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相続税の申告期限とは?過ぎたらどうなるの?納付期限も詳しく解説

相続税の申告期限とは?過ぎたらどうなるの?納付期限も詳しく解説

被相続人が遺した財産を相続する場合、相続税の申告と納付の義務が発生します。では、相続税はいつまでに申告しなければならないか知っていますか?

結論、被相続人の死亡を知った日の翌日から10ヶ月以内です。

ただし、相続人が置かれている状況によっては、例外的な申告期限が設定されたり、延長されたりする場合があります。

今回は、相続税の申告期限や納付期限について詳しく解説します。また、期限を過ぎた場合に起こり得ることや、期限が迫っている場合の対処法も紹介します。

相続税の申告期限や納付期限について詳しく知りたい方は、ぜひ参考にしてください。

相続税の申告・納付期限は「亡くなったことを認知した日の翌日から10ヵ月以内」

相続税とは、死亡した親などから土地やお金、金融商品などの財産価値のあるものを相続した場合、その財産にかかる税金のことです。

相続税の申告や納付には期限が定められており、期限は被相続人が亡くなったのを知った日の翌日(一般的には、被相続人が死亡した日を起点にする)から10ヶ月以内です。

つまり、相続が発生した場合、被相続人が死亡してから10ヶ月以内に、税務署への相続税申告書の提出と、金融機関(銀行)での相続税の納付を完了させる必要があります。

例えば、1月4日に被相続人が亡くなった場合、同じ年の11月4日までに相続税を申告・納付しなければなりません。

ただし、相続税の申告と納付は同じタイミングで行う必要はありません。申告を先に済ませておき、後から納付することも可能です。

また、税務署または銀行などの金融機関は土曜日や日曜日、祝日、年末年始などは休業しています。申告・納付の期限が税務署や銀行の休業日にあたる場合、当日には申告・納付ができないため、休業日が明けた次の平日が申告・納付の期限となります。

相続税の申告期限が例外的に異なる5つのケース

相続税の申告期限は、被相続人が亡くなった日の翌日から10ヶ月以内ですが、例外的に期限が異なるケースがあります。

具体的には以下に該当する場合です。

  • 1.相続開始日を認知していなかったケース
  • 2.二次相続が発生したケース
  • 3.相続開始日が特定できないケース
  • 4.相続人以外へ遺贈されるケース
  • 5.相続人が廃除されたケース

それぞれ詳しく解説します。

1.相続開始日を認知していなかったケース

相続が始まった日を知らなかった場合、相続税の申告や納付の期限は通常の期限とは異なります。

例えば、親との交流が疎遠になっており、死後数日経過してから連絡が入って親が死亡したことを知るケースです。

相続が始まった日を認知していなかった場合、相続人が被相続人が亡くなったのを知った日から10ヶ月後が期限となります。

仮に被相続人が1月9日に亡くなり、その事実を相続人が知ったのが2月10日だった場合、通常の10月9日ではなく11月10日が相続税の申告期限となります。

適切な申告のためには、被相続人が亡くなったのを知った日と、その10ヶ月後日付を正確に把握しておく必要があります。

2.二次相続が発生したケース

二次相続が生じた場合も、相続税の申告期限が変動します。

二次相続とは、最初の相続で配偶者と子どもに相続が生じた後に、配偶者が亡くなってさらに発生する2回目の相続のことをいいます。

一般的に相続は、自分の親が死亡した際に発生するものです。例えば、父親が亡くなって相続が生じた後に、母親も亡くなってさらに相続が生じた場合、1回目の相続を一次相続、2回目の相続を二次相続と呼びます。

