認知症になっても軽度であれば生前贈与できる可能性がある
結論からいえば、認知症が軽度であれば生前贈与できるかもしれません。なぜなら、軽度であれば「意思能力がある」と判断される可能性があるからです。
まず、贈与とは民法549条において「財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾することによって、その効力を生ずる」と定められています。
第五百四十九条 贈与は、当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。
引用元 e-GOV 法令検索
つまり、贈与は双方の合意によってのみ成立するということです。そのため、一方が認知症を患って「意思能力が失われた」と判断されると、生前贈与は行えません。
逆に言えば、意思能力があると確認できれば、生前贈与が認められる可能性があります。例えば認知症が軽度な場合は、法律行為をするだけの意思能力があると判断されるかもしれません。
しかし、意思能力を失っているかどうかの判断は、一般人には難しいでしょう。そのため、医師の診断を受け、意思能力の有無を確認してもらうのをおすすめします。
認知症発症後に生前贈与をする際のポイント
前述した通り、認知症の程度によっては、生前贈与が難しくなります。そのため、認知症が発覚した後に生前贈与を行うには、いくつか注意すべき点があるので覚えておいてください。
認知症発覚後に生前贈与を行う際に気をつけるべきは、以下の4点です。
- 意思能力の有無を医師に診断してもらう
- 診断後は速やかに生前贈与契約書を作成する
- 生前贈与は成年後見制度を利用して実施できない
- 必要書類は正確に作成して管理に徹底する
それぞれ詳しく解説していきます。
意思能力の有無を医師に診断してもらう
まず、認知症が発覚した際には、意思能力の有無を医師に診断してもらいましょう。
前述した通り、認知症を患った状態で生前贈与をするには、意思能力の有無が重要視されます。しかし、一般人が認知症の程度や、「意思能力がある」と判断するのはほぼ不可能です。そのため、医者の診断を受け、意思能力があると証明してもらう必要があります。
医者に診断してもらう際には、なるべく長年担当してくれている医者の元へ訪れるのがおすすめです。長年にわたって顔を合わせてきた分、患者の些細な変化にも気づいてくれる可能性があるので、診断書の信憑性が増します。
また、主治医とは別の医者の元で、セカンドオピニオンとして診断を受ければ、更に診断書の信憑性が上がるでしょう。ただし、何も言わずに他の医者の元で診断を受ければ、周りに不信感を生むかもしれません。事前にトラブルを防ぐために、生前贈与のために診断書の信憑性を上げる意図があると説明しておきましょう。
診断後は速やかに生前贈与契約書を作成する
医師に「意思能力あり」と判断された場合は、速やかに生前贈与契約書を作成しておきましょう。
なぜなら、診断から時間が空いてしまうと、その間に症状が進行し意思能力がなくなる可能性があるからです。仮に症状が進行していなくても、時間を置いてしまうと「意思能力がなくなっている」と疑われるかもしれません。
そのため、意思能力があると判断された場合は、診断書をもらってから1ヶ月以内を目安に生前贈与契約書を作成しましょう。そして、贈与契約書には生前贈与の契約をした日付が記載されます。契約締結した日付と、診断書で「意思能力がある」と証明された日付を照らし合わせれば、生前贈与が双方の合意で行われたと証明可能です。
また、生前贈与契約書を公正証書として作成するのもおすすめです。公正証書とは公証人(法律の専門家)の立ち合いの元作成される文書で、法的に強い証明力を持っています。そのため、法的な不備が理由で、生前契約が無効になる可能性を低くできるでしょう。作成後は原本が公証役場に保管されるため、第三者によって偽装される恐れもありません。
ただ、生前贈与契約書だけでは、証拠としては不十分かもしれません。そのため、金銭を贈与する場合は、贈与方法を口座への振り込みにするのをおすすめします。銀行口座であれば取引の日付が通帳に残るため、客観的証拠として十分に機能するでしょう。
生前贈与は成年後見制度を利用して実施できない
生前贈与は、成年後見制度を利用して実施できないと覚えておきましょう。
まず、成年後見制度は意思能力が失われつつある方(被後見人)が、自分に代わって財産管理や法律行為を行う成年後見人を選ぶ制度です。認知症になり判断能力が低下すれば、不利になる契約を知らない間に結んでないか心配になる方もいるでしょう。そんな方々が安心して暮らせるよう、契約・法律行為を代わりに行ってくれるサポート役を選ぶ制度と考えてください。
成年後見制度では、被後見人に代わって、契約を結ぶことが可能です。しかし、生前贈与に関しては、被後見人には行う権利がありません。なぜなら、成年後見制度とは被後見人の財産を、保護するためにある制度だからです。
成年後見人には被後見人に代わって契約行為と、財産を管理する役割を負います。しかし、生前贈与は被後見人の財産を減らす行為であると見做されるので、「財産保護」に反するのです。その為、成年後見人には、生前贈与を行う資格が与えられていません。
一方で、以下の条件を満たせば、成年後見人と共に遺言書を作成することは可能です。
- 一時的に意思能力が回復
- 2人以上の医師立ち会いの元に遺言書が作成された
- 遺言書作成時に意思能力があったと医師が遺言書に記載し、署名と押印をしている
しかし、これらの条件を満たすのは非常に困難であると言えるでしょう。また、遺言書はあくまで被後見人が制作する必要があります。そのため、成年後見人はあくまで、遺言書の作成に立ち会えるだけです。
参考:厚生労働省 成年後見人とは
以下の記事で、成年後見人制度について詳しく解説しています。
必要書類は正確に作成して管理に徹底する
生前贈与契約書、医師の診断書など、必要書類を紛失しないよう徹底して管理しましょう。
前述した通り、生前贈与の際には「締結時に意思能力があったか」が重要視されます。そのため、医師の診断書を紛失してしまうと、生前贈与は無効となる可能性が高いです。口頭での診断は客観的証拠として不十分であるため、必ず医師に診断書を作成してもらって厳重に保管してください。
そして、贈与契約書も診断書同様に、厳重に保管すべき書類です。贈与契約書の記載内容に不備があると、契約が無効になってしまう可能性があります。特に、贈与契約をした日付など、意思能力の判断に必要となる情報の記入漏れには注意しましょう。
生前贈与の手続きの一般的な流れ
生前贈与を行う際の手続きの流れは、以下のようになっています。
- 誰にどの遺産を贈与するのか決める
- 暦年課税か相続時精算課税制度のどちらかの課税方式を選ぶ
- 受贈者から合意を得てから贈与契約書を作成する
- 生前贈与を実行する
- 贈与税の申告と納税を行う
それぞれ詳しく解説していきます。
1.誰にどの遺産を贈与するのか決める
