなければ照会書が送付されます。相続放棄の申し立てから相続放棄に関する照会書が送付されるまでは、10日程度かかります。
照会書には質問事項が書かれています。内容を確認して記入し、家庭裁判所に返送しましょう。主な質問事項は以下の通りです。
- 自分が相続人なったと知ったのはいつか
- 被相続人の債務超過を知ったのはいつか
- すでに被相続人の財産を使用したか(借金の返済を含む)
- 相続放棄は自分の意思で選択しているか
- 相続放棄の意思は変わらないか
- 相続放棄をする理由は何か
- 遺産分割を行ったか
回答に問題があると、相続放棄が認められなくなる可能性があります。正直に回答するようにしましょう。
4. 相続放棄申述受理通知書が届くのを待つ
家庭裁判所から「相続放棄申述受理通知書」が届きます。その通知書の到着をもって、相続放棄の手続きは完了です。
正当な理由があれば、相続放棄は基本的に認められます。しかし、正当な理由があるにもかかわらず相続放棄が認められなかった場合、即時抗告が可能です。即時抗告は家庭裁判所から相続放棄却下の連絡を受けてから、2週間以内に申し立てを行う必要があります。
正当性を証明する証拠を用意しなくてはならないため、基本的には弁護士などの専門家に依頼して即時抗告を行うようにしましょう。
相続放棄をスムーズに行うためのポイント
相続放棄には、手間も時間もかかります。手続きには期限があるため、早めの行動が大切です。スムーズに行うためのポイントをおさえておきましょう。
専門家に相談して相続放棄を検討する
相続放棄の手続きを確実に、そしてスムーズに行うためには、専門家への相談がおすすめです。被相続人の隠れた債務や財産も、専門家がまとめて調査してくれます。
また弁護士であれば、相続放棄が妥当かどうかの判断や手続きまでサポートしてもらえるでしょう。
司法書士も専門家として相談に対応しています。ただし対応できる範囲が異なるため注意が必要です。
以下が、専門家ごとの対応内容です。
対応可能業務 |
弁護士 |
司法書士 |
行政書士 |
税理士 |
相談業務 |
〇 |
〇 |
× |
× |
書類作成代行 |
〇 |
〇 |
× |
× |
代理権 |
〇 |
× |
× |
× |
トラブル対応 |
〇 |
× |
× |
× |
相続発生後は速やかに行動する
相続放棄は、被相続人が死亡してから3ヶ月以内の申立てが原則です。3ヶ月を超えてしまうと、財産に手を付けずにいても相続放棄が認められなくなってしまいます。
財産調査を含め、相続放棄を判断するためには時間がかかります。相続発生後、速やかに行動して期限内に宣言しましょう。宣言は相続放棄陳述書の提出までを基本としています。
期限内に相続放棄陳述書の提出が難しい場合は、上申書で家庭裁判所に事情を説明すると、熟慮期間の延長が認められます。延長期間は事情により異なりますが、1〜3ヶ月が一般的です。
まとめ
相続放棄には、さまざまなルールや期限が定められています。そのルールに従って行動するのが原則です。「これぐらい大丈夫だろう」と思って安易に行動すると、相続放棄ができなくなる可能性があります。
還付金も、相続財産の一部です。まずは受け取らないこと、そして受け取ってしまっても手を付けずに保管しておくことが大切です。
特に、相続放棄をするかどうか迷っている段階で「処分行為」とみなされる行動をとってしまうケースが多いです。相続放棄をする可能性が少しでもあれば、被相続人の財産には手を加えないようにしましょう。
専門家に相談すると、相続放棄の判断に必要な財産調査から相続放棄の手続きまで、まとめて依頼できます。
相続放棄をしたいけれど、還付金を受け取ってしまった…どうやって手続きを進めたらいいの?なども心配や不明点がある場合は、自分だけで判断せず専門家への相談がおすすめです。
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