厚生労働省の統計によると、令和3年の子ども1人あたりの養育費相場は2~5万円となっています。養育費とは、子どもを監護・教育するために必要な費用で、一般的には子どもが経済的・社会的に自立するまでに必要な費用です。
算定表や計算ツールで目安を知ることができますが、子どもの人数や年齢、両親の年収・職業・学歴などによって適正額も異なります。そのため、個人で養育費の適切な金額を決めることは困難です。
養育費は子どもを育てるために欠かせないお金のため、適切な金額を判断したり将来のトラブルを防いだりするためにも、弁護士への相談を検討するとよいでしょう。
本記事では養育費を支払う側の年収別相場や、養育費を決める流れを解説します。養育費の額が増減する要因や不払いを防ぐ方法、支払われない場合の対応もまとめました。養育費を相手に請求したい人や、養育費を請求されていて自分が支払うべき養育費の金額を知りたい人は、ぜひ参考にしてください。
養育費の相場は子ども1人あたり|2〜5万円程度
厚生労働省の発表した情報によると、令和3年の子ども1人あたりの養育費相場は2〜5万円です。
平均 | 1人 | 2人 | 3人 | 4人 | 5人 | |
---|---|---|---|---|---|---|
母子世帯 | 50,485円 | 40,468円 | 57,954円 | 87,300円 | 70,503円 | 54,191円 |
父子世帯 | 26,992円 | 22,857円 | 28,777円 | 37,161円 | ー | ー |
※養育費を現在も受けている、または受けたことがある世帯で、金額が決まっているものに限られる。
参照:令和 3年度 全国ひとり親世帯等調査結果の概要
母子家庭と父子家庭では、相場に2万円以上の差があります。
差がある理由としては、母親は妊娠・出産に伴い仕事を辞めたりキャリアが途絶えたりしがちで、年収が低い傾向にあるためです。一方で父親は、子どもが生まれても仕事を辞めずに続けていることがほとんどで、収入も高い傾向にあります。そのため、父親が支払う額のほうが高くなりやすいといえるでしょう。
また父子家庭14.9万世帯に対し、母子家庭は119.5万世帯と大半を占めています。離婚時に母親が親権を獲得している場合が多いため、父親が母親に対して養育費を支払っているパターンが多くみられます。
養育費の必要な金額は、生活環境や世帯収入によっても異なるため、目安として考えるとよいでしょう。
養育費の金額を決める際の目安になるもの
養育費は、以下の要素をもとに決まります。
- 子どもの人数
- 子どもの年齢
- 両親の年収・職業・学歴
ここでは、養育費算定表を使って確認する方法と、計算ツールを活用する方法を紹介します。
なお算定表やツールで目安を知ることはできますが、実際に請求する際は、自分で決めずに弁護士の知見を仰ぐことをおすすめします。
養育費算定表を使って確認する
1つ目は、裁判所が公開している養育費用算定表に当てはめて、養育費を確認する方法です。養育費用算定表とは、子どもの人数や年齢、父母双方の収入額などに応じて標準的な養育費額の目安を算出するための表です。
子どもの年齢と養育費を支払う側の年収(給与・自営別)利用者の年収(給与・自営別)を使用して確認します。
詳しくは裁判所『平成30年度司法研究(養育費、婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について (表1)養育費・子1人表(子0~14歳)』をご覧ください。
収入はサラリーマンの場合、源泉徴収票の「支払金額」の欄に記載してある金額を参考にします。
源泉徴収票を見たことがない場合は、相手の給与明細や給与口座の通帳でもだいたいの年収を把握することが可能です。
なお、正確な年収を算出する方法として、市町村役場で発行する所得証明書があります。所得証明書であれば「給与の収入金額」を確認します。
ただし所得証明書は、同居の配偶者であっても、相手方の同意がなければ発行できません。そのため保育所の入所申請や会社の手続きなどの際に取得して、保管していた場合に利用できることがあります。
一方、自営業者の場合は、確定申告書の「課税される所得金額」を参考にします。
確定申告書がどこにあるか不明な場合や、相手が見せてくれないときは、請求書や事業に使用している通帳など売り上げを示す資料を調査します。通帳や請求書などを調べれば、おおよその売上や経費などが把握できます。
養育費算定表を使用して金額確認できるのは、子どもが3人までの場合に限られます。また算定表の金額はあくまで目安のため、算定表で算出した金額どおりになるとは限りません。
計算ツールを活用する
2つ目は、計算ツールを活用する方法です。
Web上には、養育費を簡単に確認できる計算ツールがあります。「養育費 計算ツール」などで検索するとヒットするので、すぐに確認したい場合は検索がおすすめです。
