家族信託契約書とはトラブルを回避するための文書
「家族信託契約書」とは、家族信託を行うにあたって家族間で交わす、トラブルを回避するための文書です。家族信託の目的や、「誰の財産を誰が預かり、誰が権利を受けるのか」といった「人」の情報、不動産や預貯金などの財産管理に関する取り決めを記します。
家族信託契約は口約束でも成立します。家族間でわざわざ契約書を交わす必要はないのでは、と思うかもしれません。
しかし、口約束では「言った」「言わない」のトラブルになったり、今後相続トラブルに発展したりといった可能性があります。また、受託者が信託財産を適正に管理してくれなかったり、中には横領したりといったケースも実際に存在します。
そのため家族だからといって曖昧にせず、文書としてかたちにしておく必要があるのです。
家族信託契約書の書き方とは?盛り込む内容
家族信託契約の内容は、当事者が自由に決められます。しかし盛り込むべき内容が欠けていると、期待した効果を得られず目的を果たせないことがあるため注意が必要です。
ここでは、信託契約書の書き方や盛り込むべき内容について解説します。
- 家族信託の目的によって契約内容が変わってくるため、まず目的を明確にする
- 委託者・受託者・受益者といった信託契約の当事者について、住所や氏名、生年月日などの情報をそれぞれ記載する
- トラブル回避のため、「受託者にどこまで権限を与えるか」についてできるだけ細かく設定する
- 現金、自宅、マンションなど、信託する財産の情報を記載する
- 金銭であれば管理する口座、不動産であれば信託契約締結後に登記申請を行うことなど、管理方法について書き記す
- 信託の変更や終了についても記載する。変更は委託者・受託者・受益者の合意で変更可能、終了は委託者・受託者の合意で終了可能
- 信託が終了したときに残った信託財産を取得する「残余財産の帰属先」も記載が必要。税金がかかるかどうかに注意する
家族信託の目的
まずは「なぜ家族信託を行うのか」を記載します。家族信託の目的には、以下のようなものがあります。
- 認知症対策:認知症になっても、自宅の管理やアパートの運営を行いたい
- 介護対策:介護でお金が必要になったときに、信託財産から費用を捻出したい
- 不動産の共有対策:すでに共有になっている不動産の管理・処分、相続発生後に不動産が共有になるのを避けたい
- 数次相続対策:財産を孫に継承させたい
- 事業継承対策:後継者を育てながら事業承継を進めたい
目的は自由に決められます。もっとも一般的なのは認知症対策です。たとえば認知症対策を目的とする場合、契約書には以下のように記載します。
委託者◯◯が認知症になったとしても、受益者の安定した生活と福祉を確保するため支援することを目的とする
家族信託を行う目的によって、契約書の内容は変わってきます。そのため目的は明確にしておきましょう。
なお、目的をひとつに絞る必要はありません。必要なものを組み合わせ、家庭に合った契約書づくりを目指しましょう。
委託者や受託者、二次受益者
目的を記載したら、委託者や受託者、二次受益者といった、家族信託に関わる人について記載します。それぞれの役割は以下のとおりです。
- 委託者:財産を「受託者」に預ける人
- 受託者:財産を「委託者」から預かって管理・処分する人
- 受益者:信託された財産から発生する利益を受ける人
- 二次受託者:「受託者」が亡くなった場合にその立場を引き継ぐ人
- 二次受益者:「受益者」が亡くなった場合にその立場を引き継ぐ人
最低でも、委託者・受託者・受益者の3者は決めておく必要があります。それに加えて、受託者・受益者が亡くなったときのために、二次受託者・二次受益者も決めておいたほうがよいでしょう。
受託者は、委託者から預かった財産を適正に管理していかなければなりません。重い責任を負うことになるため、「息子だから」「娘だから」ということだけでなく、きちんと責任を果たせるかどうかを考慮して選ぶ必要があります。
なお、委託者・受託者に関しては、契約書の冒頭でも以下のように記載します。
委託者◯◯および受託者△△は、本日以下の内容で信託契約を締結する
そして本文には、それぞれの住所や氏名、生年月日、職業などを記載します。
受託者が持つ権限
受託者の権限についても記載する必要があります。「受託者にどこまで権限を与えるか」を決めておきましょう。
たとえば、以下のように定めます。
- どこまで支払いを行うのか:施設の費用や生活費、公共料金、ローンの支払いなど
- どこまで不動産を管理・処分するのか:不動産の売却、購入、賃貸、測量、分筆、担保設定など
