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家族信託のメリット・デメリットは?仕組みや手続き方法、費用も紹介

家族信託のメリット・デメリットは?仕組みや手続き方法、費用も紹介

家族信託は、近年認知症対策として注目されている財産管理の制度です。財産の所有者が認知症を発症する前であれば、財産の管理や運用、処分までのすべてを信頼できる家族に任せられるのが特徴です。

家族信託を利用すれば、認知症になったとしても資産が凍結されることがなく、成年後見人制度と比べて柔軟に財産管理が行えるなど多数のメリットがあります。しかし、税務申告に関する複雑な手続きが必要になったり、身上監護権がないため医療や介護に関する手続きまでは代理でできなかったりとデメリットや注意点もあります。

また、家族信託は財産の管理者にかかる負担が非常に大きいため、専門的な知識がないなかで行うと家族や親族間でトラブルを起こす可能性も高いです。そのため、税理士や司法書士など専門家に相談するのをおすすめします。

本記事では、家族信託のメリット・デメリット、仕組みや手続き方法、費用について解説していくので、家族信託を考えている方は参考にしてみてください。

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家族信託の仕組み

家族信託は、以下2つの仕組みで成り立っています。

  • 家族が本人の代わりに財産管理を行う
  • 委託者・受託者・受益者で管理や運用を行う

ここからは、それぞれの仕組みについて詳しく見ていきましょう。

家族が本人の代わりに財産管理を行う

家族信託とは、信頼できる家族に自分の財産を託し、家族が本人の代わりに財産管理を行う制度です。信託銀行や裁判所の関与は不要で、最も身近にいる家族に財産管理を任せられるため、第三者に支払う財産の管理費や、管理を依頼する手間はかかりません。また、管理する範囲など信託内容も自由に決められる点も大きなメリットといえます。

通常は財産の所有者が認知症になると銀行口座が凍結されるため、たとえ家族であっても財産の管理はできません。そのため、入院費や医療費などで費用がかさんでも家族が負担しなければならないケースも多くあります。

家族信託なら、財産の所有者が認知症で意思能力が低下した後でも家族による財産管理・運用・処分が可能です。そのため、認知症対策としても有効であるといえます。

また、家族信託と似た制度に成年後見制度があります。成年後見制度とは、認知症や知的障害のような判断力が低く1人で法的な手続きをするのが難しい人をサポートするために後見人を建てる制度です。

成年後見人を建てるには、家庭裁判所に申立てて選任してもらう必要があるほか、毎年報酬を支払わなければなりません。そのため、家族信託に比べて費用や手間がかかるほか、財産管理でできることも限られているため、財産管理のみを行うのであれば家族信託がおすすめです。

委託者・受託者・受益者で管理や運用を行う

家族信託では、「委託者」「受託者」「受益者」の3者間で管理や運用を行います。それぞれの役割は以下の通りです。

  • 委託者:自分の財産を受託者に信託する人
  • 受託者:委託者から信託された財産の管理・運用を行う人
  • 受益者:信託財産から生じた利益を得られる人

多くの場合、委託者と受益者は同一人物ですが、受益者を委託者とは別の人物に設定するのも可能です。
たとえば、父が長男に家族信託を委託し、受益者と委託者を同一人物に設定した場合は以下のようになります。

  • 委託者:父
  • 受託者:長男
  • 受益者:父

信託した財産の名義は委託者から受託者に変わりますが、所有権そのものは委託者に帰属しているため、受託者の固有財産になるわけではありません。受託者は、信託契約で取り決めた範囲で信託財産を管理・運用し、発生した利益は受益者のものになります。

そのため、受託者と受益者が同一である場合を除き、受託者が自分の生活費や娯楽などのために勝手に信託財産を使い込むと契約違反になります。場合によっては業務上横領罪に問われるケースもあるため注意が必要です。

家族信託が注目されている背景

家族信託が注目されている背景としては、下記の2つが挙げられます。

  • 高齢化社会による認知症対策で有効と見られている
  • 財産管理がより柔軟化される

ここからは、上記の背景についてそれぞれ詳しく解説していきます。

高齢化社会による認知症対策で有効と見られている

家族信託は、認知症対策として有効な財産管理方法の1つです。現在の日本は高齢化が進んでいることもあり、認知症患者も増加傾向にあります。認知症になると、たとえ家族であっても、本人の委任なく勝手に財産を管理・運用・処分できません。

そこで、十分な判断能力があるうちに家族信託契約を結んでおくことで、万が一認知症になったとしても資産が凍結されることなく、信頼できる家族に安心して財産管理を任せられます。そのため、近年認知症対策として家族信託が注目を集めています。

財産管理がより柔軟化される

家族信託は2007年の9月から施行されており、成年後見制度よりも後から始まった制度です。成年後見制度よりも財産管理が柔軟に行えるため、近年注目されています。成年後見制度を利用すれば、認知症になって資産が凍結された後でも、成年後見人が法定代理人として財産の管理や契約を行えるようになります。

しかし、成年後見人制度は被後見人の適切な身上監護や財産保護を目的としており、財産の管理には厳しい制限が設けられているため、家族の意思だけで被後見人の財産を自由には動かせません。不動産の売却などの大きな契約では家庭裁判所の許可が必要で、基本的に許可が下りるのは以下のように正当な理由がある場合のみです。

  • 被後見人の医療費や生活費を確保するため
  • 有価証券のようにリスクが高い金融商品を解約するため
  • 被後見人が病院や介護施設に入院・入所し、帰宅する見込みや意向がないため(不動産の場合)
  • 空家になった不動産の空き巣被害を防ぐため(不動産の場合)
  • 建て替えの資金を捻出できず崩壊のリスクがあるため(不動産の場合)

