個人再生に反対する業者の割合はおよそ3%程度と極めて少ない
自分の財産を残したまま債務整理できる「個人再生」。中には反対する業者も存在しますが、最高裁判所事務総局の「司法統計年報 令和5年」によると、その割合はおよそ3%程度とされています。
業者によって個人再生に反対されるケースは極めて少ないものの、反対されることが全くない訳ではありません。ただし、個人再生に反対される場合は、主に「再生計画案」に対してであり、債権者が再生計画案の提出自体を反対することはできません。
まず、個人再生の手続きには「小規模個人再生」と「給与所得者等再生」の2種類があります。「手続きが比較的簡単で、収入の安定性が必要ない」という理由で、前者が選ばれることが多いです。しかし、「小規模個人再生」では債権者が再生計画案に反対できるという特徴があります。一方で、「給与所得者等再生」は安定した収入がある人向けの手続きであり、債権者が反対することはできません。
個人再生手続きは、借金の整理を目指す上で有効な方法ですが、債権者からの反対の可能性を理解しておくことが大切です。債権者が反対する可能性が高いと判断される場合は、「給与所得者等再生」を選ぶことでリスクを回避する方法も検討すべきでしょう。
業者が反対し、個人再生が廃止されるケース
借入をしている複数の債権者のうち、どこか1社でも反対されたら個人再生ができなくなる、という訳ではありません。個人再生手続きが廃止される主なケースは、次の2つです。
- 債務総額の過半数を占める大口債権者が反対している場合
- 債権者の過半数が反対している場合
債権額の総額の過半数を占めるような大口債権者に反対をされる場合や、債権額に関わらず債権者の数が全体の過半数を超える場合に、個人再生を行うことができなくなります。
以下にて、それぞれ詳しく解説します。
債権総額の過半数を占める大口債権者が反対している
個人再生の手続きでは、再生計画案に対して債権者が反対できる場合があります。特に、大口債権者が反対する場合は注意が必要です。
例えば、あなたが5社に借入をしているとします。そのうち4社が再生計画案に賛成していても、残りの1社からの借入額が総額の過半数を占めている場合、その1社が反対することで個人再生の手続きが廃止される可能性があるのです。
このような事態を避けるために、個人再生を検討する際にはまず大口債権者の意向を確認することが大切です。手続きをスムーズに進めるには、再生計画案が提出される前に大口債権者と事前に話し合いましょう。
債権者の過半数が反対している
再生計画案が債権者の過半数に反対されると、個人再生の手続きが廃止されることがあります。仮に大口債権者が反対しなくても、複数の債権者が反対しているならば、再生計画案が通らずに手続きが廃止される可能性があります。
また、仮に5社から総額1,000万円の借入をしている場合、そのうちの3社以上が反対すれば、再生計画案は通りません。たとえ3社の借入額が500万円未満であったとしても、反対している債権者の数が過半数を占めることが条件です。この場合、各社の債権額は問題になりません。反対している債権者の数が多いため、個人再生手続きは廃止されます。
業者が個人再生に反対する理由
個人再生に反対する業者がいるのは、経済的なリスクを回避できるため、もしくは認可されない方が業者にとって利益が大きいためです。具体的には、以下のような理由で反対されることがあります。
- 業者が定める内部基準に抵触した
- ほとんど返済されておらず、不正が疑われる
- 借入時に虚偽の申告があった
- 一定の収入がある場合で、返済が多く見込める「給与所得者等再生」をして欲しい
個人再生が反対される背景には、業者にとっての経済的な理由があることが多いです。それぞれの理由について、以下で詳しく解説します。
業者の内部基準に抵触したから
業者が規定する内部基準に抵触すると、個人再生に反対される場合があります。内部基準は一般的には公開されていませんが、業者によっては個人再生に対して反対する方針を持っていることもあります。例えば、長期間にわたる取引実績がない場合や、特定の財務状況にある債務者に対して厳格な基準を設けている業者もあります。
特に近年では、取引期間が短いことを理由に反対するケースが増えていると言われています。これは、業者が債務者の信用情報や返済能力について十分なデータを持っていないため、リスクを回避するための対応と考えられます。
ほとんど返済されておらず、不正が疑われるから
ほとんど返済されておらず不正が疑われる場合、業者は個人再生に反対することがあります。これは、債務者が換金性の高い物を購入し、それを現金化してから個人再生の手続きを行うことで、債権者に不当な不利益を与える可能性があるからです。
