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相続税の追徴課税とは?計算方法や税率、どんなときに発生するのかを解説

相続税の追徴課税とは?計算方法や税率、どんなときに発生するのかを解説

財産を相続した際に、相続額が「3,000万円+(600万円×法定相続人数)」の基礎控除額を上回ると相続税が課される場合があります。相続税が発生する場合は申告をして納税しなければいけませんが、正しく申告できているかどうか心配な人もいるのではないでしょうか。実際に、税務調査を行った内の約9割もの人に申告漏れやミスによる過少申告が発覚しています。

正しく申告ができていなかった場合は、内容によって以下に挙げる4つの追徴課税が課せられます。

税の種類 内容 税率
延滞税 期限までに納付がなかった場合に発生 納期限から2カ月以内「年7.3%及び延滞税特例基準割合+1%いずれは低い方」/納期限から2カ月経過後「年14.6%及び延滞税特例基準割合+7.3%いずれか低い方」
重加算税 悪質な財産隠しなどを行っていた場合に発生 納付税額×35%(40%)
無申告加算税 相続税の申告をしていない場合に発生 本来の納税額×5~20%
過少申告加算税 申告や納税した金額が少ない場合に発生 追加本税×5%(10%)

悪意がなくても、不動産の評価額を間違えていたり、保険金の計上が漏れていたりと追徴課税が発生しやすいパターンは数多くあります。相続財産を正しく把握しておく、生前贈与の贈与契約書を書いておくなど、対策をしておきましょう。確実なのは、相続税に強い税理士へ依頼することです。相続税の申告に関する実績が豊富な税理士へ依頼すると安心です。

もし追徴課税を受けてしまった場合には、以下の点に注意が必要です。

  • 相続税には連帯納付義務がある
  • 納税は現金のみ
  • 納税しない場合は財産を差し押さえられる可能性がある
  • 自己破産をしても追徴課税は免責されない

追徴課税の負担を軽減するには、事前の準備が大切です。財産を正しく把握しておく以外にも、申告漏れが発覚したら速やかに修正申告をする、遺産分割が終わっていない場合でも申告と納税を一旦済ませておくなどの対策が有効です。どうしても追徴課税が払えない場合には、「納税猶予制度」も用意されています。

追徴課税は、相続税を正しく申告及び納付できていれば本来払わなくてもよい税金です。ぜひ本記事を参考にして、追徴課税への対策を把握しておきましょう。

相続税の追徴課税の概要

相続税の申告が期限内になかったり、納付がされなかった場合などにペナルティとして課せられるのが追徴課税です。追徴課税が発生するかどうかは、多くは税務調査で発覚します。また、相続税の追徴課税について以下に挙げるポイントも知っておくと良いでしょう。

  • 相続税の申告漏れの割合は約9割と非常に多い
  • 相続税の時効は5年または7年

本来払うべき税額以上の金額を払うことにならないよう、各ポイントをしっかりと押さえておきましょう。

追徴課税は相続税の申告や納付が期限内に行われなかった場合などに課せられる

資産を相続した際には、相続した額に対応した相続税を納めないといけません。もし定められた期日までに申告や納付が行われなかった場合には、追徴課税が課せられます。

また、申告された金額が実際よりも少ないことが税務調査で発覚した際に、追加で支払う金額も追徴課税に含まれます。追徴課税の詳しい内容については後述しますが、悪質だと判断された場合には重いペナルティが課せられることがあるので注意が必要です。

追徴課税の有無は税務調査で発覚するケースが多い

追徴課税の多くは、税務調査で発覚します。税務調査とは、納税額が正しく申告されているかどうかを国税局管轄の税務署職員などが調査することです。相続税については、預貯金の流れや不動産、株式などの保有状況、生命保険の有無などが主にチェックされます。

