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相続税が払えない場合はどうなる?ペナルティや対処法を解説

相続税が払えない場合はどうなる?ペナルティや対処法を解説

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「相続税が払えない場合はどうしたらいい?」「何かペナルティはあるの?」など、思いのほか高額の相続税を支払わなければならなくなり、「払えない」という事態におちいっている人も少なくないのではないでしょうか。

正当な理由なく期限内に申告・納税しなかった場合は相続税額に対して5%〜40%の「無申告加算税」が、納付期限を過ぎてから納付したときには2.4%または8.7%の「延滞税」が課税されます。

さらに滞納を続けると督促状が送付され、税務署からの電話や訪問、最終督促状が送られてきても納付しなければ、最終的に差し押さえのペナルティを受けます。そのため、払えないからといってそのままにするのは得策ではありません。

相続税が払えないときのために、5〜20年にわたって納税していく「延納」や不動産などの相続財産で納税する「物納」などの制度が用意されています。また、相続財産を売却する、金融機関で融資を受けるといった対処法もあるため、悲観せず実行できそうな対策を行いましょう。

この記事では、相続税を払えないときの対処法について解説します。相続税の負担を軽くするための方法も紹介しているため、相続税が払えなくて困っている人はぜひ参考にしてください。

相続税が払えないと税金の増加や差し押さえのペナルティがある

相続税を期限内に払えない場合、支払うべき税金が増えたり財産を差し押さえられたりといったペナルティを受けます。相続税の申告・納税には「被相続人が亡くなってから10カ月以内」という期限が設けられており、特別な事情があるケースを除いて期限の延長は許されないためです。

期限内に相続税の申告・納税をしなかったときに受ける追徴課税には、以下のものがあります。

追徴課税の名称 概要 税率
無申告加算税 正当な理由なく期限内に申告・納税しなかったときに課せられる ・税務調査の事前通知前に申告:5%
・通知後に申告:10%〜20%
※悪質と判断されると40%(重加算税)
延滞税 納付期限を過ぎてから納付したときに、期限翌日から納付日まで日数に応じて発生する ・納付期限翌日から2カ月間:2.4%
・2カ月を過ぎると8.7%
※令和4年1月1日〜令和6年12月31日までの期間

被相続人が亡くなってから10カ月以内に申告も納税もしなかった場合、上記が両方課されます。また、相続人が複数名存在するケースでは、相続人の中に滞納者がいると「連帯納付義務」によってほかの相続人が肩代わりしなければなりません。

ただし申告期限から1カ月以内であれば、自主申告によって無申告加算税を回避できます。たとえ申告期限内に申告・納付できなかったとしても、できるだけ早めに申告・納付することをおすすめします。

注意しなければならないのは、上記のようなペナルティを受けてもなお未納付を続けていると、最終的に財産を差し押さえられてしまうことです。財産の差し押さえは以下の流れで行われます。

  1. 督促状の送付
  2. 電話による督促
  3. 税務職員の自宅訪問
  4. 最終督促状の送付
  5. 差押予告書の送付
  6. 差押調書の送付
  7. 差押の実行

滞納し始めてすぐに差押が実行されるのではなく、差押は上記のように段階を踏んで行われます。細かい時期は市区町村によって異なりますが、督促状は通常納付期限から50日以内に発送されます。

法律上、督促状の送付から10日間納付されなければ差押できるとされているため、督促状が届いたら速やかに支払ったほうがよいでしょう。相続税を払えないことがわかっているなら、納付期限が過ぎる前に、後述する「相続税を払えない場合の対処法」を実践することをおすすめします。

なお、重加算税とは、悪質と判断される場合に課されるペナルティです。「悪質」とは、相続税が発生することを知りながら意図的に申告しなかったり、財産を隠したりすることを指します。

相続税が払えない主なケース

相続税が払えない理由はさまざまです。ここでは、相続税が支払えない主なケースを紹介します。

  • 被相続人の死亡後に凍結された預貯金口座は遺産分割協議が完了しないかぎり解除できないため、相続人同士の話し合いがまとまらない場合は預貯金口座から相続財産を引き出せず相続税が払えないことがある
  • 相続税は現金での一括納付が原則であるため、相続財産が不動産ばかりのケースでは、相続財産から出せる金額が少なく相続税が払えない場合が考えられる
  • 相続した不動産の売却益で相続税を納税する段取りをしていても、不動産の売却に時間がかかり、申告期限内に現金が用意できない可能性がある

