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成年後見人の手続きを自分で行う方法|申立ての流れや必要書類

成年後見人の手続きを自分で行う方法|申立ての流れや必要書類

成年後見人の手続きを自分や家族が行うことを検討しているものの、「そもそも自分でできるか自信がない」「流れや必要書類がわからない」といった悩みを抱えている人もいるのではないでしょうか。

成年後見人の手続きは自分でも対応可能です。ただし、準備すべき書類や手順が多く制度自体も複雑であるため、「誰でも簡単に」というのは難しいでしょう。自分で行うなら制度を正しく理解し、手続きの流れを掴む必要があります。

手続きが不安な人や、自分で行うことに限界を感じる人は、「専門家に頼る」という選択肢も検討してみてください。

この記事では、成年後見人の手続き方法や後見・補佐・補助開始の申立ての流れ、必要書類について解説します。費用や注意点なども解説しているため、ぜひ最後までご覧ください。

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成年後見人の手続きは2種類ある

成年後見制度には、「法定後見制度」と「任意後見制度」の2つの分類があります。どちらも判断能力が低下した人を守るための制度ですが、利用できる人の条件や細かい内容が異なります。

両者の違いは以下のとおりです。

法定後見制度 任意後見制度
制度を利用できる人の条件 申立ての時点ですでに認知症・知的障がい・精神疾患などによって判断能力が低下している人 申立ての時点で判断能力が十分にある人
後見の内容 家庭裁判所が本人の判断能力を見て後見・保佐・補助のうちどれに該当するか決める 本人が決める
後見人の選任者 家庭裁判所 本人
監督人の要不要 必要な場合に家庭裁判所が選任する 必ず家庭裁判所が選任する

大きな違いは、法定後見制度が「すでに判断能力に不安がある人の財産を守る」制度であるのに対し、任意後見制度は「現時点で判断能力があり元気な人が将来に備える」制度である点です。

なお、成年後見人とは、被後見人本人の財産を管理する人のことをいいます。そして後見監督人とは、成年後見人が適正に仕事をしているかどうかを監督する立場の人です。

成年後見人の手続きを自分で行う方法【法定後見制度の場合】

法定後見制度は自分で手続き可能です。専門家に依頼せず自分で手続きすることで、専門家に依頼する場合よりも費用を抑えられます。

ここでは、法定後見制度の手続きを自分で行う方法について解説します。

  1. 後見・補佐・補助の申立てを行う際はまず申立て先を確認する
  2. 診断書は被後見人の状態をよく理解しているかかりつけ医への依頼がおすすめ
  3. 申立ての際は診断書に加えて戸籍や住民票など、いくつか準備すべき書類がある
  4. 申立書類は、管轄裁判所のホームページからダウンロード可能
  5. 申請書類の準備に目処がついたら、家庭裁判所に面接の予約を入れる
  6. 申立書を提出したら、正当な理由がない限り取り下げできない
  7. 審理開始後は面接や親族への確認、医師による鑑定が行われる
  8. 審判後、審判書は成年後見人に送付され、不服があれば2週間以内に申立てる
  9. 審判確定後、裁判所経由で登記されたら登記事項証明書を取得する
  10. 「財産目録」と「年間収支予定表」を作成し家庭裁判所へ提出する

1. 申立先を確認する

まずは、後見・補佐・補助開始の申立てをどこに対して行えばよいのかを確認しましょう。申立先は被後見人(認知症などを発症した親)の住所地を管轄している家庭裁判所です。申立人の住所地ではない点に注意が必要です。

裁判所の管轄区域は、裁判所のホームページで確認できます。どこに申し立てればよいのかわからない場合は、ホームページで確認するか最寄りの家庭裁判所に問い合わせましょう。

なお、申立てを行えるのは以下の人物です。

  • 被後見人本人
  • 本人の配偶者
  • 四親等内の親族c
  • 検察官
  • 市区町村長(被後見人が65歳以上や精神障害者などの場合)

四親等内の親族とは、親、祖父母、子ども、孫、ひ孫、兄弟姉妹、甥姪、叔父叔母、いとこなどが該当します。

参照:裁判所|裁判所の管轄区域

2. 病院で診断書を書いてもらう

申立先を確認したら、病院に診断書の作成を依頼しましょう。法定後見制度では、被後見人の判断能力がどの程度低下しているかによって「後見」「保佐」「補助」のうちどの類型がふさわしいかを判断します。診断書はその判断材料として使用します。

