家族信託の費用はいくら?自分で行う場合や専門家に依頼する場合の相場を紹介
「家族信託を専門家に頼むといくらかかるの?」「専門家の費用が高額なら、自分で手続きして少しでも費用を安くしたい」など、家族信託の費用について悩んでいる人もいるのではないでしょうか。
家族信託を専門家に依頼すると、コンサルティング費用も加算されるため30〜60万円程度かかります。
しかしすべて自分で手続きするなら、公証役場の手数料や法務局に支払う登録免許税などの実費だけで済むため費用を大きく削減できます。信託財産の価値によっても異なりますが、20万円程度まで抑えられるでしょう。
ただし、家族信託の手続きは複雑です。また、信託契約書の作成には法律や税務知識が必要です。自分で作成した場合、自分の家庭に合った内容にできなかったり不備によって無効になったりする危険性もあるため、安心して手続きを行いたいならやはり専門家への相談をおすすめします。
この記事では、家族信託の費用について、自分で行う場合・専門家に依頼する場合別に解説します。専門家に依頼した場合のシミュレーションもケース別に紹介しているため、ぜひ参考にしてください。
家族信託の手続きを自分でする場合の費用
自分で家族信託の手続きを行う場合の費用について解説します。
- 信託契約書(公正証書)作成費用
- 信託登記の登録免許税
自分で手続きを行う場合、信託契約書の作成や信託登記といった実費のみが発生します。相場は20万円程度となっています。
ただし、上記の金額はあくまでも相場であり、実際にかかる費用は信託財産の種類や金額によって異なります。また、不動産を信託財産に指定した場合に必要な「信託登記」では、対象とする不動産の固定資産税評価額によって登録免許税が変わるため注意しましょう。
ここからは、信託契約書の作成費用と信託登記の費用相場について詳しく解説します。
信託契約書の公正証書化の費用
公証役場に支払う手数料は、以下のとおり信託財産の評価額によって異なります。
信託財産の評価額 | 手数料 |
---|---|
100万円以下 | 5,000円 |
100万円超え〜200万円以下 | 7,000円 |
200万円超え〜500万円以下 | 1万1,000円 |
500万円超え〜1,000万円以下 | 1万7,000円 |
1,000万円超え〜3,000万円以下 | 2万3,000円 |
3,000万円超え〜5,000万円以下 | 2万9,000円 |
5,000万円超え〜1億円以下 | 4万3,000円 |
1億円超え3億円以下 | 4万3,000円+超過額5,000万までごとに1万3,000円 |
3億円超え10億円以下 | 9万5,000円+超過額5,000万までごとに1万1,000円 |
10億円超え | 24万9,000円+超過額5,000万までごとに1万3,000円 |
参照:法律行為に関する証書作成の基本手数料|日本公証人連合会
このように、最低でも5,000円はかかり、10億を超える場合は25万円以上かかることもあります。たとえば信託財産の対象が現金1,000万円であれば、手数料は1万7,000円です。
信託契約は、委託者(財産を預ける人)と受託者(財産を預かる人)の合意で成立します。しかし家族信託の利用には、契約内容を記した「信託契約書」の作成が必要です。必ずしも公正証書でなければならないというルールはありませんが、以下の理由から公正証書による信託契約をおすすめします。
- 信託口口座を開設する際に求められることが多い
- 不備によって契約書が無効になることや改ざん、紛失の防止になる
多くの金融機関では、受託者が委託者の金銭を管理するための口座「信託口口座(しんたくぐちこうざ)」を開設する際に、公正証書を求められます。
また、公正証書は公正証書作成の専門家である「公証人」が作成する公文書です。公正証書は、国の公的機関である「公証役場」で保管されます。そのため公正証書で作成すれば、内容の不備によって無効になったり改ざん・紛失といった心配がありません。
信託登記の登録免許税は固定資産税評価額の0.3~0.4%
信託登記とは、受託者が対象の不動産を「受託者として所有している」ことを証明するための登記です。「所有している」といっても形式的なもので、所有権を取得したわけではありません。信託登記によって受託者は対象の不動産を売却できるようになりますが、あらかじめ権限に条件をつければ売却できないようにもできます。
信託登記の際、登録免許税が固定資産税評価額の0.3〜0.4%かかります。
登録免許税とは、登記申請時に納める税金です。不動産が信託財産の対象になっている場合、不動産の名義変更(所有権移転登記)と信託登記が必要です。家族信託を原因とする所有権移転登記は非課税ですが、信託登記には登録免許税がかかります。
建物・土地それぞれの登録免許税は以下のとおりです。
- 建物:固定資産税評価額×0.4%
- 土地:固定資産税評価額×0.3%
たとえば、2,000万円の建物と1,000万円の土地を信託登記する場合の登録免許税は以下のとおりです。
土地:1,000万円×0.3%=3万円
合計:11万円
建物の税率が0.4%であるのに対し、土地の税率は軽減措置によって現在0.3%になっています。軽減措置は令和8年3月31日まで受けられます。
家族信託を専門家に依頼した場合の費用総額は約30~60万円
家族信託を専門家に依頼した場合の費用総額は、30〜60万円程度です。公正証書や登記費用のほかにコンサルティング費用が加算されるため、自分で手続きするよりも高額になります。
たとえば以下のような費用がかかります。
- 信託契約書の作成・公正証書化の費用相場:10〜16万円程度
- 信託登記手続きの費用相場:10〜16万円程度
- コンサルティング費用の相場:信託財産評価額の1%程度
なお、以下の専門家に依頼可能です。