相続人同士の話し合いがまとまらない

遺産分割協議の際の話し合いがまとまらないことが原因で、相続税が支払えないことがあります。人が亡くなると預貯金口座が凍結され、たとえ相続人であっても勝手に預貯金を下ろせなくなるためです。

人が亡くなり相続が発生すると、亡くなった人(被相続人)の財産はいったん相続人の共有財産になります。有効な遺言書があれば遺言書の意向に従いますが、なければ遺産分割協議で相続財産の分割方法を決める必要があります。

遺産分割協議」とは、被相続人の相続財産をどのように分けるかについて相続人全員で話し合うことです。相続人のうち誰かひとりでも欠けていると成立しないため、協議が長期にわたることも珍しくありません。

凍結された預貯金口座を再び利用できるようにするためには、遺産分割協議を完了させる必要があります。しかし協議がまとまらず分割方法が決定しないと、いつまで経っても凍結は解除できません。

相続税の申告・納税期限である「被相続人が亡くなってから10カ月以内」に口座の凍結が解除できなければ、相続人の個人資産で相続税を納めざるを得なくなります。そのため「相続税が支払えない」という事態におちいってしまいやすいのです。

遺産分割協議がまとまらない場合は、相続税額の分だけ先に遺産分割協議を行うか、「遺産分割前の相続預金の払い戻し制度」を活用することで被相続人の預貯金を落とせるようになります。それぞれの方法については後述します。

相続財産のうち不動産の割合が多く現金が少ない

相続財産が不動産ばかりで現金が少ないケースも、相続税の支払いに困る典型例です。相続税は現金での一括納付が原則です。そのため相続財産のうち不動産が多くの割合を占めていると、相続税を支払うための現金を確保しなければならなくなります。

相続財産の中に現金も十分含まれていればよいですが、相続財産から出せる現金が少なく、相続人自身も現金に余裕がない状態であれば支払えなくなる可能性があります。さらに資産価値の高い不動産であれば、相続税の評価額が高く納めるべき税額も高額になるため、支払いが厳しくなることも少なくありません。

被相続人が不動産投資やマンション・アパート経営を行っていた場合などは、資産価値の高い不動産を多く所有している可能性が高いため要注意です。

相続財産が不動産ばかりであるために相続税が払えないときは、何年かにわたって支払う「延納制度」の利用を検討するのもひとつです。相続財産のうち75%以上が不動産なら、20年の延納期間が認められます。延納制度については後述します。

相続する不動産の売却が進まない

相続する不動産の売却が決まらないうちに納付期限が来てしまい、相続税が支払えなくなるケースもあります。相続財産である不動産を売却して相続税を納める場合、買い手が見つからなければ現金化できないためです。

すぐに買い手が見つかればよいですが、そううまくいくものではなく、現金化に時間がかかることは珍しくありません。いつ買い手がつくかわからないため、不動産売却は期限内に納税できないリスクのある方法といえるでしょう。

「売りに出したはいいけれど、結局買い手がつかなかった」ということもあり得ます。よほど条件が良くないかぎり、売りに出してすぐ売れるとは思わないほうがよいでしょう。

また、売却できたとしても希望価格で売れるとはかぎりません。希望価格を大きく下回り、相続税分の資金が確保できない可能性も考えられます。その場合も、結局相続人の個人資産で不足分を補うしかなく、相続人に十分な資産がなければ支払えないという事態におちいってしまいます。

不動産の売却に時間がかかりそうなときや売却できるか不安な場合は、不動産の売却益を返済に充てる「不動産売却前提ローン」がおすすめです。不動産売却前提ローンについては後述します。

相続税を払えない場合の対処法

相続税を払えない場合でも、切り抜ける方法はいくつかあるため悲観する必要はありません。ここでは、相続税を払えない場合の対処法について解説します。

対処法 概要 メリット デメリット
延納 相続税を分割し5〜20年にわたって納付する 一括で支払わずに済む 利子税が発生する
物納 不動産などの現物で納付する ・売却が不要
・譲渡所得税がかからない
・利息がかかる
・財産の評価額が時価より低くなる
売却 相続財産の売却益で納付する ・多くの税金を納税できる
・取得費加算税の特例で節税できる
・売却益に税金がかかる
・売却に時間がかかる
融資 金融機関から融資を受けて納付する ・滞納を避けられる
・利子税より利率が低い金融機関もある
・担保や保証人が必要なことがある
・審査に時間がかかることがある
相続放棄 相続権を放棄するため相続税が発生しない ・相続税が発生しない
・借金を背負わずに済む
・相続開始から3カ月以内に手続きが必要
・プラスの財産も引き継げない
相続税の分のみの遺産分割協議 相続税の分だけ先に遺産分割協議し預金を引き出す ・ほかの相続人から同意を得やすい ・ほかの財産については別途遺産分割協議が必要
遺産分割前の相続預金の払い戻し制度 凍結された口座から、各相続人が預貯金を引き出せる 遺産分割が終わっていなくても預金を引き出せる 引き出せる金額に上限がある