このように、成年後見人制度では今まで通り柔軟に財産管理が行えないのが問題点でした。

しかし、家族信託では家庭裁判所が関与せず、本人に十分な判断能力があるうちに結んだ信託契約に基づいて家族が財産管理を行います。そのため、本人が認知症になった後でも柔軟な財産管理が可能になるほか、本人の意思に沿った財産管理ができる点もメリットです。

家族信託のメリット

家族信託を利用するメリットとしては、主に下記の7つが挙げられます。

  • 資産凍結を防げる
  • 財産管理をする人を自分で決められる
  • 二次相続以降の指定ができる
  • 共有財産でのトラブルを防げる
  • 倒産隔離機能を利用できる
  • 教育資金目的であれば1,500万円まで一括贈与できる
  • 残された家族の負担を減らせる

ここからは、上記のメリットについてそれぞれ詳しく解説していきます。

資産凍結を防げる

前述のとおり、財産の所有者に財産管理や契約などを行うための十分な判断能力がない場合、金融機関は親族による使い込みを防ぐために資産凍結を行います。資産が凍結されると、最も身近な存在である家族であっても所有者本人の銀行口座からの引き出しや振込、株式や債券の売却などが行えなくなります。

また、不動産や車、貴金属などの売却や名義変更も本人しか行えないため、家族は勝手に手続きを行えません。資産が凍結されてしまうと、介護や医療でまとまったお金が必要なときに本人の銀行口座から預金が引き出せないため、家族が金銭的に大きな負担を強いられることになります。

そこで、十分な判断能力があるうちに財産管理を家族に託しておくことで、委託者の判断能力が著しく低下した後も資産が凍結されないため、家族に金銭面で迷惑をかけずに済みます。早めに信託契約しておけば、認知症だけでなく病気・事故によって脳への後遺症が残った場合の資産凍結も防げる点も大きなメリットです。

財産管理をする人を自分で決められる

家族信託は、十分な判断能力があるうちに財産を信託できる制度なので、財産を管理してもらう人を自分で決められます。

家族信託と似た制度である成年後見制度の場合、利用できるのは認知症や脳の障害などによる判断能力の著しい低下によって適切に財産管理ができなくなった人のみです。そのため、被後見人が自分で後見人を指定することはできません。

また、被後見人の親族は申立の際に成年後見人の候補者を推薦できますが、最終的には家庭裁判所が決定するため、必ずしも推薦した候補者が選任されるとは限りません。

もし、弁護士や司法書士などの専門家が成年後見人に選任された場合、本人の判断能力が回復もしくは死亡するまで毎月報酬を支払い続ける必要があります。しかし、家族信託では自分で財産管理をしてほしい人を決められるため、見ず知らずの専門家や家族の中でも信頼できない人物に財産管理を任せたくない人は、家族信託の利用がおすすめです。

二次相続以降の指定ができる

遺言書では、一次相続(自分が亡くなった時に発生する相続)での財産の継承先しか指定できません。

しかし、家族信託なら二次相続以降の財産の継承先も指定できるため、自分の財産を子供や孫など直系家族のみに相続させたい場合や、自分と血縁関係のない家族に財産を渡したくない場合の対策として有効です。

たとえば、代々続いてきた自宅は長男が相続し、長男の死後は孫に相続させたいと考えているとします。遺言書の場合だと、「長男に自宅を相続させる」という内容であれば有効ですが、その後の「長男の死後は孫に自宅を相続させる」という内容は無効になります。

長男が死亡した後の相続先は長男しか決められないため、長男の意向によっては自分の希望が必ずしも叶うとは限りません。

しかし、家族信託の場合は長男の死後の相続先もあらかじめ指定しておけるため、長男の死後も自宅を孫に引き継いでもらえます。

ただし、家族信託している財産であっても「遺留分」が発生する点に注意が必要です。遺留分とは、遺言や家族信託の契約内容に関わらず法定相続人に必ず保証されている相続分です。法定相続人とは、法律で相続が認められている血縁者を指しており、配偶者・直系卑属(子供や孫)・直系尊属(両親や祖父母)・兄弟姉妹が該当します。

そのため、全財産を子供や孫に継承させたくても、遺留分を請求されたら必ず支払わなければなりません。なお、兄弟・姉妹には遺留分が発生しないため、実際に請求できるのは被相続人の配偶者・子供や孫などの「直系卑属」・両親や祖父母などの「直系尊属」のみです。

たとえば被相続人が前妻との子を連れて再婚し、家族信託で全財産を子供や孫にのみ継承させる契約をしていた場合、後妻に遺留分を請求されたら支払う義務が生まれます。

そのため、遺留分請求により孫の代まで財産を継承できない可能性がある点に注意が必要です。

共有財産でのトラブルを防げる

不動産などの共有財産の売却や賃貸、大規模な工事などを行うには、原則共有者全員の同意が必要になります。そのため共有者の中に反対する人が1人でもいたり、認知症や障害などによって判断能力が低下した人がいたりと、共有者全員の同意が得られない場合は手続きを進められません。

しかし、家族信託で共有財産を信託財産として設定すれば、受託者が単独で手続きを進められるようになります。なぜなら、信託された共有財産の管理・運用・処分に関する権限は全て受託者が持っているためです。

