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相続放棄したら借金返済しなくて良い?相続放棄の注意点、できない場合の対処法

相続放棄したら借金返済しなくて良い?相続放棄の注意点、できない場合の対処法

相続放棄をした場合、被相続人(亡くなった人)が残した借金はどうなるのでしょうか?結論からいえば、相続放棄をすれば残った借金を返済する必要はありません。

ただし、相続放棄によって他の法定相続人に借金が引き継がれるため、法定相続人の範囲を把握した上で、関係する人と相談したり、相続放棄を希望することを報告したりする必要があります。

今回は、相続放棄をした場合に残った借金がどうなり、誰が支払うのか、詳しく解説します。

また、相続放棄を選択できないケースと対処法、相続放棄の注意点、手続きの流れも解説します。

相続放棄後に残された借金について気になる方は、ぜひ参考にしてください。

相続放棄した借金は返済しなくてよい

相続放棄を選択した場合、被相続人の借金や債務を返済する必要はありません。

なぜなら、相続放棄によって相続人という立場ではなくなるからです。

相続放棄とは、被相続人(死亡した人)の財産や負債を一切相続しない意思を表明することです。

相続を放棄した場合、死亡した人の資産や負債は一切継承しないことになります。つまりプラスの財産を引き継げなくなりますが、借金といったマイナスの財産も引き継ぐ必要がなくなります。

ただし、被相続人の借金を返済する必要がないだけで、借金の存在自体は残ります。そのため、相続放棄をした場合、他の法定相続人に借金が引き継がれる可能性があります。

なお、相続対象となる借金の一例は次に挙げる通りです。

  • ローン
  • サラ金、カードローン
  • 滞納している税金、社会保険料
  • 滞納している自宅の家賃
  • 被相続人が手掛けていた事業の負債(買掛金、未払いのリース料)
  • 損害賠償債務
  • 保証債務

相続放棄した借金は他の法定相続人に引き継がれる

相続放棄をすると残された借金は、他の法定相続人に引き継がれます。

法定相続人とは、民法によって定められた被相続人の財産を相続できる人を指します。

法定相続人の範囲について詳しくは後述します。

一般的な相続では、相続人が複数存在する場合、相続される借金の金額は相続人の人数に応じて分割されます。

そのため、相続人の誰かが相続放棄すると、他の相続人が負担する借金の割合が増えたり、自分の次の相続順位の人に返済義務が発生したりすることになります。

例えば、被相続人に2,000万円の借金があり、残された妻と子ども2人に通常の相続が行われた場合、家族が負担する借金の金額は次のようになります。

法定相続人 相続される借金の金額
妻(被相続人の配偶者) 1,000万円(2,000万円の2分の1)
子ども1 500万円(2,000万円の4分1)
子ども2 500万円(2,000万円の4分1)

また、この例で子どもの1人が相続放棄した場合、残りの家族が負担する借金の金額は次のようになります。

法定相続人 相続される借金の金額
妻(被相続人の配偶者) 1,000万円(2,000万円の2分の1)
子ども1 1,000万円(2,000万円の2分の1)
子ども2(相続放棄=相続人ではなくなる) なし

なお、相続放棄をした場合、代襲相続は発生しません。

代襲相続とは、相続の開始前に相続人が死亡している場合、その相続人の子どもが代わりに相続人になる制度のことです。

典型的なパターンとして、親よりも子どもが先に死亡しているケースがあります。

子どもが相続人になる予定であっても、すでに死亡しているため相続人にはなりません。しかし、子どもに子ども(被相続人の孫)がいる場合、その孫が代襲相続によって相続人となります。

相続放棄をした法定相続人は、始めから相続する権利を持っていなかったという扱いになり、代襲相続も発生しません。

借金を相続する法定相続人の範囲とは

法定相続人の範囲は法律によって決まっています。

法定相続人になるのは被相続人の配偶者と被相続人の血族で、相続順位が定められています。相続順位と該当する血族は以下の通りです。

相続順位 血族
第1順位 被相続人の子ども、その代襲相続人(直系卑属)
第2順位 被相続人の親、祖父母(直系尊属)
第3順位 被相続人の兄弟姉妹、その代襲相続人

被相続人に子どもがいる場合、子どもが相続の第一順位となり、被相続人に子どもがいない場合や子どもが全員相続放棄した場合は、被相続人の両親・祖父母が相続人(相続第二順位)となります。