まず、医師の診断を受けた上で、誰にどの遺産を贈与するかを決めましょう。
基本的に、生前贈与を行なった財産には、贈与税が発生します。また、贈与する財産や受贈者の年齢によっても贈与税の金額は変動するため、事前に誰へどの遺産を贈与するか検討しておきましょう。例えば、18歳未満の子供が親・祖父母から、500万円贈与された場合は贈与税は53万になります。しかし、18歳以上の子が贈与を受けた場合は、特例税率が採用され48万5,000円で済むのです。
18歳未満の子どもに500万円を贈与する場合
贈与額│500万円
基礎控除額│110万円
贈与税率│20%
控除額│25万円
500万円-110万円×20%-25万円=53万円
18歳以上の子どもに500万円を贈与する場合
贈与額│500万円
基礎控除額│110万円
贈与税率│15%
控除額│10万円
500万円-110万円×15%-10万円=48.5万円
参考:贈与税の計算と税率(暦年課税)
なお、贈与目的や資産の用途によっては、贈与税の非課税措置が利用できます。主に、教育資金、結婚子育て資金、住宅購入資金を目的とした贈与は一定額まで非課税になると覚えておきましょう。ただ、これらの非課税措置は終了時期が定められています。また、適用されるのは贈与者の子・孫・養子に当たる者のみなので注意してください。
非課税措置の期限や、非課税上限額などに関しては以下の通りです。
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教育資金
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結婚・子育て資金
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住宅取得等資金
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非課税上限額
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1,500万円以下
学校以外の使途は500万円が限度
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1,000万円
結婚は300万が限度
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省エネ住宅は1,000万円
一般住宅は500万円
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合計取得金額
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1,000万円以下
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1,000万円以下
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2,000万円以下
床面積が40㎡以上50㎡未満の場合は1,000万円以下
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受贈者の年齢
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30歳未満
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18歳以上50歳未満
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18歳以上
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終了時期
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2026年3月末
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2025年3月末
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2026年12月末
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なお、時期によっては相続税よりも、生前贈与の方が税率が高くなる可能性もあります。一概に生前贈与を行う方が、得をするとは言い切れません。そのため、税理士に相談して、相続税のシミュレーションを行うのがおすすめです。その上で、どの遺産をどの制度で相続するといいのか、アドバイスを受けるといいでしょう。
参考:国税庁 祖父母などから教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度のあらまし
国税庁 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税
2.暦年課税か相続時精算課税制度のどちらかの課税方式を選ぶ
贈与税の課税方式には暦年課税と相続時精算課税制度の2種類が存在します。そのため、贈与の際には、どちらかの課税方式を選ばなければいけません。
課税方式の選択の権利は贈与者側にあります。しかし、それぞれにメリット、デメリットがあるため、贈与の際には贈与者と受贈者でよく話し合って決めるのがおすすめです。
暦年課税と相続時精算課税の特徴は以下の通りです。
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暦年課税
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相続時精算課税制度
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贈与者の条件
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条件なし
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60歳以上の父母または祖父母
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受贈者の条件
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条件なし
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18歳以上の子・孫
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非課税枠
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年間110万円
