養育費の内容を公正証書に記載すべき?
養育費の内容を決めたら、可能な限りは公正証書を作成しましょう。公正証書を作成することで、養育費の未払いを防ぎやすくなります。
そもそも公正証書とは、公証人という専門家が作成する正式な書類のことです。全国にある公証役場にて作成できます。
養育費は双方合意のもと、口約束で支払いの取り決めをすることも可能です。しかし、養育費の内容を証明する書類がないと、のちのちトラブルになることもあります。非親権者から「収入が減ったからもう養育費は払わない」と一方的にいわれることもあれば、突然連絡がつかなくなり一切養育費が支払われなくなる可能性もあるでしょう。
公正証書を作っておけば、養育費の支払い額や期間だけでなく、支払われなかったときの対応についても記載できます。さらに、養育費に関することだけでなく、子供との面会、財産分与など、離婚時にかかわるさまざまな取り決めも可能です。結果として、離婚時のさまざまなトラブルを避けることにつながります。
そのため、養育費の内容が決まったら公正証書を作成することをおすすめします。
養育費の内容を公正証書に記載するメリット
養育費の内容を公正証書に記載する主なメリットは以下の3つです。
- 強制執行認諾文言を付けておくと裁判を経ずに強制執行できる
- 法的な効力があるため争いが生じにくい
- 心理的なプレッシャーを与えられるので養育費を支払ってくれる可能性が高い
前述したように、基本的には公正証書は作成するべきです。しかし「養育費の内容を公正証書に記載するデメリット」があるのも事実です。
メリットとデメリット双方を確認したうえで、公正証書を作成するべきなのか決めましょう。
強制執行認諾文言を付けておくと裁判を経ずに強制執行できる
後ほど「養育費に関して公正証書に記載する内容」でも詳しく解説しますが、公正証書には「強制執行承諾文言」の記載ができます。
強制執行とは、裁判所が強制的に財産の回収をすることです。つまり、強制執行承諾文言の記載をしておけば、養育費の支払いがなかった場合でも、強制的に給料や財産を差し押さえて、支払いをしてもらえます 。また、強制執行承諾文言を記載すると、裁判手続きをすることなく強制執行ができるのもメリットです。
なお、事前に裁判所や公正証書で養育費に関する取り決めをしていない場合は、強制執行はできず「裁判所からの支払い勧告」という処置で終わってしまいます。
法的な効力があるため争いが生じにくい
公正証書を作成すると、争いが生じにくいのもメリットの一つです。
夫婦だけで養育費の取り決めをすると、あとから「そんな約束していない」「決めていたルールと違う」とトラブルになってしまうこともあります。
公正証書は法律の専門家が作成する書類で、非常に強い証拠力を持っています。公正証書に記載されたルールに従って養育費の支払いをするだけなので、トラブルを避けられるようになるでしょう。
心理的なプレッシャーを与えられるので養育費を支払ってくれる可能性が高い
公正証書を作成すると、心理的なプレッシャーを与えられるのもメリットの一つです。
親は子供の生活を保障する義務があり、養育費の支払いもその義務の一つです。しかし、一般的に養育費の支払いをする非親権者は、子どもと過ごす機会がなくなるため、親である自覚が薄くなっていくことも少なくありません。特に口約束だけで養育費の支払いについて決めてしまうと「今月は出費が多いから養育費が払えない」といい加減な理由で支払いを反故にされてしまうこともあります。
公正証書を作成すると「正式な取り決めだから破れない」「支払いが遅れたら強制執行になる」というプレッシャーがあり、養育費の未払いを防げるようになるでしょう。
養育費の内容を公正証書に記載するデメリット
養育費の内容を公正証書に記載するデメリットは以下のとおりです。
- 作成には費用と時間が必要
- 公正証書作成当事者双方が公証役場にいく必要がある
デメリットも詳しく確認して、公正証書を作成するべきなのか決めましょう。
作成には費用と時間が必要
公正証書の作成には、費用と時間がかかります。
作成するのにかかる時間はおおむね2週間ほどです。公正証書の内容が複雑であればさらに時間がかかりますし、公正証書を作成する公証役場の混雑状況によっても時間は変動します。
公証役場は徳島県を除いて、1つの都道府県に2つ以上あります。公証役場は住んでいる地域に関係なくどこでも作成できるため、早く作成したい場合は、近隣の公証役場に問い合わせて混雑していないところを選ぶと良いでしょう。
作成にかかる費用は養育費の合計金額や弁護士依頼費用によって変わってきます。詳しくは後述する「公正証書の作成に必要な書類と費用」を参考にしてください。
公正証書作成当事者双方が公証役場にいく必要がある
