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親の口座から引き出しできる?ケース別の方法や注意点

親の口座から引き出しできる?ケース別の方法や注意点

親の高齢化や認知症、死亡などを理由に、親の口座から預金を引き出さなければならない場面があります。

しかし、子供とはいえ親名義の口座から預金を引き出しても良いのかわからず、悩んでいる方も多いのではないでしょうか。

結論から述べると、子供が親名義の口座から預金を引き出すことは可能です。ただし、以下のように親の状態によって口座から引き出す方法は異なります。

ケース 引き出し方法
親に判断能力がある場合 ・キャッシュカードを預かりATMから引き出す
・委任状を作成する
・代理人カードを作成する
・代理人指名手続きを申請する
親に判断能力がない場合
(認知症・入院中など)
・法定後見制度を活用する
・任意後見制度を活用する
・家族信託で管理・運用する
・金融機関に相談する
・日常生活自立支援事業を活用する
親が亡くなった後の場合 ・口座の凍結解除を行う
・払い戻し制度を活用する

親の口座に入っている預金を適切に扱わなければ、親族から使い込みや横領を疑われるなど、トラブルの原因になるケースもあります。

トラブルを避けるためには、親のためにお金を使った証拠として領収書を残しておいたり、あらかじめ親族と情報共有をしたりしておきましょう。

本記事では、ケース別に親の口座から引き出しを行う方法や、引き出す際の注意点について詳しく解説するので、ぜひ参考にしてください。

ケース別・親の口座から引き出しを行う方法

親の口座から引き出しを行う際には、親の状態によって引き出し方法を選択する必要があります。親の状態は以下3つのケースが考えられます。

  • 親に判断能力がある
  • 親に判断能力がない(認知症・入院中など)
  • 親が亡くなっている

次の項目からそれぞれの引き出し方法について、順番に見ていきましょう。

親に判断能力がある場合

親が認知症などを発症しておらず、判断能力が十分に残っている場合は、本人の同意を得て引き出しを行えば問題ありません。

親に判断能力がある場合の引き出し方法は以下のとおりです。

引き出し方法 おすすめのケース
キャッシュカードを預かりATMから引き出す ・簡単に預金を引き出したい
・親からキャッシュカードと暗証番号を任せてもらえる
委任状を作成する ・ATM上限額以上の預金を引き出したい
・頻繁に引き出す予定はない
代理人カードを作成する ・ATMで繰り返し出金や振込の手続きをする予定がある
・親と同居して生計を共にしている
代理人指名手続きを申請する ・ATM上限額以上の預金を繰り返し引き出す予定がある
・引き出しの度に委任状を作成する手間を省きたい

それぞれの方法を詳しく解説します。

キャッシュカードを預かりATMから引き出す

親の口座から預金を引き出す方法の中で最も簡単なのは、キャッシュカードを預かってATMから引き出す方法です。

キャッシュカードと暗証番号さえあれば引き出しが可能なので、窓口での手続きは必要ありません。

本人から同意を得ていれば特に問題にはならないため、親の代わりに手軽に預金を引き出したいときや、キャッシュカードと暗証番号を任せてもらえる場合におすすめの方法です。

ただし、キャッシュカードを預かってATMから引き出す際には、以下の点に注意が必要です。

  • 親本人の同意で引き出したと証明することが難しい
  • 1日の引き出し限度額が決められている

ATMからの引き出しはキャッシュカードと暗証番号のみで行われるため、親から同意を得たという証拠が残りません。

そのため、親が亡くなった後の相続において、親族から財産の使い込みを疑われる可能性があります。

トラブルを防止するためにも、引き出した金額や用途などを記帳し、引き出すたびに親の署名をもらうようにしましょう。

また、ATMには1日の引き出し限度額が決められています。金融機関や契約内容によって引き出し限度額は異なりますが、基本的には1日50万円まで、多くても1日100万円までであることが多いです。

限度額以上の預金を引き出したい場合は、窓口での手続きが必要になります。

委任状を作成する

親の代わりに預金管理を行ったり、限度額以上を引き出したりしたい場合は、委任状を作成して窓口で手続きを行いましょう。

委任状を持参すればATMの上限額以上の預金を引き出せるため、まとまったお金が必要なときにおすすめの方法です。

銀行の窓口では厳重な本人確認が行われるため、通帳と印鑑だけを持参しても預金の引き出しはできません。必ず親に委任状を書いてもらってください。

親の代わりに窓口で預金を引き出す際に、持参する書類は以下のとおりです。

  • 委任状
  • 払い戻し請求書
  • 通帳
  • 金融機関届出印
  • 代理人の写真付き身分証明書

銀行の窓口で預金を引き出す際には、委任状のほかに払い戻し請求書の記入も必要です。払い戻し請求書は口座から預金を引き出す際に必要な書類で、口座番号や金額を記入の上、押印して窓口に提出します。

