遺産相続で孫は法定相続人になれない
法定相続人とは、民法で定められている相続人のことです。被相続人が遺言書を残していない場合は、法定相続人が財産を相続する権利を持ちます。
孫は代襲相続をする場合を除いて法定相続人にはなれないため、祖父母の遺産を相続するのは原則不可能です。代襲相続とは、本来遺産を相続するはずだった被相続人の子どもがすでに亡くなっている場合、その子供が代わりに相続できる制度のことです。法定相続人になれるのは、被相続人の配偶者と子ども、両親、兄弟姉妹に限られています。配偶者は常に法定相続人になり、配偶者以外は相続順位が最も高い人が法定相続人になります。
- 常に相続人:配偶者
- 第1順位:子ども(子どもが相続できない場合は孫)
- 第2順位:両親(両親が相続できない場合は祖父母)
- 第3順位:兄弟姉妹(兄弟姉妹が相続できない場合は甥や姪)
被相続人の子どもが存命であれば、法定相続人は被相続人の配偶者と子どもになるため、孫は法定相続人になれません。ただし、下記の事情があって本来相続するはずだった子どもが相続できない場合は、孫が相続人となりその子どもの遺産の取り分を相続できます。
- 被相続人の子ども(孫の親)が先に死亡している場合
- 被相続人の子ども(孫の親)が相続欠格・廃除によって相続権を失った場合
上記のような特別な事情がなければ孫は祖父母の遺産を相続できないため、生前に相続対策をとっておく必要があります。
孫に遺産相続させる方法
原則法定相続人になれない孫に遺産を相続させたい場合は、生前に相続対策をしておく必要があります。孫に遺産相続させるための具体的な対策としては、主に下記の3つが挙げられます。
- 遺言書で孫を受遺者に指定する
- 孫と養子縁組を結んで相続人にする
- 家族信託で孫を受益者に指定する
ここからは、上記の相続方法についてそれぞれ詳しく解説していきます。
遺言書で孫を受遺者に指定する
孫に遺産を相続させたい場合は、孫を受遺者(遺産の受け取り人)に指定した遺言書を作成しておきましょう。被相続人は、遺言書で遺産を相続させたい人や配分などを法定相続人以外も含め自由に決められます。被相続人が法的に有効な遺言書を残していた場合は、法定相続よりも遺言書の内容が優先されるため、孫や子どもの配偶者、友人など法定相続人になれない人にも遺産を相続させることが可能です。
遺言書は、紙とペンと印鑑さえあればいつでもどこでも作成できます。しかし、遺言書は民法で定められているルールに従って作成しないと遺言内容が無効になります。そうなると、孫を受遺者に指定していても遺産を相続させられません。
また、兄弟姉妹以外の法定相続人には遺留分が発生する点にも注意が必要です。遺留分とは、法定相続人に最低限保証されている相続分のことで、遺言内容にかかわらず請求された場合は必ず支払わなければなりません。
遺留分は法定相続人と同じように、配偶者以外は最も高い順位者のみしか請求権はありません。また、遺留分が発生する法定相続人の組み合わせによって遺留分で請求できる額も下記のように変化します。
法定相続人 |
遺留分 |
配偶者のみ |
2分の1 |
子供のみ |
2分の1 |
両親のみ |
両親合わせて3分の1 |
配偶者と子供 |
配偶者:4分の1
子供:全員合わせて4分の1 |
配偶者と両親 |
配偶者:3分の1
両親:合わせて6分の1 |
そのため、遺留分が請求された場合は孫に相続させるはずだった分の遺産が減ったりなくなったりしてしまう可能性がある点に注意が必要です。
遺言書を作成する際は、不備があって無効になったり遺留分によるトラブルを防いだりするためにも弁護士や司法書士、行政書士などの専門家に相談しながら作成するのをおすすめします。
家族信託で孫を受益者に指定する
家族信託とは、自分の財産の管理や処分、運用を信頼できる家族に任せられる制度のことです。家族信託では「委託者」「受託者」「受益者」の3者間で信託契約を締結します。それぞれの役割は以下の通りです。
- 「委託者」:財産の所有者であり、管理・運用・処分を「受託者」に依頼する
- 「受託者」:「委託者」から依頼された財産の管理・運用・処分を実行する
- 「受益者」:「受託者」の管理・運用・処分によって発生した利益を受け取る