二次相続が生じた場合、相続税の申告や納付の期限について特例が適用されます。

被相続人の相続人が申告や納付の期間中に亡くなった場合、二次相続人が亡くなった相続人の相続税も申告しなければなりません。

この場合の相続税の申告・納付の期限は「被相続人の相続人」が亡くなってから10ヶ月以内となります。

例えば、被相続人である祖父と、その相続人の父が死亡したケースでは、相続税の申告や納付の期限は以下のようになります。

  • 祖父(被相続人)の死亡日:令和3年1月10日
  • 父(被相続人の相続人)の死亡日:令和3年9月20日
  • 子ども(二次相続人)の相続税の申告・納付の期限:令和4年7月20日

父が祖父から財産を相続する場合の期限は、令和3年11月10日となります。

その期限までに父が亡くなった場合、二次相続人である子どもが祖父から父への相続で発生する相続税の申告と納税を行いますが、申告期限は令和3年11月10日ではなく、父が死亡した日から10ヶ月後の令和4年7月20日となります。

ただし、亡くなった祖父に配偶者や他の相続人が存在する場合、該当する相続人の申告や納付の期限は延長されず、通常通りの期限が設定されます。

二次相続が生じると、相続税の申告内容や期限がややこしくなるため、税理士などの専門家に相談した方がいいでしょう。

3.相続開始日が特定できないケース

相続が開始された日が明確に特定できない場合も、期限が変動します。

被相続人が医療機関以外で死亡した場合など、被相続人がいつ死亡したのか明確に特定するのが困難なケースもあります。例えば、孤独死を迎えたケースでは、死亡日が明確ではない場合があります。

この場合、戸籍謄本に記載される死亡日期間(死亡したと推定される期間)の最終日を、相続が始まった日として期限が設定されます。

例えば、戸籍謄本上の死亡日期間が「令和4年2月2日から2月10日までの間」となっている場合、令和4年2月10日を相続開始日として期限が決められます。

4.相続人以外へ遺贈されるケース

被相続人の財産が相続人以外に遺贈されるケースでも、申告・納付の期限が変動します。

遺贈とは、被相続人が作成した遺言書によって、遺産の全部もしくは一部を法定相続人以外の他人に無償で継承することをいいます。

被相続人の遺産が相続人ではない他人に遺贈されるケースでは、遺言書の内容によって遺贈が発覚します。

そのため、遺贈される人(受遺者)は相続が発生した時点で自分に財産が遺贈されることを認識できません。

この場合、受遺者の相続税の申告期限は、遺贈があることが判明した日の翌日から10ヶ月以内となります。

遺贈を受ける可能性のある人が、相続開始日(被相続人が死亡した日)に遺贈があるかどうか認識できないという特殊な状況に対して配慮した例外的措置となります。

5.相続人が廃除されたケース

相続人が排除された場合も、相続税の申告期限が異なります。

相続人の廃除とは、被相続人に対して著しい非行などを行い、裁判所によって相続人に相応しくないと判断された場合に、相続人の地位が剥奪されることです。

このような状況で新たに相続人となった人は、自分が相続人になったことを知った日から10ヵ月以内に申告を行う必要があります。

例えば、父親が死亡して相続人が残された子ども1人しかいない状況で、その子どもが裁判所の判決により相続人の廃除が行われた場合、相続の順位が次の法定相続人に移ります。

仮に父親の弟が法定相続人となった場合、父親の弟における相続税の申告・納付の期限は、裁判の判決を知った日(相続人の廃除の事実を知った日)から10ヶ月以内となります。

なお、相続人の廃除は後から取り消すことが可能です。具体的には、被相続人が生前に家庭裁判所に廃除の取り消しを申立てるか、遺言にて排除の取り消しの意思を表明すれば取り消せる可能性があります。