たとえば、祖父母・父母・長女・次女が共有財産として不動産を所有しているとします。長女1人を受託者として設定し、残り全員を委託者兼受益者とすれば、長女以外の誰かが同意しないまたはできなくなったとしても、長女が単独で手続きを進められます。

そのため、共有者全員からの同意が得られなかったとしても、家族信託を利用すれば売却や賃貸、大規模な工事が行えないといったトラブルを未然に防げる点が大きなメリットです。

また、受託者が管理・運用する共有財産から発生した利益は、信託契約に基づいて他の共有者にも分配されるため、共有者全員の利益も守ることにもつながります。

倒産隔離機能を利用できる

家族信託を利用すれば、「倒産隔離機能」によって委託者や受託者が破産した場合でも信託財産が差し押さえられる心配はありません。倒産隔離機能とは、委託者や受託者の固有財産と、信託契約における信託財産は別物として取り扱われることを指します。

信託財産は委託者ではなく受託者の名義になるため、委託者が破産したとしても差し押さえの対象となるのは委託者の固有財産のみで、信託財産は差し押さえの対象外になります。また、信託財産は受託者の債権者による強制執行が禁止されているため、受託者が破産した場合でも信託財産が差し押さえられる心配はありません。

しかし、倒産隔離機能の悪用は禁止されています。破産する直前で家族信託を利用しても、信託契約を取り消される可能性があるため注意が必要です。

また、受益者が破産した場合は、信託財産が差し押さえられる可能性があります。受益者は信託財産から生じた利益を受けられる「信託受益権」という権利を持っています。

この信託受益権は、破産すると破産財団に組み入れられ、他の債権と同様に債権者に分配されるため、受益者の債権者による強制執行から信託財産を守ることはできません。

教育資金目的であれば1,500万円まで一括贈与できる

生前贈与は1年間に受け取った贈与額が110万円を超えると贈与税が発生しますが、30歳未満の孫の教育資金を目的とした贈与であれば、1,500万円まで非課税で一括贈与が可能です。

この特例は2013年(平成25年)4月1日から始まった制度で、2026年(令和8年)3月31日までに贈与された教育資金が対象となっています。

多くの信託銀行ではこの特例を利用した金融商品を取り扱っていますが、信託銀行に依頼した場合は手数料が必要で、孫が贈与されたお金を使うには金融庁に登録しなければならないデメリットがあります。

しかし、家族信託であれば手数料は一切かからず、金融庁への登録も不要なので孫は自分の好きなタイミングで贈与されたお金を使える点も大きなメリットです。

残された家族の負担を減らせる

自分の財産の管理や運用を家族に信託しておけば、万が一のときに残された家族の負担を減らせるメリットがあります。

銀行口座の名義人が亡くなると、金融機関は名義人の死亡を知った時点で銀行口座の凍結を行います。銀行口座が凍結されると、たとえ配偶者や子供であっても預金の引き出しはできなくなります。

そのため、残された家族が入院費や介護費、葬儀費用などの支払いで苦労してしまうケースも少なくありません。もちろん、口座凍結は必要な手続きを行えば解除できますが、名義人が死亡した場合は、相続人全員の同意を得たうえで以下の書類をそろえる必要があります。

  • 遺産分割協議書
  • 故人の戸籍謄本
  • 住民票の除票
  • 相続人全員分の戸籍謄本
  • 印鑑証明書

認知症や障害などで口座凍結された場合は、成年後見制度を利用するしかありません。しかし、自分の財産を配偶者や子供に託しておけば、自分が死亡した場合や判断能力が低下した場合でも口座が凍結されることなく、受託者が自由にお金を引き出せます。

また、家族信託では遺言書と同様に、あらかじめ財産の承継者を指定しておけます。受益者は遺産分割協議を行わずに信託財産を受け取れるため、信託財産の相続トラブルを回避できるのも大きなメリットです。

家族信託のデメリット

家族信託には、受託者や二次相続以降の財産の継承者を指定できる、資産凍結を防止できるなど多数のメリットがありますが、その一方でデメリットもいくつかあります。

  • 身上監護権がない
  • 受託者の選定が難航する可能性がある
  • 税務申告が必要な場合もある
  • 損益通算ができなくなってしまう
  • 節税対策にはならない
  • 家族信託に精通する専門家が少ない

ここからは、上記のデメリットについてそれぞれ詳しく解説していきます。

身上監護権がない

身上監護権とは、医療や介護、福祉などに関する契約を本人の代わりに行える権利のことです。家族信託は主に財産管理を行うための制度であるため、受託者に身上監護権を与えられません。

そのため、委託者が認知症や障がいなどの理由で法的な契約ができなくなったとしても、受託者は委託者の代理人として契約を行うのは不可能です。

身上監護権を取得するためには、成年後見制度を利用する必要があり、委託者の成年後見人になれば委託者の代わりに契約を行えるようになります。

ただし、成年後見人は財産管理を行うのに制限があり、家族信託のように自由に行えません。管理する財産を運用したり処分したりできないため、財産管理と身上のケアを同時に行う場合は、家族信託と成年後見人を併用するのがおすすめです。

受託者の選定が難航する可能性がある

受託者は委託者の財産を預かって管理するため、信託財産の管理責任が生じます。

もし、財産の管理が不十分で信託財産に損害が生じたり、信託財産が原因で第三者に損害を与えたりした場合は、その損害を賠償する責任が生じる点に注意が必要です。

たとえば、信託された不動産の老朽化が進んで崩れたことが原因で他人にケガをさせてしまったとします。

もし、委託者や受託者に過失があると認められた場合は、委託者と一緒にケガの治療費や慰謝料を支払う義務が生じます。その費用は信託財産から捻出できますが、それだけだと足りない場合は受託者固有の財産からも支出を求められる可能性があります。

