相続手続きをしないと多くのリスクがある
家族が死亡すると、複数の異なる手続きが、同時に発生します。
精神的に辛い状況のなかで、慣れない手続きを並行して進めるのは大変です。しかし相続手続きを怠ると、その後、様々なリスクがつきまといます。
ここでは、相続手続きをしないことのリスクをまとめました。
- 死亡した人の負債を返済しなければならない
- 相続税申告を怠り延滞税が発生する
- 株主としての権利を引き継げなくなる
- 遺留分侵害額請求権や相続回復請求権を失う
- 相続登記が複雑になる
リスク1:相続する負債の返済義務を負う
相続手続き放置のリスクの一つとして、負債の存在があります。
相続すると、プラスの財産のみならず、負債(例:借金)も引き継ぐことになるからです。
相続と聞くと、財産が手に入るイメージを持つ人が多いかもしれません。しかし、死亡した方に借金があった場合は、相続を放棄しないと、借金も同時に引き継ぐ結果になるのです。
たとえば父親に借金があった場合、父の死亡からしばらく経ったあとに、借金催促の手紙や連絡を受けることになるかもしれません。
借金の催促があったとしても、相続放棄すれば、親の借金を背負う必要はありません。しかし、相続放棄手続きには3か月の期限があります(詳細は後述)。
借金催促の時点で相続放棄の期限が過ぎていた場合、最悪、借金の支払い義務を負うこととなるでしょう。
そのような事態を避けるためにも相続財産調査は怠らないほうがよいです。
相続財産調査とは、どの程度の財産があるか、負債はいくらあるか等を調べ、死亡した人の財産状況を整理する作業です。相続財産調査を終わらせると、相続放棄すべきか否かの判断が容易になります。
時間的・精神的に余裕がない場合は、負債の調査だけでも進めましょう。
なお相続人が複数人いる場合は、原則、法定相続分に応じて負債を負担します。
また負債は借金のみならず、支払い義務があるものと考えてよいです。
負債の具体例は、以下の通りです。
- 借金(カードローン等)
- クレジットカード利用の未払い分
- 携帯電話代金の未払い分
- 未払い賃料
- 税金・健康保険料等の滞納分
リスク2:延滞税が発生する可能性がある
相続税申告の手続きを怠ると、延滞税が課される可能性があります。
納税を無視すると、財産を差し押さえられてしまう可能性があるので、相続税の手続きは、期限内にすませるようにしましょう。
相続税の手続きは、申告、納税ともに「死亡の翌日から10か月以内」が期限となっています。
なお、相続税の申告は遺産の総額から基礎控除分を引いて、プラスになる場合のみ、必要です。
基礎控除の金額は、法定相続人の数によって異なり、
3,000万円 + (600万円 × 法定相続相続人数)
で、計算できます。
なお、相続税以外で、延滞税に注意しなければならない手続きは、準確定申告です(詳細は後述)。準確定申告の期限は、相続開始から4か月で、期限が過ぎると延滞税発生の原因になります。
リスク3:株式の権利がなくなる
死亡した人が株式を保有していた場合、名義変更の手続きが必要です。
手続きを取らないまま5年が経過すると、株主所在不明の扱いになります。
株主所在不明と判断したのち、株式発行会社は、株式を現金化します。現金化の方法は、競売にかける、あるいは、株式発行会社が買い取るかのいずれかです。
株式が現金化されたからといって、そのお金が会社のものになるわけではありません。売却後(または買取後)のお金は、相続人に受け取る権利が与えられます。
ただし、お金を受け取るのは、名義変更が前提です。
名義変更が終わらない限り、株式売却後のお金は受け取れないままです。
そのうえ売却代金は、一般的な金銭債権と同じく、時効にかかります。株式発行会社が時効を主張すると、権利は消滅し、お金は受け取れません。
株主としての権利を引き継ぎたい人は、株式の相続手続きを怠らないようにしましょう。
リスク4:遺留分侵害額請求や相続回復請求権の権利が消滅する
相続手続きの放置は、取得できるはずだった相続財産の喪失にもつながります。
相続財産に関して何も主張せずに時間が経過すると、遺留分侵害請求権や相続回復請求権が時効消滅するからです。
遺留分侵害額請求権も相続回復請求権のいずれも、相続に関して、経済的損失を被った際に主張できる権利です。