委任状や払い戻し請求書は銀行で指定されているフォーマットがあるため、窓口でもらうか公式サイトからダウンロードして記入しましょう。

なお、親からの委任によって引き出す際の必要書類は、銀行によって異なるケースがあります。そのため、どのような書類が必要なのかは事前に銀行で確認を取ってください。

注意点として、もしも親の死亡などにより口座が凍結された場合、委任状があっても預金を引き出すことができなくなります。口座の凍結解除や払い戻し制度などの手続きについては、後ほどの項目で解説します。

また、委任状は引き出すたびに毎回親に書いてもらわなければなりません。頻繁に出金する予定がある場合、次の項目で紹介する「代理人カード」の作成がおすすめです。

代理人カードを作成する

銀行の代理人カードは、本人の代わりにATMから預金を引き出したり、振り込みしたりできる家族用のキャッシュカードです。

親の預金口座を代わりに管理するのであれば、本人のキャッシュカードを使うのではなく、代理人カードを作成した方が良いでしょう。

代理人カードがあれば、預金を繰り返し自由に引き出すことができるからです。

また、代理人カードで口座から引き出しや振り込みを行っていたのであれば、親の許可を得て口座を管理していたことの証明にもなります。

代理人用のキャッシュカードを作成するためには、口座名義人本人が銀行に申請しなければなりません。必要書類は以下のとおりです。

  • 通帳またはキャッシュカード
  • 金融機関届出印
  • 口座名義人と代理人の本人確認書類
  • 発行手数料

通帳や届出印、身分証明書などの基本書類のほか、銀行によっては1,000円程度の発行手数料が必要になるケースもあります。

代理人カードを作成する条件として、基本的には生計を共にしている同居家族でなければ認められません。また、代理人カードを作成できるのは原則として1名のみです。

金融機関によって細かな条件は異なるケースもあるため、事前に電話や窓口で確認を取ってみてください。

代理人指名手続きを申請する

一部の金融機関では、代理人カードよりも柔軟に口座を管理できるシステムとして「代理人指名手続き」を設けている場合があります。

代理人指名手続きは、口座名義人から指名を受けた代理人が窓口で自由にお金を引き出せる制度です。

親名義のキャッシュカードや代理人カードによるATM出金には1日の引き出し金額に制限が設けられていますが、代理人指名手続きには上限額がありません。また、引き出すたびに委任状を作成する手間も省けます。

そのため、必要なタイミングで自由にまとまった金額を引き出したい場合におすすめの方法です。

代理人指名手続きは、口座名義人本人が以下の書類を窓口に持参することで申し込みできます。

  • 通帳またはキャッシュカード
  • 金融機関届出印
  • 口座名義人と代理人の本人確認書類

代理人指名手続きで窓口から預金を引き出すときには、代理人の本人確認書類と通帳、金融機関届出印の提出が毎回必要になります。

なお、金融機関によって手続きに必要な書類は異なるケースもあるため、必ず事前に確認してください。

親に判断能力がない場合(認知症・入院中など)

認知症や入院などで親に判断能力がない場合は、法的制度を利用したり各種機関に相談したりする必要があります。具体的な引き出し方法は以下のとおりです。

引き出し方法 おすすめのケース
法定後見制度を活用する ・親がすでに認知症などで判断能力が不十分な状態になっている
・成年後見人による身上監護が必要
任意後見制度を活用する ・親が判断能力を失ったときに備え、自分で成年後見人を選びたいと考えている
・成年後見人による身上監護が必要
家族信託で管理・運用する ・柔軟に財産管理をしたい
・身上監護権がなくても問題ない
金融機関に相談する ・成年後見人が選任される前に緊急で預金の引き出しが必要になった
日常生活自立支援事業を活用する ・預金管理や日常的な支払いの支援をしてもらいたい
・親が軽度の認知症で契約内容が理解できる程度の判断能力がある

