養育費の概要を改めて理解しよう
養育費とは、離婚後も親が子どもの育成に必要な費用を負担するものです。親子関係は離婚後も続き、子どもに対する扶養義務も変わらないため、養育費を支払う義務があります。これを「生活保持義務」といい、親は自分の生活水準を落としてでも子どもに同等の生活を保障する必要があります。
また、養育費は無職であっても支払いを免れられません。自己破産しても扶養義務は消えず、養育費の支払いを拒むことはできません。ただし、やむを得ない事情がある場合には、支払い免除や減額が認められるケースもあります。
養育費の支払いは、一般的に「子どもが20歳に達するまで」とされています。ただし、個々の事情により大学卒業時(22歳の3月)や高校卒業時(18歳の3月)などの取り決めも可能です。
そもそも養育費は元配偶者の義務である
養育費は、離婚後も子どもを育てるために必要な費用のことです。親同士が離婚しても、親子の関係は続き、子どもに対する扶養義務はなくなりません。つまり、子どもと別々に暮らす親(非監護親)も、子どもと共に暮らす親(監護親)に対して養育費を支払う義務があります。これを「生活保持義務」と言います。
「生活保持義務」とは、扶養される側(子ども)に対して、自分自身と同程度の生活水準を保障する義務を指します。つまり、支払う側は自分の生活水準を落としてでも、子どもが同じような生活を送れるように養育費を支払う必要があるのです。子どもが経済的に自立するまで、衣食住や教育費、医療費などに必要な費用を補償しなければなりません。
養育費の支払い義務については、民法766条1項の条文にも定められている通り、親は離婚時に子どもの監護に必要な費用(養育費)を協議で決定しなければなりません。もし、協議が成立しない場合は、家庭裁判所が養育費の額を決定することになります。
参考:民法第766条|e−GOV法令検索
支払い能力がなくても拒めない
養育費は親の義務であり、支払い能力が乏しくても免れることはできません。支払う側がたとえ無職であっても、扶養義務は継続します。
また、借金を抱え自己破産したとしても、養育費の支払い義務は消えません。自己破産は債権に対する手続きであり、扶養義務は免責されません。したがって、養育費の支払いを拒むことはできず、金銭的な余裕がなくても払い続けなければならないのです。
しかし、やむを得ない事情がある場合には、養育費の支払い免除が認められることもあります。例えば、病気やケガで生涯働くことが難しい場合や、育児や介護で収入を得ることが困難な場合などです。
また、リストラや病気で収入が減った場合や、養育費を受け取る親の収入が増えた場合など、養育費の減額が認められるケースもあります。養育費を減額したい場合、まずは当事者間で話し合いを行い、それでも解決しない場合は家庭裁判所に調停や審判を申し立てることが可能です。
養育費の支払いは一般的に「子どもが20歳まで」
養育費の支払いは、一般的に子どもが20歳に達するまでとされています。これは、子どもが社会的・経済的に自立するまでの期間を考慮したもので、親の扶養義務が続く期間です。
2022年4月から成人年齢が18歳に引き下げられましたが、養育費の支払終期には影響がありません。従前通り20歳までが目安となっています。養育費は、子どもが経済的に自立するまで支払われるべきものであり、「成人年齢の変更によってその基準が変わるわけではない」と考えられているためです。
ただし、「22歳の3月まで(大学卒業時)」や「18歳の3月まで(高校卒業時)」など、親子間での合意や子どもの進学状況などによって取り決めをすることもあります。個々の事情により柔軟に対応されることが多いです。
元配偶者側の祖父母には原則として養育費の支払い義務がない
元配偶者側の祖父母には、原則として養育費を支払う義務はありません。しかし、養育費の支払いが滞る場合には、祖父母に扶養料の支払い義務が発生する場合があります。これは、祖父母が民法877条に基づく「生活扶助義務」を負うことがあるためです。生活扶助義務とは、祖父母が自分の生活を犠牲にせずに、孫の最低限の生活を助ける義務を指します。
また、例外的に祖父母にも養育費の支払い義務が生じる場合があります。それが以下の2つのケースに該当する場合です。
- 祖父母が養育費の連帯保証人になっている場合
- 祖父母が任意で養育費を支払う場合
それぞれについて詳しく解説していきます。
元配偶者側の祖父母に課せられるのは「生活扶助義務」
元配偶者側の祖父母には、原則として養育費の支払い義務はありません。しかし、元配偶者から十分な養育費が支払われない場合、祖父母が例外的に扶養料の支払い義務を負うことがあります。
