離婚時に持ち家があったらどうする?
離婚時に持ち家がある時の処置は、大まかに分けると「売却」と「住み続ける」の2つです。決まったルールはなく、どうするべきかは夫婦で相談して決めることになるのが一般的です。
大前提として、婚姻後に購入した持ち家は、共有財産となるということは理解しておきましょう。そのため、離婚時は売却するにしても住み続けるにしても、持ち家を財産分与することになります。
たとえ持ち家を夫の収入のみで購入した場合でも同様です。専業主婦でも妻は家庭内で必要なことをして家族を支えています。そのため、婚姻後に購入したのであれば、支払った金額の割合は関係なく、持ち家は共有財産です。妻が購入し、夫が専業主夫である場合も同様です。
離婚時に持ち家を売却する場合でも住み続ける場合でも、住宅ローンの有無によって処置の仕方は大きく異なります。
それぞれのケースを確認しましょう。
住宅ローン完済済み
離婚後の持ち家の処置は、以下4つのケースで大きく異なります。
- 売却する場合
- 名義人が住み続ける場合
- 名義人以外が住み続ける場合
- 共同名義の場合
住宅ローンが完済済みなら、売却する場合でも、住み続ける場合でも住宅ローンの処置は比較的スムーズに進みます。
それぞれのケースの詳細を見ていきましょう。
売却する場合
売却する場合は、売却によって得たお金から経費を差し引いて、余った純粋な利益を夫婦で分割します。
前述したように、婚姻後に購入した持ち家は夫婦で共有の財産となるため、売却によって得られた利益は夫婦で2分の1にするのが一般的です。
たとえば持ち家を500万円で売却し、経費に200万円かかった場合は、残った300万円を2で割って、片方がもらえるのは150万円です。
500万円(売却価格)-200万円(経費)=300万円
300万円÷2=150万円(1人がもらえる金額)
もちろん財産分与の割合は夫婦で納得のいく形であれば変えられます。十分に話し合いをして双方が納得いく形を目指しましょう。
名義人が住み続ける場合
持ち家を売却せずに名義人が住み続ける場合は、当然名義変更する必要はなく、そのまま居住できます。
しかし、名義人ではない方は、結果として持ち家という自身の財産を手放すということになります。
そのため、住み続ける側は、手放す側に対して持ち家評価額の50%を支払わなければいけません。このように持ち家を現物で受け取らない代わりにもらえる金銭を代償金と言います。
持ち家の持つ金銭的な価値を評価してもらい、その評価額の半分の代償金を手放す側が受け取ることで、双方が持ち家という財産を分けられるということです。
名義人以外が住み続ける場合
名義人以外が住み続ける場合は、持ち家の名義変更をしましょう。住宅ローン完済済みであれば双方の合意によって名義変更が可能です。
離婚届を提出後、法務局にて申請することで名義変更ができます。
名義変更をしないと、今後固定資産税の発生、持ち家の売却時などで連絡を取る必要が出てきます。
名義変更後は先ほどの例と大きくは変わりません。基本的に住み続ける側が手放す側に対して持ち家評価額50%の代償金を支払います。
共同名義の場合
共同名義の場合では、片方が住み続ける判断をする場合もあれば、売却という判断をする場合もあるでしょう。
もし持ち家に住み続ける場合は、共有名義から単独名義にしたうえで、住み続ける側が手放す側に対して評価額の50%の代償金を支払います。
売却する場合は、最終的な利益を夫婦で2分の1にして受け取ります。
つまり、たとえ共有名義でも単独名義の場合と基本的な処置は同じです。
共同名義で持ち家を購入したなら、出資割合に応じて持分を登記します。しかし、持ち家の財産分与において持分の割合は基本的に関係ありません。
片方の収入のみで持ち家を購入しても財産分与では夫婦で2分の1に分けられるのと同じです。たとえ共同名義で出資割合・持分に差があっても、財産分与では原則として2分の1に分けられます。
住宅ローン支払い中
住宅ローン支払い中でも、離婚時の持ち家は以下のケースに分けられます。
- 売却する場合
- 名義人が住み続ける場合
- 名義人以外が住み続ける場合