家族信託では遺言書と同様に、委託者が死亡した後の受益権の承継先を指定できます。相続時に受益権が孫に移るように家族信託契約を結んでおけば、法定相続人になれない孫も祖父母の遺産を相続可能です。
また、通常の遺言では一世代までしか相続人を指定できませんが、家族信託の場合は何世代にも渡って継承先を指定する「連続信託」ができます。たとえば、自分の死後初めに遺産を相続するのは子供、子供の死後は孫に相続させるなど、自分の死後の相続人もあらかじめ指定可能です。そのため、養子縁組の手続きをしなくても孫に財産を残せるメリットがあります。
孫と養子縁組を結んで相続人にする
養子縁組とは、血縁関係がない者同士で法律上の親子関係を結べる制度です。祖父母と孫が養子縁組を結べば法律上の親子関係になるので、祖父母が死亡したときは孫も法定相続人として遺産を相続する権利を持てます。民法上、養子は実子と同じように扱われるため、相続順位も相続割合も実子と変わりなく祖父母の遺産を相続できます。
また、孫と養子縁組して法定相続人を増やすのは、相続税対策にも有効です。相続税は課税対象の遺産から基礎控除を引いた額に対して課税されますが、基礎控除額は法定相続人が1人増えるごとに600万円増えます。基礎控除内に遺産額が収まっていれば相続税を納税する義務もなくなるため、相続税対策として養子縁組制度を利用するのもおすすめです。
ただし、孫を養子縁組する場合は基礎控除に含められる人数に以下の制限があるため注意が必要です。
実子がいる場合 |
1人まで |
実子がいない場合 |
2人まで |
法律上、養子を迎える人数には制限はありません。しかし、相続税の基礎控除に含められるのは1~2人までなので注意が必要です。
養子縁組を結びたい場合は、養親(祖父母)または養子(孫)になる人の本籍地または所在地の市役所で「養子縁組届」を提出します。自分の孫と養子縁組する場合は家庭裁判所からの許可は必要ないので、当事者が同意の上で届出をすれば養子縁組が結べます。ただし、孫と養子縁組を結ぶ際には下記の要件に注意が必要です。
- 孫が15歳未満の場合:法定代理人(孫の実父母)の承諾が必要
- 孫に配偶者がいる場合:配偶者の同意が必要
孫が15歳未満で実父母からの承諾が得られない場合は、孫が15歳以上になるまで待つしかありません。また、孫の配偶者からの同意が得られない場合、原則養子縁組はできないため注意が必要です。ただし、配偶者が病気などの事情によって意思表示できない場合は同意を得る必要はありません。
なお、孫を養子に迎えると租税回避のために行ったのではないかと疑われる可能性があります。租税回避とは、税法違反にならない方法で課税対象額を減らす行為です。租税回避自体は違反行為ではないため、疑われたとしても罰則を課されることはありません。しかし、租税回避が認められると相続税の場合は孫の分の基礎控除が認められない可能性があるため注意が必要です。
遺産相続以外で孫に遺産を渡す方法
遺産相続以外でも、孫に遺産を渡す具体的な相続方法としては、下記の2つが挙げられます。
- 生命保険の受取人名義を孫にする
- 生前贈与で孫に遺産を譲渡する
ここからは、上記の譲渡方法についてそれぞれ詳しく解説していきます。
生命保険の受取人名義を孫にする
生前に生命保険に加入して受取人名義を孫に指定しておけば、加入者の死後に保険会社から支払われる保険金を孫に渡せます。生命保険金は受取人固有の財産になり、遺産分割の対象外になるため、孫は法定相続人と話し合わなくても保険金の受け取りが可能です。ただし、死亡保険金は「みなし相続財産」に該当するため、相続税の課税対象となる点に注意が必要です。
みなし相続財産とは、死亡保険金や死亡退職金など、被相続人の死亡をきっかけに受け取る財産のことを指します。みなし相続財産は民法上の相続財産ではなく、相続発生時の遺産分割の対象にはならないため、法定相続人ではない人や相続放棄をした人でも相続が可能です。しかし、相続税法上では相続財産としてみなされるため、孫が受け取った死亡保険金も相続財産として計上したうえで相続税を計算しなければなりません。
死亡保険金には「法定相続人の数×500万円」の非課税枠がありますが、この非課税枠が適用されるのは受取人が法定相続人だった場合のみです。代襲相続や養子縁組などの事情がない限り、孫は法定相続人になれないため、孫が死亡保険金を受け取った場合は全額が相続税の課税対象になります。
生前贈与で孫に遺産を譲渡する
