認知とは、法的に子どもの父親であると認めること
認知とは、婚姻関係を結んでいない男女の間に生まれた子どもに対し、自分の子どもであると認めることです。
母親側は産まれた時点で法律的に親子関係が生じることになっているため、一般的に認知は父親と子どもの間で親子関係を認めることを指します。
認知すれば父親と子どもの間の親子関係が法的に認められ、子どもの戸籍に父親の名前が記載されます。また、法律上は一度認知した後に取り消しすることはできません。
次の項目から、認知の基本的な概要について詳しく解説します。
認知されると、戸籍に父親の名前が記載される
認知は親子関係を認める法律上の手続きであるため、父親が認知すると子どもの戸籍に父親の名前が記載されます。反対に、認知をしていない状態の場合、子どもの戸籍では「父」の箇所が空欄になっています。
出生届には「母」と「父」の名前を記載する箇所がありますが、未婚の状態で「父」の名前を書いても、認知届が提出されなければ法律上の親子関係は認められず、戸籍にも名前は記載されません。
父親が認知をしているのであれば、出生届と認知届を同時に出せば、子どもの戸籍に「父」の名前が記載され、法的に親子関係が認められます。
一方、父親が認知をしていない場合、一旦は母親の名前だけで出生届を提出することになります。認知届には提出期限が設けられていないため、子どもが生まれてしばらく経ってから提出する形でも問題はありません。
一度認知すると基本的には取り消せない
一度認知すると基本的に後から取り消しをすることはできません。民法第785条において、以下のように定められているためです。
(認知の取消しの禁止)
第七百八十五条 認知をした父又は母は、その認知を取り消すことができない。
参照:
民法|e-Gov 法令検索
認知届が正式に受理された後、仮に相手が「養育費を支払いたくないからやっぱり認知を取り消したい」と主張しても、認知を取り消すことはできません。
ただし、以下のように特殊な事情があれば、認知の無効を主張することが可能です。
- 認知した人が意思能力を喪失していた
- 父子の間に血縁関係がない
- 詐欺・脅迫によって認知をした
認知の取り消し(撤回)は法律上認められていませんが、認知をなかったことにする「無効の主張」であれば認められています。
なお、認知の無効が認められるのは特殊な状況下のみであるため、基本的には一度認知すると親子関係は一生続くものと認識しておきましょう。
認知届の提出後に母親側が「やっぱり取り消したい」と思っても撤回することはできないため、事前に認知してもらうべきかどうかをよく考える必要があります。
認知のデメリット|認知してもらわない方がいい4つのケース
認知すると後からの取り消しはできないため、デメリットを把握したうえで認知してもらうべきかどうかを検討しましょう。認知してもらわない方がいいケースは以下のとおりです。
- 遺産相続・負債相続に巻き込まれたくない
- 相手の男性と関わりを持ちたくない
- 相手の男性への扶養義務を負わせたくない
- 費用や手間をかけたくない
それぞれのケースについて、詳しく解説していきます。
1.遺産相続・負債相続に巻き込まれたくない
相手の男性の遺産相続や負債相続に巻き込まれたくない場合は、認知をしてもらわない方がいいといえるでしょう。
認知すると父親と子どもの間に親子関係が認められ、子どもは父親の財産を相続する権利を持ちます。両親が婚姻関係を結んでおらず、別々に暮らしているとしても、法的な相続人は子どもになります。
そのため、認知してもらうことで将来的に遺産相続の争いに巻き込まれる恐れがあります。
たとえば相手の男性が認知した後、別の女性と結婚して子どもを設けた場合、相続人が「配偶者」「新しい女性との間の子ども」「自分の子ども」に増えることになります。そうすると、どのように遺産を分割するかで、他の相続人と揉める可能性が高くなるでしょう。
また、遺産相続は現金や不動産などプラスの財産だけでなく、借金などマイナスの財産も相続する必要がある点に注意が必要です。
遺産相続争いや負債の相続は相続放棄をすれば避けられますが、手続きの際に手間や費用が発生するため、子どもにとって負担になる可能性もあります。
相続関連のトラブルを避けたい場合は、認知しないことも視野に入れて検討しましょう。
2.相手の男性と関わりを持ちたくない
