家族信託の手続きの流れ
家族信託の手続きは、以下の流れで行います。
- 一部の関係者だけで話を進めるとトラブルになるおそれがあるため、将来相続人になる可能性のある人も含めて全員で家族会議を行う
- 家族信託の目的や信託財産などを決め、その内容を書面化する
- 信託内容を書面化した「家族信託契約書(原案)」をもとに、公証役場で公正証書を作成してもらう
- 不動産を信託財産に指定している場合は、法務局に「所有権移転登記」と「信託登記」を申請すると形式的な所有権が受託者に移り、信託内容が記録される
- 信託口口座や信託専用口座を開設し、信託財産と受託者自身の財産とを分けて管理できるよう準備する
- 帳簿の作成や領収書の保管など、実際に受託者が財産管理をスタートさせる
1. 親族を含めた家族会議を行う
家族信託を行う場合、まずは委託者や受託者、受益者、推定相続人(将来相続人になる可能性のある人)を含めた全員で家族会議を行う必要があります。家族信託は直接関わる当事者だけでなく、相続人にも影響する場合があるためです。
たとえば、相続人に断りなく遺留分を侵害してしまうような内容の信託を行うと、トラブルのもとになってしまいます。
遺留分とは、兄弟姉妹以外の相続人に保障される「最低限の取り分」のことです。遺留分を侵害された場合、遺留分が認められた相続人は、侵害した人に対して侵害された金額相当の金銭を請求できます。推定相続人が信託内容に納得していれば、遺留分が絡むトラブルを回避できるでしょう。
このように、親族間のトラブルを防ぎ、円満に財産の運用や承継を行うために家族会議は欠かせないのです。
なお、委託者・受託者・受益者とは、以下の立場にある人のことをいいます。
委託者 |
受託者に財産を預ける人 |
受託者 |
委託者から財産を預かり、管理や運用、処分を行う人 |
受益者 |
信託財産から発生した利益を受ける人 |
注意したいのは、委託者や受託者だけですべて決めてしまわないことです。一部の関係者だけで話を進めると不信感が生まれ、関係が悪くなってしまうおそれがあります。必ず家族全員で行いましょう。
2. 信託契約の内容を決定する
家族信託をすることが決定したら、信託契約の内容を決めましょう。決めるべき内容は以下のとおりです。
- 家族信託の目的
- 家族信託の当事者(委託者・受託者・受益者)
- 信託する財産
- 受託者の権限
- 家族信託の終了時期
- 財産の帰属先
家族信託の目的や当事者、信託する財産などを決めましょう。信託の当事者に関しては、受託者が財産を適切に管理するかどうか監視・監督する「受託監督人」や受益者に代わって権利行使する「受益者代理人」を設置することも可能です。
受託者の権限については、目的に合わせて決定します。例えば賃貸アパートやマンションといった収益不動産の管理を任せたいときは、入居者への対応や家賃の入金確認、建物のメンテナンスなどを主な任務とします。
「財産の帰属先」とは、家族信託終了時に残った財産「残余財産」を引き継ぐ人のことです。多くの場合、委託者兼受益者の死亡をもって信託契約は終了し、残った財産は帰属先に指定した人が引き継ぎます。
契約内容が決まったら、その内容を書面化しましょう。信託契約の内容を書面化したものを「家族信託契約書」といいます。家族信託契約書は、ネットや書籍を参考にすれば自分でも作成できますが、正しい法的知識に則って作成しないとトラブルの原因になりかねないため注意が必要です。
司法書士などの専門家に相談しながら内容を決めると、スムーズに進められるでしょう。また、自分で作成するよりもトラブルの発生を抑えられます。
3. 公正証書で家族信託契約書の作成を行う
作成した家族信託契約書(原案)をもとに、公正証書で信託契約書を作成します。「公正証書」とは、国の機関である公証役場で作成してもらう書類です。
公正証書作成のプロである公証人が本人確認や意思確認を行い、信託契約書を作成します。自分で作成しただけの「私文書」では証明力に欠けますが、公正証書にすることで強い証明力が備わります。
たとえば、信託契約書が本当に委託者の意思によるものかどうかが争いになった場合、私文書では本人の意思による契約であると証明できません。しかし、公正証書であれば本人の意思による契約であると証明できるため、将来的なトラブルを防げます。
ただし、公正証書にするためには以下の書類や手数料が必要です。
- 本人確認書類
- 委託者・受託者の実印と印鑑証明書
- 不動産の全部事項証明書(不動産を信託財産に指定した場合)
- 戸籍
公証役場への手数料は、財産の価額によって異なります。詳細は後述します。
なお、公正証書を作成してもらうのは、最寄りの公証役場です。事前に面談や書類の提出が必要であるため、複数回足を運ばなければならないことを覚えておきましょう。
4. 信託登記を行って名義変更する
信託契約書を公正証書で作成したら、信託登記を行い不動産の名義変更をします。
たとえば現金であれば、契約が成立した時点で受託者が管理できるようになります。しかし不動産のように「名義」という概念がある財産は、名義を変更しないかぎり受託者が管理・処分できないためです。
家族信託の際に行うべき登記は、以下の2つです。
- 所有権移転登記:委託者から受託者へ、形式的に所有権が移る
- 信託登記:家族信託の内容を登録する
順番としては、所有権移転登記を行ったあと信託登記を行います。
