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不当利得返還請求とは?時効前にやるべき手続きや注意点を解説

不当利得返還請求とは?時効前にやるべき手続きや注意点を解説

相続が発生した際に、残っているはずの相続財産がすでに使い込まれていたらどうすればいいのでしょうか?正当な理由なく遺産を使われていた場合は、不当利益返還請求によって取り戻すことが可能です。

ただし、不当利得返還請求を行うには受益者が法的な原因なく利益を受け、その結果請求者に損失が生じていること、利益と損失の両者に因果関係がある必要があります。

さらに、不当利得返還請求には5年または10年の時効があるため、時効間近の場合は内容証明郵便を送ったり訴訟を起こしたりするなど、消滅時効のカウントを中断させるための対策が必要です。

また、実際に不当利得返還請求の手続きを行うには証拠を揃えたり、相手へ内容証明を送ったりと様々な準備や手続きが必要であるため、返還請求を検討するなら弁護士へ相談するのがおすすめです。

本記事では、不当利得返還請求とは何かを説明するとともに、不当利得返還請求の時効や請求の要件、手続きの流れ、請求の注意点などについて説明します。費用の用意が難しい場合にできる対策についても解説するので、参考にしてください。

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不当利得返還請求とは不当に得た利益を返還してもらうための請求

不当利得返還請求とは、法的な原因なく他人の財産などから不当に利益を得た人へその利益を返還してもらうよう請求することです。請求者は、受益者が利益を得たことによって損失を与えられた人物です。

相続財産の使い込みは、不当利得返還請求の対象になります。相続発生後、遺産分割協議が終わるまでは原則的に預金の引き出しや財産の処分はできませんが、それを勝手に行なった場合は使い込みにあたります。

また、被相続人が生前認知症などで判断力が衰えている場合に、被相続人の預貯金を正当な理由なく引き出し私的に使用した際も該当します。

このような場合、使い込みで他の相続人が本来受け取るはずだった財産が減少するため、受益者によって損失が与えられたということとなり、不当利得返還請求を起こして返還を求められます。

不当利得返還請求には5年間または10年間の時効がある

不当利得返還請求には時効があり、一定期間を過ぎると請求権が消滅します。以前は請求権が発生した時から10年と定められていましたが、2020年4月の民法改正によって以下のいずれか早い方へと変更されました。

第百六十六条 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
引用元:e-Gov法令検索

相続財産のケースでは、財産の使い込みを知った時から5年もしくは財産の使い込みが始まってから10年です。例えば使い込みが始まってから1年後に発覚した場合は、使い込みから10年経過していないにもかかわらず、その5年後に時効を迎えます。そのため、基本的には使い込みが発覚してから5年以内に請求権を行使しないといけません。

また、遺産が使い込まれたと知らずに分割協議を終えてから、時効間近になって発覚する場合もあります。その場合は急いで時効の進行を止めないと、手遅れになる恐れがあるでしょう。具体的な対策としては、内容証明郵便で返還請求をする旨を通知します。内容証明郵便を送ると、消滅時効の成立を6ヶ月間延長可能です。また、その間に訴訟を起こせば時効を止められます。

不当利得返還請求の要件

不当利得返還請求を行うには、次の4つの要件を満たす必要があります。

  • 受益者が他者の財産で利益を受けていること
  • 請求側に損失が生じていること
  • 利益と損失の両者に因果関係があること
  • 法的な原因がなく受益者が利益を受けていること

これら全てが満たされていないと、返還請求は無効となるので注意しましょう。

受益者が利益を受けていること

不当利得返還請求を行うには、請求される人が利益を得ているのが前提となります。例えば、ある人のお金が受益者に渡ると、受益者の財産が増えます。財産が増えた=利益を得たということなので、不当利得返還請求の要件の1つとなり得ます。

とはいえ、これだけではまだ不当利得とは言えません。受益者の利益が不当利得と証明するには、次に挙げる2つ目から4つ目までの要件を満たす必要があります。

請求側に損失が生じていること

相続財産を使い込んだ場合は、そのために他の相続人の相続金額が減ったことになります。そのため、他者へ損失を生じさせたとして不当利得返還請求の要件とすることが可能です。これは個人間の利得と損失を埋め合わせ、均衡を図るという不当利得制度の目的に基づいています。