- 共同名義の場合
なお、前提としてローンは財産分与の対象にはならないことは理解しておきましょう。
財産分与というのは、その名のとおり財産を夫婦で分けるものです。ローンは財産ではないため、これまで通り名義人に支払い義務があります。
それぞれのケースを確認して、どのような処置をするべきなのか決めましょう。
売却する場合
住宅ローン支払い中の状態で、離婚時に持ち家を売却する場合は、大まかに分けて以下の2つの結果になります。
- アンダーローン...住宅ローン残高より持ち家の売却金額が上回る
- オーバーローン...持ち家の売却金額より住宅ローン残高が上回る
アンダーローンなら単純で、売却をしてローンを完済、そのほか売却にかかった経費を引いて、最終的に余った純粋な利益を夫婦で分割することになります。
ただし、オーバーローンは売却金額を使ってもローンが完済できないため、不足分を自己資金や融資などで補填しなければいけません。
そのため、オーバーローンとなる場合は、そもそもとして売却に踏み切るべきなのかを慎重に考える必要があります。
名義人が住み続ける場合
名義人が住み続ける場合は、これまで通り名義人が住宅ローンの支払いを続けていくことになります。
しかし、仮に夫を名義人とした場合、妻は持ち家という財産を手放すことになってしまいます。原則として持ち家を含む夫婦共有の財産は2分の1に分けられるため、この場合夫は妻に対して持ち家評価額の50%を支払わなければいけません。
妻が名義人だった場合は、反対に夫が持ち家を手放して妻から持ち家評価額の50%を受け取ることになります。
名義人以外が住み続ける場合
住宅ローン支払い中で、名義人以外が住み続ける場合では、主に以下3つのケースがあります。
- 名義人を変更して住んでいる人が住宅ローンを支払う
- 名義人が慰謝料・養育費の代わりとして住宅ローンの支払いを続ける
- 持ち家を売却しローン完済後に賃貸借契約をして住む
前提として、住宅ローンは支払い完了まで名義変更できません。そのため、住宅ローンの名義変更をする場合は、一度支払いを完了させて別のローンにする「借り換えローン」を検討しましょう。
借り換えローンによって名義人を変更した場合は、その後は名義人となった人が住宅ローンの支払いをしていくことになります。そして、元名義人は共有財産である持ち家を手放すことになるため、持ち家評価額の50%を受け取ります。
持ち家を売却することでローンを完済できるなら、売却後に賃貸借契約をして同じ家に住み続けることも可能です。この方法であれば、ローンのややこしい問題は解決し、名義人以外でもローン契約をすることなく、馴染みのある持ち家に住み続けられます。
名義人以外が住み続ける場合はさまざまなケースがあるため、お互いに相談して納得のいく形を探しましょう。
共同名義の場合
住宅ローンを共有名義にしている場合は、お互いに住宅ローンの支払い義務があります。そのため、ローンが残っている場合は、離婚後もお互いに返済を進めていく必要があります。
しかし、離婚する場合は、片方の返済が滞った時に、もう片方の負担が大きくなり、トラブルに発展することも。
そのため、離婚の際は以下のような形で共同名義を解消するのが一般的です。
- 住宅ローンを借り換え単独名義にして名義人が住み続ける
- 持ち家を売る
住宅ローンを借り換えする場合は、今後住み続ける人が審査を受け名義人となります。また、これまで紹介したケースと同様に、新しく名義人となって住み続ける場合は、持ち家を手放す側に対して持ち家評価額の50%を支払います。
持ち家を売るというのも一つの手で、アンダーローンなら得られた利益を夫婦で割るだけです。オーバーローンなら、自己資金や融資、親族による援助などを借りて完済をします。
なお、共同名義でも持ち家の出資割合は財産分与においては基本的に関係ありません。たとえ片方が多くの割合を出していたとしても、財産分与において持ち家の取り分はどちらも50%です。
離婚時に持ち家がある場合、確認すべきこと
離婚時に持ち家がある場合は、以下の6点を確認しておきましょう。
- 持ち家の名義人
- ペアローンまたは連帯債務か
