再転相続とは相続人が熟慮期間中に死亡し、新たに発生した相続
再転相続とは、一次相続の法定相続人が熟慮期間※に相続の意思表示をしないまま死亡したことにより、二次相続の法定相続人に一次相続と二次相続の2つの相続が発生することを指します。
2つの相続を同時進行せざるを得ないことから、手続きは複雑になることが多いといえます。また、一次相続のみ承認し、二次相続は放棄といった手続きは行えないため、相続の可否をすべて自由に決められるわけではありません。
※熟慮期間とは相続を承認するか、放棄するかを選ぶ期間です。被相続人の死亡、または自分が相続人であることを知った時から3ヶ月以内の期間を指します。
再転相続と混同されやすい相続
相続には下記のように複数の種類があり、再転相続と混同されやすい場合もあります。
それぞれの相続の説明と、再転相続との違いを解説します。
代襲相続との違い
代襲相続とは、推定相続人が被相続人よりも先に死亡している場合に発生する相続を指します。
例えば、祖父の遺産を相続する父親が祖父より先に亡くなった場合、祖父の遺産は孫が相続することになります。こういった相続を代襲相続と呼びます。
なお、被相続人が死亡していなくても、被相続人が相続欠落や相続排除により相続権を失っている場合は代襲相続となります。
再転相続との違いは、人の亡くなる順番です。再転相続では被相続人(例:祖父)、法定相続人(例:父)の順に亡くなるのに対し、代襲相続は推定相続人(例:父)、被相続人(例:祖父)の順で亡くなります。
代襲相続、相続排除については、下記の記事で詳しく紹介しています。
相次相続との違い
相次相続とは、一次相続の相続税の申告・納付後10年以内に一次相続の相続人が亡くなり、二次相続が発生することを指します。
例えば、祖父の遺産を相続した父親が5年後に亡くなり、短期間で相続が発生するようなケースです。
なお、相次相続の場合、短期間で同一の財産に再び相続税が課されることもあるため、一次相続の相続税の一部を二次相続の相続税から控除する「相次相続税控除」が活用できます。
再転相続との違いは、二次相続が発生する時期です。再転相続は一次相続の熟慮期間に二次相続が発生するため、同時期に相続手続きが必要となります。一方、相次相続は一次相続の相続税の申告・納付後10年以内に二次相続が発生することを指すため、二次相続の手続きは別途行います。
数次相続との違い
数次相続とは、遺産分割協議中に法定相続人が亡くなり、二次相続が発生することを指します。
例えば、父親が亡くなり、母親と長男が相続人になったものの、遺産分割協議が終わる前に長男が亡くなるようなケースを指します。この場合、長男の死亡によって長男の妻と子どもに相続人の権利が引き継がれるため、妻と子どもも一次相続の遺産分割協議に加わることになります。結果として、父親の遺産は母親と長男の妻、子どもで分割することになります。
再転相続との違いは、被相続人の相続に対する意思表示の有無です。再転相続では、被相続人が相続の意思表示をしないまま亡くなっています。一方、数次相続では、被相続人が遺産分割協議に参加しているため、相続を承認していると捉えられます。そのため、数次相続では二次相続の法定相続人が一次相続の放棄をできません。
同時死亡との違い
交通事故などで複数の家族の死亡時刻がはっきりしない場合、民法に定められている「同時死亡の推定」が適用され、文字通り、複数の家族が同時に死亡したものとみなします。同時死亡と判断された家族同士は相続人にはならないため、残された遺族間で遺産分割協議が行われます。
例えば、父親と長男が交通事故で同時死亡とみなされた場合、父親の遺産は母親と代襲相続人として長男の子どもが相続し、長男の遺産は長男の妻と子どもが相続します。
再転相続との違いは、代襲相続の発生の有無です。再転相続の場合は、一次相続の熟慮期間中に法定相続人が亡くなり、二次相続が発生するため、代襲相続には該当しません。一方、同時死亡では亡くなった人達はお互いに法定相続人とならないため、代襲相続が発生する場合があります。
再転相続が発生する具体的な例
再転相続が発生するのは、下記のようなケースです。
- 一次相続の法定相続人が1人のみのケース
- 一次相続の法定相続人が複数名いるケース
- 事故により家族が時間差で死亡したケース
各ケースの具体的な状況について触れていきます。
