離婚時の貯金隠しは民事上の不法行為にあたる可能性がある
離婚時に相手が貯金を隠していたとしても、刑事責任を問うことはできません。
貯金隠しのような行為は、他人同士であれば横領罪や詐欺罪などに該当する可能性があります。しかし夫婦間の場合、そもそも横領罪・詐欺罪に該当しない可能性が高いですし、仮にこれらの罪または未遂に該当する場合でも、「親族相盗例」により刑が免除されます。
他方で、相手が貯金を隠していたことにより損害を受けた場合、民事上はパートナーに対して不利益をもたらす不法行為にあたる可能性があります。
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
引用元:民法(明治二十九年法律第八十九号)
不法行為に該当するとして民事訴訟を起こした場合、賠償請求できる可能性があります。貯金を隠すこと自体は不可能ではないことから、離婚時の隠し財産には十分に注意したほうがよいでしょう。
財産分与の基本的な流れ
財産分与は基本的に、以下の流れで行われます。
- 合意に向けて話し合う
- 合意書・公正証書を作成する
- 合意できないなら調停・裁判を検討する
双方合意のために話し合いを行い、合意書および公正証書を作成します。話し合いがまとまらない場合は調停や裁判を検討することになるでしょう。
それぞれ順を追って解説していきます。
1.合意に向けて話し合う
まず行うべきなのが、双方の合意に向けての話し合いです。夫婦の財産をすべてリストアップした上で、共有財産と固有財産に分けます。共有財産は婚姻期間中に夫婦が協力して築いた財産のことで、固有財産は個人的な財産を指します。財産の分類については後述しますが、財産分与で分けるべきなのは共有財産です。
2.合意書・公正証書を作成する
双方が話し合いに合意した場合、合意書や公正証書を作成します。合意書や公正証書の作成は法的な義務があるわけではないのですが、トラブルを避けるためには作成しておくことが重要です。公正証書にしておけば法的効力が強まり、相手からの養育費などの支払いが滞ったとき、家庭裁判所で手続きをしなくても直ちに強制執行ができるようになります。
3.合意できないなら調停・裁判を検討する
話し合いで解決できない場合は、調停や裁判の申立てを行い第三者に間に入ってもらうことになります。法的手続きについては、流れや対処法を把握しておくため、あらかじめ弁護士に相談しておくのが安心です。
財産分与の対象になる財産とならない財産
財産分与の対象となるのは、婚姻中に夫婦で協力して築いた財産です。個人が相続・贈与で得た財産や、婚姻前の財産は対象とはなりません。また子どもの財産に関しては、ケースにより対象になる場合とならない場合があります。確実に財産分与を行うには、具体的に何が対象になるのかをきちんと把握しておきましょう。
共有財産 |
預貯金
不動産
保険
株式
投資信託
有価証券
退職金
住宅ローンなどの借金 |
固有財産 |
独身時代からの預貯金・保険
実親から相続した財産 |
婚姻中に夫婦で協力した築いた財産は対象
婚姻期間中に夫婦が協力して築いた財産を共有財産といい、財産分与の対象となります。具体的な共有財産には、預貯金や不動産、保険などが挙げられます。なおどちらか一方が稼いだお金であっても、もう一方の家事などの協力があってこそ形成できた財産であると考えられるため、一方が稼いだお金でも財産分与の対象になります。
また、婚姻中に生活のために背負った自動車ローンや住宅ローンなどの負債も、財産分与の対象です。
婚姻前の財産や相続・贈与で得た財産は対象外
それぞれの結婚前の預貯金やそこから派生した財産、相続・贈与で得た財産などは、財産分与の対象とはなりません。このような財産は固有財産と呼びますが、固有財産は夫婦で協力して築いた財産ではないため、財産分与においては対象外です。
子どもの財産はケースによって異なる
子どもの財産は、お金の出どころや名目により対象になるかどうかが決まります。たとえば出産祝いや児童手当などは、子どもではなく両親に向けたものという性質が強いため、財産分与の対象となります。一方でお年玉やお小遣いなど、子ども自身がもらったものは財産分与の対象外です。
貯金隠しはどうやって行われるのか?
