相続放棄は絶縁状態や「関わりたくない」が理由でもできる
相続放棄を検討する際によく心配されるのは「正当な理由がなければいけないのではないか?」ということです。
単に関わりたくないというだけで認められるのか……というのが気になるところですが、前述のとおり、原則、相続放棄はどのような理由であっても受理されます。
よくあるのは、以下のような理由です。
- 長年絶縁状態だった
- 相続人同士の仲が悪く、遺産分割協議に関わりたくない
- 故人に借金やローンがある
- 相続対象の財産額よりも、債務が上回る
- 故人が他人の連帯保証人などになっており、返済義務まで相続しなくてはならない など
このようなケースでは、相続放棄をすればトラブルに巻き込まれずに済みます。
「相続放棄申述書」を家庭裁判所に提出して、手続きをしましょう。
相続放棄申述書の書き方:入手〜提出までの流れ
相続放棄の手続きは、以下の3ステップで行います。
- 相続放棄申述書を入手する
- 放棄する理由を記入する
- 家庭裁判所の窓口または郵送で提出する
ひとつずつ解説していきます。
1. 家庭裁判所の窓口もしくは裁判所HPよりダウンロードする
「相続放棄申述書」は、家庭裁判所の窓口もしくは裁判所ホームページからダウンロードすることで入手できます。
書類の記載例は裁判所のホームページにありますので、漏れのないように記入しましょう。
参照:相続の放棄の申述書(成人)|裁判所
2. 放棄の理由は「その他」を選択し「相続に関わりたくない」旨を記載する
相続放棄の理由を記載する欄は、書類の2枚目にあり、以下の6つのどれかに丸をつける形で記入します。
- 被相続人から生前贈与を受けている
- 生活が安定している
- 遺産が少ない
- 遺産を分散させたくない
- 債務超過のため
- その他
関わりたくないことが理由の場合は、6番の「その他」に丸をつけ、理由を書きましょう。
(記入例)
- 故人とは疎遠だったため相続に関わりたくない
- 縁を切っているので関わりたくない
- 親族トラブルがあったため関わりたくない など
なぜ疎遠なのかや、相続人同士の関係性などの詳細は書かなくてかまいません。
記入欄が小さいので、簡潔に書いてください。
3. 相続放棄申述書の提出は家庭裁判所の窓口へ持ち込みもしくは郵送する
書類を書き終えたら、家庭裁判所へ提出しましょう。
提出先は亡くなった方の住所を管轄する家庭裁判所です。
提出の際には、相続放棄申述書のほか、以下の書類を添付する必要があります。
- 被相続人の住民票除票又は戸籍附票
- 申述人(放棄する方)の戸籍謄本
- 被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本
- 収入印紙(800円分)
- 連絡用の切手(裁判所によって異なるため、提出先の裁判所に確認する)
その他、亡くなった方との続柄(配偶者・親・孫・兄弟など)によって、別途書類が必要です。
(※詳しくは「提出の際の注意点」の項で後述します)
相続放棄の回答書の書き方:提出~通知書受け取りまでの流れ
相続放棄申述書を提出すると、家庭裁判所から相続放棄の照会書と回答書が届きます。
相続放棄の照会書は、相続放棄が本人の意思で行われたかや、法定単純承認事由(相続放棄が認められなくなる事柄)がないかを確認するための書類です。
裁判所は、この2つの書類で相続放棄を受理するかを判断します。
提出から相続放棄の手続き完了までは、以下の3つのステップで行われます。
- 照会書・回答書に相続放棄の理由等を記入する
- 家庭裁判所に提出する
- 相続放棄申述受理通知書を受け取る
ひとつずつ見ていきましょう。
1. 相続に関わりたくない理由を具体的に記載する
相続放棄申述書を提出したあと、家庭裁判所から相続放棄照会書と回答書が送付されてきます。
照会書と回答書の内容を確認したうえで、相続放棄の理由について具体的に記載しましょう。
理由を書く欄は、回答書の「本件を申述した理由は何ですか」という項目にあります。
「その他」にチェックマークを入れ、カッコ内に理由を書きます。
(記入例)
- 両親は◯年前に離婚し、その後、被相続人と会ったことがない
- ◯年ほど疎遠の状態なので相続を放棄したい
- 相続人の親族と縁を切っており、遺産分割協議に関わりたくない など