共通点はあるものの、両者は別の権利であるため、それぞれ分けて解説します。
遺留分侵害額請求権
遺留分侵害請求は、遺留分権を侵害された場合に主張できる権利です(民法1046条)。
遺留分は、法定相続人(兄弟姉妹をのぞく)に与えられた最低保証のようなものです。遺留分の制度があるおかげで、相続人でいれさえすれば、一定の財産を受け取れる仕組みになっています。
遺留分侵害請求は、親が残した遺言内容に不満がある場合、行使されるケースが多いです。
全財産を長男に相続させる旨の遺言があったとしても、遺留分侵害を主張することで、遺留分に相当する金銭を長男に請求できることになります。
遺留分の計算はやや複雑ですが、基本的には、法定相続分の半分になります。
父が死亡し、長男と次男の二人が相続人だったとしましょう。父の相続財産は1,000万円です。
この場合、長男と次男には、それぞれ4分の1(250万円)の遺留分が与えられます。長男が独占する形での遺産承継方法に不満がある場合、相続財産の4分の1を遺留分侵害額とし、長男に対して(250万円の)金銭の支払いを求める選択肢が次男にはあるのです。
偏った内容の遺産相続を防ぐために、民法は遺留分の制度を用意しています。しかし、遺留分の請求権は1年で時効にかかります(詳細は後述)。
相続手続きに無関心のままだと、本来取得できるはずの相続財産を失ってしまうかもしれません。
相続回復請求権
相続回復請求権は、文字通り、相続財産の回復を求める権利です(民法884条)。
相続回復請求権が行使される場面としては、(相続人ですらない)まったく知らない第三者が、相続財産を独り占めしている状態が考えられます。
相続財産が侵害されている場合、正当な権利を有する相続人(真正相続人)は、相続回復請求権を行使し、第三者を排除できるのです。
遺留分侵害額請求権と相続財産回復請求権は似ていますが、行使される場面が異なります。
遺留分は、被相続人の行為(遺言、生前贈与等)に不満がある場合に行使されます。一方、相続回復請求権は、被相続人以外の第三者に権利が侵害された場合に行使されます。
相続回復請求権も、遺留分侵害請求権と同じく時効にかかり、期間は5年です(詳細は後述)。
なお、相続回復請求権に近い権利として、相続分の取り戻し請求権があります(民法905条)。
こちらは、共同相続人が相続分を第三者に譲渡した場合に問題となります。相続分の譲渡がされると、第三者との遺産分割協議を余儀なくされ、リスクをともないます。親族でもない第三者との協議は、難航する可能性が高いからです。
相続分の取り戻しを請求すれば、第三者との遺産分割協議は避けられますが、取り戻すには費用がかかるうえに、1か月の期限が設けられています。
リスク5:相続登記が複雑になる
相続財産に不動産が含まれる場合は、相続登記の複雑化に注意する必要があります。
相続登記中に新たな相続が発生した場合、さらに手続きが複雑化するからです。
たとえば、死亡した父の相続財産に土地が含まれていたとします。この場合、長男が土地を相続することになったのであれば、所有権は「(亡)父→長男」へと移転するはずです。この所有権が移転した事実を、登記に反映させる手続きを、相続登記と呼びます。
相続人が長男と次男のみの状況で、かつ長男が実家の土地と建物を単独所有する旨の相続登記をするとしましょう。
しかし、この手続きを怠っているあいだに、次男が死亡した場合はどうなるでしょう。
この場合、相続登記をするには、次男の相続人全員の同意が必要になります。次男に妻と子どもが3人いた場合、全員からの同意を得なければなりません。
相続登記手続きにからむ当事者が急に増え、長男の負担はさらに増すでしょう。
手続きが複雑だからといって放置していると不動産の売却や不動産を担保にした融資が難しくなります。
さらに注意すべきは、相続登記の義務化です。
相続登記は、2024年4月1日から義務化され、義務違反には罰則も用意されているからです。
このように、相続登記の放置が招くリスクは以前よりも増して、無視できない状況になりつつあります。
相続登記が複雑になるまえに、相続登記をすませましょう。登場人物が少ない相続登記は、内容も単純で、費用が少なくすむケースが多いです。
【2024年4月1日施行】相続登記義務化により「相続してから3年以内」が期限
2024年4月1日から相続登記が義務化されます。