相続第3順位は被相続人の兄弟姉妹・甥・姪となります。

被相続人の配偶者は必ず相続人となり、血族に関しては相続順位が高い人が相続人となります。

なお、同じ順位の人が複数存在する場合、その全員が相続人となります。また、順位が高い人が1人でも存在すれば、後の順位の人が相続人になることはありません。

法定相続人の範囲を確認する場合は、死亡した人の、生まれてから亡くなるまでの連続した戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)を使用します。

相続人全員が相続放棄した借金は相続財産清算人に管理される

相続人全員が相続を放棄した場合に残された借金は、家庭裁判所が選任した相続財産清算人が管理することになります。

相続財産清算人は被相続人の財産を調査して、黒字の財産を換金して債権者に配当(返済)します。

なお、債権者に返済した後にさらに財産が残っている場合、手続きによって国庫帰属(国が所持するもの)となります。

また、資産を換金しても借金が完済できない場合は、連帯保証人が返済義務を負います。相続人の誰かが連帯保証人となっている場合、相続を放棄しても返済義務は消滅しません。

一方、被相続人が誰かの借金の連帯保証人となっていた場合、相続を放棄すれば連帯保証人の立場を引き継ぐ必要はありません。

相続財産清算人は故人の相続財産の調査や管理を行う人

相続財産清算人とは、死亡した人の相続財産の調査や管理を行う人のことです。

相続財産の管理のほか、相続人の存否の確定、相続財産から弁済を受けるべき債権者や受遺者の確定、相続人不在時の相続財産の精算や残った財産の国庫への引き継ぎといった職務を担当します。

相続財産清算人は家庭裁判所が選任しますが、選任してもらうためには相続財産清算人選任審理の申立てが必要になります。

相続財産清算人の選任申立てができるのは、被相続人の利害関係人もしくは検察官です。利害関係人となるのは、次に該当する人です。

利害関係人 内容
特別縁故者 ・生計を共にしていた内縁の妻にあたる人物
・事実上の養子にあたる人物
・被相続人の療養介護を担当した人物
相続債権者 被相続人に対して債権を持っている人物(借金の債権者)
相続財産を管理している人 相続を放棄したが、他に相続人がおらず相続財産の管理を義務付けられている人物
不動産の共有者 被相続人と共有の不動産があり、売却などの処分を必要とする人物

なお、検察官が申立てられるのは、国が相続財産清算人を必要とする場合があるためです。

相続財産清算人の申立ては、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所で行います。

ちなみに、相続財産清算人は、かつて相続財産管理人と呼ばれていましたが、民法改定により令和5年4月1日から名称が相続財産清算人に変更されました。

相続財産清算人が選任されない場合もある

相続放棄によって相続人が1人も存在しない場合でも、相続財産清算人が選任されないケースもあります。

例えば、利害関係人や検察官が相続財産清算人の選任申立てを行わなかった場合や、予納金を支払わない場合は、相続財産清算人は選任されません。

例えば借金だけが残された場合、相続財産清算人選任を申立てても借金が返済されることはありません。そのため、清算人選任を申立てても仕方がないわけです。

また、相続財産清算人選任の申立てには以下の費用が発生します。

内訳 金額
収入印紙 800円
連絡用の郵便切手 1,000円~2,000円程度
官報公告料 5,075円
予納金 20万円~100万円程度

被相続人の財産の内容によっては予納金の納付が必要となり、目安の金額は20万円~100万円程度です。予納金が支払われなかった場合も、相続財産清算人は選任されません。

なお、予納金は相続財産清算人の選任時に、常に必要とは限りません。

予納金は、相続財産清算人が相続財産を精算・管理するのに必要な費用・報酬が、被相続人の財産から捻出できない場合や不足する場合に納める必要があります。

相続財産から相続財産清算人へ報酬が支払える場合は、予納金は返還されます。

その他にも、以下に該当するケースでは相続財産清算人は選任されません。

  • 相続人が存在するのに誤って清算人を申立てた場合(戸籍謄本の読み間違いや相続人の範囲の認識違い)
  • 全部包括受遺者が存在する場合(被相続人が全財産を遺贈している場合)
  • 相続財産清算人の申立者に申立ての権限がない場合