後見、保佐、補助の違いは以下のとおりです。

  • 後見:自分で財産の管理や処分ができない
  • 保佐:常に援助してもらわないと財産の管理や処分ができない
  • 補助:援助がないと財産の管理や処分ができないときがある

診断書の書式には法定後見制度専用のものがあり、各家庭裁判所のホームページからダウンロードが可能です。病院で診断書を依頼するときに「後見制度を利用するために必要」である旨を説明すれば専用の書式で作成してくれますが、念のため診察の際に持参してもよいでしょう。

注意点は、場合によっては診断書をもらえるまでに時間がかかる可能性がある点です。たとえば、本人の状態をよく理解しているかかりつけ医に依頼するなら1度の診察で作成してもらえるケースが多いですが、はじめて受診する病院などに依頼するときは、期間にして1カ月程度、回数にして2〜3回通院しないと作成してもらえない傾向にあります。

できれば、本人の状態をよく知る病院に依頼することをおすすめします。

3. 申立に必要な書類を集める

後見・補佐・補助開始の申立てには、診断書以外にも提出しなければならない書類がいくつかあります。

必要書類は以下のとおりです。

書類名 備考
戸籍謄本 本人のものが必要(発行から3カ月以内)
市区町村役場で取得可能
住民票または戸籍附票 本人・後見人候補者のもの(発行から3カ月以内)
市区町村役場で取得可能
後見登記されていないことの証明書 本人のもの(発行から3カ月以内)
法務局(本局)で取得可能
本人に関する資料 本人の健康状態、財産、本人が相続人になっている遺産分割未了の相続財産、収支がわかるもの

上記の書類と診断書を後述する申立書類に添付し、管轄の家庭裁判所に提出します。本人が知的障がい者で「愛の手帳」が交付されている場合は、そのコピーを添付する必要があります。

なお、戸籍謄本や住民票、後見登記されていないことの証明書は、被後見人と後見人候補者の身元を証明する書類です。それに対し「本人に関する資料」とは、被後見人の心身の状態や財産状況、収支などを証明する書類です。

本人に関する資料には以下のものがあります。

本人の健康状態に関する資料
介護保険被保険者証
療育手帳
精神障害者保健福祉手帳などの写し
本人の財産に関する資料 備考
預貯金、有価証券の残高がわかる書類 預貯金通帳の写し
残高証明書など
不動産の詳細がわかる書類 全部事項証明書(登記がある場合)
固定資産評価証明書(登記がない場合)
負債の詳細がわかる書類 ローン契約書の写しなど
本人が相続人になっている遺産分割未了の相続財産に関する資料 備考
預貯金、有価証券の残高がわかる書類 預貯金通帳の写し
残高証明書など
不動産の詳細がわかる書類 全部事項証明書(登記がある場合)
固定資産評価証明書(登記がない場合)
本人の収支に関する資料 備考
収入がわかる資料の写し 年金額決定通知書
給与明細書
確定申告書
家賃や地代の領収書など
支出がわかる資料の写し 施設利用料
入院費
納税証明書
国民健康保険料等の決定通知など

本人に関する資料のうち、「不動産の詳細がわかる書類」については原本が必要です。ほかの資料についてはコピーで構いません。なお、コピーをとる際は用紙をA4サイズで統一し、縮小・拡大せずそのままの倍率でコピーする必要があります。

住民票など、マイナンバーの記載があるものは、マイナンバー記載なしで取得するかマイナンバーを隠した状態でコピーしましょう。

4. 申立書類を作成する

必要書類の収集と並行して、申立書類も準備しましょう。

申立書類は以下のとおりです。

  1. 後見・保佐・補助開始等申立書
  2. 申立事情説明書
  3. 親族関係図
  4. 財産目録
  5. 相続財産目録
  6. 収支予定表
  7. 後見人候補者事情説明書
  8. 親族の意見書

上記は、東京家庭裁判所で必要とされている書類です。申立書類の様式は裁判所のホームページ(後見ポータルサイト)に全国統一のものが掲載されていますが、家庭裁判所ごとに独自の様式が備わっており、準備すべき書類も異なります。

様式が違っていても申立てできる場合もありますが、管轄の家庭裁判所に必要な書類や様式を確認してから準備に取りかかったほうが無難でしょう。

様式は、各家庭裁判所のホームページからダウンロードが可能です。「◯◯家庭裁判所 後見申立て」と検索すればそれぞれのホームページにたどり着きます。全国統一の様式が推奨されている場合は、後見ポータルサイトからダウンロードしましょう。

