被相続人の連帯保証債務は相続で引き継がれる
そもそも連帯保証人の保証債務は、相続の対象として引き継がれるのでしょうか。
連帯保証債務とは?
連帯保証債務とは、金銭を借りた人などが返済できなくなった場合に、本人と連帯して負う借入金の返済義務です(民法458条)。金銭を借りた本人を「主債務者」、貸した人を「債権者」、連帯して返済義務を負う人を「連帯保証人」といいます。
保証人は本人が返済できなくなった場合に返済義務を負うだけと考え、身内や友人に頼まれて保証人になる人もいますが、連帯保証人は通常の保証人と比べ重い責任を負います。
例えば、連帯保証人には、通常の保証人(民法446条以下)に認められている催告の抗弁権(民法452条)※や検索の抗弁権(民法453条)※がありません。そのため、主債務者が返済可能にもかかわらず滞納した場合などでも、債権者から返済を請求される可能性があります。
※催告の抗弁権:債権者がいきなり保証人に返済を要求しても、まずお金を借りた本人に請求するよう求めることができる権利
※検索の抗弁権:主債務者に返済する資力があり請求することが可能にもかかわらず、債権者が保証人に返済を請求した場合に、まず主債務者の財産に強制執行するように求める権利
連帯保証債務は相続財産として相続人に引き継がれる
相続人は、相続開始から、被相続人(亡くなった人)の財産に属する一切の権利義務を承継します(民法896条)。つまり、相続財産には、借金などのマイナス財産や返済の義務も含まれ、連帯保証債務は相続財産として相続人に引き継がれます。
そのため、主債務者が借入金を返済できず、被相続人が亡くなる前から返済を続けていた債務は相続人に引き継がれます。
加えて、連帯保証人としての地位を相続していますので、被相続人が亡くなった後に主債務者がそれまで続けていた返済ができなくなった場合(債務不履行)、そこから連帯保証人として返済する義務を負う可能性があるということです。
被相続人が連帯保証人となっていた場合、相続財産に連帯保証債務以上のプラス財産があれば清算できる場合もありますが、そうでなければ、相続人はいきなり多額の借金を背負うおそれがあります。
連帯保証人を相続する代表的なケース
被相続人はどういった場合に連帯保証人となっているのでしょうか。連帯保証人の地位を相続する代表的なケースについて解説します。
- 金融機関からの借り入れに対する連帯保証人になっている
- 賃貸借契約の際に連帯保証人になっている
- 【ポイント】身元保証人の地位は相続されない
金融機関からの借り入れに対する連帯保証人になっている
経営する会社や友人などが金融機関から借入する際に、連帯保証人となっているケースです。例えば、事業を行っていて金融機関から融資を受ける場合、多額の資金の借入が必要な場合や決算内容が良くない場合、担保を求められることがあります。
担保には、土地や建物に設定する抵当権などの「物的担保」と保証人や連帯保証人などの「人的担保」があります。金融機関が人的担保を求める場合、連帯保証人が一般的です。
また、金融機関からの住宅ローン融資や会社からの借入の場合、債務が高額になっていることもありますので注意が必要です。ただし、住宅ローンは、通常、債務者が団体信用生命保険に加入していますので、亡くなった際の保険金で完済できる場合が多いでしょう。
賃貸借契約の際に連帯保証人になっている
被相続人がマンションを借りるときの賃貸借契約の連帯保証人になっていた場合です。子どもがマンションを借りる際に、親が連帯保証人になることはよくあるケースです。
連帯保証人は、借主が家賃の支払いができなかった場合や何らかの原因で建物を破損した場合の責任などについて賃借人と連帯して責任を負います。
通常、賃貸借契約において求められるのは、保証人ではなく連帯保証人です。そのため、家賃の滞納が発生した場合、貸主は借主に請求することなく連帯保証人への請求も可能です。その際、連帯保証人は、借主に支払い能力があっても請求に応じる必要があります。
