個人再生を利用すれば借金残債が大幅に減額されると聞いたのですが本当ですか?
利息・遅延損害金だけがカットされる任意整理とは異なり、個人再生では元本残債まで減額できる可能性が高いので、その意味では借金減額効果は大きいと考えられます。ただし、清算価値保障原則が働く点に注意が必要です。
清算価値保障原則とはどのようなものですか?
清算価値保障原則とは、裁判所によって個人再生計画が認可されるための条件の1つです。自己破産における配当率よりも再生計画における弁済率が高くなければいけないというルールで、債権者を保護する目的から設定されています。
このように、個人再生を利用するには清算価値保障原則などの注意すべきポイントが少なくありません。債務者にとって適切な債務整理手続きを選択するためにも、まずは弁護士までご相談ください。
個人再生の再生計画案が裁判所の認可を受けるためには一定の要件が課されており、その1つが清算価値保障原則と呼ばれるものです。
清算価値保障原則とは、個人再生における弁済率に関するルールで、自己破産を利用した場合に換価処分を経て債権者に配当される金額(配当率)以上の弁済率が求められるというものです。
債務者が自己破産をすれば換価処分によって一定の配当額を受けられたのに、個人再生を選択されたがために債権者が損をするという事態を防ぐために清算価値保障原則が設定されています。
これから借金問題について債務整理を検討している人は「借金減額効果が大きいから個人再生を利用しよう」と安易に決定してしまうと、清算価値保障原則に抵触して想像していたほどの借金減額効果が得られない可能性があるので注意してください。
個人再生の利用を検討している債務者は、まずは弁護士に相談をして、個人再生で適切な生活再建を実現できるのか、他の債務整理手続きの方が生活再建に役立つのかなどについて検討してもらうべきでしょう。
もし、いきなり法律事務所へ相談するのが不安なら、借金減額診断チェッカーを利用してみてください。簡単な質問に答えると、個人再生でどれくらい借金が減るのか無料でシミュレーションできます。
- 個人再生計画が認可されるためには清算価値保障原則を守る必要がある。清算価値保障原則とは、債務者が個人再生を利用することで不利益を被る債権者を保護する目的で設定されるもの。
- 清算価値保障原則によって、個人再生計画における返済率は、自己破産を利用した場合の配当率を上回る必要が生じる。自己破産では自由財産・自由財産の拡張が認められるので、個人再生計画案作成には専門性の高い知識が求められる。
- 清算価値保障原則を充たさない個人再生計画は認可されない。借金問題に強い弁護士に相談して、適切な形で借金問題を改善できるようにアドバイスを求めよう。
個人再生の清算価値保障原則とは?
個人再生を利用して借金状況を改善するためには、個人再生計画が清算価値保障原則を充たす必要があります。
清算価値保障原則は、個人再生によって借金を減額したい債務者と債権という財産を所有している債権者の利害を調整するために求められる要件なので、個人再生計画が裁判所による認可を受けるために重要なポイントです。
そこで、個人再生の清算価値保障原則について、以下4項目に沿って解説します。
- 清算価値保障原則とは個人再生の再生計画認可要件の1つ
- 個人再生で清算価値保障原則が求められる理由は自己破産とのバランス
- 清算価値保障原則と並ぶ最低弁済基準額の基準
- 最低弁済額の返済期間は原則3年
それでは、清算価値保障原則とはどのようなものかについて、清算価値保障原則と並ぶ個人再生における最低弁済額ルールなどとあわせて、項目ごとに見ていきましょう。
清算価値保障原則とは個人再生の再生計画認可要件の1つ
個人再生における清算価値保障原則は再生計画認可要件の1つで、同一債務者が自己破産をしたと仮定した場合に換価処分を経て債権者に支払われる配当率よりも個人再生における弁済率が高い場合でなければ再生計画が認可されないというものです。
そもそも、個人再生は借金返済額を大幅に圧縮して債務者の生活再建を目指す債務整理手続きですが、あくまでも借金総額の一部については返済が必要であるという点を押さえる必要があります。
つまり、個人再生を利用する場合には、個人再生後に返済を要する金額がいくらになるかがポイントになり、その返済総額を求めるための1つの基準として用意されているものが清算価値保障原則です。