両親の年収や職業、子どもの年齢・人数、再婚してるかどうかなどを入力すると、養育費の目安を自動で算出してくれます。
養育費算定表の見方がわからないときや、子どもが4人以上いる場合にも活用するとよいでしょう。
ただし実際に請求する際は、自分で決めずに離婚問題に強い弁護士に相談するのがおすすめです。
【養育費を支払う側の年収別相場】金額の目安
養育費の相場は、父母双方の収入によって異なります。養育費用算定表をもとに、養育費の支払義務者の年収と子どもの人数、給与所得者・自営業者別の養育費の相場を見てみましょう。
なお以下の表では、養育費の支払い義務者は再婚しておらず、権利者(養育費を受け取る親)の年収は0円として作成しています。
なお、算定表で目安を確認する際は、収入に児童扶養手当を加算しないようにしましょう。
児童扶養手当は未成年の子どもがいる家庭を経済的に助けるための制度です。しかし、親の子どもに対する扶養義務を補充するもののため、養育費による子どもの扶養が優先されます。
裁判所が作成した養育費算定表を利用する場合も、児童扶養手当や借入、補助金・助成金なしで計算するようにしてください。
年収400万円の養育費相場
養育費を支払う側の年収が400万円だった場合、子どもの人数、給与所得者・自営業者別の月額養育費の目安は次のとおりです。
●子ども1人の場合|4〜10万円
子どもの年齢 | 養育費の相場 |
---|---|
0~14歳 | 4~6万円 |
15歳以上 | 6~8万円 |
子どもの年齢 | 養育費の相場 |
---|---|
0~14歳 | 6~8万円 |
15歳以上 | 8~10万円 |
●子ども2人の場合|6〜12万円
子どもの年齢 | 養育費の相場 |
---|---|
2人とも0~14歳 | 6~8万円 |
第1子15歳以上、第2子0~14歳 | 8~10万円 |
2人とも15歳以上 | 8~10万円 |
子どもの年齢 | 養育費の相場 |
---|---|
2人とも0~14歳 | 10~12万円 |
第1子15歳以上、第2子0~14歳 | 10~12万円 |
2人とも15歳以上 | 10~12万円 |
●子ども3人の場合|8〜14万円
子どもの年齢 | 養育費の相場 |
---|---|
3人とも0~14歳 | 8~10万円 |
第1子15歳以上、第2・第3子0~14歳 | 8~10万円 |
第1子・第2子15歳以上、第3子0~14歳 | 8~10万円 |
3人とも15歳以上 | 10~12万円 |
年収500万円の養育費相場
子どもの年齢 | 養育費の相場 |
---|---|
3人とも0~14歳 | 10~12万円 |
第1子15歳以上、第2・第3子0~14歳 | 12~14万円 |
第1子・第2子15歳以上、第3子0~14歳 | 12~14万円 |
3人とも15歳以上 | 12~14万円 |
養育費を支払う側の年収が500万円だった場合、子どもの人数、給与所得者・自営業者別の月額養育費の目安は、次のとおりです。
●子ども1人の場合|6~12万円
子どもの年齢 | 養育費の相場 |
---|---|
0~14歳 | 6~8万円 |
15歳以上 | 8~10万円 |
子どもの年齢 | 養育費の相場 |
---|---|
0~14歳 | 8~10万円 |
15歳以上 | 10~12万円 |
●子ども2人の場合|8~16万円
子どもの年齢 | 養育費の相場 |
---|---|
2人とも0~14歳 | 8~10万円 |
第1子15歳以上、第2子0~14歳 | 10~12万円 |
2人とも15歳以上 | 10~12万円 |
子どもの年齢 | 養育費の相場 |
---|---|
2人とも0~14歳 | 12~14万円 |
第1子15歳以上、第2子0~14歳 | 12~14万円 |
2人とも15歳以上 | 14~16万円 |
●子ども3人の場合|10~18万円
子どもの年齢 | 養育費の相場 |
---|---|
3人とも0~14歳 | 10~12万円 |
第1子15歳以上、第2・第3子0~14歳 | 10~12万円 |
第1子・第2子15歳以上、第3子0~14歳 | 12~14万円 |
3人とも15歳以上 | 12~14万円 |
子どもの年齢 | 養育費の相場 |
---|---|
3人とも0~14歳 | 14~16万円 |
第1子15歳以上、第2・第3子0~14歳 | 14~16万円 |
第1子・第2子15歳以上、第3子0~14歳 | 16~18万円 |
3人とも15歳以上 | 16~18万円 |
年収600万円の養育費相場
養育費を支払う側の年収が600万円だった場合、子どもの人数、給与所得者・自営業者別の月額養育費の目安は、次のとおりです。
●子ども1人の場合|6~14万円
子どもの年齢 | 養育費の相場 |
---|---|
0~14歳 | 6~8万円 |
