相続遺産の受け取りまでの期間(目安)は相続条件で変動する
相続条件によって、相続遺産の受け取りにかかる期間は以下のように異なります。
- 遺言書があり、検認が不要:最短で2週間程度
- 遺言書があり、検認が必要:最短で3ヶ月程度
- 遺言書がなく、相続人が1人だけ:最短で2ヶ月程度
- 遺言書がなく、相続人が複数人:最短で3ヶ月程度
検認とは、遺言書を家庭裁判所に提出して内容を確認することです。検認が必要かどうかは遺言の種類で異なります。
遺言書の種類
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検認の要否
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自筆証書遺言
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必要(自宅などで保管している場合)
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不要(保管制度を利用している場合)
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公正証書遺言
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不要
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秘密証書遺言
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必要
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では、遺産相続にかかる期間について解説していきます。
遺言書があり、検認が不要:最短で2週間程度
遺言書があり、検認が不要な場合は、相続開始後から受け取りまでの期間は相続開始から最短で2週間程度です。遺言書の内容どおりに遺産分割をするので、比較的早く遺産を受け取ることができます。
以下の遺言書であれば、検認が不要となります。
- 公正証書遺言:遺言者が内容を口述し公証人が遺言書を作成。証人が必要
- 自筆証書遺言(保管制度利用):遺言者が作成した自筆証書遺言を法務局で保管
遺言書によって遺言執行者が指定されている場合は、その人の繁忙さによって受け取りまでの期間が長引く可能性があります。
遺言書があり、検認が不要にもかかわらず2週間程度の時間がかかる理由は、相続するものごとに所定の手続きが必要だからです。「本当にこの人に相続をしても良いのか」を申請を受けた機関は精査しなければなりません。また、相続遺産の種類が不動産、銀行預金、有価証券など、多岐にわたった場合、その分時間を要することになります。
検認不要な遺言書があっても、遺言書に書かれていない相続遺産があった場合は、誰が相続するかを話し合う必要があるため、受け取りまでの時間が長引くことがあります。
遺言書があり、検認が必要:最短で3ヶ月程度
検認の申立てに約1ヶ月、検認済証明書の発行に約1~2ヶ月かかるため、遺産受け取りまで最短3ヶ月程度がかかります。
保管制度を利用していない自筆証書遺言と秘密証書遺言は検認が必要です。
- 自筆証書遺言:遺言者が自ら遺言書を作成。証人を必要としない
- 秘密証書遺言:遺言者が作成した遺言書を、証人を立てることで公証役場が存在を保証
保管制度とは、遺言書を法務局に預けて、原本および画像化したデータを保管する制度です。法務局に預ければ、遺言の偽造などができなくなるため、わざわざ家庭裁判所で検認する必要がなくなります。しかし、保管制度を利用していない場合は、偽造などの可能性があるため検認しなければならないのです。
遺言書がなく、相続人が1人だけ:最短で2ヶ月程度
遺言書がなく相続人が1人だけの場合、遺産の受け取りまでは最短2ヶ月程度です。
遺言書がなければ「相続人を誰にするのか」「相続する遺産」がわからないため、それぞれの調査から行わなければなりません(およそ1ヵ月ずつ)。
調査が完了すれば、各種相続遺産の手続きが必要です。手続きにかかる期間は、相続遺産によって、受け取りまでの期間が異なるため一概には述べられませんが1~3週間程度が目安です。
詳しくは「【相続遺産別】受け取りまでの期間・受け取り方」で解説していますので、そちらをご覧ください。
遺言書がなく、相続人が複数人:最短で3ヶ月程度
遺言書がなく相続人が複数人いる場合、遺産の受け取りまで最短でも3ヶ月程度かかります。理由としては、相続遺産・相続人の調査だけではなく、相続人全員で遺産分割協議や遺産分割協議書の作成が必要になるためです。
相続遺産の受け取りまでの工程が多いだけでなく、協議で相続人同士が揉めやすいため3ヶ月以上かかるケースも少なくありません。
