借金を大幅に減額できる個人再生とは?
個人再生は個人民事再生とも呼ばれ、裁判所での手続きを介して強制的に借金を大幅に減額し、3~5年分の分割払いにすることで個人の経済的な更生を図るためにおこなう裁判手続きです。
借金が最大で10分の1、概ね5分の1程度まで大幅に減額でき、自己破産のように資産の処分をしなくて済む、資格制限がないなどのメリットがあります。
一方で個人再生手続きは減額後も借金が残り、返済の義務があるため一定の安定した収入がある人でないと利用ができない点も大きな特徴です。
個人再生の種類は「小規模個人再生」と「給与所得者等再生」の2種類
個人再生手続きは再生計画が認可される基準で「小規模個人再生」と「給与所得者等再生」の2つの手続きがあり、それぞれ内容が異なります。
債権者の同意が必要になる「小規模個人再生」
小規模個人再生は住宅ローンを除く借金の合計が5,000万円以下で、継続して安定した収入を得る見込みのある個人が利用できる手続きです。借金を最大で10分の1、概ね5分の1程度に減額することができます。
減額されたあとに返済すべき金額を弁済額といい、小規模個人再生の場合は「民事再生法の定める最低弁済額」若しくは「債務者の総資産合計額」のどちらか大きい方まで減額されます。
【民事再生法の定める最低弁済額】
借金総額 |
最低弁済額 |
100万円未満 |
借金総額 |
100万円以上500万円以下 |
100万円 |
500万円超1,500万円以下 |
借金総額の1/5 |
1,500万円超3,000万円以下 |
300万円 |
3,000万円超5,000万円未満 |
借金総額の1/10 |
小規模個人再生は再生計画に債権者の過半数に異議がなく、かつ異議を申し立てた債権者の債権額が総額の2分の1を超えていないことが認可の条件となっていて、債権者の同意なく手続きを進められないようになっていることが給与所得者等再生との大きな違いです。
債権者の同意がいらない「給与所得者等再生」
給与所得者等再生は小規模個人再生を利用できる人のうち、給与等の収入の変動幅の小さい安定した収入がある人が利用できる手続きです。
給与所得者等再生の場合は弁済額の基準について小規模個人再生の基準に「可処分所得 の2年分」が追加されます。
可処分所得の2年分は多くの場合、その他の条件に比べて高額になることが多いため、小規模個人再生に比べ手続き後の弁済額が多くなるケースがあります。
そのかわり、給与所得者等再生の場合は小規模個人再生のような債権者の同意を得る必要はないため、手続きの要件にあてはまっていれば認可される制度です。
そのため、小規模個人再生で債権者の同意を得られない場合などに選択されることが多くなります。
個人再生と他の債務整理手続きの違い
個人再生と他の債務整理手続きは手続き方法や借金の減額について異なる点があります。
ここでは任意整理と自己破産との違いについてご紹介します。
任意整理は個人再生と違い大幅な減額が難しい
任意整理は裁判所を介さず債権者と直接話し合いをし、主に将来利息のカットや分割返済期間の延長などで和解する手続きです。
個人再生のようにすべての債権者を対象とする必要はなく任意整理をおこないたい債権者のみと交渉できることや、裁判所を介さないため周りにもばれにくいのがメリットです。
ただし、減額交渉の内容は主に将来利息のカットが中心になっているため元金自体の大幅な減額が難しいことや、裁判所が介入しないため強制力はなく交渉が不調に終わることもあるなどがデメリットです。
自己破産は借金が全額免除されるが自宅は手元に残せない
自己破産は自身の持っている資産を処分し、すべての借金を免責してもらう手続きです。
個人再生と違い手続きによってすべての借金が免除されるため、返済がなくなりすっきりした状態で経済的再生を目指せる点が大きなメリットになります。
逆にデメリットとしては個人再生のように住宅を手元に残すことはできず、その他にも一点で20万以上価値のある資産があれば手放さなければなりません。