裁判所が受理するかを判断するポイントは、本当に相続放棄を自分の意思で行ったのか(=他人によって勝手に手続きされたものではないか)という点です。
理由によって受理の可否が決まるわけではなく、自分の意思であることを伝えるのが大切なので、最初に提出した相続放棄申述書の内容と相違がないように書きましょう。
カッコ内に書ききれない場合は、別紙に書いて添付することも可能です。
2. 相続放棄の回答書の提出は家庭裁判所の窓口へ持ち込みもしくは郵送する
記入を終えたら、相続放棄申述書と同じように、家庭裁判所の窓口へ持ち込むか、郵送で提出しましょう。
提出期限は回答書に書いてあり、2種類のパターンがあります。
- 令和◯年◯月◯日までに返送してください
- 書面にある日付から10日以内に返送してください
2の場合は、相続放棄照会書の右上部に書かれた日付を確認しましょう。
期限を過ぎると相続放棄ができなくなってしまいますので、書類を受け取ったらなるべく早く提出してください。
提出先は亡くなった方の住所が管轄の家庭裁判所です。
参照:裁判所の管轄区域|裁判所
3. 相続放棄申述受理通知書を受け取る
書類が無事に受領されると、裁判所より相続放棄申述受理通知書が送られてきます。
相続放棄申述受理通知書は、万が一紛失してしまっても再発行ができないため、保管には注意しましょう。
なお、相続放棄申述受理証明書であれば、何度でも再発行が可能です。
通知書と証明書の違いは以下のとおりです。
|
通知書 |
証明書 |
趣旨 |
申述人に対して、相続放棄の手続きが受理されたことを通知する |
申述人が相続放棄したことを証明する |
受け取り方 |
受理された時点で送られてくる |
申述人や相続人などが申請する |
再発行 |
不可 |
可 |
費用 |
無料 |
1通150円 |
証明書は、主に第三者に相続放棄をしたことを伝えるための書類です。
たとえば、故人が借金をしていて債権者から請求が来た場合でも、既に相続放棄していることが証明できれば、督促が来ることはありません。
相続放棄申述書・回答書を記入・提出する際の注意点
ここからは、相続放棄の申述書と回答を提出する際の注意点を解説していきます。
注意点は以下の5つです。
- 故人との続柄によって、別途書類が必要になる
- 収入印紙と切手代が必要
- 相続放棄の期限は3ヶ月
- 相続放棄の手続き後は撤回できない
- 申請中に遺産に手をつけると放棄できない
ひとつずつ解説していきます。
相続放棄には被相続人の住民票(戸籍附票)・申述人の戸籍謄本なども必要
相続放棄申述書の項目で既にご説明したとおり、相続放棄の申述をする際は、相続放棄申述書のほかにも、戸籍謄本など必要な書類があります。
特に注意したいのは、故人との続柄によって必要書類が異なることです。
呼称が少し複雑なので、先に続柄と相続の優先順位についてご説明します。
被相続人:故人
申述人:相続放棄の手続きをする人
配偶者:夫・妻
第一順位:子または代襲者(孫・ひ孫など)
第二順位:故人の父母・祖父母(直系尊属)
第三順位:故人の兄弟姉妹とその代襲者(甥・姪)
代襲者とは、本来相続するはずだった人が亡くなっている場合に、その代わりに相続人になる子のことを言います。
それでは、続柄別に必要な書類を見ていきましょう。
全員共通
- 被相続人の住民票除票または戸籍附票
- 申述人の戸籍謄本
配偶者
- 被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本
第一順位相続人
- 被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本
- 代襲相続人の場合は、被代襲者(本来の相続人)の死亡の記載のある戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本
第二順位相続人
- 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本
- 被相続人の子(およびその代襲者)で死亡している人がいる場合、その子(およびその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本
- 被相続人の直系尊属に死亡している人(※相続人より下の代の直系尊属に限る)がいる場合、その直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本