相続放棄できないケース

相続放棄したい場合でも、状況によっては相続放棄ができない場合があります。具体的には次に該当するケースです。

  • 相続人が相続財産の全部または一部を処分した場合
  • 相続放棄の手続き前や最中に借金の返済をした場合
  • 相続発生の認知から3ヶ月過ぎた場合

それぞれ詳しく解説します。

相続人が相続財産の全部または一部を処分した場合

相続人が相続財産の全部もしくは一部を処分した場合、相続放棄はできません。

民法第921条1号により、相続人が相続した不動産の売却や、被相続人の銀行預金を解約して使用するなど、相続財産に手を付けてしまった場合、単純承認(相続財産や債務を無条件・無制限にすべて引き継ぐこと)したとみなされてしまうためです。

相続放棄は一切の財産について相続を放棄することであり、財産の一部でも使用した場合は、財産を相続したものと判断されます。

この場合、家庭裁判所の相続放棄を申し立てても、原則受理されません。

相続財産の処分に当たる具体例は次の通りです。

  • 相続財産の消費
  • 相続財産の名義を被相続人から自分名義に変更
  • 相続財産から被相続人の借金、債務の支払い
  • 遺産分割協議を行う
  • 被相続人が所有していた債権に対して債務者から支払いを受ける
  • 税金、保険料などの還付金を受け取る

相続放棄する場合は、上記の行為を避けるほか、相続放棄後にも財産を保管して使用しないようにしましょう。

参考:民法第921条 法定単純承認|e-GOV 法令検索

相続放棄の手続き前や最中に借金の返済をした場合

相続放棄の手続きを始める前や手続きの最中に、被相続人の借金を返済した場合、金額にかかわらず単純承認したと判断されるケースがあります。

単純承認となった場合、被相続人の借金の返済義務を負う可能性が高いため、注意が必要です。

借金を返済するケースとしては、金融機関や保証機関など、被相続人の借入先や関係機関から返済に関する通知が送付され、それを見た相続人が借金の全額もしくは一部を返済してしまう場合などが考えられます。

上記のような通知があったとしても、借金を返済するかどうかは、財産を相続するかどうかを決めるまで避けた方がいいでしょう。

なお、被相続人の借金の債権者に対して、相続放棄が決定したことを通知すれば、督促の連絡や通知がくることはなくなります。

相続発生の認知から3ヶ月過ぎた場合

相続が発生したことを知った時点から3ヶ月が経過している場合、相続放棄はできません。

3ヶ月以内(熟慮期間)に相続放棄もしくは限定承認の手続きを取らない場合、自動的に単純承認となるためです。

相続放棄を希望する場合、被相続人が死亡した事実を知ってから3ヶ月以内に家庭裁判所に相続放棄を申立てる必要があります。

そのため、自分が相続人にあたる場合は、亡くなった人の財産の状況を早めに調査する必要があります。財産を超える債務がある場合は、熟慮期間の経過前に相続放棄の申立てを行いましょう。

また、熟慮期間が足りない場合は、期間内に家庭裁判所に熟慮期間の伸長を申立てれば、約1ヶ月~3ヶ月の伸長が認められる場合があります。

さらに、次に挙げるようなケースでは、3ヶ月が経過した後でも相続放棄が認められます。

  • 理由があって被相続人に借金がないと信じていた場合
  • 理由があって相続財産が全くないと信じていた場合
  • 相続財産を調べることが著しく難しい場合

被相続人に借金をしている様子がないケースや、自宅に督促が届かないケースのように、被相続人の借金の存在を知る術がない場合は、3ヶ月を経過しても相続放棄が認められやすいといえます。

また、被相続人がプラスの財産を遺すことがなく、相続財産を全く所有していないと相続人が信じているケースでは、相続放棄の必要性を感じず、手続きを行わないかもしれません。