また、被相続人の死亡時に既に滞納した家賃がある場合、滞納家賃に加えて遅延損害金が発生しています。遅延損害金の利率は、賃貸契約書の規定に従いますが、上限14.6%で設定されている可能性もあります。(遅延損害金の利率が規定されていない場合は一律3%となります:民法419条1項)。
被相続人が賃貸借契約の連帯保証人となっていた場合、このような義務や責任を相続することとなります
【ポイント】身元保証人の地位は相続されない
保証人や連帯保証人の地位は相続の対象となりますが、身元保証人の地位は相続の対象となりません。
身元保証人は、就職や転職の際に、本人の身元や社会的地位を保証する人です。会社は、本人が会社に何らかの損害を与えた場合のリスクヘッジとして身元保証人を求めます。親以外にも収入面などを含め社会的に信用があれば身元保証人になることは可能です。
身元保証契約は、本人と身元保証人の間の信頼関係を基に成立していると考えられています。この点、相続人と本人との間には、必ずしも信頼関係があるとは限らず、負担する責任の範囲も広いことから、身元保証人の地位は相続の対象となりません。
ただし、例えば、身元保証人が生きている間に会社のお金を使い込み、相続時にすでに発生していた損害賠償金などは具体的な金銭債務であることから相続の対象となります。
相続する保証債務が存在するかを確認すべき理由
被相続人が連帯保証人となっていた場合でも、相続時点では保証債務がなくなっている、もしくは、債務自体がそもそも相続されないものである可能性があります。
その場合、相続人は保証債務を相続することはありませんので、被相続人がどのような保証契約のもと連帯保証人になっていたかを確認することが大切です。ここでは以下のような相続する保証債務が存在するかを確認すべき理由について解説します。
- 契約書がない保証契約は無効の可能性がある
- 被相続人死亡後の継続的保証債務は相続されない場合がある
- 保証債務が時効で消滅している可能性がある
契約書がない保証契約は無効の可能性がある
被相続人の連帯保証債務が、保証契約書(書面)に基づくものでなければ、保証債務が無効の可能性があります。この場合、相続人は連帯保証債務を相続することはありません。
2005年4月1日施行の民法改正によって、保証契約(債権者と保証人との間で交わされる契約)は、「書面でしなければ、その効力は生じない」(民法446条2項)こととなりました。
それ以前は、口頭での約束であっても保証契約は有効に成立していました。ただ、保証契約は債務者が支払わない場合の2次的な責任と考え、付き合いから安易に保証人となるケースもあります。法改正は、書面での契約を義務付けることで慎重な判断を促そうとするものです。
被相続人の保証債務が書面上で締結されたものでなければ保証債務は無効となります。ただし、改正法施行前の契約については適用されませんので、保証契約の締結時期も大切です。契約書類が見つからない場合は、債権者や債務者に書面の有無、契約締結時期を確認してみましょう。
被相続人死亡後の継続的保証債務は相続されない場合がある
被相続人の保証債務が、債権者と債務者の継続的な取引から生じる不特定の債務を保証するものであるときは、相続されない場合があります。
継続的な取引から生じる債務は、連帯保証人の地位を相続した相続人の負担が大きくなり過ぎることから、金額や期限に定めがない継続的保証債務については、被相続人の死亡後に生じた債務は相続されない旨の判例があります。
ただし、継続的保証債務であっても相続開始時点ですでに発生している保証債務については、相続の対象となります。
そのため相続人は、被相続人の保証契約の内容を確認し、相続発生時点で生じている債務とその後に生じた債務を確認する必要があります。
参照:最高裁判所判例集 |裁判所
保証債務が時効で消滅している可能性がある
相続するはずであった被相続人の保証債務が、すでに時効で消滅している可能性もあります。
消滅時効とは?
