遺産相続における遺留分の基礎知識
遺留分を取得する際には、遺産相続における遺留分の基礎知識を知っておくことも大切です。頭に入れておきたい基礎知識は以下のとおりです。
- 遺留分は一定範囲の相続人に保証された相続財産留保分
- 遺留分を受け取れるのは配偶者・直系尊属・直系卑属
- 相続人によって異なる遺留分の割合
- 遺留分の算出方法は「相続財産の総額×遺留分率×法定相続分」
次の項目から、それぞれの基礎知識について詳しく解説します。
遺留分は一定範囲の相続人に保証された相続財産留保分
遺留分は、法定相続人に最低限保証されている相続分です。
一般的に遺産相続は遺言書の内容が優先されますが、遺言であっても遺留分を奪うことはできません。
もしも遺言書の内容が不公平であった場合、被相続人の死後に遺族の生活が困窮する可能性があるためです。
たとえば遺言書に「財産をすべて長男に相続する」「愛人に譲渡する」と記載されているケースなどです。
遺言書の内容が不公平なときは、遺留分を侵害されたとして侵害額を請求できます。
遺留分を受け取れるのは配偶者・直系尊属・直系卑属
遺留分は法定相続人の順位によりことなります。法定相続人が全員受け取れるわけではありません。遺留分を受け取れる方の範囲は以下のとおりです。
- 配偶者
- 直系卑属(子供・孫)
- 直系尊属(両親・祖父母)
遺留分を受け取る際には、配偶者と直系卑属が最も優先されます。
たとえば被相続人の配偶者と子供が遺留分を取得する場合、直系尊属は遺留分の請求ができません。
被相続人に子供や孫がいない場合は、配偶者と直系尊属に遺留分を請求する権利があります。
なお、被相続人の兄弟姉妹は法定相続人には該当するものの、遺留分の権利は発生しないため、注意してください。
相続人によって異なる遺留分の割合
相続人ごとの遺留分の割合(遺留分率)は以下のとおりです。
相続人 |
配偶者 |
子供 |
両親 |
配偶者のみ |
1/2 |
- |
- |
配偶者と子供 |
1/4 |
1/4 |
- |
配偶者と両親 |
1/3 |
- |
1/6 |
子供のみ |
- |
1/2 |
- |
両親のみ |
- |
- |
1/3 |
配偶者と子供の遺留分の割合(遺留分率)は、遺産総額の1/2と定められています。
たとえば遺産総額が5,000万円だとしたら、2,500万円を遺留分として請求できます。
配偶者と子供の両方が遺留分を取得する場合は、遺産総額の1/2を分け合う形になるので、それぞれの遺留分の割合は半分ずつになります。
相続人が親などの直系尊属のみの場合、遺留分の割合は遺産総額の1/3に下がるため、注意しておきましょう。
なお、子供が2人以上いる場合や、両親が2人とも相続人となる場合、遺留分の割合の中から均等に遺留分を分け合う形になります。
遺留分の算出方法は「相続財産の総額×遺留分率×法定相続分」
遺留分は「相続財産の総額×遺留分の割合(遺留分率)×法定相続分」の計算式で求められます。
遺留分を計算する上で必要となる相続財産の総額は「相続開始時に有していた財産+贈与した財産-借金などの負債」で計算しましょう。
贈与した財産は、遺言で譲渡した財産や1年以内の生前贈与、特別受益などが該当します。
遺留分の割合は原則として1/2ですが、相続人が直系尊属のみの場合は1/3になります。
法定相続分は民法で定められている相続割合のことであり、相続人によって割合が異なっています。
たとえば相続財産の総額が4,000万円で、配偶者と子供2人が遺留分を取得する場合、計算方法は以下のとおりです。
配偶者の遺留分:4,000万円×1/2(遺留分率)×1/2(法定相続分)=1,000万円
子供2人の遺留分:4,000万円×1/2(遺留分率)×1/2(法定相続分)=1,000万円
子供1人あたりの遺留分:1,000万円×1/2=500万円
配偶者と子供は遺産の取得割合が均等なのですが、子供が複数人いる場合は子供1人あたりの取得額が少なくなります。
