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離婚時に年金分割を拒否できる?拒否する際のポイントや注意点を解説

離婚時に年金分割を拒否できる?拒否する際のポイントや注意点を解説

厚生年金を納めている場合、離婚時に年金分割を請求される場合があります。しかし、この年金分割を拒否したい場合はどうすればいいのでしょうか?

年金分割は、離婚時に夫婦で納めた厚生年金を分け合う制度です。法的に定められた制度のため、原則として拒否できません。しかし、双方の合意があれば、年金分割を放棄して離婚することは可能です。また、年金分割には「合意分割」と「3号分割」があり、3号分割は相手との合意がなくても請求可能です。

年金分割は原則拒否ができない制度ですが、以下に該当する場合は拒否可能です。

  • 離婚して2年が経過しているケース
  • 結婚前に納めていた保険料があるケース
  • 加入している年金が国民年金のみケース
  • 相手方よりも年金受給額が少ないケース
  • 年金加入期間が10年に満たないケース

上記に該当しない場合で、どうしても拒否したいのなら財産分与での調整を求めてみるのも1つの方法です。年金分割をしないとの合意が得られたら、忘れないようにその旨を離婚協議書に記載しておきましょう。もし合意が得られず調停や審判になった際には、相手に年金分割を得る資格が無いことを証明するため、生活態度の記録などの資料を用意する必要があります。年金分割を拒否するには相手との交渉が必要なため、スムーズに交渉を進めるためには弁護士に相談するのがおすすめです

また、離婚時に知っておきたい年金分割についての注意点もあります。

  • 年金分割をしないと年金受給額に影響が出る
  • 3号分割は原則拒否できない
  • 婚姻中に年金の加入状況が変われば合意分割と3号分割を併用する
  • 合意分割での按分割合は最大1/2
  • 事実婚の解消時に年金分割が認められる場合がある

本記事では、老後の生活に関わる年金分割について詳しく解説していきます。年金分割を拒否したい人は、ぜひ参考にしてください。

基本的に離婚時に年金分割は拒否できない

年金分割は法的に定められた制度のため、基本的に拒否はできません。ただし、分割割合については双方の協議によるため、相手の提案を拒否することは可能です。また、双方の合意があれば年金を分割せずに離婚できます。その際は離婚協議書などに分割しない旨を記述しましょう。しかし、合意があっても請求権がなくなるわけではないこと、3号分割は相手の合意が無くても請求できる点に注意が必要です。

年金分割は離婚時に夫婦で納めた厚生年金を分け合うこと

年金分割は、離婚時に夫婦が婚姻期間中に払い込んだ厚生年金を分割して分け合える制度です。離婚時には、婚姻時に築いた資産は夫婦共有の財産との考えに基づいて「財産分与」が行われますが、年金分割も同じ考えの元で法的に定められた制度です。そのため、基本的には分割を拒否することはできません

たとえば夫が働いて厚生年金保険料を支払い、妻が専業主婦をしていた場合、妻の内助の功があってこそ安心して働き保険料を納めてこられたと考えられます。夫婦で協力して支払ってきたものなので、年金も寄与度に応じて分割します。先程分割を拒否できないと説明しましたが、分割割合に関しては提案した割合を相手に拒まれる可能性があります

双方が合意すれば年金分割を放棄して離婚は可能

協議離婚で双方が年金分割の放棄に合意していれば、分割せずに離婚することは可能です。合意する場合は、離婚協議書に「年金分割は行わない」旨を明記する必要があります。

ただし、分割はしないと同意しても請求権がなくなるわけではありません。もし合意後に相手が請求権を行使してきた場合は、調停や協議、審判によって按分割合を決めることになります。そのため、確実に年金の分割を防ぎたい場合は「不起訴の合意」(家庭裁判所に審判や調停などの申し立てをしない趣旨の合意)を離婚協議書に示しておくと良いでしょう。

なお、後に解説する3号分割は相手の合意がなくても行えます。双方の合意によって分割しないと取り決めても、後から気が変わった場合は分割可能です。ただし、離婚後2年が経過していれば分割を拒否できます。

