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贈与の取り消しができるケース・できないケースと取り消した場合の注意点を解説

贈与の取り消しができるケース・できないケースと取り消した場合の注意点を解説

贈与は、相手方に無償で財産を譲り渡す意思表示に対し相手方が承諾することで成立します。

贈与契約書など必ずしも書面で行う必要はなく口頭でも成立する一方、贈与したあとに取り消したい場合もあります。

贈与を取り消せるかどうかは民法の規定によって決まり、次のようなケースでは取り消しが可能です。

  • 書面によらない贈与の履行が終わっていない
  • 贈与者が錯誤・脅迫・詐欺によって贈与を行った
  • 法定代理人の同意がない未成年者や成年被後見人が贈与を行った
  • 死因贈与契約だった(贈与者が亡くなることで効力が発生する贈与契約)
  • 受贈者が贈与者に対して忘恩行為を行った(贈与者から受けた恩を裏切るような行為)
  • 夫婦間で贈与が行われた
  • 負担付贈与契約において受贈者が負担を履行しない(贈与を受ける代わりに課せられた義務を果たさない場合)
  • 受贈者が贈与の取り消しに合意した

一方で、書面によって行われた贈与やすでに履行されている部分については原則として取り消しできません。

また、贈与が取り消された場合、贈与税が生じるかが問題となります。

履行前であれば贈与税はかかりませんが、贈与が履行された後に取り消す場合、取り消し・解除事由によって取扱いが異なります。

法定取消権・法定解除権による取消の場合 詐欺や強迫など法律で定められた一定の事由が発生した場合に取り消す場合あるいは相手方が契約上の義務を果たさず契約解除する場合など 贈与税はかからない
合意解除による取消などの場合 贈与者と受贈者双方の合意のもと契約を解除する場合 原則として、贈与税がかかる(例外要件あり)

また、贈与した財産が不動産である場合、贈与にともなって発生した登録免許税や不動産取得税は、取り消したとしても課税されます。

贈与を取り消した場合にどのような税金がかかるかは、贈与契約の種類や取消事由、贈与した財産の種類などで変わるため、税理士や弁護士など専門家へ相談することがおすすめです。

この記事では、贈与の取り消しができるケース・できないケースを紹介したうえで、贈与を取り消す方法や贈与税や登録免許税、不動産取得税の取扱いについて解説します。

贈与の取り消しができるケース

贈与した場合でも取り消しができる場合があります。ここでは8つのケースについて解説します。

  • 書面によらない贈与の履行が終わっていない
  • 贈与者が錯誤・脅迫・詐欺によって贈与を行った
  • 法定代理人の同意がない未成年者や成年被後見人が贈与を行った
  • 死因贈与契約だった
  • 受贈者が贈与者に対して忘恩行為を行った
  • 夫婦間で贈与が行われた
  • 負担付贈与契約において受贈者が負担を履行しない
  • 受贈者が贈与の取り消しに合意した

書面によらない贈与の履行が終わっていない

民法550条では「書面によらない贈与は、各当事者が解除をすることができる」と定めています。

そのため、書面によらず口頭で行われて贈与契約は、各当事者は取り消すことが可能です。

これは、贈与契約は当事者の合意だけで成立する契約(諾成契約)であるものの、口約束だけの贈与は、当事者間で紛争が生じる可能性が高まるためです。

書面によって贈与の意思を明確にすることで贈与者の軽率な贈与をなくし、のちのち紛争を防止することができます。

ただし、「贈与の目的物を引き渡した」あるいは「不動産の登記名義を移転した」など、すでに履行された部分については解除できません(同条但し書き)。

贈与者が錯誤・脅迫・詐欺によって贈与を行った

贈与契約において、贈与者の意思表示が錯誤、脅迫、詐欺によって行われた場合取り消せる可能性があります。

これは、民法上、贈与だけでなく契約行為一般について、錯誤や脅迫、詐欺などによって行われた意思表示は取り消すことができるとされているためです。

「錯誤」「詐欺」ならびに「強迫」の内容については、次のとおりです。

行為 根拠条文 内容
錯誤 民法95条第1項 契約において重要な部分について真実とは異なる認識をしていた
詐欺 民法96条第1項 相手方に騙されて意思表示したこと
強迫 民法96条第1項 相手方からの強迫や暴力などによって意思表示させること