信託登記は受託者単独で申請できるのに対し、所有権移転登記は委託者と受託者が連名で行わなければなりません。義務化されているのは信託登記だけですが、セットで行うため所有権移転も必要だと思っておいたほうがよいでしょう。
所有権移転・信託登記が完了すると、登記の情報を記した「登記事項証明書」にその財産が委託者からの信託財産であると明記されます。
なお、登記は「不動産の所在地を管轄する法務局」に申請します。自分でも申請できますが、難しければ登記の専門家である司法書士に相談しましょう。
5. 信託口口座や信託専用口座の開設など、財産管理の準備を行う
登記申請と並行して、「信託口口座」や「信託専用口座」を開設し、財産管理の準備を行いましょう。信託財産の管理は、受託者自身の財産と分けて行うことが信託法で定められているためです。これを「分別管理義務」といいます。
分別管理義務に違反すると損害賠償責任問題になるため、くれぐれも受託者自身がすでに持っている口座で信託財産を管理しないよう注意しましょう。
信託口口座と信託専用口座の違いは以下のとおりです。
|
信託口口座 |
信託専用口座 |
開設しやすさ |
審査に通らないと開設できない |
誰でも簡単に開設可能 |
開設できる金融機関 |
取り扱いがない金融機関もある |
どこでも開設可能 |
費用 |
かかることもある |
かからない |
入出金方法 |
金融機関によっては窓口のみ |
ATMで利用可能 |
受託者死亡時 |
凍結しない |
凍結する |
受託者の破産・差押時 |
影響を受けない |
差し押さえられる可能性あり |
信託専用口座は誰でも簡単に開設できるのに対し、信託口口座は開設時に金融機関の審査があります。多くの場合公正証書で作成した信託契約書を求められ、審査に通らなければ開設できません。
金融機関によっては、司法書士や弁護士といった専門家が作成した契約書でなければ認められない場合もあります。
安心なのは公正証書で契約書を作成し、受託者が亡くなっても凍結せず破産や差押の影響も受けない信託口口座を開設することです。しかし、以下のようなケースは信託専用口座を選択するとよいでしょう。
- 費用をかけたくない
- とにかくすぐに開設したい
- 信託口口座を取り扱っている金融機関が近くにない
- 信託口口座を開設できなかった
参照:信託法第34条|e-Gov法令検索
6. 受託者による財産管理を始める
口座が準備できたら、信託財産の管理をスタートさせましょう。受託者がすべきことは信託財産の管理や運用、処分ですが、ほかにも以下のような仕事があります。
帳簿の作成・記帳・保管 |
信託口口座で入出金があったとき |
領収書の保管 |
信託財産から支出があったとき |
貸借対照表・損益計算書を作成 |
年に1回作成し、受益者に報告 |
信託関連の書類の保管(10年間)
※10年以内なら清算結了のときまで |
・売買契約書
・建物の建築や改築、修繕などの工事請負契約書
※求めに応じて要開示 |
信託計算書の作成・提出 |
信託財産から年間3万円以上の収益を得たとき |
このように、財産管理だけでなく財産の出入りを正しく記録し、使途不明金が発生しないよう領収書なども適切に保管する必要があります。
ただし、「財産の出入りを正しく記録し」といっても、現金であれば現金出納帳への記帳、信託口口座や信託専用口座での入出金ならその都度通帳を記帳し、入出金の内容を通帳に記載していく方法で問題ありません。そのためとくに専門知識は必要なく、会計業務の経験がない場合でも対応できるでしょう。
なお、年に1回貸借対照表や損益計算書などを作成し、受益者に報告しなければならないと信託法で定められていますが、信託契約書に条項を盛り込めば受益者への報告を軽減・免除できます。
参照:信託法第37条|e-Gov法令検索
家族信託を始めるまでにかかる期間は2~6ヶ月
家族信託を始めるまでにかかる期間は2〜6ヶ月程度が一般的です。どの程度かかるかは、以下のとおり状況によって異なります。
- 信託財産の種類、数
- 公証役場での段取りにかかる期間
- 信託口口座開設時の審査にかかる期間
- 信託不動産に金融機関の担保が残っているかどうか
- 将来的に相続税がかかるかかからないか
信託財産が現金や不動産のみの場合より、株式や有価証券などもあるケースのほうが長期化する傾向にあります。株式や有価証券を信託財産に指定した場合、金銭管理用とは別に有価証券管理用の信託口口座を開設する必要があるためです。
金銭管理用の信託口口座は銀行や信託銀行で開設しますが、有価証券管理用の信託口口座は証券会社で開設します。そのため証券会社でも口座開設時の審査が発生します。審査終了までそれぞれ1ヶ月程度かかるため、同時進行で手続きするのがおすすめです。
また、公正証書で信託契約書を作成する際も、公証役場に突然出向いてすぐに対応してもらえるわけではありません。公証役場によっても異なりますが、作成までに2週間から1ヶ月程度かかります。
そのほか、金融機関の担保が残っている不動産を信託財産にする場合、その金融機関の許可が必要です。支店では対応できず本店での審査になるため、1〜2ヶ月かかることがあります。
なお、将来的に相続税がかかるケースでは、将来相続人が困らないために、財産をどのように分ければ相続税の負担が軽くできるかを前もってシミュレーションしておくのがおすすめです。ただし相続税の試算に時間がかかることが予想されるため、その分家族信託のスタートが遅れます。