次に、配偶者と被相続人の母親で遺留分を取得する場合の計算方法を紹介します。
配偶者の遺留分:4,000万円×1/2(遺留分率)×2/3(法定相続分)=約1,333万円
母親の遺留分:4,000万円×1/3(遺留分率)×1/3(法定相続分)=約667万円
直系尊属は遺留分率や法定相続分が少ないため、配偶者の取得割合が高く、直系尊属の取得割合が低くなります。
遺留分を計算し、相続した財産が遺留分の金額に達していなければ、遺留分侵害請求が可能です。
法定相続人なのに遺産をもらえないケース
法定相続人であったとしても、以下のようなケースに当てはまる場合は遺産の取得が難しくなります。
- 遺言書で遺産の受取人に指定されてない
- 生前贈与があり財産が残っていない
- 他の相続人が遺産を隠していた・使い込んでいた
- 法定相続分より少ない遺産分割に合意してしまった
- 相続欠格や相続廃除になっている
- 相続放棄を済ませている
- 遺留分の放棄を済ませている
次の項目から、法定相続人なのに遺産をもらえないケースについて詳しく見ていきましょう。
遺言書で遺産の受取人に指定されてない
遺言書が不公平な内容になっており、遺産の受取人に指定されていなかった場合は遺産の取得ができません。
遺言書は、被相続人が生前に「財産を誰にどの程度残すのか」の意思表示を記した書面です。
遺産の配分は被相続人が自由に指定できるため、仮に不公平な内容だったとしても、遺言書による遺産分割が優先されます。
たとえば「財産はすべて長男に相続する」と遺言書に記載されていた場合、遺言書の内容に従って長男がすべての遺産を取得することになります。
本来、被相続人の子供は全員が法定相続人に該当するのですが、上記のようなケースだと、他の長男以外の兄弟は遺産がもらえません。
ただし、法律で最低限保証されている遺留分は遺言であっても侵害できないため、遺留分侵害請求をすれば遺産の一部を取り戻せます。
遺留分侵害請求については、後ほどの項目で詳しく解説します。
生前贈与があり財産が残っていない
被相続人が生前贈与をしていたことにより、すでに遺産が残っておらず、遺留分をもらえないケースがあります。
生前贈与は、被相続人が亡くなる前に財産を他者に贈与する手続きです。遺言書と同様、生前贈与では被相続人が自由に財産を分配できます。
特定の人にだけ生前贈与が行われていた場合、被相続人が死亡した後に遺産が全く残っていないことが発覚し、遺留分の取得ができないという事態に陥ります。
たとえば一部の相続人がマイホームの購入資金や結婚資金などの名目で生前贈与を受けていたり、愛人などの第三者にすべての財産が贈与されていたりするケースなどです。
遺産が残されていなければ、法定相続人であっても財産をもらえません。
ただし以下3つの条件のうち、いずれか1つでも当てはまる場合は、遺留分を取り戻せる可能性があります。
- 被相続人の死亡前1年以内に生前贈与があった
- 被相続人の死亡前10年以内に特別受益として財産を贈与されていた
- 被相続人と贈与を受け取った人の両方が遺留分を侵害すると知っていた
被相続人が死亡する1年以内に生前贈与があった場合は、遺留分を侵害する意思があったかどうかに関わらず、遺留分の請求が可能です。
生前贈与から1年以上が経過していても「特別受益」に該当する場合は、被相続人が死亡する10年以内に贈与された財産に対して遺留分を請求できます。
特別受益は、一部の相続人にのみ贈与されていた特別な利益です。婚姻や養子縁組、住宅購入のための費用などが特別受益に該当します。
また、被相続人と受贈者の両方が遺留分を侵害することを理解していた場合は、遺留分を請求できます。こちらの条件の場合、生前贈与が何年以内にあったかどうかは問われません。
生前贈与によって遺留分がもらえないときは、上記のいずれかの条件に当てはまるかどうかを確認してみましょう。
他の相続人が遺産を隠していた・使い込んでいた
