代償分割とは分割しにくい財産を平等に分割するための方法
代償分割は、不動産や非上場株式などの分割しにくい遺産を、複数人で公平に相続するために用いる方法です。遺産を現物で取得した人が、他の相続人に対して代償金を支払うことで遺産を分配します。
たとえば、子2人が相続人となるケースで、子の1人が6,000万円の不動産を相続し、もう一方が4,000万円の現金を相続すると、不平等が生じてしまいます。そこで、不動産を相続した子が、もう一方の子に対して1,000万円の代償金を支払えば、両方とも5,000万円ずつを相続できるため、公平な遺産分割を実現できるという仕組みです。
代償分割以外の遺産分割の方法
遺産分割の方法は代償分割以外にも以下の3通りがあります。
それそれ詳しくみていきましょう。
現物分割
現物分割とは、現金や預金、土地、家屋、株式などの相続財産を、相続人が現物のまま引き継ぐ方法です。たとえば、長男に現金、次男に不動産、長女に有価証券を配分するようなケースが当てはまります。
換金などをする必要がないため簡単に手続きできる反面、それぞれの資産の価値が大きく異なっている場合も多く、公平性に欠けた遺産分割になりやすいのが特徴です。
換価分割
換価分割とは、現金以外の相続財産をすべて売却して現金化し、その現金を相続人同士で分配する方法です。たとえば、預貯金2,000万円、不動産3,000万円、有価証券4,000万円の財産を3人の子が相続するケースでは、全ての財産を売却し、3,000万円ずつ均等に分配することができます。
現物分割と比べれば、売却の手続きに時間がかかるものの、比較的に公平に分割できるというメリットがあります。ただし、売却益は譲渡所得の扱いになり、所得税や住民税が課せられることもあるため、相続した現金が減ってしまう可能性がある点には注意が必要です。
共有分割
共有分割とは、相続財産の一部または全部を相続人同士で共有して相続する方法です。たとえば、自宅として利用していた不動産を、子2人が2分の1ずつ相続するようなケースがあてはまります。
共有持分(所有権の割合)を設定するため、比較的公平な相続を実現できるのが共有分割のメリットです。また、売却の手間もかかりません。しかし、共有財産を処分する際は、持分だけを部分的に売却することなどはできないため、共有者全員の合意を得る必要があります。
さらに共有持分を持った相続人がなくなると、その子が権利を継承し、権利関係が複雑になることも少なくありません。
トラブルに発展する可能性もあるため、他の遺産分割方法を選択できない場合に取るべき手段といえます。
代償分割を行うメリット
代償分割を行うメリットは以下の通りです。
- 遺産を公平に分割できる
- 不動産を売却する必要がない
- 特例を活用すれば相続税の節税にもつながる
それぞれ詳しく解説します。
遺産を公平に分割できる
分割するのが難しい遺産でも、公平に分割できる点が代償分割を行うメリットの一つです。
たとえば、一人の相続人が不動産のような特定の財産を相続し、他の相続人にはその分の現金を支払うことで、全体の遺産をバランスよく分けられます。相続人同士の不平等を解消できるため、結果としてスピーディーに相続手続きが進むでしょう。
不動産を換金する手間やコストも省けるため、相続人全員の負担を軽減できる点もメリットです。
不動産を売却する必要がない
公平に分割するという意味では換価分割するのも一つの手です。しかし、被相続人と同居していた相続人が、被相続人名義の自宅を相続する場合、売却すると住む場所がなくなってしまうこともあり得ます。
遺産をどうしても売却できない場合に役立つのが代償分割です。代償分割であれば、不動産を売却する必要なく遺産を分割できます。
特例を活用すれば相続税の節税にもつながる
代償分割によって不動産を相続した場合、小規模宅地等の特例を活用できる場合もあります。
小規模宅地の特例とは、被相続人の自宅や事業に使われていた宅地の相続税評価額を最大80%減額できる制度です。評価額が小さくなれば、その分相続税も低くなります。
なお、小規模宅地の特例を適用するためには、基本的に相続税の申告が必要です。