弁護士 | 将来的にもめる可能性がある場合におすすめ。ワンストップで依頼可能。ただし登記申請は行っていない場合や費用が高額になるケースがある。 |
---|---|
司法書士 | 不動産が信託の対象になっている場合におすすめ。ワンストップで依頼可能。一般的に多く利用される。 |
行政書士 | 不動産が含まれておらずトラブルになっていない場合におすすめ。信託契約書など、書類作成はできるが登記申請は代行できない。 |
金融機関 | 金融商品を活用したい場合におすすめ。ただしアドバイスはできても、信託契約書の作成や登記申請代行はできない。 |
家族信託専門の民間企業 | どこに依頼すればよいのかわからない場合におすすめ。弁護士や司法書士などとの連携が可能で、家族信託専門士などが在籍している。 |
ここからは、専門家の費用相場についてそれぞれ詳しく解説します。
信託契約書の作成・公正証書化の費用相場は10~16万円
信託契約書の作成と公正証書化を代行してもらう際の費用相場は、1通あたり10〜16万円程度です。専門家によっては、契約書作成費用がコンサルティング費用に含まれていることもあります。
公正証書を作成する際は、公証役場に委託者・受託者の印鑑証明書や戸籍などを提出し、公証人と打ち合わせる必要があります。また、公正証書化当日は、予約を入れたうえで両者が公証役場に出向かなければなりません。
弁護士や司法書士といった専門家に依頼すれば、戸籍の取得や信託契約書の原案作成、公証人との打ち合わせなども任せられます。公正証書化当日も、依頼すれば専門家が同行してくれます。慣れない手続きでも、専門家がサポートしてくれることで安心して行えるでしょう。
信託登記手続きの費用相場は10~16万円
信託登記を代行してもらう際の費用相場は10〜16万円程度です。
自分で手続きするときと同じく、不動産が信託の対象になっているなら所有権移転登記と信託登記が必要です。登記の申請には登記申請書をはじめ、固定資産評価証明書や登記原因証明情報といったさまざまな書類を揃えなければなりません。
また、登記申請時や補正が発生した場合、登記が完了したときなど、何度も法務局に足を運ばなくてはなりません。
しかし専門家に代行してもらえば必要書類の取集や申請、補正にもすべて対応してもらえるため、負担を大きく軽減できます。
ただし、登記申請は弁護士・司法書士しか行えない点に注意しましょう。たとえば行政書士や税理士、民間企業などには行えません。
また、弁護士は法律上行えることになっていますが、事務所によっては登記申請に対応していない場合や対応できても高額になるケースがあります。不動産が信託の対象になっているのであれば、司法書士への依頼がスムーズでしょう。
コンサルティング費用の相場は信託財産評価の1%程度
専門家への報酬である「コンサルティング費用」の相場は、信託財産評価額の1%程度です。実際にかかる費用は専門家にもよりますが、信託財産評価額が1億円以下であればその1%程度、1億円超え3億円以下なら0.5%程度が目安と思っておくとよいでしょう。
信託財産評価額 | コンサルティング費用 |
---|---|
1億円以下 | 1% |
1億円超え3億円以下 | 0.5% |
3億円超え5億円以下 | 0.3% |
たとえば、信託財産が現金1,000万円と不動産1,500万円のケースでは、以下の費用がかかります。
なお、評価額が3,000万円以下の場合、最低額は30万円です。
信託財産評価額は、毎年市区町村から「納税通知書」と一緒に送られてくる「課税明細書」で確認できます。「固定資産税評価額」の金額を見てみましょう。
家族信託を専門家に依頼する場合のケース別シミュレーション
家族信託の依頼費用は、ケースによって異なります。ここでは、ケース別に費用を紹介します。
- 預金3,000万円を信託するなら40〜47万円前後かかる
- 土地2,500万円+建物1,500万円を信託するときは75〜87万円前後かかる
- 預金3,000万円+土地2,000万円を信託するときは90〜100万円前後かかる
信託財産が預金3,000万円の場合は40~47万円前後
信託財産が預金3,000万円の場合の費用相場は40〜47万円前後です。
預金のみを信託すると、主にコンサルティングや公正証書の費用がかかります。不動産はないため登記費用はかかりません。
内訳は以下のとおりです。
費用項目 | 費用 |
---|---|
コンサルティング費用 | 30万円(3,000万円×1%) |
公正証書の作成・代行費用 | 10〜16万円 |
収入印紙代+書類の発行手数料 | 1万円前後 |
合計 | 41〜47万円 |
なお、上記は信託契約書に貼り付ける収入印紙代や書類の発行手数料といった実費も考慮した金額です。金融機関によって金額は異なりますが、信託口口座を開設するなら上記の金額に加え、開設費用として5〜10万円程度かかります。
信託財産が土地2,500万円・建物1,500万円の場合は75~87万円前後
信託財産が土地2,500万円、建物1,500万円の場合の費用の相場は75〜87万円前後です。
土地と建物を信託する場合、コンサルティングや公正証書の費用に加えて、信託登記の代行費用や登録免許税がかかります。そのため高額になりやすい傾向にあります。
内訳は以下のとおりです。
費用項目 | 費用 |
---|---|
コンサルティング費用 | 40万円 (4,000万円(土地2,500万円+建物1,500万円)×1%) |
公正証書の作成・代行費用 | 10〜16万円 |
信託登記の代行 | 10〜16万円 |
収入印紙代+書類の発行手数料 | 1万円前後 |
登録免許税 | 13万5,000円 (土地2,500万円×0.3%=7万5,000円+建物1,500万円×0.4%=6万円) |
合計 | 75〜87万円 |
信託財産が預金3,000万円・土地2,000万円の場合は77~89万円前後