自分以外の相続人が遺産を隠していたり使い込んだりしており、遺産をもらえない可能性もあります。
たとえば兄弟で親の遺産を相続することになったとき、親と同居していて財産管理を任せられていた長男が財産を隠すケースなどが考えられます。
このような場合、適切な対処をしなければ法定相続人でも遺留分がもらえません。
また、財産調査をしている間に遺産を使い込まれてしまう恐れもあります。
遺産隠しや使い込みは違法行為に該当するため、不当利得返還請求や遺産分割調停などの法的手段を講じましょう。
被相続人の生前に使い込みがあった場合は不当利得返還請求、相続開始後に使い込みがあった場合は遺産分割調停で遺留分を取り戻せる可能性があります。
不当利得返還請求と遺産分割調停の具体的な内容については、後ほどの項目で詳しく解説します。
法定相続分より少ない遺産分割に合意してしまった
遺産分割協議で取り決めた内容が法定相続分より少ない額であったにもかかわらず、合意してしまった場合は十分な遺産がもらえない可能性があります。
遺産分割協議で相続人全員が合意した遺産分割は、原則として覆すことができないからです。後から不平等だったことに気付いたとしても、遺産分割協議のやり直しはできません。
また、遺産分割に合意すると遺留分侵害請求もできなくなるため、注意が必要です。遺留分侵害請求ができるのは、遺言による贈与や生前贈与、死因贈与のみと定められています。
そのため、相続人同士で遺産分割協議を行うときは、内容が不平等でないかどうかを入念に確認しましょう。
遺産分割協議は相続人全員の合意がなければ成立しないため、異議を唱えれば受け入れてもらえる可能性があります。
相続欠格や相続廃除になっている
相続において欠格事由に当たる行為があった場合、相続欠格とみなされ相続権が剥奪されます。
民法で定められている相続権の欠格事由は以下のとおりです。
- 被相続人・同順位の相続人・先順位の相続人を故意に死亡させた、または死亡させようとしたことにより刑に処せられた
- 被相続人が殺害されたことを知りながら、告白・告訴をしなかった(ただし判断能力が欠如した人、配偶者、直系血族は除く)
- 詐欺や脅迫などにより、被相続人の遺言の作成・変更・撤回を妨害した
- 詐欺や脅迫などにより、被相続人に遺言の作成・変更・撤回をさせた
- 被相続人が作成した遺言書を偽造・変造・破棄・隠匿した
上記のうち1つにでも当てはまる場合は、遺留分を含めて一切の遺産を受け取る権利を失います。
また、被相続人を侮辱したり虐待したりした場合、被相続人からの申し立てによって相続廃除の判決を受ける可能性があります。相続廃除になると、相続欠格と同様に遺産を受け取る権利が消失します。
相続廃除は取り消しも可能なのですが、被相続人の許可を得る必要があります。一方、相続欠格に一度該当すると、原則として取り消しはできません。
相続欠格や相続廃除によって相続権を失ったときは、遺産の相続はほぼ不可能であると考えておきましょう。
相続放棄を済ませている
すでに相続放棄の手続きを済ませている場合、遺産の相続はできません。
相続放棄とは、被相続人が所有していた財産や債務の相続をすべて拒否する権利のことです。
相続放棄をすると最初から相続人ではなかったとみなされるため、遺産や遺留分の相続は一切できない状態になります。
遺留分を請求する権利のある相続人であったとしても、相続放棄をすると遺留分侵害請求が行使できなくなるため、注意しておきましょう。
また、家庭裁判所に相続放棄が受理された後は、原則として後から覆すことはできません。そのため、相続放棄を検討しているときは、問題ないかどうかを慎重に検討してください。
遺留分の放棄を済ませている
相続放棄と同様に、遺留分は家庭裁判所への申し立てによって放棄することができます。
遺留分の放棄を済ませていると、取得した遺産の金額が遺留分に満たなかったとしても、遺留分損害請求ができません。