法務省民事局
法務省
義務化には、罰則(10万円以下の過料)もともなうので注意が必要です。
義務の詳細は、以下の通りです。
- 土地・建物の所有権取得が対象
- 相続した事実を知ってから3年以内に相続登記を申請
- 遺産分割による取得の場合は、遺産分割から3年以内に申請
- 遺産分割がまとまらない場合は相続人申告登記を3年以内に申請
- 義務化スタート(2024年4月1日)以前の相続にも義務のルールが適用
- 義務違反には10万円以下の過料が科される可能性(正当な理由がある場合はのぞく)
対象となるのは所有権で、抵当権や賃借権の相続には、登記義務は課されません。
猶予期間は3年です。相続で所有権を取得した事実を「知った」日から3年以内(遺産分割による取得の場合は遺産分割から3年以内)に申請する必要があります。
2024年以前の相続にも義務のルールは適用されますが、その場合の期限は、2024年4月1日(または所有権を取得した事実を知った日)から3年です。
また、遺産分割協議がまとまらず、相続登記がしたくてもできない場合に備えて、相続人申告登記の制度が用意されています。
相続人申告登記は、その不動産につき、自らが相続人である旨を申し出ることで実行される登記です。相続人申告登記をしておけば、相続登記の義務は果たしたと扱われるため、遺産分割協議が難航する場合の対策になります。ただし、相続人申告登記にも、3年の期間制限が適用されます。
では、なぜ今回、相続登記が義務化に至ったのでしょうか?
実は、相続登記が義務化された理由は、所有者不明の土地が増えたからとされています。
所有者不明の土地は、責任の所在が不明瞭になりがちで、管理が不行き届きになりやすいです。土地の杜撰な管理は、周辺環境の悪化や公共工事の阻害、活用の機会損失等、様々な弊害をもたらします。
相続登記を義務化し、不動産の所有者を明確にすることで、管理が適切にされるようにする。これが、相続登記の義務化の主な理由とされています。
登記について疑問や不安を感じる場合は、司法書士に相談しましょう。
期限付きの相続手続きをしなかった場合、費用がかかるものや消滅する権利がある
相続手続きの期限についてまとめました。
ここで紹介する手続きの期限を守らないと、延滞税発生等のペナルティを受けたり、得られるはずだったお金や財産を失ったりします。
相続放棄・限定承認(3カ月以内)を怠り借金の返済義務を引き継ぐ
準確定申告(4カ月以内)を怠り延滞税が発生
相続税申告(10カ月以内)を怠り延滞税が発生
手続き(2~3年以内)放置で受給権消滅
不動産の相続登記(3年以内)放置で過料発生
遺留分侵害や相続回復請求権(1~5年以内)の権利消滅
相続放棄の承認や準確定申告のように、期限が短く設定されている手続きは、とくに注意が必要です。何から始めてよいか分からない方は、期限の短いものから着手しましょう。
相続放棄・限定承認(3カ月以内)で借金の返済義務を引き継ぐ
被相続人に多額の借金がある場合は、相続放棄手続きすることで、借金の支払いを免れます。
しかし、相続放棄には「相続の開始があったことを知った時から3箇月以内」という期限があります(民法915条)。
3か月が経過すると、相続放棄ができなくなり、負債を背負ってしまうので注意しましょう。
ただし相続財産の調査に手間取る等、3か月では足りないと判断した場合は、家庭裁判所に申し立てることで延長できる可能性があります。
ちなみに、延長手続きも取らず期間が過ぎてしまった場合でも、相当な理由がある場合に限り、期間経過後でも相続放棄を認める判例もあります(最判昭和59年4月27日)。
ただ、期間経過後の相続放棄は、通常の書類に加えて、上申書(事情を説明した書面)も裁判所へ提出します。上申書の作成には専門的な知識が求められるため、弁護士等の法律専門家に相談しましょう。
なお、相続放棄と似た制度に、限定承認があります。
限定承認にも期間制限があり、相続放棄と同じく「相続の開始があったことを知った時から3箇月以内」に家庭裁判所に申述しなければなりません。
限定承認は、被相続人の財産が、トータルでプラスになるかマイナスになるか見通しがつかないときに役立つ制度です。
限定承認をすると、相続した財産の限度でしか負債を背負いません。相続した財産を超える額の負債を背負うことがないので、最終的に「マイナス財産>プラス財産」の事実が発覚しても、赤字の補填は避けられます。