生前贈与とは、自分が生きている間に自分の財産を他者に無償で譲渡することです。生前贈与を活用すれば、法定相続人になれない孫にも確実に財産を譲渡できます。また、生前贈与した分だけ相続財産が減少するので、将来法定相続人が支払う相続税を節税できるメリットもあります。
1年間に受け取った生前贈与の金額によっては贈与税が発生しますが、非課税枠を利用すれば贈与税の負担を軽減しつつ、財産を残してあげたい人に財産を譲渡可能です。贈与税の非課税枠を利用して生前贈与する方法は、主に下記の4つがあります。
- 1年間のうち110万円以下で贈与する暦年贈与
- 教育資金として最大1,500万円または500万円を一括贈与
- 結婚・子育て資金として最大1,000万円を一括贈与
- 住宅取得資金として最大1,000万円または500万円を贈与
ここからは、上記の方法についてそれぞれ詳しく解説していきます。
1年間のうち110万円以下で贈与する暦年贈与
1年間に贈与を受けた金額が110万円以下であれば、贈与税は非課税になります。この贈与税の基礎控除枠を利用し、贈与税がかからないように生前贈与を行う方法を暦年贈与といいます。
暦年贈与を行えば、贈与税の負担を大幅に軽減しつつ孫に多くの財産を残してあげられます。ちなみに贈与税の基礎控除枠は、後ほどご紹介する「教育資金」「結婚・子育て資金」「住宅取得資金」の非課税制度とも併用可能です。一方で、暦年贈与には下記の2つの注意点があります。
- 相続開始前3~7年以内に行われた生前贈与は相続税の課税対象になる
- 暦年贈与が「定期贈与」とみなされると、毎年非課税枠内で贈与していても贈与税が発生する
相続開始前3~7年以内に行われた生前贈与は、もともと生前贈与が無かったものとみなされるため、贈与財産も相続財産として計上したうえで相続税の計算を行います。このルールを「生前贈与加算」といいます。
これまでは相続開始前3年以内の生前贈与が加算対象でしたが、2023年の税制改正で3年から7年に延長されました。この7年ルールは2024年1月1日以降の贈与で適用されますが、突然持ち戻し期間が7年に変わるわけではありません。2026年12月までの相続では3年以内の贈与が加算対象で、2027年1月から4年間は加算対象期間が毎年1年ずつ延長されていき、2031年に発生した相続から一律で7年以内の生前贈与が加算対象になります。
生前贈与加算によって相続財産が基礎控除額を超過すると相続税が発生してしまうので、孫に財産を残しつつ相続税対策もするなら、早めに生前贈与を行うのをおすすめします。また、税務署に暦年贈与が「定期贈与」だとみなされてしまうと、毎回非課税枠内で贈与していても一括で贈与する意図があったとみなされ、想定外の贈与税が発生する恐れがある点にも注意が必要です。
定期贈与とは、毎年一定の金額を贈与することが決まっている贈与のことを指します。税務署から定期贈与だとみなされないためには、下記の点に注意して贈与を行うのがポイントです。
- 贈与を受けたら毎回贈与契約書を作成する
- 毎回異なる金額・タイミングで贈与する
上記に配慮して贈与を行えば、生前贈与はあくまでも毎回たまたま行われたもので、最初から毎年贈与するつもりはなかったことを証明できます。
教育資金として最大1,500万円または500万円を一括贈与
祖父母が孫へ教育資金を一括贈与する場合は、最大1,500万円または500万円まで贈与税が非課税になる制度を利用できます。非課税の限度枠は、教育資金の使い道によって異なります。
最大1,500万円まで |
入学金・授業料・給食費・寮費・通学交通費・修学旅行代など、学校(認定こども園や保育所、小中高、大学など)に支払う資金の贈与 |
最大500万円まで |
水泳やピアノなどの習い事、学習塾など学校以外に支払う資金の贈与 |
ただし、この制度を利用するには受贈者が下記の要件を満たしていることが条件になります。
- 受贈者が贈与者の直系卑属(子どもや孫)であること
- 契約締結日での受贈者の年齢が30歳未満であること
- 贈与された年の前年の受贈者の合計所得金額が1,000万円以下であること
また、教育資金を非課税で贈与するためには、金融機関で教育資金管理契約を結び、開設した教育資金専用の口座に入金する必要があります。なお、非課税の対象となるのは、2013年4月1日から2026年3月31日までに信託された教育資金に限られます。教育資金管理契約が終了するまでに贈与された教育資金が使い切れなかった場合は、その残額が贈与税の課税対象になるので注意が必要です。