ただし、使い込みがあったとしても他者への損失がない場合には対象とならず、受益者は利得を返還する必要がありません。

利益と損失の両者に因果関係があること

たとえ相手が利益を得ていたとしても、請求者の損失と無関係なら不当利得返還請求はできません。相続財産の使い込みでは、相手が遺産を自分の口座に移すなどして他の相続人が受け取るべき遺産額が減った場合などが該当します。

財産の使い込みが発覚しても、お金が移動した事実を明確に証明できないと不当利得と認められない可能性があるため注意が必要です。

法的な原因がなく利益を得ていること

法律上の根拠がなく、利益を得ている場合も不当利得と見なされます。たとえば贈与契約や他の相続人の合意がない状態で、相続分を超える額の遺産を自分の口座に移した場合などです。この場合は預貯金を引き出す権限がないのに引き出したので、法的な原因なく得た利益となり不当利得の対象となります。

不当利得返還請求の手続き方法

では、不当利得の返還はどのように請求すればいいのでしょうか。返還請求には必要な書類や手順があり、スムーズに行うためにも以下のような流れで進める必要があります。

  1. 証拠を集めて損失額を計算する
  2. 弁護士に相談する
  3. 内容証明郵便を相手へ発送する
  4. 請求相手との協議をおこなう
  5. 相手が返還に応じない場合は訴訟を提起する

それぞれのポイントを詳しく解説します。

証拠を集め、損失額を計算する

まずは、相手が不当利得を得たという証拠を揃えます。証拠とは、前述した4つの要件を客観的に証明するものです。たとえば、財産の使い込みであれば通帳や口座の取引履歴が必要です。他にも、不動産の売買契約書や登記事項証明書、生命保険の解約及び保険契約変更通知、株式などの有価証券の取引残高報告書なども証拠となります。

また、病院の診断書や贈与契約書などがあれば、使い込みに関する法的な原因となるためそれらの書類がないかも確認しましょう。使い込みがされた時点で被相続人が認知症だった場合は、カルテや介護記録などがあれば証明となります。証拠が揃ったら、具体的な損失額を計算します。

弁護士に相談する

自分で不当利得返還請求を行うことも可能ですが、請求にあたっての準備やこじれた場合の対応が大変です。返還請求を行う場合は、ぜひ弁護士に相談しましょう。

弁護士に相談すると、前述した証拠集めについてのアドバイスが受けられたり、また第三者が介入することで訴訟まで行かずに話し合いで決着を付けられることがあります。もし話し合いが決裂し後述する訴訟に発展した際も、引き続き相談できるといったメリットがあります。

弁護士に相談する際は、不当利得返還請求に関する相談実績を持つ弁護士がおすすめです。実績がある弁護士なら、その経験からそれぞれの状況に合わせて適切なアドバイスや提案をしてもらえます。

内容証明郵便を送付する

証拠を集めて請求の準備が整ったら、不当利得の返還を請求する旨を内容証明郵便を使って相手に通知します。内容証明郵便の送付は相手への催告となります。催告とは、一般的には債権者が債務者に対して支払いを促すことです。

催告書には前述した5年、10年といった消滅時効のカウントを中断させられるという役割もあるため、弁護士に内容や書き方のサポートをしてもらうのがおすすめです。ただし、内容証明郵便を送っても支払いに対しての法的な効力はありません。しかし弁護士名が明記された内容証明を送ることで、相手も無視できなくなるといったメリットがあります。

請求相手との協議を行う

内容証明郵便が届いた相手から連絡があれば、そこから不当利得返還請求に関して当事者間で協議が行われます。弁護士に依頼している場合は、請求者に代わって弁護士が相手と講習するケースもあります。相手が協議で不当利得を認め、返還に応じるなら訴訟を起こす必要はありません。