祖父母は孫の養育費を支払う義務はないものの、直系血族であるため扶養義務が発生し得るのです。これは、民法877条に定められています。ただし、祖父母に課せられるのは、親の「生活保持義務」より穏やかな「生活扶助義務」です。
「生活扶助義務」とは、祖父母が自分の生活を犠牲にしない範囲で孫の最低限の生活を助ける義務を指します。祖父母の生活に余裕がある場合に限り、子どもの法定代理として祖父母に扶養料を請求することが可能です。祖父母が支払いに応じない場合は、家庭裁判所に調停を申し立てます。もし「孫を引き取れないなら扶養料を支払わない」と言われたとしても、通用しません。
参考:民法第887条|e−GOV法令検索
祖父母が連帯保証人であれば支払い義務がある
祖父母は養育費の支払い義務は追わないものの、取り決めで祖父母が養育費の連帯保証人になっている場合には支払い義務が生じることがあります。債務者(元配偶者)が養育費を支払えない場合に、連帯保証人(祖父母)が代わりに支払う義務を負うためです。
この場合の支払い義務は「祖父母であること」に起因するのではなく、「連帯保証人としての立場」から生じるものです。したがって、祖父母でない第三者が連帯保証人になっている場合、その第三者が養育費の支払い義務を負います。
そのため、祖父母に連帯保証人になってもらうことで、養育費を滞りなく受け取れる可能性が高まります。そして、この取り決めを公正証書などの公的な書面にして残しておくと、法的効力が生じるため、より確実に養育費を回収できます。ただし、連帯保証人を設定するためには相手方(祖父母)の合意が必要です。
任意で支払ってもらう分にはOK
祖父母に任意で養育費を支払ってもらうことは問題ありません。例えば、元配偶者が養育費を支払えない場合や所在が不明な場合、祖父母に金銭の支払いを依頼するのは有力な選択肢の一つです。祖父母が好意で支払いを申し出てくれれば、そのお金を受け取ることができます。
ただし、この支援はあくまで祖父母の善意に基づくもので、強制することはできません。したがって、祖父母に事情を説明し、協力をお願いすることが重要です。祖父母が自発的に孫のために経済的援助を行う場合、その支援を受けることは、法律的にもまったく問題ありません。
しかし、法的には祖父母に養育費を強制的に支払わせることはできないため、任意での支援に頼ることになります。元配偶者が養育費を支払わない場合、祖父母からの支援を検討する価値は十分にありますが、その際は相手の善意を尊重し、無理のない範囲での協力を求めるようにしましょう。
扶養料なら元配偶者の祖父母に請求できる可能性がある
元配偶者からの養育費が期待できない場合、祖父母に扶養料を請求できる可能性があります。扶養料とは、民法第877条1項に基づき、直系血族や兄弟姉妹が互いに負う義務です。祖父母も孫に対して扶養義務を負うことがあります。
ただし、祖父母に扶養料を請求するためには、以下2つの条件を満たしている必要があります。
- 元配偶者が養育費を支払わない場合
- 元配偶者側の祖父母の生活に余裕がある場合
これは、元配偶者に生じる養育費の支払い義務とは異なり、祖父母の扶養義務が自分の生活に余裕がある場合に限り課されるもので、最低限の生活扶助のみで良い「生活扶助義務」とされているためです。以下で詳しく解説していきます。
養育費と扶養料の違い
養育費は、子どもの親が負う「生活保持義務」に基づき、親の経済状況にかかわらず支払わなければならないものです。これは、子どもの生活水準を保つための費用で、親は自分の生活水準を落としてでも支払う義務があります。
一方、扶養料は親以外の親族にも生じる「生活扶助義務」で、支払う側の生活に資金的な余裕があるときのみ支払えば良いとされています。
また、養育費は親が負担し、親の経済状況にかかわらず支払うものですが、扶養料は受け取る側が経済的に困窮している場合に問題となります。扶養料は親以外の親族、例えば祖父母などに対しても請求でき、親族が直系血族である場合に発生します。
扶養料を請求できる2つの条件
元配偶者が養育費を支払ってくれない場合、祖父母に扶養料を請求できる場合があります。ただし、扶養料は「生活扶助義務」に基づいて発生するもので、経済状況にかかわらず支払わなければならないものではありません。そのため、元配偶者による養育費の支払い状況や祖父母の経済状況によっては、扶養料を請求できないケースも考えられます。
祖父母に扶養料を請求できるのは、以下の2つの条件を満たす場合に限ります。
- 元配偶者が養育費を支払わない場合
- 元配偶者側の祖父母の資金に余裕がある場合
それぞれについて詳しく解説していきます。
元配偶者が養育費を支払わない場合