15歳以上 | 8~10万円 |
子どもの年齢 | 養育費の相場 |
---|---|
0~14歳 | 10~12万円 |
15歳以上 | 12~14万円 |
●子ども2人の場合|10~18万円
子どもの年齢 | 養育費の相場 |
---|---|
2人とも0~14歳 | 10~12万円 |
第1子15歳以上、第2子0~14歳 | 12~14万円 |
2人とも15歳以上 | 12~14万円 |
子どもの年齢 | 養育費の相場 |
---|---|
2人とも0~14歳 | 14~16万円 |
第1子15歳以上、第2子0~14歳 | 14~16万円 |
2人とも15歳以上 | 16~18万円 |
●子ども3人の場合|12~20万円
子どもの年齢 | 養育費の相場 |
---|---|
3人とも0~14歳 | 12~14万円 |
第1子15歳以上、第2・第3子0~14歳 | 14~16万円 |
第1子・第2子15歳以上、第3子0~14歳 | 14~16万円 |
3人とも15歳以上 | 14~16万円 |
子どもの年齢 | 養育費の相場 |
---|---|
3人とも0~14歳 | 16~18万円 |
第1子15歳以上、第2・第3子0~14歳 | 18~20万円 |
第1子・第2子15歳以上、第3子0~14歳 | 18~20万円 |
3人とも15歳以上 | 18~20万円 |
年収700万円の養育費相場
養育費を支払う側の年収が700万円だった場合、子どもの人数、給与所得者・自営業者別の月額養育費の目安は、次のとおりです。
●子ども1人の場合|8~16万円
子どもの年齢 | 養育費の相場 |
---|---|
0~14歳 | 8~10万円 |
15歳以上 | 10~12万円 |
子どもの年齢 | 養育費の相場 |
---|---|
0~14歳 | 10~12万円 |
15歳以上 | 14~16万円 |
●子ども2人の場合|12~20万円
子どもの年齢 | 養育費の相場 |
---|---|
2人とも0~14歳 | 12~14万円 |
第1子15歳以上、第2子0~14歳 | 14~16万円 |
2人とも15歳以上 | 14~16万円 |
子どもの年齢 | 養育費の相場 |
---|---|
2人とも0~14歳 | 16~18万円 |
第1子15歳以上、第2子0~14歳 | 18~20万円 |
2人とも15歳以上 | 18~20万円 |
●子ども3人の場合|14~24万円
子どもの年齢 | 養育費の相場 |
---|---|
3人とも0~14歳 | 14~16万円 |
第1子15歳以上、第2・第3子0~14歳 | 16~18万円 |
第1子・第2子15歳以上、第3子0~14歳 | 16~18万円 |
3人とも15歳以上 | 16~18万円 |
子どもの年齢 | 養育費の相場 |
---|---|
3人とも0~14歳 | 20~22万円 |
第1子15歳以上、第2・第3子0~14歳 | 20~22万円 |
第1子・第2子15歳以上、第3子0~14歳 | 20~22万円 |
3人とも15歳以上 | 22~24万円 |
年収800万円の養育費相場
養育費を支払う側の年収が800万円だった場合、子どもの人数、給与所得者・自営業者別の月額養育費の目安は、次のとおりです。
●子ども1人の場合|10~18万円
子どもの年齢 | 養育費の相場 |
---|---|
0~14歳 | 10~12万円 |
15歳以上 | 12~14万円 |
子どもの年齢 | 養育費の相場 |
---|---|
0~14歳 | 12~14万円 |
15歳以上 | 16~18万円 |
●子ども2人の場合|14~24万円
子どもの年齢 | 養育費の相場 |
---|---|
2人とも0~14歳 | 14~16万円 |
第1子15歳以上、第2子0~14歳 | 14~16万円 |
2人とも15歳以上 | 16~18万円 |
子どもの年齢 | 養育費の相場 |
---|---|
<2人とも0~14歳/th> | 18~20万円 |
第1子15歳以上、第2子0~14歳 | 20~22万円 |
2人とも15歳以上 | 22~24万円 |
●子ども3人の場合|16~26万円
子どもの年齢 | 養育費の相場 |
---|---|
3人とも0~14歳 | 16~18万円 |
第1子15歳以上、第2・第3子0~14歳 | 18~20万円 |
第1子・第2子15歳以上、第3子0~14歳 | 18~20万円 |
3人とも15歳以上 | 18~20万円 |
子どもの年齢 | 養育費の相場 |
---|---|
3人とも0~14歳 | 22~24万円 |
第1子15歳以上、第2・第3子0~14歳 | 22~24万円 |
第1子・第2子15歳以上、第3子0~14歳 | 24~26万円 |
3人とも15歳以上 | 24~26万円 |
養育費を決める流れ
養育費の支払い金額や支払期間、支払い方法は、以下の3つの方法で決まります。