また、受託者は受益者・税務署へ提出する報告書類の作成・提出や納税の義務も生じるため、書類作成や税務申告の手間もかかります。このように、受託者には重大な責任や手間が生じることになりますが、家族信託では受託者に対して報酬を支払う義務はないので、基本的には無償で行われるケースが多いです。

そのため、家族全員が負担を嫌がって、受託者を引き受けてくれる人が見つからないということも十分あり得ます。

もし、受託者が見つからない場合は、受託者の負担が少なくなるように信託契約の内容を再検討してみましょう。1人に重責を任せるのではなく、信託監督人などのサポートができる人物を選任したり信託する財産の範囲を狭めたりなど、受託者の希望とすり合わせを行うのがおすすめです。

それでも血縁者が引き受けてくれない場合は、血縁者以外で依頼できる人を探しましょう。家族信託は血縁者でなくても、信頼できる人物であれば依頼できます。友人や知人に依頼するか、銀行や企業が提供する信託サービスを利用しましょう。

ただし、信託サービスは血縁者に委託するのとは異なり、委託費用がかかります。また、信託できる財産は金銭のみに限られているため、不動産など金銭以外の財産は信託できません。そのため、信託サービスを利用する前に家族信託に精通している司法書士や弁護士などの専門家に相談するのがおすすめです。

なお、弁護士や司法書士などの士業は、家族信託の受託者にはなれないと法律で定められています。ただし、受託者のサポート役である「信託監督人」であれば依頼可能です。不動産など金銭以外の財産を信託したいが身近な人物で受託者が見つからない場合、専門家に信託監督人を依頼して受託者の負担を減らすやり方がおすすめです。

税務申告が必要な場合もある

1年間に信託財産にかかる収益が3万円以上(計算期間が1年未満の場合は1万5千円以上)の場合、受託者は翌年の1月31日まで「信託計算書」と「信託計算書合計表」を受託者の住所地を管轄する税務署に提出しなければなりません。信託計算書信託計算書合計表は、国税庁や税務署の公式ホームページからダウンロードできます。

また、アパートや駐車場などの信託不動産から所得が生じた場合、その不動産所得を有する個人の受益者は、確定申告の際に信託不動産の所得に関する明細書を確定申告書に添付して提出しなければなりません。

受益者が複数の信託契約を結んでいる場合や、信託不動産と個人所有の不動産を両方持っている場合は、信託契約ごと・所有形態ごとに明細書を作成・提出する必要があります。このように、家族信託では信託した財産や収益によっては、受託者や受益者に税務報告の義務が生じるため、家族に負担がかかってしまう場合もあります。

税務報告の負担を減らしたい場合は、税理士に依頼するのがおすすめです。費用はかかってしまいますが、必要書類の作成から申告まですべて任せられるため、受託者や受益者の負担を減らせます。

税理士に依頼する場合の費用は基本報酬に加えて、信託財産に応じた報酬が加算されます。基本報酬の相場は10万円以内であることが多いです。加算報酬の相場は、信託財産の0.1~1%であることが多く、20~40万円が相場となっています。信託財産が多い場合はさらに高額になる可能性がありますが、節税のアドバイスを受けられます。結果的に税金が安くなる可能性が高くなるため、一度税理士に相談してみるのもおすすめです。

損益通算ができなくなってしまう

家族信託を利用すると、損失が発生した財産の損益通算ができなくなります。損益通算とは、同一年度内で発生した損失と利益を相殺できる制度のことです。

事業や株式投資、不動産投資などで損失を出してしまった場合、他の所得区分の利益から損失を差し引くことにより、納めるべき税金の額が減少します。損益通算をしても損失が残った場合は最長3年間損失を繰り越せるので、翌年以降の利益から損失分の控除が可能です。

しかし、信託財産から発生した損失については計算上無かったものとして取り扱われます。信託した株式や不動産などから損失が発生したとしても、委託者が所有権を持つ財産から発生した利益や所得との相殺はできず、損失が残った場合も繰り越しは行えません。

たとえば、家族信託された不動産から200万円の損失が出て、委託者が所有する家族信託していない不動産では300万円の収入が発生したとします。

不動産から出た損失額を家族信託していなければ、損益通算で相殺できるため100万円分しか税金はかかりません。しかし、家族信託していた場合は200万円の損失を計上できないため、収入の300万円分すべてに税金がかかります。

このように家族信託の利用により、損益通算による節税効果が得られなくなる可能性があるので注意が必要です。

ただし、信託財産から発生した利益を、委託者が所有権を持つ財産から発生した損失と損益通算することなら可能です。

  • 信託財産が赤字、委託者が所有権を持つ財産が黒字:損益計算不可
  • 信託財産が黒字、委託者が所有権を持つ財産が赤字:損益計算可能

節税対策にはならない

家族信託を組めば、相続税や贈与税の節税対策になると誤解している方も多いですが、家族信託を組んだだけでは節税対策にはなりません。財産を受託者に信託しても、相続税や贈与税の基礎控除額が増えたり、財産の価値が下がったりするわけではないためです。

たとえば、家族信託を組むと受益者が亡くなったときに相続が発生しますが、通常通り3,000万円+(600万円×法定相続人の人数)を超えた部分に相続税が課されるので、特別大きな節税効果が得られるわけではありません。