5~20年間にわたって延納する

相続税が支払えない場合、5〜20年間にわたって延納するという選択肢があります。希望すれば誰でも利用できるといったものではありませんが、条件を満たしていれば支払い1回分の負担を軽くできます。

延納期間は原則5年です。しかし相続した財産の大半が不動産であれば、最長で20年の延納期間が認められます。

延納期間・延納の際にかかる利子税は以下のとおりです。

不動産が占める割合 延納相続税額の区分 最長延納期間 延納利子税割合
75%以上 動産 10年 5.4%
75%以上 不動産 20年 3.6%
50〜74% 動産 10年 5.4%
50〜74% 不動産 15年 3.6%
50%未満 一般 5年 6.0%

延納できる金額には上限があります。そのため相続税のすべてを延納の対象にはできません。

延納できる上限は以下の計算式で算出できます。

延納許可限度額=納付する相続税額-(相続人の財産-相続人と生計をともにする家族の生活費3ヶ月分-事業を行っている相続人は1ヶ月分の運転資金)

以下のケースを例に、限度額がどの程度になるのかを見てみましょう。

  • 納付すべき相続税額:100万円
  • 相続人の財産:100万円
  • 生活費3カ月分:60万円
  • 1カ月の事業運転資金:30万円
100万円(納付する相続税額)-(100万円(相続人の財産)-60万円(生活費3ヶ月分)-30万円(1ヶ月分の運転資金))=90万円

上記のケースでの延納許可限度額は90万円です。

参照:相続税・贈与税の延納の手引|国税庁

延納が認められる条件

延納が認められる条件は以下のとおりです。

  • 相続税額が10万円を超える
  • 正当な理由がある
  • 土地や有価証券などの担保提供が可能
  • 相続開始から10カ月以内に延納申請書や担保提供関係書類などを提出する

上記でいう「相続税額」とは、相続人全体での金額ではありません。延納が認められるかどうかの判断は相続人それぞれに対して行われるため、申請者に課された相続税額が10万円を超えている必要があります。

また、相続税を支払うと生活ができなくなってしまうなど、延納を希望する理由が正当なものでなければなりません。

担保提供する土地や有価証券などには、延納税額+利子税額に相当する価値が求められます。たとえば、ほとんど価値のない山林や農地など、誰も購入しようと思わないような土地では認められないでしょう。土地に関しては、抵当権の設定も必須です。

担保提供の対象は不動産が多いですが、株式や地方債、社債といった有価証券でも可能です。ただし担保提供については、延納税額が100万円以下で延納期間が3年以下であれば必要ありません。

なお、延納申請を行うためには、以下の書類を税務署に提出する必要があります。

  • 延納申請書
  • 担保提供関係書類
  • 金銭納付を困難とする理由書

担保提供関係書類とは、たとえば土地であれば以下のような書類を指します。

  1. 担保提供書
  2. 担保目録
  3. 速やかに担保関係書類の提出を行う旨の確約書
  4. 抵当権設定登記承諾書
  5. 印鑑証明書
  6. 土地の全部事項証明書または登記情報
  7. 固定資産税評価証明書

延納申請書や担保提供関係書類のうち1〜3の書類については、国税庁の公式ホームページに様式が掲載されているため、ダウンロードして使用するとよいでしょう。

延納申請の期限は相続開始から10カ月以内です。「相続開始から10カ月以内」に該当する日が土・日・祝日の場合は、税務署の翌営業日(平日)が期限です。

参照:延納・物納申請等|国税庁

延納するメリット・デメリット

相続税を延納するメリットは、一括で多額の相続税を支払わずに済むところです。納税を先送りにでき、一回あたりの負担を軽減できます。

それに対しデメリットは、延滞している間に利子税が発生することです。相続財産のうち不動産が占める割合や区分によって異なりますが、年利1.2〜6.0%かかります。支払う税金のトータル金額が大きくなるため、延納制度を利用しなかった場合よりも多くの税金を収めなければならない点には注意が必要です。