【相続遺産別】受け取りまでの期間・受け取り方
相続遺産を受け取るまでの期間や受け取り方は、相続する遺産によって異なります。
- 【現金や現物遺産】相続手続き完了後即日
- 【預貯金】払戻申請から1~2週間程度
- 【不動産】相続登記申請から2週間程度
- 【有価証券】口座移管から2~3週間程度
- 【自動車・オートバイ等】1週間程度
- 【生命保険金】1週間程度
それぞれ解説します。
【現金や現物遺産】相続手続き完了後即日
タンス預金、財布に入っていたお金、収納していた貴金属・骨董品などの現金・現物遺産は、遺言や相続人による協議の決定に基づいて遺産分割を行い、どこかで手続きをする必要はありません。相続人が決定した後に即日で受け取りが可能です。
【預貯金】払戻申請から1~2週間程度
預貯金を受け取る場合、金融機関に払い戻し申請をする必要があり、払い戻しまで1~2週間程かかります。
申請に必要な書類は以下のとおりです。
- 遺言書または遺産分割協議書
- 被相続人の除籍謄本
- 相続人全員の戸籍謄本
- 相続人全員の印鑑証明
手続きが完了次第、指定口座に振り込まれます。
払い戻しまでの期間や必要書類は、金融機関によって異なるため事前に確認しておきましょう。また、預貯金を複数人で分ける場合は払い戻し後に分割してください。
【不動産】相続登記申請から2週間程度
不動産の相続では、名義変更のための相続登記が必要となります。故人が保有していた不動産の所在地を管轄する法務局に、必要な書類を提出して登記申請を行います。相続登記の申請から完了まで2週間程度ですが、書類の準備などでさらに時間がかかる可能性があります。
相続登記に必要な書類は以下のとおりです。
- 登記申請書
- 被相続人の除籍謄本
- 相続人全員の戸籍謄本
- 遺言書または遺産分割協議書
- 相続人全員の印鑑証明
- 固定資産評価証明書
「自身での登記申請が難しい」と感じた場合は、司法書士への依頼がおすすめです。しかし、司法書士への依頼から登記申請までがスムーズにいった場合でも、登記完了まで1~2ヶ月はかかります。
【有価証券】口座移管から2~3週間程度
申請から移管までは2~3週間程度が目安です。
有価証券を相続する場合、自分名義の証券会社の口座に口座移管の手続きが必要です。
証券会社の口座をもっていない場合は新規開設が必要となり、開設までに3日~1週間程度かかるため、受け取りまで1ヶ月程になる可能性があります。
一般的に名義変更で必要な書類は以下のとおりです。
- 相続手続依頼書
- 遺言書または遺産分割協議書
- 被相続人の除籍謄本
- 相続人全員の戸籍謄本
- 相続人全員の印鑑証明書
手続きが完了すると、相続人の口座に移管されます。
【自動車・オートバイ等】1週間程度
自動車やオートバイ等を相続する場合、陸運局で名義変更を行います。名義変更の申請を行ってから手続きが完了するまでの期間は1週間程度が目安です。
一般的に名義変更で必要な書類は以下のとおりです。
- 自動車検査証変更記録申請書
- 自動車検査証
- 車庫証明(車を置く場所と使用者の変更が必要な場合のみ)
- 手数料印紙を貼付した手数料納付書
- 遺言書または遺産分割協議書
- 委任状
- 新しい所有者の印鑑証明書(発行されて3ヶ月以内のもの)
- 被相続人の除籍謄本
- 相続人の戸籍謄本
上記書類を陸運局に提出し、名義変更が完了すれば、相続人が正式に自動車の所有者となります。
もし、自動車やオートバイ等のローンが返済中の場合は、所有権がローン会社にあるため、相続人はローン債務も相続することになることには注意しましょう。
ローン債務を相続すると、一括での返済が求められます。一括での返済が難しい場合は、新たにローン会社と契約を結び、審査を受けて返済計画を変更するとよいです。
【生命保険金】1週間程度
振り込まれるタイミングは生命保険会社によって異なりますが、申請から1週間程度が目安です。
生命保険金を受け取る場合、保険証券を用意したうえで被相続人死亡の旨を生命保険会社に伝えて、保険金を請求します。手続きを行うのは、受取人指定の場合はその受取人が行い、指定されていない場合は相続人全員での手続きが必要になる可能性があります。
一般的に手続きで必要な書類は以下のとおりです。
- 死亡保険請求書
- 保険証券
- 被相続人の除籍謄本
- 相続人全員の戸籍謄本
- 相続人全員の印鑑証明書
- 本人確認書類
- 死亡診断書または死体検案書
受け取り方には、一時金として一括で受け取る方法、年金として分割で受け取る方法、保険会社に全額または一部を据え置きをして必要なときに受け取る方法があります。据え置きでは、所定の利率で利息がつきます。
必要な書類や受け取り方は、会社によって異なるため直接問い合わせてみるとよいです。