年金分割には2種類の制度がある

年金分割には、当事者同士で分割割合を決める「合意分割」と、国民年金第3号被保険者が請求できる「3号分割請求」の2種類があります。分割の方法や手続きなどが異なるため、それぞれのポイントを詳しくみていきましょう。

当事者同士で割合を決めて分割する「合意分割」

合意分割は、夫婦の合意があった場合に厚生年金を任意の割合で分割できる制度です。年金分割は金額の多い方から少ない方へ分割するものです。年金額そのものを按分するわけではないので注意しましょう。合意分割制度では、双方の話し合いによって厚生年金の標準報酬部分の最大50%まで分割できます。

もし割合に対して双方の合意が得られない場合には、調停や審判によって決めることとなります。調停で双方の合意が得られると合意内容が調停調書に記載されます。調停が成立しなかった場合には審判に進みますが、その場合は裁判官が按分割合を定めることになります。

合意分割を行うには、当事者それぞれの標準報酬月額・標準賞与額、按分割合を定めることができる範囲などの情報が記された「情報通知書」を年金事務所へ請求する必要があります。情報通知書の請求には、以下の書類が必要です。

  • 年金分割のための情報提供請求書
  • (請求書に基礎年金番号を記載する時)基礎年金番号通知書または年金手帳など
  • (請求書にマイナンバーを記載する時)マイナンバーカードなど
  • 婚姻期間を明らかにできる書類(戸籍謄本または戸籍抄本)
  • 事実婚関係にある場合は、住民票などの事実婚を証明できるもの

「年金分割のための情報提供請求書」は年金事務所や年金相談センターで入手できるほか、日本年金機構のHPからもダウンロードできます。なお、通知書の請求は離婚した翌日から2年以内に行う必要があります。

国民年金第3号被保険者が請求できる「3号分割請求」

3号分割請求は、専業主婦や社会保険の扶養範囲内で働く妻など、国民年金第3号被保険者が利用できる制度です。相手との話し合いや調停などは必要なく、3号被保険者が年金事務所へ請求すれば分割ができます。分割割合は婚姻期間中の3号被保険者期間における、相手の厚生年金記録の2分の1となります。

3号分割を請求する場合は、離婚後に下記書類を揃えて年金事務所まで提出しましょう。

  • 標準報酬改定請求書
  • (請求書に基礎年金番号を記載する時)基礎年金番号通知書または年金手帳など
  • (請求書にマイナンバーを記載する時)マイナンバーカードなど
  • 婚姻期間を明らかにできる書類(戸籍謄本または戸籍抄本)
  • 事実婚関係にある場合は、住民票などの事実婚を証明できるもの
  • 請求日前1カ月以内に作成された、夫婦2人の生存を証明できるもの(戸籍謄本、戸籍抄本、住民票ただし、請求書にマイナンバーを記入すれば省略可能)

もし、離婚の届け出をしていない状態で事実上離婚状態にあることを理由に3号分割を請求する場合は、住民票や双方が事実上の離婚状態にあると認める旨の申立書も添付します。

ただし、2008年4月以前に積み立てた分に関しては3号分割請求の対象外です。2008年4月以前の分を請求したい場合は、調停や審判などで分割する必要があります。

年金分割を拒否できる5つのケース

原則拒否はできない年金分割ですが、中には拒否ができるケースもあります。該当するのは以下の5つのケースです。

  1. 離婚して2年が経過している
  2. 結婚前に納めていた保険料がある
  3. 加入している年金が国民年金のみ
  4. 相手方よりも年金受給額が少ない
  5. 年金加入期間が10年に満たない

なぜ拒否が可能なのか、それぞれを詳しく解説します。

1.離婚して2年が経過しているケース

年金分割は、離婚が成立してから2年以内に手続きしなくてはいけません。そのため、離婚後2年が経過してからの請求は拒否できます。ただし、分割に関しての情報を相手に与えておらず2年が経過した場合などでは、拒否をするとトラブルに発展する恐れがあるため、離婚時に双方で話し合いをしておきましょう。

また、2年の期限内に年金分割についての調停や審判を申し立てていれば、調停や審判成立後6カ月まで手続きの期限が延長されます。

2.結婚前に納めていた保険料があるケース

年金分割の対象となるのは、婚姻期間中に払い込んだ年金分のみです。結婚前に納めた厚生年金保険料は対象外のため、結婚前の分を分割請求された場合は拒否できます。

晩婚だったり、婚姻期間が短かったりと婚姻期間中よりも結婚前に納めた保険料の方が圧倒的に多い場合には、年金分割によって被る不利益を最小限に抑えられる可能性があります。

