任意売却後の残債に関する基礎知識
任意売却をしたあとの残債は、当然返済を続けていかなければいけません。しかし、返済先は銀行(住宅ローンを組んだ金融機関)ではなく、債権回収会社に譲渡されます。
そのうえで、返済すべき金額は減額交渉したり支払い期間の延長等を相談することができるでしょう。まずは、任意売却後の残債に関する基礎知識についてお伝えします。
残債は債権回収会社(サービサー)に債権譲渡される
任意売却後の残債は、住宅ローンを組んだ金融機関から債権回収会社(サービサー)に譲渡されます。
債権回収会社(サービサー)とは?
債権回収会社とは、債権を回収することに特化した会社であり、サービサーとも呼ばれます。銀行等から不良債権(回収が困難な債権)を価格よりも安く買い取り、その債権を回収することによって利益を発生させます。
住宅ローンを組んだ金融機関では、任意売却をされた時点でそれ以上の債権を回収することが困難であると判断します。そのため、できるだけ多くの資金を簡単に回収するため、債権回収会社へ債権を譲渡するのが一般的です。
債権回収会社は、銀行等の金融機関から格安で残債を買い取りますが、債務者(任意売却をした本人)が支払う金額は残債のすべて。
そして債権回収会社は債権回収を生業にしているため、あらゆる手段で債権の回収を目指します。万が一、残債が支払えなくなれば、提訴(訴訟を起こすこと)することもあります。
とはいえ、厳しい条件をクリアして認可されているのが債権回収会社(サービサー)であるため、乱暴な取り立てを受ける心配はありません。法律の範囲内で、確実な債権回収を目指すと思っておけば良いでしょう。
法律の範囲内とはいえ、債権回収会社からの債権の回収について不安な方は、専門家や専門機関へ相談してみてください。
<専門機関>
任意売却のご相談は一般社団法人 全日本任意売却支援協会へ
残債分で返済計画が立て直される
任意売却の残債に対する返済方法は、銀行もしくは債権回収会社との交渉次第です。通常は、1〜3万円程度の無理のない範囲で返済ができるよう交渉し、和解が成立します。
たとえば、住宅ローン残高2,000万円の不動産を任意売却し、500万円の残債が残った場合はこの500万円を分割払いにできます。毎月3万円ずつ返済できれば、約14年で返済が終わるでしょう。
ただ、任意売却後の残債は、交渉次第で大幅に圧縮できる可能性があります。たとえば、上記の例で残債が500万円残るとしても、銀行もしくは債権回収会社との交渉次第で、数百万円程度のカットや利息軽減に期待ができます。
任意売却を依頼する不動産会社によっては、売却後の残債支払い交渉を行ってくれることもあります。通常、借金の返済に関することは弁護士に相談するのが一般的ですが、不動産に関することは不動産会社に相談をされたほうが良いです。
任意売却から返済再開までの流れ
任意売却から残債返済までの流れは下記の通りです。
- 価格の査定・ローン残高の確認
- 債権者に任意売却の許可を得る
- 売却開始・売買契約の締結
- 残債の返済開始
任意売却は通常の不動産売却とは異なり、残債があること前提です。売買契約の締結が終了し、物件の引き渡しが完了次第、銀行等と話し合って返済方法を決定していくことになるでしょう。
債権者も任意売却の相談を受けた時点で、経済的に困窮していることがわかっています。あまり無理矢理な返済計画を要求されることは少ないので安心してください。
任意売却後の残債を払えないとどうなるのか?