- 配偶者が連帯保証人になっているか
- 住宅ローンがいくら残っているか
- 売却か居住継続か
- 持ち家が相続したものかどうか
離婚時は確認すべきことが多いため、1つ1つ問題を解決していっても混乱してしまうことも少なくありません。
確認すべきことは、まとめて先に調べておき、スムーズに離婚を進められるようにしましょう。
持ち家の名義人
持ち家の名義人が誰になっているのかは必ず確認しておきましょう。
名義人が住み続けるならまだ問題ありませんが、名義人以外が住むことになった場合、名義変更といった手続きが必要です。
また、単独ではなく夫婦で名義となっている場合もあります。「夫が名義人だと思ったら夫婦で共有だった」という場合も十分考えられるでしょう。
共有名義のままだと、今後家を売却する際などに再度連絡を取る必要が出てきます。せっかく離婚して再スタートをしたのに、家のことで何度も連絡することになるのはお互いストレスになってしまいます。
そのため、共有名義となっている場合は、可能であれば今後住み続ける人が名義人になると良いでしょう。
ペアローンまたは連帯債務か
持ち家そのものの名義人の確認に加えて、持ち家のローン名義についても確認する必要があります。特にペアローンや連帯債務でローンの契約をした人は注意が必要です。
端的に言えば、ペアローンや連帯債務は夫婦の収入を合算してローンの融資を受ける方法です。片方の収入だけでは審査に通らない場合でも、ペアローンや連帯債務で収入を合算することで住宅購入のために大きな金額を借りられるようになります。
ペアローンや連帯債務を組んでいると、離婚をしても双方がローンを契約している、もしくは双方にローンの返済義務がある状態が続きます。
たとえばペアローンを組んでいる場合は、双方が名義人となっています。そのため、住み続けたほうが持ち家の売却をしようとしても、双方の合意が必要です。
連帯債務の名義人は1人ですが、連帯債務者にも返済義務が発生します。たとえば、夫が名義人で離婚後持ち家に住み続けて、住宅ローンの返済ができなくなった場合、すでに離婚して別の家に住んでいる妻でも返済義務が発生します。
このようなトラブルに遭わないためにも、ローンの契約内容は離婚前に確認しておきましょう。
なお、住宅ローンが残っている場合は、一般的にローンの名義人は変更できません。詳細は後ほど「離婚して持ち家がある時の注意点」にて解説するので、住宅ローンが残っている人はそちらも参考にしてください。
配偶者が連帯保証人になっているか
ペアローンや連帯債務でなくても、配偶者が連帯保証人となっている場合があります。
連帯債務と同じように、名義人がローンの支払いができなくなった場合は連帯保証人に支払い義務が発生します。なお、ペアローンは一般的に双方が連帯保証人です。
離婚したからといって、連帯保証人からは外れません。
そのため、ローンの連帯保証人となっている場合は、離婚前に連帯保証人から外れる、もしくはローンの借り換えをするなどの対策が必要です。
住宅ローンがいくら残っているか
住宅ローンの支払いが終わっていない場合は、いくら残っているか確認しましょう。
住宅ローンは財産分与の対象にはなりません。ローンの支払いの義務は名義人にあるため、通常は今後も引き続き名義人がローンの支払いをすることになります。
しかし「2人で購入したのに負債だけ片方になるのはおかしい」という意見も当然出てくるため、住宅ローンの負担は離婚の際にもめやすい要因の一つとなっています。
これは「共働きか否か」「頭金はどのように用意したか」「家事の負担はどうだったか」など、これまでの結婚生活の内容によって、正解と言える形は異なるでしょう。
夫婦で話し合って、お互いが納得できる形を探しましょう。
売却か居住継続か
離婚時の持ち家の処置で特に重要といえるのが「売却をするか」「居住を継続するか」決めることです。
売却をするか居住をするかで今後の手続きが大きく異なります。
もちろん、アンダーローンなのか、オーバーローンなのか、名義人が住むのかなど、以降の流れによって売却か居住かを切り替えることもあります。
しかし、売却をするか居住をするか、ある程度指標をつけておけば、今後話し合いは進みやすくなるでしょう。