一次相続の法定相続人が1人のみのケース
・夫(一次被相続人)
・妻(一次相続人、二次被相続人)
・妻の兄弟姉妹(再転相続人、二次相続人)
上記のように子どものいない夫婦の場合、夫が死亡した際の一次相続の法定相続人は妻一人となります。
妻が一次相続の意思表示をする前に亡くなった場合は、妻の兄弟姉妹が再転相続人として一次相続と二次相続の両方の相続手続きを行います。
一次相続の法定相続人が複数名いるケース
・夫(一次被相続人)
・妻(一次相続人)
・長男(一次相続人、二次被相続人)
・長男の配偶者(再転相続人、二次相続人)
・長男の子ども(再転相続人、二次相続人)
上記のように子どものいる夫婦の場合、夫が死亡した際の一次相続の法定相続人は妻と長男の複数名になります。
長男が一次相続の意思表示をせずに亡くなった場合、長男の配偶者と子どもは再転相続人となり、一次相続と二次相続の両方の相続手続きを行います。
つまり、長男の配偶者、長男の子どもは一次相続の遺産分割協議にも参加し、最終的に夫(第一次被相続人)の遺産は妻、長男の配偶者、長男の子どもで分けます。
事故により家族が時間差で死亡したケース
・夫(一次被相続人)
・妻(一次被相続人)
・長男(一次相続人、二次被相続人)
・夫と妻の親(再転相続人、二次被相続人)
上記の夫、妻、長男の3人が交通事故に遭遇し、夫と妻が即死で同時死亡とみなされた場合は、夫婦の間に相続は発生せず、長男が一次相続の法定相続人となります。
しかし、長男もその数日後に死亡した場合は、長男が一次相続の意思表示をせずに亡くなったこととなり、再転相続が発生します。この場合は、長男の相続人である夫と妻両親も亡くなっているため、夫と妻の親(長男からは祖父母)が再転相続人となります。
再転相続で相続放棄が行えるケースと行えないケース
再転相続では、一次相続と二次相続を同時に行う必要があり、承認するのか放棄するのかを決めなければなりません。しかし、一次相続は承認し、二次相続は放棄するといった選択はできません。一次相続と二次相続で認められる組み合わせは下記の通りです。
相続放棄や単純承認の可否 |
一次相続 |
二次相続 |
可能 |
承認 |
承認 |
可能 |
放棄 |
放棄 |
可能 |
放棄 |
承認 |
不可能 |
承認 |
放棄 |
再転相続において、相続放棄を行えるケースと行えないケースについて紹介します。
相続放棄が行えるケース
再転相続において、相続放棄や単純承認が行えるケースは下記の3つです。相続放棄が行えるのは一次相続と二次相続の両方、もしくは一次相続のみです。
- 一次相続と二次相続の両方の単純承認
- 一次相続と二次相続の両方の相続放棄
- 一次相続の相続放棄、二次相続の単純承認
例えば、祖父から父親に一次相続が発生したものの、熟慮期間中に父親が亡くなり、孫に再転相続が発生したとします。その場合、孫は「祖父と父親の遺産を両方相続する」「祖父と父親の遺産を両方放棄する」「祖父の遺産は放棄し、父親の遺産は相続する」のいずれかの選択ができます。
なお、相続放棄が受理された場合は、次点の相続人に相続権が移ります。
相続放棄が行えないケース
再転相続では、一次相続を承認し、二次相続を放棄することはできません。
例えば、祖父、父親の順に亡くなって、孫が再転相続人となった場合は、「祖父の遺産を相続し、父親の遺産を放棄する」といった選択ができません。孫は父親から祖父の遺産相続の権利を受け継ぐことになるため、父親の遺産を放棄する時点で、祖父の遺産相続の権利も放棄したことと同様となるためです。
再転相続が発生した場合の熟慮期間
従来の考え方では、再転相続の熟慮期間は被相続人の死亡、もしくは自身が相続人であることを知った時点から3ヶ月とされていました。
しかし、再転相続人に一次相続があったこと認識していないケースもあるため、現在は、二次相続も一次相続もそれぞれの被相続人の死亡、もしくは自身が相続人であることを知った時点から熟慮期間が開始し、3ヶ月の期間が与えられます。そのため、一次相続の熟慮期間の開始が、二次相続の後になる場合もあります。
再転相続では2回目の相続人が知ったタイミングから3ヶ月
相続の熟慮期間は、被相続人が死亡した時点、もしくは自身が相続人であることを知った時点から3ヶ月です。