協議がまとまれば返還金額と返還方法を定めた合意書を作成し、今後合意書に従って返還が行われます。無事遺産の返還が完了したら、あらためて相続人全員で分割協議を行いましょう。

相手が応じない場合は訴訟を提起する

相手がどうしても返還に応じない場合は、民事訴訟を提起することになります。訴訟で不当利得が立証できれば、裁判所から相手へ返還命令が出されるだけでなく、判決に従わない場合は強制執行も可能です。

ただし、自分で訴状や必要な証拠を揃えるのは大変です。また、状況によって裁判をするのが適切かどうかを判断する必要もあります。様々な手続きや判断が必要なため、弁護士に相談して決めると良いでしょう。

不当利得返還請求の注意点やポイント

不当利得返還請求には、いくつかの注意点やポイントがあります。まず、請求によって受け取れる金額には上限が定められています。返還請求をしなくても良いケースや、相続財産の使い込みに関しては不当利得返還請求を起こしやすいことも知っておきましょう。

そもそも相続財産が使い込まれないために、被相続人の死後すぐに口座を凍結したり、生前から成年後見人制度や家族信託を利用したり、相続人の間でよく話し合っておくなどの対策を行っておくことが大切です。

受け取れる金額には上限が定められている

不当利得返還請求によって取り返せる金額の上限は、請求をする相続人が本来受け取るはずの法定相続分までです。たとえば2000万円の使い込みがあったとしても、法定相続分が1000万円なら1000万円しか受け取れません。

また、返還の限度は基本的に現在残っている利益、すなわち現存利益となります。請求した時点で利得者がすでに得た財産を使い切ってしまっていれば、不当利得の返還は不要です。ただし、悪意があって不当利得を得た場合には、現存利益が残っていなくても不当利得の全額を請求できる場合があります。

不当利得返還請求をしなくても良いケースもある

使い込みが発覚しても、不当利得返還請求をしなくても良いケースがあります。2018年の民法改正によって、2019年7月1日以降に被相続人が死亡した場合は死後勝手に引き出された預金を遺産の中に組みなおして、遺産の分割ができるようになりました。そのため、不当利得返還請求を行わなくても、他の相続人に不利益が出ないようになっています。

ただし、あくまで被相続人の死亡後に引き出された財産が対象です。たとえば被相続人が生前に認知症であり、その際に勝手に預金が引き出されていた場合には、不当利得返還請求が必要となります。

相続財産の使い込みは不当利得返還請求を起こしやすい

不当利得において、相続財産の使い込みは返還請求を起こしやすいと言えるでしょう。なぜなら、被相続者が亡くなると預貯金口座は分割協議が終わるまで凍結され、分割が終わるまでは勝手に使うことができないからです。

ちなみに預貯金の引き出し以外に、自宅金庫の現金を使用したり不動産賃料の利益を取得したりなども、使い込みに該当します。実際に遺産を不当に受け取っていたとして訴訟に発展し、受け取った利得の返還に成功している例もあります。

相続財産の使い込みが起きないための事前対策が大切

相続財産の使い込みがわかってからでは、取り戻すために多大な労力が必要です。使い込みが起きないためにも、事前にしっかり対策しておきましょう。まずは、被相続人の死亡後すぐに口座を凍結するのが大切です。口座が凍結されると自由に現金の引き出しや振込などができなくなるため、なるべく早く金融機関へ申し出ましょう。

また、成年後見人制度家族信託などを被相続人の生前から利用しておくのも、対策として有効です。成年後見人制度では、後見人に被相続人の財産管理を任せます。家族信託の場合も受託者(財産の管理や運用、処分を任せる人)を先に決めておけるため、第三者による使い込みを防げます。

相続人の間で話し合いを実施することも大切

相続が発生すると、使い込みがなくても相続人の間でトラブルに発展することが少なくありません。相続トラブルを防ぐためには、相続人の間でよく話し合い、わだかまりをなくす努力をするのが大切です。

たとえば生前贈与を活用し、先に財産を受け取っておくと後でトラブルになる可能性が低くなるでしょう。また、「介護負担が大きい」「家業を無給で手伝っている」など被相続人への貢献度が高い場合には、法定相続分を超える財産を相続できる「寄与分」の制度があります。寄与分を主張できる相続人がいる場合も、事前に話し合っておくと安心です。