なお、申立てには収入印紙と切手が必要です。郵便局やコンビニで購入してもよいですが、家庭裁判所内の売店で購入できるため、申立書提出前に売店に寄って購入してもよいでしょう。

  • 申立手数料:収入印紙800円分(申立書に貼付)
  • 登記料:収入印紙2,600円分
  • 郵便切手:後見開始は3,720円、補佐・補助開始は4,920円

上記は東京家庭裁判所の収入印紙・郵便切手代です。郵便切手代は家庭裁判所によって金額が異なる可能性があります。事前に確認しておくことをおすすめします。

そのほか、診断書では本人の状態が把握できず医師による鑑定が行われるときは、別途鑑定料(10万円程度)が必要です。

参照:裁判所|東京家庭裁判所
参照:後見ポータルサイト

5. 家庭裁判所の面接日を予約する

申立書類の準備に目処がついたら、家庭裁判所に面接日の予約を入れましょう。成年後見人の手続きは申立書類を提出したら終わりではなく、申立後に申立人や成年後見人候補者から事情を聞くための面談が行われるためです。

申立てをしてから予約を入れてもよいですが、2週間〜1カ月先の予約しか取れないため、急ぐ場合は早めに予約しておいたほうがよいでしょう。おすすめは、先述のとおり「申立書類の準備に目処がついたタイミング」です。

面接日の1週間前までには申立書類を提出する必要があるため、あまりに早く予約を入れてしまうと書類が間に合わない可能性があります。面接日直前になって慌てなくても済むように、確実に間に合うタイミングで予約を入れましょう。

6. 家庭裁判所へ申立する

申立書類が整ったら、STEP2〜4で準備した申立書類を家庭裁判所に提出します。提出方法は持参と郵送の2つです。どちらの方法を選んでも審査には影響しないため、都合のよいほうを選びましょう。

注意したいのは、申立書類を提出すると手続きが開始してしまい、「やっぱり申立てをやめたい」と思っても家庭裁判所の許可なく取り下げができないことです。

逆にいえば、裁判所の許可さえ得られれば取り下げできるということですが、「申立人が希望する後見人候補が選任されなかったから」というような理由では認められません。正当な理由がなければ取り下げできないことを覚えておきましょう。

7. 申立受付後に家庭裁判所で審理が開始される

申立て受付後、裁判官による審理が開始されます。家庭裁判所内で申立書類を審査し、不備の有無や本人の状況、事情などを確認する作業が行われます。

審理の流れは以下のとおりです。

  1. 申立人・後見人候補者との面接
  2. 被後見人との面接
  3. 親族への確認
  4. 医師による鑑定

面接は、家庭裁判所内で行われるのが基本です。しかし被後見人が入院している、寝たきりで動けないなど、健康状態によっては調査官が出張してくれることもあります。また、診断書の内容だけで被後見人に判断能力がないと判断できるようなら、被後見人との面接は実施しない場合もあります。

親族への確認についても、提出した「親族の意見書」の内容次第では省略されることもありますが、裁判官が必要だと判断したときは拒否できません。

医師による鑑定については、家事事件手続法第119条1項で「成年被後見人となるべき者の精神の状況につき鑑定をしなければ、後見開始の審判をすることができない」と定められています。

しかし、「明らかにその必要がないと認めるときは、この限りでない」とも記載されており、見るからに重度の認知症である場合や、反対に判断能力がそれほど低下していないケースなど、あらためて鑑定を行う必要がないと判断されれば鑑定は行われません。

なお、申立てから後見人選任の審判が下るまでにかかる日数は、家庭裁判所の状況にもよりますが1カ月〜3カ月程度です。親族への確認や医師の鑑定が省略されたときは、それよりも短縮される可能性があります。

8. 審判を待つ

親族への確認や医師による鑑定が終われば、あとは裁判官による審判を待つのみです。後見開始の審判は成年後見人の選任と同時に行われ、家庭裁判所が必要と判断したときは後見人を監督する立場である「成年後見監督人」も選任されます。

審判内容は書面化され、「審判書」というかたちで申立人ではなく後見人宛に送付されます。

後見人を選任するうえで考慮されるのは、以下のような事項です。

  • 被後見人の状態
  • 被後見人の生活面での問題
  • 被後見人の財産状況
  • 後見人候補者の職業・経歴
  • 被後見人・後見人候補者間の利害関係の有無
  • 被後見人の意見
  • 親族の意見