3.加入している年金が国民年金のみのケース

自営業者や個人事業主で、国民年金のみに加入している場合は年金分割ができません。年金分割の対象となるのは、婚姻期間中の厚生年金共済年金です。そのため国民年金にしか加入していなければ、分割請求を拒否できます。

4.相手方よりも年金受給額が少ないケース

年金分割は、年金の多い方に対して少ない方が請求する制度です。そのため、年金が多い方から分割を求められた場合は、その請求を拒否することが可能です。

5.年金加入期間が10年に満たないケース

2017年より、年金を受け取るのに必要な加入期間が10年となりました。65歳になった時点で10年以上加入していないと、そもそも年金を受け取る資格がないため、年金分割も行われません。

ただし、合算対象期間があったり、直近2年間の未納分を納付することで条件を満たした場合、高齢任意加入制度を利用して保険料を納めたりといった場合には、請求される可能性もあります。

年金分割を拒否する際のポイント

条件次第では拒否することも可能な年金分割ですが、拒否する際のポイントも抑えておきましょう。

  • 財産分与での調整を求める
  • 離婚協議書に年金分割をしない旨を記載する
  • 調停や審判になった際は相手の生活態度の記録などを用意する
  • 弁護士に相談する

それぞれのポイントを詳しく解説します。

財産分与での調整を求める

年金分割を拒否したいなら、離婚時の話し合いで財産分与での調整を求めるのも1つの方法です。厚生労働省が発表した「令和元年度 厚生年金保険・国民年金保険事業の概要」によると、年金分割をして増えた年金月額の平均は30,651円です。
参照:参考資料6 厚生年金保険(第1号)における離婚等に伴う年金分割の状況 | 厚生労働省

年金分割をして月3万円増えたとしても、老後の生活費のあてにするには物足りない金額です。面倒な手続きをしないといけない割にはメリットがあまりないことを相手に伝え、まずは年金分割を拒否したい旨をしっかりと意思表示しましょう。その上で、財産分与によって調整する旨を提案するとスムーズです。

財産分与では、年金分割の対象とならない確定拠出年金や企業型年金などの私的な年金も分割の対象にできます。その点を説明すると、より認めて貰える可能性が高まるかもしれません。

離婚協議書に年金分割をしない旨を記載する

話し合いで、年金分割をしないと双方の合意が得られた場合、離婚協議書にその旨を記載します。ただし、年金分割をしないことが離婚協議書に書かれていても、分割に対する請求権が消滅するわけではありません。一度合意した相手が後に請求してきた際には、調停や審判で分割割合を決めることとなります。

確実に合意分割を避けたい場合は、「協議や調停、審判を行わない」といった合意も併せて離婚協議書に記載しておくと良いでしょう。

調停・審判になった時は相手の生活態度の記録などを用意する

合意分割を拒否し、相手が納得しない場合は相手方が年金分割調停や審判を申し立てる可能性があります。調停や審判では、調停員や裁判官が年金分割をするのか、または分割割合を双方の主張をもとにして判断します。

年金分割は、厚生年金保険料を払えたのは夫婦で協力してきたからだとの考えに基づいて行われます。そのため、家事や育児の義務を果たさなかったなど相手側の生活態度に問題があれば、年金分割の拒否が認められる可能性があります。調停や審判で相手の生活態度を説明できるよう、記録などがあれば用意しましょう。完全に分割を拒否できなかった場合でも、調停員や裁判官を説得できる材料があれば、分割割合が減らせるかもしれません。

弁護士に相談する

基本的には拒否できない年金分割ですが、場合によっては自分に有利なように話し合いを持っていくことも可能です。しかし、そのためには年金分割について詳しく知る必要があります。また、話し合いがまとまらずトラブルに発展したり、調停や審判へ移行することも考えられます。

