熟年離婚とは
熟年離婚に法律上の定義はありませんが、1つの目安として、婚姻期間が20年以上の夫婦が離婚することとされています。
実は離婚全体の件数のうち2割以上が熟年離婚であり、熟年離婚は珍しいものではなくなりました。
- 20年以上寄り添った夫婦が離婚することとされている
- 実際に離婚件数の21.66%が熟年離婚している
以降では、上記の2点についてもう少し深堀りして解説します。
20年以上寄り添った夫婦が離婚することとされている
熟年離婚は、例えば50歳以上の新婚夫婦が離婚したからといって必ずしも当てはまるものではなく、一般的には婚姻期間の長い夫婦が離婚することを指しています。離婚時の年齢ではなく、婚姻期間に注目した言葉です。
その婚姻期間の目安が、一般的には20年といわれています。もちろん、婚姻19年目での離婚が熟年離婚には該当しないといった厳格な線引きをすることに意義はありません。連れ添ってきた(寄り添ってきた)夫婦であるかどうかも同様です。
実際に離婚件数の21.66%が熟年離婚している
厚生労働省の人口動態統計(確定数)によると、2023年の離婚件数は、18万3,814件で、そのうち同居期間20年以上の夫婦は3万9,810件でした。
同居期間20年以上の離婚を熟年離婚とすると、2023年の離婚件数全体に対する熟年離婚率は約21.66%といえます。
なお、同統計によると平均同居期間は2013年で11.1年、2018年で11.6年、2023年で12.6年と、離婚する夫婦の平均同居期間はわずかながら長期化傾向にあるようです。
離婚はほとんどが熟年離婚とまでは言えませんが、少なくとも、熟年離婚はそう珍しいものではありません。
参照:令和5年(2023)人口動態統計(確定数)第10.5表「年次別にみた同居期間別離婚件数及び百分率並びに平均同居期間」(厚生労働省)
熟年離婚のメリット
熟年離婚のメリットには、以下のメリットがあります。
- 長年のストレスから解放される
- 相手や義父母の介護をしなくていい
- 自分の時間を確保できる
- 相手の親族との関わりを切れる
- 子どもや孫との関係を改善できる可能性がある
- 新たに恋愛できる
- モラハラ・DVから解放される
夫婦の実態はどうであれ、長い婚姻期間に終止符を打つことは、そう気軽にできるものではありません。
しかし、熟年離婚では配偶者に対する多くのストレスから解放されるほか、新たな恋愛など自分の時間を確保することにも繋がります。
デメリットは後述しますが、まずはメリットについて詳しく紹介します。
長年のストレスから解放される
熟年離婚の大きなメリットは、以下のような長年のストレスから解放されることです。
- 家事や子育てをやってくれない
- 金銭感覚が合わない
- 顔を見なくてすむ
- 喧嘩でイライラすることがなくなる
熟年離婚経験者へのアンケート調査でも、「喧嘩が絶えず、顔を合わせると互いに罵倒しあうようになっている」「価値観の違いが我慢できないくらい大きくなっていた」と回答した方がいました。
特に、相手が浮気・不倫をしたことを知りながら今までどおりの生活を継続することは困難でしょう。定年退職後に夫婦で過ごす時間が長くなったことに不満を持つ方もいらっしゃいます。
なお、アンケート調査では、熟年離婚のメリットとして男性が「金銭面で楽になった」と回答した割合が30%ありました。男性にとって、金銭面の負担(ストレス)からの解放は、小さくないメリットだといえます。
ただし、未成熟子がいれば、離婚したからといって養育費の支払義務がなくなるわけではありません。財産分与や年金分割の問題も生じえます。
相手や義父母の介護をしなくていい
離婚後は、相手やその父母に対して介護をする必要はありません。離婚後は親族関係は解消され、他人となるからです。
介護には、大きな経済的、精神的、肉体的負担がかかります。介護を通じて配偶者の配慮が欠けていると感じることもあり、このことが夫婦仲を悪化させる原因になっている可能性もあるでしょう。
また、ご自身の父母ではなく、義両親の父母の介護をすることに積極的になれない方も少なくありません。
現在、そして将来起こりうる介護という大きな負担からの解放は、離婚の大きなメリットです。
自分の時間を確保できる
自分の時間を確保できることも、離婚によるメリットです。実際、アンケート調査でも熟年離婚のメリットについて、男性から以下のような回答がありました。