基本的には1~3の各段階を経ていきます。
- 夫婦間協議での話し合い
- 調停で調停員も交えた話し合い
- 家庭裁判所での裁判・審判
順番に解説します。
夫婦間協議での話し合い
養育費について取り決める場合、まずは夫婦間で協議し、話し合いましょう。
父母双方が合意すれば、養育費の金額や支払い時期などは自由に取り決められますし、手続きにかかる費用や手間も少なくできます。養育費について合意してから離婚するのが一般的ですが、離婚後に取り決めることも可能です。
協議による場合は、次の項目について取り決めます。
- 養育費の金額(毎月〇万円)
- 支払い日(月末支払い)
- 支払い時期(相手の給料日や月末にするなど)
- 支払い方法(振込先口座を指定する)
- 支払い期間(大学を卒業するまでや、成人になるまでなど)
- 臨時の費用(大学費用や突然のケガや病気で治療費が必要なときなど)
話し合いのうえ、条件が決まったら、離婚協議書を公正証書として残しておきましょう。公正証書とは、法務省の法務局や地方法務局に所属する公証人が、公証役場で作成する公文書です。
公文書のため信用性も高く、法的にも強力な証拠として扱えるうえ、改ざんされる危険性もありません。
調停で調停員も交えた話し合い
夫婦間で協議し話し合っても合意できない場合は、調停で調停員も交えた話し合いを行います。調停とは、裁判所が当事者の間に入って話し合いを進め、問題を解決する手続きです。
夫婦の一方から家庭裁判所に申立てれば利用でき、離婚や養育費、親権など離婚条件についてさまざまな話し合いができます。
まだ離婚しておらず養育費を請求する場合は離婚調停、先に離婚が成立している場合は、養育費請求調停を相手の住所地の家庭裁判所、または相手と合意した家庭裁判所に申立てます。
申立てに必要な書類や費用は、次のとおりです。
申立てに必要な書類 | ●調停申立書とそのコピー ●事情説明書(申立人と相手の同居家族・収入状況・子どもの学費・教育費・保育料などを記載) ●連絡先の届出書 ●進行に関する照会回答書(相手とどれだけ話し合ったか、相手が裁判所の呼び出しに応じるのかなどについて記載する) ●子どもの戸籍謄本(全部事項証明書)(発行後3ヵ月以内のもの) ●申立人の収入に関する書類(源泉徴収票・給与明細・確定申告書・非課税証明書などの写し) ●非開示の希望に関する申出書(裁判所に提出する書類で相手に知られたくない情報がある場合) |
---|---|
申立てに必要な費用 | ●収入印紙1,200円/子ども1人につき ●郵便切手(申立てる家庭裁判所によって異なるため、事前確認が必要) |
調停が開始されると、夫婦それぞれが定められた日に家庭裁判所に行き、調停委員と交互に面談します。調停委員が間に入るため、冷静な話し合いができ、当事者だけで行う協議よりも合意を得やすく適切な結果になりやすいです。
最終的に養育費について双方が合意すれば、調停は成立し、調停証書が作成されます。調停調書があれば、養育費の支払いがされない場合に、裁判所から強制執行や履行勧告をすることが可能です。
ただし、調停をしても合意できない場合は、調停は不成立となります。
家庭裁判所での裁判・審判
調停をしても養育費について合意できない場合は、審判や裁判により裁判所が養育費を定めます。
離婚成立後に、養育費請求調停をしても合意できない場合は、自動的に審判手続きに移行します。審判とは家庭裁判所の裁判官が、養育費の金額や支払い方法などについて、当事者から提出された書類や主張、家庭裁判所の調査結果などをもとに判断し決定する手続きです。
裁判官が定めた養育費に関して不服がある場合は、2週間以内であれば不服申立てが可能です。不服申立てをする場合は、抗告状を提出し、そのあとに抗告理由書を提出します。そうすると、高等裁判所にて再審理を受けることが可能です。
一方、離婚と同時に養育費を取り決める場合は、養育費だけでなく離婚についての判断も行う必要があるため、離婚裁判を起こす必要があります。
離婚裁判では、裁判官が双方の主張をきき、判断をくだします。ただし判決を出す前に、当事者間で和解が成立する場合も多いです。
養育費は後から変更が可能
養育費を取り決めたときと事情が変わった場合は、養育費の月額の変更を請求できます。
事情が変わった場合とは、次のような場合です。
- 子どもが私立校や大学に入学した
- 子どもがケガをしたり大きな病気になったりした
- 会社が倒産したりリストラにあったりして収入が減った
- 再婚相手との間に子どもができた
養育費はそのときの状況をもとに考えるため、事情が変更した場合は、その都度話し合って妥当な金額を決める必要があります。
算定表でも子どもが15歳になったタイミングで養育費が増加しています。そのため、子どもが15歳になるタイミングで養育費が変更される場合も多いです。