とはいえ、期限内に一括で支払えないのであれば、延納を検討するのもひとつでしょう。

なお、申告期限(相続発生から10カ月以内)から10年以内なら、物納への切り替えが可能です。

不動産や有価証券などを物納する

一括での納付も延納も困難な場合、「物納」が認められる可能性があります。物納とは、不動産や有価証券といった現物で相続税を納税できる制度のことで、主に「相続財産が不動産ばかり」というケースで利用可能です。

物納が認められるためには以下の条件をクリアする必要があります。

  • 延納による方法でも金銭での納付が難しい
  • 相続税の対象となる財産のうち「物納が認められる財産の種類」に該当するものであり、「物納できる財産の優先順位」をクリアしている
  • 相続開始から10カ月以内に物納申請書や物納手続関係書類などを提出する

注意点は、延納と物納のどちらかを選べるのではなく、延納制度を利用しても納付できないときに初めて物納が利用できる点です。そのため「延納でも支払えるけど物納で納税したい」というような理由では利用できません。

なお、物納にも延納の場合と同様に限度額があります。

物納が認められる金額は以下の方法で算出できます。

物納限度額=納付する相続税額-(相続人の財産-相続人と生計をともにする家族の生活費3ヶ月分-事業を行っている相続人は1ヶ月分の運転資金)-延納できる金額

以下のケースを例に、限度額がどの程度になるのかを見てみましょう。

  • 納付する相続税額:150万円
  • 相続人の財産:80万円
  • 生活費3カ月分:60万円
  • 1カ月の事業運転資金:20万円
  • 物納できる金額:20万円
150万円(納付する相続税額)-(80万円(相続人の財産)-60万円(生活費3ヶ月分)-20万円(1ヶ月分の運転資金))-20万円(物納できる金額)=130万円

上記のケースでの物納限度額は130万円です。「物納が認められる財産の種類」「物納できる財産の優先順位」については後述します。

物納できる財産の優先順位

前述のとおり、物納できる財産には以下のような優先順位があります。

順位 物納が認められる財産の種類
第1順位(1) 不動産・国債・地方債・上場株式・船舶など
第1順位(2) 不動産や上場株式のうち「物納劣後財産」にあたるもの
第2順位(3) 非上場株式など
第2順位(4) 非上場株式のうち「物納劣後財産」にあたるもの
第3順位(5) 動産

上から第1順位(1)→第1順位(2)→第2順位(3)というような順番で物納できます。

たとえば自動車は動産であるため順位は第3位です。そのため自動車で物納したいと思っても、ほかに不動産もあるなら不動産のほうが高順位であるため、不動産から物納する必要があります。

物納劣後財産」とは、ほかの財産と比べて価値が劣っている財産のことです。違法建築物や、宅地として造成できない市街化調整区域内の土地などが該当します。

第1順位(1)に該当する資産的価値の高い建物と(2)に該当する違法建築物がある場合、違法建築物のほうから処分したいと思っても、(1)の建物がある以上そちらから物納しなければなりません。

なお、上記に記載されていても、換金性が低いものや物納されても処分できないものなどは、物納にふさわしくない「管理処分不適格財産」として扱われるため物納できません。

次のうちいずれかにあてはまる場合は、物納できないため注意しましょう。

  • すでに担保提供されている
  • 複数の人物でその財産が誰のものであるかを争っている
  • 土地の境界が確定していない
  • 遺産分割が完了していない

物納のメリット・デメリット

相続税を物納するメリットは、財産の売却が不要であることや、限度額までは譲渡所得税が非課税になる点です。売却であれば売却益に対して譲渡所得税がかかるところ、物納は国への譲渡であるため譲渡所得税の対象にはなりません。

ただし、物納によって納めた金額が相続税額を上回った場合、納めすぎた分が還付される際に譲渡所得税がかかるため注意が必要です。また、相続税の申告から10年以内であれば、延納から物納への変更申請が可能なところもメリットといえるでしょう。

それに対しデメリットは、物納が認められるまでの期間中は利息がかかるところです。そのほか、物納する財産の評価額が時価よりも低くなる傾向にある点もデメリットのひとつです。

評価額が下がった状態の財産で物納するよりも、不動産の売却益で納税したほうがよいケースもあります。

相続財産を売却して納める

不動産や有価証券などの相続財産を売却し、現金化して納税する方法もあります。ただしこの場合は、遺言や遺産分割協議によって自ら相続することが確定している財産でなければなりません。ほかの相続人の相続財産に手をつけてしまわないよう注意しましょう。