このような場合、3ヶ月が経過した後に被相続人の借金が発覚した場合でも、相続放棄が認められるケースが多くなっています。

さらに、被相続人と長年交流していなかったり、面識があまりない親族の相続人になったりした場合など、相続財産の調査が難しくなることがあります。

相続財産の調査が著しく難しい場合は、家庭裁判所に熟慮期間の伸長を行うことで、3ヶ月を越えた後でも相続放棄が認められやすいといえます。

ただし、上記のようなケースに対して、個人で対応するのが難しいため、弁護士に相談して対応することをおすすめします。

相続放棄できない場合の借金に対する対処法

被相続人に債務があるものの、相続放棄したくてもできない場合の対処法について解説します。具体的な対処法は次の通りです。

  • 限定承認を行うことを視野に入れる
  • 返済負担を軽減するために債務整理を行う

それぞれ詳しく解説します。

限定承認を行うことを視野に入れる

相続放棄ができない場合は、限定承認について検討しましょう。

限定承認とは、相続によって得たプラスの財産を限度として、マイナスの財産(借金)を引き継ぐことです。

例えば、被相続人の借金が400万円、預金が150万円を相続した場合、限定承認によって預金150万円を借金の返済に充てれば、借金の残り250万円の返済義務が免除されます。

限定承認は被相続人の資産状況がはっきりと分からないケースで利用しやすい相続方法です。限定承認を利用すれば、被相続人に多額の借金があった場合でも、相続人の財産で返済する必要がなく、安心感を得やすいでしょう。

一方で、限定承認には相続人全員の手続きが必要になるほか、財産目録の作成や清算手続きの煩雑さがあることから、利用されることが少ない相続方法となっています。

また、限定承認は相続の発生を認知した時点から3ヶ月以内の手続きが必要になるため、被相続人の財産状況については早めに調べておく必要があるでしょう。

返済負担を軽減するために債務整理を行う

相続放棄が認められず、相続した借金の金額が多い場合は、債務整理を検討しましょう。

債務整理とは借金の減額や免除、支払いの猶予などを目的として、法律を使い債務を整理して債務者の経済生活を建て直すための手続きのことをいいます。

債務整理の共通のメリットは、返済金額が減額されたり、免除されたりすることで、返済にかかる負担が軽減されることです。

また、弁護士を通じて債権者に受任通知が送付されることで、督促や取り立てが一時的になくなる点もメリットです。

一方、債務整理を行ったことは個人信用情報に登録されるため、5~7年程度は新しくローンを組んだり、クレジットカードを作成したりできなくなる点がデメリットです。

一般的な債務整理の方法として、以下の3つがあります。

債務整理の種類 内容
任意整理 債権者と交渉して将来の利息や遅延損害金の免除を目指す方法。
毎月の返済額を下げたい場合の手段。
自己破産(破産手続) 裁判所に申立てて借金を全額免除してもらうための手続き。
借金をまったく返済できない場合の手段。
個人再生(個人再生手続) 裁判所に申立て借金を8~9割減額してもらうための手続き。
住宅を守りながら借金を減額したい場合の手段。

借金の元金を3年から5年で返済できる場合は、任意整理が最初の選択肢となります。3年から5年での返済が難しい場合は、自身の収入や持ち家の有無、財産の有無などから考えて、自己破産もしくは個人再生の利用を検討した方がいいでしょう。

さらに詳しい状況別での債務整理の手段の選び方は以下の通りです。

選択する債務整理の種類 状況
任意整理 ・借入の元本を3年から5年で返済できる収入がある
・債務整理に手間や時間をかけたくない
・債務整理をしたことを周りに知られたくない
・自宅や自家用車、保証人などへの影響を最小限にしたい
自己破産 ・借金を返済できるめどがついていない
・借金を返済するための安定した収入がない
・収入が増える見込みがない
・自宅や自家用車など20万円の価値がある自分名義の財産を持っていない
・すでに給与や財産が差し押さえられている
個人再生 ・借金の金額が多く任意整理での完済は難しいが、ある程度の収入がある
・自宅を購入し住宅ローンを返済している最中である
・自宅や自家用車を残したい