これらの取り消し事由にあたる場合、書面で贈与契約を締結していた場合でも一方的に取り消しでき、すでに引渡した目的物の返還を請求することができます。

ただし、錯誤したことについて、意思表示した人に故意あるいは重過失(意思表示するにあたり重大な落ち度がある場合)がある場合、取り消しが認められない可能性があります。

また、錯誤・詐欺・強迫のいずれについても、善意・無過失(知らない、もしくは知らないことに落ち度がないこと)の第三者に対しては、贈与の取り消しを主張することはできません。

【例】
・A:贈与者
・B:受贈者
・C:Bからの買主

AがBに対して不動産を贈与したものの、Bの詐欺を理由に贈与契約を取り消したとします。

このとき、取り消す前にBがCに不動産を売却していた場合、Cが善意・無過失である限りAは取り消したことをCに主張(対抗)できません。

そのため不動産の所有権は買主Cのものとなります。

法定代理人の同意がない未成年者や成年被後見人が贈与を行った

法定代理人の同意がない未成年者、あるいは成年被後見人が行った贈与は取り消すことができます。

成年被後見人とは、精神上の障害により判断能力を欠くとして家庭裁判所から後見開始の審判を受けた人をいいます

未成年者が法律行為を行うには、一部の法律行為を除き、法定代理人の同意が必要です(民法第5条1項)。また、成年被後見人が行った法律行為は取り消すことができます(民法第9条)。

いずれも、十分な判断能力を持たない可能性がある者が行った意思表示を取り消せることで、未成年者や成年被後見人に不利益が生じることを防止しているわけです。

また、未成年や成年被後見人の取り消しは、善意無過失の第三者に対しても主張することができます。

死因贈与契約だった

死因贈与契約の場合、取り消すことができます。

死因贈与とは、贈与者が亡くなったときに効力が生じる贈与契約です。例えば、自分が亡くなったら所有する自宅を贈与するなどです。

死因贈与については、民法554条に「その性質に反しない限り、遺贈に関する規定を準用する」と規定されています。

遺贈は、死因贈与と異なり相手方の承諾は必要なく一方的な意思表示によって行うものですが、遺言はいつでも撤回することが可能です(民法1022条)。

これは、遺言において遺言者の最後の意思を尊重するため、事情の変化などによって遺言の内容を変更したい場合にいつでも撤回できるようにしているためです。

つまり、この規定を準用する死因贈与についても、同様の趣旨でいつでも撤回することができます。

なお、死因贈与の場合、贈与契約自体は生前に行われるものの契約の効力が生じるのは亡くなってからです。

そのため、例えば不動産を贈与するという死因贈与契約の場合、贈与する人が亡くなってから登記を移転しなければ第三者に権利を主張することはできません。

また、遺贈の規定が準用される死因贈与では、税金の面でも贈与税ではなく亡くなった時に相続税が適用されます。

受贈者が贈与者に対して忘恩行為を行った

贈与を受けた者(受贈者)が贈与者に対して忘恩行為を行った場合、取り消しできる可能性があります。

忘恩行為とは、恩を受けた人に対して恩を忘れるような行為です。

詐欺や強迫のように民法上に規定はありませんが、これまでの裁判上取り消しが認められるケースがあります。

例えば、長男に商売を引き継がせ、将来扶養してもらうことを前提に土地と建物を贈与した場合に、長男が親をまったく扶養することもなく家を出て土地、建物を自分の名義に変更しているようなケースです。

このケースの場合、すでに土地建物の名義変更が完了しているため、「履行が終わった部分」にあたり原則として贈与契約を取り消すことはできません。

ただし、過去の裁判例では、さまざまな法律構成により忘恩行為があった場合の贈与の効力を否定しています。

裁判例 法的根拠
東京高判昭52・7・13  負担付贈与と認定し、負担の不履行による解除を認めた事例
札幌地判昭34・8・24  受遺欠格(民法965条、891条)に準ずる事由がある場合には贈与を取り消すことができる
福岡地判昭46・1・29  動機の錯誤があったとして贈与を無効とした事例
新潟地判昭46・11・12  信義則又は条理により贈与の撤回を認めた事例

参照:御池総合法律事務所「忘恩行為を理由とする贈与の撤回・解除」

ただし、贈与の取り消しが認められるほどの忘恩行為であると認められる必要があり、贈与後に感情的な対立が生じただけの場合などでは取り消しが認められない可能性があります。

