離婚時には夫婦で公平に財産を分け合う「財産分与」の手続きを行いますが、独身時代の貯金も含めて分けなければならないのか、不安に感じている人も多いでしょう。
基本的に、結婚前に行った貯金は財産分与の対象にはなりません。ただし、結婚前から使っていた口座で夫婦の生活費を支払っていた場合や、結婚してから長期間が経過し、結婚前の貯金額を証明することが難しい場合は、財産分与の対象になる可能性があります。
財産分与が対象となるかどうかの判断は明確には難しいため、実際に争いになることも少なくありません。自分だけで判断が難しい場合は、弁護士に相談することをおすすめします。弁護士に相談することで、財産の権利を主張しやすくなるほか、手続きのサポートも受けられるため、精神的な負担も軽減されるでしょう。
この記事では、独身時代の貯金が財産分与の対象となるかどうかについて、財産分与の概要と共に詳しく解説します。また、共有財産との違いや貯金の財産分与における注意点についても紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
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結婚前(独身時代)の貯金は財産分与の対象になる?
結婚前の貯金は「特有財産」に分類されるため、原則として財産分与の対象になりません。
※特有財産とは、夫婦どちらか一方に帰属する固有の財産のこと。詳しくは後述します。
ただし、以下のようなケースでは結婚前の貯金でも、例外的に財産分与の対象になる可能性があります。
- 結婚前から使っている共有口座の貯金
- 熟年夫婦が独身時代にしていた貯金
それぞれどのようなケースなのか、財産分与の定義も含めて、詳しく解説します。
財産分与は夫婦で協働した財産が対象になる
財産分与とは、離婚をした夫婦の一方が他方に対して、財産の分割を請求することです。財産分与は以下3つの性質を有しているとされています。
・夫婦が共同生活を送る中で形成した財産の公平な分配
・離婚後の生活保障
・離婚の原因を作ったことへの損害賠償
法務省 財産分与
この中でも「夫婦で協力して得た財産を公平に分配すること」が重視されています。そのため、独身時代の貯金は夫婦で協働して得たものとはいえず、財産分与の対象にならないことがほとんどです。
なお、財産分与は、離婚時または離婚後2年以内に行う必要があります。
結婚前から使っている共有口座は財産分与の対象となる場合もある
結婚前から使っている共有口座の預金は、財産分与の対象となる場合があります。なぜなら、共有口座内の預金を普段の生活で使っている場合、それが夫婦の共有財産なのか、夫婦どちらか一方に固有の財産なのかを区別するのが難しくなるからです。証明が難しければ財産分与の対象になると考えておいた方がよいでしょう。
たとえば、10年間同居しており、この期間中に夫名義の預貯金が夫婦の家計と渾然一体となっていたケースでは「同居期間中の収入によって独身時代の貯金の減少分が補填されていたと考えられるため、結婚時の預貯金残高を特有財産として控除すべきではない」との判決が出された事例があります。
熟年夫婦の場合は独身時代の貯金も共有財産と見なす場合もある
熟年夫婦の場合は、独身時代の貯金も共有財産とみなされるケースがあります。
夫婦どちらか一方の名義になっている預金が共有財産ではないことを証明するためには、通帳を確認するか、金融機関で取引履歴を照会する必要があります。
しかし、多くの金融機関では、数十年以上前の取引履歴を遡ることは難しく、通帳がない場合は実態を確認する術がなくなってしまうでしょう。取引の履歴が確認できなければ、婚姻前の財産であることを立証しにくくなるため、共有財産とみなされる可能性があります。
婚姻後の同居期間が長いほど、独身時代の貯金との区別がつきにくくなる点には注意しましょう。
財産分与の対象有無を決めるのは「特有財産」か「共有財産」かどうか
財産分与の対象になるかどうかは、その財産が特有財産と共有財産のどちらに該当するかによって決まります。以下では特有財産と共有財産の定義や、具体例をみていきましょう。
なお、プラスの財産だけではなく、マイナスの財産(借金)も財産分与の対象です。
「特有財産」とは夫婦の一方が独自に持っている固有の財産
「特有財産」とは、夫婦のどちらか一方に帰属する、固有の財産のことです。特有財産は、夫婦の協力によって得た財産ではないので財産分与の対象外になります。
以下は、特有財産の代表例です。
- 結婚前から持っていた財産(預金や株、不動産、自動車など)
- 家族や親族から贈与を受けた財産
- 家族や親族から相続した財産
- 配偶者からのプレゼント
- 結婚前からの借金
- ギャンブルや浪費などによる借金