任意売却はかならず残債が発生します。残債の金額は各不動産や住宅ローン残高によっても異なりますが、万が一残債を返済できないと、下記のことが起こり得ます。
- 連帯保証人へ残債の一括請求される
- 給料や財産等によって強制的に回収される
次に、任意売却をしたあと、残債が支払えないとどうなってしまうのか?についてお伝えします。
①連帯保証人への一括請求で回収される
任意売却後の残債が支払えないと、連帯保証人に残債の請求が行われます。連帯保証人は、主債務者と同じと考えられるため、一括請求が来た時点でかならず返済をしなければいけません(催告の抗弁権がない)。
催告の抗弁権とは
債権者が第三者(連帯保証人等)に対して残債の請求を行った際に、「まずは主債務者(ローンを組んだ本人)に請求してください」と言うのを催告の抗弁権と言います。保証人には催告の抗弁権が認められていますが、連帯保証人には認められていません。
万が一、返済をできない状態に陥ってしまえば、連帯保証人に多大な迷惑をかける恐れがあると思っておきましょう。
なお、任意売却時点では連帯保証人に請求が行くことはありません。なぜなら、不動産を売却したお金はすべて債権者に充当された、残債も支払って行くことが前提だからです。
あくまでも、任意売却後の残債が返済できないときのみ、連帯保証人に一括請求をされてしまうと思っておけば良いでしょう。
②信用情報にキズがつく
任意売却後の残債を支払えずにいると、信用情報にキズがついてしまいます。その結果、今後のローン契約に影響が出たり、クレジットカードを持てないなどの影響が出たりする恐れがあります。
任意売却前に住宅ローンの支払いを滞納されていた方は、もともと信用情報にキズがついているため影響に変わりはありません。しかし、住宅ローンをギリギリの状態で支払い続け、任意売却をされた方は、信用情報にキズがついていないため注意が必要です。
仮に任意売却をしたとしても、その事実だけでは信用情報へあたえる影響は一切ないため、滞納があって初めて影響が出ます。残債を2か月〜3か月以上滞納してしまうと、信用情報に事故情報が掲載されてしまうことになるでしょう。
③給料や財産の差し押さえにより回収される
任意売却後の残債を支払えなかった場合には、強制執行によって給料や財産を差し押さえられてしまう恐れがあります。あなたの手元に財産と呼べるものがなくても、給与所得などの収入があれば、毎月の給料から一部のお金を差し押さえられてしまうでしょう。
差し押さえが可能な給料の金額は、可処分所得(手取り額)の1/4までです。よって、可処分所得が20万円の方は、毎月4万円ずつ残債を完済できるまで差し押さえられ続けます(参考:民事執行法 第百五十二条【差押禁止債権】)。
そもそも、任意売却後の残債は債務者が無理のない範囲で支払っていけるように、残債の減額や支払い金額の相談に乗ってくれます。そのため、通常は1万円〜3万円程度(毎月)以内で返済を続けていけるようになっているはずです。
任意売却後の残債を支払えずに悩んでいる方が、強制執行をされてしまうと今以上に生活が苦しくなる恐れがあります。万が一、任意売却後の残債支払いが難しいと明らかな場合は、任意売却後に自己破産を検討されたほうが良いでしょう。
任意売却をしたは良いけど、結局払えない状況に陥って強制執行されてしまえば意味がありません。勤め先の会社にも差し押えされた事実がバレてしまいますし、今以上に生活が苦しくなる恐れもあるでしょう。
ワンポイント解説
残債を少しでも残さないよう、高く買取ってくれる業者を探そう
不動産売却は日用品等の不用品売却と違い、動く金額が大きいです。数十万円、時には数百万円も値段が変わることもあるので、残債負担を考えるなら高く買い取る業者を見つける工夫を行いましょう。
できれば複数社の査定額を比べ、少しでも高く買い取ってくれる業者を見つけることが望ましいです。例えば、一括査定サイトなどを用いると、簡単に複数社の査定額を比べられます(例:すまいステップ)。
査定額を比較することは、物件の買取相場を知ることにも繋がり、不当な買いたたきを防ぐことにも繋がりますので、売却前にはぜひ行ってほしい作業の一つです。
任意売却後の残債が払えないときの対処法
任意売却をしても残債が払えない…。でも、このままでは住宅ローンの返済も厳しい…。そう悩まれている方は、下記のことを検討されてみてはどうでしょうか。
- 支払いが困難なら自己破産を検討
- 借金で生活を圧迫しているなら個人再生の検討
- 任意整理で再分割の相談を提案する
- リースバックへの切り替えを検討する
- 親族間売買は難しいか検討・相談してみる
住宅ローンの返済が難しくなっても、任意売却だけが正解ではありません。他の方法を模索してみる価値は十分にあるでしょう。
これからお伝えする残債を払えないときの対処法をぜひ参考にしてください。
そもそも支払いが困難なら自己破産を
住宅ローンの返済も困難で仮に任意売却をしても残債を支払うのが難しい方は、自己破産を検討してください。ただし、順番はかならず任意売却→自己破産です。
自己破産をして免責許可決定を受けられれば、現在抱えているすべての借金を免責(免除すること)にできます。その結果、住宅ローンあるいは任意売却後の残債すべてを0にできるため、返済負担を軽減できるでしょう。
そのため「わざわざ任意売却をしたあとに自己破産をする意味はないのではないか?初めから自己破産をすれば手続きを簡略できるのではないか?」そう思われている方は多いでしょう。
確かに、手続き面で見れば任意売却をせずに自己破産をしてしまったほうが楽です。しかし、住宅という財産を持ったまま自己破産をしてしまうと、管財事件として自己破産手続きを進めていかなければいけなくなります。
管財事件とは?