結婚・子育て資金として最大1,000万円を一括贈与
祖父母が孫へ結婚・子育て資金を一括贈与する場合は、最大1,000万円(このうち結婚資金に充てられるのは最大300万円)まで贈与税が非課税になる制度が利用できます。結婚・子育て資金とは、具体的に下記の費用を指します。
結婚資金(最大300万円まで) |
・入籍日の1年前以後に開催される挙式や披露宴の費用(会場費・衣装代・食事代など)
・家賃や敷金、引っ越し代などの新居・転居費用 |
子育て資金 |
・不妊治療・妊婦健診に要する費用
・分娩費用・産後ケアに要する費用
・受贈者の子ども(小学校就学前)の医療費や保育料、ベビーシッター代 |
ただし、この制度を利用するには受贈者が下記の要件を満たしていることが条件になります。
- 受贈者が贈与者の直系卑属(子どもや孫)であること
- 契約締結日での受贈者の年齢が18歳以上50歳未満であること
- 贈与された年の前年の受贈者の合計所得金額が1,000万円以下であること
また、結婚・子育て資金を非課税で贈与するためには、金融機関で結婚・子育て資金管理契約を結び、開設した結婚・子育て資金専用の口座に入金する必要があります。なお、非課税の対象となるのは、2015年4月1日から2025年3月31日までに信託された結婚・子育て資金に限られます。
結婚・子育て資金管理契約が終了するまでに贈与された結婚・子育て資金が使い切れなかった場合は、その残額が贈与税の課税対象になるので注意が必要です。
住宅取得資金として最大1,000万円または500万円を贈与
祖父母が孫へ住宅取得資金を贈与する場合は、最大1,000万円または500万円まで贈与税が非課税になる制度の利用が可能です。住宅取得資金とは、受贈者の居住用住宅の購入・増改築するための費用を指します。非課税の限度枠は、住宅取得資金の使い道によって異なります。
最大1,000万円まで |
省エネ・耐震性・バリアフリーの要件を満たす住宅の購入・増改築 |
最大500万円まで |
上記以外の住宅の購入・増改築 |
ただし、この制度を利用するには受贈者が下記の要件を満たしていることが条件になります。
- 受贈者が贈与者の直系卑属(子どもや孫)であること
- 贈与された年の1月1日の時点で受贈者の年齢が18歳以上であること
- 贈与された年の受贈者の合計所得金額が2,000万円以下であること(床面積が40㎡以上50㎡未満の場合は1,000万円以下)
- 2009年~2021年分の贈与税の申告で「住宅取得等資金の非課税」の適用を受けていないこと
住宅取得資金の非課税期間は、2024年1月1日から2026年12月31日までです。住宅取得資金を非課税にするには、贈与を受けた翌年の2月1日~3月15日の間に税務署で贈与税の申告を行う必要があります。期間内に資金が使い切れなかった場合や住宅を購入しなかった場合は、その残額が贈与税の課税対象になるので注意が必要です。
孫に遺産相続させるメリット
孫に遺産相続させるメリットとしては、主に下記の2つが挙げられます。
- 孫にも祖父母の希望どおりに遺産を譲れる
- 相続人の相続税を節税できる可能性がある
ここからは、上記のメリットについてそれぞれ詳しく解説していきます。
孫にも祖父母の希望どおりに遺産を譲れる
遺言書や生前贈与、家族信託などを活用すれば、「孫にも遺産を譲りたい」という祖父母の意思を相続に反映できます。祖父母が遺言書を残さずに死亡した場合、孫は代襲相続が発生しない限り法定相続人になれないため、原則祖父母の遺産を相続することはできません。
しかし、遺言書や家族信託を利用すれば生前に死後の遺産の承継先を自分で決められるほか、生前贈与を利用すれば直接孫に財産を渡せるため、孫にも確実に財産を残してあげられます。
相続人の相続税を節税できる可能性がある
祖父母が孫に遺産を渡しておけば、相続人が納める相続税を節税できる可能性があります。通常であれば祖父母から子ども、子どもから孫へと遺産が引き継がれるため、相続税が課税されるタイミングは2回です。
