完済から10年以上経っていても過払い金請求できるケース
過払い金は「最後に取引があった日から10年」で時効となり、請求できなくなってしまうことが一般的です。
しかし、なかには完済から10年以上経っていても、過払い金が請求できるケースもあります。主に以下のような場合です。
- 10年以上前に完済した借金と「一連」とみなされる借金がある場合
- 貸金業者による不法行為があった場合
次の項目から、それぞれのケースについて詳しく解説します。
1.10年以上前に完済した借金と「一連」とみなされる借金がある場合
借金を完済してから10年以上経っている場合でも、同じ貸金業者から再び借入をしたことがあるのなら、まだ過払い金を請求できる可能性があります。
ポイントは、10年以上前に完済した借金と「一連」とみなされる借金があることです。
たとえば、2008年12月1日に借金を完済したとします。この借金については、2018年12月1日が経過することで過払い金が時効となります。
しかし、完済後に急な出費があり、2009年10月に再び借入をして2010年11月25日に完済したとしましょう。
2008年12月1日に完済した借金と2010年11月25日に完済した取引が、一連の取引だとみなされた場合、時効は後者から10年となります。つまり、2008年12月1日に完済した借金について過払い金を請求したい場合は、2018年12月1日ではなく2020年11月25日が期限となるのです。
一連の借金とみなされるケースとは?
複数の借金に一連性が認められるかどうかは、以下のような要素から総合的に判断されると考えられます。
- 貸付と返済が反復継続しておこなわれた期間の長さ
- 完済から次の貸付までの期間の長さ
- 前の借金に関する契約書が返還されているか
- カードが発行されている場合には失効手続き(カードの返還)がおこなわれたか
- 完済から次の貸付までの期間に貸主と借主の間にやりとり(契約の更新や年会費などの支払いなど)があったか
- 後の借金に関する契約が締結された経緯
- 前後の借金において利率など契約条件に違いがあるか
- 貸付停止措置がなされていたか
一つの目安として、完済から次の貸付までの期間が半年以内なら一連の取引とみなされる可能性が高く、1年以上空いている場合は別々の取引と判断されることが多いと考えられます。
また、クレジットカードのキャッシングのように、1つの基本契約のもとに借入と返済を繰り返し、空白期間中にも年会費を支払っていたようなケースでは、一連の取引と認められる可能性が高いです。
一方で、貸金業者によっては完済から次の借入までに3ヶ月以上の間があくと、新しい契約番号が発行され自動的に別の取引として扱われる場合もあります。
なお、返済が滞ったことを理由に貸金業者から「貸付停止措置」が取られていた場合は注意が必要です。なぜなら、貸金業者から措置の実行日を時効の起算点とする主張がなされる可能性があり、主張されると大きな争点となるからです。
2.貸金業者による不法行為があった場合
借金を完済してから10年以上経っている場合でも、貸金業者による不法行為があった場合は、まだ過払い金を請求できる可能性があります。
貸金業者による不法行為があった場合の過払い金の時効は、最後に取引があった日から10年ではなく、民法第724条により「損害を知ってから3年」となるからです。
第七百二十四条 不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。
二 不法行為の時から二十年間行使しないとき。
引用元:e-Govポータル「民法第724条」
「最後に取引があった日から10年」と「損害を知ってから3年」では、後者の方が短いのでは?と思うかもしれませんが、両者には時効の起算点に違いがあります。
たとえば、最後に取引があった日が10年以上前であっても、損害(不法行為)を知ったのが今日であり、それが認められれば時効となるのは今日から3年後と考えられるのです。
ただし、不法行為がおこなわれたときから20年が経過した場合も、やはり過払い金は時効となってしまうため、最大でも遡れるのは20年前までである点に注意してください。
不法行為にあたる代表的なケース
貸金業者による不法行為の代表的な例は、以下のとおりです。
- 暴行や脅迫などを伴う督促行為
- 法的根拠がないことを知りながらおこなった請求
- 電話や訪問による督促を1日に何度もおこなう行為
- 深夜や早朝など非常識な時間帯の督促行為
とくに注目すべきなのが「法的根拠がないことを知りながらおこなった請求」が不法行為に該当するという点です。