公正証書を作成するには、夫婦で公証役場に行く必要があります。つまり、双方が公正証書を作ることに納得し、協力的でなければ公正証書は作れません。特に非親権者からすると公正証書を作るメリットは感じられず「毎月遅れずに支払うから必要ない」と拒否されてしまうことも考えられます。
また、公証役場は基本的に土日や祝日、年末年始は受付しておらず、平日の日中に行く必要があります。そのため、平日休みがなく日中に仕事をしている人は行く機会がなく、場合によっては有休を使う必要も出てくるでしょう。
代理人を立てる場合も、公証人が認めてくれない場合があります。養育費のような離婚に関する公正証書は、基本的には夫婦の証言をまとめる必要があるためです。
なお、公正に離婚問題を解決する立場である「弁護士」であれば代理人として認めてもらいやすい傾向にあります。「双方の日程が合わない」「どうしても平日に時間を作れない」という場合は、双方の考えを弁護士にまとめてもらったうえで、公正証書作成の代理をしてもらいましょう。
公正証書の作成に必要な書類と費用
公正証書は強制執行承諾文言ができるほどの、強力な証拠力を持っています。そのため、気軽に作成することはできず、さまざまな書類が必要になります。
さらに、作成には費用も必要です。目的の価額、今回の例でいえば養育費の額によって作成費用が変動します。
ここからはそんな公正証書の作成に必要な書類と費用を解説します。
公正証書の作成に必要な書類
離婚時の公正証書作成に必要な書類は以下のとおりです。
- 本人確認書類
- 認印
- 戸籍謄本
- 離婚協議書または公正証書原案
本人確認書類は運転免許証やマイナンバーカード、パスポートなどです。本人確認書類の認印も必要です。
今後離婚をするなら、現在の家族全員が載った戸籍謄本、すでに離婚しているなら双方の戸籍謄本が必要になります。
「離婚協議書」や「公正証書原案」は、離婚するにあたって双方の考えをまとめたものです。公証役場はあくまで双方の依頼に基づいて公正証書を作成する場所なので、事前に養育費などの公正証書に記載する内容は「離婚協議書」や「公正証書原案」にまとめておく必要があります。
なお、養育費だけでなく財産分与で不動産の所有権についての記載もする場合は「不動産の登記簿謄本」や「固定資産税納税通知書」「固定資産評価証明書」も必要になります。
公正証書作成の費用は養育費によって異なる
公正証書作成の費用は、作成する目的の価額によって異なります。目的の価額とは、その目的によって得られる一方の利益のことです。今回の例でいうなら、養育費の合計額が目的の価額になります。
目的の価額 |
費用 |
100万円以下 |
5,000円 |
100万円を超え200万円以下 |
7,000円 |
200万円を超え500万円以下 |
1万1,000円 |
500万円を超え1000万円以下 |
1万7,000円 |
1000万円を超え3000万円以下 |
2万3,000円 |
3000万円を超え5000万円以下 |
2万9,000円 |
5000万円を超え1億円以下 |
4万3,000円 |
1億円を超え3億円以下 |
4万3,000円+超過額5,000万円までごとに1万3,000円 |
3億円を超え10億円以下 |
9万5,000円+超過額5000万円までごとに1万1,000円 |
10億円を超える場合 |
24万9,000円+超過額5,000万円までごとに8,000円 |
引用元:手数料 | 日本公証人連合会
毎月の額ではなく、合計額が適用されます。たとえば月5万円の養育費を10年間受け取る場合は以下のような形になります。
50,000(円)×12(カ月)×10(年)=6,000,000(合計額)
600万円を上記表に当てはめると、1万7,000円が手数料になるということです。
ただし、この費用はあくまで夫婦で公証役場まで行き作成をした場合です。弁護士に代理で依頼する場合は別途費用がかかることは理解しておきましょう。
公正証書を作成する流れ
公正証書を作成する大まかな流れは以下のとおりです。
- 離婚条件を決め公正証書の叩き台を作成する
- 当事者双方で公証役場で公証人と面談する
- 作成完了した公正証書の内容を確認し署名・押印する
よりスムーズに離婚を進めるためにも、各手順を確認しておきましょう。
離婚条件を決め公正証書の叩き台を作成する
まずは夫婦で話し合って、離婚条件を決めましょう。
具体的に養育費について決めておきたい内容は以下のとおりです。
- 毎月の養育費支払い額
- 毎月の養育費支払い日
- 養育費を支払う期間
- 養育費の支払い方法
また、公証役場では養育費以外のことでも公正証書にまとめられます。たとえば、離婚後の子供との面会交流、財産分与、慰謝料などです。
離婚に際して、養育費以外でも正式に決めておきたい事柄があるなら話し合っておきましょう。
当事者双方で公証役場で公証人と面談する