遺産相続開始から受け取りまでの手続きの流れ
遺産相続開始から受け取りまでの流れは以下のとおりです。
- 遺言書がないか確認する
- 遺言書の検認が必要であれば家庭裁判所に申立てる
- 相続遺産や相続人を調査する
- 遺産相続の承認・放棄を検討する準確定申告を行う
- 法定相続人全員で遺産分割協議を行う
- 相続遺産の名義変更・解約等を行う
- 相続税の申告・納税する
それぞれ解説します。
1.遺言書がないか確認する
遺言書があるかないかで、遺産相続は大きく変わります。そのためまずは、遺言書があるかどうかを確認するところから始めてください。故人が保管しそうな場所(タンスの中や金庫など)を探したり、公証役場や法務局で確認したりしましょう。
遺言書があれば、その内容どおりに遺産分割が行われます。
遺言書を見つけたら確認することは、遺言書の種類です。検認の要否にかかわるため以下のどの種類に該当するかを確認しましょう。
- 自費証書遺言:遺言者がが自筆で作成した遺言書
- 公正証書遺言:法務局の管轄する機関である公証役場で公証人が作成する遺言書
- 秘密証書遺言:遺言者が作成し、本人意外内容を見ることができない遺言書(検認での内容確認は可能)
もし、遺言書が封筒に入れられており、封がされている場合は勝手に開封してはいけません。5万円以下の過料が発生する場合があるため注意してください。
2.遺言書の検認が必要であれば家庭裁判所に申立てる
遺言書が見つかり、検認が必要があると分かったら、家庭裁判所に申立てます。申立てには以下のものが必要です。
- 遺言書
- 検認申立書
- 故人の戸籍謄本などの書類
- 収入印紙800円分と連絡用の郵便切手(相続人の人数分)
検認には申立人の立ち会いは必ず必要で、相続人は必ずしも立ち会う必要はありません。検認の所要時間はおよそ10~15分程度です。検認が完了したら遺言書を返還してもらい「検認済証明書を申請します。後日、検認を欠席した相続人を含めて「検認済通知書」が届きます。
3.相続遺産や相続人を調査する
遺言がない場合ですが、相続遺産や法定相続人が誰になるのか調査する必要があります。相続遺産では、プラスの財産だけでなく、マイナスの財産も対象です。たとえば、被相続人が背負っていた借金があった場合は、相続人が借金を引き継ぐことになります。
相続人に関しては、以下のように法律で範囲と順位が決まっています。
4.遺産相続の承認・放棄を検討する
遺産相続開始を知ってから3ヶ月以内に、相続の承認か放棄を検討する必要があります。
承認の仕方には2種類存在します。
- 単純承認:プラスの財産・マイナスの財産問わず受け取る
- 限定承認:限定的にマイナスの財産を受け取る
一方、相続放棄をする場合は、プラスの財産を受け取れなくなりますが、マイナスの財産を受け取らずに済みます。もし、相続放棄または限定承認する場合、家庭裁判所で手続きが必要です。
5.準確定申告を行う
被相続人に事業所得や不動産所得がある場合、相続開始を知ってから4ヶ月以内に準確定申告と所得税の納税を行う必要があります。
申告先は被相続人の住所を管轄する税務署です。
所得税は相続の割合に応じて相続人が負担し、複数人いる場合は相続人ごとに納付手続きを行いましょう。
6.法定相続人全員で遺産分割協議を行う
遺言書がない場合は、法定相続人で話し合って遺産の分割方法を決めます。協議に定められた期間はありませんが、相続決定後の「相続税の申告」には10ヶ月以内の期限があるので早めに行ってください。
話し合いで揉めると遺産の受け取りまでの期間が長引く可能性があるため、早めに弁護士に依頼しておくのがおすすめです。弁護士への依頼をおすすめするのは、実際に遺産分割協議が5年以上かかるケースもあるからです。
以下のようなケースだと遺産分割協議が長期化しやすいです。
- 相続遺産に不動産が含まれる
- 遺産の使い込みや遺産隠しの可能性がある
- 相続人同士の仲が悪い
- 相続人の中に連絡が取れない人がいる
- 被相続人の生前の世話をした相続人が、他の人より多い相続を希望している
- 被相続人から生前贈与を受けた相続人に対し、他の相続人が他の人より少ない相続を主張している
7.相続遺産の名義変更・解約等を行う
遺産分割が決まったら、不動産や預貯金、有価証券等の遺産の名義変更や解約などの手続きをさっそく進めていきます。申請してからすぐに変更や解約が完了するのではなく、先述したように一定期間を要する場合がほとんどのため、早めに手続きを進めましょう。相続登記は手続きが煩わしいので、司法書士に依頼すると手間を省けます。
被相続人が生前契約していた有料サービスの解約や免許証・パスポートの返納なども忘れず行いましょう。
8.相続税の申告・納税する