申立ての際に指定した後見人候補者が選任されるとはかぎりません。たとえば被後見人の生活面に問題がある場合や財産管理が困難であるとわかっているようなケースでは、後見人候補者ではなく弁護士や司法書士といった専門家が選任されることもあります。

内容に納得がいかないときは、審判書を受け取ってから2週間以内であれば不服申立が可能です。これを「即時抗告」といい、申立人や親族などの利害関係人であれば申し立てられます。ただし、後見人候補者が認められずに他の第三者(弁護士など)が選任されたことを不服として即時抗告しても認められることはまずありません。

即時抗告を申し立てたからといって審判が覆るとはかぎりませんが、もう一度審理してもらいたいなら利用するのもひとつです。2週間以内に即時抗告をしない場合、審判が確定し後見が開始します。

9. 後見登記を行い登記事項証明書を取得する

審判が確定したら、後見登記に進みます。後見登記とは、被後見人・後見人の氏名や住所、後見人の権限などを登記官が正式に記録することです。後見登記は裁判所経由で申請されるため、自分で申請書類を用意して法務局に提出する必要はありません。

登記は2週間程度で完了し、完了後は後見人に対して「登記番号」が通知されます。登記番号が通知されたら、登録番号を用いて「登記事項証明書」を取得しましょう。

登記事項証明書とは、被後見人が所有している不動産の管理や預貯金口座の名義変更など、後見人が仕事を行う際に後見人であることや権限の範囲を証明できる書類です。登記事項証明書の取得方法には、法務局本局の戸籍課に出向いて窓口で取得するか、郵送で請求するかの2パターンがあります。

窓口請求の場合、本局でなければ取得できません。出張所では取得できない点に注意しましょう。郵送請求の場合は、「東京法務局の後見登録課」以外では取り扱っていないため、請求先を間違えないようにしましょう。

なお、登記事項証明書は1通550円で取得できます。

参照:法務局|登記事項証明申請について

10. 成年後見人として財産目録を作成し裁判所へ提出する

成年後見人としての最初の仕事は、「財産目録」と「年間収支予定表」を作成することです。上記2つの書類は、審判確定から1カ月以内に家庭裁判所へ提出しなければなりません。提出するまでは、緊急時を除いて権限を行使できないため、できるだけ早く対応したほうがよいでしょう。

財産目録と年間収支予定表を提出したら、成年後見人として被後見人の権利や財産を守るための事務を行っていきます。後見人の役割を正しく理解し、後見人としての責務を全うしましょう。

「後見人ハンドブック」や「成年後見人ハンドブック」など名称は異なりますが、各裁判所のホームページで後見人の職務や書類の作成方法などについて書かれたマニュアルが掲載されています。後見人に選任されたら、ハンドブックをよく読んで自分の役目を理解しましょう。

成年後見人の手続きを自分で行う方法【任意後見制度の場合】

任意後見制度の場合も、自分で手続きを行えます。自分で書類を集めなければならないため手間や時間がかかりますが、費用を抑えたいなら自分で行うのもひとつです。

ここでは、任意後見制度の手続きを自分で行う方法について解説します。

  1. 任意後見人は基本的に誰でもなれるが、「欠格事由」に該当する場合は選べない
  2. 後見人に任せる仕事はすべて指定する必要があるため、任意後見契約書案を作成する際は漏れがないよう注意する
  3. 契約書案ができたら最寄りの公証役場に予約を入れ、内容について打ち合わせる
  4. 予約当日に公証役場に出向き、当事者と公証人の3者で契約を締結する
  5. 公証人経由で法務局に登記を依頼してもらい、登記が完了したら「登記事項証明書」を取得する
  6. 本人の判断能力が低下し、後見開始の必要性が出てきたら、家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申立てる
  7. 家庭裁判所が監督人を選任したら後見人に通知され、その後法務局によって登記される
  8. 後見人は監督人選任後1カ月以内に「財産目録」と「年間収支予定表」を作成し、監督人に提出しなければならない

1. 後見人になってほしい人(支援者)を選ぶ

任意後見制度では、まず後見人になってほしい人(支援者)を本人が選びます。法定後見制度とは異なり、家庭裁判所が後見人を選任するのではなく、本人が「財産の管理を任せたい」と思う相手と契約するのが「任意後見制度」であるためです。