不当利得返還請求の訴訟を起こす際は弁護士に依頼しましょう

訴訟を起こす可能性がある場合に、気になるのは弁護士費用がどれくらい必要なのかではないでしょうか。弁護士費用には着手金や報酬金などが含まれており、全てを合わせた費用の相場は30~150万円程度と幅が大きいのが実情です。

弁護士費用を負担するのは、原則依頼者です。もし費用の用意が難しい場合は、分割払いを依頼したり法テラスに相談するといった方法があります。それぞれ詳しく解説していきます。

弁護士費用の相場は30~150万円程度

弁護士費用は、訴訟が解決した際に得られる経済的利益の額によって変動します。全体でおよそ30~150万円程度かかることが多いでしょう。弁護士費用の内訳には着手金や報酬金があり、各相場は以下の通りです。

  • 着手金:約30~50万円
  • 報奨金:経済的利益の約4~16%

たとえば、400万の経済利益が得られる訴訟の場合、着手金が40万円で報酬金が10%に設定されていれば弁護士費用の合計は80万円となります。

ただし、最低報酬金額を設定している法律事務所もあるため、経済利益が少額の場合でも思いもよらない金額になる場合があります。

弁護士費用を負担するのは原則として依頼者

弁護士費用は、原則として依頼した本人が支払わなくてはいけません。不当利得返還請求において、複数の相続人の総意として誰か1人が代表として依頼した場合も、依頼した人に支払いの義務が生じます。

また、訴求の請求額に弁護士費用を上乗せするケースは過去にはありましたが、現在はできません。ただし、不法行為による損害賠償請求を行う場合などでは、加害者側に被害者の弁護士費用を請求できるケースもあります。

弁護士費用の用意が難しいときの対策

弁護士へ不当利得返還請求訴訟を依頼するには、決して少なくない費用が必要になります。では、弁護士費用が用意できない場合はどうすればいいのでしょうか。費用の捻出が難しいときは、以下の方法で弁護士へ依頼が可能です。

  • 弁護士費用を分割で支払う
  • 法テラスを活用する

それぞれの方法を詳しく見ていきましょう。

分割払いを依頼する

弁護士費用の内、着手金は基本的に依頼時に支払います。その際にまとまった金額を用意できない場合に、相談すれば分割払いに応じてくれる弁護士事務所は多く存在します。

その他、着手金の後払いが可能な場合もありますが、分割に比べるとそれほど多くありません。また後払いにした場合、費用の総額が高くなるケースがあります。どうしても費用の工面が難しいのなら、なるべく分割払いをお願いしてみましょう。

法テラスの民事法律扶助制度を活用する

着手金の分割に応じてくれる弁護士が見つからない場合は、法テラスの活用も検討しましょう。法テラスとは、法律問題を解決するために法務省が設置する相談窓口です。収入や資産が一定額以下なら、無料で法律相談ができます。

法テラスでは民事法律扶助制度が利用でき、無料の法律相談だけでなく弁護士費用の立て替えなども行なってくれます。民事法律扶助制度を利用するには直接法テラスに問い合わせる方法と、法テラスと契約する弁護士事務所に連絡する方法の2通りあります。

まとめ

本来は法定相続分や分割協議によって公平にわけられるべき相続財産が使い込まれた時は、不当利得返還請求によって取り戻せます。ただし、返還請求には時効がある上に、不当利得と認められるには複数の要件を満たす必要があります。また、自分で証拠の取得や返還請求の手続きをするのは大変です。

スムーズに不当利得返還請求を行いたいなら、弁護士へ相談するのがおすすめです。弁護士へ依頼すれば諸々の手続きを代わりに行ってくれるだけでなく、状況に応じたアドバイスも貰えます。弁護士費用の工面が難しい場合でも、分割払いや法テラスの活用など方法があるため、ぜひ弁護士への相談を検討してみましょう。

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更新日 : 2024年11月15日
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