上記の状況を参考に、どの手段を選択するべきか検討しましょう。

また、いずれの手段を取る場合でも、弁護士に相談することをおすすめします。任意整理の場合は交渉を代行してもらえるほか、弁護士が対応を受けた場合に送付させる受任通知によって督促や取り立てを一時的に止められます。

また、自己破産や個人再生の手続きも代行してもらえます。

債務整理が必要な場合は、弁護士に相談してから対応を決めるといいでしょう。

相続放棄をする場合の注意点

相続財産のうち、借金の金額が大きい場合は、相続放棄を検討した方がいいでしょう。ただし、相続放棄をする場合、以下の注意点があります。

  • プラスの財産も相続できなくなる
  • 一度相続放棄すると撤回できない
  • 他の相続人に取り立てが行く可能性がある
  • 不動産の管理責任が残る場合がある
  • 相続放棄は相続人全員でしなければならない

それぞれ詳しく見ていきましょう。

プラスの財産も相続できなくなる

相続を放棄すると、資産も相続できなくなります。

相続放棄とは、相続人である立場を放棄する行為であり、本来相続可能だったものはすべて相続できなくなります。

被相続人が借金を残したものの財産も残しており、借金を弁済しても財産が残る場合であっても、一度相続を放棄した場合は金銭や不動産などの財産の相続は不可能です。

一度相続放棄すると撤回できない

また、一度相続放棄をすると、原則的に撤回できません。そのため、被相続人の財産を入念に確認する必要があります。

これは、民法第919条一項にて定められています。

というのも、制約なく相続放棄の撤回が認められると、新たに相続権を得た相続人や債権者など、利害関係がある人の法的な立場が相当不安定になってしまうためです。

そのため、相続放棄を選択する場合は、慎重な検討を重ねて決断する必要があります。

なお、例外的に相続放棄が認められるケースもあります。具体的には以下に該当するケースです。

  • 相続放棄の申述が受理される前に相続放棄を撤回するケース
  • 詐欺や脅迫によって相続放棄をさせられたケース
  • 未成年の相続人が法定代理人の同意を得ないまま相続放棄を選択したケース
  • 成年後見人が自分で相続放棄を選択したケース
  • 被保佐人が保佐人の同意を得ないまま相続放棄を選択したケース
  • 被後見人や後見人が後見監督人の同意を得ないまま相続放棄を選択したケース

上記のようなケースで相続放棄を撤回できる期間は、追認(過去にさかのぼってその事実を認めること)できる時から6ヶ月以内もしくは相続放棄のときから10年以内で、それ以降は時効で権利が消滅します。

参考:民法第919条一項 相続の承認及び放棄の撤回及び取消し|e-GOV 法令検索

他の相続人に取り立てが行く可能性がある

相続放棄を選択した場合、他の法定相続人とトラブルになる可能性があります。

相続放棄によって、次の相続順位の人に相続の権利が移動するためです。

例えば、被相続人である自分の父が借金を残して他界し、子どもが相続放棄をすると、残された借金は次の相続順位にあたる祖父母に回ります。

祖父母が借金の事実を知らずに相続したり、単純承認(個人の相続財産を無条件ですべて相続すること)したりした場合、祖父母が借金を返済する必要があります。

また、相続放棄を選択したことは他の相続人に通達する義務がないため、祖父母など他の相続人が急に取り立てを受けてトラブルになるケースがあるのです。

そのため、相続放棄の意思がある場合は、他の相続人に伝えた方がいいでしょう。また、相続財産が借金のみとなる場合は、相続人全員で相続放棄を行うのがおすすめです。

相続放棄の影響が他の相続人にも及ぶということをよく理解しておくことが大切です。

不動産の管理責任が残る場合がある

被相続人が所有していた不動産の管理責任が残るケースがあるのも、相続放棄する際の注意点です。

2023年4月の法改定前までは、相続人が1人しかいない場合、その人物には相続財産清算人(旧相続財産管理)が選任されるまで、被相続人が所有していた空き家の管理責任が発生していました。

つまり、唯一の相続人が自分だった場合、相続放棄をした場合でも空き家などの不動産の管理義務から免れることができなかったのです。そして、管理義務が発生している間に空き家を放置して損害が生じた場合には、その責任を負わなければなりませんでした。