夫婦間で贈与が行われた

夫婦間で行われた贈与については取り消しすることができます。

民法第754条において、「夫婦間でした契約は、婚姻中、いつでも、夫婦の一方からこれを取り消すことができる」と規定されているためです。

これは婚姻中は夫婦の一方からの威力や溺愛の結果、十分な自由意思を欠くことが多いことから、夫婦間の契約に法的拘束力を持たせ訴訟の対象とすることは適当ではないとの考えから設けられている規定です。

そのため婚姻中の契約行為はいつでも取り消しすることができます。

ただし、形式的に婚姻関係にあっても取り消しできない場合がある点には注意が必要です。

過去の判例では、次のようなものがあります。

・「夫婦関係が破綻に瀕している場合になされた夫婦間の贈与は、これを取り消すことができない」

・「婚姻中とは、単に形式的に婚姻が継続していることではなく、形式的にも、実質的にもそれが継続していることをいうものと解すべきである」

つまり、結婚していても、実質的に婚姻関係が破綻しているときに行った贈与契約は、取り消せない可能性があるということです。

負担付贈与契約において受贈者が負担を履行しない

負担付き贈与契約において、受贈者が負担を履行しない場合、贈与契約を取り消すことができます。

負担付き贈与は、贈与を行うことを条件に何らかの義務や負担が生じる贈与契約です。

例えば、「毎月一定金額を贈与する代わりに、介護や身の回りの世話をしてもらう」、あるいは「住宅ローンの残債が残っている自宅を贈与する代わりに、残りのローンを返済してもらう」などです。

負担付贈与については、その性質に反しない限り、双務契約に関する規定が準用されます(民法553条)。双務契約とは、契約の当事者双方が相手に対して契約上の義務を負う契約です。

つまり、負担付き贈与については、贈与を受ける者にも法律上の義務(負担)が生じるため、その義務を履行しない場合、債務不履行により贈与者は贈与契約を解除できます(民法541条、542条)。