なお、遺産分割協議で相続財産の配分が決まっていれば、相続税を支払う前に売却しても問題ありません。

現金化する相続財産は不動産が一般的ですが、すぐに売却できるとはかぎらないため、申告期限までに現金化できない可能性があるときは別の方法を検討する必要があります。おすすめなのは、株式や地方債などの有価証券、貴金属類といった現金化しやすい財産です。

相続財産を売却して納めるメリット・デメリット

相続財産の売却益で相続税を納めるメリットは、物納よりも高く評価されやすいため、多くの税金を納税できる点です。また、不動産が購入時よりも高く売れると譲渡所得税がかかることがありますが、取得費加算の特例によって節税できる可能性があります。

「取得費加算の特例」とは、相続した財産を相続開始から3年10カ月以内に売却した場合に、相続税額の一部を取得費に加算できる特例です。これにより、譲渡所得税の負担を軽くできます。

デメリットとして挙げられるのは、売却益に税金がかかることです。たとえば不動産を売却するなら、譲渡所得税のほかにも印紙税や、不動産会社に支払う仲介手数料にかかる消費税などが課税されます。

不動産売却の前に、被相続人から相続人に不動産の所有権を移す登記「相続登記」も申請する必要があるため、登録免許税もかかります。

また、不動産の場合は売却に時間がかかることが多く、申告期限に間に合わないおそれがある点もデメリットです。不動産よりも、流動性のある有価証券などのほうが売却しやすいでしょう。

金融機関から融資を受けて納める

金融機関から融資を受けるのもひとつです。金融機関から融資を受ければ、相続税を支払う資金を確保できます。今後不動産を売却する予定がある場合など、返済に充てられる資金があるなら有効な手段といえるでしょう。

おすすめは、「不動産売却前提ローン」の利用です。不動産売却前提ローンとは、売却する予定の不動産を担保に融資を受け、不動産の売却益を返済に充てるローンです。不動産を売却する前に資金を確保できるため、延納や物納を検討することなく相続税を納税でき、申告期限までに不動産が売却できなくても問題ありません。

なお、金融機関によっては「売却つなぎローン」「売却物件ローン」など、名称が異なることがあります。

金融機関から融資を受けるメリット・デメリット

金融機関から融資を受けるメリットは、申告期限までに相続税を支払うための資金が用意できなくても滞納を避けられることです。金融機関によっては延納の利子税よりも利率が低いところもあるため、より利率が低い金融機関を探して融資を受けてもよいでしょう。

ただし、融資を受けるために担保や保証人を求められるケースや、審査に時間がかかることがある点はデメリットです。また、審査の結果融資を受けられないこともあります。審査に通らなかった場合は、ほかの方法を検討しなければなりません。

相続放棄をする

どうしても相続税を支払えない場合、相続放棄をすれば相続税を支払わずに済みます。相続放棄とは、はじめから相続人ではなかったことにする手続きです。相続放棄=すべての財産を引き継ぐことを放棄することであるため、相続税も発生しません。

「すべての財産」には、預貯金や不動産などのプラスの資産だけでなく、借金やローンといったマイナスの資産も含まれます。たとえば被相続人に多額の借金があった場合、相続放棄することによって借金を背負わずに済むのはメリットといえるでしょう。

また、相続人ではなくなるため、遺産分割協議でもめて争続トラブルに発展しているようなケースでも巻き込まれずに済みます。

ただし、相続放棄を選択すると被相続人の財産を一切持ち出せなくなるというデメリットもあります。たとえば被相続人の持ち家で被相続人と同居していた場合、相続放棄をすると家を相続できないだけでなく家財道具なども持ち出せなくなるため注意しましょう。

「相続が開始したことを知ったときから3カ月以内」に申立てしなければ放棄できなくなることや、一度相続放棄をするとあとで撤回したくなったとしても撤回できない点もデメリットです。そのため、相続放棄を選択するときは慎重に検討する必要があります。

相続税の分だけ遺産分割協議を行って預金を引き出す

相続財産で相続税の支払いが十分できる場合でも、相続人同士でもめているために預貯金を引き出したり不動産を売却したりできず、相続税を払えないケースもあります。

遺産分割協議がまとまらず相続税が払えそうにない場合、先に相続税の分だけを協議し、預金を引き出す方法があります。

遺産分割協議では、必ずしも一度にすべての相続財産について決定する必要はなく、一部の財産を対象に協議することも可能です。相続税を支払えるだけの残高がある預金口座を対象に、協議を行うとよいでしょう。