- 自分の時間を有意義な仕事と娯楽などに専念することができる
- 自分の時間を自由に過ごせるようになった
- 人のために生活しなくてよくなった
- 離婚前よりも自分の人生に向き合えるようになった
女性からの回答は以下のとおりです。
- 家の仕事が主になって自分の時間を確保できないから、別れて自分時間を増やした
- 自分のために時間を使えること
- 自分1人の生活なので時間的余裕が多くでき、週末に友人や同僚と出かけることが多くなり、毎日が楽しくなりました
- 家事は全部やっていたので自分の時間が一切なかったが自由になった
離婚で配偶者や家族のために縛られた時間から解放され、自分のために自分の好きなことをやる時間を確保できると、毎日が楽しくなります。
相手の親族との関わりを切れる
離婚すると、相手の親族との関わりを切ることもできます。前述した介護からの解放はもちろん、もう相手の親族と関わる必要がないことは、場合によっては大きなメリットといえます。
実際に、アンケート調査では熟年離婚のメリットとして次のような回答がありました。
- 義理の両親とは不仲だったのでもう関わらなくて良いんだと思ったらとても楽になりました
- 義母からの束縛から離れ、自由になりました
- 相手の親戚との付き合いがなくなるので精神的に楽になりました
- 夫側の苦手な親戚がいたので無理に付き合わなくても良くなったことです
子どもや孫との関係を改善できる可能性がある
離婚で子どもや孫に嫌な思いをさせてしまわないかと不安を抱える方も少なくありませんが、反対に、親子関係が改善する可能性もあります。
夫婦関係が悪い家庭では、子どもや孫もその険悪な雰囲気を感じ取り、嫌な思いをしているはずです。特に父母の喧嘩が多く、お互いに罵倒し合うような状態では、子どもや孫の心身の発達にも悪影響を及ぼしている可能性を否定できません。
離婚することで子どもや孫との時間や精神的な余裕ができ、関係の改善につながったケースもあります。
- 妻のわがまま、暴言、浪費については子どももよく理解していて、子ども自身も被害を受けていたこともあったので、自分のためにも、子どものためにも、相手と距離を取ることができて良かった
- 親子の会話が増えた
- 子供が遠慮しなくなった
- 自立したはずの下の子が、離婚を機に 一緒に住んでくれている
- 子供達3人との触れ合いが既婚時より、はるかに多くなり、親子の信頼関係は確固たるものになった
離婚による子への悪影響を無視することはできませんが、離婚が必ずしも子どもに悪影響を与えるとは限りません。
新たに恋愛できる
新たな恋愛ができることも、離婚のメリットといえます。
離婚してすぐに新たな恋愛をすることを想定している方もいらっしゃるでしょう。50代以上でも、実際に離婚を機に新たな恋愛を始めて楽しい日々を送っている方は多くいます。
離婚のことばかり考えて精神をすり減らす毎日より、新たな恋愛で気分をリフレッシュしたほうが自分のためになるはずです。
アンケート調査でも、以下の意見が寄せられていました。
- 若い女性と付き合えるようになった(男性)
- 若い子と公然と付き合えるようになった(男性)
- 夜も、面倒を見る人も咎める人もいないので若い方達と出かける事が自由にできる様になった(女性)
- 異性との交友関係も問題なく、気兼ねなく人生を楽しく過ごせる様になった(女性)
熟年離婚を機に、異性との恋愛や交友関係を広げてみるのも悪いことではありません。
モラハラ・DVから解放される
長年、モラハラやDVを受けていた場合、離婚によりこれらの行為から解放されます。
モラハラやDVを長年にわたって耐え続けることは容易ではありません。しかし、子どもを育てる経済面や子どもの精神面を考慮して、離婚せずに夫婦関係を継続する方もいます。
アンケート調査で、モラハラ・DVからの解放を熟年離婚のメリットとして挙げた方の回答は以下のとおりです。
- モラハラからの解放は、凄く楽になりました
- 暴言を繰り返すいわゆるモラハラ夫だったため、離婚したことによって精神的に非常に健康になれた
- 安心して生活できるようになった
- 夫の顔色を伺う生活から解放された。
- つきものが取れたように気持ちが自由になりました
- こんなに精神的な負担がない生活をして良いのかと感じるぐらい、ストレスフリーになっている
モラハラ・DVがある場合は、離婚の検討を進める必要性が高いといえます。