ただし、遺言での意思表明の場合は、遺言執行者が家庭裁判所に相続人廃除の取り消しを家庭裁判所に申立てる必要があります。

相続税申告に関する2つの期限

相続税の申告に関して、忘れてはいけない2つの期限があります。具体的な期限は以下の通りです。

  • 相続放棄と限定承認の申告は3ヵ月以内が期限
  • 準確定申告は4ヵ月以内が期限

それぞれ詳しく解説します。

相続放棄と限定承認の申告は3ヵ月以内が期限

相続方法のうち、相続放棄と限定承認を選択する場合は、相続の開始を知った日から3ヶ月以内に申告する必要があります。

相続人が選択できる相続方法は以下の3つです。

  • 相続放棄
  • 単純承認
  • 限定承認
相続放棄とは、被相続人の財産や負債などの権利、義務を一切引き継がない意思を表明することです。

例えば、被相続人が多額の借金を残している場合、相続すると相続人は借金の返済義務も継承することになります。相続する財産のうち、借金が多い場合は相続放棄を選択するのが一般的です。

限定承認とは、被相続人が残したプラスの財産額を上限に、借金や債務を引き継ぐ相続方法です。

被相続人がプラスの財産とマイナスの財産(借金)を残している場合、限定承認を選択したプラスの財産の金額を限度として借金の返済に充てれば、残りの借金の返済義務は発生しません。

被相続人が借金を残している場合、相続放棄や限定承認を選択するケースが多くなります。

ただし、相続放棄や限定承認を申告できるのは、相続の発生を知った日から3ヶ月以内です。この期間を熟慮期間と呼び、期間内に相続放棄もしくは限定承認を選択しなかった場合、すべての財産(借金を含む)を相続する単純承認を選択したとみなされてしまいます。

被相続人が残した財産と負債を比較して、どちらの金額が多いのかによって、選択するべき相続方法が異なるほか、熟慮期間は3ヶ月しかないため、遺産の内訳の確認や相続方法の選択など、相続人は迅速に行動することが求められます。

準確定申告は4ヵ月以内が期限

準確定申告を行う場合、被相続人が亡くなった日から4ヶ月以内に申告を済ませる必要があります。

準確定申告とは、亡くなった人がするべきだった確定申告を、相続人が代わりに行うことをいいます。

厳密にいえば、死亡した被相続人は確定申告ができないため、相続人全員が被相続人の確定申告の義務を継承することになります。

通常の確定申告は1年間の収支を計算して、翌年の2月16日から3月15日までに申告します。

一方、準確定申告では被相続人が亡くなった年の1月1日から死亡日までの収支を計算し、被相続人が死亡したことを知った日から4ヶ月後までに申告を完了させなければなりません。

例えば、7月10日に被相続人が亡くなったことを相続人が知った場合、4か月後の11月10日までに準確定申告を済ませる必要があります。

なお、準確定申告の期限が通常の確定申告の期限を過ぎてしまう場合は、準確定申告の期限が優先されます。また、準確定申告を行わなかった場合、無申告加算税と延滞税が加算されるため注意しましょう。

ちなみに、被相続人の状況によっては準確定申告が不要になる場合があります。例えば以下のようなケースです。

  • 1ヶ所のみから給与を受け取っており、事業者が年末調整を行っている場合
  • 年間の年金収入が400万円以下で、その他の所得が年間20万円以下の場合

被相続人が亡くなった年の収入状況によって、準確定申告が必要や不要かが決まるため、こちらも事前に確認しておいた方がいいでしょう。

基本的に相続税の申告漏れはバレる

被相続人から財産を相続した場合、相続人には相続税の納税義務が発生します。気を付けたいのは、基本的に相続税の申告漏れはバレるということです。

その理由は以下の通りです。

  • 提出した死亡届の情報は税務署に通知される
  • 税務署は被相続人(死亡した人)の資産状況に関する情報を把握している

家族が死亡した場合、遺族は死亡の事実を知った日から7日以内に死亡届を提出しなければなりません。

そして、提出した死亡届の情報は税務署に通知されることが法律によって定められています。また、市区町村が把握している被相続人が保有する不動産情報なども、同時に通知されます。