家族信託を自分で行うリスク
家族信託は自分でも行えますが、専門知識を持たないケースがほとんどであるためリスクが生じやすい点に注意が必要です。ここでは、家族信託を自分で行うリスクについて解説します。
- 契約内容に不備が生じるリスクが高いため、契約書には内容を明確に記載し、信託不可の財産が含まれていないか、必要な条項が抜けていないかに気をつける必要がある
- 家族と対立してしまう可能性があるため、事前に家族間でよく話し合い、説明が難しければ専門家を頼るとよい
信託契約の内容に不備が生じる可能性がある
家族信託を自分で行った場合、信託内容に不備が生じるリスクが高くなります。また、不備があることで契約が十分に機能しなかったり、内容が無効になったりといったことも考えられます。
自分で手続きを行ったときに発生しやすい不備は以下のとおりです。
- 契約書がどうとでもとれるような言い回しになっている
- 信託不可の「農地」などを対象にしている
- 目的を果たすために必要な条項が抜けている
契約書に記載する内容は明確でないといけません。複数の意味にとれる曖昧な書き方では、希望している効果を得られない可能性があります。
また、家族信託には以下のように「信託不可の財産」も存在します。
- 農地
- 生活保護受給権
- 年金受給権
- 預貯金
- 借金などのマイナスの財産
そのほか、税金のことを考慮しておらず、高額の贈与税が発生してしまうケースもあります。委託者と受益者が同一人物であれば贈与扱いになりませんが、委託者と受益者が異なる場合は贈与とみなされ、贈与税がかかってしまうことがあるため注意が必要です。
家族と対立してしまう可能性がある
家族信託をきっかけに、家族と対立してしまう可能性があります。
家族信託は、委託者と受託者の合意があれば成立します。
しかし、ほかの家族や推定相続人に影響を与える可能性があるため、事前に家族で話し合い、当事者以外にも内容を十分理解してもらわなければなりません。トラブルを避けるためにも、ほかの家族に相談せず当事者だけで決めてしまうことは避けましょう。
とはいえ、家族に家族信託の必要性などをうまく伝えるのが難しい場合もあります。そのときは、迷わず専門家に頼ることをおすすめします。専門家から家族信託に関する正しい説明を受けたうえで委託者自身の気持ちを伝えれば、乗り気でなかった家族もわかってくれるかもしれません。
専門家に家族信託の手続きを依頼するメリット
専門家に家族信託の手続きを依頼するメリットは以下のとおりです。
- 家庭ごとに適切な信託契約書を作成でき、途中で内容の変更が必要になったときもスムーズに対応してもらえる
- 家族信託・相続問題の両方に秀でた専門家に依頼すれば、総合的にサポートしながら相続トラブルを回避できる契約書を作成してもらえる
契約書を適切に作成できる
専門家に手続きを依頼することで、その家庭にとって適切といえる内容の信託契約書を作成できます。内容に不備や漏れがあると十分な効果を得られなくなってしまうため、専門家に依頼するメリットは大きいといえるでしょう。
契約書は、家族信託の目的を十分果たせるものでなければなりません。また、相続が発生したときのことや家族間で起きる可能性のあるトラブルを想定し、カバーできる内容にする必要があります。家族信託に精通している専門家であれば、知識や経験をもとに適切な契約書を作成してくれるでしょう。
なお、契約書ははじめに作成したものをそのまま最後まで使用する場合もありますが、途中で内容の変更が必要になることもあります。専門家に契約書を作成してもらった場合、変更が必要になったときにも相談しやすく、スムーズに対応してもらえる可能性も高いです。
専門家に依頼するかどうか迷っているなら、一度無料相談を受けてみることをおすすめします。
遺産相続のトラブルを防止できる
専門家に依頼すると、遺産相続のトラブルを防止できます。家族信託に強く、相続問題にも精通している専門家であれば、遺産分割トラブルの回避につながる契約書も作成できるためです。
さらに、素人ではわかりにくい「遺留分」についても、侵害せずに済むようアドバイスをしてくれるでしょう。たとえば司法書士なら、相続登記や遺言、成年後見といった業務を多く取り扱っているケースが多いため、死角のない契約書を作成してもらえる可能性が高いと考えられます。
ただし、司法書士であれば誰でも家族信託と相続問題を総合的にサポートできるとはかぎりません。依頼の際には、どのような分野を専門に扱っているかをチェックする必要があるでしょう。
家族信託の手続きを依頼できる専門家
家族信託の手続きを依頼できる専門家はいくつかあります。
税理士や行政書士にも家族信託に関する業務を依頼できますが、税理士や行政書士は登記申請ができません。そのため、不動産を信託財産に指定しているなら司法書士や弁護士に依頼するのがよいでしょう。
ここでは、家族信託の手続きを依頼できる専門家について解説します。
- 信託財産の中に不動産があるなら、登記のプロである「司法書士」への依頼がおすすめ
- 家族間でもめているなら弁護士が適しているが、登記業務を行っていない・家族信託に精通していない事務所もあるため対応できる事務所を探す必要がある
登記申請なら司法書士
信託財産の中に不動産があるなら、司法書士への依頼がおすすめです。司法書士は登記申請のプロであり、家族信託の際の所有権移転登記や信託登記も行えるためです。