「共有財産」とは夫婦が協力し合って形成した資産
「共有財産」とは、夫婦が結婚している間に協力して一緒に形成した財産のことです。共有財産は、夫婦の協力によって得た財産なので財産分与の対象になります。
結婚生活中に共同で得た以下のような財産は、共有財産に分類されるケースが一般的です。
- 預貯金
- 不動産
- 株式
- 退職金
- 自動車
- 年金
- 生命保険
- 家財
- へそくり
また、以下のように夫婦生活を維持するためにした以下のような借金も共有財産に分類されます。
- 自宅購入のための住宅ローン
- 教育費捻出のための教育ローン
- 生活費補填のためのカードローン
なお、離婚を前提に別居したあとに取得した財産は、共有財産とはみなされず、財産分与の対象外とされることが多くなっています。
特有財産と共有財産を明確に分けることは困難
特有財産と共有財産を明確に分けることは難しくなっています。というのも、特有財産と共有財産の性質が混在している財産もあり、立証が難しいことがあるからです。民法においては、特有財産であることを立証できない場合は、共有財産として推定するとしています。
(夫婦間における財産の帰属)
第七百六十二条 夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は、その特有財産(夫婦の一方が単独で有する財産をいう。)とする。
2 夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は、その共有に属するものと推定する。
e-GOV 民法
たとえば、住宅ローンの頭金を夫婦の一方が自身の預貯金から支払うようなケースでは、頭金が特有財産、住宅ローンで支払った分が共有財産としてみなされることが多くなっています。
退職金も特有財産と共有財産が混在しているケースの一つです。退職金は「給与の後払い」のような性質があるため、財産分与の対象としてみなされ、実質的な婚姻期間と退職金の支給にかかる勤務年数を考慮して、財産分与額が決まります。そのため、婚姻前に積み立てられた退職金は「特有財産」、婚姻後に積み立てられた退職金は「共有財産」とみなされるケースが一般的です。
特有財産と共有財産の線引きは、かなり難しい部分があります。とくに夫婦生活が長い場合は、財産の取得時期がわからない場合も多く、立証が難しくなることもあるでしょう。
財産分与の方法で悩んだ時は、法律の専門家である弁護士へ相談してみるのも一つの手です。財産分与の対象になる財産や金額など、今後の手続きの進め方を含めて、具体的なアドバイスをもらえるでしょう。
結婚前の貯金を特有財産として証明するために行うこと
結婚前の貯金を特有財産として証明したい場合は、以下のような方法を検討してみましょう。
- 婚姻前の貯金通帳や残高証明書を確認する
- 弁護士に相談する
それぞれ詳しく解説します。
婚姻前の貯金通帳や残高証明書を確認する
過去の残高や入出金状況が残された貯金通帳は、結婚前の貯金を特有財産として証明するのに有効です。
紛失した場合は、残高証明書を金融機関に発行してもらうのもよいでしょう。残高証明書とは、指定した時点での口座残高を証明する書類です。金融機関に残高証明書の発行を依頼することで、10年以内の取引記録であれば開示してもらえる可能性があります。
弁護士に相談する
夫婦生活が長くなると、結婚前の通帳を持っていないことも多くあるでしょう。口座開設してから10年以上経過している場合は、金融機関の取引履歴を開示することが難しいため、預金が特有財産であることを証明しにくくなってしまいます。
また、結婚前から使っている口座で夫婦の家計を管理している場合は、特有財産であることを主張しにくいこともあるでしょう。
結婚前の貯金が特有財産であることを証明する方法がわからない場合は、弁護士に相談してみましょう。離婚問題に詳しい弁護士であれば、個別のケースを考慮しながら、財産の調査や評価などに関して、適切な解決策を提案してくれます。早めに相談することで、離婚時の不要な争いを避けられるでしょう。
まとめ
結婚前の貯金は特有財産と見なされるケースが一般的で、結婚生活中に共同で築いた共有財産とは区別されます。特有財産は、原則として離婚時の財産分与の対象外です。
しかし、結婚前の貯金を共有口座で管理しているような場合は、共有財産か特有財産かを区別するのが難しいこともあるでしょう。特有財産であることを証明するのが難しい場合は、法律の専門家である弁護士に相談することが重要です。財産分与に関する知識が豊富な弁護士であれば、証拠の集め方や交渉の進め方などに関して、適切なアドバイスを受けられるでしょう。
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