個人再生の最低弁済額とは?
個人再生の最低弁済額とは、個人再生をしても必ず返済しなければいけない最低金額です。これは「民事再生法」という法律によって定められており、個人再生を検討している人によって最低弁済額が異なります。
個人再生は、借金の返済が厳しいことを裁判所に申し立てて「借金を大幅に減額する手続き」です。すべての借金を0にできるわけではないため、必ず返済しなければならない借金が残ります。
まずは個人再生を申し立てて、自分が最低でもいくら返済しなければいけないのか知ってもらうために、個人再生の「最低弁済額の決定の仕方」について解説します。
最低弁済額とは手続き後も最低限返済しなければならない債務
最低弁済額とは、個人再生を申し立てて再生認可決定を受けたあとも支払わなければいけない「最低借金額」です。個人再生は「借金を大幅に減額できる」債務整理手続きであり、原則3年で残った借金の完済を目指します。
最低弁済額は、各債務者(お金を借りた側)の状況によって異なるため、自分が思っているほど借金が減額できない場合もあります。
最低弁済額は最低でも100万円
最低弁済額は各債務者の状況によって異なりますが、最低でも100万円です。個人再生では100万円未満に借金を圧縮することはできません。そのため借金総額100万円未満の人が個人再生をしても、借金を減額できないので注意してください。
また、個人再生による最低弁済額の最低基準は100万円ですが、誰でも100万円まで借金を圧縮できるわけではありません。たとえば、Aさん・Bさんがそれぞれ500万円ずつ借金を抱えていたとしても「Aは100万円まで減額できたけどBは300万円までしか減額できなかった」というケースも発生します。
あくまでも「個人再生における最低弁済額の最低基準が100万円」と覚えておいてください。
個人再生の最低弁済額を決める3つの基準
個人再生の最低弁済額を決定するときは、以下の3つを基準にして決定します。
- 清算価値保障原則
- 法律で定められた最低弁済額
- 可処分所得の2年分
上記いずれかの基準のうち、もっとも高い金額が個人再生の最低弁済額になります。そのため同じ借金額でも、債務者(お金を借りた側)の状況次第では、減額できる借金の金額に大きな差が発生する場合もあるでしょう
清算価値保障原則
個人再生をするときに「財産」を所有している人は、財産価値の合計が最低弁済額になります。たとえば、あなたが300万円の価値がある腕時計を持っていた場合は、少なくとも300万円は弁済しなければなりません。
これは債権者に破産配当以上の配当を保障するためで、上記のルールを「清算価値保障原則」といいます。なお、破産手続きにおいて自由財産として取り扱われる以下の金額は、清算価値の算定に含めません。
清算価値として認めない財産
- 99万円までの現金
- 残高が20万円以下の預貯金
- 20万円以下の保険の解約返戻金
- 価値が20万円以下の車等
- 賃貸物件の敷金(自分が居住していることが条件)
- 支給見込額の1/8が20万円以下の退職金
- 家財道具
- 差押え禁止財産
たとえば、200万円の現金と100万円の預貯金を持っている人であれば、清算価値保障基準に基づく最低返済額は「181万円」です。
上記の計算例式
・200万円の現金-99万円の現金(清算価値として認めない部分)=101万円(清算価値として認められた現金財産)
・100万円の預貯金-20万円の預貯金(清算価値として認めない部分)=80万円(清算価値として認められる預貯金)
・101万円(現金の財産)+80万円(預貯金)=181万円(清算価値保障原則に基づく最低弁済額)
法律で定める最低弁済額(100万円)
法律で定める最低弁済額は借金総額に応じて決められています。
借金総額 |
最低弁済額 |
100万円以下 |
全額 |
100万円超500万円以下 |
100万円 |
500万円超1,500万円以下 |
借金総額の1/5 |
1,500万円超3,000万円以下 |
300万円 |
3,000万円超5,000万円以下 |
借金総額の1/10 |
参考:e-GOV「民事再生法(第231条)」
法律で定められた個人再生の最低弁済額は上記のとおり、100万〜500万円です。また、法律で定められた最低弁済額の最低は100万円ですが、「清算価値保障原則」と比べた結果、もっとも高い金額が最低弁済額になります。
たとえば、借金総額500万円のAさんが300万円の財産を持っていた場合の、個人再生における最低弁済額は以下のとおりです。
- 法律で定める最低弁済額は100万円
- 清算価値保障原則基準における最低弁済額は300万円
したがってAが個人再生した場合の再生弁済額は、300万円になります。
一方で、借金総額500万円のBさんが一切の清算価値を認められる財産を有していない場合は、以下が最低弁済額になります。
- 法律で定める最低弁済額は100万円
- 清算価値保障原則基準における最低弁済額は0円
そのためBの個人再生における最低弁済額は100万円になります。