重要なのは、できるだけ細かく設定することです。できることを限定しておくことで、「不動産を売却してほしくなかったのに売却された」というようなトラブルを回避しやすくなります。
信託財産に含まれる財産
契約書には、委託者が所有している財産のうち、どの財産を信託財産に含めるかを記載しなければなりません。すべての財産を信託の対象にする必要はないためです。
信託する財産には、たとえば以下のものがあります。
- 現金
- 自宅・マンション
- 賃貸マンション・アパートなどの収益物件
- 株式
財産が特定できるよう、情報は詳細に記載しましょう。たとえば不動産なら、法務局に備わっている登記の情報どおりに記載する必要があります。
土地を信託財産に指定した場合の記載項目は以下のとおりです。
受託者が管理・処分できるのは、信託財産に指定した財産だけです。ここで指定しなかった財産は委託者の固有財産のままであるため、受託者には管理・処分する権限がありません。
指定しなかった財産を管理・処分したいときは、以下の方法を検討する必要があるでしょう。
- 指名した人に将来財産管理を任せる「任意後見」
- 自分の死後、誰に財産を残すのかを意思表示する「遺言」
- 契約の際に一括で保険料を払い込む「一時払終身保険」
注意点は、どの財産を信託するかです。たとえば不動産を信託する場合、「不動産のメンテナンス費用や固定資産税をどのように支払うか」まで考えなければなりません。
賃貸マンションなどから得られる収益で支払えるならよいですが、信託財産が収益物件でなければ、不動産の管理費用を支払うための現金も信託させる必要があるでしょう。
信託財産の管理方法
信託財産の管理方法も盛り込む必要があります。また、得られた利益をどのように扱うかについても記載しておきましょう。
たとえば金銭なら、以下のように記載します。
信託金銭は、以下の信託専用口座にて管理・運用を行う
金融機関名:◯◯銀行
支店名:△△視点
口座種別:普通預金
口座番号:0000000
口座名義人:◯◯△△
不動産なら、以下のように登記や公租公課(固定資産税など)の支払いについて定めることが多いです。
信託不動産については、本契約締結後に所有権移転・信託登記を申請する
受託者は信託不動産から発生した賃料から、信託不動産にかかる公租公課などを支払う
管理方法は、目的達成のために重要な項目です。しっかりと家族で話し合って決めましょう。
受託者が契約どおりに財産の管理などを行っているかを監視・監督する「信託監督人」や、受益者の代わりに権限を行使する「受益者代理人」を選任することも可能です。
信託の変更や終了事由
信託の変更や終了に関しても記載しておくとよいでしょう。信託内容の変更については、委託者・受託者・受益者間の合意があれば信託開始後でも可能であると信託法で定められています。
注意しなければならないのは、信託内容を変更しようとする時点で、認知症などによって当事者が意思表示できない状態になっていると変更ができない点です。
信託契約では、高齢者が委任者になるケースが多い傾向にあります。信託期間中に契約を変更できなくなるリスクを考慮し、はじめの段階で以下のように定めておけば、受託者・受益者間の合意で変更が可能です。
本信託の契約内容は、受託者および受益者の合意によって変更できる
委任者と受益者が同一人物の場合でも、受益者代理人を設定しておくと、受託者・受益者代理人間の合意で変更できます。
信託の終了に関しては、終了の条件や時期を決めずにスタートするのではなく、あらかじめ考えておきましょう。はじめから終了したときのことを視野に入れておくことで、無用のトラブルを回避できます。
一般的な終了のタイミングは以下のとおりです。
終了の事由は複数設定できます。また、期間も自由に決められますが、数十年にわたる長期の契約などにしてしまうと、途中で家庭や財産の状況が変わることが考えられます。あまり長期の契約にはしないほうがよいでしょう。
なお、設定した終了の条件を満たしていなくても、以下の状態が生じた場合は信託が終了します。
- 信託の目的が果たされた
- 信託の目的を果たせなくなった
- 受託者がいなくなってから1年以上経過した
- 受託者と受益者が同一人物になってから1年以上経過した
- 信託が併合された
- 信託の終了を命じる裁判があった
- 信託財産について、破産手続きの開始が決定した
- 委託者に破産手続き開始が決定し、信託契約が解除された
そのほか、委託者・委託者の合意によっても終了できます。