親に判断能力がない場合の引き出し方法について詳しく解説します。

法定後見制度を活用する

親がすでに認知症などを発症しており判断能力が不十分な場合、原則として法定後見制度を利用して口座を管理しなければなりません。

法定後見制度は、家庭裁判所に申し立てて法定後見人を選任し、代理で財産の管理や法律上の契約などを行うための制度です。

法定後見人に選任された人は、本人に代わって預貯金の引き出しや振り込み、公共料金などの支払い、遺産分割協議への参加、相続放棄の手続きなどが可能です。

また、法定後見人は身上監護権を持っており、本人の状態に配慮しながら医療や療養、介護などの法律行為を代行できます。

親本人の判断能力がすでに低下しており、預金管理や法律行為の代行などの身上監護が必要な場合には、法定後見制度の利用がおすすめです。

法定後見人になるために特別な資格は必要ありませんが、一般的には親族以外の第三者が選任されます。特に選任されることが多いのは、司法書士や弁護士、介護福祉士などの専門家です。

親族が法定後見人に選任されると、財産の使い込みや親族間の対立などが心配されるためです。

親族以外の専門家が法定後見人に選任された場合、家庭裁判所から指示されたとおりの報酬を支払う必要があります。財産ごとの報酬目安は以下のとおりです。

財産管理額 報酬目安
1,000万円以下 月額2万円
1.000万円以上、5,000万円以下 月額3万円~4万円
5,000万円以上 月額5万円~6万円

財産管理額が多くなるほど財産管理事務も複雑になるため、報酬目安も高く設定されています。

なお、法定後見人はあくまでも本人の利益を優先して財産を管理しなければならないため、個人的な目的でお金を使うことはできません。

親の財産を確実に守りたい場合は、法定後見制度を活用してみてください。

任意後見制度を活用する

任意後見制度は、判断能力が低下する前に任意後見契約を締結し、自分の意思で任意後見人を選任するための制度です。

法定後見制度は家庭裁判所が選任をするのに対し、任意後見制度では親が自分の意思で信頼できる人を後見人として選任できます。そのため、任意後見制度は子供などの親族が後見人に選ばれるケースが多いです。

任意後見契約の中で財産管理に関する内容を定めておけば、任意後見人が預金の引き出しや法律行為などを代行できます。

認知症になると金融機関が口座凍結をすることもありますが、任意後見人は口座凍結解除の手続きも代行する権利があります。

親本人の意思で後見人を選任したい場合や、親族などが後見人として預金管理・身上監護を行いたいと考えている場合におすすめの方法です。

注意点として、親族が任意後見人になる場合は、家庭裁判所が任意後見監督人を選任します。任意後見監督人は、任意後見人が契約通りに財産を管理しているかどうかを監督する役割を担っています。