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贈与者の人数×2,500万円
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非課税枠を超過した際の税率
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課税税額に応じて10〜55%
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一律20%
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贈与税の申告
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贈与額が110万円を超えたら申告
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選択する際は必ず贈与税申告書と相続時精算課税選択届出書を提出
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贈与者が亡くなった場合
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相続開始前3年以内の贈与財産は相続税に加算(令和8年12月31日まで)
令和13年1月1日からは相続開始7年前まで遡って加算
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贈与財産は全て相続財産として納税が必要
納税の際は贈与時の価額が適用される
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制限
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なし
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選択した場合は暦年課税制度に戻せなくなる
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参考:国税庁 贈与税がかかる場合
以下の目次で、それぞれの制度について詳しく解説していきます。
暦年課税 │ 年間の贈与額から110万円の控除
暦年課税は1月1日から12月31日の間に贈与された財産額から、110万円を引いた金額に贈与税をかける課税方式です。基本的に、現金を始め不動産など全ての財産が対象となります。
暦年課税は、1年間で贈与された財産額が110万円以内であれば、贈与税の申告や納税する必要がない点が特徴です。贈与が複数人・複数回に渡って行われた場合でも、総額が110万円以内であれば贈与税はかかりません。そのため、数年に渡って贈与を行いたい場合や、複数人を対象にした贈与を考えている方にはおすすめの制度となっています。
ただし、110万円以上の贈与を超えた場合には、超過した額に応じて税率がかかるので注意が必要です。税率は10%〜55%と高めで、110万円を超える贈与を超える場合には、相続時精算課税制度の利用も視野に入れましょう。
また、贈与税は特別税率と一般税率の2種類の税率があります。特例税率は父母や祖父母から20歳以上の子・孫へ贈与されるケースに、一般税率は特例税率以外のケースに適用される税率です。
一般税率と特例税率の、特別控除額を差し引いた後の税率と控除額は以下の通りとなっています。
基礎控除後の課税価格
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控除額・税率(一般税率)
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控除額・税率(特例税率)
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200万円以下
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10%
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10%
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300万円以下
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10万円(15%)
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10万円(15%)
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400万円以下
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25万円(20%)
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10万円(15%)
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600万円以下
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65万円(30%)
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30万円(20%)
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1,000万円以下
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125万円(40%)
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90万円(30%)
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1,500万円以下
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175万円(45%)
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190万円(40%)
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3,000万円以下
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250万円(50%)
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265万円(45%)
