遺産分割協議には相続人全員が参加する必要があるため、たとえ連絡がとれない方がいても何とかして連絡をとる必要があります。面倒だからといって相続手続きを放置していると、預貯金の払い戻しや不動産の売却ができないなどのリスクもあります。
連絡先や住所がわからない場合は、現住所の確認ができる戸籍附票を取得しましょう。住所がわかったら、相手に警戒されないためにもいきなり訪問するのではなく、まずは手紙を送るのがおすすめです。手紙には、故人が亡くなったことや手紙を出した経緯などを記載しましょう。
相続人が現住所にいなければ、不在者財産管理人の申し立てを行う必要があります。また7年以上連絡がとれないなら、失踪宣言の申し立てをすることで死亡扱いとなり、遺産分割協議に参加させる必要がなくなります。
なお相続人が海外に住んでいるケースでは、外務省に所在調査を依頼して連絡先や住所を調べましょう。
また相続人に連絡を無視されている場合は、電話や訪問で連絡を試みたうえで、それでも協力が得られそうにない場合は遺産分割調停を申し立てることになります。
本記事では、相続人と連絡が取れないときの対処法を詳しく解説します。
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【ケース別】相続人と連絡が取れないときの対処法
相続人と連絡がとれないときの対処法を、以下のケース別に解説します。
- 相続人の連絡先や住所がわからないケース
- 相続人が連絡を無視し続けるケース
- 相続人が海外に住んでいるケース
それぞれのケースで対処法が全く異なるため、自身の状況に適した対処法を把握しておきましょう。
相続人の連絡先や住所がわからないケース
相続人の連絡先も住所もわからない場合の対処法は、以下のとおりです。
- 戸籍の附票を取得して住所を調べる
- 住所がわかったら手紙を送り相続人と連絡を取る
- 現住所にいないなら不在者財産管理人の申し立てを行う
- 7年以上連絡が取れないなら失踪宣言の申し立てを行う
まずは、戸籍附票などを確認して住所を把握する必要があります。順を追って詳しく解説します。
戸籍の附票を取得して住所を調べる
相続人の住所を調べるため、まずは戸籍附票を取得しましょう。戸籍附票とは、その戸籍がつくられてから現在にいたるまでの住所の移り変わりがすべて記録されているもののことです。
住所は住民票で管理されているので、戸籍謄本には現住所の記載はありません。ただし、住民票に記載されているデータと本籍地にある戸籍謄本はリンクしていることから、戸籍附票を取り寄せれば現住所を確認でき、相続人と連絡がとれるようになります。しかし、戸籍附票を取得できるのは親族のみであり、また相続人が新しく戸籍をつくっていた場合は戸籍附票を取得しても調べられない点には注意が必要です。
住所がわかったら手紙を送り相続人と連絡を取る
住所がわかれば、相続人に連絡ができるようになります。しかし、いきなり会いに行くのは相手が警戒してしまうため避けたほうがよいでしょう。したがって、まずは手紙を送るのがおすすめです。
手紙には故人が亡くなったことや手紙を出した経緯、相続の手続きには相続人全員の協力が必要であることなどを記載します。その後、連絡がとれて協力が得られそうならそのまま遺産分割協議に参加してもらえれば問題ありませんが、何も反応がなく直接会うこともできない場合は次の方法を実行することになります。
現住所にいないなら不在者財産管理人の申し立てを行う
相続人が住民票記載の住所におらず連絡もつかない場合、法律上の行方不明者として取り扱われるため、家庭裁判所に不在者財産管理人の申し立てを行えば相続の手続きを進められます。不在者財産管理人とは、行方不明となった相続人の代理人として遺産分割協議や各種手続きの進行、遺産分割などを行う人のことで、その地域の弁護士が就任するケースが多いです。
不在者財産管理人の選任により遺産分割を進められますが、選任には3カ月から半年程度の時間がかかること、収入印紙800円分や連絡用の郵便切手代などの費用がかかってしまうことはデメリットと言えます。
7年以上連絡がとれないなら失踪宣言の申し立てを行う
相続人と7年以上連絡がとれない場合、家庭裁判所に失踪宣言の申し立てを行うことができます。失踪宣言とは生死不明の人に対して、法律上で亡くなったものとみなす手続きのことです。失踪宣言が受理されれば相続人は死亡扱いとなり、遺産分割協議に参加させる必要がなくなります。失踪宣言を申し立てる場合、受理までには10カ月~1年ほどの時間がかかり、また以下の費用を支払う必要があります。
- 収入印紙代800円
- 官報公告料4,816円
- 連絡用の郵便切手代