そのため、不動産の管理義務から免れるために、相続人でありながら相続財産清算人の選任申立てを行う必要がありました。

2023年4月の法改定によって、相続関係にある人の不動産の管理義務について、以下のように定められました。

  • 被相続人が所有していた不動産を現に占有している者には、不動産の保存義務が生じる
  • 被相続人が所有していた不動産を現に占有している者でなければ、相続放棄で管理責任を免れる
  • 不動産の管理義務から保存義務に変更となる
  • 現に占有している者が相続放棄をする場合は手続きが必要
  • 相続財産にあたる土地を国庫帰属とする場合の手続きは簡略化する

※現に占有している者とは、被相続人(亡くなった人)と一緒に暮らしていた人や、事実上不動産の管理や支配をしてきた人を指します。

つまり、2023年4月以降は、相続関係にある人が相続放棄をした場合、現に占有している者でなければ不動産の管理義務は発生せず、国に土地を引き取ってもらえることになりました。

ただし、自分が被相続人と一緒に住むなど、事実上管理や支配の関係である現に占有している人に該当する場合、残された不動産の保存義務が発生します。

なお、法改定前は管理義務でしたが、現在は保存義務に変更されています。ただし、内容的に大きな違いはありません。

不動産の管理義務(保存義務)とは、相続財産の管理を継続して行うことで、土地や建物のチェックや税金の支払い、不法占有物・占有者の排除などを指します。

不動産は、近隣の迷惑とならないよう定期的な管理が必要です。不動産を適切に管理せず、建物が倒壊して他人がけがをした場合や、火災が発生した場合は、損害賠償を請求される可能性もあるため、注意しなければなりません。

相続放棄は相続人全員でしなければならない

相続放棄する場合は、関係する相続人全員での相続放棄を検討しましょう。

被相続人が残した財産のうち、借金や債務などのマイナスの財産が多くを占めている場合、相続放棄を選択すれば、相続人が残された借金を返済せずに済みます。

ただし、1人の相続人が相続放棄をした場合、残された借金は他の相続人に回るため、相続放棄をしなかった人がすべての借金や債務の返済義務を背負うことになり、トラブルに発展する可能性があります。

明らかに借金の方が多い場合や、借金の額が大きい場合など、返済に大きな負担がかかる場合は、どの相続人とっても相続放棄が妥当な選択となるでしょう。

相続人全員とよく相談しながら、相続放棄の是非について決めるようにしましょう。

相続放棄における手続きの流れ

ここでは相続放棄を実行するための手続きの流れについて解説します。具体的な流れは以下の通りです。

  • 1.相続する財産を調査する
  • 2.相続の方法を決める
  • 3.必要書類を準備した上で家庭裁判所に相続放棄を申告する
  • 4.相続放棄申述受理通知書を受け取る

それぞれ詳しく見ていきましょう。

1.相続する財産を調査する

相続放棄をするかどうか判断するために、被相続人が残した財産を調査します。

なお、財産にはプラスの財産とマイナスの財産があります。プラスの財産として預貯金、株式や投資信託などの金融商品、不動産があります。

預貯金や金融商品の調べ方は以下の通りです。

  • 通帳やキャッシュカードがないか調べる
  • 銀行や金融機関に問い合わせて残高を開示してもらう
  • 銀行や証券会社から残高証明書を取得する
  • 証券口座がないかを調べる

また、不動産の調べ方は以下の通りです。

  • 登記事項証明書(登記簿謄本)を取得して権利関係を確認する
  • 固定資産税の納税通知書から評価額を調べる
  • 固定資産税納税通知書がない場合は固定資産評価証明書を取り寄せる

その他、被相続人が所有していた車や貴金属に財産的な価値がある場合は相続財産となるので、専門業者に査定を依頼して価値を調べましょう。

次に、借金や債務がないかも調査します。調べ方は以下の通りです。

  • 借用書や借入残高を示す書類がないか調べる
  • 消費者金融などからの郵送物がないか調べる
  • 税金や健康保険料の未納がないか調べたり、問い合わせたりする
  • 通帳に借入や弁済の履歴がないか調べる
  • 借入先が分からない場合は信用情報登録機関に問い合わせる