信託財産が預金3,000万円、土地2,000万円の場合の費用相場は77〜89万円前後です。信託財産に土地を含むため、信託登記の代行費用や登録免許税によって高額になっています。
内訳は以下のとおりです。
費用項目 | 費用 |
---|---|
コンサルティング費用 | 50万円 (5,000万円(預金3,000万円+土地2,000万円)×1%) |
公正証書の作成・代行費用 | 10〜16万円 |
信託登記の代行 | 10〜16万円 |
収入印紙代+書類の発行手数料 | 1万円前後 |
登録免許税 | 6万円 (土地2,000万円×0.3%=6万円) |
合計 | 77〜89万円 |
金融機関によって金額は異なりますが、信託口口座を開設するなら上記の金額に加え、開設費用として5〜10万円程度かかります。
家族信託後に費用がかかるケースと相場
基本的に、家族信託スタート後に費用は発生しません。しかし、あとから費用が発生する場合があります。ここでは、家族信託後に費用がかかるケースと相場について解説します。
- 受託者を監視・監督する「信託監督人」、受益者の代わりに権利行使する「受益者代理人」を選任するなら月額1〜2万円程度必要
- 受託者に報酬を支払うときは、成年後見制度の後見人報酬額(月3〜5万円)や一般的な不動産の管理報酬(賃料の3〜5%)を参考に決定することが多い
- 家族状況の変動や委託者の希望で信託契約書を変更するときは、専門家に依頼すると8〜10万円程度必要
信託監督人・受益者代理人を設定する場合は月額1~2万円程
「信託監督人」や「受益者代理人」を選任するときは月額1〜2万円程度かかります。
信託監督人とは、契約どおりに信託財産が管理されているか、受託者が不正をしていないかを監視・監督する立場の人です。家族信託によって利益を受ける「受益者」が、受託者を監督できないときなどに選任されます。
また、「受益者代理人」とは、受益者の代わりに権利行使できる人のことです。受益者がまだ幼く、自分で権利行使できない場合などに選任されます。
信託監督人や受益者代理人は、必ずしも置く必要はありません。しかし、家族信託は家族内で財産を管理できる反面、第三者の目がない分ずさんな管理をしたり横領をしたりといったトラブルが起きる可能性もあります。財産を適切に管理してもらえるのか不安なら、検討するのもひとつです。
親族ではなく専門家を選任した場合、毎月報酬を支払うのが基本です。専門家によって月額費用は異なりますが、相場は1〜2万円程度だと思っておくとよいでしょう。
受託者に報酬を支払う場合は月3~5万円・賃料の3~5%程
多くの場合、受託者が家族であれば報酬は支払いません。しかし、契約書に支払う旨の記載がある場合や第三者が受託者になるケースでは報酬を支払います。
そのほか、信託財産に収益物件が含まれているときは家族であっても報酬額を支払うことがあります。管理会社や賃借人とやりとりをしなければならず、自宅などを管理するよりも受託者の負担が大きくなるためです。
報酬金額に明確な相場はありませんが、成年後見制度の後見人報酬額や一般的な不動産の管理報酬を参考に、以下のような報酬額を決定することが多いです。
- 月3〜5万円程度
- 不動産賃料の3〜5%程度
報酬額や上限、頻度などは契約内容によって異なります。
注意点は、報酬があまりにも大きい場合、贈与とみなされる可能性があることです。贈与とみなされれば、贈与税が課税されるおそれがあります。上記の相場からかけ離れた報酬額は設定しないほうが無難でしょう。
信託契約書を変更する場合は8~10万円程度
信託契約書の変更には8〜10万円程度かかります。契約を長く継続する中で状況が変わったり、委託者の心境に変化が生じたりなどで契約書の内容に変更が必要になることがあります。
契約書を変更するには、新たに公正証書化や不動産の登記手続きが発生するため、その分の費用がかかるのです。手続きを専門家に依頼するか自分でするかによっても変わりますが、専門家に依頼するなら8〜10万円程度かかると思っておくとよいでしょう。
自分で変更手続きをするなら、公証役場に支払う手数料と変更登記の際の登録免許税だけで済みます。信託財産の評価額によっても異なりますが、専門家に依頼する場合の半分もかからないケースもあるでしょう。
変更登記の登録免許税は、不動産1つあたり1,000円です。なお、信託契約書の変更は、変更方法について定めている場合などを除いて委託者・受益者と受託者の合意が必要とされています。
変更の理由には以下のものがあります。
- 受託者の権限
- 信託監督人の定めの設定
- 帰属権利者の変更
- 信託終了事由の変更
- 後継受託者の設定
家族信託で受託者や受益者にかかる税金
家族信託ではさまざまな税金が発生します。受託者・受益者それぞれにかかる税金は以下のとおりです。
受託者にかかる税金
- 登録免許税
- 固定資産税
- 不動産取得税
受益者にかかる税金
- 贈与税
- 相続税
- 譲渡所得税
- 所得税・住民税
それぞれ解説します。
受託者にかかる税金の種類
受託者にはどのような税金が課されるのでしょうか。ここでは、受託者にかかる税金の種類について解説します。
- 信託財産に不動産が含まれている場合、信託登記や信託終了後の所有権移転登記、信託登記抹消に登録免許税がかかる
- 信託財産に不動産が含まれている場合、受託者が納税義務者になるため固定資産税がかかる
- 信託終了時に信託財産を引き継いだ人が課税される。また、ケースによっては非課税になることもある
登録免許税
不動産が信託財産に含まれていれば、信託登記の際に「登録免許税」がかかります。登録免許税とは、登記申請の際にかかる国税です。税率は、信託が開始する際と終了する際とで異なります。
信託が開始する際の税率は以下のとおりです。
対象が土地:固定資産税評価額×03%
土地に関しては2026年3月31日まで軽減税率が適用されるため、0.3%で計算できます。また、信託登記と同時に申請する所有権移転登記に関しては、登録免許税はかかりません。