第三順位相続人
- 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本
- 被相続人の子(およびその代襲者)で死亡している人がいる場合、その子(およびその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本
- 被相続人の直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本
- 申述人が代襲相続人(甥・姪)の場合、被代襲者(本来の相続人)の死亡の記載のある戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本
複数人が相続放棄の予定で、先の順位の人が既に書類を提出している場合、重複するものは提出しなくても問題ありません。
とはいえ、万が一必要書類が揃っていないなどの不備があると受理されない可能性があるので、心配であれば、ご自身に当てはまる書類はすべて揃えて提出しましょう。
裁判所のホームページに必要書類の一覧がありますので、確認のうえ提出してください。
参照:相続放棄の申述|裁判所
相続放棄の申述には収入印紙代と郵便切手代が必要
相続放棄の申述書を送る際には、収入印紙代800円と郵便切手代がかかります。
収入印紙とは、行政手続き等の際にかかる手数料を支払う際に発行されるものです。
形やデザインは郵便切手に似ていますが、相続放棄の手続きの際には必ず収入印紙でなければならないため、郵便切手で代用することはできません。
収入印紙が購入できる場所
- 法務局
- 郵便局
- コンビニ(200円印紙のみの取り扱い)
次に郵便切手についてです。
こちらは、家庭裁判所から返信をもらうための郵送費用として添付します。
郵便切手が何円分必要なのかは、家庭裁判所によって異なりますので、提出先の家庭裁判所に問い合わせてください。
提出先は亡くなった方の住所が管轄の家庭裁判所です。
参照:裁判所の管轄区域|裁判所
相続の開始を知ってから3ヶ月以内に手続きをする
相続放棄の期限は3ヶ月です。
民法915条で「相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない」と定められています。
「相続の開始があったことを知った日」とは、通常は亡くなった日です。
ただし、故人や他の親族と疎遠で亡くなったことを知らなかった場合は、「亡くなったことを知った日」から起算して3ヶ月となります。
なお、この「3ヶ月」は手続き完了ではなく、申述書の提出期限です。
3ヶ月以内に裁判所から受理通知書をもらわなければならないわけではありませんが、戸籍謄本などの必要書類は集めるのには時間がかかるケースもあるので、相続を把握した時点でなるべく早く申述書を提出できるようにしましょう。
万が一3ヶ月以内に申述書を提出できなかった場合は、自動的に相続を承認したことになり、相続が発生します。
相続放棄後は撤回できない
相続放棄の重要な注意点のひとつに、相続放棄後は撤回できないということが挙げられます。
申述の期限である3ヶ月以内だとしても、一度受理されてしまったら、撤回できません。
たとえば、故人と疎遠で関わりたくなくて相続放棄したあと、実は故人には多額の財産があったと判明したとしても、相続放棄の手続きをしてしまっていたら、その財産を受け取ることはできないということです。
したがって、相続放棄の手続きを行う前に、プラスになる財産がないかをよく確認し、本当に相続放棄すべきかよく検討する必要があります。
なお、撤回ができなくなるタイミングは、家庭裁判所に受理されたあとです。
法律上、裁判所で審判中の段階であれば、申立てを取り下げることはできます(家事事件手続き法82条1項)。
ただし、受理までどのくらい時間がかかるかはケースバイケースで、早めに受理されることもありますので、原則的には「手続きを始めたら撤回はできない」と考えて行動することをおすすめします。
もし財産の把握に時間がかかったり、相続人同士で揉めているなどの事情で3ヶ月以内に答えが出せそうにない場合は、事前に期間の伸長の手続きをしましょう。
参照:相続の承認又は放棄の期間の伸長|裁判所
相続放棄申請中に遺産に手をつけると放棄できない