また、手続き中は警備員など一定の職業に就くことを制限されることもデメリットになります。
個人再生のメリット・デメリット
個人再生手続きには大幅な借金の減額などのメリットもありますが、デメリットも存在します。
任意整理や自己破産といった他の債務整理との違いも踏まえ、ご紹介します。
個人再生のメリット
まずは個人再生のメリットについてご紹介します。
居住中の自宅を守ったまま借金を大幅に減額できる
個人再生のメリットはなんといっても、ローン返済中の自宅を残して借金を大幅に減額できることです。
任意整理でも自宅を守ることは可能ですが、個人再生の方が減額幅ははるかに大きくなることが多いため、借金の額が多い人は個人再生の方がメリットは大きくなります。
ただし、自宅の価値が大きい場合には、その価値分は返済しなければならないため、自宅の価値が最低弁済額と同じ程度である場合や、オーバーローンになっている場合でなければ、個人再生を選択するメリットは少なくなります。
ワンポイント解説
自宅を残したまま借金を減額できるのは、個人再生手続きに住宅資金特別条項(住宅ローン特則)という制度が設定されているからです。
個人再生手続きには原則的にすべての債権者を平等に扱うという考え方がありますが、住宅については生活の基盤であり経済的更生に必要不可欠なものとして、その確保を目的に設けられています。上記目的のため、利用の要件には「本人が所有し、居住していること」や「住宅ローン以外の抵当権が設定されていないこと」など複数の厳しい条件がかかりますが、債務者にとっては住宅を守りながら借金の整理ができる大きなメリットのある制度です。
免責不許可事由がない
自己破産と違い免責不許可事由がなく、借金の理由がどのようなものであっても利用できます。
免責不許可事由とは、自己破産手続きが認可されない条件のことで、その中には借入理由が投資やギャンブルなどである場合も含まれています。
自己破産は借金が全て免責されるため、自己破産を前提に借金をするなどの不正を防止するために設けられています。
資格制限がない
自己破産手続きの場合、手続き中は保険募集人や警備員など特定の職業につくことを制限されます。
裁判所が公開している情報によると、以下の職業が制限されるとされています。
(1) 保険募集員,警備員,弁護士,税理士,後見人等になれない。
引用元:破産手続について
個人再生は、資格制限がないのもメリットのひとつです。
手元の資産を処分する必要がない
自己破産は借金の返済義務がなくなる代わりに、一点で20万円以上価値のある資産を処分し、債権者に配当しなければなりません。
資産の対象となるものは、たとえば自動車や不動産、預貯金、保険の解約返戻金、貴金属やブランド品などです。
個人再生の場合は最低弁済額、もしくは総資産額分の弁済さえできれば基本的に手元に資産を残したまま手続きができます。
裁判所を介した手続きのため強制力がある
任意整理は各債権者と個別に交渉をおこなうため、交渉に応じてもらえなかったり有利な条件を引き出せないこともあります。
個人再生は裁判所を介した法的手続きとなっているため強制力があり、要件を満たし認可されれば減額が実行されることもメリットです。
個人再生のデメリット
次に個人再生のデメリットについてもご紹介します。
手続きが難しく書類も多いため手続きに時間がかかる
個人再生手続きは裁判所を介した法的手続きのため、提出する書類も多く手続きも複雑です。そのため、資料の準備や作成、その後の手続きに時間がかかることがデメリットです。
費用が高額になりやすい
個人再生手続きは専門的な知識が必要となることもあり、弁護士などの専門家に依頼するケースが多く手続きにかかる費用も高額となる点はデメリットです。
個人信用情報機関に事故情報が登録される
個人再生をおこなうと、他の債務整理手続き同様に個人信用情報機関に事故情報が登録されます。