とりあえず納税資金分の遺産分割方法さえ決定すれば、預金を引き出して納税できます。申告期限内に相続税を納め、追徴課税を避けることが目的であるため、協議でもめているケースでも相続人たちの同意は得られやすいでしょう。

遺産分割前の相続預金の払戻し制度を活用する

遺産分割前の相続預金の払い戻し制度」を活用するのもひとつです。遺産分割前の相続預金の払い戻し制度とは、遺産分割が終わっていなくても、口座名義人が亡くなったことで凍結された預貯金口座から各相続人が払い戻しを受けられる制度をいいます。

遺産分割が終わらないかぎり、預貯金の払い戻しはできないのが原則です。しかし2018年の相続税改正によって、2019年7月1日以降は遺産分割協議前でもほかの相続人の同意なく相続預貯金の一部払い戻しが可能になりました。

ただし、引き出せる金額に上限がある点には注意が必要です。

算出方法は以下のとおりです。

利用開始時の預貯金額(口座や明細ごと)×1/3×払戻しを行う相続人の法定相続分

また、同一の金融機関からは150万円までしか引き出せません。引き出せる金額に限度があるため、相続税額に満たない可能性があることや、有効な遺言書があると払い戻しできない点にも注意しましょう。

参照:遺産分割前の相続預金の払い戻し制度|一般社団法人全国銀行協会

現金の生前贈与で非課税になるケースがある

生前贈与には、非課税になる制度がいくつかあります。生前贈与を活用し資産を減らしておけば、将来相続が発生したときに相続財産が減るため、その分相続税を抑えられるでしょう。

ここでは、現金の生前贈与で非課税になるケースについて解説します。

  • 年間110万円以内で「暦年贈与」を長期的に行うことで、多くの財産を非課税で贈与できる可能性がある
  • 暦年贈与を行う場合は、毎回贈与契約書を作成したり贈与の金額・時期をずらしたりして「連年贈与」とみなされないよう注意する
  • 婚姻関係が20年以上ある夫婦なら、居住用不動産や購入資金を贈与「おしどり贈与」を利用すると2,000万円まで非課税で贈与を受けられる
  • 両親や祖父母から支援を受けて住宅を新築する場合は、「住宅取得等資金の贈与の特例」を利用すると500万円または1,000万円まで非課税で贈与を受けられる
  • 「教育資金贈与の非課税制度」を利用すると、両親や祖父母から30歳になるまでに教育資金として受けた贈与が1,500万円まで非課税になる
  • 「結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置」を利用すると、18歳〜50歳になるまでに結婚・子育て資金として受けた贈与が1,000万円まで(挙式代などは300万円まで)非課税になる

110万円以内で暦年贈与を行う

110万円以内で「暦年贈与」を行い、生前に財産を減らしておくことは相続税対策につながります。

暦年贈与とは、110万円の基礎控除枠を活用した贈与方法です。1月1日〜12月31日までの1年間に贈与した金額が110万円の基礎控除以内であれば、贈与税はかかりません。申告も不要です。

その仕組みを利用し、将来相続人になるであろう子どもや孫に対し、相続が発生してからではなく生前にコツコツ贈与していくのが暦年贈与です。預貯金や株式を分割して譲渡したい場合に適しているといえるでしょう。

贈与者が若いとその分贈与できる期間も長くなると考えられるため、一度に贈与する金額が少なくても、合計何千万円もの大きな金額を非課税で贈与できるのが魅力です。

なお、「110万円」という枠は、贈与を受ける人1人に対しての金額です。たとえば子どもが複数名いるなら、それぞれに110万円ずつ非課税で贈与できます。

子ども4人に対し、20年にわたって110万円ずつ贈与したときの非課税額は以下のとおりです。

110万円×20年×4人=8,800万円

贈与は何人に対して行っても構いません。贈与をする対象が多ければ多いほど節税効果が期待できます。

参照: No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)|国税庁

連年贈与や贈与者が死亡したタイミングに注意する

暦年贈与は相続税の節税対策として有効な方法ですが、「連年贈与」や贈与者の死亡のタイミングには注意が必要です。

連年贈与とは、同じ人に何年も続けて贈与した場合に、「はじめからすべての金額を贈与するつもりだったのではないか」と判断されることです。その結果、贈与した合計額に贈与税がかけられます。