配偶者や子供に、家に住み続けたいという意思はあるのか、ご自身の意思はどうかのか話し合ってみてください。
持ち家が相続したものかどうか
持ち家が相続遺産なら、財産分与の対象外となります。つまり、離婚をしても名義人だけのものとなります。
そのため、配偶者に対して評価額を支払ったり、売却時に夫婦で利益を分けたりすることはありません。
持ち家を財産分与する方法
持ち家を財産分与する方法は大きく分けて以下の2つです。
- 売却して現金を分け合う
- 一方が住み続けて、もう一方の配偶者に対して現金を支払う
双方の詳細な内容を確認することで、売却するべきなのか、住み続けるべきなのか決められることもあります。
どの方法で財産分与するか決めていない場合でも、これら2つの方法は理解しておきましょう。
売却して現金を分け合う方法
持ち家の財産分与の方法として、最もわかりやすいのが、持ち家を売却して現金にすることです。シンプルに持ち家を現金に換えて、それを2人で分けるという処置です。
なお、財産分与の割合は原則として2分の1となっています。そのため、持ち家を売って500万円の利益が出れば250万円ずつ受け取れるという形です。
財産分与の割合を変える場合も、現金なので計算しやすいというメリットがあります。そのため、比較的トラブルになりにくい持ち家の財産分与方法といえるでしょう。
ただし、持ち家を売って利益が出れば良いものの、場合によっては持ち家を売っても住宅ローンを払いきれない「オーバーローン」になることもあります。
「オーバーローン」の場合は、残っているローンを支払わなければいけません。ローンは共有財産ではないため、通常は名義人が支払います。
しかし、名義人からすると「持ち家は折半なのにローンの負債だけを支払うのは納得できない」と感じることもあります。
そのため、オーバーローンの場合は「どのようにして残りのローンを支払うのか」「そもそも売却はあきらめるのか」などを夫婦で話し合う必要が出てくるでしょう。
ローンの有無 |
売却時の処置 |
完済済み |
持ち家売却時の利益を夫婦で折半 |
支払い中(アンダーローン) |
持ち家売却時の利益を夫婦で折半 |
支払い中(オーバーローン) |
- 貯金・自己資金で残りのローンを返済し売却
- 住み替えローンなどを使って返済し売却
- 不動産会社と相談して任意売却する
|
一方が住み続けて、もう一方の配偶者に対して現金を支払う方法
離婚時に持ち家を売却しない場合は、一方が持ち家に住み続けて、もう一方の持ち家から離れる配偶者は現金を受け取るというのが一般的です。
住み続ける側は、持ち家という財産の100%を受け取っているということになります。反対に、離れる側は、持ち家とは関りがなくなるため、このままでは持ち家から何一つ財産を受け取っていません。
そのため、住み続ける側は、持ち家の評価額の50%を、離れる側に対して支払う必要があります。財産分与の割合は通常2分の1なので評価額の50%となりますが、双方の話し合いによってこの額を変えることも可能です。
なお、持ち家の評価額は不動産鑑定士などに依頼して調査してもらいます。
この方法は、持ち家に住み続けられるのが特に大きなメリットです。特に子供が小さいうちは、通っている学校を変えるのは大きなストレスとなります。離婚による子供の影響を極力減らしたい場合に特に選ばれています。
しかし、持ち家に住み続ける側は金銭的な負担が大きくなるというデメリットにも留意しなければいけません。特にローンの支払いが残っている状態で、さらに住み続ける側が名義人の場合は、ローンを支払いを継続しつつ、持ち家評価額50%の代償金も元配偶者に支払うことになります。
そのため、ローンの名義人が離れる側になり、ローンと持ち家代償金を相殺するというのも一つの解決策となります。
ローンの有無 |
住み続ける側 |
離れる側 |
完済済み |
持ち家評価額の50%を離れる側に支払う |
持ち家評価額の50%を住み続ける側からもらう |
支払い中(住み続ける側が名義人) |
ローンの支払いを続ける
持ち家評価額の50%を離れる側に支払う |