登記だけではなく、信託契約書の作成や公証役場とのやりとりなど、家族信託に関する手続きを網羅的に頼めます。ワンストップでサポートしてもらいたい場合に適しているといえるでしょう。
また、相続や遺言、成年後見といった分野にも精通している司法書士が多いため、ほかの制度と比較しながらアドバイスしてもらえます。
ただし、紛争には対応できません。家族間でもめている、またはもめそうな場合は弁護士への依頼をおすすめします。
紛争解決も依頼するなら弁護士
すでに紛争が起きている場合は弁護士に依頼するのがよいでしょう。弁護士であれば、家族信託の手続きを紛争解決までワンストップで行えるためです。
ただし弁護士に依頼する場合、以下の点に注意する必要があります。
- 司法書士に比べて報酬が高めであることが多い
- 登記申請には対応していない弁護士事務所もある
- 弁護士事務所によって専門分野が異なる
紛争が起きていないケースでも、司法書士と比べると費用が高くつく可能性が高いです。そのため、どの程度費用がかかるのかを相談の時点で確認しておくことをおすすめします。
また、弁護士は法律上登記申請を行えますが、すべての弁護士事務所が登記業務を扱っているわけではありません。専門分野も弁護士によって異なるため、弁護士に依頼する際は、家族信託や相続関連の業務に強い弁護士を探す必要があります。
家族信託の手続きにかかる費用
家族信託の手続きにかかる費用は、自分で行うなら20万円前後、専門家に依頼する場合は50〜100万円程度が目安です。
ただし、信託財産の価額や数などによって変わります。ここでは、家族信託の手続きにかかる費用について解説します。
家族信託の手続きを自分でする際に発生する費用
自分で手続きする場合でも、必要書類の取得や手数料といった実費が発生します。ここでは、家族信託の手続きを自分でする際に発生する費用について解説します。
- 「戸籍謄本または抄本」の取得費用は1通あたり450円で、市区町村役場やコンビニなどで取得できる
- 「固定資産税評価証明書」は、その不動産が存在する市区町村役場にて取得可能。1通300円程度で取得でき、自治体によっては200円や無料で取得(登記用)できることもある
- 「登記事項証明書」は取得方法によって手数料額が異なり、オンライン請求・窓口交付なら1通480円で取得できる
- 「印鑑証明書」は1通あたり200〜300円程度で、市区町村役場やコンビニなどで取得可能。取得の際は「印鑑登録証(印鑑登録カード)」や「マイナンバーカード」が必要になる
- 信託契約書を公正証書で作成する際は公証役場に手数料を納める必要がある。手数料額は信託財産の価額によって異なり、最低でも5,000円かかる
- 信託口口座の開設には通常5〜10万円程度かかるが、金融機関によっては無料で開設できるところもある。また、「1,000万円以上」など、最低入金額が定められていることもある
- 信託登記の際は固定資産税評価額に応じて0.3〜0.4%の「登録免許税」がかかる
戸籍謄本または抄本の取得費用:1通あたり450円
信託契約書を公正証書化する際に、当事者全員の戸籍謄本または抄本が必要です。取得方法や手数料は以下のとおりです。
取得方法 |
・市区町村役場(窓口)
・地区市民センター
・郵送請求(申請書+本人確認書類+返信用封筒+手数料分の定額小為替)
・市区町村によってはコンビニで取得可能(マイナンバーカードが必要)
・市区町村によってはオンラインで請求可能(マイナンバーカード・クレジットカードなどが必要。利用方法は各市区町村に要確認) |
手数料 |
1通450円
※改製原戸籍・除籍は1通750円 |
市区町村役場に出向いて取得する場合、これまでは本籍地の市区町村役場まで行く必要がありました。しかし、令和6年3月1日から「広域交付制度」が開始され、戸籍謄本や改製原戸籍謄本、除籍謄本に関しては最寄りの市区町村役場で取得できるようになりました。
注意点は、以下の証明書に関しては広域交付制度の対象外であることです。
- 戸籍抄本
- 戸籍の附票
- コンピューター化されていない一部の戸籍・除籍
また、広域交付制度は代理人による請求や郵送請求の際には利用できません。代理人による請求や郵送請求は、これまでどおり「本籍地の市区町村役場」に請求する必要がある点に注意しましょう。
なお、広域交付制度で請求できるのは以下の人です。
兄弟姉妹は請求できません。
そのほか、市区町村によってはオンラインでの請求(スマート申請)も開始されています。スマート申請を行えば、自宅からスマートフォンで請求できます。利用方法は各市区町村のホームページに記載されているため、利用の際は本籍地の市区町村役場で確認しましょう。
なお、家族信託の手続きでは基本的に当事者それぞれの現在戸籍を取得すればよいですが、相続対策として家族信託を行う場合、相続人を特定しなければなりません。そのため現在戸籍だけではなく、「委託者の出生から現在まで」の戸籍が必要です。
出生までさかのぼる場合、「改製原戸籍」や「除籍」も取得しなければならないことを覚えておきましょう。
参照:戸籍法の一部を改正する法律について(令和6年3月1日施行)|法務省
参照:住民票の写し・戸籍証明書・税証明書のオンライン請求|荒川区
固定資産税評価証明書の取得費用:1通あたり300円
不動産を信託財産に指定した場合、固定資産税評価証明書が必要です。必要になる場面は、信託契約書の公正証書化や信託登記の登録免許税計算時です。