再協議について取り決めをしていない場合でも、金額の変更は可能です。
詳しくは「養育費の額が増減する要因は?」をご覧ください。
養育費の支払い期間は一般的には子どもが20歳になるまで
養育費を支払う期間は、原則として子どもが20歳になるまでです。
支払期間が法律で決められているわけではないため、父母双方で話し合って、支払期間を決定します。近年は大学に進学する子どもも増えてきているため、大学を卒業するまでと取り決める夫婦も多いです。
養育費の終期について裁判で争っている場合、大学卒業までの養育費が認められるのは、次のようなケースです。
- 養育費を支払う側も、子どもの大学進学を望んでいる場合
- 扶養義務者の支払い能力や社会的地位を考慮して、大学進学が通常のことだと考えられる場合
なお民法の一部改正により、2022年4月から成人年齢が18歳になりました。しかし一般的には、経済的に自立していない未成熟子であることには変わりありません。
未成熟子とは、成人しているかどうかに関係なく、経済的に自立できていない子どものことで、原則20歳未満の子です。
そのため、成人年齢の引き下げは、養育費支払いの終期に影響を与えないと考えられています。
また、2022年4月以前に養育費の終期を成人までとしていた場合も、支払期間は短縮されません。取り決めた時点での成年年齢が20歳だったことを考慮して、従来どおり20歳になるまで支払義務があります。
「成人まで」や「成人に達するまで」という表現は、親権者・非親権者のそれぞれに誤解をうむ可能性があります。養育費の支払い期間を決める際は、年齢を明示して終了時期を明確に定めるとよいでしょう。
養育費の額が増減する要因は?
当事者間の合意があれば、離婚後に養育費の金額を変更できます。
養育費は「そのときの状況」で考えるもののため、事情が変更した場合は、その都度協議を行い妥当な金額を決定します。再協議についての取り決めをしていなくても、変更は可能です。
養育費の額が増減する要因は次のとおりです。
- 子どもの進学
- 子どもの健康状態
- 再婚による扶養する子の人数の変化
- 監護者の収入の増減
- 支払う側の収入の増減
それぞれ解説します。
子どもの進学
子どもの教育費が、想定額よりかかる場合は、養育費が増額になる可能性があります。たとえば私立校に進学した、大学へ進学した、習い事にお金がかかる場合などが該当します。
私立校や大学への進学、留学、習い事などの特別出費は、相手方の同意がなければ認められないのが基本です。しかし両親の学歴や収入などから相当だと認められるときは、相手が同意していない場合でも、例外的に審判で増額が承認されることがあります。
また、算定表でも子どもが15歳になったタイミングで養育費が増加しています。そのため調停でも、子どもが15歳になった時点で養育費の増額が認められることは多いです。
なお15歳になるのが近い場合は、最初の取り決め時に途中で養育費の金額を変更する旨を取り決めておく場合もあります。
子どもの健康状態
子どもが大きな病気にかかったりケガをしたりしたケースは、養育費増加の要件となります。なぜなら治療費や入院費などにお金がかかるためです。
また継続的な治療やリハビリが必要なケガや病気の場合は、監護親が病院の付き添いで仕事ができず、収入が減少する場合も考えられます。
ただし病気やケガをした場合でも、完治するまでに時間がかからない場合は、相手に事情を話して一時的に医療費を援助してもらえば事足りるケースもあるでしょう。
再婚による扶養する子の人数の変化
監護者側、養育費を支払っている側のどちらかが再婚したとしても、養育費が減額されるわけではありません。
ただし次のような場合は、養育費の支払いが減額されたり免除されたりする可能性があります。
減額される要因 | |
---|---|
支払う側が再婚した場合 | ●再婚相手の子どもを養子縁組した ●再婚相手との間に子どもが生まれた |
監護者側が再婚した場合 | ●再婚相手と自分の子どもが養子縁組した |
支払う側が再婚した場合、再婚相手の子どもと養子縁組したり、再婚相手との間に子どもが生まれたりした場合は、減額される可能性があります。しかし扶養家族が増えても十分な資産や収入がある場合や、養育費を決める際に再婚相手が妊娠していて子どもが生まれる予定のケースでは、減額が認められないこともあるでしょう。
また監護者側が再婚し、再婚相手と自分の子どもが養子縁組した場合、養育費は減額もしくは免除されます。ただし元配偶者との間に、再婚しても養育費を支払い続ける旨の合意があれば、原則的に合意は有効となります。
監護者の収入の増減
養育費は父母双方の経済力に応じて子どもにかかる費用を分担するものです。
子どもを監護する親の収入が低い場合や、養育費を取り決めた当初より収入が下がった場合は、養育費の金額が高くなるケースがあります。たとえば勤務先の倒産や、監護者がケガや病気で働けなくなった場合などが該当します。