「法的根拠がないことを知りながらおこなった請求」には、貸金業者が「過払い金が発生しており本来は支払うべき借金はないことを知りながら請求を続けた」ケースも該当する場合があります。
つまり、闇金などの違法業者ではない正規の貸金業者から借入をした場合であっても、不法行為があったとみなされる可能性もあるということです。
過払い金請求権の10年時効消滅に関してよくある誤解
過払い金の時効については、過去に間違った情報が広まったため「もう遅い・・・」と諦めている人もいるかもしれません。
そこで、この項目では「過払い金請求権の10年時効消滅に関してよくある誤解」を紹介します。
自身の過払い金請求権が本当に時効となっているのか、いま一度確認してみてください。
時効の起算日を「取引開始日」と思っている
時効のカウントダウンが始まる日を「起算日」といいます。
前述したように、過払い金は最後に取引があった日から10年で時効となるため、最後に取引があった日が時効の起算日となります。取引を開始した日ではありません。
もし、時効の起算日を間違えていると、必然的に時効となるタイミングも間違って認識している可能性があるため注意が必要です。
なお、時効の起算日は、借金を完済している場合は「完済日」返済中である場合は「最後に借入または返済をおこなった日」となることが一般的です。
貸金業者から最初に借入をした日である「取引開始日」が時効の起算日となることはない基本的にないため、注意してください。
2016年1月13日に時効が成立すると思っている
2006年1月13日に、最高裁判所で初めて過払い金の請求を認める判決が下され、過払い金の存在が広く世に知られるきっかけとなりました。
その後「過払い金は10年で時効」という言葉だけが独り歩きし、上記の判決から10年となる2016年1月13日にすべての過払い金について時効が成立するという間違った認識が広まったようです。
しかし、前述したように時効の起算日は「最後に取引があった日」なので、時効となるタイミングはケースによってさまざまです。すべてのケースにおいて、一斉に時効を迎えることはあり得ないので注意しましょう。
2020年6月18日に時効が成立すると思っている
2010年6月18日に、改正貸金業法が完全施行され、それ以降は利息制限法の上限を超える金利で貸付をおこなう業者はなくなったとされています。
そのため、改正貸金業法の完全施行から10年となる2020年6月18日に、過払い金の時効が成立するという情報が広まりました。
しかし、前述したように時効の起算日は「最後に取引があった日」なので、時効となるタイミングはケースによってさまざまです。すべてのケースにおいて、一斉に時効を迎えることはあり得ないので注意しましょう。
過払い金の時効起算日を正確に調べる方法
貸金業者と取引をしていたのが何年も前で、過払い金の時効起算日がわからなくなっている人もいるでしょう。
そこで、この項目では「過払い金の時効起算日を正確に調べる方法」について詳しく解説します。主な方法は、以下の3つです。
- 貸金業者から送られてくる郵便物を確認する
- 信用情報の開示をおこなう
- 取引履歴の開示請求をする
次の項目から、それぞれの方法について詳しくみていきましょう。
1.貸金業者から送られてくる郵便物を確認する
貸金業者から送られてくる郵便物が手元に残っている場合は、その郵便物から過払い金の時効起算日を調べられる可能性があります。
貸金業者から送られてくる督促状や催告書などの中には「いつ・いくら借入や返済をおこなったか」過去の取引履歴を記した書類が同封されている場合があります。
このような書類が手元に残っている場合は、最後に借入または返済した日、つまり過払い金の時効起算日が容易に調べられるでしょう。
2.信用情報の開示をおこなう
もし、貸金業者から送られてくる郵便物をすべて処分してしまい、手元に何も残っていない場合は、信用情報機関へ問い合わせて信用情報の開示をおこなうとよいでしょう。
信用情報・・・ローンやクレジットカードの借入金額や支払状況、滞納の有無などについて記録された情報。
信用情報には、どの貸金業者で「いつ・いくら借入や返済をおこなったか」といった情報が記録されています。
そのため、過払い金が発生している貸金業者で最後に借入または返済した日、つまり過払い金の時効起算日が容易に調べられるでしょう。
なお、信用情報開示の方法については以下の記事で詳しく解説していますので、併せて参考にしてください。
3.取引履歴の開示請求をする
貸金業者から送られてくる郵便物が手元に残っていない場合、取引履歴の開示請求をすることでも過払い金の時効起算日を調べられます。