遺留分の放棄は相続放棄とは異なり、相続権そのものを失うものではありません。遺留分を放棄したとしても、遺言書や遺産分割協議によって遺産の取得は可能です。
遺留分を放棄するメリットは、親族間の相続トラブルをなくし、遺言書のとおりに相続を実行できる点です。
もしも被相続人が「お世話になった人に遺産を残したい」と考えていても、遺留分を請求されると希望通りの金額を渡せなくなります。
遺留分の権利を持っている人に遺留分の放棄をしてもらっておけば、被相続人の希望通りに財産を相続させられます。
なお、遺留分の放棄は遺留分権利者の意思が必要であるため、被相続人が望んだとしても無理やり放棄させることはできません。
遺留分権利者が被相続人に遺留分の放棄を頼まれた場合、なぜ放棄が必要なのかを聞き出して慎重に判断しましょう。
相続で遺留分をもらえない場合の対処法
相続で遺留分をもらえなかったときは、以下のような対処法を講じて遺産を取得しましょう。
- 遺言書と違う内容で遺産分割協議をする
- 遺言書の無効を主張する
- 遺留分侵害請求を実施する
- 寄与分の請求を行う
- 特別受益の持ち戻しを主張する
- 遺産分割調停を起こす
- 不当利得返還請求を行う
遺留分をもらえなかった場合の対処法について、それぞれ詳しく解説します。
遺言書と違う内容で遺産分割協議をする
遺言書が残されている場合、原則として遺言書の内容に沿って遺産を取得しなければなりません。
しかし、相続人全員の合意を得られれば、遺言書と違う内容で遺産を取得できます。
遺産分割協議は、相続人全員で遺産の分け方について話し合いを行う手続きのことです。
遺産分割協議を実施する際には、まず遺言書の有無を確認します。その後、相続人や財産の調査を経て話し合いを行い、相続人全員の合意を目指すという流れです。
遺産分割協議の詳細について、次の項目から詳しく解説します。
遺産分割協議は遺言書の有無から確認する
一般的に、遺産分割協議は遺言書がない場合に行われるため、まずは遺言書の有無を確認しましょう。
遺言書が公証人立会いのもとで作成された「公正証書遺言」なら、公証役場の検索システムにて確認できます。最寄りの公証役場で遺言検索の申し出をしましょう。
公証役場で遺言書が見つからなければ、被相続人の自宅や遺品、貸金庫などから探してみてください。
遺言書が見つかったときは家庭裁判所に提出し、相続人全員が立ち会って内容を確認します。遺言書の内容に従わない場合は、相続人全員に遺産分割協議を行っても良いかどうかの確認を取りましょう。
次に、被相続人の戸籍を取得して相続人の確認を行います。相続人全員に連絡を取り、遺産分割協議に参加してもらうように伝えてください。
また、遺産分割協議の前に相続財産の調査も必要です。財産の中に不動産や有価証券、自動車などが含まれる場合は、金銭的な評価を行いましょう。
相続人と相続財産が確定したら、相続人全員で遺産分割協議を行います。「誰が」「どの財産を」「どの程度取得するのか」を細かく取り決めてください。
遺産分割協議で取り決めた内容に全員の合意が得られたら、遺産分割協議書を作成し、相続人全員で署名押印をします。
最後に各相続財産の名義変更を行い、遺産分割協議は終了となります。
遺産分割協議では全員の合意が必要になる
遺産分割協議を成立させるためには、相続人全員の合意が必要です。
反対する人や遺産分割協議に欠席した人が1人でもいる場合、遺産分割協議で取り決めた内容は無効になります。
また、相続人の中に未成年や認知症の人がいる場合にも、遺産分割協議は無効になります。
未成年や認知症の人がいるときは、法定代理人や成年後見人を選出して遺産分割協議に代理で参加してもらいましょう。
遺産分割協議が無効となるケースを除き、一度取り決めた内容は原則としてやり直しができません。
遺言書と異なる内容で遺産分割協議を行うときは、取り決めた内容が納得できるものかどうかを入念にチェックしてください。
遺言書の無効を主張する