なお実収入の減少が、収入の減少とは必ずしもいえるわけではありません。働けるにもかかわらず、働かないで収入が減ったと主張する場合もありえるからです。このような場合は、この程度は働いて稼げるはずだという金額が収入として認定されるため、収入は減っていないと判断されることもあります。
反対に監護者の収入が増えた場合は、減額になるケースもあるでしょう。収入が上がれば、分担する力も上がることになるため、それに応じて分担割合も変更しないと不公平だといえる場合もあるからです。
支払う側の収入の増減
養育費を支払う側が会社で出世したり、転職したりして収入が大幅に増えた場合は、養育費増額の要因となることがあります。子どもの養育費の決定には、父母の収入が大きな要因となっているからです。
そのため相手の収入が増えたことを知ったのであれば、養育費の増額を請求してみるとよいでしょう。
反対に、養育費を支払う側の収入が減ると、養育費は減額される可能性があります。病気になり、治療費や入院費にお金をかけなければいけなくなったり、リストラや会社の倒産で収入が減ってしまったりするパターンが該当します。
この場合、支払う側自体に経済的余裕がなくなってしまうので、減額となるケースがあるのです。
養育費の不払いを防ぐ方法
養育費の支払いは親の義務ですが、支払われなくなるパターンは、よくあることです。
令和3年度の養育費の取り決め状況を確認すると、母子世帯で46.7%、父子世帯で28.3%となっています。
しかし、実際に現在も受給している世帯は、母子世帯で28.1%、父子家庭で8.7%です。
養育費の不払いを防ぐには、以下の方法があります。
- 離婚協議書の作成をしておく
- 離婚協議書の内容を公正証書として残す
それぞれ解説します。
離婚協議書の作成をしておく
養育費の不払いを防ぐためには、養育費の支払いに関する離婚協議書を作成しておく必要があります。離婚協議書とは、夫婦間で離婚する条件を整理して、確認する合意書です。
離婚協議書は、離婚時に取り決めた約束が守られず裁判を起こした際、有力な証拠になります。そのため、口約束や念書ではなく、しっかりとした離婚協議書を作成することが大切です。自分でも作成できますが、法律上の約束事は、漏れや抜けがあった場合に取り返しがつかないため、弁護士に相談し作成するとよいでしょう。
ただし、離婚協議書には法的な強制力がありません。離婚協議書を作成したからといって、必ず養育費が支払われるとは限らない点に注意しましょう。
離婚協議書の内容を公正証書として残す
子どもの将来のためにも、離婚時は夫婦でよく話し合って、養育費の条件を決める必要があります。
養育費の不払いを防ぐためには、離婚協議書の内容を公正証書(離婚給付契約公正証書)として残すのが有効です。離婚給付契約公正証書とは、離婚の際や離婚後に起こる事柄について、約束事を取りまとめた書面(離婚協議書)を公正証書化したものです。
公正証書は単体で法的な強制力を持つため、強制執行認諾文言を入れておけば、相手が養育費を支払わなくなった際に、強制的に財産を差し押さえて回収できます。強制執行認諾文言とは「養育費を支払う義務のある人が支払いを滞った場合には、強制執行を受けても異義のないことを承諾する」という旨の文言です。
公正証書は、公証役場で作成できます。
離婚に詳しい弁護士に相談して、公正証書作成のサポートをしてもらうとよいでしょう。
なお公正証書を残さなかったために相手が支払いを拒む場合は、調停や裁判で申立てを行って、債務名義(調停証書、審判調書、和解調書、判決書)を取得しておきましょう。債務名義を取得すれば、後述する強制執行が可能となります。
養育費が支払われない場合の対応
養育費が支払われない場合の対応は、以下のとおりです。
- 相手に請求の連絡をする
- 内容証明郵便を送る
- 履行勧告を行う
- 履行命令を行う
- 強制執行を行う
それぞれ解説します。
相手に請求の連絡をする
養育費が受け取れない場合、まずは監護者側が支払者に直接連絡をとり催促してみましょう。自分で相手に請求の連絡をする方法であれば、手間も費用もかかりません。
支払期限が過ぎているのに長期間放置すると、相手も支払う意欲がなくなる可能性があります。そのため、養育費が支払われなくなったら、すぐに請求するようにしましょう。
連絡をする際は、自分できちんと催促したことが記録に残りやすいLINEやメールがおすすめです。未払いになっている金額、支払期限、期限までに支払わなかった場合の対応を記載するとよいでしょう。「〇日までに支払いがない場合は、裁判所をとおした手続きを検討しています」などの文言を記載すると相手にプレッシャーを与えられます。
自分で請求する場合は、相手を強硬な態度にさせないためにも、以下の点に注意してください。
- 感情的にならず相手を否定しない