評価額は、毎年1月1日時点での所有者のもとに送られてくる「固定資産税納税通知書」でも確認できます。そのため、登録免許税の計算は納税通知書でも可能です。紛失してしまった場合や通数が足りないときは、評価証明書を取得しましょう。
取得方法や手数料は以下のとおりです。
取得方法 |
・その不動産が存在する地域の市区町村役場
・東京23区では都税事務所でも取得可能
・郵送請求(申請書+本人確認書類+返信用封筒+手数料分の定額小為替)
・市区町村によってはコンビニで取得可能(マイナンバーカードが必要)
・市区町村によってはオンラインで請求可能(マイナンバーカード・クレジットカードなどが必要。利用方法は各市区町村に要確認) |
手数料 |
1通300円程度
※市区町村によっては200円で取得可能+登記用であれば無料 |
評価証明書は、その不動産が存在する地域の市区町村役場で取得できます。地域によっては市町村役場以外でも取得できる場合があるため、ホームページで確認してみましょう。
また、手数料は1通300円が一般的ですが、市区町村によっては200円で取得できるところや、「登記用」であれば無料で交付してもらえることもあります。
登記事項証明書の取得費用:1通あたり480~600円
信託契約書を公正証書化する際に「登記事項証明書」が必要です。登記事項証明書とは、登記の内容が記された証明書のことです。信託契約書には登記の情報を記載する必要があるため、登記内容の確認と不動産の証明のために取得します。
取得方法や手数料は以下のとおりです。
取得方法 |
・法務局の証明書発行窓口
・オンライン(登記・供託オンライン申請システム)
・郵送 |
手数料 |
・窓口請求:1通600円
・オンライン請求・郵送受取:1通500円
・オンライン請求・窓口受取:1通480円 |
このように、取得方法によって手数料が異なります。大量に取得する場合はトータルの費用が大きく変わってくるため、お得なオンライン請求がおすすめです。
なお、法務局では平日8時〜17時15分の間でなければ取得できませんが、オンラインなら平日8時〜21時まで請求できます。
参照:登記・供託オンライン申請システム
参照:登記事項証明書等の請求にはオンラインでの手続が便利です|法務局
印鑑証明書の取得費用:1通あたり200~300円
信託契約書の公正証書化、所有権移転・信託登記の際に、委託者・受託者の印鑑証明書が必要です。
取得方法や手数料は以下のとおりです。
取得方法 |
・市区町村役場の窓口
・地区市民センター
・証明書自動交付機
・市区町村によってはコンビニで取得可能(マイナンバーカードが必要)
・市区町村によってはオンラインで請求可能(マイナンバーカード・クレジットカードなどが必要。利用方法は各市区町村に要確認) |
手数料 |
1通200〜300円程度
※市区町村によって異なる。コンビニのほうが役場より安く取得できる場合が多い。 |
市区町村役場、地区市民センター、証明書自動交付機で取得する場合、「印鑑登録証(印鑑登録カード)」または「マイナンバーカード」が必要です。コンビニで取得するときは「マイナンバーカード」がなければ取得できません。
また、コンビニ以外の方法で「印鑑登録証」を使用するのであれば、代理人でも取得可能です。その際、交付申請書に正しい住所や氏名を記入できれば委任状は不要です。
しかしマイナンバーカードは本人にしか使用できないため、本人以外の人物がマイナンバーを用いて印鑑証明書を取得することはできません。
公正証書の作成費用:最低5,000円
公正証書の作成費用に最低5,000円かかります。手数料額は、信託財産の価額によって異なります。
手数料は以下のとおりです。
信託財産の価額 |
手数料 |
100万円以下 |
5,000円 |
100万円超え200万円以下 |
7,000円 |
200万円超え500万円以下 |
1万1,000円 |
500万円超え1,000万円以下 |
1万7,000円 |
1,000万円超え3,000万円以下 |
2万3,000円 |
3,000万円超え5,000万円以下 |
2万9,000円 |
5,000万円超え1億円以下 |
4万3,000円 |
1億円超え3億円以下 |
4万3,000円+超過額5,000万円までごとに1万3,000円 |
3億円超え10億円以下 |
9万5,000円+超過額5,000万円までごとに1万1,000円 |
10億円超え |
24万9,000円+超過額5,000万円までごとに8,000円 |
参照:法律行為に関する証書作成の基本手数料|日本公証人連合会
最低額は5,000円です。信託財産の価額が高ければ高いほど手数料額も上がります。1億円を超えると計算が複雑になりますが、手数料額は打ち合わせの際に案内してもらえるため、自分で正確に計算できなくても問題ありません。
信託口口座の開設費用:金融機関による
信託口口座を開設する際にも、基本的には費用が必要です。5〜10万円かかるのが一般的です。
しかし、金融機関によっては無料で開設できるところもあるため、費用を抑えたいなら無料で開設できる金融機関を探してみるのもよいでしょう。
そのほか、最低入金額が決まっていることもあるため注意が必要です。金融機関の中には、最低入金額が1,000万円以上に設定されているところもあります。費用や最低入金額については、事前に確認しておくことをおすすめします。
登録免許税:建物は固定資産税評価額の0.4%、土地は0.3%