熟年離婚のデメリット
熟年離婚には、メリットだけでなく以下のようなデメリットもあります。
- 介護をしてくれる人がいなくなる可能性がある
- 孤独感を感じることがある
- 家事の負担が増える
- 生活が苦しくなってしまう
- 世間体が気になる
メリットだけでなくデメリットも把握して対応を検討することが、より良い選択をするためのポイントです。
介護をしてくれる人がいなくなる可能性がある
離婚すると、介護をしてくれるはずの存在である配偶者がいなくなるため、他に任せられる親族がいない場合は介護をしてくれる人がいなくなってしまいます。
身寄りがない場合は、介護が必要になった時に、介護サービスを利用できるほどの資金を確保しなければなりません。
もっとも、そもそも介護をしてくれると期待できないような配偶者である場合などは、離婚によるデメリットとはいえない可能性もあります。
孤独感を感じることがある
離婚で配偶者や子と離れると独り身となり、孤独感を感じる可能性があります。今まで当然であった存在が急になくなることは、想定以上にさみしいものです。
配偶者は、日常の家事や経済面など、自分を支えてくれた存在だったかもしれません。別れてからわかる相手のありがたみというものもあります。
関係性次第ですが、一般的には離婚後に頼るわけにもいかないので、体調を壊した時や落ち込んだ時、困った時などに寂しさや不安が大きくなることもあるでしょう。
たとえ日中は仕事をしていて寂しさを感じない場合でも、夜中には孤独で寂しさを感じるかもしれません。定年退職後も、社会とのつながりがなくなることで今までにない孤独を味わう可能性があります。
孤独を感じないためには、離婚・退職後も趣味や地域コミュニティへの参加などを通じて、社会とのつながりを確保するといった対応が必要です。
アンケート調査では、熟年離婚を実際に経験してどうだったかとの問いに対し、以下のように多様な回答がありました。
- 離婚をした後の孤独感が強いイメージがありましたが、孤独感を感じる事はあっても解放的な気持ちの方が強かったですし、熟年離婚でも新しくスタートを切れたような、清々しい気持ちになりました
- メンタル面で結構ショックを受けるかと思っていましたが、意外とダメージはなくむしろさわやかに新たなスタートを切れました
- 実際は、1人になって結構気が楽で毎日楽しく日々を過ごせています
- 寂しい、暗い、みじめ。
- 配偶者から捨てられるイメージがあり、まさにその通りだった
- なんとなく寂しいイメージがありましたが実際は開放感があって良かったです
- 想像通りの孤独です。思っていたより自由を満喫していますが、寂しさは拭えません
- 暗いイメージがありましたが、思ったよりさみしくなかったです
- 寂しくなるかと思いましたが、いざしてみたら孤独はそれほど感じませんでした。
- 喪失感は思った以上に感じた
- 自由になると思っていたが実際いなかったらいないで寂しい
感じ方は人によって異なるようですが、離婚後、どのような生活をするかが重要な要素といえるかもしれません。
家事の負担が増える
配偶者に家事を任せていた場合には、任せていた分、離婚後は家事の負担が重くのしかかります。自分自身では家事を手伝っている気になっていても、実際にやることはさらに多くあるものです。
アンケート調査では、熟年離婚によるデメリットとして家事が大変になったと回答した割合は男性が30%、女性は4%でした。具体的な回答は以下のとおりです。
- していなかったことを自分でしないといけなくなった
- 干した後に畳む作業が大変で、部屋の中に洗濯物が干しっぱなしになっています
- 家事を全面的に一人でするようになってからは今までより時間がかかって忙しくなった
- 家事が大変でストレスがたまります
- 洗濯物が溜まり、家の至る所に埃が溜まっている
洗濯物がたまってしまうといった悩みは、複数の熟年離婚経験者が言及していました。
料理、掃除、洗濯など、離婚後にすぐ今までの生活と変わらないようにできる方は少ないかもしれません。家事ができないままだと偏った食事となり、部屋が散らかるなど生活の質が落ちてしまいます。
このような状態では、離婚後の孤独感や不安も増してしまうでしょう。急にすべての家事をうまくこなせるようになるわけではないので、1つずつできることを増やせるよう、前向きにチャレンジする姿勢が大切です。