例えば、高価な電化製品や貴金属などをクレジットカードで購入し、それらをすぐに売却して現金を得た後に、借金の返済をせずに個人再生の手続きを開始するケースが考えられます。こうした行為は不正行為とみなされる可能性が高く、業者はその疑いから個人再生に反対することがあるのです。
借入時に虚偽の申告があったから
借入時に虚偽の申告があった場合、業者が個人再生に反対する理由の一つとなります。貸付時には、業者は審査を通じて借り手の返済能力を確認し、返済リスクが少ないと判断した場合にのみ融資を行います。
しかし、もし借り手が虚偽の申告をしていた場合、業者は本来ならば貸し付けを避けるようなリスクを負うことになります。例えば、収入を偽って高く申告したり、他の借入を隠したりすることで、実際の返済能力を偽装していた場合が該当します。
虚偽の申告により融資を受けている場合、業者は借り手の信頼性を疑い、個人再生の手続きを反対する可能性があります。債権者は予想外のリスクを背負うことになり、不信感が増すのです。
一定の収入がある場合には給与所得者等再生をして欲しいから
給与所得者等再生は、給与が安定している人向けの手続きです。債権者にとっては、小規模個人再生より多くの返済を見込めます。そのため、給与所得社等再生をして欲しいために、小規模個人再生に反対するケースが考えられます。
給与所得者等再生には「返済総額が可処分所得の2年分を下回ってはいけない」という規則があります。これは、債務者の収入が高ければ高いほど、債権者に返済される金額も増えるということです。したがって、安定した収入がある債務者に対しては、業者が給与所得者等再生を求めることが一般的です。
実際、小規模個人再生で返済されるよりも、高い金額の返済を期待して反対していたと考えられるケースも存在します。小規模個人再生が失敗すると、給与所得者等再生に移行しますが、こちらの方が返済金額が大きくなる可能性が高いのです。
個人再生に反対する業者がいる場合の対処法
個人再生に反対されないよう、できれば事前に弁護士・司法書士に依頼して業者と交渉してもらうのがおすすめです。また、もし反対された場合も、不同意を取り下げてもらえれば再度申し立てができます。
しかし、それでも個人再生ができないこともあるでしょう。そのような場合の対処法として、以下の2つの方法があります。
- 反対されない「給与所得者等再生」に変更する
- 自己破産や任意整理を検討する
ただし、どちらの場合もデメリットがあるため、注意が必要です。以下で詳しく解説します。
反対されない「給与所得者等再生」に変更する
業者が個人再生に反対する場合、「給与所得者等再生」に変更する方法が有効です。安定した収入がある人向けの手続きである給与所得者等再生は、書面決議が必要ないため、債権者からの反対を受けるリスクがありません。
書面決議とは、債権者が再生計画案に対して書面で賛成または反対の意見を表明する手続きのことです。この手続きが不要であるため、給与所得者等再生では反対される心配がないのです。
また、給与所得者等再生には「可処分所得の2年分を下回ってはいけない」という規則があり、債権者により多くの返済が行われることが保証されます。そのため、債権者にとっても有利な手続きであることが多いです。
しかし、給与所得者等再生に変更する際には、小規模個人再生よりも返済額が大きくなる可能性があることに注意が必要です。特に、収入が高い場合には、その分返済額も増えるため、事前に返済計画を立てることが重要です。
自己破産や任意整理を検討する
業者が個人再生に反対する場合には、自己破産や任意整理を検討するのも一つの方法です。
自己破産は、法的に借金の返済義務が免除される手続きです。しかし、その代償として、7年程度はクレジットカードの作成やスマホ端末の分割契約ができなくなります。これは信用情報に「事故情報」として記録されるためです。
自己破産は、すべての借金をリセットできる一方で、信用情報に大きな影響を与えるため、慎重に検討する必要があります。
一方の任意整理は、弁護士が返済の見直しを業者に交渉し、借金を減額する手続きです。任意整理を行うと、返済額や返済期間を再調整することで、無理のない範囲で返済を続けることが可能になります。自己破産ほど信用情報に影響を与えず、比較的柔軟な対応が可能です。
個人再生に反対されてしまう場合には、このような代替策を検討することが有効な場合があります。メリットとデメリットのバランスを考慮し、必要に応じて弁護士や専門家に相談しながら最適な方法を選びましょう。
個人再生に反対する可能性がある業者