信託法第149条第1項|e-Gov法令検索
残余財産の帰属先
残余財産の帰属先も決めておく必要があります。「残余財産の帰属先」とは、信託が終了したときに信託財産を取得する人のことです。この項目では、「誰が財産を取得するのか」について定めます。
帰属先を決めていない場合は委託者やその相続人が帰属先になるため、決めていなかったとしても財産が宙に浮いてしまうことはありません。
ただし、帰属先が決まっていないと予期せぬ相続争いにつながる可能性があります。そのため、きちんと決めておくことをおすすめします。
なお、帰属先はどのように決めても構いませんが、帰属先や状況によっては税金が発生するため注意が必要です。たとえば委託者・受益者が同一人物で信託終了時に受益者が存命のケースでは、帰属先を受益者以外に設定すると贈与税が発生します。
また、残余財産の対価として帰属を受ける人が受益者に金銭を支払った場合、受益者が受け取った金銭に譲渡所得税がかかります。税金がかかる可能性を考慮しながら、帰属先を決めるとよいでしょう。
家族信託契約書は公正証書で作成しよう
家族信託契約書は、公正証書での作成がおすすめです。ここでは、公正証書で作成したほうがよい理由や公正証書のメリット、デメリットについて解説します。
- 公正証書は法律の専門家である「公証人」が作成した公文書であり、証明力・信用力が高いため公正証書での作成がおすすめ
- メリットは高い証明力があることや信託口口座や信託内借入が利用しやすくなること、公証役場で保管されるため紛失する可能性が低いこと
- デメリットは公証役場への手数料が発生することと、公証役場に出向く必要があり手間と時間がかかること
公正証書とは公証人が作成する公文書
公正証書とは、「公証役場」の「公証人」と呼ばれる法律の専門家が作成する公文書です。公証役場とは主に公正証書の作成を行う公的機関であり、公証人は公証役場に所属する準国家公務員です。
公正証書で作成した信託契約書は公文書にあたるため、高い信用力や証明力があります。また、公正証書のプロである公証人が作成に関わるため、ミスや不備はほとんどありません。
それゆえ信託口口座の開設の際には、公正証書を求められることが多いです。予算の問題などもあるかもしれませんが、できるかぎり公正証書で作成することをおすすめします。
それに対し、自分で作成した契約書は私文書です。費用をかけずに作成できる反面、公正証書ほどの証明力や信用力は期待できず、信託口口座開設時に行われる金融機関の審査で認められない可能性があります。
家族信託契約書を公正証書で作成するメリット
家族信託契約書を公正証書にするメリットは以下のとおりです。
- 公証人が本人確認や意思確認を行うため、高い証明力がある
- 金融機関と取引する際には公正証書が求められるため、契約書を公正証書にすることで信託口口座の開設や信託内借入の利用がしやすくなる
- 公証役場で20年保管されるため、保管されているかぎりは手元にある契約書をなくしても原本が失われる可能性は低く、いつでも再発行してもらえる
高い証明力を持つ
家族信託契約書を公正証書にするメリットとして、高い証明力が挙げられます。
公正証書は、法的な手続きに則って作られる公文書です。相続トラブルなどで裁判になったときに証拠として提示できるほど、その証拠力は確かなものです。
また、作成する際は公証役場の公証人が本人確認や意思確認を行います。そのため偽造を疑われたとしても、契約者本人の意思に基づく書類であることを主張できます。
しかし私文書で作成した場合は、本人が自分の意思で署名・押印していたとしても、それが本当に本人が署名・押印したものであるという証明ができません。トラブルを回避するためにも、公正証書で作成しておいたほうがよいでしょう。
信託口口座や信託内借入を利用しやすくなる
信託契約書を公正証書にすることで、信託口口座や信託内借入を利用しやすくなります。
前述のとおり、信託口口座を開設するには、金融機関の審査を通過しなければなりません。金融機関の多くは公正証書での作成を条件としており、私文書の契約書では認められないのが一般的です。
開設できる条件は金融機関にもよるため事前の確認は必要ですが、「信託口口座の開設を検討しているなら公正証書が必要」と思っておいたほうがよいでしょう。また、信託財産を担保に借入をする「信託内借入」を利用するときも、公正証書の信託契約書でないと受け付けてくれない場合があります。