消滅時効とは、貸金などを請求する権利のある債権者が、一定期間、その権利を行使しなかった場合に、その権利の消滅を認める制度です(民法166条)。
2020年4月1日施行の改正民法によって、「債権者が権利を行使できるようになってから10年」もしくは「債権者が権利を行使できることを知ってから5年」いずれか短い方の期間が経過すると、権利は消滅するとされました。
また、改正前の民法では、消滅時効期間は原則「権利を行使できる時から10年」、その他職業別に消滅時効期間が定められ、消費者金融からの借入金の消滅時効は、一般的に最終返済日から5年です。
そのため、消滅時効を止める債権者から請求が長期間されていない場合などは、消滅時効を主張できる場合があります。
消滅時効は相続人にも引き継がれる
消滅時効期間は、相続が発生しても相続人に引き継がれます。例えば、消滅時効期間10年のうち、被相続人が亡くなった時点で時効期間が8年経過している場合、保証債務を承継後、さらに2年間を経過すれば消滅時効を主張できます。
消滅時効を主張して債務をなくすためには、債権者に対して消滅時効の援用手続きをしなければなりません(民法145条)。援用とは、債権者に内容証明郵便などで、消滅時効期間が経過したことで、債務を返済する義務がなくなったことを通知する手続きです。
被相続人が連帯保証人か調べる方法
では、被相続人が金融機関からの借入や賃貸借契約上の連帯保証人となっている可能性がある場合、どのように調べればよいのでしょうか。ここでは5つの方法を紹介します。
- 親族や会社関係者に確認する
- 郵便物を確認する
- 被相続人のスマホ・PCのメールを確認する
- 預金口座の入出金履歴を確認する
- 信用情報機関で情報開示請求を行う
親族や会社関係者に確認する
被相続人が事業経営者であった場合、会社の融資や投資を確保するため、会社の借入金について連帯保証しているケースがあります。
この場合、会社関係者や事業で取り引きがあった人などに確認することで、連帯保証人になっているか分かる場合があります。同族会社であれば、親族や友人などに聞くことで判明する場合もあります。
また、会社の借入金の連帯保証人となっている場合、会社の事務所内に連帯保証契約の契約書が保管されている可能性も高いですので探してみましょう。
郵便物を確認する
被相続人宛ての郵便物を確認してみましょう。
金融機関や消費者金融など債権者からの郵便物に督促状や通知書が含まれている場合もあります。
また、友人や親族から届いた郵便物に、保証契約時の金銭消費貸借契約書や賃貸借契約書の控えが同封されている場合もあります。
被相続人のスマホ・PCのメールを確認する
被相続人のスマホやPCのメールを確認することも必要です。
最近では、郵送費や印紙代などが節約でき、スピーディーに契約手続きをすすめられることから、オンライン上で賃貸借契約書や金銭消費貸借契約を締結するケースが増えました。
この場合、メールやパソコン、外付けのハードディスクに、契約書(PDFなど)や契約手続きの履歴が残っている可能性があります。また、メールやLINEのやり取りのなかで「連帯保証人になって欲しい」と依頼されているものが見つかる場合もあります。
預金口座の入出金履歴を確認する
預金口座の入出金履歴で、連帯保証債務の返済履歴が確認できる場合があります。
日常の生活費や買い物の支払いでは見たこともない金融機関や消費者金融への振込や友人や知人宛てに振込履歴がある場合は、何らかの債務を抱えていた可能性が高くなります。
被相続人が記帳していない場合やネットバンクの入出金履歴を遡って確認したい場合は金融機関に確認してみましょう。
信用情報機関に情報開示請求する
信用情報機関に情報開示請求する方法です。
被相続人が連帯保証人になっている場合、信用情報機関に連帯保証人である旨が登録されていますので、情報開示請求で分かる場合があります。
信用情報機関には、次の3つがあります。
- 株式会社シー・アイ・シー(CIC)
- 日本信用情報機構(JICC)
- 全国銀行協会(全銀協、KSC)
しかし信用情報機関に登録されているのは、金融機関からの借入について連帯保証人になっている場合であり、個人から借入している場合には連帯保証人になっていてもわかりませんので注意が必要です。
なお情報開示請求には、本人確認書類や被相続人と相続人の関係を証明する書類が必要です。情報機関によって、数百円から千円程度の手数料がかかります。
連帯保証債務を相続する相続人の範囲と割合