自己破産手続きは大きく分けると、同時廃止事件・(少額)管財事件の2種類があります。その中で管財事件とは、住宅などの財産を持っている方や、免責不許可事由に該当する事実がある人のための手続きです。
管財事件として自己破産手続きを進めていくことになると、財産を管理するために破産管財人と呼ばれる方(裁判所が選んだ弁護士)が選任されます。そのため、自己破産にかかる費用が高額になる恐れがあるのです。
自己破産手続き |
費用 |
同時廃止事件 |
(少額)管財事件 |
30万円〜 |
50万円〜 |
住宅という財産を持っているかどうかで、20万円以上の差が発生してしまうため、あらかじめ任意売却しておくことをおすすめします。
任意売却は偏頗(へんぱ)弁済に該当しない
自己破産を検討されている方が、その手続き前に財産を処分してしまうと「特定の債権者のみに有利な返済をした(偏頗弁済)」として、自己破産が不利になってしまいます。しかし任意売却の場合は、住宅に抵当権がついているため偏頗弁済に当たりません。安心して任意売却を検討してください。
通常、任意売却をする際に弁護士へ相談する必要はありませんが、自己破産を前提にしているならあらかじめ弁護士へ相談されたほうが良いです。任意売却後の引っ越し費用等も含め、債権者との交渉も担ってくれます。
自宅を残して借金を大幅カットできる個人再生手続きを行う
住宅ローンや任意売却後の残債を払えない理由が、住宅ローン以外の借金によるものなら個人再生を検討してください。個人再生は、住宅ローン以外の借金をすべてまとめれ大幅に圧縮できます。
最大で100万円まで減額できるうえに、残債は3〜5年程度で完済を目指せば良いです。仮に、100万円の借金を3年間で完済しようとすれば、毎月約28,000円の返済で済むようになるでしょう。
住宅ローンの返済はそのまま残りますが、その他の借金が原因で生活を圧迫し、住宅ローンに影響をあたえているなら個人再生を検討してください。
任意整理で再分割の相談をする
任意売却をしたあとで残債の返済が難しくなったなら、任意整理で再分割相談をしてください。弁護士に相談して任意整理をすることで、支払いが困難になってしまった残債の返済計画見直しや返済期間の延長、利息カット等ができる可能性があります。
ただ、任意売却が成立した時点で毎月の返済金額や残債は大きく譲歩されているはずです。そのため、任意整理をしてもさほど減額が見込めないかもしれません。あくまでも、任意整理も視野に入れつつ弁護士に相談する、という考えでいた方が良いでしょう。
リースバックに切り替える
任意売却をしたところで残債を払えないなら、リースバックを検討してください。
リースバックとは?
リースバックとは自宅を売却して、その家に賃貸として住み続けることを言います。なお、住宅ローン残債がある物件に対してもリースバックは可能です。
任意売却を検討されている方がリースバックをしたところでかならず残債は残ります。当然、この残債も支払いをしたいかなければいけませんが、住宅の所有権を放棄したことによって、税金各種等の支払いを免除されます。
リースバックをすることで残債+賃料を支払っていくことになりますが、結果的には今よりも返済負担が軽減される可能性は高いです。また、今の家に住み続けられるのは、リースバックをする最大のメリットと言えるでしょう。
【リースバックの例】
下記の例を参考に、住宅ローンとリースバックをしたときの返済負担額を比較してみましょう。
住宅ローン残債:2,000万円
住宅の売却価格:1,500万円
住宅ローン返済価格:13万円
リースバック後の月額賃料:8万円
残債の分割払い:2万円
たとえば、現在の住宅ローン残高が2,000万円で、仮にこの住宅を任意売却しても1,500万円にしかならなかったとしましょう。そうすると、住宅を売却しても500万円の残債が残ってしまいます。この、残債についてはリースバック後も返済を続けていかなければいけません。
しかし、リースバックをすることによって毎月の住宅ローン返済(13万円)が軽減され、代わりに8万円の賃料を支払うことになります。また、残債500万円の支払いをしなければいけませんが、交渉で2万円の返済で和解できたとします。
そうすると、同じ家に住み続けながらも10万円の支払い(賃料8万円+残債の返済2万円)で済む計算です。住宅ローンのときは13万円+維持費(税金や修繕費)だったわけですから、負担を軽減できる可能性は高いでしょう。
とはいえ、これはあくまでも例です。実際の物件価格や住宅ローン返済額等によっても状況は大きく異なります。あくまでも、リースバックも有効な手段となり得る程度に思っておいてください。
親族間売買で返済に協力してもらう
任意売却後の残債を払えないなら、親族間売買で返済に協力してもらうことも検討してください。親族間売買とは、その名の通り親族間(※)で不動産の売買をする手続きです。