つまり、被相続人の死亡や不動産などの情報は、死亡届を提出することで税務署が把握しています。

一方、税務署は、国税庁のKSKシステム(国税総合管理システム)を用いて被相続人の資産状況に関する情報を把握しています。

このシステムには死亡した人やその家族の収入や税金の申告に関する情報が記録されています。情報の一例は以下の通りです。

  • 給料、役員報酬、退職金
  • 不動産所得
  • 株式、不動産の譲渡所得
  • 過去に納税した所得税、固定資産税などの申告内容のデータ

税務署は被相続人の死亡の通知を受けると、過去のデータから相続税の申告が必要な対象者をピックアップしているのです。

また、過去の納税データと相続税の申告内容を比較してバランスが悪いと判断された場合は、税務調査の対象となることがあります。税務調査では関連するあらゆる情報が調べられ、相続人にヒアリングが実施される際には、税務署側は相当な情報を把握しています。

さらに、相続時に発生する不動産の名義変更や保険金の請求手続きの情報も、すべて税務署に通知されます。

このように、税務署はそもそも被相続人や相続人に関する情報を豊富に保有しているほか、強力な調査権限を持っているため、必要に応じて情報を集められます。

そのため、申告を逃れようとしても、必ずバレるのです。相続が発生した場合は、必ず相続税の申告・納付を行いましょう。

相続税の申告期限を過ぎたらどうなる?

相続税の申告期限は説明した通りですが、申告する前に期限が過ぎてしまった場合、どうなるのでしょうか。

具体的には以下のような状況になります。

  • 減税制度や特例制度を活用できない
  • 「無申告加算税」「延滞税」「重加算税」などペナルティの対象となる
  • 財産の差し押さえや他の相続人に督促がいく可能性がある

それぞれ詳しく解説します。

減税制度や特例制度を活用できない

相続税の申告期限を過ぎてしまった場合、減税制度や特例制度を活用できなくなります。

相続税には以下の減税特例が定められています。

  • 小規模宅地等の特例
  • 配偶者の税額軽減

減税制度を利用すれば大きな節税効果がありますが、申告期限を過ぎるとこれらの精度は利用できなくなります。

小規模宅地等の特例

小規模宅地等の特例とは、一定の要件に該当する土地を相続した場合、その土地の一定面積までの評価額を最大80%下げられる制度です。

土地の評価額が低くなれば、その分相続税も下がるため、大きな減税となる可能性があります。

なお、最大80%下がるのはあくまでも土地の評価額であり、相続税が80%減税されるということではありません。ただし、土地の状況によってはそれ以上の減税効果が発生する可能性もあります。

配偶者の税額軽減(相続税の配偶者控除)

配偶者の税額軽減(相続税の配偶者控除)とは、配偶者が相続した財産のうち、課税対象となるものの金額が、1億6,000万円もしくは配偶者の法定相続分相当額のいずれか大きい金額までであれば、相続税が発生しないという制度です。

配偶者の税額軽減を活用した場合、配偶者が相続した財産の合計額が1億6,000万円までなら相続税が発生せず、1億6,000万円を超えた場合でも、法定相続分までであれば相続税が課税されることはありません。

法定相続分とは、民法で決められている相続人の相続割合のことです。

例えば、父親が死亡して相続人が配偶者(母親)と子どもだった場合、配偶者の法定相続分は2分の1です。父親が残した遺産が4億円あったとすると、配偶者控除額の1億6,000万円よりも大きくなりますが、配偶者の法定相続分は2億円となるため、2億円までは相続税が非課税となります。