上記のようにプラスの財産とマイナスの財産(借金)の有無と金額を確認しましょう。

2.相続の方法を決める

被相続人が残した財産の詳細を把握したら、相続の方法を検討します。

相続の方法には以下のものがあります。

  • 相続放棄
  • 単純承認
  • 限定承認

財産を調べてプラスの資産よりも借金が多い場合は相続放棄を選択できます。ただし、相続放棄を選択した場合、すべての相続権を失います。

プラスの資産が明らかに多い場合は単純承認を選択するといいでしょう。単純承認とは財産・借金を無条件ですべて相続する方法です。ただし、後から借金が見つかった場合、返済義務を負う可能性があるため注意が必要です。

その他には、プラスの財産を上限に債務も相続する限定承認という方法があります。相続後に新たな借入が見つかる可能性がある場合は利用しやすい相続方法です。

なお、限定承認を選択する場合は、相続人全員の手続き(限定承認の申述)が必要です。

3.必要書類を準備した上で家庭裁判所に相続放棄を申告する

相続方法を検討した上で相続放棄を選択する場合は、家庭裁判所に申告します。

相続放棄を申告するために必要な書類の一例は以下の通りです。

  • 相続放棄申述書
  • 被相続人(亡くなった人)の住民票(除票)または戸籍の附票
  • 相続放棄する相続人の戸籍謄本
  • 被相続人(亡くなった人)の戸籍謄本

なお、相続放棄を希望する人と亡くなった人の親族関係によって提出する書類が異なるため、事前に確認しましょう。

必要書類を準備した上で、被相続人が生前最後に居住していた住所地を管轄する家庭裁判所に相続放棄を申告します。

相続放棄の申告方法は、家庭裁判所の窓口を訪問するか、郵送で提出するかのいずれかです。

また、相続放棄の申請には収入印紙代は800円、郵便切手は申述人1人につき470円(84円切手5枚、10円切手5枚)の同封が必要です。

4.相続放棄申述受理通知書を受け取る

相続放棄の申述が完了したら、家庭裁判所から照会書が送付されます。

照会書は申述人が自分の意志で相続放棄をしたかを確認するための書類です。家庭裁判所が相続放棄の申告を受理するかどうかを判断する大切な書類となるため、指定期日までに必ず回答して返送しましょう。

返送後は家庭裁判所から相続放棄申述受理通知書が送付されます。この書類を受け取った時点で、相続放棄の手続きは完了します。

手続きが完了した後は、債権者に相続放棄が完了した旨を通知します。なお、相続放棄をした証明は相続放棄申述受理通知書のコピーの提出でも認められますが、金融機関によっては家庭裁判所で取得可能な相続放棄受理証明書の原本の提出が必要になるケースがあります。

まとめ

生前贈与を選択した場合、被相続人が残した借金は返済する必要はありません。

ただし、相続放棄によって借金が他の法定相続人に引き継がれるため、相続放棄は他の相続人とも相談した上で是非を判断することが大切です。

相続放棄によって、他の相続人とのトラブルにならないよう、十分に注意しましょう。

また、相続放棄ができない場合には限定承認や債務整理などの手段を取ることを検討してください。

相続放棄に関するよくある質問

被相続人に借金があることを知らなかった場合はどうする?

相続では、借金の取り立てがあって初めて被相続人に借金があったことを知るケースがあります。

被相続人に借金があることを知らなかった場合、借金があることを知ってから3ヶ月以内であれば相続放棄ができる可能性があります。

具体的には、被相続人に借金がないと信じていたケースです。この場合、借金の存在を知ってから3ヶ月以内であれば、相続放棄が認められる場合があります。

ただし、借金がないことを信じていたことや、信じるに値する理由を家庭裁判所に認めてもらう必要があります。

また、親との交流がなく、借金の取り立てによって親が死亡したことを知った場合、相続の発生を知ったのは借金の取り立てのタイミングとなるため、その時点から3ヶ月以内であれば相続放棄が可能です。

ただし、こちらも親との関係性や親の死亡を認知していなかった事情を家庭裁判所に説明して、認めてもらう必要があります。

なお、被相続人の借金について把握せず、相続財産を処分していた場合は、相続放棄が認められない場合もあるため、注意しましょう。

相続放棄しても受け取れる財産はある?