家族信託を始めるために必要な登記「所有権移転登記」と「信託登記」のうち、信託登記を申請する際に「登録免許税」がかかります。
登録免許税とは、登記を申請するときに法務局に納める税金です。納めるべき金額は、固定資産税評価額によって異なります。
建物:固定資産税評価額×0.4%
土地:固定資産税評価額×0.3%
たとえば評価額3,000万円の建物であれば12万円(3,000万円×0.4%)、3,000万円の土地であれば9万円(3,000万円×0.3%)です。
建物と土地とで税率が異なるのは、土地の信託登記に関しては軽減税率が適用されるためです。土地の軽減措置は、令和8年3月31日まで適用されます。
なお、固定資産税評価額は、毎年市区町村から送られてくる「納税通知書」に記載されています。そのほか、固定資産税評価証明書でも確認可能です。
家族信託の手続きを専門家に依頼した際にかかる費用
家族信託の手続きを専門家に依頼した場合、自分で手続きするときとは異なり専門家への報酬が発生します。ここでは、専門家に依頼した際にかかる費用について解説します。
- 信託財産評価の1%程度がコンサルティング費用としてかかる
- 信託契約書の作成・公正証書化の費用として10〜16万円程度かかるが、多くの場合コンサルティング費用に含まれている
- 信託登記の申請費用として10〜16万円程度かかる
コンサルティング費用:信託財産評価の1%程度
専門家に家族信託の手続きを依頼した場合、信託財産評価額の1%程度がコンサルティング費用としてかかります。
コンサルティング費用とは、専門家の報酬にあたる部分です。多くの専門家が報酬基準として採用している「一般社団法人家族信託普及協会」の報酬目安は以下のとおりです。
- 信託財産の評価額が3,000万円以下:30万円
- 3,000万円超え1億円以下:そのうち1%程度
- 1億円超え3億円以下:そのうち0.5%
たとえば評価額が1,000万円なら、上記のうち1に該当するため最低額の30万円です。5,000万円であれば50万円です。
ただし、実際の費用は依頼先ごとに異なります。事前によく確認し、複数の事務所と比較してから依頼先を決めるとよいでしょう。
信託契約書の作成・公正証書化の費用:10~16万円
専門家に信託契約書の作成と公正証書化を代行してもらう場合の費用相場は、1通あたり10〜16万円程度です。
ただし、料金設定は依頼先によって異なります。契約書の作成費用がコンサルティング費用に含まれていることも多く、契約書作成・公正証書化の費用としては請求されないこともあります。
複数の事務所を比較し、依頼する事務所を決めるとよいでしょう。
信託登記手続きの費用:10~16万円
自分で手続きするケースと同じく、信託財産に不動産があれば信託登記が必要です。信託登記を専門家に依頼した場合、依頼先や信託財産の数、金額などにもよりますが、10〜16万円程度かかります。
費用を抑えるために自分で登記申請を行う人もいます。しかし、自分で申請するとなると、必要書類の収集に時間がかかったり法務局に何度も足を運ぶ必要があったりと、なかなか困難なことが多いです。
専門家に申請を代行してもらう場合、費用はかかりますが必要書類の収集や手続きの負担を軽減できます。法務局の開庁時間は平日8時30分〜17時15分であるため、働いている人はとくに専門家を頼ったほうがスムーズに手続きできるでしょう。
家族信託の手続きに関するポイント
家族信託で後悔しないためには、いくつか押さえておくべきポイントがあります。ここで紹介するポイントを押さえて、後悔のない家族信託にしましょう。
- 契約者間で認識がずれていると家族・親族間でトラブルが起きやすくなるため、説明が難しければ専門家に入ってもらい、当事者はもちろん家族・親族からも十分な理解を得ておく
- 委託者と受託者が親子でも、受託者が委託者のために行動するとはかぎらないため、ほかの家族・親族の意見も取り入れながら慎重に選び、受託者を引き継ぐ「第2受託者」も決めておく
- 委託者と受益者を別の人に設定した場合、信託財産から受けた利益が「贈与」とみなされ贈与税が発生する可能性があるため、贈与税がかかることも考慮して受益者を選ぶ必要がある
- 信託財産以外の財産管理が不安な場合は、遺言書の作成や任意後見制度など、ほかの制度の利用も検討するのがおすすめ
家族や親族から十分な理解を得ておく
家族信託のポイントは、家族や親族から十分な理解を得ることです。また、当然ですが自分も制度を正しく理解していなければなりません。
契約者間の認識がずれていると、家族や親族間でトラブルが起きやすくなるため注意が必要です。
たとえば受託者は財産の管理義務を負い、さらに帳簿の管理や領収書の保管、貸借対照表などの書類作成を行う必要があるため、大きな負担がかかります。しかし制度を正しく理解していない家族の目には、「受託者だけ特別扱いを受けている」ように映るかもしれません。
家族信託の制度は複雑であるため、制度を完全に理解し家族に説明するのはハードルが高いでしょう。
家族信託には正しい知識が必要になるため、専門家に入ってもらったほうが賢明です。専門家から家族とともに説明を受け、家族信託の仕組みをしっかり理解してからスタートするようにしましょう。
受託者選びや引継ぎには注意を払う
受託者選びや、受託者の仕事をほかの人に引き継ぐ際には注意が必要です。「家族信託がうまくいくかは受託者次第」といっても過言ではないほど、受託者というポジションは重要であるためです。