事故情報は個人再生で圧縮した借金の返済が終了した後、約7年で削除されるのが一般的で、それまでの間は新たな借り入れやクレジットカードの作成は難しくなります。
官報に個人再生手続きをした事実が掲載される
官報は誰でも閲覧が可能な国の公告文書で、個人再生手続きをおこなうと官報に個人再生手続きをした事実が名前や住所とともに掲載されます。
ちなみに官報に掲載されるのは、基本的に⑴個人再生手続きが開始された時点と、⑵小規模個人再生であれば再生計画案について書面決議をおこなう旨の決定がされた時点、もしくは給与所得者等再生であれば債権者への意見聴取をおこなう旨の決定がされた時点と、⑶再生計画認可決定がされた時点の3回です。
官報は行政機関の休日を除く毎日発行されており、発行日の午前8時30分に国立印刷局や東京都官報販売所に掲示されるほか、インターネットでも配信されていて、誰でも見ることができます。
ただし、官報はコンビニなどに売っている普通の新聞とは違い、一般の人はその存在すら知らないことがほとんどです。
また、インターネットで配信されている官報も、特定の人が自己破産しているか名前で検索して調べるようなことはできません。
そのため、官報に名前や住所が掲載されたとしても、周囲の人に知られる可能性は極めて低いといえるでしょう。
ただし、金融関係など一部の職種では官報をチェックしている会社もあるので、勤務先の会社で官報をチェックしていないか調べておくとよいでしょう。
借金に保証人がついていると保証人に返済請求される
借金に保証人がついている場合、保証人への返済請求がおこなわれることもデメリットです。
なお、保証人が債権者に請求されるのは、個人再生したことによって主債務者が返済を免れた部分の金額です。
たとえば、個人再生したことによって主債務者の弁済額が借金総額の1/5に圧縮されたとしたら、保証人が債権者に請求されるのは残りの4/5の金額ということになります。
個人再生を検討すべき状況
個人再生は誰でもできる手続きではありません。
民事再生法によると「債務者に破産手続き開始の原因となる事実の生ずるおそれがあるときは、債務者は裁判所に対し再生手続き開始の申立てをすることができる。」と定められています。
つまり個人再生手続きは、これ以上借金が増えたら自己破産しなければならない状況にある人がおこなう手続きということです。
裁判所は債務者の借入状況や資産状況、家計状況など、さまざまな要素から客観的にみて再生手続きを開始すべきか判断します。
今後借金を返済していくのが難しいけれど、任意整理や自己破産など他の債務整理手続きで解決するのも難しい場合は、個人再生も視野に入れて検討することをおすすめします。
もし、以下の条件に一つでもあてはまるなら個人再生を検討すべき状況だといえるでしょう。
- 今後、住宅ローンを滞納してしまう恐れがある
- 自己破産することによって資産を手放したくない
- 自己破産の免責不許可事由に該当する事由がある
- 任意整理での和解が難しい債権者が含まれている
- 給料の差し押さえを受けている
次の項目から、それぞれ詳しくお伝えします。
今後、住宅ローンを滞納してしまう恐れがある
前の項目でもお伝えしたとおり、住宅資金特別条項を利用した個人再生をおこなうことで、住宅ローンをそのまま払っていくという前提で、住宅を手放さずに住宅ローン以外の借金を大幅に圧縮することができます。
これは住宅ローンの返済が家賃の支払いに相当するため、債権者を平等に扱うという個人再生の原則に反する偏頗行為にはあたらないとする考え方に基づくものです。
しかし、住宅ローンを滞納している場合、滞納している住宅ローンを支払う行為は偏頗行為に該当する可能性があります。
滞納期間が短い場合は個人再生手続きの申立て前に滞納分を支払ったり、住宅ローンを借りている銀行などと協議して住宅ローン返済のリスケジュールをお願いしたりして、住宅を残して個人再生できる場合もありますが、手続きがより複雑になるため費用が高額になるケースもあります。