連帯保証債務を相続することになった場合、相続人の範囲や各相続人の相続割合はどうなるのでしょうか。連帯保証債務を相続する相続人の範囲と割合について解説します。
- 連帯保証人の相続範囲は原則法定相続人第三位まで含む
- 連帯保証人の相続割合は法定相続分と同じ
連帯保証人の相続範囲は原則法定相続人第三位まで含む
連帯保証人の債務は、原則として法定相続人が承継します。法定相続人とは、民法が定める被相続人の財産を承継する権利がある相続人です(民法886条以下)。
具体的な法定相続人と相続順位は以下のとおりです。
- 第1順位:子もしくはその代襲相続人(直系卑属)
- 第2順位:父母、祖父母(直系尊属)
- 第3順位:兄弟姉妹もしくはその代襲相続人
配偶者は常に相続人となり、第2順位の相続人は第1順位の相続人がいない場合に、第3順位の相続人は、第1順位と第2順位がいない場合に相続人となります。
代襲相続は、子どもが相続開始時点で既に亡くなっている場合にその子ども(被相続人の孫)が代わりに相続人となることです。第3順位の兄弟姉妹が相続人となる場合も同様に、兄弟姉妹がすでに亡くなっている場合、その子ども(被相続人の甥・姪)が代襲相続人となります。
預貯金などプラスの財産だけでなく、被相続人の連帯保証債務についても、この順位で相続することになります。
連帯保証人の相続割合は法定相続分と同じ
それぞれの相続人が、相続する保証債務の割合は、原則として法定相続分によって決まります(民法900条)。
- 子および配偶者が相続人:配偶者1/2 子ども1/2
- 配偶者および父母など(直系尊属)が相続人:配偶者2/3 父母など1/3
- 配偶者および兄弟姉妹が相続人:配偶者3/4 兄弟姉妹1/4
例えば、連帯保証人としての債務が600万円あり、配偶者と子ども3人が相続する場合、それぞれの相続人が返済義務を負う債務は次のとおりです。
- 配偶者:600万円×1/2=300万円
- 子A:600万円×1/2×1/3=100万円
- 子B:600万円×1/2×1/3=100万円
- 子C:600万円×1/2×1/3=100万円
ただし、法定相続分は法定相続人間の分割方法の目安を定めたものです。遺産分割協議を通じて相続人間の話し合いのもと、異なる分割方法も可能です。法定相続人全員の合意形成があれば、1人の相続人が債務のすべてを負担することもできます。
なお、相続人間で特定の相続人に負債を相続させる内容の遺産分割協議をしても、債権者がそれに応じる義務はありませんので、債権者の了承を得ながら進めるようにしましょう。
連帯保証債務は相続放棄で回避できる
相続が発生し、連帯保証人としての返済義務やすでに発生している債務を相続することが難しい場合もあります。こういった場合に相続放棄することも可能です(民法915条)。
相続放棄することで、相続人は初めから相続人ではなかったものとみなされ、預貯金や土地、建物といったプラスの相続財産だけでなく、連帯保証債務を含めたマイナス財産すべてを放棄することになります(民法939条)。
ただし、受取人が指定されている生命保険の死亡保険金や死亡退職金は、相続財産ではなく受取人固有の財産とみなされます。そのため、相続放棄した相続人であっても受け取れる場合があります。
相続放棄に必要な書類は相続放棄申述書・戸籍謄本など
相続放棄するには、被相続人の亡くなったときの住所地を管轄する家庭裁判所に「相続放棄申述書」を提出する必要があります。
その際に必要となる書類は以下のとおりです。
- 被相続人の住民票除票または戸籍附票
- 被相続人の死亡の記載がある戸籍・除籍謄本
- 相続放棄を申し立てる相続人の戸籍謄本(3ヶ月以内のもの)
- 収入印紙800円分
これらは全ての相続人に共通する必要書類です。
相続放棄する人が代襲相続人である場合のほか、被相続人の親、祖父母、兄弟姉妹などの場合、前の順位の相続人がいないことを証明する資料などの書類が必要です。
詳しくは、管轄の家庭裁判所で確認してください。
参照: 相続放棄の申述に必要な書類|裁判所
相続放棄を行うか判断するためのポイント
相続放棄は、連帯債務だけでなくプラスの財産を含めて放棄することになりますので慎重に判断する必要があります。ここでは相続放棄するかどうかを判断するポイントについて解説します。
- 負債が資産以上にあるか
- 主債務者がきちんと返済しているか
- 限定承認が可能か
相続放棄、限定承認は、原則として相続開始を知ってから3ヶ月以内にする必要があり、それぞれの調査を相続人自ら行うのは現実的ではありません。相続放棄や限定承認に詳しい弁護士や司法書士に依頼するほうがよいでしょう。