離婚時の貯金隠しは、主に以下のような手段で行われるケースが多いです。
- 長い時間をかけて少しずつ貯金される
- 痕跡が残らないように隠される
- 現金のままで保管される
- 貸金庫を利用される
- 子どもや親族の口座に預けられる
- 共有財産と固有財産を分けられる
- 共有財産を個人の買い物や返済に当てられる
相手が貯金を隠しているのではないかと疑っている場合、その手口を知っておくことで発見できる可能性も高くなるでしょう。
それぞれの手口について詳しく解説していきます。
長い時間をかけて少しずつ貯金される
ばれないように長期的に少額ずつ貯金する方法があります。相手が短期間で大量の財産を移動させていた場合は気づける可能性がありますが、少しずつ移動させていた場合は気づきにくいです。毎月1~3万円程度の金額をへそくりのように移動させている可能性があるため、通帳の確認は定期的に行ったほうがよいでしょう。
痕跡が残らないように隠される
銀行の利用履歴などの痕跡が残っていなければ、相手の財産隠しを見つけるのは難しいでしょう。隠し口座には、自宅から遠い場所にある地方銀行や信用金庫などが適しています。そのため痕跡を見つけるには、家のパソコンでのネット銀行へのログイン履歴や、SNS・メールを確認するのがおすすめです。
現金のままで保管される
現金で保管されていれば、保管場所が分からない限り見つけることは困難です。とくに、相手が隠し場所にこだわっている場合はより見つけにくいでしょう。ただ、通帳に目立つ出金記録がある場合は現金がどこかに隠されている可能性が高いです。
貸金庫を利用される
銀行や郵便局が行っている貸金庫サービスは、財産隠しにぴったりです。なぜなら、貸金庫に入れたものの内容は第三者に知られることがないためです。現金や貴重品の保管に貸金庫を利用するケースがありますが、そもそも相手が貸金庫を利用していることを知らない場合は、隠されている財産を見つけることは難しいと言えます。
子どもや親族の口座に預けられる
複数回に分けて子どもや親族の口座にお金を移動させておくことで、一時的に財産を隠すことは可能です。相手側の親族の預金通帳を見ることはまずないであろうことから、取引に気づけない可能性が高いでしょう。ただし銀行振り込みをしていた場合、取引履歴の照会で気づけるかもしれません。
共有財産と固有財産を分けられる
共有財産と固有財産をあらかじめ確実に区分しておくのも有効な方法です。共有財産と固有財産を一緒の口座で管理すると、固有財産も財産分与の対象になることがあります。結婚したタイミングで新しい共有財産用の口座を作り、給与の振り込みや各種支払いを行っている場合には、共有財産と固有財産がきっちり分けられている可能性が高いといえるでしょう。
共有財産を個人の買い物や返済に当てられる
共有財産を使って好きな物を買ったり返済に充てたりすれば、使用した金額分だけ共有財産から利益を得たことになります。現金を引き出して使うだけでなく、口座から引き落として使用した場合も同様です。ただし引き落とされた金額は、預金通帳を確認すればすべて明らかになります。
隠し預金を見つけるための事前準備
相手の隠し預金を見つけるには、事前準備として以下の3つをチェックしましょう。
上記はどれも、相手が財産を隠していた場合に重要な証拠を見つけられる可能性が高いものです。
以下で詳しく解説していきます。
通帳を探す
通帳を見れば、隠し口座の存在や財産の流れが明らかになる可能性があります。家の中に隠し財産を貯金している口座の通帳や、キャッシュカードがないか探してみましょう。取引履歴を確認し、怪しいお金の流れがあればほかにも預金口座を開設している可能性があるため、写真を撮るなどして証拠を残しておくのがおすすめです。ただし、インターネットバンキングを利用していたり通帳を作っていなかったりする場合は、残念ながら見分けることは困難です。
郵便物をチェックする
取り引きしている金融機関から郵便物が来ることもあるため、気を付けてチェックしましょう。とくに、自分が把握している金融機関以外から郵便物が来た場合は注意が必要です。インターネットバンキングを利用している場合でも、郵便物のチェックで隠し口座が発覚することもあります。また過去に届いた郵便物を見返すと、有力な証拠を見つけられるかもしれません。