生活が苦しくなってしまう
離婚後は、金銭面で生活を支えてくれた配偶者がいなくなるため、生活が苦しくなることがあります。アンケート調査では、熟年離婚によるデメリットとして「金銭面で不安が出てきた」と回答した方が男性で4%、女性で24%いました。
男性は離婚後に家事で困るケースが多い反面、女性は離婚後に金銭面で困るケースが多いようです。具体的には以下のような回答がありました。
- 節約しないといけない状況になった
- 収入はかなり減ったので老後の心配はあります
- 補ってもらっていた部分が無くなった
- 自分の収入だけで生活していかないといけなくなった
- 生活費をもらえない
- 相手からの生活費がなくなるため、働いて自分で稼いで生活しなくてはならない負担がある
- 家を準備する必要がある
夫に収入を支えてもらっていた場合、生活のためには自分自身で収入を確保し、生活していかなければなりません。生活水準も今までと同じようにはいかず、節約を強いられることもあります。
特に離婚で家を出ていかなければならず、実家に戻れない場合は深刻な問題です。
ただし、離婚後の生活費は女性だけの問題ではありません。男性も、元妻から養育費や財産分与、年金分割を請求され、生活が苦しくなることもあります。
金銭面の問題への対応方法は、「熟年離婚を後悔しないためのポイント」や「熟年離婚をするための準備」の章で解説します。
世間体が気になる
熟年離婚で、親戚やご近所、友人、職場など他人の目が気になることがあります。
アンケート調査では、世間体が気になって離婚をためらった方は男性が12%、女性が13%でした。また、熟年離婚について「世間体が悪い」というイメージを抱いていた方も少なくありません。
たしかに、熟年離婚は現代においてそう珍しいものではありませんが、実際にその立場になると世間の目が気になることがあります。
世間体について気になっていた方が、実際にどうだったかについて回答した結果は、以下のとおりです。
- 実際にはなにもなかった(男性)
- 職場の人にとっては特段変わらないように映っていたようで、さほど世間体も気にならなかった(男性)
- 離婚が多くなってきたので世間体も全く影響がなかった(女性)
世間体については、離婚後に実際に気になったと回答した方はいませんでした。
離婚するのであれば、新たなスタートとして離婚を前向きに捉えると良いかもしれません。
熟年離婚の原因
熟年離婚の経験がある男性99人、女性103人の合計202人に調査を行ったところ、離婚したいと思った原因のトップ5は以下のとおりでした。
- 性格の不一致(25%)
- 不倫された、不倫した(16%)
- 相手もしくは自分の暴言(10%)
- 相手もしくは自分の借金(7%)
- 義両親との問題/性的な不調和(6%)(同率)
熟年離婚の原因は性格の不一致が最も多く、不倫、暴言、借金と続いています。ちなみに、裁判所の司法統計においても、婚姻関係事件の申立ての動機は「性格が合わない」が最も多い結果でした。
参照:令和5年司法統計年報(家事編)第19表(最高裁判所)
また、熟年離婚の「きっかけ」は、男女ともに「子どもが自立した」が半数以上を占めています。
一度婚姻しても、婚姻期間を経るごとに性格の不一致が深刻化し、子どもが自立するまでは離婚を踏みとどまってはいるものの、子どもの自立をきっかけに離婚を進める夫婦が少なくないようです。
なお、義両親との問題と回答した割合は男性が3%に対し女性は10%、両親との問題と回答した割合は男性が6%に対し女性は1%という結果でした。この点は男女差が出ている部分といえ、妻と夫側の両親との関係性、これに対する夫の対応も少なからず影響しているのかもしれません。
熟年離婚を後悔しないためのポイント
熟年離婚を後悔しないためのポイントは、以下の5つです。
- 離婚のメリット・デメリットを理解する
- 相手としっかり話し合いをする
- 離婚後の生活資金をどうするか考える
- 相手との連絡手段は残しておく
- 子どもや孫との関係を良好にしておく
熟年離婚をした後、離婚について後悔をする人としない人に分かれています。後悔しない熟年離婚とするために、ぜひご確認ください。
なお、熟年離婚で後悔しないための対処法は以下の記事でも詳しく解説しています。
離婚のメリット・デメリットを理解する
熟年離婚を検討する際、後悔しないためには、熟年離婚のメリット・デメリットをよく理解することが大切です。