遺言書の作成方法や内容に問題がある場合は、遺言書の無効を主張しましょう。
遺言書が無効になるケースは以下のとおりです。
- 自筆で書かれていない
- 遺言書に日付の記載や署名・押印がない
- 遺言書の訂正方法に誤りがある
- 財産を誰に何を相続させるのか明確でない
- 複数名の被相続人との共同で作られている
- 作成した人が認知症など遺言能力がなかった
- 脅迫や詐欺、錯誤などによって遺言書が作成された
- 遺言書が偽造・改ざんされている
- 遺言書の内容が公序良俗に違反している
- 作成に立ち会った証人が不適格者だった
- 口授(遺言者が口頭で遺言内容を公証人に伝えること)を欠いていた
上記のうち1つでも当てはまる場合、遺言書の無効が主張できます。
公序良俗に違反する遺言書の中でも代表的なのは、不倫関係の維持を目的として書かれた遺言書です。妻や子供の立場を無視して遺言が作成されていることから、公序良俗に反するとして無効になります。
また、公正証書遺言や秘密証書遺言を作成する際は2名以上の証人に立ち会ってもらう必要があるのですが、不適格者は証人にはなれません。未成年や推定相続人、直系血族、公証人の関係者などが不適格者に該当します。不適格者が証人として立ち会っていた場合、遺言書は無効になります。
さらに、公正証書遺言を作成する際に遺言者が公証人に口頭で遺言内容を伝えなかったときは、口授を欠いていたとみなされます。事前に打ち合わせした遺言書の内容を公証人が読み上げるだけだったり、第三者が代弁したりしたケースなどが該当します。
遺言書が無効になれば、法定相続分または遺産分割協議で遺産を取得できる可能性があります。
なお、遺言書を無効にするためには、相続人全員の合意を得なければなりません。
もしも1人でも遺言書の無効に反対した場合、調停や訴訟など裁判所の手続きを経て遺言書を無効にする必要があります。
遺留分侵害請求を実施する
遺留分侵害請求は、被相続人が不公平な遺産の分配をしたことによって遺留分の取得を侵害されたときに、遺留分との差額分の支払いを請求する行為です。
自分が法定相続人であるにもかかわらず遺産をもらえなかったときは、遺留分侵害請求によって遺留分を取り戻せます。
遺留分侵害請求をするときは、まず遺産を多く取得した相続人と直接交渉するところから始めてみてください。
事情を説明することにより、相手が遺留分の支払いに応じてくれるケースもあるためです。
もしも相手が支払いを渋っており早期解決が難しい場合、内容証明郵便を送付しておきましょう。
遺留分侵害請求は口頭でも問題ないのですが、内容証明を送付しておけば請求をしたことを客観的な証拠として残せます。
遺留分侵害請求ができるのは「遺留分が侵害されたことを知ったときから1年以内」と決められているので、証拠を残しておくことは大切です。
なお、遺留分を侵害されていることを知らなかったとしても、相続が開始してから10年以上経つと遺留分侵害請求ができなくなるため、注意してください。
直接交渉で相手が遺留分侵害請求に応じない場合は、調停や訴訟などで請求を行います。相続に強い弁護士に相談の上、手続きに進みましょう。
寄与分の請求を行う
被相続人の財産の維持や増加に特別な貢献をしていた場合、寄与分の請求をすれば遺産の一部を取得できる可能性があります。
たとえば「被相続人の介護をしていた」「家業を無償で手伝っていた」などのケースが寄与分に当てはまります。
寄与分の請求をするためには、被相続人に対して行った行為が「特別な寄与」であることを証明しなければなりません。
特別な寄与と認められる条件は以下のとおりです。
- 被相続人に対して寄与行為をしていること
- 寄与行為を片手間ではなく、比重を置いて行っていたこと
- 寄与行為を一定期間継続していたこと
- 被相続人から対価を受け取っていないこと
- 寄与行為と財産の維持・増加に因果関係があること