相続放棄をした場合、基本的にはすべての相続権を失うことになります。

ただし、相続放棄した場合でも受け取れる財産があります。具体的には次に挙げる財産です。

  • 死亡保険金・共済金
  • 国民健康保険や健康保険組合などからの葬祭費・埋葬費
  • 遺族年金、死亡一時金
  • 未支給の年金
  • 香典・ご霊前
  • 仏壇や神棚、お墓、祭祀財産

なお、高額医療費の還付金については、世帯主が受け取る権利を有しており、死亡した人が世帯主だった場合、相続放棄すると受け取れません。

また、被相続人が務めていた会社の死亡退職金や未払いの給与は、当人が死亡した場合は遺族が受け取ると規程によって定められている場合は、相続放棄をしても受け取れます。

生前贈与を受けていても相続放棄はできる?

亡くなった人から生前贈与を受けている場合でも、相続放棄は可能です。

生前贈与と相続放棄は無関係の制度であるためです。

そのため、一般的な相続放棄の手続きを踏めば、問題なく相続を放棄できます。

また、生前贈与を受けていて相続放棄した場合でも、贈与された財産が没収されることはありません。

ただし、生前贈与の後に相続放棄した場合でも、相続時精算課税制度を利用している場合は、相続税が発生するケースがあるため注意が必要です。

相続時精算課税制度では、60歳以上の親や祖父母から18歳以上の子どもや孫に生前贈与が行われる場合、最大2,500万円までの贈与分にかかる贈与税が免除となります。

その後の相続が発生した場合、生前贈与された財産とその他の相続財産を合計した価額によって相続税評価が行われ、算出された相続税が課税される仕組みです。

この制度を利用している場合は、相続放棄をしても相続税が発生します。

また、相続が発生する7年以内に生前贈与が行われた場合も相続税の課税対象となります。

2023年までは相続開始前3年以内の生前贈与が相続税の課税対象でしたが、税制改正によって2024年以降の生前贈与については、相続開始前7年以内に延長されることになりました。

このように、生前贈与を受けていても相続放棄は可能ですが、相続税が発生する可能性があることは理解しておきましょう。

生活保護を受けている場合は相続放棄できる?

生活保護を受けている相続人でも相続放棄は可能ですが、相続放棄によって生活保護に影響を与える場合がある点には注意が必要です。

生活保護法においては、相続した遺産を最低限度の生活維持のために活用するべきと考えられる可能性があるためです。

ただし、借金や債務といったマイナスの財産が明らかに多い場合は、相続しても生活の維持や改善には寄与しません。

また、生活保護費は生活費などでの仕様限定されており、借金の返済には利用できないため、相続放棄を選択した方が賢明といえます。

いずれにせよ、生活保護受給者が相続人となる場合や、相続放棄を検討している場合は、専門家やケースワーカーに相談した方がいいでしょう。

遺言として相続人が決まっている場合は?

被相続人が遺言を残しており、財産の相続人が指定されている場合でも、指定された相続人による相続放棄が可能です。

遺言書には誰にどの財産を相続させるか明記されているケースがほとんどですが、指定された人が相続を望まない場合、相続放棄をしても問題はありません。

なお、一般的な遺言書には、財産を相続させると書かれている場合と、財産を遺贈すると書かれている場合があります。

相続は死亡した人との財産を他人が包括的に継承することを指します。相続できる人は相続人と呼び、相続人になれる人は民法によって定められています。

遺贈とは、遺言者の財産を他人に贈与することをいいます。遺贈を受ける人を受遺者といい、相続人以外の人も受遺者になることが可能です。

受遺者に対しては、遺贈はできても相続させることはできません。一方、相続人は遺贈を受けることも相続することも可能です。相続か遺贈かは遺言書の内容から判断されます。

また、被相続人が遺言を残している場合は、法定相続人よりも遺言の内容が優先されます。

ただし、借金を特定の相続人に相続させると記載されている場合、その内容は無効となり、指定された人が借金を相続する必要はありません。