熟年離婚は性格や親族関係、モラハラ、DVといったストレスから解放されるなどのメリットがあるものの、孤独や生活の負担増を感じるといたデメリットもあります。
仮に全く家事をせず収入も安定していない状態でメリットだけを見て離婚すると、生活がうまく回らず、熟年離婚を後悔するかもしれません。反対に、離婚後も金銭面や家事の懸念はなく、ただDVやモラハラから解消されたい場合には、メリットのほうが大きいといえるでしょう。
ぜひ本記事で紹介したメリット・デメリットをよく把握し、熟年離婚の選択に後悔はないか慎重に検討してください。
相手としっかり話し合いをする
愛想を尽かした相手でも、パートナーとして長年一緒にいた配偶者と話し合いもせず、一方的に別居や離婚を進めることは避けるべきです。
道義上の理由はもちろん、法律上も相手の意思に反して別居を強行したり、家事や金銭面の協力を怠ったりするのは良いことではありません。
離婚しないまま同居や協力をしないと、悪意の遺棄という違法行為に該当し、慰謝料を請求される原因になります。
離婚後の生活資金をどうするか考える
離婚後は生計が別になるのが通常なので、独立した生計においても生活が困窮しないよう、生活資金を確保しなければなりません。
配偶者の資産や収入がなくても生活が成り立つのかどうか、住居にかかる費用や外食が多くなる可能性、仕事探しにかかる期間、現在の預貯金額などの要素を考慮して検討しましょう。
なお、離婚時に配偶者に対して請求できる金額は、漏れなく請求することが大切です。具体的には以下のようなものがあります。
離婚時に請求できるもの
項目 |
内容 |
注意点 |
慰謝料 |
不貞行為やDVなどの不法行為で生じた精神的苦痛について賠償を請求するもの |
相手が支払いや事実を認めなければ証拠が必要 |
養育費 |
離婚後の未成熟子の生活費や教育費、医療費などについて分担を請求するもの |
早めに請求すること |
婚姻費用 |
婚姻中の生活費などについて分担を請求するもので、養育費相当額を含む |
早めに請求すること |
財産分与 |
夫婦が協力して取得・維持した財産を衡平に分ける |
オーバーローンの不動産や退職金について話し合いがまとまらないことが多い |
年金分割 |
夫婦で婚姻期間中の標準報酬(厚生年金)を通常半分ずつ分ける |
年金事務所での手続きが必要 |
反対に、離婚時には慰謝料や養育費、婚姻費用、財産分与、年金分割を請求される可能性がある点には注意が必要です。
熟年離婚では、慰謝料の算定においては長く築いてきた婚姻関係を破壊されたことでその損害(精神的苦痛)は大きいと考えられる場合があるなど、慰謝料の金額が高くなる可能性があります。
また、熟年離婚の財産分与や年金分割は、婚姻期間が短い夫婦と比べ、築いた財産や積み上げた標準報酬(記録)は高額になりがちです。
請求できたのに請求せず時効が完成して請求できなくなるといった事態に陥らないよう、もらえるお金は忘れずに請求しましょう。
相手との連絡手段は残しておく
離婚後も、相手との連絡手段は残しておくことをおすすめします。
もちろん、離婚するからには電話番号やメールアドレス、SNSアカウントといった連絡手段をすべて消すといった考えもあるでしょう。
しかし、相手は長年にわたって配偶者として婚姻関係を継続してきた人です。他に同じように支えてくれる人がいることは稀でしょう。
将来、自分が大きな病気や怪我をして誰かを頼らざるを得なくなったとき、配偶者としてではなくても、支え合える関係性を維持できるのが理想です。
2人の間に子がいるときはなおさら、子の利益を図るために父母が協力することは、父母間の関係にかかわらない親としての法律上の義務でもあります。
父母は、婚姻関係の有無にかかわらず、子に関する権利の行使又は義務の履行に関し、その子の利益のため、互いに人格を尊重し協力しなければならない。
引用元 令和6年法律第33号による改正後の民法第817条の12第2項
DVやモラハラがある場合はこの限りではありませんが、無理に連絡手段をすべて消す必要性はありません。
一時の感情ではなく、長期的な視点で慎重に判断しましょう。
子どもや孫との関係を良好にしておく
熟年離婚する際は、子どもや孫との関係を良好にしておくことも大切です。