相続人が連絡を無視し続けるケース
相続人が連絡を無視し続ける場合の対処法は、以下のとおりです。
- 電話や訪問などで連絡を試みる
- 協力してもらえないときは遺産分割調停を申し立てる
相続人へ連絡を試みた上で、どうしても協力が得られそうにない場合は遺産分割調停を申し立てることになるでしょう。
電話や訪問などで連絡を試みる
まずは、電話や訪問で連絡を試みましょう。意図的に無視しているわけではなく、詐欺と思われている場合や、なかには相続を放棄しているつもりの人もいます。なお、遺産分割協議に参加するメリットだけでなく、参加しないことによるデメリットも伝えておくことが大切です。
相続の手続きに協力してもらえない場合、遺産分割調停・遺産分割審判まで発展する可能性があることを相手に説明しましょう。もし相続を放棄したいという場合でも、手続きが必要になります。
協力してもらえないときは遺産分割調停を申し立てる
相続人に協力してもらえない場合は、家庭裁判所で遺産分割調停の申し立てを行い、裁判所に遺産の分割方法を決めてもらうことになります。申し立てを行えば、家庭裁判所から相続人に呼び出し状を送ってくれます。
遺産分割調停の申し立てには、申立添付書類に加え、戸籍謄本などの書類も必要です。また、被相続人1人につき収入印紙1,200円分、連絡用の郵便切手といった費用もかかります。
相続人が海外に住んでいるケース
相続人が海外に住んでいて連絡がつかない場合は、外務省に所在調査を依頼します。調査をしてもなお行方がわからなければ、最終的には失踪宣告の申し立てを行うことになるでしょう。
外務省に所在調査を依頼する
相続人が海外にいて海外で国籍を取得している場合でも、日本国籍の相続人と同様に相続人として認められます。そのため日本国内での所在がわからないときには、外務所に所在調査を依頼しましょう。
所在調査とは、所在が不明になっている日本人の連絡先や住所を、海外の日本大使館や領事館が保有資料をもとに調べる制度のことです。所在調査を行っても行方がわからなければ、家庭裁判所で失踪宣言の申し立てを行うことになります。
相続人と連絡が取れないと遺産相続はできない
遺産分割協議を進める際には、相続人全員の参加が必要です。相続人が1人でも欠けた状態で遺産分割協議を進めても、その結果は無効になってしまいます。相続手続きには遺産分割協議を経て作成した遺産分割協議書が必要ですが、遺産分割協議書には相続人全員の自署および押印が必須です。また相続人一人ひとりの戸籍謄本や印鑑証明も必要で、遺産分割協議書の記載内容に不備があったり書類が足りなかったりすれば、絶対に受理されません。
相続人が欠けた状態で遺産分割協議を行っても無効となりやり直す手間がかかるため、遺産分割協議ははじめから相続人全員が揃った状態で進めるべきです。
遺言書があれば相続手続きは可能
相続手続きを進めるにあたり、基本的には相続人全員が揃った上で遺産分割協議を行う必要があります。しかし遺言書に相続に関する記述があれば、相続人が欠けていても手続きを進めることが可能です。
たとえば連絡がとれる相続人のみに財産を相続させる旨が記されていた場合、連絡がつかない相続人を相続手続きに関与させる必要はありません。遺言書がない場合は、相続人同士で必ず遺産分割協議を行わなければならないため注意しましょう。
相続人と連絡が取れないときの相続手続きの進め方
相続人と連絡がとれないときは、以下の手順で相続手続きを進めましょう。
- 相続人を確定させる
- 相続財産を調査して把握する
- 遺産分割協議を行う
- 相続した財産の解約や名義変更、相続登記を行う
- 相続税を申告して納税する
それぞれの手続きについて順を追って解説します。
1. 相続人を確定させる
相続手続きを進めるにあたり、まずは相続人を確定させる必要があります。相続人を確定させるには、被相続人の戸籍や謄本が必要です。市役所から取り寄せられますが、生まれてから亡くなるまでのすべての戸籍謄本を用意しなければならないため、取得には1週間から2週間前後の時間がかかります。
かなりの手間を要しますが、戸籍謄本を確認した上で相続人を確定させないと次の手続きに進めないため、気力も重要です。
2. 相続財産を調査して把握する
相続人が確定したら、相続財産を調査して把握する必要があります。被相続人の預貯金や不動産、有価証券など、相続の対象となる遺産を調査しましょう。なお取引している金融機関をすべて把握できていないと、遺産分割協議の話し合い内容にも影響する恐れがあります。借金やローンといった負債も忘れずに調査を行うことが大切です。
3. 遺産分割協議を行う