祖父母に扶養料を請求するには、「元配偶者が養育費を支払っていないこと」が条件です。子どもに対して第一義的な扶養義務を負っているのは両親ですが、両親が子どもを十分に扶養できない場合に限り、祖父母が生活扶助義務に基づいて扶養料を支払う必要があります。
法律では「直系血族および兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある」と定められており(民法第877条)、これに基づいて祖父母が扶養料を支払う義務が発生することがあります。ただし、元配偶者が養育費を滞りなく支払っている場合は、祖父母に扶養料を請求することはできません。
元配偶者の祖父母の資金に余裕がある場合
元配偶者側の祖父母に扶養料を請求できるもう一つの条件は、「祖父母の生活に余裕があること」です。
両親と祖父母は子ども(孫)に対してともに扶養義務を負っていますが、両親の義務は「生活保持義務」で、祖父母の義務は「生活扶助義務」です。生活扶助義務は生活保持義務よりも穏やかで、祖父母が自分の生活を犠牲にしない範囲で孫の生活を助ければ良いとされています。
したがって、祖父母の生活に余裕がある場合に限り、生活扶助義務に基づく扶養料の支払い義務が発生することになります。そのため、元配偶者が養育費を支払わない場合には、祖父母の経済状況を確認し、生活に余裕があるかどうかを判断することが重要です。
元配偶者の祖父母に扶養料を請求する2つの手順
元配偶者側の祖父母に扶養料を請求するには、以下の2つの手順を踏みます。
- 祖父母に支払いをお願いする
- 扶養請求調停や審判を起こす
話し合いによる解決が望ましいですが、合意に至らなかった場合や穏便に話し合える見込みがない場合には、家庭裁判所に調停を申し立てることも検討しなければなりません。それぞれの手順について、以下で詳しく解説します。
祖父母に支払いをお願いする
祖父母に扶養料の支払いをお願いする際には、まず直接話し合う場を設けます。元配偶者から養育費の支払いが滞っている事情を丁寧に説明し、現状を理解してもらうことが必要です。祖父母に孫のために協力をお願いする際には、孫の現状や将来の夢、努力していることなどを伝えると良いでしょう。具体的な情報を共有することで、祖父母の理解と共感を得られるかもしれません。
しかし、話し合いの過程で「扶養料を支払う代わりに孫を引き取る」といった提案が出る可能性や、場合によっては争いになることも考えられます。また、関係性によっては話し合い自体を拒まれることもあるかもしれません。そのため、祖父母との関係をよく考えつつ、対話を進めることが重要です。
話し合いの末に祖父母が扶養料の支払いに応じてくれた場合、後々のトラブルを避けるために、支払いに関する合意を文書にまとめておくと良いでしょう。
扶養請求調停や審判を起こす
祖父母に扶養料の支払いをお願いするための話し合いで決着しない場合や、話し合い自体を拒まれた場合には、家庭裁判所に扶養請求の調停もしくは審判を申し立てられます。
「調停」では、調停委員が双方の主張を聞く形で話し合いが進められます。調停委員は、親権者と祖父母の主張や事情を聴き取り、お互いの納得がいく解決策を模索します。調停の過程で合意に至れば、その内容で調停が成立します。
しかし、調停で合意に至らない場合は、自動的に「審判手続き」が開始されます。審判手続きでは、家庭裁判所の裁判官が当事者双方の事情を総合的に考慮し、必要な審理を行います。裁判官は、以下のような項目を総合的に判断し、支払い義務があるかどうかを決定します。
- 養育費の支払い状況
- 子どもの生活状況
- 親権者の収入や仕事の状況
- 祖父母の経済状況 など
審判手続にて祖父母に扶養料の支払い義務が認められた場合には、具体的な金額が決定されます。
養育費の不払いにお困りの場合に検討するべき4つの手段
養育費の滞納が発生したり、不払いのまま連絡がつかなかったりすると、不安になるのは当然のことです。しかし、未納分を放置してしまうのは得策とは言えません。適切な手段を講じることで、養育費の支払いを促すことが可能です。
元配偶者からの養育費の支払いに問題がある場合、対処するためには以下の4つの手段が有効です。
- 家庭裁判所に「養育費請求調停」を申し立てる(養育費の合意が取れている場合)
- 家庭裁判所に履行勧告や履行命令を申し立てる
- 強制執行の手続きを取る(すでに「執行証書」を作成している場合)
- 弁護士に相談する
それぞれの手段について、以下で詳しく解説します。
養育費の合意が取れている場合は調停を提起する