個人再生には小規模個人再生と給与所得者等再生の2つの手続きが用意されていますが、清算価値保障原則はどちらの手続きにもあてはまる認可要件である以上、個人再生で借金状況の改善を目指す債務者は常に清算価値保障原則を考慮したうえで、個人再生を利用するのが適切かを検討しなければいけません。
ただし、債務者自身が処分すべき財産をほとんど所有していない場合、つまり、自己破産を利用した場合に同時廃止事件に振り分けられるような場合には、個人再生を利用する際に自己破産とのバランスを考慮する必要がなくなるので清算価値保障原則は実質的に大きな意味をもたなくなります。
以上のように、個人再生における清算価値保障原則は手続き後の生活再建の難易度に直に関わることになるので、借金問題に強い弁護士までご相談ください。
※個人再生については、「借金を1/5に減額し住宅も残せる個人再生とは?メリット・デメリットや詳しい手続きについて解説」で詳しく解説しています。あわせてご参照ください。
個人再生で清算価値保障原則が求められる理由は自己破産とのバランス
個人再生で清算価値保障原則が求められる理由は、個人再生における弁済率と自己破産における配当率のバランスをとる必要があるからです。
なぜ個人再生の弁済率と自己破産の配当率のバランスをとる必要があるのか、それは、清算価値保障原則がなければどのような事態を招きうるかを想定すると分かり易いでしょう。
そもそも、債務者が自己破産を選択すれば、債務者が所有している一定の財産は債権者に配当されるルールになっています。
ここで、もし個人再生における清算価値保障原則がなければ、債務者がどの債務整理手続きを選択するかによって債権者が不当に経済的な不利益を被る可能性があります。
より具体的に表現すると、個人再生に清算価値保障原則がなければ、「自己破産を選ぶと自分の財産が処分されてしまうから個人再生でお得に借金問題を解決しよう」という不公平な選択を債務者に許すことになってしまいます。
つまり、「個人再生を選べば一定額の返済は強いられるが、自己破産で処分される財産の額面よりも低額に抑えられる」となってしまうと、債務者が個人再生を選ぶのは当然ですし、その結果、債権者は債務者の恣意的な選択によって不利益を被ることになります。
したがって、"債務者が自己破産で借金問題の解決を狙った場合に債権者に配当される金額"を個人再生でも最低限保障するために、個人再生における清算価値保障原則が機能すると考えられます。
清算価値保障原則があるから、債権者は最低限の利益(自己破産を選択されたときの配当分)を守れる。清算価値保障原則がなければ、債権者は、債務者が自己破産を選択したときよりも損をしてしまう。
ただし、ここで注意しなければいけないのが、自己破産で処分される財産の範囲は流動的(裁判所の判断次第で範囲が変わりうる)ということです。
自己破産では債務者が所有するすべての財産が処分されるわけではなく、一定の自由財産は手元の残せる、つまり、一定の自由財産は債権者への配当から除外されるという運用がなされており、その結果、個人再生の清算価値保障原則の範囲にどこまでの財産を含めるべきかの判断にも問題が生じます。
考え方を整理しましょう。以下のように、自己破産の財産処分の対象に含まれるかどうかで、個人再生手続きでどのように扱うべきかが変わります。
- 自己破産で処分される財産に含まれる(債務者が損をする)
→自己破産の配当率に含まれる(債権者が得をする)
→個人再生の弁済率に含まれる(債務者が損をする) - 自己破産で処分される財産に含まれない(債務者が得をする)
→自己破産の配当率に含まれない(債権者が損をする)
→個人再生の弁済率に含まれない(債務者が得をする)
もし財産Aが自己破産で処分される財産に含まれるのなら、自己破産の配当率に含まれるので、債務者が損(債権者が得)をすることになります。つまり、自己破産とバランスをとるために、当該財産Aについては個人再生の弁済率に含める必要があります。
他方、財産Bが自己破産で処分される財産に含まれないのなら、自己破産の配当率に含まれないので、債務者が得(債権者が損)をすることになります。つまり、自己破産とのバランスを考えると、当該財産Bについては個人再生の弁済率に含める必要がありません。