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4,500万円以下
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400万円(55%)
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415万円(50%)
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4,500万円超
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400万円(55%)
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640万円(55%)
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参考:国税庁 贈与税の計算と税率(暦年課税)
他にも幾つか注意点があります。まず、長期的に贈与を行なっていた証拠がなければ、税務署から「本当に贈与が行われていたのか」と疑われるでしょう。そのため、資産の出金・入金が分かるように、領収書などの証拠が必要です。
また、振込先の通帳を被相続人(資産を贈与する側)が一貫して管理していると、名義預金(名義人とお金の所有者が違う預金)と見做されるかもしれません。その場合、名義預金は相続者ではなく、被相続人の財産として相続税がかかるので注意してください。
更に、暦年課税では被相続人が死亡した場合、死亡する前の3年の間に行われた生前贈与は無効となり、相続財産として見做されます。110万円の特別控除も無効となるので、生前贈与のメリットがなくなくなってしまうと覚えておきましょう。
相続時精算課税制度 │ 累計の贈与額から2,500万円の控除
相続時精算課税制度は、原則として60歳以上の父母・祖父母から、18歳以上の子・孫に生前贈与を行う際に利用できる制度です。主に贈与する資産の累計額が2,500万円までなら、非課税の対象となります。
相続時精算課税制度は限度額が高い分、1度に贈与できる財産が増えるため、早期の財産贈与ができる点が魅力です。すぐにまとまった資産が必要な方、土地など金額が大きい資産を贈与したい方には、おすすめの制度と言えます。また、贈与額が累計2,500万円を超えた場合の税率は一律20%となっている為、暦年課税よりも負担額が計算しやすくなるでしょう。
ただ、相続時精算課税制度では贈与者が亡くなった際に、生前贈与を行なった財産も相続税の課税対象となります。そのため、贈与財産+相続財産の総額が、基礎控除額(3000万円+600万円×法定相続人数)を超える際には、相続税が課税されるので注意してください。
参考:財務省
相続時精算課税の選択
なお、令和5年の税制改正によって、相続時精算課税制度には新たに年110万円の基礎控除が設けられました。簡単に言えば、贈与した財産から110万円を引いた額が、相続財産として加算させるということです。そのため、生前贈与された額が年間110万円以下であれば、相続財産の対象にはなりません。
また、相続時精算課税制度では、相続財産へ持ち戻して再計算する際には、生前贈与時の価値で計算されます。つまり、生前贈与から相続開始時までに財産の価値が上がっていた場合、相続税を抑えられる可能性があるのです。ただし、財産の価値が下がっていた場合は、むしろ多めに税金を払う可能性もあるので注意してください。
3.受贈者から合意を得てから贈与契約書を作成する
課税方式を選択したら、受贈者から合意を得て贈与契約書を作成しましょう。
前述した通り、認知症を患ってる際の生前贈与には、「贈与者と受贈者の同意があった」と客観的に証明できる証拠が必要です。また、贈与が行われたという証拠がなければ、名義預金として相続税の対象となる可能性もあります。そのため、贈与契約書の作成は、診断書を受け取ったら速やかに行いましょう。
贈与契約書は個人でも作成可能ですが、法律の知識がなければ贈与財産など細かい部分の記入に迷うかもしれません。仮に不備のある贈与契約書を作成した場合、後に生前贈与が認められないなどトラブルが発生する可能性があります。そのため、ミスのない贈与契約書を作成したい場合は、税理士や司法書士などプロに依頼するのがおすすめです。
また、プロに依頼すれば、贈与契約書を公正証書としても作成可能です。公正証書は公証人(法律の専門家)立ち会いの元作成される文書で、法的な証明力を持った書類として見做されます。また、公正証書は原本が公証役場で保管されるため、贈与契約書を紛失するリスクを回避可能です。
専門家に依頼する場合は最低でも20,000円以上かかりますが、確実に生前契約書を作成できるメリットは大きいと言えます。
贈与契約書には贈与者・受贈者の情報や贈与内容を詳しく記載する
贈与契約書には、以下の内容を詳しく記載する必要があります。
- 生前贈与する側の氏名・住所
- 受け取る側の氏名・名前
- 贈与する日付
- 贈与する資産の種類と内容
- 贈与の方法
- 贈与者と受け取る側の署名と実印
これらの記入内容さえ満たしていれば、生前贈与契約書のフォーマットは自由です。そのため、手書きでもパソコンでも贈与契約書は作成できます。ネット上には贈与契約書のひな型が多く出回っているので、そちらを利用して作成するのもいいでしょう。ただし、文書の信憑性を上げるために、日付や署名の記入は手書きで行うのがおすすめです。
なお、不動産の贈与時には、契約書に一律200円の収入印紙を貼る必要があります。契約書に贈与額の金額が描かれている場合は、贈与額に応じて収入印紙の値段も変化するので覚えておいてください。
不動産の贈与額に応じた収入印紙税は以下の通りです。
契約書に記載された金額
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収入印紙代
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10万円超50万円以下
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200円
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50万円超100万円以下
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500円
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100万円超500万円以下
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1,000円
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500万円超1,000万円以下