すでに離婚が成立していて養育費の合意が取れている場合には、家庭裁判所に「養育費請求調停」を申し立てることが有効です。養育費請求調停では、調停委員が元夫婦の間に入って話し合いを仲介します。この調停の目的は、養育費の金額や支払い方法について当事者双方が合意に至ることです。
調停が成立した場合、その内容は「調停調書」に記載され、元配偶者は調停調書に従って養育費を支払う義務を負います。調停調書は法的効力があり、万が一、養育費が支払われない場合には、調停調書を債務名義として強制執行を行えます。強制執行により、元配偶者の財産や給与などから養育費を差し押さえることが可能です。
一方で、調停が不成立となった場合には、家庭裁判所の審判に移行します。審判では裁判官が当事者双方の事情を総合的に考慮し、適切な養育費の額を判断します。また、必要に応じて告訴などのより強力な手続きも検討されます。
参考:養育費請求調停|裁判所
履行勧告・履行命令を申し立てる
養育費の未払いが生じた場合、家庭裁判所へ「履行勧告」や「履行命令」の申し立てることも可能です。
- 履行勧告:裁判所から養育費を支払わない相手に対して、取り決め通りに支払うよう勧告する
- 履行命令:勧告に従わない場合にさらに強く命じるもので、10万円以下の過料が科せられる可能性がある
これらの手続きは、養育費の支払いを促すためのものであり、法的強制力はありません。しかし、裁判所からの連絡によって心理的プレッシャーを与えるため、一定の効果が期待できます。
特に履行命令においては、相手が命令に応じなければ10万円以下の過料に処せられる可能性があるため、支払う側にとってはより強い心理的プレッシャーとなるでしょう。そのため、履行勧告や履行命令の申し立てを行うことで、養育費の未払いが改善されることが期待できます。
執行証書を既に作成している場合は強制執行の手続きを取る
養育費の不払いが続いており、すでに「執行証書」を作成している場合は、強制執行の手続きを検討できます。強制執行とは、相手の財産や給与を差し押さえて養育費を回収する手続きです。
強制執行を行うためには、執行力のある債務名義が必要です。債務名義には以下のようなものがあります。
- 執行認諾文言付き公正証書
- 調停調書
- 和解調書
- 確定判決書
これらの書類がある場合、家庭裁判所を通じて強制執行を行うことが可能です。ただし、相手に財産や収入の見込みがない場合、強制執行は効果がない可能性もあります。この場合、何も手を打たなければ、親権者とその子どもが経済的に困窮してしまいます。場合によっては、元配偶者側の祖父母に経済的援助を求めることも一つの選択肢です。
弁護士に相談する
弁護士に相談することで、「強制執行前に交渉を行うべきか」「履行勧告などの裁判所の手続きを利用すべきか」など、個々の状況に応じた適切なアドバイスを期待できます。例えば、相手の職場が分かっている場合には、給与を差し押さえることが効果的ですが、相手が仕事を辞めるリスクも考慮しなければなりません。
元配偶者に直接連絡したくない場合には、弁護士から書面や電話で催促してもらうこともできます。また、弁護士の権限により、預金を差し押さえる際に必要な銀行名や支店名について、「弁護士会照会制度」で特定することも可能です。弁護士に依頼することで、養育費を回収できる可能性が高まります。
参考:弁護士会照会制度(弁護士会照会制度委員会)|日本弁護士連合会
まとめ
この記事では、元配偶者側の祖父母に養育費を肩代わりしてもらえるのかについて解説しました。元配偶者側の祖父母には、原則として養育費を支払う義務はありません。しかし、元配偶者が十分な養育費を支払わない場合や生活に困窮する場合には、祖父母に扶養料を請求できる可能性があります。
養育費は親が負う「生活保持義務」に基づき、親の経済状況に関係なく支払わなければなりません。一方、扶養料は祖父母のような親族が負う「生活扶助義務」であり、支払う側に経済的な余裕がある場合に限り支払われるものです。
祖父母に扶養料を請求するためには、まず直接話し合いを試みることが大切です。話し合いが成立しない場合や拒まれた場合には、家庭裁判所に扶養請求の調停や審判を申し立てます。調停や審判では、調停委員や裁判官が双方の事情を総合的に考慮し、扶養料の支払い義務を判断します。
元配偶者側の祖父母が養育費の連帯保証人になっている場合や、善意で養育費を支払ってくれる場合を除き、祖父母に元配偶者の養育費を全額肩代わりしてもらえる可能性は低いと言えます。
養育費の不払いが生じた場合でも、適切に対処することで回収を見込めます。お困りの場合には、まずは弁護士への相談を検討してみましょう。
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