取引履歴には「いつ・いくら・何%の金利で借入をしたか」「いつ・いくら返済したか」といった情報が記録されているため、過払い金の有無や金額、時効となるタイミングの目安を知ることが可能です。
取引履歴は、貸金業者から直接取得します。直接店舗へ出向くか、電話・メールなどで請求するとよいでしょう。また「取引履歴開示請求書」を本人確認書類(運転免許証・パスポートなど)のコピーと一緒に送付すれば、FAXや郵送などでも請求可能です。
なお、貸金業者によっては取引履歴の発行に1,000円程度の手数料を設けていることもあるので注意してください。
取引履歴の開示請求は弁護士・司法書士に依頼するのがおすすめ
貸金業者には取引履歴を開示する義務があるため、基本的には請求に応じてくれます。
ただし、個人で取引履歴の開示請求をおこなう場合、貸金業者によっては理由をつけて開示のタイミングを遅らせたり、すべての情報を開示してくれないこともあるため注意が必要です。
時効となる前に取引履歴の開示請求をおこなったとしても「取引履歴の開示に手間取り気づいたら過払い金が時効となっていた」という事態に陥る恐れもあります。このような事態を防ぎたい場合は、弁護士や司法書士に依頼して開示請求をおこなってもらいましょう。
貸金業者は弁護士や司法書士から依頼された案件を優先して処理する傾向があるため、弁護士や司法書士に依頼したほうがスムーズに取引履歴を開示してもらえる可能性が高まります。
>>【取引履歴の開示請求可】弁護士・司法書士への無料相談はこちら
過払い金が時効になるまでの期間を計算する方法
過払い金は「最後に取引があった日から10年」で時効になるとお伝えしましたが、じつは過払い金が時効になるまでの期間は借金を完済した時期によって異なる可能性があります。
これは、2020年4月1日に改正民法が施行され、過払い金などの債権について時効が成立する条件が新たに追加されたことが原因です。
次の項目から、状況別に「過払い金が時効になるまでの期間を計算する方法」について詳しくみていきましょう。
2020年3月31日までに最後の取引があった場合
2020年3月31日までに最後の取引があった場合は、改正前の旧民法が適用されます。
そのため、過払い金が時効となる条件は「最後に取引があった日から10年」が経過した場合のみです。
2020年4月1日以降に最後の取引があった場合
2020年4月1日以降に最後の取引があった場合は、改正民法が適用されます。
改正民法第166条1項により、過払い金が時効となる条件は以下のように定められています。
第百六十六条 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
引用元:e-Govポータル「民法第166条1項」
つまり、過払い金の時効は、以下のうち該当するほうの期間、どちらにも該当する場合は短いほうの期間で成立することになるのです。
- 過払い金を請求する権利があると知った日から5年
- 最後に取引があった日から10年
ただし、過払い金を請求する権利があると知った日を時効の起算日とする場合、その時効起算日がいつになるかは貸金業者側が立証する必要があります。
そして、債務者が以下のような行動を起こさない限り、立証することは難しいと考えられるのです。
- 貸金業者に対して取引履歴の開示請求をした
- 貸金業者と過払い金の返還について交渉した
逆にいえば、2020年4月1日以降に最後の取引があった借金について、貸金業者に対し何らかのアクションを起こしていると、その5年後に時効が成立してしまうリスクがあるため注意しましょう。
過払い金の時効が迫っているときの対策
過払い金を取り戻したい場合は、時効となる前に請求の手続きをおこなわなければなりません。
もし、取り戻したい過払い金について時効が間近に迫っている場合には、以下のような方法で対策するとよいでしょう。
- 貸金業者へ過払い金返還請求書を送付する
- 裁判所へ支払督促を申し立てる
- 裁判所へ過払い金返還請求訴訟を申し立てる
次の項目から、それぞれの対策について詳しく解説します。
貸金業者へ過払い金返還請求書を送付する
貸金業者へ過払い金返還請求書を送付することで、時効が成立するまでの期間を6ヶ月間延長することが可能です。
過払い金返還請求書・・・取引履歴をもとに払いすぎた利息の金額を計算し、貸金業者に返還請求をおこなうための書類。
過払い金返還請求書は、後に裁判となったとき証拠として利用するため、文書の内容やいつ貸金業者が受け取ったのかを証明できる「内容証明郵便」で送付しましょう。
ただし、過払い金返還請求書の送付により時効成立までの期間を延長できるのは1回のみで、過払い金返還請求書を送れば何度でも6ヶ月間の延長ができるわけではないので注意してください。