熟年離婚では、離婚後に子どもや孫の家に一緒に済ませてもらうケースも少なくありません。自分自身に介護が必要になったとき、配偶者がいなければ頼れるのは子どもや孫だけといった場合もあります。
配偶者との関係が解消したのであれば、子どもや孫との時間をつくる余裕も出てくるかもしれません。これまで以上に、子どもや孫との関係構築・維持のために時間をかけることも有効です。
熟年離婚をするための準備
熟年離婚をする際は、以下のような離婚の準備を怠らないことが大切です。
- 相手の財産調査
- 別居
- 遺言書の作成
- 契約関連の変更
- 慰謝料請求のための証拠集め
- 心身の健康の維持
- 弁護士への相談
なぜこのような準備が大切なのか、理由を詳しく解説するので参考にしてください。
熟年離婚の準備については、以下の記事でも詳しく解説しています。
相手の財産調査
離婚時には、財産分与や養育費・婚姻費用、慰謝料など請求できるお金があることは前述のとおりです。
財産分与では、相手が持っている財産を開示しなければ、適切な財産分与を実現できません。財産を隠し、財産分与を免れようとする人もゼロではないのが現実です。
また、仮に協議や調停、審判、訴訟で養育費・婚姻費用や慰謝料の請求が認められたとしても、相手の財産がわからなければ最終的な支払いを受けられる可能性は低くなります。
相手が任意に支払わない場合は強制執行(一般に差し押さえ)の手続きを選択する余地はあるものの、財産がわからなければ強制執行の手続きは進められません。
特に熟年離婚では夫婦が築いてきた財産が高額なケースもあるため、不利益を受けないために財産の調査が大切です。少なくとも、預貯金については金融機関と支店名を把握しましょう。
退職金については、退職金規定がある場合にはその内容を把握するのが理想です。
別居
性格が合わない、配偶者の親族と接したくない、家事や育児に非協力的であるなど、裁判で離婚が認められるのが難しい場合は、離婚をするために別居期間をつくるという方法があります。
確実ではありませんが、別居期間が長期にわたっていると、実質的に婚姻関係が破綻している、または婚姻関係を継続し難い重大な事由があるといえ、裁判で離婚が認められる可能性があるからです。
もっとも、一方的な別居は前述のとおり悪意の遺棄にあたり慰謝料を請求される可能性があるため注意しなければなりません。また、別居後も離婚までは婚姻費用の分担義務があります。
遺言書の作成
万が一、配偶者より先に自身について相続が開始すると、離婚するはずだった配偶者が財産を相続します。慰謝料や養育費、財産分与などについて夫婦間で争って離婚までに数年の時間がかかるケースもないわけではありません。
このような事態を避けるために、離婚を検討した際は、遺言書を作成することが有効です。
遺言書とは、自身の死後に自己の財産を誰に移転するかなどの意思を表示する書面をいいます。例えば、配偶者ではなく子どもに財産を相続させたいときは、「子(◯◯年◯◯月◯◯日生)にすべての財産を相続させる」などと記載します。
しかし、このような遺言は配偶者に最低限保障された遺産の承継割合である遺留分を侵害するため、遺言で確定的に配偶者に相続させないことはできません。
もっとも、上記とは反対に、離婚後も元配偶者に遺産を相続してほしいといった希望があるかもしれません。離婚後の元配偶者は親族関係のない他人です。そのため、あえて相続させるには遺言などが必要です。
また、離婚後を想定した際は、葬儀はどのように行い、その費用はどのように支払うかといった意思を遺言で表示することには意義があります。仮に子どものいる相手と再婚した場合、再婚だけではその連れ子は相続人とはならないため、相続させたい場合はその連れ子と養子縁組をするか、遺言で相続させるかといった選択もあります。
離婚は、相続に影響する身分行為です。そのため、自身に万が一があった際に遺産をどうしたいかを検討し、状況に応じて必要な内容を記載した遺言書を作成しておくことが大切です。
契約関連の変更
離婚を検討する際は、離婚後の自身の生活に必要な費用を配偶者が支払っているなど、配偶者名義のものがあれば、自己の名義に変更する手続きも進めましょう。
例えば、スマートフォンの通信サービスや各種サブスク料金の支払いです。離婚後も元配偶者名義のままだと、料金滞納で急に利用できなくなる可能性があります。最悪、勝手に解約されて困ることもありえます。
離婚後も元配偶者と連絡をしたくない場合には、特に気をつけるべきポイントです。