相手の男性が子どもを認知した場合、子どもと父親の親子関係が一生続くことになります。
そのため、相手の男性と関わりを持ちたくないという事情があれば、認知してもらうかどうかは慎重に考えた方がいいでしょう。
たとえば相手の男性に犯罪歴があったり、社会的な地位などからスキャンダルに巻き込まれたりする可能性があると、父子関係がトラブルの引き金になる恐れがあります。
仮にそのような事情がなくても、以下のような事情で相手の男性と関わりたくないケースも考えられます。
- 相手の男性からDVやモラハラなどを受けていた
- 相手の男性がストーカー気質である
- 相手の男性が別の家庭を持っている
- 諸事情により子どもに父親を知らせたくない
上記のような理由で相手の男性に対して恐怖感や不快感がある場合、子どもを認知されない方が子どものためになる可能性もあるでしょう。
3.相手の男性への扶養義務を負わせたくない
認知して親子関係が法的に認められると、子どもが大人になったとき、父親を扶養する義務が発生する可能性があります。
民法877条1項では「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある」と定められており、親が生活困難になった際には、子どもに扶養義務が生じます。
たとえば、病気や障害などで父親が働けなくなった場合や、年老いて生活に困窮した場合などです。もしも父親が生活保護の申請をした場合は、役所から「扶養できるかどうか」の問い合わせ(扶養照会)が来ることもあります。
また、認知症や障害などで一人暮らしが困難と判断されれば、同居や介護を求められる可能性もあるでしょう。子ども本人が介護するのが難しい場合は、介護施設の費用負担をしなければならないケースもあります。
一方、認知しなければ法的な親子関係は認められないため、当然相手の男性に対する扶養義務を負うこともありません。相手の男性の収入や生活状況を踏まえ、将来的に困窮する可能性がありそうなら、認知しない方がいいかもしれません。
参照:民法|e-Gov 法令検索
4.費用や手間をかけたくない
相手の男性が「希望すれば認知する」と言っている場合、認知届を役所に提出するだけなので、とくに費用や大きな手間は発生しません。
しかし、相手の男性が「認知したくない」と主張している場合は、認知してもらうための交渉が必要になります。当事者同士の話し合いだけで解決できれば問題ありませんが、交渉が難航する場合、弁護士に依頼することも視野に入れなければなりません。
弁護士費用は事務所によって異なるものの、交渉のみの場合で約20万円以上、調停を申し立てる場合で約50万円以上の費用が発生するケースが一般的です。
調停にまで発展すると、最低でも3ヶ月以上の期間がかかってしまうため、大きな費用と手間が発生することになります。
したがって、相手の男性が認知に消極的な場合、費用や手間をかけてまで認知してもらう必要があるのかどうかを考慮した方がよいでしょう。
認知のメリット|認知してもらった方がいい3つのケース
ここまで認知のデメリットを紹介してきましたが、認知にはメリットもあります。認知してもらった方がいいケースは以下のとおりです。
- 養育費を請求したい
- 相手の男性が持つ遺産を相続したい
- 子どもが知りたいなら父親が誰かを伝えたい
次の項目から、認知してもらった方がいい3つのケースについて詳しくみていきましょう。
1.養育費を請求したい
認知をしてもらうと、相手の男性に対して養育費を請求できます。
認知して法的に親子関係が認められると、父親には扶養義務が発生すると同時に、養育費の支払い義務も生じるためです。仮に相手の男性が支払いを拒否しても、裁判所の手続きを経て養育費の請求ができます。
そのため、シングルマザーで子どもを育てるのが厳しく、養育費を請求したい場合は、相手の男性に認知してもらった方がよいでしょう。
なお、認知をしてない状態でも、相手の合意を得られれば養育を支払ってもらうことは可能です。ただし、法的には相手の男性に養育費の支払い義務はないため、途中で支払いを止められてしまう恐れがあります。
また、認知をしていなければ裁判所の手続きをしても、養育費の支払いは認められません。したがって、養育費を請求する場合は、基本的に認知が必要になると認識しておきましょう。
2.相手の男性が持つ遺産を相続したい
前述したとおり、認知すると法的に親子関係が認められるため、子どもは父親の財産を相続する権利があります。
