親の借金を子供が返済する義務はない
原則として親の借金を子供が返済する義務はありません。
お金を貸し借りする際には金銭消費貸借契約という契約を、債権者(お金を貸す人)と債務者(お金を借りる人)の二者間で結びます。あくまで債権者と債務者の間の契約なので、契約上は債務者でない子供には返済の義務がありません。
ただし、「子供が親の保証人・連帯保証人となっている場合」など、子供にも借金返済義務が生じるケースがあります。
この後、具体的に解説します。
親の借金に対して返済義務が生じる6つの事例
原則的には親の借金の返済義務は子供にありませんが、例外的に返済義務が生じるケースがあります。
具体的には次の6とおりです。
- 子供が親の借金の保証人(連帯保証人)となっていた
- 子供の名義で親が借金をしていた
- 親の借金を子供が相続した
- 親が誰かの連帯保証人となっていた事実を子供に知らせないまま死亡した
- 団体信用生命保険未加入の住宅ローンを残して親が死亡した
- 離婚している疎遠な親が借金を残して死亡した
ひとつずつ見ていきましょう。
1.子供が親の借金の保証人(連帯保証人)となっていた
親が借金をする際に、子供が保証人・連帯保証人となっていた場合、親と同様に返済の義務が生じます。
保証人・連帯保証人とは債務者が返済できないときに、代わりに借金を返済する人です。
先ほど述べたように原則的には子供に返済義務はないものの、保証人・連帯保証人になった場合は子供であっても返済の義務が生じます。
保証人と連帯保証人の違いは以下のとおりです。
保証人は「催告の抗弁権」がある
保証人は、債務者(当記事では親)に代わって借金の返済することを約束した人で、催告の抗弁権を持っています。
催告の抗弁権・・・保証人が債権者から債務の履行を請求された際に、先に主債務者に対して債務の履行を催告するように主張できる権利
催告の抗弁権があれば、債権者(お金を貸した人)から保証人に対して「お金を返してほしい」と請求を受けた場合も、「まずは債務者に請求してください」と主張できます。
連帯保証人は「催告の抗弁権」がない
催告の抗弁権がある保証人に対して、連帯保証人は催告の抗弁権がありません。つまり、返済の請求があった場合にも、債務者に請求するよう主張できず、債務者と同等の義務が生じます。
返済能力がない場合は、連帯保証人の財産も差し押さえの対象となります。
連帯保証人は保証人よりも責任が重く、リスクが高いです。
2.子供の名義で親が借金をしていた
親が子供の名義で借金していた場合、子供に借金返済の義務が生じる可能性があります。
借金を重ねブラックリストに登録されている場合、お金を借りる審査に通らなくなります。そのため親自身の名義がブラックリストに登録され審査が通らなくなり、子供の名義でお金を借りるケースがあるので注意が必要です。
この場合、子供が名義貸しを把握していたかどうかで返済義務が異なります。
名義貸しを承知していた場合は、親が返済できないと子供にも返済義務が生じます。
「返済しなくていいから名義だけ貸して」と言われていた場合でも、それを承諾していれば返済義務があるのは子供の方です。
一方、名義貸しを知らなかった場合、原則として返済の義務はありません。しかし、「知らなかったので返済できません」と言っても債権者が納得できずに裁判を起こすケースもあり、その場合には、申し込み情報などから、子供にも責任があるかどうかが裁判所で判断されます。
名義貸しを知らなかった場合でも、「親に自分の印鑑や身分証明書を預けており、無断で名義を使われた」などといった場合、子供にも一定の責任があるとみなされるケースがあります。
判断が複雑なため、名義貸しをしていた場合は弁護士などの専門家に相談しましょう。
3.親の借金を子供が相続した
親が死亡し財産を相続する場合、借金も相続されるため返済の義務が生じます。
遺言がない場合には、配偶者や子供といった法定相続人が財産を引き継ぐ(相続する)ことになります。その場合、預貯金や不動産などといった経済的価値がある財産のみならず、借金などのマイナス財産も相続の対象に含まれます。
プラス財産よりマイナス財産が多い場合は、相続放棄という選択肢もあります。
借金があることを知らずに相続し、後から借金があると発覚した場合、借金も相続する意思があると判断され、相続が認められない場合があります。
そのため相続する前に、プラス財産とマイナス財産のどちらが多いか、しっかり確認することが重要です。
4.親が誰かの連帯保証人となっていた事実を子供に知らせないまま死亡した