委託者と受託者が親子でも、受託者が100%委託者のために行動するとはかぎりません。中には、委託者の財産を自分のために使ってしまうケースもあります。
ほかの家族や親族の意見も聞きながら、慎重に選ぶべきでしょう。
受託者を引き継ぐ人についても考えておく必要があります。病気やけがなどによって、受託者が財産管理を行えなくなるおそれがあるためです。
もしもの場合を想定し、受託者の地位を引き継ぐ「第2受託者」を設定しておくと、信託の終了や財産凍結などの事態を防げます。また、第2受託者としてほかの家族も関わることで、「受託者だけが特別扱いを受けている」といった誤解も生まれにくくなるでしょう。
贈与税がかかる可能性を考慮する
贈与税がかかる可能性も考慮する必要があります。委託者と受益者を別の人に設定する「他益信託」では、信託からの利益が「委託者から受益者への贈与」とみなされてしまうためです。
その結果、受けた利益によっては受益者に対して贈与税が課される可能性があります。たとえば、受益者を委託者の配偶者に設定した場合の控除額・税率は以下のとおりです。
- 控除額:基礎控除額110万円+信託財産額に応じて10〜400万円
- 税率:信託財産額に応じて10〜55%
控除額が少ないのに加えて税率も高いため、多くのケースで贈与税が発生してしまうおそれがあります。
そのため、委託者と受益者が同一人物の「自益信託」にするのが無難です。自益信託であれば、受益者が信託財産から利益を得ても贈与にはあたらないため、贈与税の課税対象にはなりません。
しかし、受益者を委託者以外の人にしたいケースもあるでしょう。その場合は専門家に相談し、アドバイスをもらうことをおすすめします。
参照:No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)|国税庁
家族信託と併せて他の手続きも検討する
信託財産以外の財産管理が不安な場合は、家族信託と並行してほかの制度も利用するのがおすすめです。
ここでは、家族信託と併せて考えたい手続きについて解説します。
- すべての相続財産をカバーしたいなら遺言書を作成する
- 信託財産以外の財産管理や身上監護について任せる人を決めたい場合は、任意後見制度を利用する
遺言書を作成する
家族信託と併せて、遺言書を作成しておくのもひとつです。家族信託契約書では信託財産の承継について決められますが、すべての相続財産をカバーできないケースも多いためです。
たとえば、委託者が所有している現金1,500万円のうち1,000万円を信託財産にしたとします。信託財産1,000万円については、委託者が亡くなったあとの引き継ぎ先を決めておけます。
しかし、有効な遺言書が存在しないケースでは、残り500万円については遺産分割協議を行い分割方法を決めなければなりません。遺産分割協議では相続人全員の合意が必要であり、相続人同士でもめることも少なくありません。
遺言書を作成しておけば、信託財産以外の相続についてもトラブル回避のための対策ができます。
なお、遺言書の作成方法には、自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言の3つの種類がありますが、おすすめなのは「公正証書遺言」です。信託契約書を公正証書で作成するときと同様に、公証役場で作成してもらえるため証明力が高く改ざんや紛失の心配もありません。
信託財産以外の財産が不安という場合は、ぜひ作成を検討してみるとよいでしょう。
任意後見制度を利用する
任意後見制度を利用するのもよいでしょう。
任意後見制度とは、本人が元気なうちに「財産管理などを行う代理権を誰に与えるか」を決めておく制度です。委託者が元気なうちにスタートする家族信託とは異なり、任意後見では本人の判断能力が落ち、後見人のサポートが必要になったときに財産管理などの代理権を与えられた「受任者」が後見事務をスタートさせます。
任意後見制度のよいところは、家族信託ではカバーできない信託財産以外の財産や、身上監護についても委任できるところです。身上監護とは、本人の生活や医療、介護に関する手続きを行うことなどをいいます。
家族信託を行っても、委託者が認知症などで判断能力が低下した場合、信託財産ではない預貯金などが凍結してしまうことがあります。家族信託ではカバーしきれない部分の財産管理などを、誰がするのか決めておくメリットは大きいでしょう。
まとめ
家族信託の手続きを自分で行う際の流れや、後悔しないためのポイントについて解説しました。
家族信託の手続きは自分で行えます。しかし契約書に不備が生じ、思っていた効果を得られないリスクや、家族にうまく説明できず、トラブルになる可能性があります。自分で手続きすることに対して不安や限界を感じたら、迷わず専門家の手を借りましょう。
「専門家に依頼すると高くつく」という印象があるかもしれません。しかし、費用相場はあるものの、料金設定は事務所によって異なります。
また、最初から最後まで任せきりにしなくても、家族への説明や契約書作成に対するアドバイスなど、「手伝ってほしいところだけ手伝ってもらう」ことが可能な場合もあります。家族信託などしなければよかったと後悔するのではなく、「家族信託を選択してよかった」と思えるような結果になるよう、柔軟に対処していきましょう。
家族信託に関するよくある質問
家族信託を行うメリットは何ですか?