このように、金融機関と家族信託に関連した取引を行う際は、信託契約書の公正証書が求められることが多いです。取引を予定している場合はもちろん、信託中に借入が必要になる可能性がある場合も、公正証書にしておくことをおすすめします。
紛失する可能性が低い
紛失する可能性の低さも、信託契約書を公正証書で作成するメリットです。
公正証書は、20年間にわたって公証役場で保管されることが公証人法施行規則によって定められています。そのため手元にある信託契約書をなくしてしまったときでも、原本が保管されているかぎり、公証役場に申請すれば写しを再発行してもらえます。手数料も1枚250円とそれほどかかりません。
しかし私文書の場合、紛失してしまうと契約内容が実現できなくなり、取り返しがつかなくなってしまうおそれがあります。
家族信託は、長期にわたるケースが多い契約です。長期化すればするほど紛失のリスクも高まるため、公正証書にしておいたほうが安心でしょう。
公証人法施行規則27条|e-Gov法令検索
家族信託契約書を公正証書で作成するデメリット
家族信託契約書を公正証書で作成するデメリットは以下のとおりです。
- 信託財産の価額に応じて公証役場への手数料がかかる
- 何度も公証役場に足を運ぶ必要があるため、私文書で作成する場合に比べて時間と手間がかかる
費用が発生する
家族信託契約書を公正証書で作成した場合のデメリットは、費用がかかることです。ほとんど費用をかけずに作成できる私文書とは異なり、公証役場への手数料が発生します。
公証役場の手数料は以下のとおりです。
信託財産の価額 |
手数料 |
100万円以下 |
5,000円 |
100万円超え200万円以下 |
7,000円 |
200万円超え500万円以下 |
1万1,000円 |
500万円超え1,000万円以下 |
1万7,000円 |
1,000万円超え3,000万円以下 |
2万3,000円 |
3,000万円超え5,000万円以下 |
2万9,000円 |
5,000万円超え1億円以下 |
4万3,000円 |
1億円超え3億円以下 |
4万3,000円+超過額5,000万円までごとに1万3,000円 |
3億円超え10億円以下 |
9万5,000円+超過額5,000万円までごとに1万1,000円 |
10億円超え |
24万9,000円+超過額5,000万円までごとに8,000円 |
参照:手数料|日本公証人連合会
公正証書作成手数料は、上記のとおり財産の価額によって変動します。たとえば、信託財産が現金2,000万円+不動産3,000万円のケースでは、信託財産の合計金額が5,000万円であるため、手数料は4万3,000円です。
手数料がどの程度かかるかは、事前に確認しておくとよいでしょう。
このように、公正証書には費用がかかります。しかし、公正証書を作成することで得られるメリットを考えると、費用をかけてでも公正証書にする価値はあるといえるでしょう。
時間と手間がかかる
信託契約書を公正証書で作成した場合、時間と手間もかかります。公正証書は、依頼してすぐに作成してもらえるものではないためです。必要書類の提出や面談、打ち合わせなどで複数回公証役場に出向く必要があり、作成日当日も予約をしなければなりません。
また、公証役場は平日の9〜17時しか開庁していません。日中仕事をしている人はわざわざ仕事を休んで来庁する必要があり、不便を感じる可能性があります。
費用をかけてでも手間を減らしたいという場合は、弁護士や司法書士などの専門家に依頼するのもひとつです。専門家に依頼すれば、書類の収集や事前の打ち合わせ、作成日当日の段取りなどを代行してくれます。別途日当はかかりますが、作成日当日も公証役場まで同行してくれるでしょう。
家族信託を自分で作成する際の注意点
家族信託契約書を自分で作成する際は、以下の点に注意する必要があります
- 受益者を委託者以外の人に設定すると「みなし贈与」にみなされ、みなし贈与税が発生することがある
- 自分で作成した契約書では、不備や専門家が関与しておらず法的にリスクがあるなどの理由から、信託口口座が作れない場合がある
- 家族信託契約書は自分でも作成可能だが、事情は家庭ごとに異なるため難易度が高い
みなし贈与税が発生する可能性がある
自分で家族信託契約書を作成した場合、「みなし贈与税」が発生する可能性があります。みなし贈与とは、意図していなくても結果的に贈与とみなされる行為のことです。
家族信託では、信託法上委託者と受益者を同一人物にするのが一般的です。たとえば親が子どもに自分の財産を預ける場合、委託者も受益者も親に設定します。