税務調査には「任意調査」「強制調査」の2種類があり、任意調査は事前に税務署から連絡があり、調査に入る日時が告げられます。強制調査は裁判所の令状をもとに国税局の査察官が行うもので、事前連絡はありません。強制調査はもちろん拒否できませんが、任意調査でも基本的に断ることはできないと考えておきましょう。あまり頑なに断ると、強制調査に移る可能性があります。

また、税務調査は10年程度までさかのぼって行われる場合があります。税務調査の際には金融機関の取引履歴などを調べますが、金融機関はそれらの履歴を10年分保存しているためです。そのため、相続税発生から数年が経過していても調査されることがあります。税務調査の時期については、7月から12月に行われることが多いようです。

相続税の申告漏れの割合は約9割と非常に多い

相続税の申告漏れはレアケースではなく、税務調査を実施した内の約9割が該当したとのデータがあります。国税庁が2023年12月に発表した調査データによると、8,196件の実地調査件数の内7,036件に過少申告や申告漏れなどの違法行為が見つかりました。
参照:令和4事務年度における相続税の調査等の状況 | 国税庁

また、実施調査で発覚した1件あたりの追徴課税平均額は816万円にものぼります。決して安くない金額を後から支払わなくてはいけなくなるため、大きな負担になると予想されます。

相続税の時効は5年または7年

相続税にも時効が存在します。相続が発生してから10ヶ月以内に相続税を申告しなくてはいけませんが、5年経過すると時効が成立します。時効が成立すると相続税を徴収する権利は消失しますが、税から逃れるために相続財産を隠していた場合や、税務署へ虚偽の申告をした場合など、悪質性があると認められた場合には時効は7年に延長されます。悪質性が高いかどうかの判断は、故意に行ったかどうかではなく「偽りその他の不正があったか」といった観点から行われることが多いようです。そのため悪意の有無にかかわらず、単純に忘れていた、申告義務があると知らなかった場合でも7年に延長される場合もあります。

また、5年、もしくは7年をやり過ごせば払わなくて良くなると考える人もいるかも知れませんが、時効が過ぎるのを待つのは非常に危険です。相続税に関しては5件に1件、およそ20%の確率で税務調査が入ると言われています。調査で申告漏れが発覚すると本来なら払わなくて良いペナルティを払うことになるので、相続税を払わないといけないと知ったら速やかに申告をして納税しましょう。

追徴課税のペナルティと税率・計算方法

追徴課税には以下の4つの種類があり、それぞれ計算方法や税率、支払条件が異なります。

税の種類 内容 税率
延滞税 期限までに納付がなかった場合に発生 納期限から2カ月以内「年7.3%及び延滞税特例基準割合+1%いずれは低い方」/納期限から2カ月経過後「年14.6%及び延滞税特例基準割合+7.3%いずれか低い方」
重加算税 悪質な財産隠しなどを行っていた場合に発生 納付税額×35%(40%)
無申告加算税 相続税の申告をしていない場合に発生 本来の納税額×5~20%
過少申告加算税 申告や納税した金額が少ない場合に発生 追加本税×5%(10%)

相続税を払わなかった場合、本来納めなければならない税額に加えて上記ペナルティが課せられます。それぞれどういった際に加算される税なのか、また各税の計算方法を解説します。

延滞税:期限までに納付がなかった場合に発生

延滞税は、相続税の納付期限(相続発生から10カ月)までに納付がなかった場合に発生します。延滞税は延滞した日数に応じて加算されるため、遅れれば遅れるほど増えていくので注意しましょう。

延滞税の割合は納期限の翌日から2カ月以内と、2カ月を越えた場合とで異なります。

延滞日数 延滞税の割合
納期限から2カ月以内 年「7.3%」、もしくは「延滞税特例基準割合+1%」のいずれか低い方
納期限から2カ月経過後 年「14.6%」、もしくは「延滞税特例基準割合+7.3%」のいずれか低い方