これらの減税制度・特例を利用したい場合は、遺産分割協議を速やかに完了させて、期限内に相続税の申告を完了させる必要があるため、十分に注意しましょう。

「無申告加算税」「延滞税」「重加算税」などペナルティの対象となる

相続税の申告期限を過ぎてしまった場合、さまざまなペナルティが課せられます。

具体的なペナルティの種類は以下の通りです。

ペナルティの種類 内容
無申告加算税 本来の納税額のうち、50万円以下の部分に15%、50万円を超える部分に20%が加算される。
ただし、税務署からの税務調査の通知後に、調査開始までに自主的に申告した場合、50万円以下の部分は10%、50万円を超える部分は5%になる。
税務調査の通知前に自己申告した場合は5%の無申告加算税が加算、申告期限から1ヶ月以内に申告した場合は無課税となる
延滞税 納付期限の翌日から2ヶ月以内に申告した場合は年利7.3%、2ヶ月を経過した日以降は年率14.6%の延滞税が加算される。
重加算税 意図的に隠蔽や偽装するなど相続税の申告を操作した場合に加算される。
意図的に相続税を少なく申告した場合は原則35%、申告も納付もせずに相続税を逃れようとした場合は原則40%が課せられる。
平成29年1月1日以降で、過去5年以内に相続税の無申告加算税や加算税が課せられている場合、50%が課せられる。

本来の相続税に加えて、これらのペナルティが課せられた場合、相続人の大きな負担となるため、相続税の申告は期限内に済ませる必要があります。

財産の差し押さえや他の相続人に督促がいく可能性がある

相続税の申告期限を過ぎてしまった場合、財産を差し押さえや他の相続人への督促が行われるケースがあります。

相続税の申告や納付が遅れた場合、税務署から本人に対して督促が行われますが、それ以降も未納状態が続くと、所有財産の差し押さえと公売が実施されます。

公売とは、差し押さえた財産を入札にかけて換金することで、滞納されている税金の支払いに充てる処分です。

また、相続税には連帯納付義務が定められています。相続人それぞれが連帯して納付しなければならないことが相続税法によって定められているため、相続人の誰かが相続税を納付しない場合、他の相続人に対して督促が実施されるのです。

連帯納付義務が適用された場合、すべての相続財産が相続税の納税に使用される可能性があるため、気を付けなければなりません。

なお、連帯納付義務の対象となるのは、被相続人から相続もしくは遺贈によって財産を取得した人です。また、同じ被相続人から生前贈与を受けて相続時精算課税制度を利用している人も対象となる点には注意が必要です。

連帯納付で支払う金額は、関係するそれぞれの相続人が平等に負担しますが、納税額には限度が設定されています。限度額は以下の通りです。

連帯納付義務の限度額=相続した遺産の金額-納付した相続税の金額

例えば、相続によって2,500万円の財産を受け取り、相続税として300万円を納付している場合、連帯納付義務の上限は2,200万円となります。

また、連帯納付義務に関しても納税期限が設定され、期限を過ぎた場合はペナルティが課せられ納税額が加算されます。具体的なペナルティは以下の通りです。

連帯納付義務のペナルティの種類 内容
利子税 連帯納付義務者に督促状が届いた日を基準に納税が遅れた日数に応じて加算。
令和6年1月1日から令和6年12月31日までの期間は0.9%。
延滞税 連帯納付義務者に督促状が届いた日から2ヶ月を経過してもすべて納税できない場合に加算。
令和6年1月1日から令和6年12月31日までの期間は8.7%。

参考:延滞税・利子税・還付加算金について|財務省

相続税の申告期限が迫っている場合の対処法

相続税の申告がなかなかできず、期限が迫ってしまうケースがあります。

申告期限が迫っている場合には、以下のような対処法があります。

  • 遺産分割ができていない場合でもとりあえず申告する
  • 相続を専門とする税理士に相談する

それぞれ詳しく見ていきましょう。

遺産分割ができていない場合でもとりあえず申告する

遺産分割が完了していない場合でも、とりあえず申告することを検討しましょう。

申告が遅れてしまった場合、無申告加算税や延滞税といったペナルティが課せられるためです。

被相続人の財産の状況によっては、不動産が多く評価額の算出に時間がかかる場合があります。また、相続人ごとの都合により、申告期限までに遺産分割が間に合わないこともあるでしょう。