任意後見監督人は司法書士や社会福祉士などの専門家が選任されることが多く、財産管理額に応じて月額5,000円〜3万円程度の報酬を支払わなければなりません。

また、任意後見制度は親本人の判断能力が残っていなければ利用できません。すでに判断能力が低下している場合は、法定後見制度を利用する必要があります。

親族を後見人として選任するのであれば、判断能力がある間に任意後見契約を締結しておきましょう。

家族信託で管理・運用する

親の判断能力が低下する前の対策として、家族信託契約を結ぶ方法もあります。家族信託は、信頼できる家族や親族に財産の管理・運用・処分を任せるための制度です。

家族信託では主に「委託者」「受託者」「受益者」の3つの役割があります。委託者は財産の管理を任せる人で、受託者は任せられる人のことです。

受益者は財産の管理によって利益を受け取る人のことであり、基本的には委託者と同じ人になります。

子供が親の財産を家族信託で管理するケースであれば、委託者と受益者が親、受託者が子供になるケースが一般的です。

家族身体の制度は一見すると任意後見制度と似ていますが、以下の点が異なります。

  • 判断能力が低下する前から財産の管理を任せられる
  • 受託者の意思で自由に財産の管理・運用・処分ができる

任意後見制度が開始するのは本人の判断能力が低下した場合のみですが、家族信託は好みのタイミングで財産管理を開始できます。

また、任意後見制度とは異なり監督人が選任されることもないので、預金の使い道を制限されることなく柔軟な財産管理をしたい場合におすすめです。

デメリットとしては、家族信託は財産管理に特化した制度であるため、任意後見制度のように身上監護権はありません。

一方、成年後見制度を利用すれば、後見人に身上監護を任せられます。

親と同居しており身上監護も親族が行うのであれば問題ありませんが、離れて暮らしている場合は任意後見制度を利用し、後見人に身上監護を任せた方が良いケースもあります。

家族信託か成年後見制度のどちらを利用するのかは、状況に応じて決めましょう。

金融機関に相談する

状況によっては、金融機関に事情を説明することで預金の引き出しに応じてもらえる可能性があります。

本人の意思確認が取れないときは、原則として成年後見制度の利用が必要です。

しかし、成年後見制度で後見人を選任するまでには1ヶ月~2ヵ月程度の時間を要するため、期間中は預金の引き出しが一切できないということになってしまいます。

そうなると、入院や手術など緊急でお金が必要になったとき、費用が用意できないという事態になりかねません。

そのため、本人に判断能力がないことや、本人のための費用支払いであることを示す証拠を提示できれば、金融機関に引き出しを認めてもらえる可能性があります。

たとえば医療機関での診断書や手術費用の見積書、介護サービスの利用明細書などが証拠になります。医療機関や各種サービスで書類を発行してもらい、金融機関に提示してみてください。

成年後見制度の利用開始前に緊急でお金が必要になったときは、金融機関への相談がおすすめです。

日常生活自立支援事業を活用する

日常生活自立支援事業は、認知症高齢者、知的障害者、精神障害者の中でも判断能力が不十分な人が自立した生活を送れるよう、サポートするためのサービスです。

こちらのサービスを利用すれば、金銭に関して以下のようなサポートを受けられます。

  • 預金の払い戻し・解約・預け入れ
  • 公共料金・医療費・福祉サービスなどの支払い
  • 日常的な買い物の手伝い
  • 年金の受領に関する手続き

預金の管理のほか、日常的な支払いや年金受領の支援までしてもらえることが特徴です。

金銭管理の目的はあくまでも自立した日常生活を送ることであるため、成年後見制度や家族信託よりも預金の用途は限られます。

預金管理をしてもらいたいというよりは、日常的なお金の使い方に不安がある場合におすすめの制度です。

なお、日常生活自立支援事業を利用するためには、契約内容を理解できる程度の判断能力が必要です。重度の認知症や障害を抱えている場合は利用できない可能性もあるため、注意しておきましょう。

親が亡くなった後の場合

口座の名義人が亡くなったことの連絡を受けると、財産を守る目的で金融機関は口座を凍結させます。

そのため、親が亡くなった後に口座から引き出すためには、金融機関で適切な手続きを行わなければなりません。具体的な手続きの方法は以下のとおりです。

  • 口座の凍結解除を行う
  • 払い戻し制度を活用する

それぞれの方法について詳しく解説します。

口座の凍結解除を行う

親が亡くなった後に口座が凍結された場合は、金融機関にて口座の凍結解除を申請しなければなりません。

ただし、遺言書の有無によって凍結解除の手順が異なるため注意が必要です。

遺言書がある場合の手順は以下のとおりです。

  1. 金融機関に口座名義人が死亡した旨を伝える
  2. 残高証明書を請求して預金額を確認
  3. 預貯金の相続人が凍結解除に必要な書類を用意する
  4. 金融機関の窓口で凍結解除を申請する
  5. 約1~2ヶ月で凍結が解除される

遺言書がある場合、預貯金の相続人が必要書類を準備した上で、金融機関の窓口に凍結解除の申請をしに行く必要があります。

凍結解除に必要な書類は以下のとおりです。

  • 通帳
  • 遺言書
  • 被相続人の戸籍謄本(死亡の記載があるもの)
  • 相続人全員の戸籍謄本
  • 相続人全員の印鑑証明書
  • 遺言書の検認済証明書(公正証書遺言以外の場合)
  • 遺言執行者の選任審判書謄本(家庭裁判所で遺言執行者が選任されている場合)

検認済証明書は、家庭裁判所が遺言書を検認したことを証明するための書面です。公正証書遺言は法務局によって法的に保管されているため、検認済証明書は必要ありません。

金融機関での手続きの完了後、1~2ヶ月程度で口座の凍結が解除され、相続人は自由に預金を引き出せるようになります。

遺言書が残されていなかった場合は、遺産分割協議で誰が預貯金を相続するのかを決定してから手続きを行います。具体的な手順は以下のとおりです。

  1. 金融機関に口座名義人が死亡した旨を伝える
  2. 残高証明書を請求して預金額を確認
  3. 遺産分割協議を行い、預貯金の相続人を決める
  4. 遺産分割協議の内容に従って遺産分割協議書を作成する
  5. 預貯金の相続人が凍結解除に必要な書類を用意する
  6. 金融機関の窓口で凍結解除を申請する
  7. 約1~2ヶ月で凍結が解除される

