相続放棄は兄弟一人だけでも問題なくできる
相続放棄は個人の権利であるため、兄弟の中で自分一人だけが相続放棄をしても問題ありません。
もしも他の兄弟が相続することを望んでいたとしても、許可を取らず相続放棄の手続きが可能です。自分だけが相続放棄をした場合、財産は他の相続人の間で分配されます。
相続放棄をすると財産を承継する権利や、負債を負う義務などが一切なくなります。
なお、相続放棄はすべての相続を放棄する手続きなので、一部の財産だけを選んで放棄するということは基本的にできません。
たとえば「土地だけは相続したい」と考えていても、相続放棄をすれば土地を相続する権利も放棄することになります。
相続放棄が家庭裁判所に受理された場合、原則として取り消しはできないため、慎重に検討してください。
相続放棄する際の手続き
相続放棄の手続きを進めるためには、まず家庭裁判所に提出する書類や収入印紙などをそろえましょう。書類を発行する際には、一定の費用がかかるケースもあります。
必要書類の準備が整ったら、家庭裁判所に相続放棄の申述を行います。
次の項目から、相続放棄をする際の手続きについて詳しく解説します。
必要な書類と費用をそろえる
相続放棄をするときには、家庭裁判所に提出する書類をそろえる必要があります。
被相続人と申述人(相続放棄をする人)の続柄により、必要書類が異なる点に注意が必要です。
相続放棄の申述に必要な書類と費用、取得場所についてまとめました。
書類 |
費用 |
取得場所 |
相続放棄の申述書 |
無料 |
・家庭裁判所の窓口
・家庭裁判所の公式サイトからダウンロード |
申述人の戸籍謄本 |
450円 |
最寄りの市区町村の役所 |
被相続人の住民票除票または戸籍附票 |
300円 |
最後に住んでいた地域の市区町村の役所 |
被相続人の除籍謄本 |
750円 |
最寄りの市区町村の役所 |
【申述人が孫の場合】
親(本来の相続人)の除籍謄本 |
750円 |
最寄りの市区町村の役所 |
【申述人が親の場合】
・被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
・被相続人の子が死亡している場合、子の出生から死亡までの戸籍謄本 |
戸籍謄本:450円
除籍謄本・改製原戸籍謄本:750円 |
最寄りの市区町村の役所 |
【申述人が兄弟姉妹(甥姪)の場合】
・被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
・被相続人の配偶者や子が死亡している場合、配偶者や子の出生から死亡までの戸籍謄本
・親、祖父母の除籍謄本
・(甥姪の場合)甥名の親の除籍謄本
|
戸籍謄本:450円
除籍謄本・改製原戸籍謄本:750円 |
最寄りの市区町村の役所 |
相続放棄の基本的な書類は「相続放棄の申述書」「申述人の戸籍謄本」「被相続人の住民票除票または戸籍附票」「被相続人の除籍謄本」の4種類です。
被相続人の配偶者と子供は、追加で書類をそろえる必要はありません。被相続人の孫や親、兄弟姉妹などは基本的な書類に加え、上記で紹介した書類をそろえてください。
なお、戸籍謄本や除籍謄本は今まで本籍地の役所でしか発行できませんでしたが、令和6年3月1日からは全国の役所で発行できるようになりました。本籍地がどこであっても、最寄りの役所の窓口で発行できます。
相続放棄の申述の際には、800円分の収入印紙も必要です。相続放棄の申述書に収入印紙の欄があるため、貼り付けてから提出しましょう。
また、郵送料として470円分の郵便切手を納める必要があります。郵便切手の内訳は「84円×5枚」と「10円×5枚」です。
収入印紙と郵便切手は郵便局で販売されているため、まとめて購入すると効率的です。
裁判所へ相続放棄の申述を行う
必要書類がすべてそろったら、家庭裁判所に相続放棄の申述を行います。相続放棄の手続きをする裁判所は、被相続人が最後に住んでいた地域を管轄している家庭裁判所になります。
上記で用意した書類をすべて家庭裁判所に提出し、相続放棄の申し立てをしましょう。申し立てから1週間~2週間ほど経つと、裁判所から「相続放棄照会書」が届きます。
相続放棄照会書は、自分の意思で相続放棄をしたかどうかを確認するための書面です。必要事項を記入の上、家庭裁判所に返送してください。