- 子どものために養育費が必要なことを伝え、一方的で自分勝手な要求をしない
- 取り決めた以上の養育費を請求しない
なおモラハラやDVなどが原因で離婚した場合は、弁護士に間に入ってもらったほうが話し合いが進みやすいでしょう。
内容証明郵便を送る
相手に直接連絡しても、無視されたり支払いを拒まれたりするときは、内容証明郵便を送りましょう。内容証明書郵便とは、いつ・誰に・どんな内容の文書を送ったかがわかる証明書です。送ることで請求した事実を記録として残せるため、裁判で養育費の取り立てを行った際に請求したことを証明できます。
内容証明書郵便を送っただけで支払いを強制できるわけではありませんが、相手に心理的なプレッシャーを与えられます。
また内容証明郵便は、時効を引き延ばすことが可能です。時効期間は各支払日の翌日から「5年」が基本ですが、内容証明を送って請求すれば、時効の進行を6ヵ月間ストップできます。
なお内容証明郵便は、相手の住所が不明の場合は、送ることができません。
住所は相手の戸籍から住民票をたどれば調べられますが、離婚している状況で一般の人がこの方法をとるのは困難です。
しかし弁護士であれば「職務上請求」により、相手の住民票の写しや戸籍謄本などを取り寄せ、住所を調査できます。職務上請求とは、弁護士や司法書士などが職務を遂行する際に、戸籍謄本や住民票の写しなどの取得が必要な場合に、行政庁に対して請求を行える制度です。
内容証明郵便を送りたいけれども、相手の住所がわからない場合は、弁護士の利用も検討するとよいでしょう。
履行勧告を行う
履行勧告とは、家庭裁判所から養育費を支払わない相手に対して、養育費を支払うように説得したり勧告したりする手続きです(家事事件手続法289条)。家庭裁判所から、相手に対して郵送や電話などで連絡がいき、養育費を支払うように督促してもらえます。
履行勧告自体に法的な強制力はありませんが、裁判所から連絡を受けることはあまりないため、相手に心理的圧迫感を与えることが可能です。
履行勧告を利用する際は、家庭裁判所に書面、または口頭で申立てを行う必要があります。場合によっては電話で申立てることもでき、手数料もかからないため、手軽に利用できます。
ただし履行勧告は、家庭裁判所で行った調停や審判で定めたとおりに養育費を支払わない人へ、支払いを促す手続きです。裁判所をとおさずに定められた養育費の未払いについては、履行勧告の利用はできません。
また、調停や審判を行った際の調書に記載のある住所地に対して行われるため、相手が転居している場合は、住所地の特定が必要です。
なお未払いの理由が正当(相手が怪我や病気で働けないなど)とみなされるときは、履行勧告ができない場合があります。
履行命令を行う
履行命令は、家庭裁判所で決められた養育費を支払うように、相手方に命じるものです(家事事件手続法290条)。履行命令も履行勧告と同様に、家庭裁判所に書面や口頭で申立てを行い、手数料もかかりません。
履行勧告と異なり強制力があり、命令に従わない場合は、10万円以下の過料が科されます。ただし制裁は10万円以下の過料なので、養育費の未払い額が多い場合は応じてもらえない可能性もあります。
強制執行を行う
強制執行とは、相手の財産を差し押さえて、強制的に養育費を取り立てる手続きで次の2種類があります。
強制執行の種類 | 概要 |
---|---|
間接強制執行 | 一定期間までに取り決めに従わない場合、間接強制金を新たに課すと警告する |
直接強制執行 | 相手の意思に関係なく、相手の財産を差し押さえられる |
差し押さえができる財産には、給料や預貯金だけでなく、不動産や証券などの資産も含まれます。
養育費は、給与を強制執行の対象とする場合が多いです。給与は差押えられる側にとっても生活のために重要な要素のため、4分の1までが上限となっています。しかし養育費や婚姻費用などの扶養に関する債権であれば、給与の2分の1まで、または33万円以上の金額のすべてを差し押さえることが可能です。
1度強制執行の手続きを行えば、将来発生し続ける養育費についても、継続的に給与から天引きできます。ただし差し押さえの事実は職場に伝わるので、職場にいづらくなり、退職してしまう可能性があります。その場合、相手の収入が減るので、養育費の回収が難しくなる点に注意が必要です。相手が転職をしていた場合は、新たな職場を特定して再度差し押さえる必要があります。
裁判所に強制執行の申立てをする際に必要な書類と費用は、以下のとおりです。
必要書類・費用 | 概要 |
---|---|
申立書 | (1)表紙・(2)当事者目録・(3)請求債権目録・(4)差押債権目録の4つが申立書のセット |
債務名義の正本 | 調停証書・審判調書・和解調書・判決書など |
送達証明書 | ●債務名義の正本又は謄本が債務者に送達されたことの証明書 ●債務名義を作成したところで発行する |