自己破産で処分される財産・自己破産で手元に残せる財産がはっきりしているなら、個人再生における清算価値保障原則で算出される弁済率も簡単に計算できる。しかし、自己破産ではどこまでの財産が処分され、どこまでの財産を手元に残せるかは流動的。このあおりを受けて、個人再生における清算価値保障原則にどこまでの財産を含めるかの判断が難しくなる。
このように、債務者が所有する財産がどちらのルートに乗るかによって個人再生における弁済率判断が大きく変わってくるので、以下2項目に沿って、自己破産手続きにおける処分対象か否かの判断が個人再生の清算価値保障原則でどのように取り扱われるのかを解説します。
- 自己破産における本来的自由財産は算定基礎から除かれる
- 原則として自己破産における自由財産拡張分は考慮しない
それでは、それぞれの項目について見ていきましょう。
自己破産における本来的自由財産は算定基礎から除かれる
自己破産では、破産手続きを経ても債務者が手元に残せると破産法上明記されている自由財産(本来的自由財産)があります。
債務者が自己破産を選択しても本来的自由財産は債務者の手元に残せる(債権者に配当されない)ことが確定しているので、本来的自由財産は清算価値保障原則によって導かれる個人再生の弁済率の算定基礎には含まれないとされています。
自己破産における本来的自由財産には以下のものが含まれます。
- ①99万円以下の現金(破産法34条3項1号)
- ②差し押さえ禁止財産(破産法34条3項2号)
- ③新得財産(破産法34条1項)
債務者が手元に所持している99万円以下の現金は自己破産でも処分を免れるので、個人再生の弁済率には含めないことが可能です。
また、生活必需品や子どもの勉強道具などの差し押さえ禁止財産は自己破産でも債権者に配当されないので、個人再生における清算価値保障原則の算定基礎から除外できます。
さらに、債務者が自己破産手続き開始後に取得した新得財産は自己破産を利用しても債務者の手元に残せるので、個人再生でも債務者の弁済負担額に含める必要はありません。
以上のように、自己破産における本来的自由財産については、「自己破産で処分されない→債権者に配当する必要がない→個人再生の弁済率から外れる」という流れで考えることができるので、清算価値保障原則によって導かれる最低弁済額から除外可能です。
原則として自己破産における自由財産拡張分は考慮しない
自己破産では、法律上債務者が手元に残せると定められている本来的自由財産とは別に、裁判所の判断で換価処分を免れる自由財産の拡張分が認められている点に特徴があります。
本来的自由財産には含まれないものの、自由財産の拡張分として認められさえすれば自己破産後も手元に残せるので、債務者にとっての生活再建に役立つことになります。
ここで注意しなければいけないのが、本来的自由財産は自己破産で手元に残せることが法律上明記されているのに対して、自由財産の拡張分は個別事案ごとに裁判官の判断を要するので同列に語ることができないという点です。
つまり、本来的自由財産は債務者の手元に残せることが確定しているので清算価値保障原則の対象外にできるものの、自由財産の拡張分は債務者の手元に残せることが確定していない以上、清算価値保障原則による最低弁済額の算定基礎に含まれることになります。
したがって、個人再生において債務者が負担する弁済額を決定する際には、自己破産における自由財産拡張分を考慮してもらえないということです。
ただし、以下のように、自由財産の拡張分の中には、裁判所ごとに画一的なルールが定められている結果、本来的自由財産と同じように一律に債務者の手元に残せる(と裁判官が判断できる)と扱われるものがあります。
- 20万円以下の預貯金
- 20万円以下の生命保険の解約返戻金
- 市場価格が20万円以下の自動車
- 支給見込額の1/8が20万円に満たない退職金債権
これらの自由財産の拡張分については、法律の建て前では裁判官の個別具体的な判断によって債務者の手元に残せるとされているものの、裁判所が数多くの自己破産案件を処理する必要性から画一的に自由財産の拡張分として認めるという運用がなされているので、例外的に清算価値保障原則によって導かれる最低弁済額から除外可能です。
なお、裁判所ごとに自由財産拡張分に関するルールは異なるので、これから個人再生で生活再建を目指すという債務者は、借金問題の解決に力を入れる弁護士に相談して個人再生を利用した場合の弁済額を算出してもらうのがおすすめです。