リスク回避の意味ではよい制度ですが、単独で実行可能な相続放棄と異なり、相続人全員の同意が求められます。
準確定申告(4カ月以内)で延滞税が発生
準確定申告を怠ると、延滞税等が発生します。
死亡した人の代わりに相続人が行う確定申告のことを「準確定申告」と呼びます。
注意したいのは、準確定申告の期限です。
通常の確定申告は、毎年2月16〜3月15日が期限です。
しかし準確定申告は、相続開始から4か月が期限となっています。
準確定申告を忘れると、申告を怠ったことに対する無申告加算税、ほか、納税が遅れたことに対する延滞税が発生します。
準確定申告が必要になるのは、基本、被相続人が事業者だった場合ですが、被相続人が以下に該当する場合は、事業者でなくとも準確定申告が必要です。
- 給与所得者だが、複数の会社から給料を受け取っている
- 給与所得者だが、2,000万円の給与所得がある
- 年金受給者だが、公的年金収入等が400万円を超えている
- 年金受給者だが、公的年金以外の収入が20万円を超えている
なお、準確定申告の申告先は、相続人の住所地ではなく、死亡した本人の住所地になります。
相続税の納税(10カ月以内)で延滞税が発生
相続税の納税期限は、相続開始から10か月以内です。
申告先は、被相続人の住所地を管轄する税務署です。
相続税の申告を怠り納税が遅れると、延滞税、無申告加算税の対象となります。
納税を無視し続ける、相続財産を隠ぺいする等、態様が悪質の場合、重加算税や差し押さえの対象となります。重加算税の税率は重く、30〜40%台です。
手続き(2~3年以内)を実施しないことによる受給不可
家族が死亡すると、死亡を原因として受け取れるお金があります。
典型的なのは、生命保険加入者に支払われる死亡保険金でしょう。
それ以外にも、健康保険加入者が受け取れる埋葬料があります。死亡した人が国民健康保険に加入していた場合、国から5万円が支給されます。
しかし、これらのお金を受け取るには、期限内に請求しなければなりません。
死亡保険金は、相続開始日から3年が期限とされています。健康保険でカバーされる葬儀代や埋葬料は、2年以内が期限です。
入金を急ぐ場合は、死亡保険の請求を優先させたほうがよいかもしれません。死亡保険金は、入金までの日数が短く、請求から10日以内で振り込まれます。
不動産の相続登記(3年以内)で法改正による過料発生
前述の通り、土地所有者不明の問題に対応すべく、2024年4月1日から相続登記の義務化がスタートしました。
不動産を相続した方は、取得から3年以内に相続登記をすませる必要があります。
正当な理由もなく相続登記をしない方には、10万円以下の過料が科されるので登記申請を怠らないようにしましょう。
また、相続登記の義務は、2024年4月1日よりも前に相続で不動産を取得した人にも適用されます。その場合の期限は、2027年3月31日までです。
遺留分侵害や相続回復請求権(1~5年以内)の権利消滅
前述の通り、遺留分侵害額請求や相続回復請求には、時効期間が設定されています。
それぞれの期限は、以下の通りです。
遺留分侵害額請求 |
遺留分の侵害を知ったときから1年以内 or 相続開始から10年以内 |
相続回復請求請求 |
相続権の侵害を知ったときから5年以内 or 相続開始から20年以内 |
預金口座を相続手続きをしなかった場合は「休眠預金」となる可能性がある
相続が発生すると、死亡した人の預金口座は凍結され、預金の引き出しはできなくなります。
銀行が口座を凍結する理由は、第三者が勝手に本人の預金を引き出して、私的流用するのを防ぐためとされています。
被相続人の預金が守られるので、預金口座の凍結そのものは相続手続きにおいて、必要な過程といえます。
問題なのは、凍結になったあと、凍結解除の手続きが進まない状況です。
遺言がある場合をのぞいて、凍結解除の手続きには、相続人全員の同意が必要になります。誰が、いくらの預金を相続するかが決まらないと、いつまでも預金は凍結されたままです。
凍結状態が長引くと、最悪、預金の払い戻し債権は時効で消滅します。預金口座の債権は、5年で時効にかかるとされています。
また、預金放置の期間が10年以上続くと、放置された預金口座は、休眠口座として扱われるかもしれません。休眠口座の扱いを受けると、休眠預金として預金保険機構へと移され、公益活動のための資金に充てられます。