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5,000円
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1,000万円超5,000万円以下
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10,000円
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5,000万円超1億円以下
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30,000円
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1億円超5億円以下
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60,000円
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5億円超10億円以下
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160,000円
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10億円超50億円以下
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320,000円
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50億円超
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480,000円
|
参考:国税庁 印紙税額
4.生前贈与を実行する
贈与契約書を作成したら、契約内容に則って生前贈与を実行してください。
金銭の贈与を行う場合は、銀行振込にするのがおすすめです。銀行振込なら振り込んだ日付・金額などが記載されるため、生前贈与が行われた客観的証拠として十分に機能します。ただし、財産を振り込んだ口座や通帳の管理は受贈者が行ってください。なぜなら、贈与者が口座を管理していると「受贈者側に贈与が行われていない」と見做され、相続税の対象となるからです。
また、不動産の生前贈与を行う際には、名義変更の手続き(所有権移転登記)が必要となります。名義変更は贈与した不動産を管轄している法務局で申請可能です。ただし、手続きに時間をかけると認知症の症状が悪化し、生前贈与が認められない可能性があります。そのため、名義変更の手続きは速やかに行いましょう。
5.贈与税の申告と納税を行う
1年間で贈与された財産が110万円を超えていて課税の対象となる場合は、贈与税の申告・納付が必要となります。そのため、年度の初めに前年の贈与額が、年間110万円を超えていないか確認しておきましょう。
贈与税は、贈与された翌年の2月1日から3月15日までに、税務署へ申告と納税をする必要があります。申告方法に関しては、スマホやPCからe-Taxを利用する他に、税務署の窓口への直接提出、郵便や信書便などの方法も選択可能です。e-Taxであれば深夜でも手続きが可能なので、仕事などで忙しい方にはおすすめとなっています。自身のライフスタイルに合った納税方法を選択してください。
なお、相続時精算課税制度を選択していた場合は、必ず贈与税の申告をしなければいけません。こちらは最初に贈与を受けた翌年の2月1日から3月15日までに提出してください。
生前贈与以外で認知症になる前にやっておきたい相続対策
生前贈与は認知症になる前にやっておくと、相続する際のトラブル防止効果が期待できるでしょう。
他に相続対策として有効な方法としては、以下の2つが挙げられます。
それぞれ詳しく解説していきます。
遺言書を作成する
遺言書を作成すると、贈与者はどの財産を誰に譲るか細かく指定できるため、自分の意思が反映された相続を行えます。また、遺言書が残っていれば、財産を巡った争いを未然に防げるかもしれません。ただし、生前贈与契約と同じく、認知症の疑いがあると無効になる可能性があります。そのため、遺言書は判断能力が残っている間に作成しましょう。
遺言書を作成する際の形式としては、主に以下の3パターンが挙げられます。
- 自筆証書遺言:遺言者が自ら作成する
- 秘密証書遺言:内容を秘匿したまま存在だけを公証役場で証明できる
- 公正証書遺言:公証人立ち合いの元で作成される
参考:日本公証人連合会
中でも、公証人立ち合いの元、遺言書を公正証書遺言として作成するのがおすすめです。公正証書は原本が役場に保管されるため、遺言書の改竄を防ぐことができます。また、公証人が関与する都合上、無効になる確率が低い点も強みです。遺言書の保管や信頼性に不安がある方は、専門家に公正証書の作成を依頼するのがいいでしょう。
家族信託を活用する
家族信託とは、財産の所有権を利益を受ける権利と、財産を管理する権利に分け、後者を家族に渡す契約です。そして家族は、所有権を持つ親・祖父母の利益を求め、財産を管理していきます。つまり、財産の所有権は有したまま、管理・運用だけを家族に任せる制度ということです。
家族信託のメリットは、認知症になった場合でも、問題なく財産を運用できる点にあります。認知症になり判断能力が低下すると、主に預金の引き出し、遺言書の作成、契約行為などが認められません。そのため、親が認知症になった家庭が、経済的に困窮することもあるでしょう。
内閣府の発表によると、2025年には65歳以上の認知超患者が700万人にもなるとされています。つまり、65歳以上の5人に1人が認知症患者となり、法律行為を行えなくなるのです。そのため、財産の管理のみを家族に任せる家族信託は、認知症対策として非常に有効と言えるでしょう。
参考:内閣府 高齢者の健康・福祉
家族信託に関して詳しく知りたい方は、ぜひ下記の記事をご覧ください。
まとめ
ご家族が認知症になった場合でも、症状が軽度であれば生前贈与できる可能性が高いです。しかし、時間が経つほど認知症の症状は進んでしまうため、速やかに生前贈与を行う必要があります。生前贈与を行う際には、ご家族に「意思能力があるかどうか」が重要視されるため、医師に診断してもらうのがおすすめです。
また、生前贈与を行う際には課税方法の決定や、贈与契約書の作成など、いくつかの手続きが必要になります。仮に、作成した書類に不備があれば、生前贈与が認められない可能性があるので注意してください。また、贈与する資産ごとに適切な課税方法を選択しなければ、節税の効果が望めないかもしれません。
そのため、書類の作成や課税方法の選択で不安を抱えている方は、税理士や司法書士など専門家の手を借りるのがいいでしょう。
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