今後、住宅ローンを滞納してしまう恐れがある、または既に滞納してしまっているのであれば、早急に個人再生手続きを検討することをおすすめします。
自己破産することによって資産を手放したくない
自己破産のデメリットとして最も広く知られているのが、所有している資産を失ってしまうという点でしょう。
その点、個人再生の場合は資産の価値が清算価値に含められるだけで、基本的に資産を手放す必要はありません。
そのため、どうしても手放したくない資産がある場合には、自己破産ではなく個人再生を選択するとよいでしょう。
自己破産の免責不許可事由に該当する事由がある
自己破産には免責不許可事由があり、これに該当すると自己破産しても免責許可が下りず、借金の返済義務が残ってしまいます。
免責不許可事由には以下のようなものがあります。
- 資産を隠す、壊す、誰かに譲るなど資産隠しととられるような行為
- 自己破産することを前提にわざと借金をする行為
- クレジットカードで商品を購入して売却する行為(クレジットカードショッピング枠の現金化)
- ヤミ金などから利息制限法に違反するような高金利で借入をする行為
- 親や友人など特定の誰かに優先して借金を返済する行為(偏波弁済)
- 借入理由が浪費やギャンブルなどに該当する場合
- 収支状況や債権者情報について嘘の申告をする行為
- 過去7年間に自己破産をして免責許可を得ている場合
上記のような事由がある時は、自己破産より個人再生を選択する方がよい場合もあります。
免責不許可事由についてさらに詳しく知りたい場合は、こちらの記事で紹介していますので参考にしてください。
任意整理での和解が難しい債権者が含まれている
任意整理は、弁護士や司法書士が債務者の代理人として債権者と直接交渉をおこない、今後支払う予定の利息をカットや減額してもらう手続きです。
任意整理は、利息を減らしてもらうことで今後の返済額を大幅に減らせる可能性があるというメリットがある一方、あくまで任意の交渉事なので交渉に応じるかは債権者次第となります。
中には任意整理で交渉しようとしても、利息を減らすどころか分割返済も一切認めないという厳しい債権者も存在します。
そのような債権者から多額の借金をしている場合でも、個人再生をして裁判所に認められれば借金を大幅に圧縮することは可能です。
給料の差し押さえを受けている
今現在、既に債権者から給料の差し押さえを受けている場合、任意整理で交渉しようとしても債権者は応じてくれません。
債権者にとっては、このまま給料を差し押さえていれば確実に借金を回収できるので、交渉に応じるメリットがないのです。
そのため、既に給料の差し押さえを受けている状況なのであれば、勤務先を変えるか自己破産や個人再生などの法的手続きをとる必要があります。
ただし、既に給料の差し押さえを受けている場合は、自己破産や個人再生などの申立てをおこなった時点で差し押さえが止まるわけではなく、手続きが完了するまで差し押さえは続くことになるので注意が必要です。
今現在、給料の差し押さえを受けているのであれば、早急に弁護士に相談しましょう。
個人再生手続きの注意点
個人再生手続きは裁判所を通じた法的な手続きのため、手続きするうえで注意しておくべき点があります。
個人再生手続きは認可後も返済が残る
個人再生手続きが認可されれば借金は大幅に減額されるものの、自己破産とは違い返済が残ります。
返済を滞納すれば最悪の場合認可が取り消され借金が手続き前の状態に戻ってしまうため注意しましょう。
罰金や税金は減額対象にならない
個人再生手続きをしても罰金や税金は減額対象となりません。
税金や健康保険料などの必ず納める必要のあるものを公租公課とよび、公租公課は個人再生の手続き上では優先的な債権として取り扱われ、再生手続きと関係なく支払う必要があります。
友人からの借金などもすべて平等に扱われる