相続財産のすべてを把握できたら、いよいよ遺産分割協議を行います。遺産分割協議には原則として相続人全員が参加する必要がありますが、相続人と連絡がとれない場合は、前述した内容を参考に対処してください。
最終的に相続人全員からの合意が得られれば、遺産分割協議書を作成します。遺産分割協議書には相続人全員の自署および押印が必要となり、記入漏れや不備があればやり直しになる可能性があるため、充分に注意しながら作成しましょう。
4. 相続した財産の解約や名義変更、相続登記を行う
遺産分割協議が成立し財産を相続したあとは、相続手続きを行います。取引のあった銀行や証券会社等の解約、名義変更を行う必要がありますが、相続した財産によって必要な手続きや書類が異なるため注意しましょう。
たとえば預貯金の相続手続きを行う際には、相続人全員が署名した書類が必要になります。また、被相続人が不動産を持っていた場合は相続登記もしなければなりません。相続登記は、その不動産がある住所を管轄している法務局にて行います。
5. 相続税を申告して納税する
基礎控除を超える遺産を相続した場合、相続税の申告と納税が必要です。基礎控除の計算式は以下のとおり。
基礎控除=3,000万円+600万円×法定相続人の数
相続税の申告および納税には期限があり、相続を知った翌日から10カ月以内に行わなければなりません。なお、相続財産の相続税評価額が基礎控除額を上回る場合は、相続税がかからなくても申告をする必要があるため注意が必要です。
相続手続きを放置するリスク
相続人と連絡がとれないからといって相続手続きを放置してしまうと、以下のようなリスクがあります。
- 預貯金の払い戻しができない
- 不動産を賃貸や売却ができない
- 株式の配当金を受け取れない
- 相続税の控除や特例が受けられない
- 特別受益や寄与分の主張できなくなる
遺産分割協議には相続人全員の同意が必要であり、連絡がつかない相続人が一人でもいると手続きがスムーズに進まず手間もかかることから、そのまま放置されてしまうケースも多いです。しかし、手続きを放置するとさまざまなリスクが生じるため、状況に合わせて適切な対処をした上で相続手続きを行うべきであると言えます。
ここからは、5つのリスクについて詳しく解説していきます。
預貯金の払い戻しができない
相続財産に預貯金が含まれている場合、払い戻しができなくなるリスクがあります。法定相続人であれば、預貯金の3分の1に法定相続分を乗じた金額までを払い戻すことが可能ですが、全額の引き出しは認められていません。なお、一つの金融機関につき150万円が払い戻しの上限です。10年間相続されなかった預貯金は、民間共益活動に活用されることになっています。
不動産を賃貸や売却に出すことができない
相続が始まると、家や土地などの不動産はすべて、法定相続人が共同で持つことになります。不動産の活用にはすべての共有者の同意が必要になるため、不動産を勝手に貸したり売ったりすることができなくなります。活用できないにもかかわらず固定資産税の納税は行わなければならないため、納税する代表者にとってはとくに不利益になるといえるでしょう。
株式の配当金を受け取れない
相続の手続きを行わずにいると、株式の配当金をもらう権利を失うことがあります。未受領配当金の請求は、民法上では10年で時効ですが、株を発行している会社によっては、3年や5年といったもっと短い期間で請求が必要になる可能性があります。
相続税の控除や特例が受けられない
相続で受け取る財産が多い場合は、相続税を申告して税金を支払わなければなりません。遺産分割協議が終わっていない場合、相続税の配偶者控除や小規模住宅地の特例などを受けられず、相続税が高くなってしまう可能性があります。
ただし、遺産分割協議が3年以内に終わる見込みがあるなら、その旨をあらかじめ税務署に報告しておけば、あとで控除や特例の適用を受けることが可能です。
特別受益や寄与分の主張ができなくなる
相続が始まってから10年が経過すると、原則として特別受益や寄与分に関する主張ができなくなります。ただし相続人全員が合意した場合や、家庭裁判所に遺産分割請求をすれば、期限を過ぎても特別受益や寄与分を主張可能です。
まとめ
遺産分割協議を進めたいものの相続人と連絡がとれない場合は、戸籍附票の取得などで現住所を把握してから、手紙や訪問で連絡を試みましょう。相続手続きを放置すると、預貯金の払い戻しや不動産の活用ができなくなるなどのリスクがあります。必要があれば遺産分割調停や不在者財産管理人の申し立て、失踪宣言の申し立てなどを行った上で、確実に相続手続きを進めることをおすすめします。
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