代償分割を行うデメリット
代償分割にはメリットだけではなく、以下のようなデメリットもあります。
- 多額の代償金が必要となる可能性がある
- 代償金の算出方法でトラブルになる可能性がある
それそれ詳しくみていきましょう。
多額の代償金が必要となる可能性がある
代償分割をするためには相続人自身の財産から代償金を用意する必要があります。相続する遺産の価値が大きいほど、用意すべき代償金も高くなる点には注意が必要です。
現金がなく代償金が支払えない場合は、以下のような対処法もあります。
- 他の相続人に対して分割での支払いを交渉する
- 現金以外の有価証券や不動産(現物)で代償金を支払う
- 不動産担保ローンを利用してお金を借りる
しかし、分割払いを選択して代償金の支払いが滞った場合には訴訟を提起されるリスクがあります。また、必ずしも他の相続人の同意を得られるとは限らないため、代償金の支払い能力がほとんどない場合、代償分割を選択するのは難しいと考えておいたほうがよいでしょう。
代償金の算出方法でトラブルになる可能性がある
代償金の金額は相続対象の財産にどれだけの価値があるかで決まります。たとえば土地の場合、以下のように評価方法が複数あるため、相続人同士によって評価額をいくらにするのか意見が分かれることも少なくありません。その結果、遺産分割協議がまとまらないこともあります。
当事者間だけで話がまとまらない場合は、遺産分割調停を申し立てることも選択肢の一つです。遺産分割調停では、調停委員が双方の主張を聞いた上で、円満に解決できるように導いてもらえます。
ただし調停はあくまでも話し合いによる手続きなので、必ずしもトラブルが解決に向かうとは限りません。調停が不成立になった場合は、裁判所による審判の手続きに入るため、相続手続きをなかなか終えられなくなってしまいます。
トラブルを未然に防げるよう、遺産分割協議をする段階で不動産鑑定士や弁護士など、第三者を交えながら話し合いを進めることをおすすめします。
代償分割にすべきケースと避けるべきケース
代償分割にはメリットとデメリットの両方があるため、どのような場面でも活用できるわけではありません。ここでは代償分割にすべきケースと避けるべきケースを、それぞれ紹介します。
代償分割にすべきケース
代償分割を行った方が良いのは、以下のようなケースです。
- 公平に遺産分割をしたい場合
- 被相続人と同居していた相続人が被相続人名義の自宅を相続したい場合
- 不動産しか遺産がない場合
- 事業承継のために自社株式や事業用不動産を相続する場合
現物分割をしたものの、公平な遺産分割ができない場合や、不動産を売却せずに相続を実現したい場合は特に有効です。
また、事業承継をする際に、自社株の所有者が分散したり、事業用不動産が共有名義になってしまったりすると、経営が不安定になるリスクがあります。代償分割を利用することで経営資源を経営者となる相続人に集中させることが可能です。
代償分割を避けるべきケース
以下のケースでは、代償分割を避けた方がよいでしょう。
- 代償金を用意できない場合
- 不動産を売却したい場合
- 他の相続人から了承が得られない場合
代償金を支払う資力がない場合や不動産を売却したい場合は、現物分割や換価分割など他の遺産分割方法を選択した方が、手続きがスムーズに進む可能性もあります。また、代償金の算出方法について意見が分かれてしまった場合など、そもそも他の相続人から了承が得られない場合に代償分割は利用できません。
代償分割における手続きの流れ
代償分割をする際の一般的な手続きの流れは以下の通りです。
- 相続財産・相続人を調査する
- 遺産の分割方法について話し合う
- 代償金をいくらにするか決める
- 遺産分割協議書を作成しておく
- 代償金を決められた期日までに支払う
それぞれ詳しく解説します。
1.相続財産・相続人を調査する
まずは被相続人の財産と相続人を調査し、確定させることが大切です。相続財産はプラスの財産とマイナスの財産を両方調査し、マイナスの財産が多い場合は、相続放棄を検討した方がよい場合もあります。遺産分割協議には相続人全員の参加が必要になるため、被相続人の戸籍謄本をもとに相続人を漏れなく調べましょう。