もうひとつの重要な注意点として、相続放棄の申請中に遺産に手をつけると放棄できないという点も挙げられます。
相続放棄の申請中に、以下のようなことをしてしまうと、放棄できなくなります。
- 故人の遺産を私的なことに使ったり、他人に譲渡した
- 資産価値のある遺品を持ち帰った
- 故人宛ての請求書を、故人の貯金から支払った
- 不動産・車・携帯電話の名義変更や売却を行った
- 故人名義の預貯金の解約や払い戻しを行った
- 遺産分割協議に参加した など
これらの行為は「処分した」という判定がなされ、相続放棄が認められない根拠になってしまいます。
預貯金等に手をつける以外でも、良かれと思って行った手続きが、思いがけず「相続を承認した」という判定になってしまう可能性があります。
また、遺産分割協議に参加することは「自分に相続する意思がある」という判定になってしまいます。
相続放棄をする場合は、故人の相続関係には一切関わらないというスタンスでいましょう。
実際に起きた相続放棄が認められなかったトラブル事例
上述のとおり、意図せず相続放棄ができなくなってしまうトラブルが実際にあります。
- 形見分けによって認められなかった
- 所有権移転登記の申請によって認められなかった
今回はこの2つの事例をご紹介します。
形見分けにより相続放棄が認められなかったケース
まずは、故人の持ち物を、相続人が形見分けとして処分したことが原因で認められなかったケースです。
ここで言う「処分」というのは、捨てたり売ったりすることではなく、相続財産に手をつけたかということ全般を指すので、もらっただけでも「処分」になる可能性があります。
通常、無価値な物の形見分けは「処分」となりませんが、価値のある物の形見分けは「処分」にあたるとされる場合があります。
処分にあたるとした判例:和服15点・洋服8点・ハンドバッグ4点、指輪2点を相続人のひとりが受け取り、相続を承認したとみなされた(松山簡易裁判所昭和52年4月25日判決)
処分にあたらないとした判例:着古したズボンと上着を元使用人が受け取ったが、交換価値がないため、相続を承認したということにはあたらないとされた(東京高決昭和37年7月19日)
同じ衣類ですが、前者は資産価値があり、後者は価値のあるものとは言えないというところで判決が分かれています。
よって、相続という認識はなく「単純に故人の思い出の品を、兄弟間で形見分けすることにしただけ」といったやりとりだったとしても、相続放棄をする予定の方は、受け取らない(分割協議にも参加しない)ようにしましょう。
所有権移転登記の申請により相続放棄が認められなかったケース
次に、所有権移転登記を申請したことによって、相続放棄が認められなかったケースです。
所有権移転登記=名義変更ですので、前述のとおり、財産を処分し相続を承認したと判定されます。
処分にあたるとした判例:故人が生前に、不動産を家族に贈与する契約を行っており、亡くなったあとに配偶者と子が申請をした(東京地判平成26年3月25日)
このケースでは、生前に故人が交わした契約があり、配偶者と子は義務者として所有権移転登記を行ったという流れですが、移転登記は相続財産の「処分」にあたるとされ、その後相続放棄の手続きをしたものの認められませんでした。
故人がなんらかの契約をしていて、それが履行されていない場合、たとえご自身に関係するものだったとしても、すぐに手続きは行わないようにしましょう。
トラブル等に発展する心配がある場合は、弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。
まとめ
以上が、親族や故人と関わりたくない場合の相続放棄に関するご説明でした。
最後にもう一度、ポイントを振り返ってみましょう。
- 相続放棄は「関わりたくない」という理由でもできる
- 関わりたくない理由を相続放棄申述書に記入し、必要書類を添えて家庭裁判所に提出する
- 理由の詳細は、家庭裁判所から送られてくる相続放棄の照会書・回答書に書く
- 相続放棄の期限は3ヶ月以内
- 手続き完了後は撤回できない
- 遺産に手をつけてしまうと放棄できないので注意する
相続放棄をする際には、本当に放棄をしてよいのか、故人の財産等をよく調査したうえで決めましょう。
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