長期間にわたって寄与行為を継続していなければ、特別な寄与とはみなされません。期間に明確な定めはないものの、数年単位の継続が必要と考えておきましょう。
また、寄与行為が認められるためには、寄与行為と財産の維持・増加の因果関係があることを証明しなければなりません。
無償、または通常よりも少ない給料で家業を手伝って売上に貢献したのであれば、相続人の勤怠管理や給与明細書、被相続人の税務書類などが証拠になるでしょう。
また、被相続人の介護を自宅で継続的に行っていた場合、介護施設を利用せずに済んだことから、財産の維持に貢献したとみなされます。この場合、被相続人の要介護認定通知書や介護日記などが証拠になります。
ほかにも、生活費の仕送りや金銭の提供、財産の管理などの寄与行為をしていた場合、財産の維持・増加に因果関係があるとみなされる可能性が高いです。寄与行為の内容に応じ、適切な証拠をそろえましょう。
なお、寄与分と遺言書とでは、原則として遺言書の内容が優先されます。
遺言ですでに財産の分配がすべて決まっている場合は、相続人全員に寄与分の請求を認めてもらわなければなりません。
調停や裁判によって寄与分の請求もできますが、遺産の金額によっては弁護士費用の方が高額になる恐れがあるため、注意が必要です。
特別受益の持ち戻しを主張する
特別受益は、特定の相続人のみに贈与された特別な利益です。たとえば長男だけがマイホームの購入費用として1,000万円の援助を被相続人から受けていた場合、特別受益に該当します。
特定の相続人が生前贈与を受けていたにもかかわらず、遺産を法定相続分で分配すると他の相続人は不公平に感じるでしょう。
相続人の中に生前贈与で特別受益を受けていた方がいる場合、持ち戻しを主張することで法定相続分よりも多めに遺産を相続できる可能性があります。
特別受益の持ち戻しとは、特別受益を相続財産とみなして各相続人の相続分を計算することです。
たとえば5,000万円の遺産を兄弟2人で相続する場合に、兄のみが1,000万円の特別受益を得ていたとします。
特別受益の持ち戻しを計算に入れる場合、兄の相続分からは特別受益の1,000万円を控除します。そのため遺産の受取金額は、兄が2,000万円、弟が3,000万円になります。
特別受益がある場合には、原則として持ち戻しの主張が可能です。ただし、遺言書に「特別受益の持ち戻し免除」の意思表示がされていた場合は、持ち戻しができません。
特別受益の持ち戻し免除は、被相続人が「特別受益を考慮せずに遺産分割をするように」と相続人に依頼することです。
原則として遺言書の内容が最も優先されるため、特別受益の持ち戻し免除の指示があった場合は、持ち戻しができません。
特別受益の持ち戻しを主張するときは、遺言書に特別受益の持ち戻し免除の意思表示がないかどうかを最初に確認してみてください。
遺産分割調停を起こす
死後に遺産が使い込まれた場合や、遺産隠しが疑われる場合、遺産分割調停を起こすことで財産を取り戻せる可能性があります。
遺産分割調停とは、家庭裁判所の裁判官と調停委員を介して遺産の分割方法についての主張を行い、合意を目指す手続きのことです。
第三者を介して話し合いが進められるため、相続人同士で話すよりも冷静な対処が可能です。
遺産隠しや使い込みが疑われる場合は、調停委員に証拠を提示すればよりスムーズに話し合いが進みます。
遺産分割調停を起こす際の注意点として、基本的に調停は平日の日中に実施され、2時間ほど拘束されてしまいます。
また1回の調停で解決するケースはほぼないため、複数回に分けて話し合わなければなりません。遺産分割調停の場合、6回〜10回ほど実施されるケースが多いです。
なお、弁護士に遺産分割調停を依頼すれば、代理人として遺産分割調停に出席してもらえます。
さらに、法的根拠に基づいた適切な主張をしてもらえるため、遺産分割調停を有利に進められます。
仕事が忙しく調停に出席する時間がない場合や、遺産分割調停をスムーズに進めたい場合は弁護士への依頼を検討してみてください。