このような場合に利用できる制度に、未分割申告というものがあります。

未分割申告とは、法定相続分で遺産を分割したものと仮定し、期限内に相続税の申告を行うことをいいます。

法定相続分で一旦申告を行い、遺産分割が完了したら、遺産分割協議を基に税額を再計算して、更正の請求を行えば後から支払いすぎた相続税を回収可能です。

更正の請求とは、申告した税額が多かったことを知った場合に、納税義務者が税務署に税額の減額を求める行為です。

未分割申告によってとりあえず申告しておけば、期限が過ぎた場合のペナルティを避けられます。

また、申告時に「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出して、実際に3年以内に遺産分割がまとまれば、小規模宅地等の特例といった減税制度の適用も受けられます。

なお、この届出を行ったものの、遺産分割に関して訴訟に発展した場合など、3年以内に遺産分割が完了しなかった場合は、「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出すれば、相続税の申告のやり直しができる期間の延長が可能です。

相続税の計算は複雑になりやすいほか、相続人同士で争いになり、遺産分割に時間がかかることがあります。仮でも構わないので、まずは期限までに申告することを目指しましょう。

相続を専門とする税理士に相談する

相続税の申告期限が迫っている場合は、相続問題に強い税理士に相談することをおすすめします。

相続が発生した場合、残った遺産の内容を確認したり、それぞれの評価額を算出して相続分を算出したりする必要があります。

しかし、これらの確認や計算はかなり複雑で、遺産を正しく分割したり、相続税を正しく計算したりするのは簡単ではありません。

このような場合は、相続に強い税理士に相談して、適切なアドバイスやサポートを受けた方がいいでしょう。

税理士に対応を依頼すれば、相続税の申告書の作成や納税資金の準備、遺産分割協議の進行など、相続税申告に関連するさまざまな課題の解決をサポートしてくれます。

また、申告期限が迫っている場合でも、暫定的な法定相続分での申告や、後に更正の請求または修正申告による税額の修正にも対応可能です。

相続する財産の種類が多い場合や、自分で相続税を申告するのが難しい場合は、税理士に相談して相続問題をスムーズに解決しましょう。

相続税の納付期限が迫っている場合の対処法

相続税は申告するだけではなく納付が必要です。ここでは、相続税の納付期限が迫っている場合の対処法を紹介します。

具体的な対処法は以下の通りです。

  • 遺産分割協議をして一部だけ預金を引き出す
  • 遺産分割前に払戻し制度で預金を引き出す
  • クレジットカードで相続税を納める
  • 延納や物納を申請する
  • 借入や財産売却により資金を調達する

それぞれ詳しく解説します。

遺産分割協議をして一部だけ預金を引き出す

相続税の納付期限が迫っている場合は、遺産分割協議を行い、一部だけ預金を引き出しましょう。

遺産分割協議とは、被相続人が残した財産に対して、誰に何をどう分けるのか話し合うことをいいます。

遺産分割協議で相続人全員が合意した場合、被相続人が残した預金から、相続税の納税に必要な金額を引き出せます。

納税期限が迫っているものの、遺産分割の協議が完了していない場合に有効な手段となります。

ただし、相続人全員が合意する必要があり、誰か1人でも賛成しなかったり、協議に参加していなかったりする場合は、この手段を取れません。

また、相続人同士で相続トラブルに陥っているような場合では、採用するのが難しいでしょう。

遺産分割前に払戻し制度で預金を引き出す

相続税の納付期限が迫っている場合は、遺産分割で合意する前に払戻し制度で預金を引き出して、相続税を納付することを検討しましょう。

遺産分割前の相続預金の払戻し制度とは、相続人同士での遺産分割協議がまとまる前に、単独で被相続人の預金を引き出せる制度をいいます。

この制度を利用すれば、被相続人の預貯金を相続税の納付に充てられます。

被相続人の預貯金額のうち、相続開始時の残高の3分の1に、法定相続分を掛け合わせた金額までなら、相続人が単独で預貯金の払戻しを行えます。なお、1つの金融機関から払い出せる金額の上限は150万円までです。