支援者になるのに資格は必要なく、基本的に誰でもなれるため家族や友人、知人などでも選べます。頼める人がいないなら、任意後見に関するサービスを行っている法人に依頼するのもよいでしょう。

ただし「欠格者」は選べない点に注意が必要です。欠格者とは、民法第847条に定められた「欠格事由」に該当する人のことをいいます。

欠格事由は以下のとおりです。

  • 未成年者
  • 家庭裁判所から法定後見人や保佐人、補助人を解任されたことがある人
  • 破産者
  • 被後見人に対して裁判を起こしたことがある人、またはその配偶者、直系血族
  • 行方不明者

上記5つのうちひとつでも該当すると、適格がないとして後見人になれません。また、欠格事由に該当せず後見人になれた場合でも、不正行為や道徳に反する行為をするなど、任意後見人にふさわしくないと判断されたときは解任される可能性があります。

なお、任意後見制度では、後見人を監督する「後見監督人」を後見人とは別に選任する必要があります。

参照:e-GOV|民法 第五章 後見

2. 任意後見人契約の内容(案)を決める

任意後見人になってもらいたい人を選んだら、後見人に任せる仕事の内容を決めます。のちに公証役場で正式な契約書を作成するため、この段階では「案」で構いません。しかし、後見人の仕事内容はすべて「代理権目録」に記載しなければならないため、任せたい仕事はこの時点で漏れなく書き出しておく必要があります。

代理権目録とは、後見人の仕事内容を記す書類です。公証役場で作成する「任意後見契約書」に添付します。

代理権目録に記載していない行為は、いくら重要な仕事であっても代理できません。そのため契約前にしっかり決めておき、契約時には抜けている事項がないよう確認することをおすすめします。

ただし、食事の世話や掃除、医療行為の同意など、代理権目録に記載できない内容もあるため要注意です。また、本人が望んだことでも、後見人が同意しなければ契約が成立しないことも覚えておきましょう。

代理権目録に記載する内容例は以下のとおりです。

  • 財産の管理や保存、処分などに関する事項
  • 金融機関との取引に関する事項
  • 相続に関する事項
  • 住居に関する事項
  • 介護契約や福祉サービスの利用契約に関する事項など

そのほか、後見人への報酬についてや、実際に任意後見が必要になった際誰が家庭裁判所に申立てるかなども決めておきましょう。報酬については無報酬であれば「無報酬」、報酬が発生するなら金額や支払い期日などを記載します。

後見人を専門家に依頼するなら報酬が発生しますが、家族が務める場合は無報酬のケースが多いです。なお、実際の支払いがスタートするのは任意後見が開始してからです。

家庭裁判所への申立てについては後述します。

3. 公証役場に連絡し予約する

任意後見契約書の案ができたら最寄りの公証役場に予約を入れます。決定した契約内容を公正証書にする必要があるためです。

公証役場とは、任意後見契約や遺言といった公正証書を作成したり、私文書の認証を行ったりする公的機関のことです。当事者が自分で作成した契約書は私文書ですが、公証役場の公証人が作成することで公文書になります。

予約を入れたら、公正証書作成に向けて公証役場と打ち合わせをします。直接出向かなくても、メールで契約書の案や戸籍謄本などの書類を送れば進めてくれることもあるため、メールでの対応を希望するなら可能かどうか確認してみましょう。

公正証書を作成する際には、以下の書類を公証役場に持参する必要があります。事前に集めておきましょう。

  • 本人の戸籍謄本または抄本
  • 本人と任意後見人の住民票
  • 本人と任意後見人の印鑑証明書+実印

戸籍と住民票、印鑑証明書は発行から3カ月以内のものを持参しましょう。印鑑証明書+実印は、代わりに本人確認書類+認印を持参しても問題ありません。本人確認書類を持参するなら、運転免許証やマイナンバーカードなど、顔写真つきの公的身分証明書を用意しましょう。

公正証書を作成する際にかかる費用は以下のとおりです。

  • 公正証書作成手数料:1契約につき1万1,000円(出張した場合は5,500円+日当・交通費を加算)
  • 収入印紙代:2,600円
  • 登記嘱託手数料:1,400円
  • 書留郵便料:重量による
  • 正本・謄本の作成手数料:証書の枚数×250円(本人・後見人用各1通、登記用1通)