一方、信託が終了する際の税率は以下のとおりです。
信託登記抹消:不動産の数×1,000円
ただし、以下のケースでは税率が「固定資産税評価額の0.4%」に軽減されます。
自益信託とは、委託者と受益者が同一人物になっている信託のことです。以下のケースでは登録免許税が非課税になります。
固定資産税
信託財産に不動産が含まれている場合、固定資産税が発生します。所有権移転登記によって不動産の名義が受託者に変わると、納税義務者も受託者になるためです。信託開始の翌年から、納税通知書も受託者あてに届きます。
ただし、受託者は形式的な所有者であって実質的な所有者は受益者であるため、受託者が負担する必要はありません。信託財産の管理費用から支払いが可能です。
金融機関によっては、信託口口座から口座振替で支払えます。口座振替ができるなら、口座振替に設定しておくと支払い漏れを防げるでしょう。
なお、信託された不動産と同じ市区町村に受託者自身が不動産を所有していると、両方の固定資産税が受託者にまとめて請求されます。その場合はいったんまとめて支払ったあと、それぞれの税額を計算して精算する必要があります。
不動産取得税
不動産取得税とは、不動産を取得した際にかかる地方税です。信託が終わる際、対象の不動産を受託者から引き継いだ人に固定資産税評価額の3〜4%が課税されます。
信託財産の中に不動産が含まれている場合でも、信託開始時点では不動産取得税は課税されません。家族信託で行う名義変更は形式上のものであり、受託者として所有権を取得しても「実際に不動産を取得した」とはいえないためです。
しかし、はじめから自益信託で、信託終了時にもとの所有者(委託者兼受益者)または委託者の相続人が対象の不動産を取得する場合、受託者に不動産取得税は課税されません。委託者兼受益者が取得する場合は、受益者自身に不動産が戻ってくるため実質不動産が動いておらず、相続人が取得する場合は相続と同様と考えられるためです。
受益者にかかる税金の種類
受益者にはどのような税金がかかるのでしょうか。ここでは、受益者にかかる税金の種類について解説します。
- 委託者と受益者が異なる「他益信託」は委託者から贈与を受けたとみなされるため、年間110万円以上の利益を得ると贈与税が発生する
- 受益者が亡くなった場合、信託が終了してもしなくても、受益権や信託財産を受け継いだ人が相続税の対象になる
- 受益権や対象の不動産を売却したときは、受益者に譲渡所得税が課税される
- 信託期間中に信託財産から利益を得ると、所得税・住民税が受益者に課せられる
贈与税
委託者と受益者の関係によっては贈与税が発生します。
贈与税は、年間110万円以上の贈与があった場合に課される税金です。委託者と受益者が異なる「他益信託」では、信託前と信託後で財産を受け取る人が変わります。そのため、信託財産から生み出された収益が委託者からの贈与を受けたとみなされ、贈与税が発生するのです。
ただし贈与税とみなされるのは、他益信託のケースです。委託者と受益者が同一人物の「自益信託」であれば、信託前でも信託後でも財産を受け取る人が変わらないため、贈与税の対象にはなりません。
信託財産から年間110万円以上の利益が出る場合、課税を避けるには以下のような工夫が必要です。
- 信託開始時に委託者と受益者を同一人物に設定しておく
- 委託者の相続が発生したときに、受益権を委託者以外の人に移転させる
- 委託者の死亡によって信託が終了する契約にしておき、残った財産を相続人が受け取れるようにする
相続税
受益者が亡くなった場合、受益者の権利である「受益権」が相続税の対象になります。相続税は、以下のどちらのケースでも発生します。
- 受益者の死亡によって信託が終了する場合
- 受益者が亡くなったあとも信託を継続する場合
1のケースでは、信託財産を受け継ぐ人に相続税が発生します。また、2のケースでも、新たに選任した受益者に対して相続税がかかるため注意が必要です。
ただし、相続税には「基礎控除」があります。受益権も含めた相続財産が基礎控除額を超えなければ相続税は非課税です。
基礎控除額は以下の計算式で算出できます。
また、配偶者が受益権を相続したときは、相続財産が1億6,000万円までであれば相続税が非課税になる制度「配偶者の税額の軽減」が利用できます。非課税枠が大きいため、受益権を配偶者が相続する場合は相続税が非課税になる可能性が高いでしょう。
譲渡所得税
受益権や信託の対象不動産を売却すると譲渡所得税がかかります。譲渡所得税とは、所有する不動産や株式などの財産を売却した際、売却益に対して課せられる税金です。
以下のような場合にかかります。
- 受益者が第三者に受益権を売却し、利益が出たケース
- 受託者が対象の不動産を売却したケース
注意点は、不動産を売却したのが受託者でも、課税される対象は受益者という点です。ただし、受益権や信託の対象不動産を売却しなければかかりません。
譲渡所得は以下の計算式で算出できます。
譲渡所得は、売却金額から取得費や譲渡費用を差し引いたものです。
「取得費」「譲渡費用」に該当するものはそれぞれ以下のとおりです。
取得費
- 不動産の購入費用・建築費用
- 不動産購入の際にかかった税金
- 仲介手数料
- 測量・整地・建物の解体などにかかった費用
譲渡費用
- 仲介手数料
- 印紙税
- 建物の解体にかかった費用
- 借家人への立退料
譲渡所得に所得税・住民税がかかったものの総称が「譲渡所得税」です。
所得税・住民税
信託期間中、信託財産から利益を得ていれば所得税・住民税が受益者に課せられます。
たとえば、信託財産に賃貸アパートやマンションといった収益不動産があるケースなどです。この場合、入居者から得た家賃に対して所得税・住民税が発生します。