負債が資産以上にあるか
相続放棄すべきかどうかは、連帯保証債務を含め負債が預貯金などのプラスの財産を上回っているかどうかが判断基準となります。
そのため、連帯保証人である被相続人の債務を相続することになった場合、預貯金や有価証券、土地建物の評価などを含めて相続財産の調査を確実に行うことが大切です。
連帯保証人を相続すると債権者から請求されるのは困ると思われるかもしれません。ただ、マイナス財産とプラス財産をしっかり把握したうえで判断しましょう。
主債務者がきちんと返済しているか
相続放棄するかのポイントとなるのが、主債務者の返済能力や資力です。
連帯保証人の債務を相続したとしても、主債務者が返済をしっかりと続けている場合は、債権者から返済を請求されることはありません。
つまり、連帯保証人の地位を相続したとしても、必ずしも返済義務が生じるとは限らないということです。
そのため、相続放棄するかを判断するには、借入金額だけでなく、主債務者の収入や他の借入金を含めた保有財産、過去の返済履歴(滞納や自己破産の有無等)などを調査し、主債務者の返済能力を判断することが大切になります。
ただし、連帯保証人の地位を相続した相続人は、通常の保証人と異なり、催告の抗弁権や検索の抗弁権、分別の利益※が認められません。そのため、返済を続けていた主債務者が返済不能に陥った場合、債権者から債務全額について返済を求められる可能性があります。
※分別の利益とは、保証人が複数いる場合、1人の保証人が負担する借入金額は保証人の数で按分した金額になること
限定承認が可能か
相続放棄の前に限定承認が可能かを確認することも大切です。
限定承認とは、相続財産に借入金などのマイナス財産がある場合に、その他のプラスの財産の範囲内で返済義務を負う方法です(民法922条)。つまり、相続財産から借金などを清算して、財産が余ればそれを引き継ぐことができます。
相続財産のなかに、実家などどうしても残したいものがある場合や相続財産がプラスかマイナスか不明なときに活用される方法です。
被相続人の連帯保証債務が多額であっても、限定承認することで相続人の財産で返済する責任を負うことがなくなります。
ただし、限定承認は相続人が複数いる場合、単独で行える相続放棄と異なり、相続人全員で家庭裁判所に申述する必要があります。
相続放棄する際に注意すべきこと
相続放棄することで連帯保証人である被相続人の地位や債務を相続することはなくなりますが注意すべき点もあります。
- 相続放棄は家庭裁判所へ3ヶ月以内に申述する必要がある
- 遺産の使い込みや名義変更完了後は相続放棄できない
- 自身が被相続人の連帯保証人だった場合、相続放棄はできるが保証債務は消えない
- 相続放棄すると他次の相続人に引き継がれる
- 生命保険の死亡保険金があるか確認する
相続放棄は家庭裁判所へ3ヶ月以内に申述する必要がある
相続放棄は、自己のために相続の開始を知った日(通常は被相続人が亡くなった日)から3ヶ月以内(熟慮期間といいます)に家庭裁判所で申述しなければなりません(民法915条1項)。そのため、原則として3ヶ月を過ぎると相続放棄できませんので注意が必要です。
ただし、例外的に、家庭裁判所へ相続放棄の期間伸長を申立てることで延長できる場合もありますが、申立てが認められるだけの理由が必要です。
- 相続財産の把握に時間がかかる
- 相続人の所在が不明・連絡がとれない
- 熟慮期間(3ヶ月)経過後に相続人であることを知った
被相続人が連帯保証人であることを知らなかった場合も、期限の延長が認められる可能性は高いでしょう。
なお、期間伸長の申立てをすることなく3ヶ月を経過した場合、単純承認したものとみなされ、プラス・マイナス関係なくすべての財産を承継することになります(民法921条2項)。ただし、期間経過後に負債の存在が判明した場合には相続放棄できる可能性もありますので、そのような場合には弁護士などの専門家に相談しましょう。
遺産の使い込みや名義変更完了後は相続放棄できない
相続放棄の申述期間を経過する以外にも、相続放棄できなくなるケースがあるので注意が必要です。
相続財産を使用・処分した場合
相続財産の一部を消費したり、名義変更をした場合、相続を承認したものとみなされ相続放棄できなくなります
相続放棄は、プラスの財産もマイナス財産も含め、すべての財産を放棄する意思表示です。そのため、財産の一部でも使用、処分する行為は、すべての財産を相続するものとみなされます。