弁護士に相談すれば、年金分割を含む離婚時のトラブルに対してアドバイスや対処法を提案してもらえます。法的な知識に基づいた理論的な交渉ができるため、年金分割の拒否についての合意も得られやすくなるでしょう。また、調停や審判になった際に対応できるのも大きなメリットです。他にも分割をすることになった際の書類作成や手続きを代行してもらえるなど、弁護士に相談することで離婚時のバタバタが軽減される可能性もあります。

離婚時における年金分割の注意点

離婚時の年金分割に対しては、注意するべき点がいくつかあります。

  • 年金分割をしないと年金受給額に影響が出る
  • 3号分割は原則拒否できない
  • 婚姻中に年金の加入状況が変われば、合意分割と3号分割を併用する
  • 合意分割での按分割合は最大1/2
  • 事実婚の解消時に年金分割が認められる場合がある

年金分割で「こんなはずじゃなかった」とならないために、上記の注意点をしっかりと把握しておきましょう。

年金分割をしないと年金受給額に影響が出る

専業主婦や社会保険扶養内で働いていた場合、配偶者よりも著しく厚生年金の基準額が低い場合などは、離婚時に年金分割を行わないと将来受け取れる年金額が分割を行なった場合に比べて低くなる可能性があります。

また、年金分割は自動的に行われるものではありません。必要書類を揃え、年金事務所などで手続きをする必要があります。手続きは離婚後2年以内にしないといけないため、年金分割を行う場合は忘れずに手続きをしましょう。

3号分割は原則拒否できない

専業主婦(主夫)や、社会保険の扶養内でパート勤務などをしている場合は、3号分割が請求できます。3号分割は相手方の同意がなくても請求可能で、原則として請求された側は拒否することはできません。また3号分割の場合、分割割合は必ず1/2となります。

ただし、3号分割ができるのは2008年4月以降の年金記録分のみです。それ以前のものに関しては、合意分割にて取り決めることとなります。

婚姻中に年金の加入状況が変われば合意分割と3号分割を併用する

専業主婦(主夫)をしていた人が途中で就職し厚生年金に加入したり、共働きから専業主婦になり厚生年金から国民年金に変わったりと、婚姻期間中に年金の加入状況が変わることがあります。その場合は、離婚時に合意分割と3号分割を併用して請求が可能です。

ちなみに、合意分割の請求をした際に婚姻期間中に3号分割の対象となる期間があれば、合意分割と同時に3号分割の請求があったとみなされるため、分けて請求する必要はありません。

合意分割での按分割合は最大1/2

合意分割では、話し合いによって按分割合を決めます。ただし、按分割合の限度は最大で1/2までと決まっているため、合意があったとしてもそれ以上の割合で分割するのは不可能です。

また、話し合いで合意が得られない場合は調停や審判を申し立てますが、調停や審判では按分割合が1/2となることがほとんどです。1/2以下にしたい場合は、生活態度の記録などの説得できる材料が必要となります。

事実婚の解消時に年金分割が認められる可能性がある

事実婚は実質的に夫婦関係と同等の状況にあるとみなされ、期間中にお互いが稼いだ財産は共有財産として扱われます。そのため、事実婚でも年金分割が認められる場合があります。

ただし、事実婚の場合はその関係にあった期間を正確に証明することが難しく、合意分割の請求は困難になるでしょう。しかし第3号被保険者になっている期間があれば、事実婚関係にあると客観的に証明できます。結果、3号分割の請求が可能となります。

事実婚解消による3号分割の場合も、請求期限は事実婚が解消したと認定された日の翌日から2年間です。また、年金を分割する側の人物が亡くなった場合は、死亡した日から1カ月以内に請求しないといけません。

まとめ

年金分割は法で定められた制度のため、原則拒否ができません。しかし、離婚後2年が経過していたり、結婚前に納めていた保険料がある場合など拒否できるケースも存在します。まずは、自身が拒否できるケースに該当するかどうかを確認しましょう。

年金分割を拒否したいのなら財産分与での調整を打診したり、調停や審判で相手の生活態度に問題があった証明をするなどの方法もあります。年金分割には3号分割は拒否できない点や、合意分割の最大按分割合など注意点も頭に入れておく必要があるでしょう。もし、交渉や手続きに悩んだら、弁護士に相談することをおすすめします。分割にあたってのアドバイスや、代理交渉などさまざまな面での手助けとなるでしょう。