清算価値保障原則と並ぶ最低弁済額の基準
個人再生で債務者が負担する返済額を決定する基準(最低弁済額)は清算価値保障原則だけではなく、以下のように、どの個人再生手続きを利用するかによって最低弁済額を決定する基準が決められています。
- 小規模個人再生:清算価値保障原則、最低弁済基準額
- 給与所得者等再生:清算価値保障原則、最低弁済基準額、可処分所得
小規模個人再生・給与所得者等再生に共通している基準は、清算価値保障原則と最低弁済基準額です。
給与所得者等再生を利用する場合には、これらに加えて可処分所得基準も最低弁済額算定のための指針とされます。
そこで、最低弁済額を決定する基準について、以下2項目に沿って解説します。
- 最低弁済基準額は法律で定められている最低限返済を要する金額のこと
- 給与所得者等再生手続きを利用する場合には可処分所得もチェック
それでは、最低弁済額を決定する基準についてそれぞれ見ていきましょう。
最低弁済基準額は法律で定められている最低限返済を要する金額のこと
個人再生では、債務者が最低弁済すべき金額(最低弁済基準額)が民事再生法で定められています。
つまり、最低弁済基準額の要件を充たさない再生計画案は認可されないので、個人再生を利用する際には借金総額に応じて規定される最低弁済基準額に留意する必要があります。
借金総額 | 最低弁済基準額 |
---|---|
100万円未満 | 借金総額 |
100万円以上500万円未満 | 100万円 |
500万円以上1,500万円未満 | 借金総額の1/5 |
1,500万円以上3,000万円以下 | 300万円 |
3,000万円を超え5,000万円以下 | 借金総額の1/10 |
ただし、債務者が抱えている借金の中に住宅ローンが含まれている場合には、住宅ローンの残債を除外した借金総額を前提に最低弁済基準額を求める点にご注意ください。
したがって、小規模個人再生を利用する際には、債務者の借金総額に応じて算出される最低弁済基準額と自己破産を利用したケースとバランスをとるために求められる清算価値保障原則の2つの基準から、最終的に債務者が負担する最低弁済額が求められるということになります。
例えば、債務者がほとんど財産を所有していないケースでは清算価値保障原則が最低弁済基準額を下回ることになるので、個人再生計画案では最低弁済基準額が利用されます。
これに対して、自宅や自動車などの財産を多く所有する債務者のケースでは清算価値保障原則が最低弁済基準額を上回ることになるので、個人再生計画案では清算価値保障原則によって算出される金額が用いられます。
1項 小規模個人再生において再生計画案が可決された場合には、裁判所は、第174条2項(当該再生計画案が住宅資金特別条項を定めたものであるときは、第202条2項)又は次項の場合を除き、再生計画認可の決定をする。
2項 小規模個人再生においては、裁判所は、次の各号のいずれかに該当する場合にも、再生計画不認可の決定をする。
1号 再生債務者が将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがないとき。
2号 無異議債権の額及び評価済債権の額の総額(住宅資金貸付債権の額、別除権の行使によって弁済を受けることができると見込まれる再生債権の額及び第84条2項に掲げる請求権の額を除く。)が5,000万円を超えているとき。
3号 前号に規定する無異議債権の額及び評価済債権の額の総額が3,000万円を超え5,000万円以下の場合においては、当該無異議債権及び評価済債権(別除権の行使によって弁済を受けることができると見込まれる再生債権及び第84条2項各号に掲げる請求権を除く。以下「基準債権」という。)に対する再生計画に基づく弁済の総額(以下「計画弁済総額」という。)が当該無異議債権の額及び評価済債権の額の総額の1/10を下回っているとき。
4号 第2号に規定する無異議債権の額及び評価済債権の額の総額が3,000万円以下の場合においては、計画弁済総額が基準債権の総額の1/5又は100万円のいずれか多い額(基準債権の総額が100万円を下回っているときは基準債権の総額、基準債権の総額の1/5が300万円を超えるときは300万円)を下回っているとき。
5号 再生債務者が債権者一覧表に住宅資金特別条項を定めた再生計画案を提出する意思がある旨の記載をした場合において、再生計画に住宅資金特別条項の定めがないとき。