公正証書の枚数が4枚を超える場合、超えた分については1枚あたり250円加算されます。後見人が複数名いる場合はその分契約数が増えるため、費用が変わってきます。ただし複数名でも1契約とカウントされるケースもあるため、公証役場に確認するとよいでしょう。

最寄りの公証役場や費用については、以下の「日本公証人連合会」のホームページから調べられます。

参照:公証役場一覧 | 日本公証人連合会
参照:任意後見契約 | 日本公証人連合会

4. 公正役場で公正証書・契約書を作成する

予約当日に必要書類を持って公証役場へ行き、任意後見契約書を作成してもらいます。当事者だけでなく、公証人も含めた三者で署名捺印を行います。

判断能力はあっても入院などで動けない場合は、公証人に病院まで出張してもらうことも可能です。出張を希望するなら、予約を入れる際に相談するとよいでしょう。ただしその場合は出張料金や日当、交通費がかかる点に注意が必要です。

5. 公証人に法務局への登記手続きを依頼する

任意後見契約を交わしたら、公証人から法務局に登記を依頼してもらいます。公証役場経由で依頼してくれるため、本人が自分で法務局に出向いたり書類を準備したりといった必要はありません。

登記には2〜3週間かかります。手続きが完了すれば、本人に任意後見人がいることや後見人の仕事内容といった契約内容が登記されます。

登記完了後は、登記の内容を証明する書類「登記事項証明書」の取得が可能です。後見が開始するまでは、後見人の肩書きは「任意後見人」ではなく「任意後見受任者」と表記されます。

取得方法については、「9. 後見登記を行い登記事項証明書を取得する」で詳しく解説しているため参考にしてください。

6. 認知症などで判断能力が低下したら家庭裁判所へ申立を行う

認知症などによって本人の判断能力が衰え、後見の必要性が生じたら、本人の住所地を管轄する家庭裁判所に対し、任意後見監督人の選任を申立てます。監督人が選任されないかぎり契約の効果は発生しないためです。

必要書類は以下のとおりです。

  • 任意後見監督人選任申立書
  • 本人の事情説明書
  • 親族関係図
  • 財産目録
  • 収支状況報告書
  • 任意後見受任者の事情説明書
  • 任意後見契約書(公正証書)の写し
  • 後見登記事項証明書
  • 本人の診断書

そのほか、申立ての際の必要書類については「3.申立に必要な書類を集める」でも紹介しているため、ぜひ参考にしてください。

申立てに必要な費用は以下のとおりです。

  • 申立手数料:収入印紙800円分(申立書に貼付)
  • 登記料:収入印紙1,400円分
  • 郵便切手:3,200円分

上記は東京家庭裁判所の収入印紙・郵便切手代です。郵便切手代は家庭裁判所によって金額が異なる可能性があるため、事前に確認しておくことをおすすめします。

診断書では本人の状態が把握できず医師による鑑定が行われるときは、別途鑑定料(10万円程度)が必要です。

なお、申立てを行えるのは本人や任意後見人、四親等内の親族です。四親等内の親族には親、祖父母、子ども、孫、ひ孫、兄弟姉妹、甥姪、叔父叔母、いとこなどが該当します。

7. 家庭裁判所で任意後見監督人を選任してもらう

申立て後、任意後見を開始するため家庭裁判所が任意後見監督人を選任します。監督人の役目は、任意後見人が適切な事務を行っているかを監督し、裁判所に報告することです。

監督人は申立人が候補者を指定するのではなく、裁判所が職権で弁護士や司法書士といった専門家を選任するケースが多い傾向にあります。監督人への報酬については裁判所が金額を決め、本人の財産から支払われます。

目安は以下のとおりです。

  • 本人の財産額が5,000万円以下のケース:月1万円〜2万円
  • 本人の財産額が5,000万円未満のケース:月2万5,000円〜3万円

審理の結果は、任意後見人に書面で通知されます。そのあと、任意後見が開始したことや監督人の情報を登記するため、家庭裁判所から法務局に登記が依頼されます。あらためて登記のための書類を準備する必要はありません。

登記が完了すると、登記上「任意後見受任者」と表記されていた後見人の肩書きが「任意後見人」に変わり、監督人の情報も追加されます。

8. 後見が開始される

任意後見監督人選任後、後見が開始されます。任意後見人は、監督人選任から1カ月以内に「財産目録」と「年間収支予定表」を作成しなければなりません。

上記2つの書類を監督人に提出したあとは、被後見人と交わした任意後見契約の内容どおりに事務を行えます。書類を監督人に提出しないかぎり、後見人としての権限を行使できない点に注意しましょう。