法人の資格証明書(申立て日から1ヵ月以内(債権者の場合は,2ヵ月以内)に発行されたもの) | 債権者,債務者,第三債務者が会社や銀行などの法人の場合 |
戸籍謄本(全部事項証明書)、住民票、戸籍の附票 | 債権者又は債務者の住所、氏名が債務名義に記載された住所・氏名と異なっている場合 |
申立手数料 | 4,000円分の収入印紙(債務名義1通・債権者1名・債務者1名の場合) ※債務名義・債務者・債権者が複数になると金額は増えるため、申立先の裁判所に確認が必要 |
郵便切手 | 必要な金額や切手の内訳は、裁判所によって異なるため、確認が必要 |
なお強制執行の申立ては、相手の所在地を管轄する地方裁判所に行います。申立て後は裁判所から書類を送付するため、強制執行をする際は、相手の住所を把握しておく必要があります。
また強制執行をする際は、相手にどのような財産があるか特定が必要です。
相手の財産を調べる方法には、以下の3種類があります。
相手の財産を調査する方法 | 概要 |
---|---|
財産開示手続き | ●養育費を支払う人が裁判所に出向き、保有している財産状況を報告する手続き ●虚偽の申告をしたり財産開示手続きに応じなかったりした場合、6ヵ月以下の懲役、または50万円以下の罰金に処せらえる |
第三者からの情報取得手続き | 裁判所を通して、相手の預貯金や不動産、勤務先などの財産情報を取得可能な手続き |
弁護士会照会(23条照会) | ●弁護士会を通して相手の預金口座の情報や生命保険の解約返戻予定額などの調査が可能 ●弁護士に依頼した場合のみ利用可能 |
相手の住所や財産を特定するのは、一般の人には困難で、手間もかかります。弁護士であれば「職務上請求」や「弁護士会照会」で相手の住所や財産を調査できるため、依頼を検討するとよいでしょう。
まとめ
養育費の相場は、2〜5万円となっています。
しかし養育費は、生活環境や世帯収入によって必要な金額が異なります。算定表やツールで目安を知ることはできますが、実際に請求する際は、弁護士に相談するとよいでしょう。
弁護士であれば、適正な養育費の相場を理解しているため、養育費の増額を目指して交渉が可能です。依頼者の代理人として代わりに交渉ができるため、お互いが冷静になって養育費について話し合いができます。
またDVやモラハラにあっているなど相手と顔を合わせたくない場合でも、弁護士に依頼すれば、相手と一切連絡を取る必要がありません。
相手の住所や財産がわからない場合でも、弁護士なら職務上請求や弁護士会照会を利用して調査できます。
養育費の取り決めや交渉について悩んでいるのであれば、弁護士への依頼を検討してみることをおすすめします。
養育費に関するよくある質問
離婚時に妊娠していた場合、養育費はどうなりますか?
しかし、離婚から300日を超えてから産まれた子どもは、相手との間にできた子どもと認められないので、養育費の請求はできません。 この場合に養育費を請求するためには、相手が子どもを認知する必要があります。
なお妊娠中に離婚しても、出産するまでは養育費を受け取る権利はありません。人は、胎児のうちは法的な権利を持たないため、母親が胎児を代理できないとされているためです。そのため、胎児の養育費は受け取れず、出産後から養育費を受け取ることになります。
また次の場合は、元夫には養育費の支払い義務がありません。
- 母親が出産前に再婚した場合
- 母親が出産後に再婚し、子どもと再婚相手が養子縁組した場合
養育費は一括請求できますか?
子どもの年齢によるものの、養育費の支払い期間は長いため途中で支払いが途絶える場合に備えて、1年分や全額などをあらかじめ請求しておくパターンもあります。一括払いで支払う場合は、将来トラブルにならないためにも、合意書を作成しておきましょう。
ただし、養育費を一括で受け取る場合は金額も大きくなるため、支払う側の経済状況によっては難しい可能性もあります。また調停や審判を利用した場合、養育費は特別な事情がなければ原則として月払いにするべきだと考えられているため、一括請求は認められにくいです。
養育費が一括払いされた場合、支払う側は養育費の支払い義務を果たしたことになります。そのため養育費を使い切ってしまっても、追加の請求は認められにくいため、計画的に使用する必要があるでしょう。
なお多額の養育費を一括で受け取る場合、子どもの教育費や生活費に充当するための通常必要とされる範囲を超過すると判断され、贈与税がかかる可能性があります。
一括で受け取る場合は、事前に税理士や弁護士などに相談することをおすすめします。
監護親のほうが収入が高いときでも養育費はもらえますか?
子どもの養育は父母双方の義務のため、支払う側の収入が監護親より少なくても、その点は変わりません。
ただし養育費の金額は父母の収入に依存するため、監護親のほうが収入が高い場合は、養育費の金額が下がります。