給与所得者等再生手続きを利用する場合には可処分所得基準もチェック
債務者が給与所得者等再生手続きを利用する場合には、最低弁済基準額と清算価値保障原則に加えて、可処分所得基準も検討する必要があります。
最低弁済基準額・清算価値保障基準・可処分所得基準の3つを比較したうえで、最も高い金額が個人再生計画案における最低弁済額に採用されます。
可処分所得基準とは、債務者の年収から生活のために必要な支出額を控除した金額の2年分のことです。
2項 裁判所は、次の各号のいずれかに該当する場合には、再生計画不認可の決定をする。
7号 計画弁済総額が、次のイからハまでに掲げる区分に応じ、それぞれイからハまでに定める額から再生債務者及びその扶養を受けるべき者の最低限度の生活を維持するために必要な1年分の費用の額を控除した額に2を乗じた額以上の額であると認めることができないとき。
3項 前項第7号に規定する1年分の費用の額は、再生債務者及びその扶養を受けるべき者の年齢及び居住地域、当該扶養を受けるべき者の数、物価の状況その他一切の事情を勘案して政令で定める。
最低弁済基準額は民事再生法で定められているので判断は簡単ですが、清算価値保障基準では「もし自己破産をしたら」という仮定の状況を想定して処分される財産の価額を決定する必要がありますし、可処分所得基準では家族構成や年齢などから算出される詳細な数値を読み解くことが求められるので、法律の素人である債務者自身で行うには難易度が高いと言えるでしょう。
最低弁済額を充たさない再生計画案は裁判所の認可を受けることができないので、個人再生を利用する場合にはノウハウのある弁護士に一任してスムーズな生活再建を目指してください。
最低弁済額の返済期間は原則3年
任意整理と同じように、個人再生を利用した場合には完済を目指す必要があります。
再生計画が認可された場合には、原則として認可決定確定日から3年で最低弁済額を完済する必要があり、多くの場合で毎月1回のペースで返済を継続することになります。
浪費などが原因で家計がうまく回らないと返済スケジュールをこなすことができなくなるので、再生計画が認可された後は、よりいっそう気を引き締めて家計管理を行うようにしてください。
例えば、クレジットカードが使えなくなるので現金払いをメインにして明朗な支出管理を行う、スマホのプランを見直す、不必要な保険は解約するなどの方法を実践して、毎月の返済額を確実に捻出できる環境を整えましょう。
返済期間が延長されるケースもある
ただし、最低弁済額を完済するまでには3年もの月日を要するので、場合によっては当初予定していた返済スケジュールをこなせない可能性があります。
もちろん、ギャンブルや浪費などの不誠実な理由で返済が難しくなった場合には交渉の余地はありませんが、以下のような事情が認められる場合には返済期間を延長できるケースがあるのでご安心ください。
- 病気・怪我などのやむを得ない理由で支出が重なった
- 子どもの進学や出産が理由で出費が増えた
- 解雇・収入減少
このようなケースでは、裁判所に対して個人再生計画の変更を申し立てることによって、最大2年の返済期間延長が認められます。
最低弁済額を返済できない場合の対処法
個人再生計画の変更によって返済期間を延長する以外にも、最低弁済額の返済が難しくなったケースへの対処法は用意されています。
- ハードシップ免責
- 自己破産
以下で、それぞれの対処法について解説します。
ハードシップ免責
ハードシップ免責とは、残存する最低弁済額の返済を免除してもらう制度です。
最低弁済額の3/4以上を返済していること、返済継続が難しい理由が不可抗力であること、清算価値保障基準額以上の返済を行っていること、の要件を充たす必要があります。
ただし、ハードシップ免責を利用すると住宅ローン返済中の自宅が処分されるというデメリットが生じるので、「自宅を手元に残したいから個人再生を利用した」という動機が無に帰することになってしまいます。
自己破産
再生計画通りの完済が難しい、かつ、ハードシップ免責の要件を充たさない場合には、自己破産で残債務を帳消しにするという選択肢が考えられます。
例えば、再生計画が認可されて返済がスタートして間もなく仕事に就けなくなってしまうと、到底ハードシップ免責要件は充たさないので、自己破産で借金状況を改善するほかありません。