被相続人と疎遠だった場合、被相続人が死亡したことを知るタイミングが遅くなることも考えられます。知らない間に被相続人の負の財産を引き継ぐことがないように、自身が相続人であることを知った時点とも定められています。
従来の再転相続の熟慮期間は、一次相続、二次相続のいずれも二次相続の被相続人の死亡、もしくは自身が相続人であることを知った時点から3ヶ月が熟慮期間とされてきました。
しかし、再転相続人が一次相続を知らず、自身が再転相続人となっていることに気づかないケースもあります。そのため現在は、「二次相続は、二次相続の被相続人の死亡、もしくは自身が相続人であることを知った時点から3ヶ月」「一次相続は、一次相続の被相続人の死亡、もしくは自身が相続人であることを知った時点から3ヶ月」とそれぞれの熟慮期間が設けられています。場合によっては、一次相続の熟慮期間の方がうしろにくることもあります。
再転相続の熟慮期間におけるトラブル
令和元年、再転相続の熟慮期間におけるトラブルが発生し、下記のような裁判がありました。
Aが負債を残したまま亡くなり、Aの子は相続放棄をしたため、Aの兄弟であるBが相続人になったが、熟慮期間中にBが亡くなり、Bの子が再転相続人となった。自身が再転相続人になったことを知らないまま3年が経過し、債権回収会社よりBの子に、債権回収のための強制執行が宣告された。Bの子は相続放棄と強制執行の中止を求めて提訴し、最高裁は熟慮期間の起点を「自己が相続を継承した事実を知った時」と判決をくだした。
出典:裁判所「最高裁判所判例集」
再転相続が発生した際に把握すべき4つのポイント
再転相続は2つの相続が発生するため、通常の相続よりも複雑です。再転相続が発生した際は、下記のポイントを把握しておきましょう。
- 1.遺産分割協議書は2枚作成する可能性がある
- 2.相続登記を1つにまとめられるのか確認する
- 3.すべての相続人を把握する
- 4.再転相続が発生したら専門家に相談する
それぞれ詳しく説明していきます。
1.遺産分割協議書は2枚作成する可能性がある
一次相続と二次相続の法定相続人が異なる場合は、それぞれに遺産分割協議を行います。遺産分割協議書も、一次相続と二次相続それぞれ作成することになります。
一次相続と二次相続の法定相続人の顔ぶれがまったく同一である場合は、遺産分割協議をまとめて行い、遺産分割協議書の作成も1枚で済ませることも可能です。
2.相続登記を1つにまとめられるのか確認する
相続する財産に不動産があった場合は、相続登記を行います。再転相続の場合は、原則、一次相続、二次相続の2回登記手続きを行います。
ただし、一次相続において単独相続をした法定相続人が亡くなり、再転相続が発生した場合は、例外として「中間省略登記」が可能となり相続登記を1つにまとめられます。
3.すべての相続人を把握する
遺産分割協議は相続人全員で参加する必要があります。後から新たな相続人が現れた場合は、遺産分割協議が無効となってやり直すことになります。相続人が親交のある親族だけとは限らないため、事前に相続人を調査しておきましょう。
一次相続と二次相続の被相続人の本籍の市役所にて、戸籍謄本を取得すれば、相続人が確認できます。被相続人が生まれてから死亡するまでの戸籍がすべて必要となるため、死亡時の戸籍謄本からさかのぼって、結婚前の戸籍なども取り寄せます。
4.再転相続が発生したら専門家に相談する
再転相続は2つの相続の手続きが必要で、煩雑な内容となるため、相続に詳しい弁護士などの専門家に相談するのがおすすめです。弁護士に依頼すれば、労力を要する相続人調査、2つの相続における必要書類の準備や手続きがスムーズに進みます。
弁護士への依頼を検討している方は、下記の記事も参考にしてみてください。
まとめ
再転相続は、一次相続と二次相続両方の手続きが必要となり、通常の相続よりも複雑です。一次相続と二次相続それぞれ承認するか、放棄するかを決める必要がありますが、「一次相続を承認、二次相続を放棄」といった内容は認められません。相続放棄を行えるのは「一次相続と二次相続の両方を放棄」もしくは「一次相続を放棄、二次相続を承認」の2通りのみです。
もし「相続放棄した方が良いケースかわからない」「再転相続の手続きを自分でできるか不安」「相続人が誰になるかわからない」といった場合は、相続関係に詳しい弁護士に依頼してみてください。
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