金融機関に凍結解除を申請する際には、遺言書や検認済証明書の代わりに遺産分割協議書を添付する必要があります。

そのため、遺産分割協議が終わるまでは凍結解除の手続きが進められません。

もしも相続人同士で揉めて遺産分割協議が終わらない場合、いつまで経っても口座の凍結解除ができないという事態に陥ります。

遺産分割協議は「いつまでに終わらせなければならない」という期限が設けられていないため、調停や裁判などに発展すると数年以上かかるケースもあります。

遺産分割協議で揉めたときは弁護士に仲介を依頼し、全員が納得できる提案をしてもらう方法がおすすめです。

払い戻し制度を活用する

医療費や生活費、葬儀費用など緊急でお金が必要な場合は、相続預金の払い戻し制度を活用しましょう。

相続預金の払い戻し制度は、遺産分割協議が完了する前に相続預金の一部を引き出すための制度です。

銀行口座の凍結解除は、スムーズに進んだとしても最低で1ヶ月以上の時間がかかります。凍結解除まで待っていると、緊急でお金が必要になったときに相続人が経済的に困窮してしまう可能性があります。

このような事態を防ぐため、緊急でお金が必要になった場合に限り、相続預金の払い戻し制度の利用が認められています。

金融機関に払い戻し制度を申請する際に必要な書類は以下のとおりです。

  • 被相続人の出生から死亡までが記載された戸籍謄本
  • 相続人全員の戸籍謄本
  • 払い戻しを希望している方の印鑑証明書

金融機関に申請が認められれば、最大150万円までの払い戻しが可能です。

なお、遺産分割について調停や審判などを申し立てている場合、金融機関ではなく家庭裁判所に申請する必要があります。申請に必要な書類は以下のとおりです。

  • 家庭裁判所の審判書謄本
  • 払い戻しを希望している方の印鑑証明書

家庭裁判所による払い戻し制度では、裁判所が仮取得を認めた金額の払い戻しが可能です。

遺産分割が長引きそうなときや、緊急でお金が必要になったときは、相続預金の払い戻し制度で預金を引き出しましょう。

親の口座からの引き出しで注意すべきポイント

親の口座から預金を引き出す際には、以下のポイントに注意しましょう。

  • 引き出し時に作成した書類・領収書は保管しておく
  • 代理人が引き出せる上限額を確認する
  • 他の親族と情報を共有する
  • 引き出したお金は親のために使う