近年、個人再生に反対する業者が徐々に増えている傾向にあります。以下に該当する業者は、それぞれ個人再生に反対する可能性があります。
- 信用保証協会
- 消費者金融・クレジットカード会社などの貸金業者・保証会社
- 日本政策金融公庫のような政府系金融機関
- 共済組合
- 個人の債権者(友人・親族など)
ただし、どのケースでも必ず反対されるわけではなく、実際に反対されるかどうかは個別に専門的な判断が必要です。それぞれについて、以下で詳しく解説します。
信用保証協会
信用保証協会は、中小企業や個人事業主が金融機関から融資を受けやすくするためサポートを行う公的機関です。債務者が返済不能となった場合に、金融機関に代わって返済を行う「代位弁済」を行います。
代位弁済の原資は税金から賄われるため、信用保証協会が個人再生に反対する可能性があります。個人再生による減額がそのまま公的資金の損失につながることを懸念するためです。
中小企業や個人事業主が信用保証協会の保証を受けて融資を受け、その後返済不能になった場合、協会はその債務を肩代わりします。しかし、個人再生手続きによって返済額が減額されると、信用保証協会が負担する金額が増えることになります。これにより、税金の無駄遣いを防ぐために反対するというわけです。
消費者金融・クレジットカード会社などの貸金業者・保証会社
消費者金融やクレジットカード会社、保証会社などの貸金業者は、会社の内部規定や方針に基づいて決定を行うため、個人再生に対して厳しい態度を取ることがあります。特に、貸金業者は利益を優先する傾向があり、個人再生による返済額の減額が彼らの利益に直結するため、反対することが多いです。
また、銀行系カードローンの保証会社も同様に反対する可能性があります。保証会社は、借り手が返済不能になった場合に借金を肩代わりする役割を果たすため、個人再生による返済額の減額が保証会社にとっても損失になるからです。
貸金業者や補償会社からの借入の場合、信用保証協会と比べて個人再生に反対される可能性は低いと言えます。ただし、借入額が極端に高い場合やほとんど返済額してない場合は、反対される可能性が高まります。
日本政策金融公庫のような政府系金融機関
日本政策金融公庫(日本政策金融公庫)は、日本政府が設立した金融機関で、中小企業や個人事業主を支援するために融資を行っています。このような「政府系金融機関」は、国の経済政策の一環として、特定の業種や地域に対して低金利で融資を提供することで、経済の活性化を図る役割を担っています。
政府系金融機関が個人再生に反対する可能性があるのは、その資金が国民の税金で賄われているためです。個人再生手続きによって借金の返済額が減額されると、公庫が負担する金額が増え、その損失が最終的には税金から補填されることになります。
共済組合
共済組合とは、公務員や私立学校教職員を対象に、お互いに助け合うための保険制度を運営している組織です。組合員に対して生命保険・医療保険・年金などの共済サービスを提供しています。
共済組合が個人再生に反対する可能性がある理由の一つは、共済組合の資金が組合員の出資金や保険料から成り立っていることにあります。個人再生手続きによって返済額が減額されると、組合の財政に直接影響を及ぼし、結果として他の組合員に不利益が生じる可能性があるためです。
個人の債権者(友人・親族など)
個人の債権者、例えば友人や親族などが個人再生に反対する場合には、特有の理由が存在します。これらの債権者は、貸し手と借り手の間に個人的なつながりがあるため、感情的な理由から反対されることが多いです。
例えば、信頼してお金を貸した友人や親族が、個人再生によって借金の返済が減額されることに対して、感情的に反発することが考えられます。友人や親族は、借り手に対して個人的な期待や信頼を抱いていることが多く、それが裏切られたと感じる場合があるのです。
このような状況では、理性的な判断よりも感情が優先されることがあり、結果として個人再生に反対されることがあります。しかし、適切に説明し理解を求めることで、同意してもらえる可能性も十分にあります。
個人再生の手続き中に避けるべき行為
個人再生の手続き中には、以下に該当する行為は避けるべきです。
- 虚偽の申告・再生計画案を作成する
- 再生計画案の提出期限を守らない
- 特定の債権者への返済を優先する(偏頗弁済)
- 新たな借金を作る
- 履行テストを怠る
それぞれのポイントについて、以下にて詳しく解説します。
虚偽の申告・再生計画案の作成をする
個人再生の手続きを進める上では、収入・財産・借入額などの情報を正確に申告しなければなりません。万が一、虚偽の情報を基に再生計画案を作成・提出すると、申し立てが棄却されるだけでなく、「詐欺再生罪」に問われる可能性があるため、注意しましょう。