ローンの支払いは不要
持ち家評価額の50%を住み続ける側からもらう |
支払い中(離れる側が名義人) |
ローンの支払いは不要
持ち家評価額の50%を離れる側に支払う
ローンと持ち家代償金を相殺することもある |
ローンの支払いを続ける
持ち家評価額の50%を住み続ける側からもらう
ローンと持ち家代償金を相殺することもある |
離婚して持ち家を財産分与するときの手順
離婚して持ち家を財産分与するときは、以下の流れで進めていきます。
- 持ち家の名義人を確かめる
- 住宅ローンの名義人を確かめる
- 査定を受け持ち家の現在の評価額を確認する
- 財産分与の協議をする
- 公正証書を作成する
各手順の内容を詳しく確認し、財産分与をトラブルなくスムーズに進めましょう。
持ち家の名義人を確かめる
まずは持ち家の名義人を確かめましょう。
持ち家の購入からしばらくたっていると、どちらが名義人になっているかわからなくなっていることもあります。また、単独名義ではなく、夫と妻で共有の名義となっている場合もあります。
なお、一般的に名義は持ち家を購入したときの出資額で決定します。
たとえば3,000万円の家を、夫が3,000万円出資して購入した場合は夫が名義人です。夫が2,000万円、妻が1,000万円出資したなら、夫は2/3、妻は1/3をそれぞれ所有している共有名義です。
住宅ローンの名義人と誤って覚えている場合もあるので、財産分与の際は確認しておいた方が後々のトラブルを防げるでしょう。
なお、持ち家の名義人は法務局にて登記簿謄本を取得することで確認できます。
住宅ローンの名義人を確かめる
続いて、住宅ローンの名義人を確認しましょう。住宅ローンの名義人は、持ち家の名義人と同じとは限りません。
一般的に専業主婦(夫)は名義人にはならず、働いている側が名義人となります。
ただし、共働きだからといって共有名義になるとは限りません。ペアローンであれば共有名義ですが、連帯債務ならどちらか一方が名義人です。
ローンの支払い義務は名義人に発生しますが、ローンの負担を考慮して財産分与の割合を変えることもあります。
より円滑に話し合いを進められるように、ローンの支払い義務はどちらにあるのか、名義人はどちらなのか確認しておきましょう。
ローンの名義人はローン契約書から確認できます。
査定を受け持ち家の現在の評価額を確認する
続いて、持ち家の査定を受けましょう。持ち家を売却しない場合でも、評価額が代償金を支払うときの基準となります。
また、評価額を確認することで、持ち家を売却するべきか、住み続けるべきかを判断する指標にもなります。そのため、持ち家の査定は必須と言えるでしょう。
なお、査定額というのは、不動産会社によって大きく異なります。早く離婚をしたいからといって査定を疎かにしてしまうと、のちのち「もっと価値は高かったのでは?」と後悔することも。
そのため、査定は1社だけに依頼するのではなく、複数社に依頼しましょう。
財産分与の協議をする
これまでの手順を進めていれば、財産分与の話し合いをする上で必要な材料は基本的にそろっています。
これまでも紹介しているように、持ち家の財産分与の基本は以下のとおりです。
- 婚姻後に購入した持ち家は出資額に関係なく夫婦の共有財産
- 共有財産は2分の1にして分ける
- 売らずに住み続ける場合は持ち家評価額の50%を手放す側に支払う
- ローンは共有財産に含まれず名義人が支払い続ける
ただし、特にローンが残っている場合は、名義人に不満が出てくる場合が多いです。
財産分与は原則に従って話し合いを進めても解決しないことは当然あります。
「ローンの支払いをする人」「持ち家の査定額」「持ち家購入時の出資額」など、さまざまな要素を加味したうえで夫婦で話し合いをしましょう。
公正証書を作成する
話し合いがまとまったら、最後に公正証書を作成しましょう。
公正証書とは、端的にいえば強い証拠力を持つ書類です。お互いに決めた約束をまとめて、正式な書類にできます。
財産分与の話し合いをしても、のちのち「言った・言わない」のトラブルになることも考えられます。公正証書があればのちのち起こり得るトラブルを避けられるでしょう。