次の項目から、それぞれの注意点について詳しく解説します。

引き出し時に作成した書類・領収書は保管しておく

親の口座から預金を引き出して使用したときには、作成した書類や支払い明細書、領収書などを必ず保管するようにしましょう。

書類を保管しておかなければ、親が亡くなった後に親族から財産の使い込みを疑われる可能性があるためです。

たとえば通院費用を支払うために親の預金を使用した場合、病院から発行される明細書と引き出した金額が一致すれば、親のために預金を引き出した事の証明になります。

また、委任状や預金の用途を記した台帳などを残しておけば、親の代わりに財産を管理していたという証明にもなるでしょう。

親の口座から引き出した際の書類や領収書は、相続が完了した後も3年程度は残しておいてください。相続税の支払い後、1~2年後に税務調査が入る可能性があるためです。

親のために預金を使用していたという証拠が残っていれば、税務調査が入ったときに使途不明金として指摘される心配がなくなります。

代理人が引き出せる上限額を確認する

一部の金融機関では、70歳以上の高齢者がATMでお金を引き出せる上限額や振込金額を「1日10万円まで」と定めています。

なぜ70歳以上の高齢者が対象なのかというと、「振り込め詐欺」をはじめとする特殊詐欺の被害を減らす目的があるからです。

そのため、金融機関の方針によっては引き出しや振込ができる上限額が少なく、まとまったお金が引き出せない可能性があります。

ただし、代理人カードの作成や代理人指名手続きを済ませていれば、10万円以上の引き出しが可能なケースもあります。

まずは金融機関に代理人が引き出せる上限額を確認し、金額が少ない場合は代理人カードや代理人指名手続きの利用を検討してみてください。

他の親族と情報を共有する

親族を代表して親の口座を管理する際には、どのような用途でいくら引き出したのかを親族間で共有するようにしましょう。

あらかじめ他の親族に情報を共有しておけば、後から遺産の使い込みを疑われる心配がなくなります。

なお、公共料金の支払いや日常的な買い物など、細かなお金まで1回ずつ伝える必要はありません。

入院や手術などで大きな金額を引き出したときや、1ヶ月分の生活費としていくら使ったのかなどをまとめて報告すれば良いでしょう。

親族間トラブルを防止するためにも、他の親族との情報共有は忘れないようにしてください。

引き出したお金は親のために使う

親の口座から引き出したお金を自分のために使用すると、窃盗や横領などの責任を親族から追及される恐れがあります。

親子といえど、親のお金はあくまでも親のものであり、私的な理由で使うことは許されません。

もしも自分のために使ったお金が多額である場合、税務調査の際に遺産隠しや使い込みなどが疑われる可能性もあります。

税務調査では通帳の取引履歴がチェックされるため、上手く隠したつもりでも使い込んでいたことは必ず発覚するようになっています。

私的なことで親のお金を使ったことが判明すれば、延滞税や無申告加算税、重加算税などのペナルティを課される可能性が高いです。

親の口座から引き出したお金は必ず親のために使うようにし、私用で使ったり自分の口座に移し替えたりしないように注意しておきましょう。

親の口座から勝手に引き出しても原則刑事罰には問われない

子供が親の口座から許可なく預金を引き出したとしても、原則として刑事罰には問われません。

預金を勝手に使い込んだのが「配偶者・直系血族・同居の親族」である場合、横領の刑が免除されると刑法244条で定められているためです。

第二百四十四条 配偶者、直系血族又は同居の親族との間で第二百三十五条の罪、第二百三十五条の二の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯した者は、その刑を免除する。
2 前項に規定する親族以外の親族との間で犯した同項に規定する罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
3 前二項の規定は、親族でない共犯については、適用しない。
引用元:刑法|e-Gov法令検索

子供であっても親の財産を勝手に使い込むと横領や窃盗の罪には該当するものの、直系血族であることから刑は免除されるのです。

しかし、刑事罰を受けないからといって勝手に財産を使い込んでも良いわけではありません。

他の親族から損害賠償請求や不当利得返還請求などを申し立てられた場合、使い込みの責任を追及され、賠償金を支払わなければならないケースがあります。

もしも親族の誰かが親の口座から勝手に預金を使い込んでいた場合は、弁護士に相談の上で適切な対処を行いましょう。

なお、遺産の使い込みを知った日から3年、使い込みが行われた日から20年以上が経過すると、損害賠償請求や不当利得返還請求をする権利が消失します。

財産の使い込みが発覚したときは、早い段階で弁護士に相談することをおすすめします。

親の口座から引き出した場合、贈与税はかからない

親の口座から預金を引き出しても、基本的に贈与税は発生しません。

贈与税は、贈与者と受贈者の双方の合意のもとで贈与が行われたときにのみ発生する税金です。

たとえば生前贈与として子供が親から財産を譲り受けたのであれば、贈与税が発生します。

しかし、親の入院費や介護費などを支払うために子供が親の口座から預金を引き出しても、「子供が親から財産を贈与された」ということにはなりません。

上記のケースだと「親からお金を預かって代わりに費用を支払った」とみなされます。仮に入院費などで大きな金額を引き出したとしても贈与税は発生しないので、安心してください。

ただし、親の口座から引き出した預金を自分の口座に入金した場合は、贈与とみなされる可能性があります。

そのため、親の口座から引き出したお金は自分の口座には入れず、金庫や財布などで管理するようにしましょう。

まとめ

親の口座から預金の引き出しが必要になったときは、親の状況に応じて適切な対処を取る必要があります。

親に判断能力がある場合は、キャッシュカードや委任状、代理人カード、代理人指名手続きなどで引き出しが可能です。

すでに判断能力が不十分な場合や将来的な認知症に備えたい場合は、成年後見制度や家族信託、日常生活自立支援事業などを利用しましょう。

親が亡くなった後は口座が凍結されてしまうため、凍結解除の手続きや払い戻し制度を活用して預金を引き出す必要があります。

ぜひ本記事で紹介した内容を参考に、適切な方法で親の口座から預金の引き出しを行ってみてください。