もしも相手の男性が多額の財産を有しているのであれば、子どもの将来の資金を確保できるのは、大きなメリットといえるでしょう。
仮に相手の男性が結婚して子どもを設けたとしても、法律上は嫡出子と非嫡出子が同じ割合で遺産を相続することが認められています。
嫡出子:法律上の婚姻関係にある夫婦の子
非嫡出子:婚姻関係にない男女の間に生まれた子
将来的に相手の男性が持つ遺産を子どもに相続させたいのであれば、認知してもらった方がよいでしょう。
3.子どもが父親の存在を知りたがっている
シングルマザーで子どもを育てていると、いつか子どもが「父親が誰なのかを知りたい」という気持ちを抱くケースも考えられます。
そんなとき、子どもが自分で戸籍を取得すれば「父」の欄に名前や住所の記載があるため、誰が父親なのかを調べられます。
また、認知されているということは「父親が自分の存在を認めている」ということでもあるので、子どもにとって安心感につながる可能性もあるでしょう。
子どもが成長したときに父親が誰なのかを伝えたい場合は、認知してもらうことも検討してみてください。
子どもを認知してもらう方法は3つある
子どもを認知してもらう方法には、以下の3つがあります。
方法 |
概要 |
任意認知 |
父親が「認知届」を提出して認知する方法 |
強制認知 |
裁判所に申し立てて強制的に認知させる方法 |
死後認知 |
遺言書・子どもからの請求により認知させる方法 |
一般的には相手の男性と話し合いをして任意認知の手続きを取りますが、相手が認知を拒否していたり死亡していたりする場合、強制認知または死後認知の手続きを取る必要があります。
ここでは、子どもを認知してもらう3つの方法について詳しく解説していきます。
任意認知|父親が「認知届」を提出して認知する方法
任意認知とは、父親が自分の意思で子どもを認知し、役所に「認知届」を提出する手続きのことです。
出生前に認知届を提出する場合の手続きは「胎児認知」と呼ばれ、母親の承諾が必要になります。一方、出生後に認知届を提出する場合、母親の承諾は必要なく、男性のみで手続きをすることが可能です。
ただし、子どもが18歳以上で成人している場合は、子どもの承諾を得なければ認知届の提出はできません。
相手の男性が認知をすると言っているのであれば、任意認知の手続きを取りましょう。任意認知は役所に認知届を提出するだけなので、費用はかかりません。
なお、認知届が提出されると、父子に血縁関係がない場合などを除き、後から認知を無効にすることはできません。そのため、認知を希望しない場合は役所に「認知届不受理申出」をしておきましょう。
強制認知|裁判所に申し立てて強制的に認知させる方法
強制認知とは、父親が認知を拒否した場合に、裁判所の手続きで認知を求めて親子関係を成立させることです。
強制認知の手続きを取る場合、まずは家庭裁判所に「認知調停」を申し立て、調停委員を介して相手方との話し合いを進めていきます。調停で父親が認知を承諾すれば調停成立となり、調停の申立人(母親・子ども)が認知届を提出して完了です。
なお、調停での話し合いが難航し不成立となった場合、審判や訴訟などで強制的に認知をすることになります。
認知調停に臨む際には、妊娠の経緯や相手の男性とのやり取りなどをまとめておきましょう。たとえばメッセージやり取りの中で、自分の子どもだと認めるような発言があれば、強制認知が成立する可能性が高くなります。
さらに、可能であれば子どもと男性のDNA鑑定を行い、血縁関係があることを証明しましょう。DNA鑑定には費用が発生するものの、調停や裁判において非常に有力な証拠となります。
もしも相手の男性にDNA鑑定を拒否されても、調停を進める中で裁判所からDNA鑑定が求められるケースがあります。それでも相手の男性が拒否するのであれば、「拒否していること自体が親子関係を認めている証拠」とみなされ、強制認知が認められる可能性が高くなります。
死後認知|遺言書・子どもからの請求により認知させる方法
死後認知とは、父親が亡くなったあとに、家庭裁判所への訴訟または遺言書によって親子関係を成立させることです。死後認知は遺産の相続を目的に行われることが多く、ほかにも遺族年金や保険金の受け取りなどを目的に行われることもあります。
死後認知の方法として、子どもから家庭裁判所に認知の訴えを起こすか、父親の遺言書で父子関係が証明されるかの2つがあります。