不当利得返還請求を行う
不当利得返還請求は、法律上の原因(権利)がないにもかかわらず利益を得た者に対し、損失を受けた人が返還を求めるための手続きです。
たとえば被相続人の遺産を使い込まれたことにより、法定相続人が遺産を受け取れなかったり、相続額が減ったりした場合などに不当利得返還請求を行使できます。
不当利得返還請求を行使するためには、以下の条件をすべて満たす必要があります。
- 請求される側が財産によって利益を得ていること
- 他の相続人に損失を及ぼしていること
- 利益と損失の両者に因果関係があること
- 利益に法律上の原因(権利)がないこと
不当利得返還請求を請求された側が遺産を使い込み、結果として遺産の相続額が減った場合、特定の相続人が利益を得たことによって他の相続人に損失を与えたことになります。
そのため、利益と損失の間には因果関係があると認められます。
4つ目の条件である「法律上の原因がないこと」は、簡単にいうと「利益を保有する権利が法律的にない」ということです。
たとえば生前贈与によって遺産が分配された場合は「法律上の原因がある」ことになり、不当利得返還請求の条件には当てはまりません。
一方、被相続人の許可なく勝手に預貯金を使い込んでいたのであれば「法律上の原因がない」ため、不当利得返還請求の条件に当てはまります。
上記の条件にすべて当てはまる場合は、不当利得返還請求によって損失額を取り戻せます。
なお、不当利得返還請求には時効が設けられており、期限を行使できると知ったときから5年、権利を行使できるときから10年以内に請求をしなければなりません。
遺産相続の場合だと、遺産の使い込みが発覚したときから5年、遺産が使い込まれたときから10年が時効になります。
時効が消滅すると使い込まれた遺産の請求ができないため、注意しておきましょう。
兄弟に遺留分が認められない理由とは?
一般的に、被相続人の兄弟姉妹には遺留分が認められていません。兄弟姉妹に遺留分が認められない理由は以下のとおりです。
- 被相続人との関係が遠いため
- 代襲相続があるため
- 生活に困らないため
それぞれの理由について詳しく見ていきましょう。
被相続人との関係が遠いため
兄弟姉妹は血縁者ではあるものの、相続順位でいうと子供や親よりも下の順位になっています。
相続順位では、配偶者が最も優先されることになっています。配偶者を除いた優先順位は以下のとおりです。
- 第一順位:子供(直系卑属)
- 第二順位:両親(直系尊属)
- 第三順位:兄弟姉妹
相続において兄弟姉妹は被相続人との関係が遠いところに位置付けられているため、遺留分の請求はできません。
ただし、第一・第二順位の相続人が1人もいない場合、兄弟姉妹が相続人に繰り上げられることはあります。
代襲相続があるため
代襲相続は、相続人が亡くなっていたとき、相続人の子どもが代襲相続人として代わりに遺産を相続する制度です。
もしも被相続人の子供が全員死亡していた場合は孫が第一順位、両親が死亡していた場合は祖父母が第二順位となります。
代襲相続は兄弟姉妹にも発生するため、もしも兄弟姉妹がすでに亡くなっていたときは、甥や姪が第三順位に繰り上がります。
仮に遺留分の請求を兄弟姉妹にも認めた場合は、代襲相続人である甥や姪にも遺留分を認めなければなりません。
場合によっては、被相続人と面識や交流が一切ないにもかかわらず、遠い親戚が遺留分の請求をするという事態になってしまいます。
上記のような事情から、兄弟姉妹は法定相続人ではあるものの、遺留分の請求は認められていません。
生活に困らないため
一般的に、被相続人と兄弟姉妹は別生計を立てて暮らしており、お互いが経済的に自立しているものです。
そのため、兄弟姉妹は遺留分がもらえなくても、生活に困ることはないと考えられています。
一方、遺留分が認められている配偶者や子供、親などは、被相続人と同居して生計をともにしているケースが多く、遺留分がもらえなければ生活に困る可能性が高いです。