個人再生手続きはすべての債権を平等に扱うことが原則のため、友人など金融機関以外からの借金もすべて減額対象となります。
また、友人から借入があることを故意に隠したり、友人など特定の誰かに優先して借金を返済することで個人再生ができなくなる恐れもあるため、弁護士に依頼して個人再生手続きをおこなう場合は友人などから借入がある旨を正直に伝え、弁護士のアドバイスに従うようにしましょう。
自宅に住宅ローン以外の抵当権が設定されている場合は住宅ローン特則が利用できない場合もある
自宅に住宅ローン以外の抵当権が設定されている場合、個人再生手続きをおこなう際にその抵当権の行使を止めることはできません。
結果として個人再生手続きをおこなった時点で抵当権が行使されるため住宅ローン特則は利用できなくなります。
しかし住宅ローン以外の抵当権が、いわゆる「諸費用ローン」の担保権として設定されている場合は、住宅の建設や購入、及び改良に必要不可欠な資金であることを立証できれば諸費用ローンも含めて住宅資金特別条項を定めた再生計画が認可されることもあり得ます。
※諸費用ローン・・・住宅の建設や購入、及び改良に付随して必要となる各種費用を支払うために借入した資金
ただし、あくまでも自宅に住宅ローン以外の抵当権が設定されている場合には、住宅資金特別条項を利用できないのが原則なので、住宅ローン以外の抵当権が設定されている場合には一度弁護士などの専門家に相談し、住宅資金特別条項が利用できるかどうか確認すると良いでしょう。
高額な資産を持っている場合は返済額が上がることがある
個人再生手続きの場合、最低弁済額と清算価値のどちらか大きい方が個人再生手続きの弁済額となります。
高額な資産を残したい場合は清算価値が上回り、弁済額があがる可能性があります。
同居の家族に内緒にしづらい
個人再生の場合、家計を共にしている家族などがいる場合には、家族分の収入証明書も裁判所に必要書類として提出しなければならないという決まりがあります。
収入証明書を本人に内緒で入手するのは難しいため、結果的に家計を共にしている家族には個人再生手続きのことを打ち明けなければならず、秘密で手続きは難しいと言われています。
しかし、収入証明書が必要なのは家計を共にしていると判断された人だけであり、例えば両親と別居で仕送りや援助なども受けていない場合には、両親と自分の家計を完全に切り離せるので家族であっても個人再生することを秘密にして手続きすることが可能です。
また、個人再生をしても裁判所や法律事務所から職場に連絡がいくことはありません。
ただし、個人再生では借入先すべてを整理対象に含めなければならないため、勤務先から借入をしている場合、債権者である勤務先に裁判所から債務者が個人再生した旨を伝える連絡が入ることになります。
勤務先に個人再生する旨を伝えて理解を得るのが難しそうな場合は、任意整理など勤務先を整理対象に含めずに借金の負担を減らせる手続きを検討する方がよい場合もあります。
いずれにせよ、弁護士に依頼して個人再生するのであれば勤務先に借金がある旨を正直に伝え、担当弁護士などとよく話し合って方針を決定するとよいでしょう。
要件が厳しく環境の変化で手続きが途中で中止、取り消しされることもある
個人再生をおこなう場合、手続き開始時点では要件を満たしていても、転職などの事由により要件にあてはまらなくなると、再生計画が認可されないこともあります。
また、再生計画認可後に返済の遅延などによって再生計画が取り消しされることもあるので注意が必要です。
債務者が高齢の場合、個人再生を選択できない場合もある
住宅ローンを滞納している状態で住宅資金特別条項を利用した個人再生をおこなう場合、滞納分と再生計画で定めた弁済期間中に支払うべき分の住宅ローン元本・利息・遅延損害金については、再生計画で定めた3~5年の弁済期間内に弁済するのが原則です。
ただし、弁済期間内に住宅ローンの延滞を解消することが難しい場合は、住宅ローンの支払期限延長が認められる場合もあります。