被相続人宛てに来ていた請求書を支払ってしまった場合でも、債務を引き継いだものとして相続放棄できなくなりますので注意が必要です。
遺産分割協議書に押印した場合
遺言書がない場合、相続人間で遺産分割協議を行い、相続遺産の分割方法を決めます。遺産分割協議で合意した内容に押印した相続人は、原則として相続放棄できません。
相続人間の話し合いに参加し、合意内容に押印したことで自らが相続人であることを認めたことになります。
自身が被相続人の連帯保証人だった場合、相続放棄はできるが保証債務は消えない
被相続人が連帯保証人ではなく債務者であり、相続人が被相続人の連帯保証人であった場合、相続放棄しても連帯保証債務は消滅しません。
なぜなら、相続放棄しても主債務がなくなるわけではなく、他の相続人が相続する、もしくは全員が相続放棄した場合、主債務は相続財産法人※となり、なくなるわけではありません(民法951条)。
つまり、主債務が存続している以上、連帯保証人の債務もなくなることはありません。
また、連帯保証契約は、債権者と連帯保証人との契約であり、債務者と債権者の主契約とは別の契約ですので、相続放棄しても連帯保証契約の債務は残ります。
相続財産法人
相続放棄すると他の相続人に引き継がれる
相続人が複数いる場合、相続放棄すると、連帯保証人の債務は他の相続人に引き継がれることがあります。
例えば、連帯保証人である被相続人が残した1,000万円の債務を、配偶者と長男、長女の3人が相続した場合、それぞれの法定相続分は、配偶者500万円、長男250万円、長女250万円です。
このとき、長女が相続放棄すると、長女は最初から相続人でなかったものとみなされますので、相続人は配偶者と長男となり、それぞれ500万円の債務を相続することになります。
また、例えば、連帯保証人である被相続人の債務を配偶者と子どもの2人が相続し、2人とも相続放棄した場合、債務を相続するのは次の順位(第2順位)である父母です。
このとき、すでに父母が亡くなっていた場合、次の順位(第3順位)の被相続人の兄弟姉妹が相続人となり債務を相続します。
このように、相続放棄することによって、同順位あるいは次の順位以降の相続人にも影響がでますので、相続人同士でトラブルになる可能性があります。
そのため、連帯保証人の債務を相続放棄するにしても、事前に財産の状況などを含めて知らせておくことが大切です。
生命保険の死亡保険金があるか確認する
相続放棄するにあたり、生命保険の死亡保険金があるかを確認しましょう。
生命保険の受取人に指定されている場合、生命保険金は被相続人の相続財産には含まれず、受取人固有の財産とみなされます。そのため、相続放棄の対象となる財産には含まれず、相続放棄しても受け取ることができます。
相続財産の状況によっては、連帯保証人である被相続人の債務を放棄しながら生命保険金を受け取れます。
ただし、死亡保険金は相続財産にはあたりませんが、被相続人の死亡によって承継する財産であることから「みなし相続財産」という扱いです。そのため税務上は、相続財産として相続税の課税対象にはなります。
連帯保証人だったことを知らずに相続してしまった場合の対策
ここまで相続放棄について解説しましたが、では連帯保証人だったことを知らずに相続してしまった場合、どのような対策が考えられるのでしょうか。
- 全額返済して求償請求を行う
- 債権者に減額交渉を行う
- 任意整理を行う
- 個人再生の申立てを行う
- 自己破産を行う
順に解説します。
全額返済して主債務者に求償権を行使する
1つめの対策は、相続した連帯保証人の債務を返済して、主債務者に求償権を行使する方法です。
求償権とは、債務者の代わりに保証人が借金などの返済を行った場合に、主債務者や他の連帯債務者に対して返済を求める権利です(民法459条、442条)。債務の一部の返済をした場合でも請求は可能です。
連帯保証人は、主債務者が返済できない場合、債権者から返済を請求されれば応じなければなりません。そのため、債務の一部もしくは全部返済したうえで、主債務者や連帯債務者(他の相続人等)に請求するという方法です。
ただし、予告なく求償権を行使すると主債務者や他の相続人とトラブルとなる可能性もありますので、内容証明郵便などを利用し事前に連絡したほうがよいでしょう。
連帯保証人として債権者の請求に応じて返済した場合でも、債務者に対して求償権を行使できることを知っておくことは重要です。
債権者に減額交渉を行う