ただし、住宅ローン返済中であるか否かにかかわらず現在居住している住宅は手放さなければいけないのでご注意ください。
個人再生の要件充足判断や手続き進行は複雑なので弁護士に相談を
以上のように、個人再生を利用して借金問題を解決するには、清算価値保障原則をはじめとする再生計画が認可されるためのハードルをクリアする必要があります。
ただし、これら個人再生の要件充足は法律の素人である債務者が判断するには難易度が高いと考えられるので、個人再生を利用して借金問題を改善したいのなら弁護士に相談するのがおすすめです。
借金問題を弁護士に相談すれば、以下3項目のメリットが得られます。
- 弁護士に依頼すれば個人再生手続きをスムーズに進めてくれる
- 弁護士に依頼すれば督促がストップする
- 弁護士に依頼すれば個人再生以外の債務整理も検討してくれる
それでは、それぞれのメリットについて見ていきましょう。
弁護士に依頼すれば個人再生手続きをスムーズに進めてくれる
個人再生を弁護士に依頼すれば、複雑な手続きをすべて代理して遂行してくれます。
清算価値保障原則に関する判断や住宅ローン特則の利用など、再生計画が認可されるためには複雑な判断が求められます。
弁護士に依頼すれば、これらの要件を充足する形で裁判所における手続きを進めてくれるので、債務者自身が手続きすることなく借金問題の改善を図れるでしょう。
弁護士に依頼すれば督促がストップする
債務整理を弁護士に依頼すれば、すぐに債権者からの督促がストップします。
なぜなら、依頼を受けた弁護士はすぐに債権者に対して受任通知を送付し、受任通知の送付を受けた債権者は督促などのすべての取立て行為が禁止されるからです。
弁護士に依頼しなければ債権者からの督促を受けながら債務整理準備を行わなければいけませんし、生活再建に集中することもできません。
弁護士に依頼するだけで返済ストレスから解放され、手続きの負担までなくなるので、債務者は債務整理後の生活再建準備だけに注力できるでしょう。
※受任通知については、「債務整理をすると借金の督促が止まるって本当?受任通知の効力について解説」で詳しく解説しています。あわせてご参考ください。
弁護士に依頼すれば個人再生以外の債務整理も検討してくれる
借金問題を弁護士に相談すれば、債務者の実情にあった債務整理手続きを選択してくれます。
自己破産・個人再生・任意整理にはそれぞれメリット・デメリットがあるので、債務者の状況・希望に沿った手続きを選択する必要があります。
例えば、住宅ローン返済中の自宅を手元に残したいという希望をもつ債務者にとって、所有する財産がほとんど処分されてしまう自己破産では希望を実現できないので、個人再生・任意整理を選ぶべきです。
また、借金減額効果を重視する債務者の希望を実現するのは自己破産・個人再生なので、任意整理では大きな減額効果を期待できません。
したがって、借金問題の解決に力を入れる弁護士に相談して、各手続きの特徴を踏まえつつ生活再建をしやすい方法を選択してもらいましょう。
自己破産 | 個人再生 | 任意整理 | |
---|---|---|---|
メリット | ・借金が帳消しになる ・無職でも利用できる |
・借金減額効果が大きい ・住宅ローンの特則がある |
・利息、遅延損害金がカット ・債権者と直接交渉できる |
デメリット | ・財産が処分される ・破産手続き中に職業制限が生じる仕事あり ・郵便物の管理制限 |
・裁判所での手続きが複雑 ・ある程度の収入が必要 |
・借金減額効果が弱い |
まとめ
個人再生で借金問題を改善するには、再生計画案を作成して裁判所の認可を受ける必要があります。
再生計画案の内容はどのようなものでも良いというわけではなく、清算価値保障原則・最低弁済基準額・可処分所得基準を充たした形で、完済までに債権者に支払う最低弁済額ルールを守らなければいけません。
特に、清算価値保障原則では、仮に自己破産を利用した場合に生じる債権者への配当額を想定する作業が求められるので、債務整理全般に関する専門的な知識が必要です。
弁護士に依頼すれば個人再生の複雑な要件を処理してくれるだけでなく、依頼をした段階で債権者からの返済督促もストップします。
借金問題の相談は無料、弁護士費用の分割払いにも対応してくれる弁護士は多いので、できるだけ早期に相談をして、生活再建のステップを歩み出してください。