たとえば110万円を10年間にわたって贈与していた場合は、1,100万円に対して贈与税がかかります。このように、多額の資産を小分けにして贈与すると、連年贈与とみなされて総額分の贈与税を求められる可能性があることを知っておきましょう。

そのほか、相続時に贈与総額分の相続税の納税を求められることもあるため、以下のような対策をしておくことをおすすめします。

  • 毎回贈与契約書を作成する
  • 金額や時期を毎回ずらす

贈与が行われたことを証明できるよう毎回贈与契約書を作成したり、贈与する金額や時期を毎回ずらしたりするなど、連年贈与とみなされない工夫をしましょう。

贈与者が亡くなるタイミングにも注意が必要です。相続開始前3年以内に受けた贈与については、相続財産としてカウントされる「生前贈与の加算期間」があるためです。

たとえば2013年から10年間にわたって毎年10月に贈与を受け、贈与者が2023年12月に亡くなった場合、2022年10月、2023年10月に受けた贈与が相続税の対象になります。

ただしこの加算期間については、2023年度の税制改正によって以下のように変更されました。

  • 2023年12月31日までに行った贈与:相続開始前3年以内
  • 2024年1月1日以降に行った贈与:相続開始前7年以内

2024年1月1日以降に行われた贈与については、相続開始前3年ではなく「7年以内に受けた贈与財産」が相続税の対象になります。延長された4年間については、4年の間に贈与された贈与財産のうち合計で100万円が控除されます。

いつ亡くなるかは誰にも予想できないため対策しようがありませんが、健康なうちから贈与をスタートさせ、できるだけ長期間にわたって贈与していくことが重要です。

なお、相続開始前3年または7年以内の贈与でも、受贈者が相続人以外の人で、その人に対して遺贈を行わなければ相続財産にはなりません。

夫婦間で居住用不動産や購入資金を贈与する(おしどり贈与)

夫婦間で居住用不動産や不動産の購入資金を贈与する「おしどり贈与(贈与税の配偶者控除)」を利用するのもよいでしょう。

おしどり贈与とは、婚姻関係が20年以上ある夫婦間で居住用の不動産、またはそれを購入する資金を贈与した場合に贈与税が控除される制度です。贈与者が亡くなった場合でも、相続財産ではなく贈与財産として扱えます。

控除の上限は2,000万円までです。110万円の「贈与税の基礎控除」との併用が可能であるため、あわせて2,110万円まで非課税で贈与できます。

ただし婚姻期間以外にも、以下のような要件があります。

  • 住宅やその敷地が日本国内にある
  • 婚姻期間が20年を過ぎてから行われた贈与である
  • 贈与の翌年3月15日までに贈与された住宅または贈与された資金で取得した住宅に住み、その後も住み続ける
  • その敷地に存在する住宅の所有者が贈与者、その配偶者、配偶者と同居する親族のいずれかである(住宅の敷地のみに制度を適用する場合)

「婚姻関係」とは法律上の婚姻のことを指します。制度を利用する条件は「戸籍上の婚姻期間が20年以上」であるため、内縁関係や事実婚の期間は含まれません。

また、1年未満はカウントしないため、婚姻期間が19年11カ月の場合は対象にならない点にも注意が必要です。

なお、同じ配偶者からは一生に一度しか控除を受けられません。離婚し別の相手と再婚すればまた控除を受けられますが、その場合はまた20年以上の婚姻期間が必要です。

参照: No.4452 夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除|国税庁

住宅取得等資金の贈与の特例を活用する

住宅取得等資金の贈与の特例」を活用することも、相続税対策として有効な手段です。住宅取得等資金の贈与の特例とは、両親や祖父母などから住宅用家屋の新築資金などを贈与された場合に、一定額の贈与税が免除される制度です。

非課税の限度額は以下のとおりです。

  • 耐震性・省エネ性・バリアフリー性のある住宅用家屋:1,000万円まで
  • それ以外:500万円まで

特例を活用するためには、受贈者(贈与を受ける人)と住宅がそれぞれ要件を満たさなければなりません。

受贈者の要件は以下のとおりです。

  • 贈与者の子どもや孫である
  • 贈与のあった年の1月1日時点で18歳以上である
  • 贈与のあった年の合計所得金額が2,000万円以下である(建築する住宅の床面積が40㎡〜49㎡なら1,000万円以下)
  • 2009年分〜2021年分までに「住宅取得等資金」の特例を受けていない
  • 自分の配偶者や親族などから取得した住宅ではない
  • 共有の場合も含め、受贈者が取得した住宅を所有する
  • 一定の場合を除いて、贈与があったときに受贈者が日本国内に住所を有している
  • 贈与のあった年の翌年3月15日までに、贈与された資金を全額使って住宅を購入し住み始めるか、その後遅滞なく住み始めることが確実である
  • 贈与のあった年の翌年12月31日までに新築した住宅に居住している