親が生前、自身の友人などの連帯保証人となっており、そのことを知らずに相続した場合も子供に連帯保証人の地位が相続されます。こちらもマイナス財産の場合と同じく、相続放棄が可能です。
しかし、親が保証人・連帯保証人となっている事実を家族に知らせずに死亡し、子供が相続した場合、後になって債権者からの請求を受けて、保証人・連帯保証人だったと発覚することがあります。その場合、相続放棄期限の関係で、相続してしまった保証人の立場を放棄できない可能性があるため注意が必要です。
相続放棄の期限は相続開始があったことを知ってから3カ月以内です。
3カ月といった期限を鑑みると、後日債権者から連絡があっても期限を過ぎている可能性があり、相続放棄が難しいでしょう。
ただし状況によっては相続放棄の期限を過ぎていても相続放棄できる場合があります。司法書士、行政書士、弁護士、税理士といった専門家へ相談しましょう。
5.団体信用生命保険未加入の住宅ローンを残して親が死亡した
住宅ローンを残したまま親が死亡した場合は、団体信用生命保険(団信)に加入していたかどうかで、子供にローンが残るかが決まります。
団信とは、契約者に万が一のことがあったときに、住宅ローン残高がゼロになる保険です。
団信に加入していれば、親が死亡したと同時にローン残高が消滅します。
一方、団信に加入していなかった場合、住宅ローンは相続の対象となるため支払い義務が生じます。
ただし団信に加入していない場合でも、相続放棄すると住宅ローン残高の返済義務は無くなるので相続放棄も検討しましょう。
6.離婚している疎遠な親が借金を残して死亡した
両親が離婚していて借金を残して死亡した場合でも、返済義務は相続されます。法律上は離婚していても親子関係は消失しないため、離婚していない親と同じ扱いです。
相続開始を知ったときから3カ月以内に相続放棄すれば、返済義務を免れることが可能です。ちなみに相続開始を知ったときとは、被相続人が亡くなり、自分が相続人だと認識したときです。
【親が存命中】借金の返済義務を回避する方法
親が生きている場合で、借金の返済義務を回避する方法は次のとおりです。
- 保証人(連帯保証人)にならない
- 債務整理をすすめる
ひとつずつ見ていきましょう。
保証人(連帯保証人)にはならない
親が借金をする場合でもその保証人・連帯保証人にならないように気をつけましょう。
大前提として保証人・連帯保証人にはメリットがなく、それどころか大きなリスクがあります。いくら近い関係の親だといっても、保証人・連帯保証人になることは避けるべきです。
保証人を打診された場合は拒否することをおすすめします。
債務整理を勧める
親に借金があり返済が難しいようであれば、債務整理を勧めるのもひとつの方法です。
債務整理することで、毎月の返済が減ったり無くなったりする可能性があるので、親自身の返済負担が軽減されます。また完済できれば返済の相続を事前に防げます。
債務整理は原則として本人(親)しか手続きできないので、生前に行うことが必要です。
親に借金があるかどうかがわからない場合は、まずは借金の有無を確認することから始めましょう。調べ方は後ほど説明します。
債務整理の方法は次の3種類です。
債務整理の種類
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概要
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自己破産
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裁判所から免責を認めてもらえるため借金がなくなるが、自宅など全ての財産は処分される。
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個人再生
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裁判所を介して、借金を1/5~1/10程度に減額してもらう方法だが、原則として3年で返済しなければならない。返済のための収入が必要。
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任意整理
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債権者である金融機関などと交渉し返済方法を双方で合意する。基本的に利息や遅延損害金などの削減に止まり、元本は減らない。返済のための収入が必要。