最近では、家族信託をすれば節税対策ができることを謳うセミナーが開催されているケースもあるため、正しい情報であるか見極められるよう注意が必要です。

家族信託に精通する専門家が少ない

家族信託は2007年(平成19年)の信託法改正によって始まった比較的新しい制度なので、家族信託に関する専門的な知識を持つ専門家が少ないのが現状です。

弁護士や司法書士、税理士などの専門家に相談したからといって、必ずしも適切なアドバイスがもらえるとは限りません。家族信託について相談・依頼する際は、ホームページをしっかりとチェックして家族信託に精通した専門家に相談・依頼しましょう。

家族信託の手続き方法

家族信託の手続きは、下記の流れで行います。

  1. 家族信託について家族間で話し合う
  2. 話し合いで決めた内容を契約書に盛り込む
  3. 不動産の名義を変更する
  4. 信託用の口座を開設する
  5. 家族信託の管理・運用をスタートする

ここからは、上記の手順についてそれぞれ詳しく解説していきます。

1. 家族信託について家族間で話し合う

家族信託の手続きを進めるうえで、まずやらなければならないのが家族間での話し合いです。

家族間での話し合いをおろそかにすると、契約後に家族間でトラブルが生じる可能性があるため、家族信託を利用する目的や信託する財産の種類や金額など、以下の事項について時間をかけてじっくりと話し合いを行いましょう。

  • 家族信託を利用する目的(認知症対策・相続対策など)
  • 受託者・受益者の選任
  • 委託者が保有する財産の種類や金額
  • 信託する財産の種類や金額
  • 信託財産の管理方法
  • 委託者・受託者・受益者が死亡した後の対応・引き継ぎ方法
  • 信託契約終了後の財産の帰属権利者

また、家族信託の話し合いは委託者や受託者、受益者の当事者だけでなく、当事者以外の家族や将来相続人になる可能性がある親族も交えて進めることをおすすめします。

他の親族からの意見を聞かずに話し合いを進めてしまうと、特定の人が財産の管理権を持つことに不信感を覚える人が出たり、相続時にトラブルが発生したりする恐れがあるので、家族・親族が納得した上で信託契約を進めましょう。

2. 話し合いで決めた内容を契約書に盛り込む

家族間での話し合いが終わったら、次は話し合いで取り決めた内容に基づいて「信託契約書」を作成します。

家族信託は口約束だけでも契約が成立しますが、後に「言った」「言わない」の水掛け論になり、トラブルに発展する恐れがあるので、必ず信託契約書を作成し信託内容を書面に残しておいてください。

信託契約書は、誰が読んでも解釈が分かれることがないよう、具体的な表現を用いて正確に記載しましょう。もし、疑問に思ったことや不安なことがあれば、家族信託に精通した法律の専門家に相談してください。信託契約書の作成が終わったら、公証役場に持参して公正証書にします。

公正証書とは、公務員である公証人が作成する公文書のことです。公正証書は公的機関が作成する書類ということもあり、私文書と比べると証拠能力や証明力が高いため、後に契約内容に関するトラブルに発展した場合の有効な証拠として使えます。

また、原本は公証役場で保管してもらえるので偽造される心配もないほか、万が一紛失したとしても再発行が可能です。なお、公正証書は公証人に作成を依頼するので、公証役場に支払う作成費用がかかる点に注意が必要です。

3. 不動産の名義を変更する

不動産を信託財産にする場合は、法務局で不動産の信託登記手続きを行い、不動産の名義を受託者に変更する必要があります。信託登記手続きで必要な書類は下記の通りです。

  • 登記申請書
  • 不動産の権利書(または登記識別情報)
  • 登記原因証明情報
  • 信託目録に記載する情報
  • 固定資産評価証明書(または固定資産税課税明細書)
  • 委託者の印鑑証明書(発行から3ヶ月以内)
  • 受託者の住民票
  • 委託者と受託者の本人確認書類(運転免許証や保険証など)
  • 委任状(司法書士に登記を依頼する場合のみ)

登記の手続きは誰でも行えますが、専門的な知識がないと難しいので登記のプロである司法書士に依頼するのをおすすめします。登記代行の費用は依頼する司法書士や信託不動産の評価額によって異なりますが、5〜10万円程度が相場です。

4. 信託用の口座を開設する

信託財産の中に現金や預金が含まれている場合は、銀行で家族信託をした金銭を管理するための専用の銀行口座を開設する必要があります。

受託者は、委託者から信託された財産と受託者の固有の財産を分別して管理する義務があるので、受託者が普段使用している銀行口座では管理できません。信託用の口座を開設できる銀行は限られているため、事前に銀行の公式ホームページで開設できるか調査しておきましょう。

5. 家族信託の管理・運用をスタートする

家族信託の手続きが完了したら、受託者は契約内容に従って信託財産の管理・運用をスタートさせます。受託者は自分の固有財産と信託された財産を区別して管理し、受益者のために公平に信託業務を遂行する義務が生じます。

また、受益者や税務署に提出するための信託財産に関する書類の作成や報告の義務もあるため、日々の支出・収入の記録は正確に記録し、領収書・契約書などの証明書類も大切に保管しておかなければなりません。

家族信託にかかる費用相場

家族信託では、信託契約書の作成や不動産の登記、信託口座の開設などの初期費用がかかるため、初期費用を支払えるだけの金銭を用意しておく必要があります。基本的に、家族信託で必要になる費用や相場は以下の通りです。

  • 公正証書作成にかかる費用相場は3~10万円程度
  • 公正証書作成代行費用相場は10~15万円程度
  • コンサルティングの費用相場は信託財産の1%程度
  • 不動産の登記費用相場は固定資産税評価額の0.3~0.4%程度