注意点は、課税対象が実際にアパートやマンションを経営している受託者ではなく、受益者であることです。委託者兼受益者が父、受託者が息子のケースでは、受託者である息子が父の所有するアパートやマンションを経営していても、収益を得るのは父であるため父に所得税・住民税がかかるのです。
家族信託と成年後見人制度の費用比較
家族信託とよく比較される制度に「成年後見人制度」があります。認知症などになる前に、前もって家族に財産管理を託す制度が家族信託であるのに対して、成年後見人制度は認知症などの判断能力がない状況になってから財産管理や身上監護してくれる人を選任する制度です。
両制度の費用を比較した場合、どのような違いがあるのでしょうか。ここでは成年後見人制度の費用について解説し、家族信託と費用を比較します。
- 鑑定が必要かどうかによっても異なるが、成年後見人の選任手続きには2〜10万円前後かかる
- 成年後見開始後は、成年後見人に対して月額2〜6万円前後の基本報酬が発生し、追加報酬が発生したときは+基本報酬の50%、成年後見監督人を選任するならさらに月額1〜3万円かかる
- 成年後見手続きを専門家に依頼すると10〜25万円前後かかる
- 成年後見制度では開始後も継続して費用が発生するため、トータルすると家族信託のほうが費用を抑えられる可能性がある
成年後見人の選任手続きにかかる費用は2~10万円前後
成年後見人を選任する際にかかる費用は2〜10万円前後です。
まず、家庭裁判所に申立てを行う際の手数料や書類を揃えるために、2万円程度かかります。裁判所が鑑定の必要があると判断した場合は、さらに5〜10万円程度の鑑定料が発生するため、自分で手続きするなら最低2万円程度、多ければ10万円前後と見積もっておくとよいでしょう。
費用の内訳は以下のとおりです。
- 申立手数料:800円分の収入印紙
- 後見登記手数料:2,600円分の収入印紙
- 送達・送付費用:3,720円分の郵便切手
(500円×3枚、100円×7枚、84円×15枚、20円×10枚、10円×5枚、2円×5枚) - 医師の診断書:数千円
- 本人の戸籍謄本・住民票などの交付手数料:数千円
(除籍・改製原戸籍:1通750円、現在戸籍:450円、住民票・戸籍附票:200〜400円) - 「成年後見等の登記が既にされていないことの証明書」交付手数料:300円
そのほか、ケースによっては残高証明書や不動産の全部事項証明書、固定資産評価証明書などが必要になることもあります。その場合、証明書取得のために数千円の手数料がプラスされます。
なお、上記は東京家庭裁判所に申立てをした場合にかかる費用です。送達・送付費用の総額や郵便切手の内訳は裁判所によって異なる可能性があるため、詳細は管轄の家庭裁判所に確認したほうがよいでしょう。
参照:申立てにかかる費用・後見等の報酬について|東京家庭裁判所後見センター
成年後見が開始した後にかかる費用は月額2~10万円前後
成年後見開始後にかかる費用は月額2〜10万円前後です。
内訳は以下のとおりです。
- 弁護士・司法書士などの成年後見人に支払う基本報酬:月額2〜6万円
- 追加報酬が発生する場合:基本報酬の50%の範囲内
成年後見人に支払う基本報酬額は、管理する財産額によって異なります。財産額が高額になると管理が複雑化し、成年後見人にかかる負担も大きくなるためです。
また、身上監護などに特別困難な事情がある場合は、基本報酬の50%の範囲内で追加報酬も支払います。「特別困難な事情」とは、不動産の売却や遺産分割調停、保険金の請求手続きなどのことです。
成年後見人の報酬額は、裁判官が決定します。明確な基準はありませんが、2013年に東京家庭裁判所と東京家庭裁判所立川支部が公表した資料「成年後見人等の報酬額のめやす」によると、以下の金額が目安であるとされています。
- 1,000万円まで:月額2万円
- 1,000万円超え〜5,000万円以下:月額3〜4万円
- 5,000万円超え:月額5〜6万円
そのほか、成年後見人を監督する立場である「成年後見監督人」が必要と家庭裁判所に認められ選任した場合、監督人に対しても報酬が発生します。その場合の報酬額は月額1〜3万円が目安です。
参照:成年後見等の報酬額のめやす|東京家庭裁判所・東京家庭裁判所立川支部
専門家に手続きを依頼する場合にかかる費用は10~25万円前後
専門家に成年後見手続きを依頼する際は、10〜25万円前後の費用がかかります。司法書士に依頼するなら10〜20万円、弁護士なら15〜25万円前後というように、相場は専門家によって異なり、事務所によっても変動するため複数の事務所を比較することが大切です。
弁護士や司法書士などは成年後見人に選任できるほか、書類作成の代行や手続きまでサポートしてもらえます。相談無料の事務所も多いため、まずは無料相談を受けてみて、費用面や専門家の人柄、事務所の雰囲気などから依頼する専門家を選ぶとよいでしょう。
トータルでは家族信託の方が安くなる可能性がある
家族信託と成年後見人制度を比較すると、トータルでは家族信託のほうが安くなる可能性があります。成年後見人は月額費用がかかるのに対し、家族信託では月額費用がかかるケースが少ないためです。
家族信託 | 費用 |
---|---|
公正証書作成・信託登記 | 20万円程度 |
専門家への報酬 | 30〜60万円程度 |
信託口口座開設 | 5〜10万円程度 |
合計 | 55〜90万円程度 |
成年後見人制度 | 費用 |
---|---|
選任手続き | 2〜10万円程度 |
成年後見開始後 | 月額2〜10万円程度 |
専門家への報酬 | 10〜25万円程度 |
合計(1年間) | 36〜155万円程度 |
ただし、家族信託と成年後見人では制度の仕組みが異なります。そのため正確な費用の比較が難しく、確実にどちらが得、ということはいえません。
家族信託・成年後見制度で迷っているなら、費用面よりも「どちらの制度のほうが自分たちに合っているか」を考え、利用するべきケースから選択したほうがよいでしょう。