ただし、ローンが残っている元配偶者名義の不動産や自動車については、ローンの名義変更は容易ではありません。いずれも担保権が設定されているケースが多いため、元配偶者が支払いを怠ると、売却などを実行されるリスクがあります。
慰謝料請求のための証拠集め
慰謝料の請求を検討している場合、証拠集めは欠かせないポイントです。不貞行為やモラハラ、DVがあったとしても、相手が支払いに応じず事実を認めない場合、最終的には裁判において証拠がなければ請求は認められません。
離婚後に証拠を集めるのは大変なので、できるかぎり慰謝料の請求を検討し始めた段階で早期に証拠集めに取り組むことが大切です。
不貞行為やモラハラ、DVを直接証明できる写真や動画、音声、チャットやメールのやり取り履歴など、言い逃れのしようがない証拠を確保できると裁判での確率が高くなります。
心身の健康の維持
離婚は心身への負担が大きい出来事なので、心身の健康の維持につとめることも大切です。
趣味ややりがいを見つける、離婚後の理想的な生活を思い描くなど、ご自身で心身のケアを行いましょう。
弁護士への相談
離婚全体にもいえますが、特に熟年離婚は、財産分与や年金分割の点で弁護士に相談する必要性が高い問題です。
弁護士に相談することで、状況に応じて財産分与や年金分割、養育費、慰謝料を請求できることがわかるので、知らないまま時間が経過して請求権を失ってしまうといった事態を避けられます。
交渉のプロである弁護士が相手と交渉することで、有利な解決を見込めるだけでなく、訴訟など難しい手続きも安心して任せられる点もメリットです。
なにより、離婚時の相手とのやり取りは精神的な負担も大きいところ、そのようなやり取りも弁護士に任せられます。
ただし、相談する弁護士は離婚に強い弁護士を選ぶことが重要です。離婚は多様な法律問題が絡むため、交渉や訴訟を有利に進めるには知識と経験が求められます。
大きな金額が絡むことのある熟年離婚で損や後悔をしたくない方は、ぜひ一度弁護士に相談してみてください。
熟年離婚の流れ
熟年離婚をする際の流れは、次のとおりです。
- 話し合いで離婚を決める協議離婚
- 家庭裁判所での調停離婚
- 法律に則った裁判離婚
流れといっても、実際には多くの夫婦が話し合いで離婚(協議離婚)しており、調停や裁判に至るケースは多くありません。
しかし、離婚や離婚の条件をめぐって調停や裁判に至るケースもあるため、裁判離婚までの流れを知っておくことも大切です。
話し合いで離婚を決める協議離婚
協議離婚とは、夫婦がお互いに話し合って離婚することです。法律でも以下のように定められています。
(協議上の離婚)
第七百六十三条 夫婦は、その協議で、離婚をすることができる。
引用元 民法第763条
なお、必ずしも対面して口頭で離婚について話し合う必要はありません。通話や書面(手紙・FAX)、メール、チャットでのやり取りでも離婚の話し合いはできます。離婚届を郵送しながら2人が署名し、どちらか一方が役所に提出する方法で問題ありません。
離婚に必要な条件は、夫婦の合意だけです。後述する不貞行為やDV、モラハラなどの法律上の離婚理由(法定離婚原因・法定離婚事由)は必要ありません。
ただし、実質的には協議離婚の手続きとして夫婦双方と成年の証人2人以上で離婚(戸籍)の届出をしなければならないため、証人を引き受けてくれる18歳以上の人を見つける必要があります。
家庭裁判所での調停離婚
以下のような場合は、家庭裁判所に離婚調停(夫婦関係調整調停)を申し立てることができます。
- 相手が話し合いに応じない
- 相手が離婚に応じない
- 相手と直接話したくない
離婚調停とは、男女各1名の調停委員と呼ばれる人が夫婦の間に立って、双方の事情を聴きながら離婚について話し合う裁判所の制度です。申し立てるには、各種費用で2,500円ほどかかります。
裁判所の制度といっても、離婚するかどうかを決めるのは調停委員や裁判官ではなく夫婦であり、裁判所を通じた夫婦の話し合いといった位置付けにあります。結局は話し合いなので法律を意識する必要はありませんが、その反面、相手に離婚を強制することはできません。
離婚調停で離婚に合意できると調停調書と呼ばれる書面が作成されるので、その書面をもって役所に離婚届を出さなければなりません。
なお、離婚調停では親権者や面会交流、養育費、財産分与、年金分割について話し合うこともできます。