ここからは、それぞれの初期費用の相場について解説詳しく見ていきましょう。

公正証書作成にかかる費用相場は3~10万円程度

公正証書として信託契約書を作成する場合は、公証役場に作成費用を支払う必要があります。公正証書作成にかかる費用相場は3~10万円程度ですが、作成費用は公正証書で保証する信託財産額によって以下のように異なります。

慰謝料や財産分与、養育費などの金額 手数料の金額
100万円以下 5,000円
100万円以上200万円以下 7,000円
200万円以上500万円以下 11,000円
500万円以上1,000万円以上 17,000円
1,000万円以上3,000万円以下 23,000円
3,000万円以上5,000万円以下 29,000円
5,000万円以上1億円以下 43,000円
1億円超3億円以下 43,000円に超過額5,000万円ごとに13,000円を加算した額
3億円超10億円以下 95,000円に超過額5,000万円ごとに11,000円を加算した額
10億円超 249,000円に超過額5,000万円ごとに8,000円を加算した額

公正証書作成代行費用相場は10~15万円程度

公正証書にする信託契約書の作成は、弁護士や司法書士などの専門家に代行してもらえます。公正証書の作成代行費用の相場は、10~15万円程度が一般的です。専門家に作成を依頼すれば、作成当日に公証役場に行くだけで公正証書化の手続きが完了するので負担を軽くできます。

コンサルティングの費用相場は信託財産の1%程度

弁護士や司法書士などの専門家に家族信託の内容を設計してもらう場合は、コンサルティング費用が発生します。コンサルティング費用は依頼先の専門家によって異なりますが、信託財産の1%が相場です。

不動産の登記費用相場は固定資産税評価額の0.3~0.4%程度

信託不動産を法務局で登記する場合は、登録免許税を納付しなければなりません。登録免許税は、固定資産税評価額を基準にして下記のように求めます。

  • 土地:土地の固定資産税評価額×0.3%
  • 建物:建物の固定資産税評価額×0.4%

土地の登録免許税の本来の税率は0.4%ですが、2026年(令和8年)3月31日までは0.3%の軽減税率が適用されます。

なお、信託不動産の登記を司法書士に依頼する場合は、登録免許税に加えて登記代行費用がかかります。登記代行の費用は依頼先の専門家や信託不動産の評価額によって異なりますが、10万円程度が相場です。

家族信託で後悔しないために!失敗例を紹介

認知症対策や相続対策として有効な家族信託ですが、家族信託についてよく理解せずに利用すると、思わぬトラブルに発展する恐れがあります。家族信託で後悔・失敗する例としては、下記の5つがあります。

  • 「まだ元気だから」と後回しにしてしまった
  • 節税になると思ったら税金を課せられた
  • 契約書を自分で作成して失敗した
  • 受益権相続に失敗して契約終了になった
  • 遺留分侵害額請求でトラブルになった

ここからは、上記の失敗例を1つひとつご紹介していきます。

「まだ元気だから」と後回しにしてしまった

「まだ元気だから」と家族信託の契約を後回しにしてしまうと、認知症が進んでしまったり、突然の病気や事故で脳に後遺症が残ったりして、家族信託自体が利用できなくなってしまう恐れがあります。家族信託は成年後見制度とは違い、本人に十分な判断能力がなければ契約できません。

認知症が進行している場合や重度の脳の後遺症が残った場合は、判断能力が正常になるまで回復することは見込めないので、家族信託の契約は不可能です。

また、最初は軽度の認知症であったとしても、家族信託の手続きには3~6ヶ月程度かかるため、手続きを進めていくうちに認知症が進行して契約できなくなるケースもあります。そのため、認知症対策として家族信託を利用するなら元気なうちに行動することが大切です。

節税になると思ったら税金を課せられた

節税対策として家族信託を契約したら、逆に高額の税金が課されてしまったという失敗例も多数あります。

そもそも家族信託は節税対策のための制度ではないため、家族信託を利用しても直接的な節税効果は得られません。家族信託では、下記のタイミングで相続税や贈与税が発生します。

  • 相続:受益者が亡くなると相続が発生し、新たに受益権を得た者に対して相続税が課される
  • 贈与:委託者と受益者が異なる場合はみなし贈与とみなされるため、受益者に対して贈与税が課される

家族信託を契約したからといって、相続税や贈与税の基礎控除額が増えるわけではないため、家族信託の有無によって納税額が左右されることはありません。

受益権を移動させたことで高額な贈与税が発生したり、信託財産の不動産収入が増えた結果、多額の相続税が発生したりするケースがあるので注意が必要です。

また、信託財産は損益通算が行えないため、信託財産が赤字になった場合でも節税効果が得られないデメリットもあります。

節税を目的とするのであれば、1年間の贈与税の非課税枠や、教育資金・結婚・子育て資金などを贈与する際に使える非課税制度などを活用して贈与しつつ、相続財産を減らす方法が有効です。

契約書を自分で作成して失敗した

家族信託を契約する際には、信託内容が記載された契約書を作成する必要があります。

契約書は特別な資格がなくても作成できますが、自分で契約書を作成すると内容に不備があって法的に無効となってしまい、「不動産が売却できない」「信託口座を開設できない」などのトラブルが生じる可能性が高いです。