相続した債務の返済が厳しい場合、債権者と減額交渉する方法もあります。交渉ですので、必ずしも応じてもらえるとは限りませんが、債権額の減額だけでなく、返済条件の見直しなどに応じてもらえる可能性もあります。
債権者が個人の場合のほか、金融機関や消費者金融などさまざまなケースがありますが、専門的な知識が必要な場合は弁護士に相談してもよいでしょう。
任意整理を行う
債務整理の1つである任意整理は、裁判手続きによらずに貸金業者と交渉し、将来の利息カットや返済計画の見直しなどの和解を成立させる方法です。
債務整理のなかではもっとも利用されている方法で、多くの場合、将来利息や遅延損害金の減額または免除してもらい、返済が継続できる条件の返済方法での合意を目指します。元本が減るケースは少なく、債務のうち利息が占める割合が小さい場合は、任意整理の効果は少なくなります。
また、任意整理の場合も完済から5年程度は信用情報機関に事故情報として登録されますので、クレジットカードの新規発行やローンを組むことはできません。
任意整理は、あくまでも交渉ですので相手の同意を得られるとは限りませんが、債権者に納得してもらえる返済プランで交渉するためにも弁護士などの専門家に依頼することがおすすめです。
個人再生の申し立てを行う
債務の弁済が厳しい場合に、債務整理の1つである個人再生の申立てを行うことが考えられます。
個人再生は、裁判所の認可決定にもとづき、借入額を大幅に減額し返済する手続きです。
債務者は、3~5年の期間をかけて残りの債務を返済していきます。
個人再生では、負債額や収入などの基準から再生計画案を作成しますが、負債額から計算した場合の基準は以下のとおりです。
- 負債額が100万円未満の場合:負債額全額
- 負債額が100万円以上500万円以下の場合:100万円
- 負債額が500万円超1500万円以下の場合:負債額の5分の1
- 負債額が1500万円超3000万円以下の場合:300万円
- 負債額が3000万円超5000万円以下の場合:負債額の10分の1
負債額に応じて、およそ5分の1〜10分の1に債務を圧縮できます。
ただし、個人再生後は、個人信用情報に登録されますので、5年程度は新たな借入やクレジットカードの作成はできません。
また、カーローンやショッピングローンなどを利用して購入したもののうち、代金の支払いが終わっていないものは、債権者に回収され、手元に残せない可能性があります。
自己破産を行う
さまざまな対策を講じても返済が厳しい場合は、自己破産が考えられます。
自己破産は、裁判所に破産申し立てをしてすべての債務をゼロにする手続きです。
自己破産できるのは、債務者の負債のほか収入や資産などの状況を総合的に判断し、裁判所によって支払いができないと判断された場合に可能となります。
自己破産すると、税金や養育費などの非免責債権を除いて借金をなくすことができますが、信用情報期機関へ登録され7年程度はローンやクレジットカードの作成はできません。また、自己破産の手続きが完了するまで就けなくなる一部の職業があります。
また、自己破産は、一定の財産がある場合、売却するなどで現金化して債権者の返済にあてることが必要です。土地、建物の不動産は原則として処分しなければならず、その他、99万円を超える現金のほか、資産価値が20万円を超える車やバイクなどの資産が処分対象となります。
まとめ
被相続人が連帯保証人となっていた場合、相続人は、債権者と連帯保証人の間で締結されている連帯保証契約について確認が必要です。連帯保証契約が有効なのか、債務がまだ存在するものであるのかをしっかり確認しましょう。
そのうえで、被相続人の連帯保証人を相続するとなった場合、単純承認、相続放棄、限定承認という方法があります。
連帯保証債務を相続したくないとしても、相続放棄すべきか否かはプラスの財産を含めすべての相続財産から判断しなければなりません。
相続放棄するにも、他の相続人への影響や相続放棄できる熟慮期間もありますので、トラブルにならないように慎重に判断することが大切です。
また、被相続人の債務を相続したものの、返済が厳しくなった場合には、債権者との交渉のほか、法的な手続きを含めて債務整理の方法はいくつかあります。
債務整理の方法それぞれについて、メリットとデメリット、手続きをすすめるための条件があります。自分がとれる方法は何か、どの方法がふさわしいかの判断は簡単ではありません。弁護士など専門家に相談してみましょう。
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