子どもが家庭裁判所に訴訟する場合、当事者はすでに死亡しているため、検察官を相手に訴えを起こすことになります。DNA鑑定などで血縁関係が証明されれば、親子関係が成立します。
注意点として、父親の死亡日から3年が経過すると死後認知の訴えを起こす権利がなくなるため、認知を希望する場合は早めに手続きを行いましょう。
一方、遺言による認知では、父親が自らの意思で認知の事実を記載した遺言書を残していれば、親子関係が成立します。訴訟やDNA鑑定などの手続きは必要ありません。
ただし、遺言書で子どもを認知するためには遺言執行者が必要です。遺言執行者とは、遺言の内容を実現するために、財産の分配や手続きを行う人のことを指します。もしも遺言執行者が定められていなければ、家庭裁判所に選任申立てを行わなければなりません。
まとめ
シングルマザーで子どもを育てていく場合、認知してもらうべきか、認知しない方がいいのかはそれぞれの状況によって異なります。
「遺産相続に巻き込まれたくない」「子どもに父親の扶養義務を負わせたくない」など、相手の男性との関わりを絶ちたいのであれば、認知しない方がいいといえるでしょう。反対に、養育費の請求や遺産相続を希望するのであれば、認知をしてもらう必要があります。
認知をしてもらう方法は、主に「任意認知」「強制認知」「死後認知」の3つです。
当事者間の話し合いで解決できれば任意認知、相手の男性が拒否している場合は強制認知の手続きを取ることになります。また、相手の男性がすでに死亡しているものの、諸事情により認知が必要な場合は、死後認知の手続きを進めましょう。
なかでも、強制認知や死後認知の手続きは複雑になりやすいため、弁護士や司法書士に相談しながら進めるのがおすすめです。
よくある質問
父親に別の家庭がある場合でも、認知を請求できる?
父親が既婚者で別の家庭を持っている場合でも、認知を求める権利があります。認知が認められれば養育費の請求も可能です。
ただし、認知された場合は子どもの戸籍に父親の情報が記載されるため、将来的に子どもが父親の戸籍を取得した際に自分が非嫡出子であることを知り、ショックを受けるリスクがあります。
そのため、不倫関係で生まれたことを子どもに知られたくないのであれば、認知はしないほうがいいかもしれません。
認知された場合、養育費はどのように決まる?認知前の分は請求できる?
養育費は、婚姻関係にある子どもの場合と同じ基準で決まります。父母それぞれの年収や子どもの年齢などを考慮し、養育費算定表に基づいて算出されるケースが一般的です。
なお、認知前の養育費については明確な法律の規定はありませんが、出生直後に申請し、認知前の期間の養育費が認められたケースもあります。
申請が遅れるほど認められにくくなることも考えられるため、認知や養育費の手続きは出生後なるべく早めに済ませましょう。
DNA鑑定をしなくても強制認知は請求できる?
DNA鑑定をしなくても強制認知の請求は可能です。
裁判ではDNA鑑定が強い証拠となりますが、その他の証拠が十分に揃っていれば認知が認められることもあります。
証拠としては、父親と母親の交際の記録、妊娠中のやり取り、出産後の関わり、金銭のやり取り、知人や親族の証言などが挙げられます。
まだ生まれていない胎児の状態でも、認知の手続きは可能?
父親が手続きを行えば、出生前でも認知届を提出できます。ただし、父親が認知を拒んだ場合は、基本的には出生後にしか手続きを進められません。
認知調停は胎児の間でも申し立てることができるものの、調停に強制力はないため、相手の男性が認知を拒否すれば調停が不成立となります。調停が不成立になった後は訴訟を起こすことになりますが、胎児の状態で認知の訴えはできません。
そのため、胎児の状態で認知の手続きをするためには、相手の男性から承諾を得ることが必要になります。
父親が未成年の場合でも認知の請求はできる?
父親が未成年の場合でも、認知の請求は可能です。
民法780条では「認知をするには、父又は母が未成年者又は成年被後見人であるときであっても、その法定代理人の同意を要しない」と定められており、原則として親権者の合意は必要ありません。
参照:民法|e-Gov 法令検索
無料相談・電話相談OK!
一人で悩まずに弁護士にご相談を
- 北海道・東北
-
- 関東
-
- 東海
-
- 関西
-
- 北陸・甲信越
-
- 中国・四国
-
- 九州・沖縄
-