住宅の要件は以下のとおりです。

  1. 日本国内に存在している
  2. 床面積が40㎡以上240㎡以下であり、そのうち住宅部分が2分の1以上を占めている
  3. 建築されてから使用されていない家屋、建築されてから使用されたことのある昭和57年1月1日以降建築の家屋、建築されてから使用されたことのある、耐震基準に適合することが書類によって証明された家屋のうちいずれかに該当する(新築・中古)
  4. 3に該当しない場合、耐震改修を行うことについて都道府県知事などに申請し、贈与の翌年3月15日までに家屋の耐震基準が適合するようになった(新築・中古)
  5. 自分が所有し居住している家屋に増改築が行われ、一定の工事に該当することを「確認済証の写し」「検査済証の写し」「増改築等工事証明書」などの書類によって証明できる(増改築)
  6. 工事費用が100万円以上である(増改築)

2023年12月末で終了する予定でしたが、2024年度の税制改正によって2026年12月末まで延長されています。

参照:No.4508 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税|国税庁

教育資金を一括贈与する

教育資金贈与の非課税制度」を利用して、教育資金を一括贈与することも相続税対策のひとつです。教育資金贈与の非課税制度とは、両親から子どもへ、祖父母から孫からというように、直系尊属から教育資金を一括贈与されたときの贈与税が非課税になる制度です。

本来であれば、贈与額が年間110万円を超えたときは、超えた部分に対して贈与税がかかります。しかし非課税制度を利用すれば、贈与を受ける側が30歳になるまでに贈与された教育資金が、1,500万円を上限に非課税になります。

非課税の対象になる教育費は以下のとおりです。

  • 入学金
  • 授業料
  • 給食費
  • 通学にかかる交通費
  • 寮の家賃
  • 修学旅行代

そのほか、500万円までであれば塾や習い事の費用も該当します。ただし30歳未満であっても、贈与を受ける側の所得が1,000万円を超えてしまうと対象外になるため注意が必要です。習い事については、22歳までしか対象になりません。

なお、2023年の税制改正によって期限が3年間延長されたため、非課税制度を利用できるのは2026年3月31日までです。

参照:No.4510 直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税|国税庁

結婚・子育て資金を一括贈与する

結婚・子育て資金を一括贈与し、「結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置」の利用を検討するのもおすすめです。

結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置とは、両親や祖父母が18歳以上50歳未満の子どもや孫に、結婚や子育てのための資金を一括で贈与した場合に贈与税が非課税になる制度です。結婚や子育て以外に、結婚後の新生活にかかる費用や不妊治療、出産などにも利用できます。

上限は、贈与を受ける人1人につき合計1,000万円までです。ただし使用目的によって、以下のように枠が決まっています。

  • 妊婦健診・不妊治療・子どもの医療費や保育料など:1,000万円
  • 挙式・披露宴・新居費用など:300万円

注意点は、枠は上記のように決められているものの、「非課税になるのはあわせて1,000万円まで」という点です。合計で1,300万円までではありません。

また、50歳になった時点で資金が残っているときは、その残った部分について、贈与を受けた側に贈与税がかかります。資金を使いきらないうちに贈与者が亡くなった場合、資金の残りが相続財産に加算されることも念頭に置いておく必要があるでしょう。

なお、こちらの非課税措置も2023年の税制改正によって期限が2年間延長されています。2025年3月31日まで利用できます。

参照:No.4511 直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税|国税庁

まとめ

相続税を払えない場合の対処法などについて解説しました。

相続税が思いがけず高額だったときや、遺産分割協議が申告期限までに整わないなどの理由から、相続税が払えないことは珍しくありません。しかし、払えないからといってそのままにしておくと、無申告加算税や延滞税などのペナルティを受ける可能性があるため注意が必要です。

延納や物納など、相続税が払えないときのために利用できる制度は用意されています。また、相続財産を売却する、金融機関で融資を受けるなどの方法や、相続税の負担を軽くするために生前贈与を活用するといった選択肢もあります。

相続税を滞納する事態にならないよう、事前に対策を練っておく必要があるでしょう。

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更新日 : 2024年12月02日
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