契約書の作成は、弁護士や司法書士など家族信託について熟知している法律の専門家に相談・依頼するのをおすすめします。

受益権相続に失敗して契約終了になった

家族信託では、二次相続以降の受益権の継承先も指定できますが、受益権は一定の条件に当てはまると消滅することが信託法で定められています。

  • 1年ルール(受託者と受益者が同じ状態):受託者がすべての受益権を持っている状態が1年続くと、強制的に信託契約が終了するルール
  • 1年ルール(新しい受託者がいない状態):受託者の死亡などによって、新しい受託者がいない状態が1年続くと、強制的に信託契約が終了するルール
  • 30年ルール:信託契約から30年経過した後は、受益権の継承は1度しか認められないルール

上記のルールを知らずに家族信託を契約すると、意図せず契約が終了してしまい、受益権の相続に失敗してしまう恐れがあります。

そのため、契約時に第二受託者を指定しておいたり、受託者と受益者が同一の場合は1年経過する前に受託者を変更したりなど、上記のルールを回避するための工夫が必要です。

遺留分侵害額請求でトラブルになった

家族信託の利用によって、遺留分侵害請求でトラブルに発展するケースもあります。

遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に認められた、最低限の遺産をもらえる権利のことで、遺言書や家族信託契約があっても侵害できないのが特徴です。

法定相続人とは、法律で相続が認められている血族のことです。法定相続人には下記のように優先順位が付けられています。

  • 配偶者:常に相続人
  • 第一位:子供
  • 第二位:両親や祖父母
  • 第三位:兄弟・姉妹

なお、遺留分は法定相続人の順位に基づいて請求できるか決まります。たとえば、配偶者は常に相続人であるため、健在する限り必ず遺留分が発生します。両親と子供の場合も、子供の方が相続人としての優先順位は高いため、子供が健在の場合は両親に遺留分は発生しません。

遺留分が発生する場合のそれぞれの割合は以下の通りです。

相続人 遺留分
配偶者のみ 2分の1
子供のみ 2分の1
両親のみ 両親合わせて3分の1
配偶者と子供 配偶者:4分の1
子供:全員合わせて4分の1
配偶者と両親 配偶者:3分の1
両親:合わせて6分の1

遺留分に相当する財産を相続できなかった場合、その法定相続人は相続で特別な利益を得た者に対して遺留分侵害請求を行えます。遺留分侵害請求が行われた場合、受益者は遺留分に相当する金銭を支払う必要があります。

また、受益者が死亡した時の信託財産も相続財産と同様に扱われるため、受益権相続により遺留分を侵害していた場合は請求の対象になります。後の不要なトラブルを回避するためにも、家族信託を利用する場合は他の相続人にも相続させる内容の遺言書を残しておくと良いでしょう。

家族信託で失敗しないための注意点

家族信託で失敗しないための注意点としては、下記の3つが挙げられます。

  • 家族信託の他にも制度を活用する
  • 初期費用に備えておく
  • 信託できない財産も存在する

ここからは、上記の注意点についてそれぞれ詳しく解説していきます。

家族信託の他にも制度を活用する

認知症対策や相続対策として有効な家族信託ですが、それだけでは不十分なので他の制度も活用しましょう。

家族信託を契約すれば、認知症になった後も資産が凍結されず、家族が代わりに財産の管理を行えます。しかし、身上監護権は与えられないため、医療や介護に関する契約を家族が代理することはできません。

また、家族信託で財産の継承先を指定できるのは信託財産のみで、信託していない固有財産は対象外です。そのため、家族信託に加えて遺言書や任意後見制度も準備しておけば、家族信託だけだと対応できない部分も対応できるようになります。

任意後見制度とは成年後見制度の一種で、まだ判断力が十分残っているうちであれば自分で後見人を指定できる制度のことです。成年後見制度には「法定後見制度」「任意後見制度」の2種類があり、それぞれ以下のような違いがあります。

任意後見制度 法定後見制度
違い 本人の判断力が残っているうちに利用 本人の判断力がなくなってから利用
後見人を選定する方法 事前に本人が選定 家庭裁判所が選定
本人の同意 必要 不要
後見人の職務が始動するタイミング 本人の判断力が低下し、後見監督人が裁判所で選任されたとき 家庭裁判所が後見人の選任を行い、後見開始が認められたとき

任意後見人と法定後見人の大きな違いは、後見人を本人が指定できるか否かです。家族信託のように判断力があるうちに決めておく必要はありますが、本人の希望通りに財産を運用したい場合におすすめです。

また、家族信託と任意後見制度は本人が財産を管理する人を決められる点は似ていますが、それぞれ以下のメリットやデメリットがあります。

家族信託 任意後見制度
メリット ・財産管理を自由に行える
・信託開始日や終了条件などを自由に決められる
・身上監護ができる
・法的な契約などの際に代理人として手続きできる
デメリット ・身上監護はできない
・法的な契約などの際に代理人として手続きはできない
・本人が亡くなった時点で信託契約が終了する
・財産管理の権限が弱く、財産を理由なく処分したり運用したりする権利は認められていない

家族信託と任意信託は、それぞれメリットとデメリットを補いあえる関係にあるため、併用すればより認知症対策として有効になるでしょう。さらに、代理人カードも準備しておけば、突然事故や病気で倒れたとしても家族がスムーズに財産の出金を行えます。

代理人カードとは、銀行などの金融機関が発行するカードで、口座の名義人が申請すれば発行できます。代理人カードがあればATMでの入出金や振込ができるため、家族信託や任意後見制度を利用していない段階で倒れてしまっても安心です。

また、生前贈与や銀行による信託サービスを利用しておくと、相続の際の節税対策になったり相続財産をスムーズに引き出しやすくなったりします。信託サービスを行っている銀行は限られているので、事前に確認しておくのがおすすめです。