公正証書に記載したい内容が決まったら、夫婦で公証役場へ行きます。
具体的には以下の流れで面談を進めていきます。
- 近くの公証役場へ電話連絡する
- 電話にて必要書類を確認し受付の日時を決める
- 夫婦で公証役場へ行く
- 離婚協議書や公正証書原案をもとに面談を進める
近くの公証役場は「公証役場一覧 | 日本公証人連合会」にて探せます。前述したように、最寄の公証役場でなくても対応してもらえます。
なお、最終的には夫婦2人で行く必要があるものの、事前相談の段階では夫婦どちらか一方でも問題ありません。離婚協議書や公正証書原案の内容に不安要素があるなら、事前相談をして内容を確認してもらうと良いでしょう。
作成完了した公正証書の内容を確認し署名・押印する
手続きをしてから2週間ほどすると、公正証書が作成されます。
作成されたら内容に問題がないか夫婦で確認し、署名・押印することですべての手続きは完了です。なお、手数料は公正証書受取の際に支払います。
原本は公証役場に保管されるため、万が一紛失しても公正証書の内容が無効になることはありません。
養育費に関して公正証書に記載する内容
公正証書は離婚問題以外の場面でも使われますが、養育費に関して記載する場合は以下の内容をまとめます。
- 養育費の月額
- 養育費の支払い日
- 養育費の支払いの開始時期と終了時期
- 養育費の債務者と債権者
- 養育費の支払い方法
- 強制執行を承諾する文言
- 状況変更時の対応を可能とした文言
つまり、事前に離婚協議書や公正証書原案を作成する際は上記の内容を押さえておけば、よりスムーズに公正証書を作成できます。
それぞれの内容を確認しておきましょう。
養育費の月額
まずは養育費をどれくらい支払うのか決めましょう。養育費とはそもそも、子供が生活するうえで必要なお金のことです。つまり、継続的に必要になるため、月額での支払いとなるのが一般的です。
養育費の額はお互いに話し合って決めることになります。双方の収入状況や勤務形態、慰謝料の内容、子供の数などさまざまな要素を加味したうえで決めましょう。
なお、厚生労働省が発表している養育費の平均額は以下のとおりです。
子どもの数 |
1人 |
2人 |
3人 |
養育費 |
40,468 円 |
57,954 円 |
87,300 円 |
引用元:令和3年度全国ひとり親世帯等調査結果
また、裁判所は「平成30年度司法研究(養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について」にて、養育費の算定表を発表しています。子供の数や親の収入に適した養育費の額を簡易的に算出できるので、話し合いの際はぜひ活用してください。
なお、お互いの合意であれば養育費を一括で支払うことも可能です。「毎月支払うような関係を維持したくない」「一括で支払っても経済的に問題ない」という場合は、一括も検討すると良いでしょう。
養育費の支払い日
養育費の支払い日も決めましょう。支払い日には明確な決まりはないものの、非親権者の給料日前に設定してしまうと、お金がなくて支払えないリスクが発生します。そのため、非親権者の給料日当日、もしくは給料日から数日以内に設定すると良いでしょう。
なお、養育費の支払いが遅れた場合、親権者は遅延損害金を請求できます。遅延損害金は未払い期間の日数によって決まるため、支払い日が決まっていないとトラブルになってしまいます。
そのため、非親権者にどれだけ支払い能力があっても、支払い日は明確にしておきましょう。
養育費の支払いの開始時期と終了時期
養育費の支払い期間も非常に重要な要素の一つです。
一般的には子供が自立するまでに支払いを続けます。つまり、高校卒業後や、大学卒業後に就職すればその段階で養育費の支払いが終了するということです。また、就職時期に関係なく20歳で終了とする場合もあります。
しかし、支払い期間に関しても、基本的には双方で話し合って決めることになります。そのため、双方で何らかの言い分があれば、子供が18歳なるよりも早く養育費の支払いを終了する場合もありますし、22歳以降になっても養育費を支払い続ける場合もあるでしょう。
支払い期間に関しても、双方の経済状況を加味して相談しながら決めてください。
養育費の債務者と債権者
当然ですが、公正証書には「債務者(養育費の支払いをする人)」と「債権者(養育費を受け取る人)」を記載することになります。
親権を得る方、つまり子育てをする方が債権者となり、養育費を受け取るのが一般的です。なお、親権者と監護権者に分けた場合は、監護権者が子供を育てていくことになるため、親権者が監護権者に対して養育費を渡します。
どちらにせよ、前提としてどちらが親権を得るのか決めなければ、養育費の支払いはまとまりません。
まだ親権についてまとまっていないなら、養育費の話をする前に親権をどちらが得るのか決めましょう。
養育費の支払い方法