そして後見人は監督人の指示のもと、被後見人の生活・財産に関する状況を定期的に報告します。後見人から書類を受け取った監督人は、監督事務報告書とあわせて家庭裁判所に提出し、それ以降は定期的に後見人の事務について裁判所へ報告します。

成年後見人の手続きを自分で行う場合の注意点

成年後見人の手続きを自分で行う場合、以下の点に注意が必要です。

  • 専門用語の多い資料を集めなければならない
  • 手間と時間がかかる
  • 迅速に対応する必要がある

後見人制度に関する書類は種類が多いうえ複雑です。申立書など、裁判所のホームページで取得できるものに関しては記載例が掲載されていることもあり自分でも作成しやすいですが、ほかにも用意しなければならない書類は多数あります。

そのため一度に集めきれず、時間がかかってしまう可能性があります。また、本人の状態によっては急いで財産を保護する必要があるため、迅速に対応しなければならないでしょう。

時間に余裕があり日中動ける人でないと、自力での対応は難しいかもしれません。

申立から成年後見人が開始されるまでの手続き期間は3ヵ月~6ヵ月

申立てから実際に制度を利用するまでに、3カ月〜6カ月程度かかります。準備に時間がかかったり書類に不備があったりすると、それ以上かかることも考えられます。

手続き中は被後見人の預金の引き出しや契約などの法律行為を行えないため、できるだけミスなくスムーズに準備をする必要があるでしょう。手続きを迅速に進めたいなら、専門家への依頼も検討することをおすすめします。

専門家に手続きを依頼する場合の費用相場については後述します。

成年後見人の手続きを専門家に依頼する場合の費用相場は10万円程度

司法書士や弁護士などの専門家に書類作成を依頼した場合、8〜10万円程度かかります。

費用相場は以下のとおりです。

  • 法定後見:10万円程度
  • 任意後見:8万円程度

上記の金額は専門家への報酬額であり、印紙代や公証人手数料などの実費は含みません。費用はかかりますが、専門家に依頼することで手間や負担を減らせます。集めるべき書類や手続きを熟知しておりミスも起きにくいため、自分で対応するよりも早く後見開始まで漕ぎつけられるでしょう。

また、成年後見に関する知見や、アドバイスを受けられるというメリットもあります。誰かに相談しながら進めたい人は、専門家を頼るのもひとつです。

成年後見制度を利用する際の注意点

成年後見制度には、いくつか注意点があります。ここでは、成年後見制度を利用する際の注意点について解説します。

  • 善管注意義務を怠ると損害賠償を負う可能性があるため、親族でも「公的任務」という自覚を持つ必要がある
  • 専門家が成年後見人に選任された場合、後見が続くかぎり費用がかかり続ける点に注意しなければならない
  • 一度制度を利用すると、被後見人の判断能力が回復するか亡くなるまで後見が終了しない

親族が成年後見人になる場合は公的任務だと自覚を持つ

親族が成年後見人になる場合は、公的任務だと自覚を持つことが大切です。たとえ親族でも、被後見人の財産や権利を私的利用してはいけません。

成年後見人は民法869条、644条により「善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務(善管注意義務)を負う」とされています。

善管注意義務とは、後見人の財産管理能力や立場などから期待される注意義務のことです。後見人が義務を怠ったことにより被後見人やその財産に被害が及んだ場合は、賠償責任を負う可能性があることを理解したうえで任務にあたる必要があります。

また、将来被後見人の相続人になるであろう人物やほかの親族とのトラブルを防止するためにも、成年後見制度についての理解を求めることも重要な役目です。

参照:民法|e-Gov法令検索

専門家が成年後見人になる場合はランニングコストがかかる

専門家が成年後見人になる場合、ランニングコストがかかる点にも注意が必要です。

法定後見制度では、申立人や本人が指定した後見人候補者ではなく、家庭裁判所の判断で弁護士や司法書士といった専門家が後見人に選ばれることがあります。その場合は後見開始から終了まで、毎月専門家に対して費用を支払っていかなくてはなりません。

成年後見は、一度利用を開始したら途中でやめられない制度です。被後見人の判断能力が回復しなければ、被後見人が亡くなるまで後見は続くため、長ければ何十年もの間費用が発生し続けるのです。制度を利用するなら、長い目で見て利用を決める必要があるでしょう。