法律に則った裁判離婚
離婚調停でも離婚できなければ、裁判官の裁判による離婚を求める、離婚訴訟の提起を検討します。
なお、裁判離婚といってもその種類は以下の3つです。
裁判離婚の種類
種類 |
概要 |
和解離婚 |
訴訟中に、離婚することについて夫婦の和解が成立した場合の離婚 |
認諾離婚 |
訴訟において相手が離婚を認めた場合の離婚 |
裁判離婚(判決離婚) |
裁判官が法定離婚原因があると認めた場合の離婚 |
訴訟中に相手が離婚を認めなければ、離婚を求める側は、裁判官に以下のいずれかの事由(法定離婚事由)があると認めてもらう必要があります。
- 不貞行為
- 悪意の遺棄
- 3年以上の生死不明
- 回復の見込みがない強度の精神病
- その他婚姻を継続し難い重大な事由
不貞行為とは配偶者以外と性的関係を結ぶこと、悪意の遺棄とは正当な理由がなく別居したり生活費を渡さなかったりすることです。
なお、回復の見込みがない強度の精神病は、法定離婚事由からの除外が決まっています。
DVやモラハラといった婚姻を継続し難い重大な事由といえる程度でなければ、性格の不一致や義両親との不仲、顔を見るだけで嫌になるというだけでは離婚が認められません。相手が不貞行為をしていても、その証拠がなく、相手が離婚に反対しているときも同様です。
まとめ
離婚全体の2割ほどを占める熟年離婚は、結婚生活から来る多くのストレスや不安から解放され、自分の好きなことをやる時間を確保できることなどがメリットです。
一方で、熟年離婚は配偶者を失うものであり、孤独を感じるほか、経済面や家事、介護などについて将来に不安が残る可能性があります。
熟年離婚での損や後悔を防ぐためには、上記のようなメリット・デメリットを把握するほか、離婚前に相手の財産の調査や慰謝料請求の証拠収集などに動くことが大切です。
熟年離婚は婚姻期間が長いことから、財産分与や年金分割、慰謝料の金額が高額になるケースがあります。請求できるお金は確実に請求することも損や後悔を防ぐために重要な要素だといえます。
請求できる、または請求されるお金についての法的アドバイスのほか、交渉や手続きを円滑に進めてくれる離婚に詳しい弁護士に依頼することで、経済面、精神面の両面で損や後悔を防いで有利な熟年離婚を進められるはずです。
熟年離婚について不安やお悩みがある方は、ぜひ弁護士に相談してください。
熟年離婚に関するよくある質問
熟年離婚する可能性がある夫婦の特徴はありますか?
離婚の具体的な原因は夫婦によって異なりますが、性格が合わないと感じている夫婦は、離婚の可能性が高いといえます。
このほか、夫婦のいずれかに以下のような特徴がある夫婦は、熟年離婚の可能性が高いといえるでしょう。
- 配偶者を支配しようとしている
- 暴言がある
- 暴力がある
- 不倫がある
- 借金がある
- 親族とうまくいかない
- セックスレスが続いている
- 浪費・ギャンブル癖がある
- 介護に疲れている
- 家事・育児に協力しない
- 酒癖が悪い
- 宗教活動に没頭している
専業主婦でも財産分与の対象になりますか?
専業主婦でも財産分与の請求は可能です。
財産分与は離婚後の当事者間の財産上の衡平を図るための制度で、夫婦が婚姻中に取得・維持した財産を離婚後に分け合います。
法律上明確にはされていませんが、専業主婦でも夫婦は平等に財産の取得・維持に寄与したとものとして、対象財産を平等に分け合うケースが大半です。
なお、民法改正法(令和6年5月24日法律第33号)により、夫婦の財産についての寄与の程度は、原則として平等であることが法律で示されることとなりました。
3 前項の場合には、家庭裁判所は、離婚後の当事者間の財産上の衡平を図るため、当事者双方がその婚姻中に取得し、又は維持した財産の額及びその取得又は維持についての各当事者の寄与の程度、婚姻の期間、婚姻中の生活水準、婚姻中の協力及び扶助の状況、各当事者の年齢、心身の状況、職業及び収入その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。この場合において、婚姻中の財産の取得又は維持についての各当事者の寄与の程度は、その程度が異なることが明らかでないときは、相等しいものとする。
引用元 改正後民法第768条第3項
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