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【親の死亡後】相続放棄で借金の返済義務を回避する
親の死亡後、遺産を調べている際に借金が発覚した場合は、相続放棄することで返済義務を回避できます。相続放棄をする期限は、相続があったことを知ってから3カ月以内です。
しかし借金を相殺できるほどのプラスの遺産があった場合は検討が必要です。
相続放棄してしまうと遺産も相続できなくなってしまうので、遺産と借金を差し引きしてプラスになる場合は相続や限定承認をしたほうがメリットがある可能性があります。限定承認については後述します。
なお相続放棄をした場合には、債権者からの請求に応じる必要はありません。正規の手続きをしたにも関わらずしつこく請求してくる場合は、専門家へ相談するとよいでしょう。
債権者が消費者金融等の場合の相談先は、金融庁・日本貸金業協会の「貸金業相談・紛争解決センター」です。債権者が個人の場合は、支払い義務がないことを説明し、場合によっては専門家に相談し法的措置を取りましょう。
親の借金を相続してしまった場合の対処法
親の借金を相続してしまった場合の対処法は次のとおりです。
- 相続の限定承認を行う
- リースバックを活用する
- 借金を一本化し金利や返済額を下げる
- 債務整理を検討する
ひとつずつ見ていきましょう。
相続の限定承認を行う
限定承認を行えば、プラス財産の範囲内でのみ、借金などのマイナス財産を相続できます。また借金があるという確証まではなく、「借金の気配がある」「疑わしい」という場合にも限定承認の選択肢が取られるケースがあります。
限定承認であればプラスの財産は確定でき、マイナスである借金の方が少ない場合は手元に財産が残ります。マイナスの借金の方が多い場合は、プラスの財産を限度として相続するので、差し引きゼロとなります。
限定承認を行うためには、家庭裁判所に限定承認の手続きを申請し、承認を得る必要があります。限定承認は相続人全員が手続きする必要があるため、他の相続人と事前の相談が必要です。
期限は相続開始を知ったときから3カ月以内です。期限を過ぎると自動的に全てを相続する単純承認となるため注意しましょう。
また、相続人が複数いる場合、債務は法定相続分に応じて分割される点にも注意が必要です。
リースバックを活用する
相続財産の中に持ち家等がある場合はリースバックを活用しましょう。
リースバック・・・所有する不動産などの資産を売却することによって現金化し、資産を得ると同時に、売却した家には家賃を払い住み続ける取引
リースバックで取得した資金は使い道が自由なので、借金返済に利用できます。借金を相続してしまっても財産の中に不動産があれば、売却することで返済金を確保できます。
借金を一本化し金利や返済額を下げる
複数の金融機関から親が借金している場合には借金を一本化すると良いです。
返済日は金融機関によってばらけていることが多いため、月に何度も返済日と金額を確認し、お金を用意する手間がかかってしまいます。しかし「おまとめローン」などで金融機関を一本化することで支払日と金額が統一でき管理しやすくなります。
さらに金利を下げられることがあるので、月々の返済負担を減らすことも可能です。
デメリットとしては、審査に通らない可能性があります。また、返済額を下げることで元本の返済が遅くなり、結果として総返済額が増える可能性もあります。
自分が債務整理を検討する
先ほど述べた「親に債務整理をすすめる」理由と同じで、負債を相続してしまった場合は自ら債務整理することも選択肢のうちに入れましょう。
債務整理をすることで、毎月の返済が減ったり無くなったりする可能性があります。
債務整理の種類
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概要
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自己破産
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裁判所から免責を認めてもらえるため借金がなくなるが、自宅など全ての財産は処分される。
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個人再生
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裁判所を介して、借金を1/5~1/10程度に減額してもらう方法だが、原則として3年で返済しなければならない。返済のための収入が必要。