AとBは同じ借金合計額でしたが、持っている財産の有無で上記のような結果になりました。
給与所得者等再生の場合、可処分所得の2年分
個人再生(給与所得者等再生)における最低弁済額を決定するための基準、2つ目は「可処分所得の2年分」です。可処分所得は総支給額から各種税金や社会保険料を差し引いた手取り金額のことを指すのが一般的です。
しかし、個人再生での可処分所得の意味は広く、手取り金額からさらに「政令で定められた生活費」も差し引けます。仮に手取り月収が25万円程度であれば、ここから生活費を差し引いた金額✕24か月分が可処分所得基準における最低弁済額となります。
Aさんの例(最低生活費の計算)
Aさんプロフィール
・手取り25万円
・東京都八王子市在住
・30歳
東京都八王子市は第一区に該当するため、最低生活費は以下のとおりになります。
- 個人別生活費「409,000円」
- 世帯別生活費「527,000円」
- 冬期特別生活費「16,000円」
- 住居費「642,000円」
- 勤労必要経費「555,000円」
Aの最低生活費合計は1年間で「2,149,000円」手取り月収は25万円なので、年間手取り金額は25万円✕12か月=300万円です。
年間手取り金額から最低生活費を引いた金額の2年分が、可処分所得基準における最低弁済額になります。
この例の場合「300万円-2,149,000円=851,000円」の2年分「851,000円✕2=1,702,000円」が可処分所得基準の最低弁済額です。
参考:e-GOV「民事再生法第二百四十一条第三項の額を定める政令」
なお政令で定める最低生活費は、お住まいの地域や扶養人数などによって大きく異なるため一概にはいえません。個人再生の可処分所得が気になる人は弁護士へ相談するか、以下の参考法律を参照してください。
個人再生における可処分所得の金額(政令で定める生活費)はこちら
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最低弁済額の返済期間と支払えないときの対処法
「個人再生をしても案外、借金は減らないんだ…」と思われた人も多いでしょう。個人再生によって減額できた借金は原則として3年間で完済しなければいけないため、今以上に毎月の返済負担が大きくなることも考えられます。
万が一やむを得ない事情で3年間での完済が難しい場合は、2年程度引き延ばすことができます。また、個人再生の最低弁済額を返済している最中に、支払期限の延長やハードシップ免責を行うことも可能です。ただし、いずれの場合も条件は厳しくなります。
ここからは、個人再生の最低弁済額の返済期間と、返済できなくなったときはどう対処すべきか解説します。
個人再生の最低弁済額の返済期間は「原則3年以内」
個人再生における最低弁済額の返済期間は、原則3年間です。これは、最低弁済額の金額にかかわらず、100万円でも500万円でも3年以内に完済できるよう再生計画を立てなければいけません。
仮に、100万円の借金を3年で完済しようとすれば、1か月あたりの返済負担額は約2.7万円です。一方、500万円の借金があれば、約14万円の返済が必要です。現在抱えている借金総額次第では、毎月返済負担額が上がる可能性もあります。
ただ、借金を減額できた分、総支払金額が減少するため個人再生をする価値は十分にあるでしょう。どうしても返済負担額が厳しい、借金の総額以上に毎月の返済負担額を減らしたいのであれば、個人再生ではなく自己破産を選択すべき場合もあります。
やむを得ない事情があるときは最長5年まで引き延ばせる
裁判所がやむを得ない事情があると認めたときは、支払期限を2年延長して5年間での完済を目指すこともできます。やむを得ない事情とは「子どもの教育費用」や「家族の治療費」など、生活に欠かせない大きな支出があると認められる場合です。
個人再生手続きを開始した当初から「この最低弁済額なら3年間での完済は難しいので、5年にしてください」というのは通用しません。支払いの意思はあるけれども、返済途中で大きなライフイベントを控えているからどうしても支払えないなどの事情が必要です。
個人再生における最低弁済額の返済が難しいと感じる場合は、弁護士へ相談することをおすすめします。個人再生を含め、ほかの債務整理検討や裁判所へ支払期限延長の相談など、力添えしてくれるでしょう。
返済が難しいなら「支払期限の延長」または「ハードシップ免責」の検討が必要
個人再生の最低弁済額を返済途中に、なんらかの理由で返済が難しくなることもあるでしょう。このとき「どうせ支払えないから」と、放置したり支払わなかったりするのは絶対に避けてください。
最悪の場合、再生認可決定の取り消しを受ける結果になってしまいます。返済途中にどうしても支払えないことが明らかになったときは、以下を検討してください。
どう頑張っても支払えないものを「どうにかして支払いなさい」とはいいません。支払えない場合も必ず解決方法があるため、まずは弁護士へ相談することをおすすめします。
裁判所に対して再生計画の変更手続きを申しでることができる