また、家庭裁判所で遺産分割の調停や審判を行っている場合は、家庭裁判所への申し出が必要です。

ただし、制度を利用する場合は、金融機関の窓口での手続きが必要です。提出が必要な書類は以下の通りです。

  • 被相続人の除籍謄本
  • 相続人全員の戸籍謄本または全部事項証明書
  • 預金の払戻しを希望する相続人の印鑑証明書
  • 預金の払戻しを希望する相続人の本人確認書類

金融機関によって提出書類や手続き方法が異なる場合があるため、事前に確認した方がいいでしょう。

クレジットカードで相続税を納める

クレジットカードで納付するのも、納付期限が近い場合の対処法の1つです。

相続税を含めた国税は、平成29年1月4日以降からクレジットカードで納付可能となっています。

国税クレジットカードお支払サイトを利用すれば、24時間いつでもクレジットカードで納税できます。自宅からインターネット経由で納付できるため、日中に時間が取れない場合でも利用しやすいでしょう。

ただし、クレジットカードの引き落としのタイミングで残高不足になった場合、期限にさかのぼった上で延滞税のペナルティが発生するため注意してください。

また、クレジットカードによる国税の納税では、1回の決済あたり1,000万円未満に制限されています。納税額が1,000万円を超える場合は、複数回に分けて納税しなければなりません。

さらに、クレジットカードごとに定められている利用限度額を超えると納税できないほか、クレジットカードの利用には決済手数料が発生する点にも注意しましょう。

なお、銀行窓口や税務署窓口では、クレジットカードで相続税を納付できません。

延納や物納を申請する

どうしても相続税の納付が厳しい場合は、延納や物納を検討しましょう。

延納とは

延納とは、相続税の納付期限までに一括納付が難しい場合に納税者の申告によって納付を困難とする金額を限度に分割で納付することをいいます。

相続税は金銭かつ一括での納付が原則となります。そのため、延納が認められるには以下の条件を満たす必要があります。

  • 相続税策が10万円を超える場合
  • 納付期限までに金銭での一括納付が難しい場合
  • 国債や地方債、土地など、延納税額及び利子税額に相当する担保を提供できる場合

延納できる金額は、金銭での一括納付が難しい理由があり、その場合の納付が難しいとする金額の範囲内でなければなりません。

一括納付が困難な金額とは、相続財産だけではなく、納税者の固有財産を加えても支払いが難しい金額を指します。

なお、延納できる期間は遺産に占める不動産の割合によって異なります。

また、延納でも金銭で納税するのが厳しい場合、物納を選択することも可能です。

物納とは

物納とは、相続税の一括納付や分解払いでの納付が難しい場合、納税者の申告によって納付が困難な金額を限度として、相続財産で納付することをいいます。

物納は延納が難しい場合の例外措置となります。そのため、物納が認められるには以下の条件を満たす必要があります。

  • 延納でも金銭での納付ができない場合
  • 物納できる財産から選定されたもので、申請の順位を満たしている場合
  • 納付期限までに申請書を提出している場合

なお、物納できる財産は、相続によって取得した国内の財産に限られます。また、物納に充てられる財産には優先順位が設定されています。具体的な順位は以下の通りです。

順位 物納に充てられる財産の種類
第1順位 ①不動産、船舶、国債証券、地方債証券、情報株式など
②不動産及び上場株式のうち物納劣後財産にあたるもの
第2順位 ③非上場株式など
④非上場株式のうち物納劣後財産にあたるもの
第3順位 ⑤動産