延滞税の計算方法は「納付すべき本税の金額 × 延滞税の割合 × 滞納日数 ÷ 365」

延滞税の金額は「納付するべき本税の金額×延滞税の割合×滞納日数÷365」で求められます。本税の金額は10,000円未満は切り捨てて計算します。延滞税の割合は前述した通り納期限から2カ月以内かそれ以降かで異なります。滞納日数は、納期限日の次の日から完納した日までを数えます。ただし、納期限は理由によって異なります。

理由 納期限
申告したが未納付 法定期限と同日(相続税の場合は相続発生から10カ月)
期限後に申告、または修正申告 申告書を提出した日
税務署による更生や決定 更正通知書を発した日からひと月後の日

国税庁では延滞税の計算ができるページを設けているので、活用すると良いでしょう。
延滞税の計算方法 | 国税庁

また、以下の理由に該当する場合には、延滞税の計算期間の特例が設けられています。

  1. 期限内に申告書が提出されていて、法定申告期限後1年経過した後に修正申告または更生があった場合
  2. 期限後に申告書が提出されていて、申告書提出後1年経過した後に修正申告または更生があった場合
  3. 確定申告書を提出した後に減額更生がされ、その後さらに修正申告または更生があった場合

これらの期間は延滞税の計算期間に含まれません。つまり、申告後1年以内に誤りに気づき自主的に修正申告をすれば、延滞税は加算されないということです。

重加算税:悪質な財産隠しなどを行っていた場合に発生

重加算税は、相続税を少なくするために相続財産を故意に隠蔽するなど、悪質な工作があったと判断された際に課せられます。重加算税は追徴課税の中で最も高税率なペナルティです。重加算税の割合は以下の通りです。

  • 無申告の場合:40%
  • 過少申告の場合:35%

また、それぞれに加えて無申告加算税や過少申告加算税、納期限を超過していれば延滞税も支払うことになります。

重加算税の計算方法は「納付税額×35%(40%)」

重加算税の計算方法はシンプルです。本来の納付税額(本税)に、前述の割合をかけるだけです。過少申告の場合は35%を、無申告の場合は40%をかけるので、計算式は「納付税額×35%(40%)」となります。

無申告加算税:相続税の申告をしていない場合に発生

無申告加算税は、正当な理由なく申告期限内に相続税を申告しなかった際に課せられる追徴課税です。正当な理由とは、「災害発生または交通や通信の途絶」「期限後申告の特則に該当する事由(申告期限ギリギリに相続人構成の変化や取り分に関する判決が下されるなど、課税額が変化するような事情)」を指します。

無申告加算税の割合は以下の通りです。

本来の納税額のうち 税務調査前の事前通知前に自己申告した場合 税務調査の事前通知から税務調査を受ける前に申告した場合 税務調査を受けてから申告した場合
50万円以下の部分 5% 10% 15%
50万円を超える部分 5% 15% 20%

また、税務調査を受けてから申告した場合で、過去5年以内に無申告加算税または重加算税を科されたことがあれば、上記税率に10%が加算され「50万円以下:25%」「50万円超:30%」となります。ただし、令和6年1月1日以後に申告期限が来るものに関しては、以下のように法改正がなされ300万円を超える部分の税率が高くなりました。

本来の納税額のうち 税務調査前の事前通知前に自己申告した場合 税務調査の事前通知から税務調査を受ける前に申告した場合 税務調査を受けてから申告した場合
50万円以下の部分 5% 10% 15%
51万円以上300万以下 5% 15% 20%
300万円を超える部分 5% 25% 30%

無申告加算税の税率はどのタイミングで申告をしたかで変わります。税務調査の告知が来る前と来た後、調査が入ってからでは税負担額が大きく変わるため、無申告に気づいたらなるべく早いタイミングで申告を済ませましょう。また、申告期限後に申告、納付したということになるため、無申告加算税と延滞税の両方を納付する必要があります。