しかし、祖父母が直接孫へ遺産を渡せば相続税が課税されるタイミングが1回に減るため、トータルで支払う相続税を減らせる可能性があります。また、祖父母と孫が養子縁組を結んでいた場合は、祖父母と孫の間で法律上の親子関係が成立するため、孫も法定相続人になれます。
これにより、相続税の基礎控除額が1人あたり600万円、死亡保険金・死亡退職金の基礎控除額がそれぞれ1人あたり500万円増えるため、相続税の課税対象となる相続財産が減少することによる節税効果も期待できるのもメリットです。
孫に遺産相続させるデメリットと注意点
孫に遺産相続させるデメリットや注意点としては、主に下記3つが挙げられます。
- 親族間の関係が悪くなる可能性がある
- 孫の相続税が高くなる
- 孫が未成年の場合は代理人が必要になる
ここからは、上記のデメリットと注意点についてそれぞれ詳しく解説していきます。
親族間の関係が悪くなる可能性がある
本来法定相続人にはなれない孫に遺産相続をさせると、他の相続人から不公平だと不満の声が上がり、親族との関係が悪化してしまう恐れがあります。特に、孫と養子縁組を結んだ場合は他の相続人の相続分が減少するため、孫と他の相続人との間で相続トラブルに発展する可能性が高いです。
また、兄弟姉妹以外の法定相続人には、「遺留分」という遺産を最低限相続できる取り分があります。もし、孫への生前贈与や遺贈によって他の法定相続人の遺留分を侵害していた場合は、遺留分侵害額を請求される可能性もあるため注意が必要です。
このように大切な孫のためを思って遺産を相続させたものの、それがきっかけで面倒なトラブルに発展して孫が大変な目に遭ってしまう恐れもあります。孫に遺産を相続させたい場合は、後の不要なトラブルを防ぐためにも事前に他の相続人に相談し、相続人全員が満足できるように相続対策を行うことをおすすめします。
孫の相続税が高くなる
祖父母から遺産を相続した孫は、他の相続人よりも納めるべき相続税が高くなる点に注意が必要です。相続税法上では、本来の法定相続人ではない人が相続や遺贈によって財産を取得した場合、相続税額が2割加算されるルールになっています。
そのため、代襲相続人ではない孫が祖父母の遺産を相続した場合は、算出された相続税額に2割を加算した金額を納める必要があります。孫への生前贈与が相続財産の持ち戻しの対象になった場合は、その贈与財産も相続税の2割加算のルールが適用されます。
また、孫と養子縁組を結べば孫は本来の法定相続人として遺産を相続できますが、孫に限っては養子にした場合でも例外的に相続税の2割加算の対象になります。その理由としては、本来であれば2回の相続で受け取るはずだった祖父母の財産を1回の相続で受け取れるようになるためです。
祖父母から孫への相続だと、親から子、子から孫へ相続した場合と比べてトータルで支払う相続税が安くなる可能性があるため、相続税対策としての養子縁組を防ぐ目的でこのようなルールが定められています。
孫が未成年の場合は代理人が必要になる
遺産を相続する孫が未成年(18歳未満)の場合、「遺産分割協議」には代理人が本人の代わりに参加することになります。遺産分割協議とは、相続人同士で遺産の分配について話し合うことです。遺産分割協議は法律行為に該当するため、未成年者や障がい者など単独で法律行為が行えない人は参加できません。
また、以下の行為もすべて法律行為に該当するので、この場合も代理人が未成年の孫に代わって契約・請求を行う必要があります。
- 未成年の孫への生前贈与
- 孫を受益者とする家族信託の契約
- 未成年の孫を受取人とした保険金の契約・請求
未成年者の法定代理人は親権者になりますが、親権者がいない場合は法定代理人となる未成年後見人の選任手続きを行わなければなりません。未成年後見人とは、親権者がいない未成年者が成人するまでの間、身上監護や法律行為、財産管理などを行う法定代理人のことを指します。
一方で相続人の中に孫の親権者がいる場合は、親権者と孫との利害が対立してしまうため、特別代理人の選任手続きを行わなければなりません。特別代理人とは、未成年者が遺産を相続する場合、家庭裁判所によって特別に選任される代理人のことです。
未成年後見人や特別代理人を選定するには、未成年者の住所地を管轄する家庭裁判所に申立を行います。なお、特別代理人を選任する際は、遺産分割協議書案を家庭裁判所に提出しなければなりません。家庭裁判所によって未成年後見人や特別代理人が選任されたら、その人が未成年の孫に代わって遺産分割協議に参加し、相続手続きを進めます。