※物納劣後財産とは、財産が自由に使用・処分ができないなど、他の財産と比較して売却が難しい財産のこと。

金銭やクレジットカードでの納付が難しい場合は、延納や分納が利用できるか確認してみましょう。

借入や財産売却により資金を調達する

どうしても相続税の納付が難しい場合は、何らかの方法で資金を調達することを検討しましょう。

資金を調達する場合、以下のような方法があります。

  • 金融機関から借り入れる
  • 相続財産を売却する

被相続人の預金の引き出しが難しく、借入も期待できない場合は、相続税の納付前に相続した財産を売却して資金を用意しても問題ありません。

ただし、遺産分割協議が完了しており、誰が何を相続するかが決まっている場合のみ、相続財産の売却が可能です。

相続税の申告期限を延長できるケースがある

特殊な事情によって相続税の申告期限を延長できるケースがあります。具体的な事例と詳細は以下の通りです。

相続税の申告期限を延長できる特殊なケース 詳細
災害などに遭ったケース 地震・津波・豪雨・台風などの自然災害や、火災・ガス爆発などの人為的災害、新型コロナウイルス感染症の影響などにより期限までに申告・納付が不可能な場合。
相続人の異動があったケース 認知や廃除など相続人の異動が発生した場合(相続人間での話し合いが必要になるため)。
遺留分侵害額の請求があったケース 遺言書などの影響により法定相続人以外に財産が遺され、遺留分を侵害された法定相続人が遺留分震災侵害額の請求を行い、それが認められた場合。
遺贈に関わる遺言書が見つかったケース 後から遺言書が発見された場合(計算のやり直しが必要なため)。
胎児が生まれたケース 相続税は相続人の人数によって基礎控除額が変動するため、胎児が出生したものとして相続税を計算している場合、相続税の申告が不要になる場合がある。
この場合、申告期限の延長が可能。
※相続税法では胎児が出生すれば納税義務が発生すると定めている
※胎児が出生した場合、その事実を特別代理人が知った時点で相続開始となり、申告期限はその日から10ヶ月以内

災害に遭ったケースでは、災害が終わった日から2ヶ月以内に申請期限が延長されます。それ以外のケースでは、通常の申告期限から2ヶ月以内に延長可能です。

災害に遭って申請・納付期限を延長したい場合は、管轄の税務署に「災害による申告、納付等の期限延長申請書」を提出します。

それ以外のケースでは手続きは不要ですが、準備ができ次第申告を行い、その際に「申告が過ぎた理由を証明する書類」を提出します。

相続税の申告・納付までの流れ

最後に相続税の申告・納付までの流れについて解説します。

大まかな流れは以下の通りです。

  1. 被相続人の財産を調べる
  2. 相続方法を決める
  3. 残された遺産の金額と相続権利がある人を確定させる
  4. 遺産分割協議を行う
  5. 相続税の申告と納付を行う

はじめに、被相続人が残した財産の調査を行います。不動産や預貯金、株式など、被相続人が所有した財産に加え、借金や債務といったマイナスの財産もすべて含めて調べましょう。

すべての財産のあらましが明確になった時点で、相続方法を選択します。

相続する場合はすべての財産を無条件で継承する単純承認、プラスの財産を上限として借金などのマイナスの財産も継承する限定承認、もしくは相続放棄の3つから選択します。

相続方法が決定したら、被相続人の財産の評価を行い、遺産の金額と法定相続人を確定します。その後、相続の対象となる相続人で遺産分割協議を行い、遺産の分割の割合について合意できた場合は、遺産分割協議書を作成します。

それぞれの相続人の相続金額が確定したら、相続税の申告書を作成し税務署に提出した上で、相続税を納付します。

申告と納付が済んだら、相続した保険や不動産などの名義変更を行います。

相続税の申告と納付の期限は、本記事で解説した通りです。期限を過ぎてしまうとペナルティを受けたり、他の相続人に督促が行ったりするなど、負担や影響が大きいため、期限内に申告・納税を済ませましょう。

まとめ

相続税の申告・納付には期限があり、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日を起点に10ヶ月以内となっています。

ただし、相続人の状況によっては、申告期限や例外的に設定されたり、延長されたりするケースがあります。

また、申告や納付の期限を過ぎてしまうと、無申告加算税や延滞税、重加算税などのペナルティが課せられるケースがあるほか、財産の差し押さえや他の相続人への督促が行われたり、減税制度を利用できなくなったりするため、注意しましょう。

本記事を参考に、相続税の申告・納付を行うようにしましょう。