なお、専門家が成年後見人に選ばれたときにかかる費用については後述します。

成年後見制度は一度使うと解除できない

一度制度の利用を始めたら、原則後見を解除できない点についても理解しておく必要があります。成年後見制度は判断能力が低下した人を保護するための制度であり、判断能力が回復していないにもかかわらず制度の利用を終了すると、制度本来の目的が果たせなくなるためです。

仮に、成年後見人が辞任を申し出たり亡くなったりといった事態が起きても、家庭裁判所は新たな後見人を選任するため後見自体は続いていきます。

制度を終わらせられるのは、基本的に被後見人の判断能力が回復したと認められた場合か、被後見人が亡くなったときだけです。ただし、「判断能力が回復した」と証明するためには診断書が必要であり、被後見人や家族の主張だけでは認められません。

成年後見人に専門家が選ばれた場合の費用

成年後見人に専門家が選ばれた場合は費用がかかります。費用には毎月かかる「基本報酬」と、特別な業務を行った際にその都度かかる「追加報酬」があります。

ケースによっては高額になることが想定できるため、成年後見が途中でやめられない制度であることを考えると、確実に支払っていける状況でないと利用は難しいでしょう。ここでは、専門家が成年後見人に選任された際の費用について解説します。

基本報酬:月2万~6万円

基本報酬として毎月2万円〜6万円程度かかります。基本報酬とは、日常的な預貯金の管理などにかかる費用です。金額は被後見人にどれだけ財産があるかによって異なります。

年額にして24万円〜72万円程度かかるため、成年後見制度開始から終了までを10年とすると、トータルで200万円〜700万円程度必要です。高額であるため、負担に感じる人も多いでしょう。

なお、成年後見人に選ばれる専門家として一般的なのは弁護士や司法書士です。弁護士と司法書士なら「司法書士のほうが費用が安い」という印象があるかもしれませんが、後見制度に関しては裁判所が定める基準に基づいて報酬額が決まるため、それほど両者に違いはありません。

付加報酬:業務量によって変動

預貯金などの財産管理以外に後見業務が発生すれば、付加報酬がかかります。付加報酬には、たとえば遺産分割協議への参加や不動産売却などが該当し、費用は業務量によって変動します。基本報酬は毎月かかる費用ですが、付加報酬は基本報酬とは別に、その都度発生するものです。

家庭裁判所が公開する算定表では、付加報酬の目安として以下のように記載されています。

身上監護等に特別困難な事情があった場合
基本報酬額の50%の範囲内

特別の行為をした場合

  • 訴訟:80万円〜150万円程度
  • 遺産分割調停:55万円〜100万円程度
  • 居住用不動産の任意売却:40万円〜70万円程度

基本報酬に加えて付加報酬も発生した場合、ケースによっては非常に高額になる可能性があることを念頭に置いておきましょう。

成年後見制度と家族信託の違いは「目的」

認知症に備えた財産管理制度には、成年後見制度以外にも家族信託があります。

両者の違いは目的です。成年後見制度は、認知症などを発症した高齢者の保護を目的としています。それに対し家族信託は、保有する財産を受託者に預け、契約内容に従って管理してもらうことが目的です。

「財産を管理してもらう」という点はどちらも同じですが、家族信託の場合、認知症発症後は制度を利用できません。そのためすでに認知症を発症しているケースでは、成年後見制度を利用するしかなくなります。

家族信託には、比較的簡単に手続きできることや報酬が発生しないといったメリットもありますが、本人の状態によっては利用できないことを知っておきましょう。

なお、本人の状態によってどちらの制度が適しているかは異なります。両方の制度を理解したうえで、本人の状態や資産状況に合わせて選択するとよいでしょう。

まとめ

成年後見人の手続きを自分で行う方法や申立ての流れ、必要書類などについて解説しました。成年後見人の手続きは自分で行えます。しかし、多くの書類を集めなければならない点や時間がかかることなど、慣れていない人や多忙な人にはハードルが高いといえる面もあります。

また、制度自体にも「一度制度を利用すると途中でやめられない」「専門家が後見人に選任された場合は費用がかかる」といった注意点があるため、制度をよく理解したうえで利用することが重要です。

手続きが不安な人や、自分で行うことに限界を感じる人は、専門家を頼ることをおすすめします。

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更新日 : 2024年12月06日
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