※【税制上では、親族に関する定義が公表されていません。民法上では6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族を親族というため、これに準ずるものと考えられます。】
自分の親族に不動産を売却することは何ら問題ないため、任意売却を避ける目的で住宅を売却し、住宅ローン残高を一括返済すれば良いでしょう。その後は、親族に毎月お金を返したり賃料を支払ったりしていけば、無理なく問題を解決できます。
あらゆる可能性を考えて弁護士へ相談することが大切
任意売却を検討しているとき、真っ先に相談するのは不動産会社であり、弁護士ではありません。また、住宅ローンの返済が難しくなった時点で、銀行(債権者)に相談される方も多いでしょう。
しかし、住宅ローンの返済が厳しく感じている方も、任意売却を検討している方もそうでない方も、まずは弁護士へ相談されることをおすすめします。弁護士に相談することで、任意売却も含めてあらゆる可能性を模索、提案してくれるでしょう。
たとえば、あなたが住宅ローンの返済が厳しくて任意売却を検討していたとします。しかし蓋を開けてみれば、住宅ローンの返済が厳しいのではなく、他の借金が原因で住宅ローン返済を困難にしている可能性に気付けるかもしれません。
弁護士に相談することでまずは、「なぜ住宅ローンの返済が難しいのか?」について考えてくれます。そのうえで、できる限り住宅を残したまま解決できる方法はないか検討してくれるでしょう。
仮に、任意売却しか選択肢がないにしても、住宅売却後の居住費を確保するために尽力してくれます。
住宅ローンの返済が難しいことを銀行(債権者)に伝えたところで、次のこと(居住費確保等)のことまでは考慮してくれません。いかにして、多くの債権を回収するかを検討するためです。
不動産会社に相談をしても、任意売却すること前提で話を進められてしまうため、結果的に任意売却せざるを得なくなります。
現時点でどうすれば良いかわからない、任意売却も含めた検討をしている段階なら、あらゆる可能性を考えて弁護士へ相談してください。弁護士は不動産や金融の専門家ではありません。だからこそ、中立的な立場であらゆる視点からアドバイスをしてくれます。
居住費確保、債務整理、任意売却、親族間売買等、現状を変えられる手段はたくさんあります。任意売却をしたところで残債を払えないことが明らかなら、まずは弁護士へ相談されると良いでしょう。
まとめ
今回は、任意売却後の残債が払えないときはどうすれば良いのか?についてお伝えしました。
住宅ローンの返済が難しくなると、真っ先に思い浮かぶのが任意売却です。競売だけは避けるためにも、任意売却で住宅を手放そうと考えている方は多いでしょう。
しかし、任意売却を検討しているということは、かならず残債があることを意味しています。任意売却後も残債を払い続けなければいけないことを考えると、なかなか一歩踏み出せない方は多いです。
任意売却の残債を払えないなら、初めから自己破産前提で検討したり、個人再生やリースバック等を含めた他の手段を検討したりすれば良いでしょう。
住宅ローンの支払いが困難であったり、競売を避けることが前提であったりしたとしても、任意売却だけが正解ではありません。少しでも返済負担を軽減したり、今の家に住み続けたりできる方法を模索していけば良いです。
住宅ローンでお困りのことがある方は、まずは弁護士へご相談ください。
任意売却に関するよくある質問
任意売却とは、どのような手続きですか?
住宅ローン残債が売却価格を上回っている場合、売却には金融機関の許可が必要です。
この許可をとっておこなう売却が「任意売却」です。
売却後は残債を返済していきます。
任意売却後の残債は分割で支払えますか?
はい、可能です。
任意売却後は、金融機関と相談して新たな返済計画を立て直すのが通常です。
任意売却を検討しています。しかし、任意売却をしたところで残債を払える見込みがありません。どうすればよいでしょうか?
まずは弁護士へご相談ください。
残債の支払いが難しいとのことですから、任意売却以外の手段も検討していかなければいけません。仮に、任意売却をするにしても、新居に引っ越すための費用準備等もあります。そういった部分まで弁護士へサポートを依頼できます。
万が一、任意売却後の残債を払えなければどうなりますか?
任意売却後の残債が支払えなくなってしまうと、連帯保証人に残債の一括請求が行われたり、最悪の場合は財産や給料を差し押さえられたりします。
返済が難しいと感じたら、すぐに弁護士へ債務整理の相談をすることをおすすめします。
STEP債務整理「債務整理に力を入れるおすすめの弁護士を紹介」
自宅を任意売却せずに借金の負担を減らせる方法はありませんか?
「任意整理」や「個人再生」なら可能です。
自身にどの手続きが合っているのか、一度弁護士へ相談することをおすすめします。
STEP債務整理「債務整理に力を入れるおすすめの弁護士を紹介」
最短即日取立STOP!
一人で悩まずに士業にご相談を
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