無申告加算税の計算方法は「本来の納税額×5~20%」

「本来の納税額×5~20%」が無申告加算税の計算式です。例えば100万円の相続税額に対して、税務調査の通知が来る前に自主的に期限後申告書を提出すれば無申告加算税は「100万円×5%=5万円」となります。同じ相続税額で、税務調査後に申告した場合は「(50万円×15%)+(50万円×20%)=17.5」となり、早いタイミングで申告した場合と税額に大きな差が出ます。

過少申告加算税:申告や納税した金額が少ない場合に発生

過少申告加算税は、期限内に申告や納税をしているものの、本来納めるべき金額よりも少ない場合に加算されます。ただし、過少申告が故意であると認定されると重加算税が適用されます。過少申告加算税はあくまで計算ミスや勘違いなどの、意図的でない過失の場合に適用されるものです。過少申告加算税も、前述の無申告加算税と同じく申告のタイミングによって税率が異なります。

税務調査前の事前通知前に自己申告した場合 税務調査の事前通知から税務調査を受ける前に申告した場合 税務調査を受けてから申告した場合
基本の税率 なし 5% 10%
当初の納税額と50万円いずれか多い方を超える部分 なし 10% 15%

表にある通り、税務調査の通知が来る前に自主的に修正申告を行えば、過少申告加算税は課税されません。また、税務署で申告について尋ねた際に、税務署職員が誤った指導をしたために過少申告になったなど、納税者に責任がない場合に過少申告加算税が課されないケースもあります。さらに、過少申告加算税が5,000円未満の場合は課税が免除されます。

過少申告加算税の計算方法は「追加本税×10%」

過少申告加算税は「追加本税×5%(10%)」で算出します。ただし、前述の通り当初に申告した税金または50万円の内、大きい方の金額を超える部分に関しては+5%加算されます。

相続税の税務調査で追徴課税が発生しやすいパターン

税務調査で発覚することの多い追徴課税ですが、発生しやすいパターンがあります。

  • 預貯金や資金の移動回数・頻度が多い
  • 申告書に不十分な点がある
  • 生前の所得と申告された財産に乖離がある
  • 借入額に見合う相続財産がない
  • 不動産の評価計算が間違っている
  • 暦年贈与を長期にわたって実施していた
  • 保険の計上漏れがある
  • 海外送金した資産が多い
  • 収入に対して家族の資産が多い
  • 遺産相続の金額が大きい
  • 無申告だった
  • 税理士に依頼をしないで自分で申告した

追徴課税が課せられると、少なくない金額を追加で払わないといけません。申告漏れやミスが起こらないよう、追徴課税が発生しやすいパターンを把握しておきましょう。

預貯金や資金の移動回数・頻度が多い

不動産よりも預貯金の割合が大きい方が、税務調査に入られることが多い傾向にあるようです。さらに、生前に入出金の回数や頻度が多い場合は、相続人が知らない第三者への金銭の貸付けや不動産取引をしていた可能性があると疑われます。

申告書に不十分な点がある

相続税の申告書に計算ミスや記入漏れなどがある場合も、調査の対象になります。単純なミスであっても、税務署から指摘があれば過少申告加算税や延滞税が追徴課税されます。

生前の所得と申告された財産に乖離がある

被相続人が生前に得ていた所得と、申告された相続財産に差がある場合も追徴課税が発生しやすいパターンです。税務署が把握する被相続人の所得よりも、相続財産が少ない場合は申告漏れが疑われて税務調査の対象になる可能性が高いでしょう。

借入額に見合う相続財産がない

被相続人が生前に多額の借り入れをしていた場合、その借入額に見合う相続財産が申告されていないケースです。多額の借り入れ額がある場合は、不動産を購入していた可能性などが疑われます。もし見合った不動産がない際には、借入金の使用用途を明らかにするための調査がおこなわれます。

不動産の評価計算が間違っている

持ち家などの不動産を相続した場合はその不動産の評価計算を行って申告書に記載しますが、評価計算のミスも税務調査で発覚しやすいケースの1つです。不動産の評価額は高額になりやすいため、少しのミスが相続税額に大きな影響を与える可能性があります。