家族信託の費用を節約する方法
家族信託の費用は、工夫次第で抑えることが可能です。ここでは、家族信託の費用を節約する方法について解説します。できるだけ費用をかけずに家族信託を行いたい場合は参考にしてみてください。
- 家族信託にかかる費用は信託財産の金額によって変動するため、信託財産を最小限にするとその分費用を抑えられる
- 信託契約書を公正証書ではなく私文書で作成すると公正証書の作成費用が削減できるが、証拠力が弱いなどのデメリットもあるため注意が必要
- 複数の事務所から相見積もりを取り、より安い事務所に依頼すれば費用を抑えられるが、安さだけでなく総合的に判断する必要がある
信託財産を最小限にする
信託財産を最小限にすると、家族信託の費用を抑えられます。家族信託にかかる費用は信託財産の金額によって変動するためです。
委託者が所有するすべての財産を信託財産にするのではなく、たとえば将来売却するつもりの不動産や凍結を避けたい一部の預金など、信託財産を限定することで費用の負担を軽減できます。
ただし、どの財産を信託財産にするかは判断が難しい場合があります。判断に迷ったら専門家に相談しましょう。
私文書で信託契約書を作成する
信託契約書を公正証書ではなく、私文書で作成することも費用を抑える方法のひとつです。
信託契約書を公正証書で作成すると、信託契約書の公正証書化や公正証書の作成費用に10〜20万円程度かかります。しかし信託契約書を私文書で作成し、公証人役場で確定日付だけ押印してもらえば上記の費用を削減できます。
私文書には以下のようなデメリットがあるため注意は必要ですが、確定日付を押印してもらうことで「その日に契約書が存在した」ことは証明できます。
- 公正証書よりも証拠力が弱まってしまう
- 公証役場に保管されないため、紛失した場合に再発行ができない
- 信託口口座を開設できない可能性がある
専門家に頼らず、家族信託の手続きすべてを自分で行えばさらに費用の削減になります。
不安なら、自分で作成した信託契約書を専門家にリーガルチェックだけしてもらうのもひとつです。契約内容や事務所によっても異なりますが、リーガルチェックだけであれば3〜5万円程度で引き受けてくれるところもあります。
相見積もりを取って比較する
複数の事務所に相見積もりを取って比較するのもよいでしょう。
家族信託の手続きを自分でやれば大幅な費用削減になりますが、専門知識がなく、手間をかけたくないのであればやはり専門家を頼るべきです。事務所ごとに報酬は異なるため、複数の事務所から相見積もりを取って費用を比較し、より安いところを選べば少しは費用を抑えられるでしょう。
ただし、重要なのはただ「安い」というだけで選ばないことです。相場より安いからといって飛びつくと、金額に見合ったレベルのサービスしか受けられない場合があります。
見積もりの内訳が明朗であることや事務所の雰囲気、専門家の人柄なども考慮したうえで検討しましょう。
家族信託に必要な書類
家族信託を行う場合、信託契約書作成や信託登記、信託口口座開設といった業務ごとに書類を揃える必要があります。ここでは、家族信託に必要な書類について解説します。
- 信託契約の公正証書作成には、信託契約書の原案や双方の印鑑証明書、信託財産に関する書類などが必要
- 不動産の信託登記には、信託契約書や固定資産税評価証明書、不動産の権利証または登記識別情報通知が必要
- 信託口口座の開設には信託契約公正証書や双方の本人確認書類、銀行登録印などが必要
信託契約の公正証書作成に必要な書類
信託契約の公正証書作成に必要な書類は以下のとおりです。
- 信託契約書の原案(専門家に作成してもらった場合)
- 委託者・受託者の印鑑証明書(取得から3カ月以内のもの)
- 委託者・受託者の実印
- 委託者・受託者の身分証明書
- 信託関係者の戸籍謄本・抄本・住民票
- 信託財産に関する書類
「信託関係者」とは、委託者や受託者、受益者、信託監督人など、信託契約に関わる人のことです。また、信託財産に関する書類とは、不動産の全部事項証明書や固定資産税評価証明書など、財産の詳細がわかるもののことをいいます。
信託契約の公正証書は、信託口口座を開設する際に必要な書類です。私文書よりも証拠力が高く、改ざんや紛失といった心配もいらないため、とくに長期間家族信託を行うなら作成しておいたほうがよいでしょう。
不動産の信託登記に必要な書類
不動産の信託登記に必要な書類は以下のとおりです。
- 登記申請書
- 信託契約書
- 固定資産税評価証明書
- 委託者の権利証または登記識別情報通知
- 委託者の印鑑証明書(取得から3カ月以内のもの)
- 委託者の実印
- 受託者の住民票
- 受託者の認印
- 委託者・受託者の本人確認書類(運転免許証・パスポートなど)
信託財産に不動産があれば信託登記が必要です。上記の書類を揃えておきましょう。
また、申請の際は、固定資産評価額に応じて登録免許税を納めなければなりません。
- 建物:固定資産税評価額×0.4%
- 土地:固定資産税評価額×0.3%
登録免許税は現金での納付が原則ですが、3万円以下の場合などは収入印紙での納付でも構わないとされています。念のため、納付方法を確認したうえで法務局に出向いたほうがよいでしょう。
信託口口座の開設に必要な書類
信託口口座の開設に必要な書類は以下のとおりです。
- 信託契約公正証書
- 委託者・受託者の本人確認書類
- 委託者と受託者の関係がわかるもの(戸籍謄本など)
- 委託者の既存口座の通帳
- 委託者の既存口座の銀行登録印
- 受託者銀行登録印
委託者の信託財産が受託者の財産と混同しないよう、信託口口座の開設がおすすめです。
必要書類は主に上記のものを求められることが多いですが、金融機関によって異なる可能性があります。事前に確認しておいたほうがスムーズに手続きできるでしょう。
家族信託の手続きを自分で行う際の流れ