その後、無事に審査に通り相続放棄が受理されると、家庭裁判所から「相続放棄申述受理通知書」が届きます。以上で相続放棄の手続きが正式に認められることになります。
なお、相続放棄の期限は「相続の開始があったことを知ったときから3ヶ月以内」です。期限を過ぎると相続放棄ができなくなるため、必ず期限内に申述してください。
トラブルを回避するには事前の話し合いが重要
相続放棄は個人の意思で自由に行えるものの、他の相続人に無断で相続放棄をすると、トラブルに発展する可能性があります。
もしも相続財産のうちプラスの財産よりもマイナスの財産の方が多かった場合、他の相続人に負担をすべて押し付けるような形になってしまいます。
話し合いをせずに相続放棄をし、後から相続放棄をしたことを伝えた場合、他の相続人からの心証が悪くなる可能性が高いでしょう。
また、被相続人の兄弟姉妹の子供(甥姪)に相続権が移っていると、新たなトラブルが発生する恐れがあります。
たとえば自分が相続放棄をしたことで相続人が甥姪だけになった場合、関係性の薄い親戚の借金を背負うことになったり、遠方の土地を相続したりすることになってしまうかもしれません。
そうなると甥姪から苦情が入り、親族を巻き込むトラブルにつながる可能性があります。
トラブルを回避するためには、相続放棄を検討していることを兄弟姉妹など他の相続人としっかり話し合うことが大切です。
兄弟姉妹のように相続順位が同じ方であれば、まとめて相続放棄の手続きが行えます。そのため、他の兄弟姉妹も相続放棄を望んでいる場合は、同じタイミングでまとめて手続きを行ってください。
親族間の余計なトラブルを回避するためにも、事前に相続放棄を望んでいることを伝えておきましょう。
相続放棄をする際に知っておきたいポイント
相続放棄をする際には、以下のポイントに注意しておきましょう。
- 相続放棄すると他の相続人の相続分が多くなる
- 相続税の基礎控除額は変動しない
- 相続の発生を知ってから3ヶ月以内であれば相続放棄できる
- 相続放棄をしても次順位の相続人に通知はいかない
- 遺産の内容を把握できていない場合がある
- 甥や姪に相続権が移ることはない
- 相続放棄の期限を過ぎてから借金が発覚する場合がある
次の項目から、相続放棄をする際に知っておきたいポイントについて詳しく解説します。
相続放棄すると他の相続人の相続分が多くなる
兄弟のうち一人だけが相続放棄をすると、他の相続人に放棄した分の財産が分配されるため、必然的に一人あたりの相続分が多くなります。
たとえば兄弟2人が相続人となる場合、弟が相続放棄をすれば兄がすべての財産を相続することになります。
相続にはプラスの財産だけでなくマイナスの財産も含まれるため、場合によっては兄弟が背負う借金の負担が大きくなってしまうかもしれません。
また相続する財産に不動産が含まれる場合、相続登記の手続きをおこなう必要があります。相続登記は、土地の名義変更をするための手続きです。
相続放棄をすると他の兄弟の相続分が多くなるだけでなく、相続登記など手間のかかる手続きもすべて兄弟が負担することになるため、注意しておきましょう。
相続税の基礎控除額は変動しない
兄弟の一人だけが相続放棄をしたとしても、基礎控除額の変動はありません。
相続税には基礎控除額が設けられており、人数によって金額が変動します。基礎控除額の計算式は以下のとおりです。
3,000万円+(600万円×法定相続人の人数)
たとえば法定相続人が4人の場合は「3,000万円+(600万円×4人)=5,400万円」なので、遺産総額が5,400万円以下であれば相続税は発生しません。
3人の相続人のうち、1人が相続放棄をしたとしても基礎控除額は5,400万円のままです。
基礎控除額を計算する際の「法定相続人」は、民法で定められている法定相続人のことを指しています。誰かが相続放棄をしても法定相続人の人数は変動しないため、基礎控除額も変わりません。
相続税を納める人にとってはメリットのある仕組みなので、相続税の申告をする際は覚えておきましょう。
相続の発生を知ってから3ヶ月以内であれば相続放棄できる
相続放棄の手続きができる期間は、自分のために相続が開始されたことを知った日から3ヶ月以内と決められています。