しかし、知識がないと委託者と受益者を別の人に設定してしまう可能性があります。受益者を委託者以外にしてしまうと、税務上みなし贈与税がかかってしまうため要注意です。
また、みなし贈与税に該当するケースでは、当事者が「贈与」と認識していないことから、贈与税の申告をしそびれてしまうおそれがあります。申告・納付しないと無申告加算税や延滞税といったペナルティを受けることがあるため、注意しましょう。
ペナルティの種類 |
概要 |
税率 |
無申告加算税 |
期限内に申告しなかった場合に課される |
・〜税務調査通知:5%
・税務調査通知〜税務調査:10〜15%
・税務調査後:15〜20% |
延滞税 |
期限内に納付しなかった場合に課される |
・納付期限翌日から2カ月以内:年2.4%
・納付期限翌日から2カ月以降:年8.7% |
信託口口座を作れない
自作の信託契約書では、信託口口座が開設できない可能性があります。
「信託口口座(しんたくぐちこうざ)」とは、信託金銭を管理するための専用口座です。信託口口座の開設には金融機関の審査に通過する必要がありますが、自作した契約書の場合、以下の理由から審査に通らないことがあります。
- 内容に不備がある
- 弁護士や司法書士などの専門家が作った契約書ではない
- 金融機関が作成した信託契約書ではない
- 金融会社から指定された専門家のチェックを受けていない
「通常の銀行口座を開設するのと同じ」という感覚でいると、口座が開設できず困った事態におちいってしまうかもしれません。金融機関に問い合わせ、開設できる条件などを確認したうえで契約書を作成する必要があるでしょう。
家族信託契約書は自分で作成できるが難易度が高い
家族信託契約書は自分でも作成可能です。しかし難易度が高く、適切な契約書を作成するのは困難です。
ネット上にはさまざまなタイプの雛形が出回っているため、自分のケースに合いそうなものを探してそれを参考にすれば、簡単に作成できるように思えます。
しかし、似ている事例はあっても家庭ごとに事情や状況は異なります。ケースに合わせて適切な法的表現に変更する必要があるため、自作したものではいざというときに使えなかったり、思ったとおりの効果を発揮できなかったりといったことが考えられるのです。
たとえ弁護士や司法書士であっても、経験が浅ければ不測の事態をカバーできるような工夫を思いつけず、家族信託が失敗に終わってしまうこともあります。それほど家族信託契約書の作成は難易度が高く、高度なテクニックを求められるといえるでしょう。
そのため、はじめから家族信託に強い専門家に相談するか、契約書を自作したあとに専門家のリーガルチェックを受けることをおすすめします。
家族信託契約書の作成は司法書士や税理士、弁護士などに依頼するのがおすすめ
家族信託契約書の作成は専門家に依頼するのがおすすめです。しかし、自分で作成するときとどのような点が異なるのでしょうか。ここでは、信託契約書の作成を専門家に依頼するのがおすすめな理由について解説します。
- プロが作成するため内容に不備や漏れが生じにくく、家庭の状況や目的に合わせて適切な契約書を作成してくれる
- 目の前の問題だけでなく、遺産相続など将来起こり得るトラブルも視野に入れて作成してくれる
適切な契約書を作成できる
専門家に信託契約書の作成を依頼するメリットのひとつは、プロの手によって適切な契約書を作成してもらえることです。
内容に不備や漏れがあると、取り返しがつかなくなってしまうことがあります。契約書を作成し直そうとしても、そのとき委託者に意思能力があるとはかぎりません。
委託者が認知症になっていると、最初に交わした契約内容によっては内容の変更ができないことがあります。そのような事態にならないためにも、専門家に作成してもらったほうが賢明でしょう。
また、家族信託に精通している専門家であれば、目先の問題だけでなく相続が発生したあとなど、将来的なトラブルも見越した内容にしてくれるでしょう。
なお、どのような専門家に依頼すべきかはケースにもよります。
信託契約書作成の依頼先としてもっとも一般的なのは司法書士です。家族信託に関する相談から信託契約書の作成、信託登記などトータルで依頼できるため、相談先に迷ったときは司法書士に相談するとよいでしょう。
当事者以外の家族・親族ともめているなど、何かトラブルが起きているのであれば弁護士、みなし贈与税や相続税が気になるなら税理士というように、家族信託に関してどのような悩みを抱えているかによって適した相談先は異なります。
信託契約書の作成だけであれば、行政書士に頼むのもよいでしょう。弁護士や司法書士に比べて、費用を抑えられる可能性があります。