遺産相続開始から10ヶ月以内に相続税の申告・納税が必要となります。それまでに財産の調査や遺産分割協議を済ませてください。協議が長期化する場合は、暫定的な申告と納付が可能です。
もし、申告手続きに手間がかかりそうであれば、税理士に依頼するのがおすすめです。
相続遺産のお金を早く受け取る方法
これまで解説してきたように、相続遺産はすぐに受け取れるものではありません。しかし、葬儀代や相続税の納税、マイナス財産の返済などの支払いに困ったとき、賄うためのお金が欲しいと思うでしょう。
早く相続遺産の現金を早く受け取る方法は2つあります。
- 仮払い制度を活用する
- 生命保険会社に死亡保険金を請求する
それぞれ解説します。
仮払い制度を活用する
仮払い制度は、遺産分割協議中も預貯金の一部を払い出せる制度です。遺言書がなく、相続人が複数人いる場合は遺産分割協議を行う必要がありますが、仮払い制度を利用すれば、預貯金を一部のみ払いだしてもらえます。
金融機関または家庭裁判所の2種類の仮払い制度があります。それぞれの特徴について次項で解説します。
家庭裁判所の仮払い制度は上限額がない
家庭裁判所の仮払い制度には、引き出せる金額に上限がないのが特徴です。葬儀費用や配偶者の生活費など緊急性・必要性のある場合に適しています。しかし、申立てから審査に日数がかかってしまうデメリットがあります。また、手続きのハードルが高いため、家庭裁判所に申立てする際は弁護士に依頼しましょう。
金融機関の仮払い制度は上限150万円まで
金融機関は家庭裁判所の審査なしで、必要な書類を作成して申請すると仮払い制度を利用できます。
仮払い可能な金額は「相続開始時の預貯金額×1/3×法定相続人分」で求めることができ、150万円までが上限として定められています。提出する書類は金融機関によって異なりますが、一般的に被相続人や相続人全員の戸籍謄本、申請者の印鑑証明などが必要です。
生命保険会社に死亡保険金を請求する
死亡保険金の受取人が相続人となっている場合、遺産分割の協議の対象外となるので、死亡後速やかに申請できます。死亡保険金は、申請から早くて1週間程度で支払われます。申請に必要な書類も多くないので、比較的早く資産を受け取れるはずです。
ちなみに死亡保険金請求に必要な書類は以下の5つです。
- 亡くなった人の住民票 ・除籍謄本
- 医師の死亡診断書または死体検案書
- 相続人の戸籍謄本
- 相続人の印鑑証明
- 保険証券
場合によっては書類の追加が求められますが、基本的には上記5つが必要な書類となります。
遺産相続の手続き・受け取りで注意すること
遺産相続の手続き・受け取りで注意することが3つあります。
- 無断で預金を引き出さない
- 無断で相続遺産を処分しない
- 遺産分割協議書は必ず作成する
それぞれ解説します。
無断で預金を引き出さない
預金の引き出しができるのは、相続手続きが完了した後です。無断で預金を引き出すと、不正行為・不当利得に該当したり、刑事処分の対象となったりする可能性があります。相続放棄を考えている場合は、放棄が認められなくなる可能性もあり、無断での預金の引き出しはリスクしかありません。相続手続きがきちんと完了してから預金を引き出すようにしてください。
無断で相続遺産を処分しない
預金の引き出しと同様に、勝手な相続遺産の処分はNGです。違法な使い込みと見なされる可能性があります。他の相続人もいる状況で「きっと〇〇(被相続人)が生きていれば、こうしていたに違いない」と勝手に判断し、相続遺産を処分してはなりません。もし勝手に処分をすると、相続分の割合に応じて損害賠償請求される可能性があります。
相続遺産の使い方は、相続人全員の同意をもとに決めるのが法律上のルールとして定められているため、きちんと守りましょう。
遺産分割協議書は必ず作成する
遺産分割協議書とは、協議内容に相続全員が合意したことを証明する書類のことです。作成すれば協議後のトラブル防止になるため、必ず作成しておいてください。
正確な書面を作りたい場合は、弁護士や税理士などの専門家に依頼するとよいでしょう。
合わせて、代償分割をする場合やトラブルが起きる可能性が高ければ、遺産分割協議書を公正証書化しておくとよいです。
まとめ
相続遺産を受け取るまでの期間は、遺言書の有無や種類で変わります。検認が不要な自筆証書遺言や公正証書遺言であれば、比較的早く、相続遺産を受け取ることが可能です。反対に、遺言書がなく、相続人が複数人いる場合は長期化しやすくなっています。実際のケースとして、5年以上経過してようやく遺産を受け取れた事例もあります。
遺産相続の手続きが困難だと感じた場合や相続人同士で揉めた場合は、弁護士に依頼するとよいです。相続に強い弁護士は当サイトで簡単に探せるようになっていますので、ぜひ活用してください。
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