なお、家庭の事情によっては被相続人が兄弟姉妹とともに暮らしており、生計を立てているケースもあります。
仮に兄弟姉妹が被相続人の財産を相続できないことによって生活が困窮するとしても、法的には遺留分の請求は認められません。
遺産をもらえなければ困る事情がある場合は、生前に遺言を書いてもらい、確実に遺産を相続できるよう準備しておくことが大切です。
遺留分のない兄弟が遺産を受け取れるケース
被相続人の兄弟姉妹は、法定相続分の優先度では第三順位に当たるため、遺産を相続できないケースが大半を占めています。
しかし、第一・第二順位の相続人が1人もいなければ、遺産を受け取ることが可能です。
また、被相続人が残した遺言書に兄弟への相続について明記されている場合にも、遺産を受け取れます。
遺留分のない兄弟が遺産を受け取れるケースについて、詳しく解説します。
第一・第二順位の相続人がいない
法定相続人の順位では、兄弟姉妹は第三順位に当たります。
子供や孫、両親など先順位の相続人が1人でもいれば、兄弟姉妹には遺産を相続する権利がありません。
しかし、先順位の人が1人もいない場合は兄弟姉妹が法定相続人に繰り上がるため、遺産の相続が可能になります。
配偶者と兄弟姉妹が法定相続人になるケースでは、兄弟姉妹の法定相続分は遺産総額の1/4です。
もしも配偶者がいなければ兄弟姉妹のみが法定相続人となるため、すべての遺産を相続できます。
なお、兄弟姉妹が複数名いる場合は、頭数に応じて均等に遺産を分け合う形になります。
兄弟への相続について遺言書に明記されている
遺言書に兄弟姉妹への相続分が明記されていれば、遺言書の内容通りに遺産の取得が可能です。
たとえば「財産を妻、息子、兄に1/3ずつ分配する」と書かれていたのであれば、遺言書の内容に従って1/3ずつ財産を分け合うことになります。
民法では「法定相続分よりも遺言書が優先される」と定められているため、遺言書に兄弟姉妹への相続が明記されていれば、遺産を受け取る権利があります。
ただし、遺言書の内容によっては法定相続人から遺留分を請求される可能性があるため、注意が必要です。
たとえば「すべての財産を兄に相続する」と遺言書に書かれていた場合、配偶者や子供は遺留分を侵害されたとして遺留分侵害額請求権を行使できます。
法定相続人から遺留分を請求されたときは、遺留分に当たる金額を支払わなくてはなりません。
遺留分の制度が設けられている以上、兄弟姉妹がすべての財産を相続するのは難しいと考えておきましょう。
遺留分の請求は専門家に相談しましょう
遺留分がもらえないことで悩んでいるときは、早い段階で弁護士に相談することをおすすめします。
遺留分の請求は専門的な部分も多く、素人だけでは問題の解決が難しいためです。
また、被相続人の兄弟姉妹を交えた相続になる場合、関係性が複雑化することからトラブルに発展する可能性もあります。
身内同士の話し合いでは、意見が食い違ったり感情的になったりして話し合いが進まないケースも多くみられます。
法律の専門家である弁護士に相談すれば、遺留分の請求やトラブルの解決なども含め、適切な対応で相続についての手続きを進めてもらえます。
遺留分や相続の話し合いで揉めそうな場合は、ぜひ弁護士に依頼してみてください。
まとめ
法定相続人なのに遺産が受け取れないという事態に陥ったときは、遺留分を請求することで遺産を取り戻せる可能性があります。
兄弟姉妹以外の法定相続人は遺留分を請求する権利があるので、遺留分侵害請求で遺産を取り戻しましょう。
遺留分侵害請求ができないときは、寄与分の請求や不当利得返還請求、遺産分割調停などで遺産の取得を目指します。
遺留分のことで悩みがあるときは、相続に強い弁護士への依頼がおすすめです。
弁護士によるサポートがあれば有利に遺留分を請求できるため、まずは相談してみてください。
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