家族信託を行うメリットは以下のとおりです。
- 委任者が元気なうちに信託をスタートできるため、委任者の意思を尊重した財産管理が実現しやすく、管理だけでなく運用や処分も任せられるため財産管理の自由度が高くなる
- 管理・処分の権限を共有者のひとりに集約しておくことで、不動産の共有者が認知症になったり亡くなったりしても受託者は信託を継続でき相続問題の予防につながる
財産管理の自由度が高まる
家族信託を行うメリットのひとつは、財産管理の自由度の高まることです。ただ管理するだけでなく、委託者が望むなら運用や処分も可能です。
また、元気なうちに契約を結び信託をスタートできるため、委託者の意思をできるかぎり尊重できます。たとえ認知症などによって委任者の判断能力が失われても、家族で話し合って信託契約書に記した内容は家族信託が続くかぎり継続されます。
たとえば家族信託と似た制度である「成年後見制度」では、本人に判断能力があるうちは財産管理をしてもらえません。財産の運用や処分ができないため家族信託のように自由度がなく、そもそも希望する候補者が後見人に選任されるとはかぎらないことから、本人の希望どおりに財産を管理できない可能性があります。
しかし、家族信託なら委任者に判断能力がある段階から、「財産を任せたい」と委託者が思う家族に財産を管理してもらえるため、委任者の意向を尊重しやすいのです。
相続問題の予防につながる
家族信託を行うことは、相続問題の予防につながります。
たとえば、相続問題が起こりやすいケースに「共有不動産」があります。不動産を共有で所有している場合、共有名義人全員の合意がなければ管理や修繕、売却などが行えません。そのため、共有者のうちひとりでも認知症になってしまうと、売却はおろか管理や修繕すらできない「塩漬け状態」になってしまいます。
また、共有不動産にありがちなのは、「亡くなった共有者の相続人から同意を得られないために不動産を売却できない」という問題です。代が変わるほど共有者同士のつながりが薄まり、不動産の処分は次第に困難になっていきます。
しかし、家族信託で管理・処分の権限を共有者のひとりに集約しておけば、上記のようなリスクは回避できます。
共有者が認知症になっても亡くなっても、受託者は財産管理の継続が可能です。共有不動産以外の財産に関しても、家族信託によって委託者の負担軽減につながるため、大きなメリットを感じられる方法であるといえるでしょう。
家族信託を行うデメリットは何ですか?
家族信託を行うデメリットは以下のとおりです。
- 委託者が安心して財産を託せる人がいないときや、委託者の信頼を裏切っていい加減な管理しかしない場合、ほかの家族や推定相続人とトラブルになる可能性がある
- 兄弟姉妹以外の法定相続人に保障された「遺留分」を無視して家族信託を行うと、侵害した遺留分相当の金銭を請求される「遺留分侵害額請求」の対象になるおそれがある
受託者を決める際にもめる可能性がある
受託者を決める際にもめる可能性があることは、家族信託のデメリットといえるでしょう。
家族信託で重要なことは、「委託者が安心して自分の財産を託せる人がいるかどうか」です。たとえば不動産であれば、所有権移転登記によって形式的な所有者が受託者に移ります。自分の財産が自分名義でなくなってしまうことに抵抗がある人もいるため、信頼できる家族がいるかどうかが重要なのです。
また、子どもはいてもお金にルーズでとても財産管理を任せられそうにない場合や、多忙で頼めないケースなども考えられます。委託者の信頼を裏切るようないい加減な管理しかしなかったり財産を使い込んだりといったことがあると、ほかの家族や推定相続人から不満の声が上がりトラブルになるおそれがあります。
財産を任せられる人材がいない場合は成年後見制度を検討するなど、家族信託以外の選択肢も検討する必要があるでしょう。
遺留分侵害額請求の対象になってしまうケースもある
遺留分侵害額請求の対象になってしまうケースがあることも、家族信託のデメリットのひとつです。
「遺留分」とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に最低限保障された取り分のことです。その遺留分を無視するような遺産分割が行われたときは、侵害された遺留分に相当する額を侵害した相手に対して請求できる「遺留分侵害額請求」という手続きができます。
家族信託でも、内容によっては信託財産から利益を受ける権利「信託受益権」が遺留分の侵害にあたり、遺留分侵害額請求の対象になるおそれがあります。遺留分の問題に悩まされることがないよう、以下のような遺留分対策を行う必要があるでしょう。
- はじめから遺留分を侵害しないような信託内容にしておく
- 推定相続人に納得してもらえるよう、事前に家族でよく話し合う
- 遺留分侵害額請求をされたときを想定し、生前贈与や生命保険で現金を確保しておく
おすすめなのは、遺留分に配慮した信託内容にすることです。財産すべてを信託財産にせず、必要な範囲内で家族信託を行うとよいでしょう。
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