初期費用に備えておく

家族信託は、成年後見制度と比べると初期費用が高額なので、ある程度の金銭を用意しておく必要があります。家族信託の初期費用は、最低でも30~50万円程度かかり、依頼する専門家や信託財産の評価額によっては、50~100万円程度かかる場合もあります。

ですが、家族信託では成年後見人制度とは違い、受託者への報酬などのランニングコストは基本的にかかりません。初期費用だけでみると家族信託の方が負担は大きいですが、財産管理が長期にわたれば成年後見制度よりも家族信託を利用した方が総費用は安く済みます。

信託できない財産も存在する

家族信託を利用する際は、信託できない財産が存在する点に注意が必要です。

家族信託では、現金や株式・債券などの有価証券、不動産、自動車、貴金属、知的財産権など財産的価値があって、かつ委託者から受託者へ譲渡可能な財産・権利であれば基本的に信託できます。

一方、財産的価値に置き換えられない財産や法的に信託できない財産・権利は信託財産にできません。信託できない財産の具体例としては下記の通りです。

財産的価値に置き換えられない財産 法的に信託できない財産・権利
・生命や名誉などの人格権
・借金や保証債務などのマイナス財産
・農地
・銀行口座(預金債権)
・年金受給権や生活保護受給権などの一身専属権

信託できる財産がなければ家族信託を契約しても意味がないため、委託者の財産が信託できる財産かどうかチェックしておきましょう。

家族信託が向いている場合と不要な場合を把握する

前述のとおり、家族信託は受託者に大きな負担がかかるため、現状は家族信託が向いているのか、不要なのかを実際に信託契約を締結する前に把握しておくのがおすすめです。以下のような場合は、家族信託が向いているといえます。

家族信託が向いている場合

  • 親が認知症になるまでに財産の管理ができるようにしたい
  • 障がいのある子供に財産を残したい
  • 成年後見制度より費用を抑えたい

何も備えをせずに親が認知症を発症してしまった場合、財産管理どころか銀行口座が凍結されたり不動産の売却手続きができなったりするなど、本人の財産は一切動かせなくなります。すでに親が高齢だったり遺伝的に認知症を発症しやすい家系だったりする場合は、早めに家族信託で対策しておくのがおすすめです。

また障がいがある子供の場合、親が亡くなった後も生活に困らないように財産を残しておきたい場合にも家族信託制度を活用できます。通常の遺言で財産を相続させた場合、財産管理は子供が自分で行わなければなりません。障がいがあり自分で管理できない子供の場合は、成年後見人を建てることになりますが、前述のとおり成年後見人は財産管理において制限があります。

家族信託なら、親戚に受託者となってもらい子供のを受益者と設定すれば、親戚に財産管理をしてもらいながら生活できるため、親が亡くなった後も安心です。また、家族信託は成年後見制度のように受託者に報酬を支払う義務がないため、なるべく費用を抑えて財産管理を任せたい場合にも向いています。

家族信託が不要な場合

つづいて、家族信託が不要な場合には以下のケースが挙げられます。

  • 凍結して困るほどの財産がない
  • まだ若く認知症発症のリスクが極めて低い
  • 親族間で話し合いをしたくない
  • 親族に財産を任せたくない
  • すでに財産を贈与している

家族信託は認知症による資産凍結を防ぎ、家族が医療費や介護費の捻出に困らないようにするのが大きな目的です。そのため、凍結されても困るほどの財産がなかったり、財産の所有者が若く認知症の発症リスクが低かったりする場合は必要ないでしょう。すでに財産を贈与している場合も同様に、認知症を発症したところで凍結される財産はないため家族信託の必要はありません。

また、家族信託では親族間の仲が悪く、話し合いをしたくなかったり財産管理を任せたくなかったりする場合も家族信託は不要です。ただし、家族や親族でなくても信用できる人物であれば家族信託の受託者に選任できます。そのため、前述の子供に障がいがあるなど親族に財産管理は任せたくないが家族信託は利用したい場合、信頼できる第3者や銀行や企業が提供する信託サービスを利用するのをおすすめします。

まとめ

家族信託を利用すれば、自分で財産管理する人を決められるため、認知症になった後でも安心して信頼できる家族に財産管理を任せられます。しかし、受託者に大きな負担がかかることや身上監護権がないこと、認知症になった後では契約できないなどのデメリットもあるので注意が必要です。

家族信託の契約は自分でも行えますが、専門的な知識がないと契約内容が法的に無効になったり、家族や親族間でトラブルが生じたりする恐れがあります。そのため、家族信託の利用を検討している方は、家族信託に精通した弁護士や司法書士などの専門家にご相談するのをおすすめします。

家族信託に関するよくある質問

家族信託と成年後見制度はどちらが良いですか?

結論からいうと、家族信託と成年後見制度はどちらも併用するのがおすすめです。理由として、家族信託と成年後見制度にはそれぞれの制度でしかできないことがあり、お互いのデメリットを補い合える関係にあるためです。

家族信託でしかできないこと 成年後見制度でしかできないこと
・運用や処分を含めた自由な財産管理
・信託開始日や終了条件などを自由に決める
・身上監護
・法的な契約などの際に代理人として手続きを行う

財産のみを管理する場合は家族信託のみでも十分ですが、委託者の入院や介護が必要になった場合は成年後見制度も利用できなければ不便です。そのため、可能であれば家族信託と成年後見制度は併用するのを推奨します。

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更新日 : 2024年11月15日
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