注意点は、各専門家には得意・不得意や対応できない業務があることです。たとえば税理士は税金の専門家であり法務については専門外であるため、信託契約書の中身については相談できないケースがあります。
また、行政書士も登記の申請や紛争への介入はできません。場合によっては、複数の専門家への相談が必要になるでしょう。
依頼する専門家 |
依頼できる業務 |
司法書士 |
所有権移転・信託登記、信託契約書の作成 |
弁護士 |
信託契約書の作成、紛争解決
※登記も法律上は可能だが、対応していない場合あり |
税理士 |
税金に関する相談、税申告 |
行政書士 |
信託契約書の作成 |
遺産相続のトラブルを防止できる
遺産相続のトラブルのトラブルを見越した契約書を作成できる点も、専門家に依頼するメリットです。
自分で作成する場合、相続まで視野に入れた内容のものはなかなか作成できないでしょう。しかし、信託契約書の作成実績が豊富な専門家であれば、これまでの経験を活かしてリスクを最小限に抑えられる内容を考えてくれる可能性が高いです。
ただし、問題はやはり「どの専門家に依頼するか」でしょう。一口に「専門家」といっても、依頼先はさまざまです。
また、事務所によって得意としている分野は異なります。たとえば、弁護士であれば法律業務全般を請け負えますが、その全員が家族信託や遺産相続に精通しているわけではありません。
家族信託・相続の両方に特化している弁護士を選ばなければ、効果的な信託契約書を作成できない可能性があることを念頭に置いておきましょう。
専門家に依頼した場合の費用相場は50~100万円
専門家に依頼した場合の費用相場は50〜100万円程度です。
金額に開きがあるのは、信託契約書や公正証書の作成費用は信託財産の評価額によって前後するためです。また、依頼する専門家や事務所によっても異なります。
内訳は以下のとおりです。
- コンサルティング費用:信託財産評価額の1%程度
- 信託契約書作成費用:信託財産評価額の0.3〜1%程度
- 信託契約書の公正証書化:5〜15万円程度
- 所有権移転・信託登記手続き:5〜15万円程度
たとえば信託財産が現金1,000万円、不動産2,000万円の場合、以下の費用がかかります。
項目 |
費用 |
コンサルティング費用 |
30万円 |
信託契約書作成費用 |
30万円 |
信託契約書の公正証書化 |
15万円 |
所有権移転・信託登記手続き |
15万円 |
合計 |
90万円 |
上記はほんの一例です。どの程度費用がかかるかについては、正式に依頼する前に確認しましょう。
まとめ
家族信託契約書の書き方や、自分で作成する際の注意点について解説しました。
記事でも解説したとおり、信託契約書は自分でも作成できる書類です。ネット上ではさまざまなパターンの雛形が手に入るため、そのまま使用すれば専門知識がなくても作成できます。
しかし、「適切な契約書を作成できるか」というと、困難であるといわざるを得ないでしょう。
不備によって契約書自体が無効になったり、目的を果たせなかったりといった事態におちいってしまうと、家族信託の意味がなくなってしまいます。また、信託口口座を開設できないといった不都合も起きます。
後悔のない家族信託を行うには、やはり専門家の力を借りるのがおすすめです。「できることは自分でしたい」という場合は、契約書作成のアドバイスや自作した契約書のチェックだけを依頼してあとは自分で動くなど、部分的に手助けしてもらう方法もあります。
まずは専門家に相談し、できるだけ自分で行いたい旨を伝えれば、最小限のサポートで信託開始まで導いてくれるでしょう。
【Q&A】家族信託契約書に関するよくある質問
信託契約書の公正証書化にはどのような書類が必要ですか?
信託契約書の原案(信託契約書のもとになるもの)や委託者・受託者それぞれの印鑑証明書・身分証明書、信託に関わる人の戸籍・住民票などが必要です。また、不動産なら固定資産税評価証明書や登記情報など、信託財産の詳細がわかるものも公証役場に提出します。
信託財産は信託口口座以外でも管理できますか?
安全性や利便性などを考えると信託口口座での管理が望ましいです。
しかし、開設したくてもできないケースもあります。その場合は、受託者がこれまで利用していなかった金融機関で新たに口座を開設し、信託契約書にその口座を信託用口座とする旨を記載しておきましょう。
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