同時に遺言書の有無も確認しておく必要があります。遺言書があれば基本的にその内容に従って分割しますが、なかった場合は相続人同士で遺産分割の方法を決める必要があるからです。
2.遺産の分割方法について話し合う
相続人全員で、遺産の分割方法について話し合います。このときに「誰が何をいくら相続するのか」だけではなく、代償分割を行うかどうかも決めましょう。代償分割を行う場合は相続人全員の合意が必要です。
話し合いがまとまらない場合は家庭裁判所に申し立てて遺産分割調停や審判などを実施しましょう。ただし、調停や審判で代償分割が認められるためには、特別な事情によって現物分割が不可能であることや、代償金の支払い能力があることなどの要件を満たす必要があります。
3.代償金をいくらにするか決める
代償分割をする合意が得られたら、実際にいくら代償金を支払うか決めましょう。
代償金の金額に法的な決まりはなく、当事者同士が合意していれば完全に平等にならなくても構いません。たとえば、長男が評価額5,000万円の不動産を相続し、次男が1,000万円の現金を相続することになったとします。平等にするのであれば、長男から次男へ代償金を2,000万円支払うことで2人の子がそれぞれ3,000万円ずつ相続できます。しかし、長男と次男の間で合意できていれば、代償金を500万円にすることも可能なのです。
代償金については双方が納得いく金額になるよう、じっくり話し合って決めましょう。
4.遺産分割協議書を作成しておく
遺産分割の内容・方法がまとまったら遺産分割協議書を作成します。
遺産分割協議書に決まった書式はありませんが、以下のような事項を記載するのが一般的です。
- タイトル(遺産分割協議書)・作成日
- 被相続人の氏名や住所、死亡日
- 相続人全員が遺産分割の内容に合意していること
- 相続財産の具体的な内容
- 代償金の金額と支払期日
- 相続人全員の氏名・住所と自署・押印
遺産分割協議書に漏れや誤りがあると、相続登記をやり直す必要が出てくるため、注意しましょう。
詳しい遺産分割協議書の書き方が気になる方は、以下の記事も参考にしてください。
5.代償金を決められた期日までに支払う
代償金を遺産分割協議書に記した期日までに支払います。
もし期日までに支払われない場合、相続人は家庭裁判所に紛争調整調停を申し立てることが可能です。調停が不成立になった場合は、代償金支払請求の訴訟を提起することもできます。
いずれにしても、最終的には強制執行で財産の差し押さえをされる可能性もあるので注意が必要です。
代償分割で気を付けたいこと
代償分割を行う際は、以下の点に注意しましょう。
- 遺産分割協議書に代償分割の旨を必ず記載する
- 譲渡所得税が発生する可能性もある
- 生命保険金は相続財産に含まれない
それぞれ詳しく解説します。
遺産分割協議書に代償分割の旨を必ず記載する
代償分割を行う際は、遺産分割協議書にその旨を必ず記載しておきましょう。
代償金の種類や金額、支払い期限などを記載しておかなければ、代償分割ではなく単なる「贈与」とみなされ、贈与税の支払いが必要になります。また、認識の違いによるトラブルも起きやすくなるため、書面で証拠を残しておくことが大切です。
譲渡所得税が発生する可能性もある
代償金を自身が所有する不動産や株式などの現金以外で支払う場合は、譲渡所得税が課せられる可能性があります。
たとえば、長男が次男へ代償金の代わりに時価5,000万円の不動産を渡したとしましょう。この不動産の所得価額が3,000万円だった場合、長男は5,000万円ー3,000万円=2,000万円に係る譲渡所得税を支払わなければなりません。また、受け取った次男に対しても不動産取得税などが課せられる可能性があります。
多くの税金が発生することで、相続財産を減らしてしまう場合もあるため、現金以外で代償分割をする際は一度税理士に相談してみた方がよいでしょう。
生命保険金は相続財産に含まれない