スマートフォンをチェックする
相手のスマートフォンをチェックし、金融機関のアプリがないかさり気なく見てみてください。最近はアプリ化している金融機関が多いため、もし口座を持っていればアプリを入れている可能性も高いです。ただし無断で操作することは決しておすすめできないので、無理のない範囲で行ってみてください。
離婚時に相手の預金隠しを探す方法
離婚時に相手が隠している財産を探す方法としては、主に以下の4つが挙げられます。
- 弁護士会照会制度を利用する
- 家庭裁判所への調査嘱託を依頼する
- 財産開示手続を利用する
- 各種資料を確認する
詳しく解説していきます。
弁護士会照会制度を利用する
弁護士会や法律事務所を通じて金融機関に照会を行う「弁護士会照会制度」を利用すれば、相手名義の口座の預金額などを調査できます。相手が口座を所有している銀行名を把握していなければ調べることはできませんが、弁護士の関与により財産探しが法的にサポートされるため、自力で探すよりも確実に隠し財産を見つけやすくなります。弁護士会照会にかかる費用は、1件あたりおよそ8,000円から1万円前後です。
ただ金融機関によっては、情報開示についてのガイドラインを設けているところもあり、弁護士会照会に応じてくれない可能性もあります。また、各支店や不動産のある市区町村単位のみでの調査となり全国の金融機関を調査できるわけではない点にも注意が必要です。
家庭裁判所への調査嘱託を依頼する
家庭裁判所に財産分与の申立てをして、その手続き内で調査嘱託を依頼すれば、相手の預金や貯金の情報開示を要求できます。離婚の際の財産分与を公正に行うためであれば、家庭裁判所には調査を命じる権限があります。調査嘱託は裁判所から会社や官庁などの機関に対して行われるため、弁護士会照会よりも回答に応じてもらいやすいです。
ただし、調査嘱託を利用するには裁判所で調停、審判、裁判を経ている必要があります。また金融機関の支店名まで把握しておかないと、調査嘱託を利用することはできません。
嘱託先から回答が得られれば、裁判上の有力な証拠になります。自身が望む結果ではなくても撤回できないため注意してください。
財産開示手続を利用する
財産開示手続を利用することにより、隠し財産を見つけやすくなります。財産開示手続とは、債権者が債務者の財産に関する情報を取得する手続きを指します。簡単にいえば、隠している財産があるのかどうかの取り調べを裁判所で受けることです。財産開示手続は、確定判決や公正証書など、執行力のある債務名義を持っているときに利用できます。債務者は財産開示手続を拒否したり虚偽の説明をしたりすると、6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられます。
各種資料を確認する
相手が隠している財産を調べるには、さまざまな資料を確保しておくことが重要です。具体的には、以下のような資料が隠し財産の存在を明らかにする手がかりになります。
- 預金通帳
- 前年度の確定申告書
- 不動産登記簿
- 有価証券
- 退職金の明細書
上記の資料は、写真を撮るかコピーを取って確保しておくのがおすすめです。配偶者あての銀行や証券会社からの郵便物は、普段から注意深くチェックしましょう。
財産分与で相手の財産隠しを成功させないための対策
離婚時に相手の財産を隠されたまま財産分与手続きを行ってしまわないためには、財産調査をしっかりと行い完了するまで離婚しないことが大切です。また、相手が財産を隠したり処分したりしないよう、保全処分を行うと安心です。
財産調査が終わるまで離婚しない
自分から離婚を切り出す場合は、相手に察知される前に財産調査を行い、隠し財産の有無を徹底的に調査しておくのがおすすめです。離婚を考えていることが相手にばれると、財産をできる限り隠そうとする人もいるためです。また相手が離婚したがっている場合、隠し財産がばれる前に早く離婚したいと考えている可能性もあります。その場合も財産調査をしっかり行い、相手の財産がすべて明らかになるまでは絶対に離婚しないことが重要です。もしも調停や裁判になれば調査が入る可能性もあるため、何を言われても揺るがない強い意志意思を持っておきましょう。