しかし、住宅ローンの支払期限を延長できるのは最大で10年までとなっており、かつ債務者の年齢が70歳を超えない範囲でなければなりません。
つまり、60歳を超えてから個人再生をする場合には、年齢が高いほど住宅ローンの支払期限は短くなるため、住宅資金特別条項を利用した個人再生をおこなうのは難しくなります。
また、60歳を超えると収入が減る人がほとんどであり、再生計画で定めた弁済期間中に60歳を超える場合は「長期にわたり安定した収入が見込める人」という個人再生をおこなう上での条件を満たすのが難しくなるため、個人再生をおこなうのは難しいといえます。
個人再生手続きは弁護士への依頼がおすすめ
実は個人再生手続きは自分でもおこなうことができます。
また、弁護士ではなく費用が少額な司法書士に依頼することも可能です。
しかし、実際に個人再生手続きをおこなう人は、自分自身や司法書士に依頼して個人再生手続きをおこなうよりも、弁護士に依頼する人がほとんどです。
その理由は弁護士に依頼すると以下のようなメリットがあるからです。
- 弁護士が代理人となって手続きをしてくれるので、手厚いサポートを受けられる
- 債権者からの督促がストップする
- 代理人弁護士がいる場合は、個人再生手続きに必要な費用を少なくできることもある
⑴弁護士が代理人となって手続きをしてくれるので、手厚いサポートを受けられる
弁護士に依頼して個人再生手続きをおこなうと、たとえば手続きのために裁判所へ行かなければならない場合も、弁護士が同行してほぼすべての手続きを代わりにおこなってくれます。
一方、司法書士は個人再生手続きの際、書類の作成などをサポートしてくれますが、債務者の代理人となることはできません。
そのため、個人再生手続きの際により手厚いサポートを受けたい場合は弁護士に依頼するとよいでしょう。
⑵債権者からの督促がストップする
個人再生手続きを依頼すると、まず最初に依頼した弁護士や司法書士が債権者に対して「受任通知」を送ります。
この受任通知には、債権者の債務者に対する直接の取立てを停止させる効力があり、そのため受任通知が債権者に届くと、債権者からの督促はストップします。
⑶代理人弁護士がいる場合は、個人再生手続きに必要な費用を少なくできることもある
個人再生をおこなう場合、裁判所の判断で個人再生委員が選任されることがあります。
個人再生委員が選任された場合、裁判所に対して支払う手続き費用が高額になることがあります。
しかし、裁判所によっては代理人弁護士がいない場合にのみ、個人再生委員を選任するとしているところもあり、そのような場合は代理人弁護士がいることで個人再生手続きに必要な費用を少なくできるでしょう。
弁護士に依頼する場合、個人再生手続きにかかる費用相場は50~70万円
個人再生手続きにかかる費用の一般的な相場は50~70万円ほどです。
費用の内訳は主に「個人再生手続きに必要な裁判費用や実費」と「個人再生を弁護士などの専門家に依頼する場合の費用」の2つです。
もし、費用が心配な場合は、無料相談を受け付けている弁護士事務所を利用するとよいでしょう。
費用の捻出が難しい場合は法テラス制度の利用などを検討
借金の返済がある中で費用の捻出が難しいという人でも、費用の分割払いに対応している弁護士事務所や、法テラスという費用を支援してもらえる仕組みなどもあるので、まずは弁護士に相談してみましょう。
個人再生手続きに必要な書類
弁護士に依頼すると、ほぼすべての手続きを任せることができますが、手続きをするにあたって収入証明書や所有資産に関する書類など自分で集めなければならない書類もあります。
個人再生手続きの際に必要となる書類の中で、代表的なものには以下のようなものがあります。
- 戸籍謄本
- 住民票
- 通帳一式(申立て前直近1~2年分の通帳コピー)
- 公共料金の領収書(申立て前直近2ヶ月分)
- 保険証券・解約返戻金の証明書(解約返戻金がない場合、ない旨を証明する書類)
- 退職金見込額証明書
- 自動車の車検証