暦年贈与を長期にわたって実施していた

贈与には贈与税が課されますが、生前贈与の場合毎年110万円以内なら非課税となる基礎控除があります。この制度を利用し、毎年少額ずつ控除額の範囲内で贈与することを暦年贈与と呼びます。ただし、長期間に渡って規則正しく暦年贈与が行われていると、「最初から多くの財産を相続させるつもりだった」とみなされて一括贈与と同様の税額を追徴課税される恐れがあります。

保険の計上漏れがある

相続が発生した場合に保険金を受け取るケースがありますが、保険金も相続税の対象になることがあります。保険金は「保険契約者」「被保険者」「保険金の受取人」など、それぞれの状況で相続税の対象になるかどうかが変わります。

相続税の対象になるのは下記のケースです。

  • 亡くなった人が契約者と被保険者の場合
  • 契約者と被保険者が別で契約者が亡くなった場合

相続税の対象にならないと思って放置していると、後で追徴課税が課される可能性が高いため保険契約をよく確認しておく必要があります。

海外送金した資産が多い

外国債や海外に金融商品への投資など、海外に送金している資産が多いケースです。また、課税回避のために財産を海外へ移すケースも増えているため、税務署は海外資産の把握に力を注いでいます。海外への送金が1回あたり100万円を超えると金融機関から税務署長宛に「国外送金等調書」が提出されます。調書には送金者や金額、送金目的などが記載されているため、そこで把握されている資産と申告内容に差異があれば、税務調査が行われます。

収入に対して家族の資産が多い

被相続人だけでなく、相続人となる家族の資産も調査対象です。被相続人の収入に対して家族に資産が不自然に多い場合は生前贈与が疑われ、税務調査が行われることがあります。また、被相続人が生前に子や妻など家族名義の通帳を作り、そこへ多額の資産を貯めていた場合(名義預金)も相続税申告の対象となります。

遺産相続の金額が大きい

単純に、遺産相続の額が大きい場合も追徴課税が発生しやすいといえるでしょう。遺産が大きい場合、具体的には2億円を超えるような場合は税務調査の対象になりやすいと言われています。これは、遺産総額が大きいと、意図的ではなくとも申告の漏れやミスが発生しやすくなるためです。

無申告だった

相続税を計算した結果、相続税が非課税になる場合はもちろん申告の必要はありません。さまざまな控除や特例を適用した結果、非課税となったケースです。しかし控除や特例の計算が間違っていたり、見落としがあったりといった理由で、実は相続税が発生していたのに無申告だった場合は追徴課税が発生します。ほかにも、小規模宅地等の特例などのように申告が適用の条件となっているものが漏れていた際も、税務署から指摘を受けることになるでしょう。

税理士に依頼をしないで自分で申告した

相続税の申告は、相続人が自らすることも可能です。しかし、税理士に依頼せず本人が申告した場合は、税務調査の対象になる可能性が高いです。相続税の申告には必要な書類が多く、不動産の評価計算や特例の適用など多くの作業が必要です。そのため、専門家以外が行った際には計算ミスや見落としがある可能性が高いと考えられ、チェックが厳しくなる傾向にあります。

相続税の税務調査対象にならないための対策

追徴課税が発生しやすいパターンにはさまざまなものがありますが、では税務調査の対象にならないためにはどのような対策を取ればいいのでしょうか。具体的には以下の3つの対策が挙げられます。

  • 相続財産を正しく把握しておく
  • 生前贈与をする場合は贈与契約書を書く
  • 相続税に関する知見がある税理士に依頼する

それぞれの対策を詳しく解説します。

相続財産を正しく把握しておく

相続税の申告を正しく行えば、当然ながら追徴課税は発生しません。そのためには、相続財産を正しく把握しておきましょう。相続財産には預貯金不動産有価証券などさまざなものがあります。自分が認知していない財産でも、後から相続していることが発覚すれば課税対象となります。