なお、公正証書の内容は、財産分与の内容以外にも以下のようなものがあります。
- 離婚の合意
- 親権者と監護権者の定め
- 子供の養育費に関する定め
- 子供との面会交流に関する定め
- 離婚慰謝料の内容
財産分与以外にも、証拠として残しておきたい取り決めがあれば作成してもらいましょう。
なお、公正証書の作成は公証役場にて行います。
持ち家がある人が離婚する時の注意点
持ち家がある人が離婚する時は、想定していないようなさまざまなトラブルが発生します。そのため、スムーズに離婚が進まないことも少なくありません。
よりスムーズに離婚を進めるためにも、以下の注意点を理解しておきましょう。
- 子供がいる場合は養育費のことを考えてローンの負担を決める
- 住宅ローン支払い中に名義人の変更が難しい
- 持ち家の名義人が住まないと住宅ローンの規約違反になる
- ローン完済前に持ち家の名義人が死亡すると元配偶者に相続権はない
- ローンの支払いが滞ると持ち家が競売に掛けられる
- 家を建築中に離婚しても工事の中止が原則不可能
それぞれ詳しく解説していきます。
子供がいる場合は養育費のことを考えてローンの負担を決める
子供がいる場合は、養育費も考慮したうえでローンの負担について話し合いましょう。
子供の親権を持つ側は、もう一方に対して養育費を請求できます。そのため、場合によっては、どちらか一方の親は養育費とローン、さらに代償金の3つを負担することになります。
たとえば、夫が名義人のローンが残っている家に住み続けると、原則として夫はローンを払いながら妻に持ち家の50%となる代償金を支払います。さらに子供がおり妻が専業主婦で収入が少ない場合は、養育費を支払ってもらうことになるでしょう。
どの支払いも通常の権利として請求できるものの、過度に支払いを要求すると負担が大きくなりすぎて不払いにつながることもあります。そのため、養育費やローンの負担のバランスを夫婦で話し合って、お互いが納得のいく形を目指しましょう。
たとえば「ローンを夫に支払ってもらい続けることを条件に養育費を受け取らない」という形にすることは可能です。ただし、妻と子供が夫名義の持ち家に住み続けて夫がローンの支払いをする場合、実質的にローンの肩代わりが養育費となっているとみなされることがあります。
離婚によってひとり親世帯になった家庭では「児童扶養手当」がもらえますが、養育費を含めた所得によって支給される額は異なります。つまり、ローンの肩代わりが養育費となっているとみなされれば、それだけ児童扶養手当をもらえる額が減るということです。
このように、養育費やローンのバランスはさまざまな要因が絡まるため、慎重に決める必要があります。児童扶養手当に関する判断は自治体によっても異なるため、役所に相談してみるのも一つの手です。
住宅ローン支払い中に名義人の変更が難しい
住宅ローン支払い中は、原則として名義人を変更できません。
住宅ローンの審査というのは、契約者(名義人)の収入や勤務状況などを考慮したうえで行われます。審査の結果、支払い能力に問題がないと判断された場合にローンを利用できるようになります。
住宅ローンの名義を変更するというのは、金融機関側からすれば、支払い能力の有無がわからない人が支払うことになるということです。当然、金融機関としては、そのようなリスクは負わず、今まで通り名義人が支払うことを要求します。
そのため、名義の変更をしたい場合は、住宅ローンの借り換えをしましょう。
詳細は後ほど「離婚後に持ち家の名義人を変更する方法」にて解説します。
持ち家の名義人が住まないと住宅ローンの規約違反になる
原則として、持ち家には住宅ローンの名義人が住まなければ規約違反となってしまいます。
住宅ローンの契約書には、ローンが残っている限りは名義人が対象の住居に住み続けることが定められています。
つまり、名義人が持ち家を出て、もう一方が持ち家に住み続けるというのは規約違反です。
持ち家に住み続ける場合は、住み続ける人が名義人でなければいけません。なお、不動産の名義に関しても、金融機関側で承諾がなければ変更できません。