一般的に、相続が開始されたことを知った日というのは、被相続人が死亡した事実を知った日と同じです。
しかし、先順位の法定相続人が相続放棄をしたことで相続権が移った場合は「自分が相続人と知った日」になります。たとえば被相続人の子供が相続放棄をし、被相続人の両親が相続人に繰り上がる場合などです。
相続放棄の期限を過ぎた場合、原則として相続放棄はできません。
ただし、家庭裁判所に「相続の承認又は放棄の期間の伸長」を申述すれば、相続放棄の期限を延長できるケースがあります。
3ヶ月以内に相続放棄をするかどうかの判断ができないときは、家庭裁判所に期限の延長を申し立ててみてください。
相続放棄をしても次順位の相続人に通知はいかない
本来の相続人が相続放棄をした場合、法定相続人の中で次順位の人が相続人に繰り上がります。しかし、相続放棄をしたことは次順位の人には通知されません。
相続放棄を知らせる義務はありませんが、財産の中に負債がある場合、連絡をしなければ次順位の相続人とトラブルになる可能性があります。
トラブルを避けるためにも、相続放棄をしたときは次順位の相続人に連絡した方が良いでしょう。
法定相続人の順位と相続の割合は以下のとおりです。
相続順位 |
法定相続人 |
法定相続分 |
第1順位 |
配偶者と子供 |
配偶者:1/2
子供:1/2 |
第2順位 |
配偶者と父母 |
配偶者:2/3
両親:1/3 |
第3順位 |
配偶者と兄弟姉妹 |
配偶者:3/4
兄弟姉妹:1/4 |
たとえば子供や両親が相続放棄をした場合や、そもそもいない場合、配偶者と被相続人の兄弟姉妹が法定相続人になります。このようなケースでは、>法定相続人となる配偶者か、相続放棄をした両親が兄弟姉妹に知らせるのがベスト遺産の内容を把握できていない場合がある
一般的に兄弟姉妹は離れて生活していることが多いため、被相続人のすべての遺産を把握できておらず、財産調査に時間がかかるケースがあります。
配偶者が相続人になっているのであれば財産調査を任せられますが、兄弟姉妹のみが相続人になる場合、自ら財産調査をしなければなりません。
財産を見つける際の手がかりになるものを財産別にまとめました。
財産 |
手がかりになるもの |
預貯金 |
・キャッシュカード
・通帳
・パソコンやスマホ |
不動産 |
・登記事項証明書
・登記済権利証(登記識別情報)
・固定資産税納税通知書 |
有価証券 |
・証券会社からの郵送物
・通帳の取引履歴
・パソコンやスマホ |
借金・負債 |
・金銭消費貸借契約書
・ローン会社からの郵送物
・支払明細書 |
上記すべての遺産を調査するためには、被相続人の自宅を調べたり、各種機関に開示請求をしたりする必要があります。
遺産の内容がわからなければ相続するかどうかを判断できないため、財産調査は必須です。
なお、被相続人の子供や親が全員相続放棄をしている場合、負債が多かったり不動産が遠方にあったり、遺産に何かしらの問題が生じている可能性が高いです。
可能であれば被相続人の子供や親に相続放棄した理由を聞き、遺産に問題があるときは財産調査をせず相続放棄をすることをおすすめします。
甥や姪に相続権が移ることはない
兄弟姉妹が相続放棄をしたからといって、甥や姪に相続権が移ることはありません。
被相続人の甥や姪が相続人になるのは、代襲相続が発生した場合のみです。代襲相続とは、本来相続人となるはずの人が死亡していた場合、子供が代わりに相続人となる制度です。
相続放棄をすると最初から相続人ではなかったと見なされるため、代襲相続も発生しません。
ただし、相続放棄をしないまま兄弟姉妹が死亡した場合、相続権は甥や姪に移ります。場合によっては、関係性の薄いおじやおばの負債を背負う事態になってしまうかもしれません。
自分の子供に相続の負担を背負わせないためにも、早めに相続放棄をしておきましょう。
相続放棄の期限を過ぎてから借金が発覚する場合がある
財産調査の時間が十分に取れなかったり、被相続人と疎遠になっている期間が長かったりすると、相続放棄の期限を過ぎてから借金が発覚するケースがあります。
原則として相続放棄の期限は3ヶ月と決められており、1日でも過ぎると相続放棄は認められません。