家族信託の手続きには専門知識が必要であるため専門家に依頼するのがおすすめですが、自分で手続きすることも可能です。ここでは、家族信託の手続きを自分で行う際の流れについて解説します。
- まず、家族全員で目的や信託財産などについて話し合い、それぞれが納得したうえで内容を決定する
- 話し合いで決まった内容で信託契約書を作成し、公証役場で公正証書にしてもらう
- 信託用の口座を開設し、不動産や火災保険などについてはそれぞれ名義変更手続きを行う
1. 信託契約の内容を家族で話し合う
まずは、信託契約の内容について家族全員で話し合うことが大切です。
主に以下の点について話し合いましょう。
- 家族信託を行う目的
- 信託する財産
- 受託者、受益者を誰にするか
- 受託者の権限
- 信託監督人や受益者代理人の設定
- 信託期間
- 信託終了後の財産の帰属先
家族信託を行う目的を明確にする必要があります。
認知症対策として行うのか相続トラブル対策として行うのかなど、家族信託の目的は家庭によってさまざまです。手続きの迷走を避けるためにも、家族全員での希望を考慮したうえで家族信託の目的を決めましょう。
重要なのは、委託者・受託者・受益者といった当事者だけで決定しないことです。一部の人だけで話を進めると、あとあとトラブルになったり家族仲が険悪になってしまったりといったことにつながります。
とはいえ、委託者の気持ちも十分尊重される内容でなければなりません。よく話し合い、家族全員が納得したうえで家族信託をスタートさせましょう。
2. 話し合いで決まった内容で信託契約書を作成する
家族間の話し合いで信託契約の内容が決まったら、その内容を信託契約書にまとめます。家族信託は口約束でも成立しますが、「言った」「言わない」などのトラブルになるおそれがあるため、契約書を必ず作成しておきましょう。
契約書には、以下の内容を盛り込みます。
- 家族信託を行う目的
- 信託する財産
- 委託者・受託者・受益者
- 信託期間
- 信託財産の管理・処分方法
- 信託終了後の財産の帰属先
- 契約締結日
- 委託者・受託者の住所・署名・捺印
あとからトラブルにならないよう、曖昧でわかりにくい表現ではなく具体的な表現を用いて、「誰が読んでも内容がわかる契約書」を目指すことが重要です。また、このあと信託用口座を開設するために、公証役場で公正証書にしてもらうことをおすすめします。
3. 信託用口座の開設や信託財産の名義変更などをする
信託契約書を作成したら、家族信託の運用に向けて信託用口座の開設や信託財産に含まれる不動産・火災保険などの名義変更を行います。株式などの有価証券も、開設した信託口口座に移動させておきましょう。
注意点は、銀行によっては信託口口座の取り扱いがない場合がある点です。また、多くの金融機関ではキャッシュカードがなく、入出金を窓口でしか行えません。信託口口座が開設できるか、キャッシュカードが利用できるかといったところも確認しておくことをおすすめします。
信託財産の名義変更については、不動産なら物件の所在地を管轄する法務局に以下の登記を申請します。
- 所有権移転登記
- 信託登記
法的義務があるのは信託登記だけですが、所有権移転登記を行わなければ第三者に対して信託財産であることを主張できません。そのためセットで行いましょう。
家族信託の手続きを自分で行うメリット
できるだけ費用を抑えるため、自ら手続きを行うことを検討しているという人もいるでしょう。ここでは、手続きを自分で行うメリットについて解説します。
- 専門家に依頼した場合は総額で30〜60万円程度かかるが、自分で手続きすれば公証役場の手数料や登録免許税といった実費だけで済む
- 自分で手続きを行えば他人に相続内容を話す必要がないため、プライバシーにかかわることを知られずに済む
少ない費用で家族信託の手続きを済ませられる
家族信託の手続きを自分で行うメリットのひとつは、少ない費用で手続きを済ませられることです。
冒頭で解説したとおり、専門家に手続きを依頼した場合にかかる費用相場は総額30〜60万円です。個人で契約書の作成や公正証書化、登記を行うより高く、コンサルティング費用も加算されます。
しかしすべて自分で手続きすれば、公証役場に支払う手数料や信託登記にかかる登録免許税などの実費しかかかりません。
とはいえ公証役場との打ち合わせや法務局とのやりとりなども自分で行う必要があるため、時間に余裕がある人や最低限の知識がある人でないと難しいかもしれません。
他の人に相続内容を知られる心配がない
自分で手続きを行えば、家族信託で決まったことや相続内容を他人に話す必要がないため、家族間だけで情報をとどめておけることもメリットとして挙げられます。プライバシーにつながる情報の公開には抵抗がある人は、自分で手続きを行なったほうが安心して進められるかもしれません。
しかし、弁護士や司法書士、税理士といった専門家には守秘義務があるため、第三者にプライバシーが晒されることは考えにくいです。そのため、実際大きなメリットといえるのは費用面くらいのものでしょう。
家族信託の手続きを自分で行うデメリット
前述のとおり、家族信託は自分でも手続き可能です。しかし、専門家に依頼せず自分で対応したために思った結果にならなかったり、思わぬトラブルになってしまったりするおそれがあることを知っておいたほうがよいでしょう。
ここでは、家族信託の手続きを自分で行うデメリットについて解説します。
- 信託契約書の不備によって契約が無効になったり、不備に気づいたときには委託者の判断力が低下していて契約し直せなかったりといった事態におちいる可能性がある
- 金融機関によっては、専門家が関与した信託契約書でないと信託口口座の開設が認められない場合がある
- 専門家を間に入れず自分たちだけで進めたことで、家族・親族間でもめてしまい仲が悪くなってしまうおそれがある
信託契約書の不備で無効になる可能性がある