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任意整理
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債権者である金融機関などと交渉し返済方法を双方で合意する。基本的に利息や遅延損害金などの削減に止まり、元本は減らない。返済のための収入が必要。
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既に親の借金を相続してしまい相続放棄ができない場合は、債務整理を検討しましょう。
消滅時効を援用する
親の借金の保証人・連帯保証人となり、返済の義務が発生した場合でも、借金の消滅時効が完成していれば、保証人・連帯保証人でも時効の援用ができます。
時効の援用・・・時効の完成によって利益を受けるものが、時効の完成を主張すること
ただし親が生前、消滅時効前に「借金を返す」などと約束したり、「返すことを前提とした行動」を取っていた場合は、消滅時効は完成しない可能性があるため、注意が必要です。
▼借金の消滅時効(改正民法)
【2020年4月1日より前の借金】
・個人から借りた場合は、債権者が権利を行使できるときから10年
・金融機関などから借りた場合は、債権者が権利を行使できるときから5年
【2020年4月1日以降の借金】
債権者が権利を行使できると知ったときから5年、または権利を行使できるときから10年のいずれか早い方
親の借金を子供が把握する方法
親が死亡している場合に借金を把握する方法は次のとおりです。
- 個人信用情報機関へ確認する
- 銀行口座の取引履歴を調べる
- 登記情報を確認する
- 親の郵便物やPC、スマホをチェックする
また親の借金を子供が把握する方法は上記ですが、前提として、次の2点には注意が必要です。
- 原則として、親が生きている間は、子供が親の借金を確認する方法はない
- 親が誰かの連帯保証人になっているかは調べられない
(債務者が支払いをしている限り、連帯保証人を引き継いでいる子供には連絡がこない)
ひとつずつ見ていきましょう。
個人信用情報機関へ確認する
個人信用情報機関へ直接確認することで、親の借金状況を確認できます。
個人信用情報機関とは、銀行やクレジットカード会社が審査で利用する機関で、いわゆるブラックリストと呼ばれる情報を管理しています。
借入先ごとに機関が異なるので、どこから借入しているか分からない場合は、念のため全ての機関へ確認することがおすすめです。
銀行口座の取引履歴を調べる
通帳などを使って銀行口座の取引履歴を調べ、借金の有無を確認する方法があります。
通帳の取引履歴で消費者金融への振込があったり、毎月一定金額が引き落とされている場合は借金がある可能性があります。
しかし、銀行によって取り寄せることができる取引履歴の期間や発行手数料が異なるため注意が必要です。
通帳だけでなく契約書控えや振込証、督促状などの関連する書類などを調べると漏れがなく確認できます。
登記情報を確認する
親が所有する土地や建物などの登記事項証明書で、抵当権や質権が設定されていないかを確認しましょう。
抵当権や質権は、借金をするときに不動産などに設定する担保です。つまり抵当権や質権が設定されていれば借金があるということです。
登記事項証明書は法務局で取り寄せられますので、土地や建物を所有している場合は必ず確認しましょう。
親の郵便物やPC、スマホをチェックする
銀行以外の取引履歴を調べる方法として、親の郵便物やPC、スマホをチェックする方法があります。
借入がある場合は郵便で届く場合がほとんどですが、住所が違っている場合はメール、メッセージでやり取りするケースもあります。
また債権者から督促の電話がかかってきていることもあるので、生前使用していたスマホの留守電や着信履歴も確認しましょう。
まとめ
親の借金は基本的に子供に返済義務はありません。しかし、保証人になっていたり、名義を貸してしまったり、相続してしまうと返済義務が生じてしまいます。まずは保証人・連帯保証人にならないことが重要で、生前であれば親の借金を把握し、なるべく完済できるようにサポートしましょう。
もし亡くなった後で相続してしまった場合でも、限定承認や債務整理を行うことで、返済負担を減らすことが可能です。
複雑なケースも多いので、不安なことは専門家に相談してみることをおすすめします。
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