被相続人が加入していた生命保険の死亡保険金は、相続財産ではなく受取人固有の財産になるため、遺産分割の対象にはなりません。もし自身が保険金の受取人に指定されている場合は、代償金の支払いに充てることも可能です。
ただし、相続財産の大半を生命保険金が占めている場合などは、他の相続人との公平性を保つために、相続分が調整されてしまう(特別受益の持ち戻し)可能性もあるので注意しましょう。
代償分割を実施した場合の相続税の計算方法
"代償分割を行う際の相続税の計算方法には以下の2種類があります。
- 相続税評価額による計算方法
- 時価を活用した計算方法
相続税の税率や計算方法については、以下の記事でも解説しています。
相続税評価額による計算方法
相続税評価額とは、相続税を計算する際に用いる財産の評価額のことです。土地については路線価方式または倍率方式によって評価額を決定します。建物については固定資産税評価額を用いるケースが一般的です。
代償金を支払う相続人は、相続税評価額から代償金額を差し引くことで課税価格を算出可能です。一方、代償金を受け取る側は代償金以外に相続した遺産の価額と代償金をプラスした金額が課税価格になります。
たとえば、被相続人の子ども2人(長男・次男)が不動産を相続した場合の課税価額について考えてみましょう。長男が相続税評価額5,000万円の不動産を相続して次男に代償金2,500万円を支払う場合、長男の課税価格は5,000万円-2,500万円=2,500万円です。
弟は預貯金1,000万円を相続し、さらに長男からの代償金を受け取ったとすると、1,000万円+2,500万円=3,500万円が課税価格になります。
時価を活用した計算方法
時価(実勢価格)による課税価格の算出方法は以下の通りです。
・代償金を支払う相続人:相続税評価額-代償金×(相続税評価額÷代償分割時の時価)
・代償金を受け取る相続人:代償金以外に相続した遺産の価額+代償金×(相続税評価額÷代償分割時の時価)
たとえば、被相続人の子ども2人(長男・次男)が、相続税評価額5,000万円・代償分割時の時価6,500万円の不動産を相続するケースを考えてみましょう。長男が不動産を相続して次男に代償金2,500万円を支払う場合、長男の課税価格は5,000万円-2,500万円×(5,000万円÷6,500万円)=約3,076万円です。
弟は預貯金1,000万円を相続し、さらに長男からの代償金を受け取る場合、課税価格は1,000万円+2,500万円×(5,000万円÷6,500万円)=約2,923万円になります。
原則として代償分割に贈与税は発生しない
代償分割は相続税の課税対象にはなるものの、基本的に贈与税は発生しません。
ただし、遺産分割協議書に代償分割を行うことが記載されていない場合は、代償金の授受が贈与とみなされ課税される可能性はあります。また、相続した財産よりも過大な代償金を取得した場合は、超過分に対して贈与税が課せられる場合もあります。
たとえば、被相続人の子ども2人(長男・次男)が相続税評価額3,000万円の不動産を相続したとしましょう。長男が不動産を相続し、次男に代償金を5,000万円支払った場合は、評価額の超過分2,000万円に対して贈与税が課税される可能性があるのです。
まとめ
公平な相続を実現したい場合や、遺産のほどんどが不動産や株式など分割にしにくい資産である場合は、代償分割を検討しましょう。代償分割は、適正な方法で行われれば、現物を相続できない相続人から不満が出にくい方法といえます。
ただし、相続内容によっては多額の代償金が必要になることも少なくありません。また、代償金の算出方法でもめたり、代償金が支払われないことでトラブルになったりするケースもあります。また、代償金を現金以外で支払った場合は、譲渡所得税や不動産取得税など、余分な税金の支払いが必要になるかもしれません。
スムーズに手続きを進めるためにも、遺産分割協議の段階で相続人同士が納得できるよう話し合いを進めましょう。不安がある場合は、弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。
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