自分で手続きを行う場合によくある失敗が、信託契約書の不備です。
信託が開始する前に気づけばよいですが、不備を発見できないまま信託が開始した場合は要注意です。不備によって契約が無効になってしまっても、委託者の判断力が低下してからでは、改めて契約を結ぶこともできません。
信託契約書の雛形はインターネット上にたくさんあります。そのため、専門知識がなくても誰でも簡単に作成が可能です。
しかし、信託契約書の作成には法律や税務知識が求められるほか、契約書に盛り込むべき内容はケースごとに異なります。雛形をそのまま使用すると不備になったり自分の家庭には合わなかったりといったことが考えられるため、契約書は家族信託に強い専門家に作成してもらうのがベストでしょう。
信託口口座を開設できないことがある
信託口口座を開設できない場合があることもデメリットのひとつです。
信託財産と委託者の資産とを分けて管理するのにおすすめなのは、信託口口座の利用です。しかし信託口口座の開設には、信託契約書を公正証書にする必要があったり、弁護士や司法書士などの専門家が関与した契約書でなければならなかったりと、個人が開設するにはハードルが高い場合があります。
開設できる基準や条件は、金融機関ごとに異なります。どのような基準や条件が設けられているかについては、契約書を作成する前に確認しておく必要があるでしょう。
家族や親族同士の仲が悪くなる可能性がある
専門家を入れず自分たちだけで進めてしまうと、家族や親族同士でもめたり仲が悪くなったりする可能性があります。家族信託は委託者の財産管理や相続の指定といった重要な決定が多く、お金が絡むことであるためです。
何の問題もなくすんなり決まることもありますが、さまざまな家庭があり、家族全員が納得できる結果に落ち着くケースばかりではありません。合意が得られないからといって一部の家族だけで話を進めて契約書を作ってしまうと、ほかの家族から不信感を持たれることもあります。
専門家に依頼すれば、第三者の立場から適切なアドバイスを受けられます。また、家族・親族間のトラブルを防ぎながら手続きを進めてもらえるでしょう。
費用がかかっても専門家に家族信託を依頼すべき理由
やはり安心なのは、専門家に手続きを依頼することです。しかし、費用をかけてまで専門家に依頼すべきなのでしょうか。ここでは、費用がかかっても専門家に家族信託を依頼すべき理由について解説します。
- 専門家に依頼すれば、家庭状況にあった契約内容の提案や、トラブルを未然に防げるようなアドバイスをしてもらえる
- 専門家に手続きを一任することで、信託契約書作成や登記申請の手間、公証役場との事前のやりとりや法務局に自ら出向く必要がなくなる
- 家族信託で問題になりやすい「遺留分侵害」や税金についても適切なアドバイスを受けながら手続きが進められる
トラブルに考慮しながら信託契約を結べる
トラブルに考慮した信託契約が結べることは、費用がかかっても専門家に依頼すべき理由といえるでしょう。
家族信託は長期にわたって運用が継続される傾向にあるため、契約内容によっては受託者やその家族が長期間拘束される場合があります。家庭や財産の状況が変わることを想定して契約書を作成しないと、トラブルが起きる可能性があります。
専門知識や経験を豊富に持つ専門家に依頼すれば、その家庭に合った契約内容の提案や、トラブルを未然に防げるようなアドバイスをしてくれるでしょう。また、そもそも家族信託を利用すべきかどうかの判断や、家族信託以外の選択肢についても相談に乗ってくれるはずです。
家族信託の手続きを一任して手間を省ける
家族信託に必要な手続きを専門家に一任することで手間が省ける点も、専門家に依頼すべき理由のひとつです。
家族信託には、信託契約書の作成や公正証書化、信託登記、信託口口座開設といった手続きが発生します。法律や税金、登記、不動産など広範囲の専門知識が求められるため、自分で対応すると複雑で難しく感じる場合があります。
また、自分で手続きするなら公証役場と事前の打ち合わせをしたり、法務局や金融機関など、さまざまな機関を訪問したりしなければなりません。とくに信託登記を申請する法務局には、不備や補正などのために複数回出向く必要が出てくる可能性があります。
しかし信託業務に精通した専門家に依頼すれば、自ら大変な手続きをする必要も動く必要もありません。
他士業や他業種の専門家とつながっていることも多く、たとえば登記業務を行っていない弁護士に依頼した場合でも、提携を結んでいる司法書士と連携を取って業務にあたってくれるなど、ワンストップで済むことも多いです。
遺留分の侵害や税金の対策にも対応してくれる
専門家に依頼すれば、遺留分の侵害や税金の対策にも対応してくれます。
「遺留分」とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に保証されている最低限の割合のことです。その割合を無視するような相続は遺留分侵害にあたり、侵害された側は侵害額に相当する金銭を要求できます。手続きを自分で行う場合、見落としがちなのがこの遺留分侵害です。
しかし専門家に依頼すれば、遺留分侵害に関するアドバイスも受けながら進められます。依頼した専門家が税理士であれば、相続税や贈与税など、税金に関する相談もしやすいでしょう。
まとめ
家族信託の手続きにかかる費用について、自分で行う場合と専門家に依頼する場合別に解説しました。
家族信託の手続きは自分で行えば、専門家に依頼するよりも大きく費用を抑えられます。しかし、自分で複雑な手続きを行ったり、法務局に複数回出向いたりしなければなりません。また、自作した信託契約書が不備などによって無効になる可能性もあります。
安心して家族信託を行うなら、費用を支払ってでも専門家に依頼したほうがよいでしょう。
専門家=費用が高いというイメージが強いですが、費用は依頼する専門家や事務所によって異なります。複数の事務所を比較して、じっくり選ぶのもよいでしょう。