財産がそれほど多くない場合は自分でも調査可能ですが、多くの財産を保有している場合や不動産を持っている場合など、調査が難しいケースもあります。その場合は、税理士などの専門家に財産調査を以来すると安心です。

生前贈与をする場合は贈与契約書を書く

相続税の対策として生前贈与を活用する場合は、贈与契約書を作成しておきましょう。金銭の授受が生前贈与だと証明できない場合は、税務署から贈与ではなく相続だと判断されるかもしれません。贈与契約書を残しておけば、生前贈与であることの証明になります。

贈与契約書には決まった書式はありませんが、贈与の日時や金額、贈与者と受贈者の住所、お互いの署名、捺印を盛り込むのが一般的です。ネット上にはひな型を配布しているサイトもあるため、参考にすると良いでしょう。

相続税に関する知見がある税理士に依頼する

税務調査対象にならないための対策で、一番確実なのは税理士に相談することです。ただし、依頼する税理士を選ぶ際に注意するポイントがいくつかあります。

  • 税理士事務所に所属している税理士の数を調べる
  • 実績を確認する
  • 適正な税理士報酬を掲げている

信頼して任せられる税理士を選ぶためにも、上記のポイントをしっかりと押さえておきましょう。

税理士事務所に所属している税理士の数を調べる

相続税に知見のある税理士を探す際に、税理士事務所のHPを確認する人は多いでしょう。HPを見ると年間の申告件数が記載されていることがあり、申告件数の多い税理士事務所はそれだけ経験が豊富だと判断できます。

しかし、申告件数が多いにもかかわらず税理士の数が少ない事務所は要注意です。税理士の数が少ないと、それだけ1人の依頼人に割ける時間は少なくなります。数をこなさないといけないため、対応でも丁寧でない可能性もあるでしょう。しっかりと自分の問題に向き合ってもらうためには、税理士の数が少ない事務所は避けた方が無難です。

所属する税理士の数は、それぞれの事務所の公式HPや「日本税理士会連合会」の「税理士情報検索」で調べられます。

実績を確認する

税理士全員が相続税に強いとは限りません。税理士にはそれぞれ得意分野があるため、相続税をメインに扱っていない場合は望むような結果が得られない場合があります。まずは相続税の申告に関する実績があるかどうかを確認しましょう。あまり多くはありませんが、相続専門を掲げている事務所なら安心です。

適正な税理士報酬を掲げている

税理士の報酬は各事務所が自由に決められますが、目安は「遺産総額×0.5%~1%」です。目安の金額から大きく乖離していないかどうかが、まず確認するべきポイントになるでしょう。大幅に高い場合はもちろん、安すぎる場合も注意が必要です。

また、税理士報酬以外に「成功報酬」が追加で請求される場合もあります。税理士報酬が安くても成功報酬が加算されて、結局高くつく場合もあるので注意が必要です。安さだけを見るのではなく、適正な価格で依頼者に誠実に向き合ってくれる税理士を選ぶのが重要です。

追徴課税を受けた際に注意すべき点

相続税の申告が漏れていた、または記載ミスなどで追徴課税を受けてしまった場合、以下の点に注意が必要です。

  • 相続税には連帯納付義務がある
  • 納税は現金のみとなる
  • 納税しない場合は財産の差し押さえとなる危険性がある

それぞれのポイントを詳しく解説します。

相続税には連帯納付義務がある

連帯納付義務とは、財産を相続した人の内1人が追徴課税を受けた際に、相続人全員に連帯の納付義務があることです。(相続税法34条)対象の相続人が追徴課税を払えなかった場合は、他の相続人に税務署から支払いの通知が届きます。連帯納付が実行されると相続人の間の関係が悪化する恐れがあるため、追徴課税を受けたら速やかに支払うよう心がけましょう。