- 不動産登記簿謄本・評価額証明書
- 不動産査定書
- 住宅ローンの契約書・残高証明書
- 賃貸借契約書
- 所得証明書
住民票は本籍地・世帯全員分・続柄の記載があるものが必要です。役所で交付を受ける際には「省略のないもの」と申告すればよいでしょう。また、家族関係を説明する必要がある場合は、戸籍謄本も必要になります。申立て前3か月以内に交付されたもののみ有効です。
なお、住民票に記載されている住所と現在住んでいるところが違う場合は、現在の住居の賃貸借契約書も必要です。
また、5年以上会社に勤続していて退職金の支給が考えられる場合、退職金見込額証明書が必要です。
退職金見込額証明書を入手する際に職場の人に知られてしまうかもしれないと思う人もいるでしょう。
その場合には、たとえば「家族みんなで入っている保険の見直しを考えており、担当者から今入っている保険の解約返戻金や会社の退職金金額などもみて、今後のプランを考えようと提案されているので、参考までに退職金見込額証明書を出してほしい。」というようにお願いしてみるなど、伝え方を工夫してみましょう。
なお、証明書の取得が困難な場合で会社の就業規則に退職金規定の記載があるような場合は、その部分をコピーして提出すればよい場合もあります。
住宅ローン支払中の住宅があり、住宅資金特別条項を利用したい場合は、住宅の価値を証明する査定書などが必要になります。
実際に裁判所が住宅の価値を判断するには、複数の不動産業者が出した査定額を比較し、平均値をとります。
この基準となる査定額を出してもらう不動産業者は、債務者側で選ぶことができます。
そのため、できるだけ複数の不動産業者に査定を依頼し、低い査定額を出してくれた不動産業者の査定書を提出することをおすすめします。
また、所得証明書については債務者の状況により源泉徴収票または課税証明書、給料明細、公的年金受給証明書、確定申告書などが必要になります。
源泉徴収票または課税証明書については、申立て前直近2年分が必要になります。専業主婦などで収入がなく申告をしていない場合は、源泉徴収票も課税証明書も出ないため、市役所市民税課の窓口で申告をして、非課税証明書を発行してもらう必要があります。
現在就業中の場合は申立て前直近2か月分の給料明細が必要になります。
生活保護・母子手当・失業手当・年金・障害年金・遺族年金などの公的年金を受給している場合は、受給額が分かる書類を添付する必要があります。年金の場合には、年1回送られてくる給付額の決定通知書を添付するとよいでしょう。
個人再生手続きの流れ
個人再生の手続きをするには、まずは弁護士事務所に相談し、個人再生を検討している旨を伝えます。
相談の際、弁護士は「個人再生をした時どのような再生計画になりそうか?」「その再生計画で支払っていける生活状況になっているか?」などを調べるため、債務者の抱えている借金や生活状況、所有している資産の状況について詳細をヒアリングします。
そのため、あらかじめ以下のような項目について調べてまとめておくとスムーズに手続きを進めることができます。
- 合計何社から借入しているか?
- 借入している業者の名前
- 各業者ごとの残債
- 各業者ごとの月々の返済額
- 各業者ごとの借入期間
- 各業者ごとの滞納期間
- 各業者ごとの連帯保証人の有無
- 各業者ごとの担保の有無
- 各業者ごとの裁判所通知の有無
- 裁判所通知を受け取った場合、支払督促か訴状か?
- 裁判所通知を受け取った場合、受取日はいつか?
- 訴状を受け取った場合、期日はいつになっているか?
- 借入理由
- 滞納理由
- 職業
- 雇用形態(正社員・契約社員・アルバイト)
- 住まい(賃貸・持ち家・実家)
- 家族構成(続柄・同居か別居か?)
- 手取り月収
- ボーナスの有無(受取月・金額)
- 副業の有無
- 同居家族の手取り月収
- 仕送り・援助などはもらっているか?
- 月々の生活費(何にいくら使っているか?)