しかし、後から借金があることが判明したケースについては、期限を過ぎてからの相続放棄が認められる可能性があります。
相続放棄が認められる条件は以下のとおりです。
- 借金が存在しないと信じていたために相続放棄をしなかった
- 借金の状況を調査するのが困難であった
- 借金が存在しないと信じていたことに相当な理由があった
実際、昭和59年4月27日の最高裁判所第二小法廷では、上記の内容が考慮されて相続放棄が認められました。そのため、期限を過ぎても場合によっては相続放棄ができる可能性があります。
ただし、借金の存在を知った後3ヶ月経つと相続放棄が認められなくなるので、必ず3ヶ月以内に申述を行いましょう。
参照:裁判例結果詳細|裁判所
相続人全員が相続放棄した場合、財産は国庫に納められる
相続人の中で誰も相続することを希望せず、相続人全員が相続放棄をするケースもあります。
全員が相続放棄をすると、預貯金や土地などの財産はすべて国庫に納められることになります。
もしもプラスの財産よりもマイナスの財産の方が多い場合、債権者に財産を分配した上で残りの財産が国に返還されます。
ただし、債権者への弁済は国が勝手に行ってくれるわけではありません。相続人または債権者側で「相続財産管理人」を選任し、代わりに債権者に対する弁済を行ってもらう必要があります。
相続財産管理人は、相続人不在の相続財産を相続人の代わりに国庫に納める役割を担う人のことです。
相続財産管理人は債権者への弁済のほか、土地の管理を引き継ぐ役割も担っています。
不動産は相続放棄で手放すことはできるものの、管理義務だけは相続人に残ってしまいます。
不動産の管理義務から解放されるためには、借金の弁済と同様に相続財産清算人の選任を行い、相続人に代わって土地を管理してもらう必要があります。
借金や土地の管理義務が残っている場合、相続財産清算人の選任が必要になると認識しておきましょう。
相続財産清算人の選任の申し立ては家庭裁判所で行う
相続財産清算人の選任が必要なときは、被相続人が最後に住んでいた地域を管轄している家庭裁判所で申し立てをしましょう。
申し立てに必要な書類は以下のとおりです。
- 申立書
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
- 被相続人の父母の出生から死亡までの戸籍謄本
- 相続人がいないことを証明するための戸籍謄本(子供や兄弟姉妹の戸籍謄本など)
- 被相続人の住民票除票または戸籍附票
- 財産を証明するための資料
- 利害関係人から申し立てをする場合は、利害関係を証明する資料(戸籍謄本や金銭消費貸借契約書など)
- 相続財産清算人の候補者がいる場合は、その住民票または戸籍附票
上記の書類のほか、収入印紙800円分と郵便切手が必要です。収入印紙は申立書の欄に貼り付けて提出してください。
郵便切手の費用は裁判所によって異なるため、事前に公式サイトや電話などで確認しておきましょう。
また、官報公告料として5,075円を納める必要があります。官報公告料は裁判所の指示があってから納めてください。
相続財産清算人の報酬は基本的に遺産の中から支払うのですが、プラスの財産が少ない場合などは、予納金を裁判所に支払う必要があります。
予納金は財産の内容によって異なるものの、相場は数十万円〜100万円ほどです。
もしも相続に関する手続きを弁護士や司法書士に依頼する場合などは、専門家への報酬も別途必要です。
相続財産清算人を選任する際には一定の費用が発生するため、注意しておきましょう。
まとめ
相続放棄は兄弟一人だけでも可能ですが、話し合いをせずに手続きをすると他の兄弟とトラブルに発展する可能性があります。相続放棄を検討しているときは、必ず話し合いをした上で手続きを進めましょう。
相続放棄の期限は3ヶ月であるため、相続の事実があることを知った時点で早めに財産調査を行い、どうするのかを決断する必要があります。
相続放棄をするべきかどうか迷ったときは、相続に強い弁護士に判断を仰ぐのも一つの手です。
弁護士に相談すれば、財産や相続人の関係性なども踏まえて適切な判断をしてもらえるため、ぜひ検討してみてください。
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