また、過払い金返還請求書を作成するには貸金業者から取引履歴を取り寄せ、引き直し計算をおこなう必要があります。個人でおこなうことも可能ですが、作成期間中に時効が成立してしまうリスクを避けるためには、弁護士や司法書士に依頼して作成してもらうほうが安心です。
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裁判所へ支払督促を申し立てる
支払督促とは、裁判所から貸金業者へ督促状を送ってもらい、過払い金を請求する手続きのことです。
裁判所へ支払督促を申し立てると、裁判所が受理した時点で時効の進行が止まり、判決が確定した後には時効が成立するまでの期間がリセットされます。
ただし、支払督促を申し立てるには過払い金の正確な金額を調べる必要があるため、過払い金返還請求書の場合と同じように取引履歴の取り寄せや引き直し計算が必要です。
くわえて、申し立ての手続きや裁判所へ提出する書類の準備も必要なので、時効成立まで時間がない場合は、まず過払い金返還請求書を送付して時効成立までの期間を延長するとよいでしょう。
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裁判所へ過払い金返還請求訴訟を申し立てる
過払い金返還請求訴訟とは、過払い金の返還を求める裁判上の手続きのことです。裁判官が契約内容などを考慮し、貸金業者に過払い金を支払う義務があるかどうかを判断して判決を下します。
裁判所へ過払い金返還請求訴訟を申し立てた場合も、裁判所が受理した時点で時効の進行が止まり、判決が確定した後には時効が成立するまでの期間がリセットされます。
なお、過払い金返還請求訴訟は通常訴訟と少額訴訟に分かれており、少額訴訟なら通常訴訟よりも手続きが簡易的で、かつ1日で判決が出るため短い期間で手続きが終了します。
ただし、少額訴訟が利用できるのは、請求額が60万円以下の場合のみです。請求額が60万円を超える場合には、判決まで早くても2ヶ月〜半年ほど期間を要する通常訴訟が必要です。
また、過払い金返還請求訴訟を申し立てる場合も、過払い金の正確な金額を調べる必要があり、取引履歴の取り寄せや引き直し計算が必要です。
くわえて、申し立ての手続きや裁判所へ提出する書類の準備も必要なので、時効成立まで時間がない場合は、まず過払い金返還請求書を送付して時効成立までの期間を延長するとよいでしょう。
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まとめ
過払い金の時効は、最後に取引があった日から10年で成立することが一般的です。
ただし「10年以上前に完済した借金と一連とみなされる借金がある」「貸金業者による不法行為があった」などの場合には、完済から10年以上経っていても過払い金を請求できる可能性があるので注意してください。
過払い金の時効が成立するには複数の条件があり、個人が自力で判断するのは難しいのが現実です。
「もう遅い・・・」と自分の判断で諦めてしまわず、まずは弁護士や司法書士の無料相談を利用して、過払い金を請求できる可能性がないか確かめてみるとよいでしょう。
過払い金の時効についてよくある質問
完済から10年以上経っていても過払い金請求できるケースはある?
過払い金は「最後に取引があった日から10年」で時効となり、請求できなくなってしまうことが一般的です。しかし、なかには完済から10年以上経っていても、過払い金が請求できるケースもあります。
完済から10年以上経っていても過払い金請求できるケースとはどのようなケース?
・10年以上前に完済した借金と「一連」とみなされる借金がある場合
・貸金業者による不法行為があった場合
上記のようなケースでは、完済から10年以上経っていても過払い金請求できる可能性があります。
過払い金の時効起算日はいつ?
過払い金の時効起算日は「最後に取引があった日」です。
過払い金の時効起算日を正確に調べる方法は?
・貸金業者から送られてくる郵便物を確認する
・信用情報の開示をおこなう
・取引履歴の開示請求をする
などの方法で過払い金の時効起算日を正確に調べることが可能です。
過払い金の時効が迫っているときの対策は?
過払い金の時効が迫っているときは、以下のような対策をおこない時効期間を延長・リセットするとよいでしょう。
・貸金業者へ過払い金返還請求書を送付する
・裁判所へ支払督促を申し立てる
・裁判所へ過払い金返還請求訴訟を申し立てる
最短即日取立STOP!
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