離婚後、名義人以外が住み続けていることが発覚したら、ローンの一括返済を迫られる可能性も考えられます。名義人以外が住み続ける場合は、ローンの借り換えをしましょう。
ローン完済前に持ち家の名義人が死亡すると元配偶者に相続権はない
持ち家に名義人が住まないリスクとして、名義人が死亡したときの相続権についても理解しておく必要があります。
仮に離婚後に、名義人ではない妻が持ち家に住み続け、名義人の夫がローンの支払いを続けたとします。このときに夫が亡くなると、本来は団体信用生命保険による保険金で住宅ローンを完済できます。
しかし、離婚をしているため、妻は団体信用生命保険による保険金を受け取れません。
結果として、妻が連帯保証人として今後住宅ローンを支払うことになる可能性も考えられるでしょう。
ローンの支払いが滞ると持ち家が競売に掛けられる
持ち家に名義人が住まないと、ローンの支払いが滞るというリスクもあります。
仮に名義人ではない妻が持ち家に住み続けたとしても、今後夫が住宅ローンの支払いを確実に行うとは限りません。ケガや病気で働けなくなり、住宅ローンを支払えない状態になることも考えられるでしょう。
ローンの支払いが滞ると、金融機関が裁判所に申し立てし、強制的な住宅の売却をおこないます。このように強制的に住宅を売却されることを「競売に掛けられる」といいます。
結果として、名義人ではない妻は何も対処ができないまま、住む家がなくなることに。
このような事態にならないためにも、持ち家に住み続けるなら、住み続ける人が名義となってローンの契約をしましょう。
家を建築中に離婚しても工事の中止が原則不可能
持ち家を建築している途中で離婚することになった場合でも、基本的には工事の中止はできません。
建築会社との話し合いによって中止にできたとしても、それまでの建築に応じた費用は支払わなければいけません。対応の仕方によっては、損害賠償を請求される可能性も考えられるでしょう。
そのため、たとえ建築中に離婚をすることになっても、基本的に工事は中止するのではなく「一方が住み続ける」「売却する」のどちらかを選ぶことになります。
なお、建築後の新築の状態で売却したとしても、税金が発生することを考慮すると黒字にはなりません。
離婚後に持ち家の名義人を変更する方法
これまで紹介しているように、離婚後は持ち家に住み続ける人を名義人にしなければいけません。
名義人を変更する方法は、住宅ローンを完済しているかどうかで異なります。
- 住宅ローンを完済している場合
- 住宅ローンの残債がある場合
それぞれの方法を詳しく確認しましょう。
住宅ローンを完済している場合
住宅ローンを完済している場合は、名義となるのは持ち家自体、つまり不動産の名義のみです。ローンは完済しているため、ローンの名義については何も考える必要はありません。
持ち家の名義変更は法務局にて対応してもらえます。
具体的には、離婚届提出後、登記申請書を作成し法務局に提出します。
ご自身でも行えますが、必要書類が多く、専門的な部分もあるため、司法書士に依頼した方がスムーズです。
司法書士に依頼すれば、書類に署名や捺印をするだけで名義変更は完了するでしょう。
住宅ローンの残債がある場合
住宅ローンが残っている場合は、法務局にて持ち家の名義変更をするだけでなく、ローンの名義変更をする必要があります。
しかし、前述したように、住宅ローンは原則として名義の変更はできません。そのため、借り換えローンを利用して疑似的に名義変更をします。
借り換えローンにて名義変更をする流れは以下のとおりです。
- 借り換え先を探す
- 新しい名義人が借り換え先のローンで審査を受ける
- 新しいローンの契約を結ぶ
- 融資がされたら以前の住宅ローンを完済
- 新しい名義人が借り換え先のローンを返済する
新名義になりたい人が新しい住宅ローンでお金を借りて、以前の住宅ローンを完済することで、結果として名義変更という形になります。同じローンを契約したまま名義が変わるわけではないことは理解しておきましょう。
住宅ローンの名義変更ができたら、持ち家の名義変更も忘れずにしておきましょう。
離婚後の持ち家に必要な住宅ローン以外の費用や税金