また「資産を所有していないか?」「所有している場合、今現在の売却価格はいくらになるか?」も調べておくとスムーズです。
具体的に資産にあたるものの例としては、
- 自動車やバイクなど
- 不動産
- 預貯金
- 積立式保険の解約返戻金
- 退職金見込額
- 積立金
- 有価証券
- 貴金属や美術品、着物など
- 相続財産(遺産分割未了の場合も含む)
などがあります。
また住宅ローン支払中の住宅があり、住宅資金特別条項を利用したい場合は、相談段階で以下の書類についてもあらかじめ用意できていると最短で即日契約となる可能性もあります。
- 住宅ローン契約書
- 登記簿謄本(戸建ての場合は土地建物両方。マンションの場合は建物の居住部分のみ)
- 住宅ローンの残高(証明書がなくても金額だけでOKの場合もある)
依頼する事務所が決まったら、弁護士と委任契約を結びます。
委任契約を結ぶことで、弁護士は債務者の代理人として個人再生手続きできるようになります。
個人再生手続きは大まかに債務額の確定→申立→再生手続き開始決定→再生計画認可→返済開始の順で進みます。
具体的には以下のように手続き期間は申立から認可まで概ね6ヶ月ほどかかります。
- 弁護士への依頼
- 引き直し計算
引き直し計算とは、過払い金などがあった場合にその過払い金を元本に充当し実際の借金の残高を明確にする手続きのこと。
- 申立書類の準備・申立
- 再生手続き開始決定
- 債権者からの債権届出
- 債務者の債権認否
- 書面による決議
- 再生計画認可決定・確定
- 再生計画に沿った返済の開始
個人再生手続きを進める際には直前に新たな借り入れをしないこと
個人再生手続きを進めるにあたって気をつけるべきことがいくつかあります。
手続き直前に新たな借り入れや特定の債務者への返済をしない
手続きを検討している段階では、手続き開始直前に新たな借り入れをおこなったり、特定の債務者への返済をしないようにしてください。
特に友人からの借金などは迷惑をかけないようにと返済したりする方がいますが、これが原因で認可されないこともありますので、おこなわないようにしてください。
申立手続きの書類準備や履行テストの振込は確実におこなおう
申立てにあたってさまざまな書類の準備や履行テストの振込などの手続きは確実におこなうようにしましょう。
転職など収入状況に変化がある場合は事前に弁護士に相談すること
個人再生手続きは安定した収入があることが要件です。
手続き中の転職や退職などで収入の状況が変わることで要件を満たさなくなることもあります。予定がある場合は事前に弁護士に相談の上、進めることをおすすめします。
まとめ
個人再生手続きは債務を大幅に減額し返済していく債務整理手続きで、自宅を守れる、資格制限がないなどメリットも多い手続きです。
一方で手続きが複雑で手続き費用が高額になりやすく、利用要件も住宅資金特別条項(住宅ローン特則)も含めて要件が多く厳しいなど利用の際には状況に応じた検討が必要です。
個人再生手続きは裁判所を介した法的手続きのため、書類の準備や手続き上の注意点なども多く弁護士に依頼した方がよりスムーズに債務整理がおこなえます。
個人再生のよくある質問
個人再生には、どれくらいの期間がかかりますか?
個人差はありますが、一般的に6ヶ月程度かかるケースが多いです。
弁護士費用がないので、自分で個人再生手続きはできますか?
自分で個人再生手続きをすること自体は可能です。
しかし、個人再生には法的知識や経験が多く必要なため、債務整理に失敗するリスクも高まります。
費用に不安がある場合、一度法律事務所の無料相談を利用して詳しく聞いてみることをおすすめします。
STEP債務整理「債務整理に力を入れるおすすめの弁護士を紹介」
どうしても車を手元に残したいのですが、ローンが残っています。何かいい方法はありませんか?
任意整理を検討してみてはいかがでしょうか。
任意整理では手続きする債務を選べるので、確実に車を残せます。
個人再生後はローンは組めますか?
個人再生をすると、信用情報に事故情報が掲載されるので、ローンは原則組めません。
個人再生後、5~10年程度はローンが組めないと覚えておきましょう。
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