時効消滅や休眠預金の扱いを避けるためにも、相続後は、預金口座の名義変更や解約手続きを急ぎましょう。
不動産の相続手続きをしなかった場合はさまざまな問題が発生する
不動産の相続手続きをしなかった場合、以下の問題が発生します。
- 遺産分割協議の長期化
- 差し押さえの登記が入る
- 特定空き家の指定を受ける
- 相続不動産を売却できなくなる
それぞれ詳しく解説していきます。
遺産分割協議が長期化してしまう
前述の通り、相続登記の放置は、遺産分割協議の長期化を招きます。
遺産分割協議に関しては、以下の2点を確認しておきましょう。
- 遺産分割協議は相続人の数が多いほど難航する
- 相続人の数は、時間の経過とともに増える
遺産分割協議の長期化は、相続人の「数以外」の要素も原因となります。
遺産分割協議には、協議しづらい相手が存在します。
性格的に難があり話し合いが困難という場合もありますが、人間性とは関係なく協議が難しい相手もいます。具体的には、以下に該当する相続人です。
上記に該当する相続人が含まれる場合、遺産分割協議が長期化する可能性が高くなります。通常よりも、手続きに手間を加える必要があるからです。
相続人に未成年者、認知症患者、行方不明者がいると、裁判所を通した手続きが加わります。また、非嫡出子がいると、人間関係のもつれから、遺産分割協議が長期化、泥沼化しやすいです。
相続人が増えれば増えるほど、上記に挙げた者が遺産分割協議の当事者になる確率は高くなります。
自分の代が相続手続きを放置したことで、相続関係が複雑化し、子世代、孫世代に迷惑をかけてしまうこともあります。遺産分割協議や相続登記は、相続人の数が少ないうちに完了させておいたほうが、一族全体の利益につながるのです。
債権者の代位登記により不動産を他人に登記されるリスクがある
相続人のなかに借金している人物がいる場合、相続登記しないことのデメリットは、通常よりも深刻です。
将来的に、相続不動産が、差し押さえの対象になる恐れがあるからです。
相続人が、長男と次男の2人だったとしましょう。法定相続分に従うと、持ち分は2分の1ずつです。
次男に借金があって、かつ滞納している場合、次男が持つ2分の1の持ち分は差し押さえの対象になり得ます。
差し押さえの前提として、持分2分の1づつの相続登記をする必要がありますが、次男にお金を貸している債権者は、相続人らの同意を得ることなく登記を実行できます。
次男にお金を貸している側は、債権者代位権を行使できるからです(民法423条)。債権者代位権とは、債務者(今回の事例だと次男)が持つ権利を、代わりに行使できる権利です。
債権者が債権者代位権を行使して、相続不動産に差し押さえの登記が入ると、権利関係が複雑化してしまいます。
「特定空き家」指定を受けると巨額の固定資産税がかかる
相続に空き家が含まれていた場合、放置すると、特定空き家に指定されてしまう恐れがあります。
特定空き家は、周囲の環境を害する建物として、国の認定を受けた建物です。
相続不動産が特定空き家の対象になると、(事実上)納める固定資産税が高くなり、経済的損失を被ります。また、建物の老朽が原因で第三者が損害を被った場合、所有者として責任を問われる結果にもなります。
特定空き家の指定を受けそうな相続不動産がある場合、解体、売却、賃貸等を検討し、対策を講じましょう。
不動産は名義人でなければ売却ができない
不動産が死亡した人の名義のままだと、不動産の売却ができません。
実務上、相続した不動産を売却するには、相続登記の完了が前提となるからです。
相続登記をしたあとに売却する流れとなりますが、売却の際は、名義人全員の同意が必要になります。1人でも売却に反対すると、売却手続きが進みません。
相続登記の放置は、相続人の増加、つまり共有名義人の増加を招きます。相続人の増加は、相続不動産の売却にも影響し、売却の同意を得る作業が大変になるのです。
また、少しでも高値で売却したい場合は、相続登記は急ぐほうがよいでしょう。
相続手続きができない場合のよくある理由
相続手続きができない、あるいは放置される理由として、よくあるものをまとめました。
相続手続きが進まない理由はいくつかあります。しかし、怠慢による放置は、延滞税の支払いや罰則適用などのペナルティにつながります。安易な放置は避けましょう。