財産の保全処分を行う
相手が財産を隠匿・処分できないよう、裁判所に保全処分を求めることが可能です。保全手続きには、「人事訴訟法上の保全処分」「家事審判手続きにおける審判前の保全処分」「調停前の仮の措置」の3種類があります。調停前の仮の措置についてはほとんど利用されておらず、離婚前なら人事訴訟法上の保全処分、離婚後なら家事審判手続きにおける審判前の保全処分が利用されます。
財産分与後に財産隠しが分かった場合の対処法
財産分与を行った後に相手の隠し財産が発覚した場合でも、諦める必要はありません。有効な対処法としては、主に以下の3つが挙げられます。
- 改めて協議を行う
- 錯誤に該当するとして取消しを主張する
- 不法行為による損害賠償請求をする
財産を隠されていたとしても刑事責任を問うことはできませんが、財産分与内容の取消しの主張や損害賠償請求は可能です。
以下で詳しく解説します。
改めて協議を行う
相手の財産隠しが発覚した場合は、当事者間での協議を再度申し入れることができます。相手が応じれば、新たに見つかった分も含めてあらためて財産分与ができる可能性があります。なお、離婚協議書の清算条項には「本条項に定めるほか何らの債権債務がないことを確認する」のような記載をするのが一般的です。しかしこのような条項が記載されていた場合、新たな財産が明らかになったとしても財産分与の請求ができません。したがって協議書の清算条項には、財産隠しのリスクを踏まえて、但し書きで「新たな財産が見つかった場合はこの限りではない」といった旨を記載しておくことが大切です。
錯誤に該当するとして取消しを主張する
財産を隠されたまま財産分与が行われた場合、民法上の「錯誤に該当する」として取消にできる可能性があります。あらかじめほかにも財産があることを知っていれば、当然計算に入れるはずと考えられるためです。もし離婚協議書に清算条項が入っていても、錯誤だった場合は取り消しできます。
不法行為による損害賠償請求をする
離婚後に財産隠しが発覚した場合、相手に損害賠償請求ができる可能性があります。相手が故意に財産を隠したことにより、本来受けられるはずの分与財産を受けられなかったということが損害の扱いになります。不法行為に基づく損害賠償請求を行使できる期間は、「損害および加害者を知った日から3年間」です。すでに離婚していても、新たな財産が発覚してから3年以内なら損害賠償請求が可能です。
財産隠しに対処するために知っておきたいポイント
財産分与の請求権は、離婚から2年でなくなってしまう点に注意しましょう。もし相手が財産を隠しているかもしれないと疑っている場合は、弁護士に相談すれば調査や必要な手続きを行ってもらえます。
財産分与の請求権は離婚から2年でなくなる
離婚から2年経つと、財産分与の請求権はなくなってしまいます。離婚時に気づかなかった財産が見つかったとしても、2年経過してしまうと請求できません。この2年間は、民法上は時効ではなく「除斥期間」とみなされるので、中断や停止の主張も行えない点には注意が必要です。正当に分与されるはずの財産を確実に受け取るためにも、財産分与は早急に行いましょう。
離婚時に財産隠しが疑われる場合は弁護士に相談
相手の財産隠しを疑っている場合は、弁護士に相談するのがおすすめです。弁護士であれば、隠し財産に関する調査や相手方との話し合いを任せられます。のちに調停や訴訟になる可能性を考慮しても、一人で解決しようとするのではなく弁護士に相談しておくのが賢明でしょう。
まとめ
離婚時の貯金隠しは、罪にはあたらないものの民事上の不法行為として賠償請求できる可能性があります。弁護士会照会制度や財産開示手続などを利用すれば、隠されている預金を探すことができ、もし財産分与後に新たな財産が発覚したとしても、取消しの主張や損害賠償請求が可能です。ただ、相手の隠し財産を含め確実に財産分与を行うには、弁護士に相談することをおすすめします。
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