ただし、本来の納税義務者が延納の許可を受けていたり、申告期限から5年が経過する日までに税務署長からの通知がない場合など連帯納付義務が発生しないケースもあります。

納税は現金のみとなる

通常の相続税の場合は現金での納税が困難な場合に、不動産や株式などで支払う「物納」が認められていますが、追徴課税の場合は物納はできません。追徴課税の支払いは現金のみで、基本的に一括払いとなります。一度に多額の支払いが発生する場合があるため、まとまった資金を用意しておく必要があります。

納税しない場合は財産の差し押さえとなる危険性がある

追徴課税を請求されても支払わないと、督促状が届きます。それも放置し続けた場合、最終的には財産が差し押さえられることになります。下記は主な差し押さえの対象となる財産です。

  • 給与
  • 金融資産
  • 不動産
  • 保険の解約返戻金
  • 自動車などの動産

不動産が差し押さえられた場合は、競売によって売却されるため実際の価格よりも安い金額で処分されてしまいます。また、放置している間にも延滞税が加算されていくため、できるだけ速やかに支払いましょう。

自己破産をしても追徴課税はなくならない

借金やローン契約など通常の債務なら、自己破産をすれば免責されて返済の義務がなくなります。しかし、追徴課税は自己破産をしても免責はされません。追徴課税を含む「税金」は非免責債権のため、自己破産したとしても支払う義務があります。

ちなみに、税金の他にも「国民健康保険料」や「国民年金保険料」も非免責債権です。

追徴課税の負担を軽減するための対策

追徴課税は場合によって高額な税を請求されることもあり、大きな負担となります。負担を軽減するための対策を確認しておきましょう。

  • 相続財産は正確に把握しておく
  • 申告漏れが発覚したら速やかに修正申告を行う
  • 遺産分割が未完了な場合でも一旦申告を行う

各対策について、具体的にみていきましょう。

相続財産は正確に把握しておく

そもそも、始めから正しく申告や納税をしていれば追徴課税は発生しません。そのため預貯金や不動産、金融商品など所有する財産を正しく把握しておくことが重要です。認識していない財産がないかどうかを洗いざらい調査し、漏れのないように申告しましょう。

とくに、タンス貯金や名義預金などは見落とされがちです。また、持ち家を相続した場合も注意しましょう。不動産を相続した場合は所有権の移転登記法務局で申請したうえで、相続財産として申告する必要があります。しかし、亡くなった人と同居していてそのまま住み続けている場合に、相続手続きを忘れるケースがあります。

申告漏れが発覚したら速やかに修正申告を行う

相続税申告書を提出した後で漏れやミスが発覚した場合は、できるだけ速やかに修正申告を行いましょう。税務署から税務調査の事前通知が届く前に修正申告をすれば、過少申告加算税はかかりません。申告後1年以内の自主的な修正申告なら、延滞税も免責されます。もし延滞税が発生している状況でも、延滞日数が少ないほど低くなるため速やかな修正申告が大切です。

遺産分割が未完了な場合でも一旦申告を行う

申告期限までに遺産分割が終わらない場合は、未分割でも一旦申告と納税を済ませておくと追徴課税を避けられます。未分割で相続税の申告をした場合は「小規模宅地等の特例」や「配偶者の税額軽減」などが使えないため、納税額が多くなります。ただし、相続税申告書を提出する際に「申告期限後3年以内の分割見込書」を併せて提出すれば、遺産分割が終わった際に相続税の申告をやり直せます。

適用される特例や軽減措置は以下の通りです。

  • 配偶者の相続税の軽減
  • 小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例
  • 特定計画山林についての相続税の課税価格の計算の特例
  • 特定事業用資産についての相続税の課税価格の計算の特例

追徴課税が払えない場合は「納税猶予制度」を活用しよう

追徴課税は時に高額になり、払えない人もいるでしょう。どうしても払えない場合の措置として、「納税猶予制度」が設けられています。本来は一括で払わなければならない追徴課税ですが、納税猶予制度を活用すれば分割での支払いが可能です。