養育費の支払い方法についてもまとめておきましょう。口座振込にて支払いをするのが一般的です。
「月に1回は子供と会える」と考えて手渡しを検討することもありますが、手渡しだと支払いの証明ができません。支払いの証明ができないのであれば、公正証書にして養育費に関するルールを決める意味が薄れてしまいます。また、場合によっては養育費を支払うことを口実に、子供との面会を半強制的にさせられてしまう可能性も考えられます。
そのため、支払いは口座振込にして、養育費の支払いと面会交流は別で考えましょう。
強制執行を承諾する文言
公正証書を作成するメリットでも解説したように、公正証書には「強制執行承諾文言」を記載できます。
「強制執行承諾文言」を記載すると、養育費の未払いが発生した際に、裁判所の手続きをしなくても強制執行、つまり財産の差し押さえができるようになります。
たとえ、現状で養育費の支払いに前向きだったとしても、今後も確実に支払いが続くとは限りません。子供を安心して育てていくためにも、強制執行を承諾する文言は記載しておきましょう。
状況変更時の対応を可能とした文言
状況変更時の対応を可能とした文言とは、養育費が決定した後、今後の状況が変わった時に養育費に関する取り決めに対して再度対応してもらうものです。
以下のように、今後さまざまな要因によって養育費の内容を変えなければいけないケースが出てきます。
- 子どもが病気になってしまいお金が必要になった
- 非親権者の収入が不況などで落ち込んでしまい支払いが難しくなった
- 自営業になり毎月の収入が不安定になった
そんなときに、この文言があれば養育費の内容を柔軟に対応できるようになります。
なお、この文言がなくても、双方話し合いができれば内容の変更は可能です。しかし、自分にとって不利になる変更だと話し合いに応じない可能性も考えられるでしょう。
そのため、今後お互いが安心して過ごしていくためにも、状況変更時の対応を可能とした文言は記載しておくと良いでしょう。
5万〜20万程度で弁護士へ公正証書の作成依頼が可能
公正証書の作成は、弁護士に依頼することも可能です。費用相場は5万円から20万円ほどで、弁護士や対応してもらう内容によって額は大きく異なります。
夫婦で離婚協議書や公正証書原案を作成すると、どちらか一方が有利になっていることも少なくありません。弁護士に依頼すれば、不備の有無だけでなく、自分に不利な内容になっていないかチェックしてもらうことも可能です。
なお、離婚協議書や公正証書原案の内容をチェックしてもらうだけなら、比較的低料金で対応してもらえます。
「夫婦で公証役場に行きたくない」「養育費の話し合いもしたくない」という場合は、公証役場での手続き、養育費の交渉も弁護士に依頼しましょう。
もちろん養育費に限らず、慰謝料や財産分与に関する取り決めもすべて弁護士に任せられます。必要に応じて弁護士に依頼し、ストレスなくスムーズな離婚を目指しましょう。
まとめ
養育費の内容は、可能な限りは公正証書に記載しましょう。未払いのリスクを減らせますし、実際に未払いになったとしても強制執行によって養育費を回収できます。
公正証書を作成する際は、事前に夫婦で話し合いながら養育費の額、支払い期間などの内容を決めていくのが一般的です。しかし、場合によっては一方が不利になってしまうこともあります。このような事態を避けるために、弁護士に依頼することも検討すると良いでしょう。
養育費の公正証書に関するよくある質問
離婚した後に公正証書の作成はできますか?
離婚後でも公正証書の作成は可能です。ただし、前述したように、公正証書は基本的に2人で公証役場に行って作成するものです。離婚後だと作成に協力してくれない場合もある点には注意しましょう。そのため、可能な限りは離婚前にすべての手続きは終わらせることをおすすめします。
公正証書の効力に有効期限はありますか?
公正証書の効力に有効期限はありません。ただし、未払いの養育費には時効があるので注意が必要です。調停・裁判で養育費を決めた場合は10年、夫婦間で話し合いをして決めた場合は5年で時効となります。公正証書は夫婦で話し合って決めるため、基本的に5年で時効です。未払いのまま放置はせず、時効になる前に請求しましょう。
公正証書を作成した後に養育費の減額を申し立てられることはありますか?
たとえ公正証書によって正式に決まったことでも、今後養育費の減額を申し立てられる場合はあります。ただし、勝手に減額をされることはありません。最初は双方の話し合いによって、親権者から了承を得ます。もし双方の話し合いで決まらなかった場合は、家庭裁判所に調停の申し立てをします。
無料相談・電話相談OK!
一人で悩まずに弁護士にご相談を
- 北海道・東北
-
- 関東
-
- 東海
-
- 関西
-
- 北陸・甲信越
-
- 中国・四国
-
- 九州・沖縄
-