手続きをする時間がなかなかとれない
相続手続きができない理由としてよく持ち出されるのが、「忙しくて時間がない」です。
相続手続きは、提出書類の関係上、市役所や法務局、税務署、銀行等に出向く必要があります。しかも、これらの窓口は、平日のみ対応のところが多いです。
一般的な会社員にとって、平日に時間を取るのは、なかなか難しいです。
ほとんどの人が楽しいと感じないであろう相続手続きに、有給を使ってまで取り掛かろうと思わないのは自然なことです。
相続人同士でトラブルが発生し遺産分割が滞っている
遺産分割協議でもめて、相続手続きが進まないというパターンもあります。
遺産分割はお金がからむことなので、お互いの利益をめぐる対立が起きやすいです。
誰がどの財産を、どれだけ相続するか、血のつながりがある同士であっても話は進まないケースは多々あります。
お金が関係するため、潜在的にもめやすいという性質が、遺産分割にあります。
だからこそ、相続人の数が少ないうちに、相続手続きを完了させておく必要があるのです。
相続人が遺産の存在に気づいていない
相続財産の存在に気づいておらず、意図せずして、相続手続きが進んでいない場合もあります。
相続財産に気づかない理由は様々です。
自分が相続人であることは知っていたけれども、相続財産があるとは思わなかったというパターンもあるでしょう。死亡した父が、田舎の土地の所有者になっていた場合等が考えられます。
一方、そもそも自分が相続人である事実すら認識していなかったというパターンもあります。
死亡したのが親や配偶者であれば、自分が相続人であることを見逃す確率は低いでしょう。しかし被相続人が叔父や叔母である場合、自分が相続人である事実すら認知せず、相続財産を見過ごしてしまう可能性はあります。
なお、見逃した相続財産に不動産が含まれる場合は注意が必要です。相続登記が義務化され、罰則の適用もあり得るからです。自らが相続人である事実を認識している以上、相続財産に不動産が含まれていないか、調査してみる価値はあります。
また、特定空き家の指定を受けるリスクも無視できません。相続財産の存在に気がついていないあいだに、相続不動産が特定空き家に指定されると、納める固定資産税が増大し経済的損失を被ります。
高額な相続税を逃れるため手続きを無視している
相続税の支払いを免れるために、相続手続きがなされない場合があります。
相続手続きにより、財産を相続した事実が税務署にバレてしまい、高額な相続税が課されるきっかけになると考える人がいるようです。
しかし相続手続きを拒んだからといって、税務署が税務調査できないわけではありません。税務署は、独自で調査できるからです。
相続手続きを無視しても、相続税を免れる結果になりません。むしろ延滞税や加算税が上乗せされ、余計なお金を支払う羽目になります。最悪、罰則適用の可能性もあります。
まとめ
相続手続きの種類はたくさんあり、混乱してしまいがちです。
しかし、リスクと期限を中心に手続きを整理すれば、やるべき内容が見えてきます。
一般的に放置のリスクが高い内容の手続きとしては、以下が例として挙げられます。
- 相続登記の放置(10万円以下の過料)
- 相続放棄手続き(借金の肩代わり)
- 相続税申告・準確定申告等の税務申告(延滞税の発生)
また、期限が短めの手続きは、以下が例として挙げられます。
- 相続放棄(3か月)
- 準確定申告(4か月)
- 遺留分侵害額請求(1年)
放置のリスクが高い手続き、期限が短めの手続きに注目して着手しましょう。
なお、相続登記は、義務化の問題は別にしても、早めに進めたほうがよいです。放置すると、相続人が雪だるま式に増えていき、長期化、泥沼化するのは本文で述べた通りです。遺産分割協議や相続登記を放置すると、自分の世代はよくても、あとの世代が苦労する可能性があります。
最後に、相続手続きは、家族が亡くなったあとの状態での手続きになります。精神的に落ち込んで、どうしても着手できないという人もいるでしょう。
その場合は、弁護士や税理士、司法書士等の専門家を頼るのも手です。必要な相続手続きを、まとめて処理してくれる事務所もあります。
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