納税猶予制度には「換価の猶予」と「納税の猶予」の2つがあり、条件や猶予の期間が異なります。

換価の猶予

「換価の猶予」は既に差し押さえを受けている財産の換価(売却)を猶予したり、新たな差し押さえを猶予したりしてくれる制度です。また、換価の猶予が認められた期間の延滞税が軽減されます。換価の猶予が認められるには以下の6つの要件を全て満たす必要があります。

  1. 国税を納めることで事業の継続や生活な維持が困難になると認められること
  2. 納税について誠実な意思を有すると認められること
  3. 納期限から6カ月以内に換価の猶予の申請書が提出されていること
  4. 納付するべき国税についてすでに納税の猶予が適用されていないこと
  5. 原則として、他に国税の滞納がないこと
  6. 原則として、換価の猶予を申請する税額に相当する担保を提供できること

申請の際は、「換価の猶予申請書」と「財産収支状況書(猶予を受ける金額が100万円を超える場合は財産目録及び収支の明細書)」、「担保提供書」が必要です。どれも国税庁のHPから取得できます。必要書類を揃えて、各自治体の税務署へ提出しましょう。e-Taxでも申請可能です。

換価の猶予が認められると、最長1年間に渡って毎月分割して納付します。また、猶予期間中に完納できないことが分かった際には、やむを得ない理由がある場合に限り当初の猶予期間と併せて最長2年間まで延長されることもあります。その場合には、必ず最初の猶予期間が終わる前に申請が必要です。

納税の猶予

「納税の猶予」は自然災害や病気、事業の廃業などの理由で国税が納付できない場合に、納税を猶予してくれる制度です。納税の猶予が認められると、新たな差し押さえや換価の執行を免れる他、猶予期間中の延滞税が軽減または免除されます。既に差し押さえを受けている財産がある場合は、税務署に申請すれば差し押さえが解除される可能性もあります。納税の猶予にも条件があり、満たすべき要件は以下の通りです。

  1. 納税者に該当事実(災害や病気、盗難、廃業など)があること
  2. 該当事実のために納税が困難だと認められること
  3. 納税者から納税の猶予の申請書が提出されていること
  4. 「相当な損失を受けた場合の納税の猶予」の対象でないこと
  5. 原則として、納税の猶予を申請する税額に相当する担保を提供できること

4つ目の「相当な損失を受けた場合の納税の猶予」とは、災害によって全財産のおよそ20%以上の損失を受けた場合に適用されるものです。

納税の猶予の申請には、「納税の猶予申請書」と「災害などの事実を証する書類」、「財産収支状況書(猶予を受ける金額が100万円を超える場合は財産目録及び収支の明細書)」、「担保提供書」が必要です。こちらも管轄の税務署へ提出するか、e-Taxにて申請できます。

納税の猶予が認められると、換価の猶予と同じく最長1年間猶予期間が設けられます。猶予期間中は合理的かつ妥当な金額による分割納付となります。猶予期間中に完納できない際の措置についても、換価の猶予と同様です。

まとめ

相続税の追徴課税は正しく申告し、納期限までに納付していれば発生することはありません。まずは正確に申告するために、財産を正しく把握しておくのが重要です。税務調査で追徴課税が発生しやすいパターンは数多くありますが、財産を把握して漏れなく申告すれば追徴課税は課税されません。

また、もし申告漏れが後から発覚しても、税務署から調査の通知が来る前に修正申告すれば、追徴課税を最小限に押さえられます。

とはいえ、相続税の申告には必要な書類も多く非専門家が行うのは難しいものです。申告漏れやミスで追徴課税を課されないためにも、相続税に知見のある税理士に依頼するのがおすすめです。税理士事務所を探す際には、税理士の数や実績、報酬が妥当かどうかを基準に探すと良いでしょう。