最低弁済額を返済中に支払いが厳しくなった場合は、裁判所に再生計画の変更手続きを申し立てられます。この変更手続きが認められれば、最長で2年間の支払期限延長が認められるでしょう。
ただし、支払期限の延長が認められるためには、収入減や家族・自分の入院費治療費が必要など、やむを得ない事情があると認められなければなりません。「ギャンブルや浪費を理由に返済できません」といった理由は、当然通用しないため注意してください。
なお裁判所が支払いの延長を認めるか否かに明確な基準はありません。あくまでも「やむを得ない事情」であって、判断をする裁判官によっても多少のズレがあります。もしも「このような事情だけど支払い延長は認められるのか」と不安な人は、弁護士へ相談することをおすすめします。
ハードシップ免責で最低弁済額を免除できる
ハードシップ免責とは、最低弁済額の返済を行っている過程でどうしても返済できない理由が発生したときに、残りの借金をすべて0にする手続きです。裁判所に申し立てるとハードシップ免責の可否を判断しますが、支払いの延長よりも厳しい条件を求められます。
ハードシップ免責の条件
- 最低弁済額(借金返済額)の3/4以上返済していること
- 再生計画どおりの返済が難しいとき
ここでいう「再生計画どおりの返済が難しいとき」は、単に「失業したから返済できません」という理由だけでは通用しません。たとえば「失業をして再就職先を探しているけど、何らかの理由でどうしても就職できない」「長期間の入院で仕事を再開できる見通しが立たない」といった場合です。
支払い延長の場合よりもかなりハードルは高く、ハードシップ免責が認められるのは相当難しいでしょう。
個人再生後の滞納は再生計画の取り消しになる
万が一最低弁済額の返済が滞ると、再生計画の取り消し決定を受けることになります。再生計画の取り消しがされれば、借金が元の状態に戻ります。仮に、個人再生によって500万円の借金を100万円に圧縮した人であれば、借金総額が500万円に戻ってしまうのです。
再生計画の取り消しを受けたあとに2度目の個人再生も可能ですが、取り消しから7年間は給与所得者等再生を利用できなくなってしまいます(通常の個人再生は可)。
どうしても支払えないのであれば、払えなくなる前に必ず弁護士へ相談してください。そうすれば支払期限の延長やハードシップ免責ができるよう尽力を尽くしてくれるでしょう。
なお、再生計画認可を受けてから支払ってきた弁済額は当然返済に充当されるので、その点は安心してください。
最低弁済額の返済も厳しいなら個人再生ではなく「自己破産」を検討したほうがよい
前述した基準を踏まえたうえで、最低弁済額の返済が可能か自分なりに考えてみてください。どうしても返済が難しいのであれば、個人再生ではなく自己破産を検討したほうがよいでしょう。
現状で「最低弁済額の返済も厳しいかもしれない」と感じているのであれば、ほぼ間違いなく行き詰まります。誤った選択をしてしまえば自分で自分の首を絞める結果になりかねません。
また、最低弁済額の返済途中でどうしても支払えないときは、自己破産に切り替えることも検討してください。本来、再生認可決定が確定してから7年間は、免責不許可事由に該当し、破産免責が認められません。しかし、個人再生の最低弁済額がどうしても支払えないときは裁量免責(裁判所の裁量で免責許可を出す)を得られる可能性が高いです。
個人再生にはマイホームを残せるといった大きなメリットはありますが、借金の返済ができなければ本末転倒です。
個人再生のみにこだわるのではなく、状況に応じて自己破産を検討したほうがよい場合もあります。「自分がどうするべきなのか」「借金を返済できないときはどうすればよいのか」不安な場合は、弁護士へ相談してください。
まとめ
個人再生の最低弁済額とは、手続き完了後に最低限返済しなければならない借金です。
最低弁済額を決める基準は「清算価値保障原則」「法律で定められた金額」の2つ、給与所得者等再生の場合は「可処分所得の2年分」を加えた3つです。いずれかのうちもっとも高い金額が個人再生の最低弁済額になるため「案外、借金は減らないんだ…」と思われた人も多いかもしれません。
個人再生における最低弁済額の返済期間は、原則3年間です。借金の状況によっては、個人再生が得策ではない場合もあるため、まずは弁護士や司法書士に相談することをおすすめします。
最低弁済額を途中で支払えなくなった場合は、支払期限の延長やハードシップ免責を検討してください。「どうせ支払えないから」と放置したり支払わなかったりすると、再生認可決定を取り消されてしまう恐れもあります。
なお最低弁済額の返済も厳しいなら、個人再生ではなく自己破産を検討したほうがよいでしょう。
個人再生には、マイホームを残せるというメリットがあります。しかし「マイホームがあるから個人再生を検討する」「借金総額が少ないから個人再生が正解」といった考え方は、常に正しいとは限りません。
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