受贈者が贈与の取り消しに合意した

贈与者と受贈者が贈与契約の取り消しに合意した場合、いつでも取り消すことができます。

契約は当事者間で自由に行うことができ契約の解除も自由です。

ただし、贈与が履行され目的物の引渡しなどが行われている場合、その部分については取り消すことはできません。

贈与の取り消しができないケース

次に、贈与契約を取り消すことができないケースについて解説します。

  • 書面による贈与が行われた場合
  • 履行が終わった場合

書面による贈与が行われた場合

贈与契約書を交わすなど、書面による贈与が行われた場合、原則として取り消すことはできません。

口頭での贈与と異なり書面によって明確な意思表示のもと行われた贈与契約は、原則として取り消しできないものとしているわけです。

書面による贈与契約には、贈与契約書のほか、内容証明郵便や調停調書など、贈与契約の双方の意思が明確に確認できる書類も含まれます。

なお、錯誤や詐欺。強迫による贈与契約、あるいは法定代理人の同意なく未成年者がした贈与契約などは、書面でなされたものであっても取り消し可能です。

履行が終わった場合

書面によらない贈与は取り消しができますが、口頭による贈与であっても履行が終わっている部分については原則として取り消しはできません。

なお、錯誤や詐欺。強迫による贈与契約、また、成年被後見人もしくは法定代理人の同意がなく行った未成年者の贈与契約は、履行が完了していても取り消しは可能です。

贈与の取り消しは口頭や内容証明郵便などで行う

贈与を取り消すときの方法について、特に法律上の規定はなく口頭による意思表示でも可能です、

ただし、取り消しの意思表示や日時を明確にするため、内容証明郵便で通知したり、当事者間で贈与契約の取り消しの覚書などの書面を交わすことがおすすです。

贈与に関して税務調査などが入った場合でも、取り消した事実を客観的に証明できるものがあれば、手続きはスムーズに進めやすいでしょう。

贈与を取り消した場合は贈与税がかからない

贈与を取り消した場合に贈与税がかかるかは、取り消したタイミングと取り消し事由によって扱いが異なります。

まず、贈与契約を締結後、履行前に取り消した場合贈与税はかかりません。

一方で、贈与が履行された後に取り消す場合、取り消し事由が何かによって分けて考える必要があります。

法定取消権または法定解除権に基づく取り消しの場合

法定取消権あるいは法定解除権に基づく解除の場合、贈与税はかかりません。

法定取消権とは、法律上定められた一定の事由が発生した場合に限り取り消すことができる権利です。

例えば、錯誤や詐欺、強迫による贈与、あるいは法定代理人の同意を受けていない未成年による贈与を取り消す場合などです。

また、法定解除権は、負担付き贈与で受贈者が約束を守らず解除する場合などです。

負担付き贈与は、負担部分について受贈者にも法的な義務があるため、その義務を果たさない場合に債務不履行に基づき解除する場合、法定解除となります。

これら法定取消権や法定解除権に基づく贈与の取り消しの場合、引き渡された不動産の名義を受贈者から贈与者に戻すなど、取り消し、解除が確認できれば贈与税は課されません。

またすでに納付した贈与税がある場合は、更正の請求手続きにより支払った贈与税を返還してもらうことが可能です。

合意解除により取り消しの場合

一方、贈与契約の当事者双方の合意のもと契約を解除する場合、原則として贈与税が課税されます。

ただし、以下の要件をすべて満たす場合、例外的に贈与税は課税されません。

  • 贈与税の申告期限までに取り消されている
  • もらった人が贈与された財産を処分していない
  • 贈与者または受贈者が租税の申告または届出をしていない
  • 受贈者が贈与された財産から生み出される利益を収受していない
  • 税務署長が贈与税を課税することが著しく負担の公平を害すると認める

なお、贈与税の申告期限は、贈与が行われた年の翌年3月15日です。

贈与税が課税されるかどうかは、取り消し事由が法律上どのような取扱いになるかによっても変わるため、専門家である弁護士や税金については税理士に相談することがおすすめです。

また、贈与契約が取り消されると受贈者から贈与者に目的物が返還されます。この受贈者から贈与者への財産の移転には贈与税は課税されません。

贈与の取り消しに関する注意点

贈与を取り消した場合に注意すべき点について解説します。

  • 現存利益以外は贈与税の課税対象となる
  • 贈与財産が不動産なら取り消し後も登録免許税や不動産取得税がかかる

現存利益以外は贈与税の課税対象となる

贈与が取り消された場合、受贈者は受け取った目的物を返還しなければなりませんが、すでに目的物を消費している場合には、どこまで返還義務があるのでしょうか。

結論をいえば、原則として、贈与契約が取り消された時点の「現存利益」だけを返還すればよいとされています(民法第121条の2第2項)。

具体的には、財産を遊びなどで浪費してしまった場合は、その分を差し引いた残額が現存利益です。

一方、財産を生活費や借金の返済に使った場合、それにより自分の財産の減少を免れているので、生活費や謝金の返済に使った金額は「現存利益」となります。

その結果、返還の対象とならない現存利益以外の部分については贈与となるため、贈与税が課税されるということです。

贈与財産が不動産なら取り消し後も登録免許税や不動産取得税がかかる

贈与財産が不動産の場合、贈与契約を取り消した場合でも登録免許税や不動産取得税がかかります。

登録免許税とは不動産の権利を登記する際にかかる税金です。

贈与にともなって不動産の登記名義を贈与者から受贈者に移転する所有権移転登記にかかります。

また、不動産取得税は、土地、建物など不動産を取得した場合にかかる税金です。

これらの流通税と呼ばれる税金については、一度は贈与者から受贈者に所有権が移転しているため、贈与契約を取り消したとしても課税されることになります。

まとめ

贈与は無償で行われ、口頭でも成立するため、場合によっては軽い気持ちで行われ後から取り消したいという場合もあります。

取り消しの可否は民法にさまざまなケースが規定されていますが、原則として書面による贈与、あるいはすでに履行が終わっている部分については取り消しできません。

贈与の取り消しの可否は、民法や過去の判例に基づいて判断されるため、弁護士などの専門家に相談することがおすすめです。

また、贈与を取り消した場合、取り消したタイミングや取り消し事由によって贈与税が課税されるかが変わります。不動産を贈与した場合、登録免許税や不動産取得税の負担が生じることもあるため、税理士に相談することも1つの方法です。

ぜひ参考にしてください。

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更新日 : 2024年10月15日
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