詐欺再生罪とは、債務者が再生手続きを悪用し、不当に利益を得る行為を指します。例えば、収入を実際よりも高く申告したり、隠し財産を申告しなかったりすることが該当します。このような行為は法律に違反し、厳しい罰則が科される可能性があります。
さらに、提出書類に不備や誤りがある場合、それを放置することもNGです。裁判所から「補正命令」が出された場合には、速やかに対応する必要があります。補正命令に応じないと、手続きが中断される可能性があるため、注意が必要です。
再生計画案の提出期限を守らない
手続きを滞りなく進めるためには、裁判所から提出を求められる書類を期限内に正確に提出することが不可欠です。特に、債務の減額後の返済額や分割回数などの具体的な計画を記載した「再生計画案」は、裁判所が手続きの継続を判断する上で最も重要な書類の一つです。
再生計画案の提出期限を守らない場合、手続きが廃止されるリスクが高くなります。提出が遅れると手続きに支障が生じ、個人再生自体が認められなくなってしまう可能性があるのです。
特定の債権者の返済を優先する
個人再生では「債権者平等の原則」が適用されます。このため、一部の債権者を優先して返済する「偏頗(へんぱ)弁済」は禁止されています。これを行うと、再生計画案が認められず、個人再生できなくなる可能性が高いです。
例えば、申立前に友人や親族からの借金や保証人が付いている借金、抵当権が付いた借金などを優先して返済する行為は、偏頗弁済に該当します。このような行為は、他の債権者に対して不公平であり、個人再生手続きの信頼性を損ないます。
また、「特定の債権者に偏頗弁済した」と認められた金額は、所有財産の総額(清算価値)に加算されるため、返済額が本来よりも高額になる恐れがあります。これにより、返済計画が破綻し、再生手続き自体が認められなくなるリスクが生じます。
新たに借金をする
個人再生を行う際には、民事再生法で定められたルールを守ることが求められますが、新たな借金を作ることはこのルールに反する行為です。これに違反すると、手続き自体が認められず、制裁を受ける可能性もあります。
再生計画案は、提出時点での借金を前提に作成されているため、手続き中に新たな借金をすると、その借金は計画案に含まれず、返済計画が狂ってしまいます。例えば、「手続き中だから少しぐらいなら借りても大丈夫だろう」「急な出費だから知り合いに借りればいい」と安易に考えて借金をすると、再生計画の認可に障害を生じさせるだけでなく、さらなる借金の負担が増えることになります。
さらに、悪質な申し立てとして判断される可能性もあります。無駄遣いや浪費も控えるべきです。個人再生の手続き中は、経済管理を徹底し、新たな借入は避けましょう。
履行テストをしない
履行テストとは、再生計画案を提出した後、裁判所が「この人は本当に返済できるのか?」を判断するために行うテストです。このテストは、通常3〜6か月間、指定された期日と振込先に再生計画で取り決めた金額を振り込むことで行われます。
履行テストに一度でも失敗すると、「実際の返済もできない」とみなされ、手続きが認められなくなる可能性があります。これは、手続きの信頼性を損なうだけでなく、個人再生自体が失敗するリスクを高める行為です。
履行テストは単なるテストではなく、実際の返済能力を証明する重要なものです。真剣に取り組まなければ、手続きが中止される可能性が高まります。したがって、履行テストの期間中は、決められた金額を確実に振り込むことが求められます。
まとめ
個人再生に反対する業者の割合は約3%程度と少ないですが、稀に再生計画案に反対されることがあります。個人再生の手続きには「小規模個人再生」と「給与所得者等再生」の2種類があり、後者は安定した収入がある人向けで、債権者の反対を受けることがありません。
業者が反対する理由としては、内部基準に抵触したり、不正が疑われる場合などがあります。反対された場合の対処法としては、「給与所得者等再生」に変更するか、自己破産や任意整理を検討することが有効です。
反対する可能性がある業者は、信用保証協会や消費者金融・クレジットカード会社などさまざまですが、それぞれのケースで反対されるかどうかは専門的な判断が必要です。
個人再生の手続きを検討する際は、事前に弁護士などの専門家に依頼し、計画的に進めることが重要です。もし反対された場合でも、不同意を取り下げてもらうことで再度申し立てが可能です。適切な対応と計画で手続きを進めましょう。
最短即日取立STOP!
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