孫が相続する遺産の割合
孫は原則として法定相続人にはなれませんが、前述の通り下記のいずれかに当てはまる場合は孫も法定相続人として祖父母の遺産を相続できます。
- 被相続人の子どもの代わりに代襲相続する場合
- 養子縁組をした被相続人の養子として相続する場合
相続する遺産の割合は、相続順位や法定相続人の人数によって異なります。民法で定めている相続の優先順位は下記の通りです。
- 常に相続人:配偶者
- 第1順位:子ども(子どもが相続できない場合は孫)
- 第2順位:両親(両親が相続できない場合は祖父母)
- 第3順位:兄弟姉妹(兄弟姉妹が相続できない場合は甥や姪)
孫が法定相続人として遺産を相続するケースでは、代襲相続する場合でも養子として相続する場合でも、それぞれ第1順位の相続人として扱われます。被相続人に配偶者がいれば配偶者と第1順位の相続人、配偶者がすでに死亡していれば第1順位の相続人が単独で遺産を相続することになりますが、相続割合はそれぞれ下記の表のようになります。
法定相続人 |
配偶者の相続割合 |
第1順位の相続人の相続割合 |
配偶者と第1順位の相続人 |
2分の1 |
2分の1
※第1順位の相続人が複数いる場合は、遺産の2分の1を人数で均等割 |
第1順位の相続人のみ |
- |
100%
※第1順位の相続人が複数いる場合は、遺産の全額を人数で均等割 |
被相続人の子どもの代わりに孫が代襲相続する場合、まず実際に遺産を相続する孫と本来相続人になるはずだった子どもの合計人数で第1順位の相続人の取り分を均等に分け合います。たとえば被相続人に長男・次男と2人の子どもがいて、長男は子どもがいる状態ですでに亡くなっていたとします。
長男の子ども(被相続人の孫)は代襲相続することになるため、遺産は長男の子どもと被相続人の次男で均等に分け合うことになります。もし、本来相続人になるはずだった子どもの代襲相続人になる孫が2人以上いる場合は、本来相続人になるはずだった子どもの取り分をさらに代襲相続人の人数で均等に分け合わなければなりません。
先ほど例に挙げた家族で具体的に見てみると、亡くなった長男の子どもが2人(被相続人の孫が2人)いた場合、長男が相続するはずだった遺産を2人で分け合うことになります。一方、孫が被相続人の養子として相続する場合、養子である孫は被相続人の子どもの1人として扱われるため、被相続人の実子と養子の合計人数で第1順位の相続人の取り分を均等に分け合います。
孫の遺産相続は専門家への相談がおすすめ
孫に限ったことではありませんが、遺産相続に関してはトラブルが起こりやすいものです。特に、原則として法定相続人になれない孫に遺産を相続させるケースでは、孫に相続させた分だけ他の法定相続人が本来相続できるはずだった取り分が減少してしまうので、他の法定相続人の間で不平・不満が溜まりやすいです。
そして、それが引き金となって親族間の関係が悪くなり、遺産分割協議がスムーズに進まなかったり遺留分請求で裁判沙汰になったりと、さまざまなトラブルに発展する可能性があります。そのため、孫へ遺産を相続させたい場合は法定相続人全員が満足できるよう、遺言書の不備による無効化や遺留分侵害に注意しつつ、孫に遺産を相続させる準備をしっかりと整えておく必要があります。
遺産相続に強い専門家に相談すれば、将来起こりうるトラブルを見据えた上で適切な対策方法をアドバイスしてくれるので、孫への遺産相続を検討している方は早めに専門家へ相談するのをおすすめします。
まとめ
孫は代襲相続のように例外的な事情がある場合を除いては法定相続人になれませんが、遺言書や養子縁組、家族信託、生前贈与な度を活用すれば孫にも遺産を相続させられます。しかし、本来法定相続人になれない孫への遺産相続では、孫と他の法定相続人との間でトラブルに発展する可能性が高いです。
自分の死後に可愛い孫がトラブルに巻き込まれるのを防ぐためには、他の法定相続人の気持ちや遺留分を配慮した上でしっかりと相続対策をとっておくことが重要です。しかし、相続対策で活用できる制度や手続きは非常に複雑なので、孫への遺産相続を検討している方は、遺産相続に精通している弁護士に相談されることをおすすめします。
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