離婚後の持ち家にも、売却をしない限りは当然さまざまな費用や税金がかかってきます。
- 家のメンテナンス費用
- 都市計画税・固定資産税
- 贈与税
費用や税金を負担する人を決めておかなければ、後々トラブルになる可能性も考えられます。
それぞれの費用・税金について詳しく確認しておきましょう。
家のメンテナンス費用
家のメンテナンス費用に関しては、負担割合に決まりはありません。
ごく自然に考えるのであれば、名義人・住み続ける人がメンテナンス費用を支払うことになるでしょう。自宅の日々の掃除は住んでいる人がするように、離婚して他人となった人の家のメンテナンス費用を継続して払い続ける必要はありません。
しかし、築10年や築20年でちょうどメンテナンスの時期が近付いている場合は、離婚後すぐに単独で負担をすることになってしまいます。このようにメンテナンス間近だと片方が不満を感じる場合もあるため、折半で負担するなどの相談は必要になるでしょう。
持ち家のメンテナンスはそれなりの費用がかかります。曖昧にしてしまうと、後悔する可能性もあるため相談はしておきましょう。
都市計画税・固定資産税
都市計画税・固定資産税は、端的にいえば持ち家を所有することで発生する税金です。基本的には持ち家の名義人が負担することになっています。
しかし、名義人以外が負担することは禁止されていません。
そのため、夫婦の話し合い次第では、名義人ではない方が都市計画税・固定資産税を負担することも可能です。
贈与税
贈与税は個人から一定額以上の財産をもらった場合に負担する税金です。基礎控除(税金の対象とならない額)が110万円なので、110万円以上の財産をもらわない限り贈与税は発生しません。
なお、財産分与に関してはそもそもとして、贈与税は発生しません。そのため、たとえ1,000万円の持ち家を受け取っても贈与税は発生しません。
ただし、中には財産分与で贈与税が発生しないことを悪用して、結婚・離婚をする人もいます。そのため、税金逃れのためだけに結婚・離婚して財産分与すると贈与税が発生します。
一方に対して極体に財産分与の割合多いと、贈与として扱われる可能性があることは理解しておきましょう。
もちろん、一般的な財産を2分の1で割るような財産分与をしていれば「悪用している」と誤った判断をされることはありません。
離婚時に持ち家を財産分与する場合は弁護士に相談を
離婚時に持ち家を財産分与するなら、弁護士に相談してみるのも一つの手です。
財産分与は複雑で、特に持ち家は名義について確認したり、評価額を確認したりとするべきことが非常にたくさんあります。
もちろん夫婦で財産分与を進めていくことも可能です。しかし、持ち家が絡むと特に夫婦間のフラストレーションがたまり、関係が悪化していくことも少なくありません。
また、やるべきことが多いため「離婚したいのに共同で調べるべきことが多すぎる」とうんざりすることも。
専門知識を持った弁護士に頼めば、よりスピーディーに持ち家の財産分与が進み、ストレスなく離婚を進められるでしょう。
まとめ
離婚時に持ち家があるときの処置の仕方はさまざまです。
離婚時に持ち家がある場合、特に以下の6点は重要になるので、覚えておきましょう。
- 持ち家は出資額に関係なく夫婦の共有財産となる
- 原則として共有財産は2分の1にして分ける
- 住み続ける場合は持ち家評価額の50%を手放す側に支払う
- ローンが残っている場合は名義人が支払う
- 住み続けられるのは名義人に限る
- 借り換えローンで名義人の変更が可能
持ち家は、一般的に夫婦の共有財産の中で最も高額です。後悔することのないように、財産分与をする際は、お互いに慎重に話し合って決めましょう。
しかし、時には名義変更や住宅ローンの規約、児童扶養手当などの複雑で専門的な知識が必要になることもあります。また、離婚を検討している夫婦2人では、ストレスが溜まって話し合いがなかなか進展しないことも。
そのため、場合によっては弁護士に相談してみてください。問題点や改善点が早期発見でき、スムーズに離婚を進められるでしょう。
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