離婚した後、子どもの非監護親に請求できるのは養育費だけではありません。「大学や専門学校への入学費・学費」「病気・入院による高額な医療費」「塾・習い事の費用」などの出費は、「特別費用」として別途請求できる可能性があります。
そもそも特別費用とは、養育費に該当しないものの、子育てに必要となる一時的な大きな出費を指します。養育費に含まれるのは以下のような項目で、基本的にはそれ以外の費用を養育費に上乗せして請求することはできません。
- 標準的な食費、家賃、水道光熱費、衣服代など
- 義務教育に必要な費用
- 公立学校の学費や教材費
- 標準的な通院治療費用、入院費、薬代
- 標準的なお小遣い、娯楽費用
しかし養育費に含まれない項目を、特別費用として別に請求することはできます。特別費用を請求する方法は以下の3種類があります。
- 協議離婚時の話し合いで支払い対象や金額を決める
- 調停離婚や裁判離婚時に条件として盛り込む
- 特別費用が必要になった際に請求する
基本的には、協議離婚時の話し合いで特別費用について取り決めを行います。どのような項目を特別費用に含めるのか、誰がどれくらい金額を負担するのかなどの条件は、夫婦が自由に決めてかまいません。話し合いが決裂した場合は、調停や裁判で特別費用について争うこともあります。
また「離婚時に特別費用の協議や調停・裁判などを行っていない」という人は、特別費用が発生した時点で請求することもできます。しかし相手に支払いを拒否されたり、協議に応じてもらえなかったりと、トラブルに発展する可能性もあります。特別費用が発生してはじめて相手に請求をする場合は、特別費用の金額の根拠を示す必要があります。また、交渉が必要になるため、離婚問題に強い弁護士と連携を取り、アドバイスをもらいながら交渉を進めるとよいでしょう。
この記事では、特別費用の対象となる項目や請求方法、トラブルを避けるための対策などを紹介します。元配偶者に請求できるお金について調べている人は参考にしてください。
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特別費用とは養育費に含まれない一時的な大きい出費のこと
そもそも養育費とは、子どもを監護・教育するために必要な費用を指します。離婚によって子どもを監護することになった親は、非監護者に養育費を請求できます。養育費の金額は夫婦で自由に決められるため、双方が合意しているのであればいくらに設定してもかまいません。
しかし、子どもを監護する親は養育費が欲しいと主張し、非監護者は養育費の負担を減らしたいと主張するなど、夫婦で養育費の金額が折り合わずトラブルになるケースもあります。そのようなときは、裁判所が発表している「養育費算定表」を参考に養育費の金額を決定します。
養育費算定表とは、子どもの人数や年齢、両親の年収ごとに養育費の相場を定めた表です。養育費算定表に記載されている養育費の目安は、子育てに必要な「標準的な費用」をもとに算出されています。子育てに必要なすべての費用が含まれているわけではない点に注意が必要です。
養育費算定表の養育費に含まれるのは、次のような費用です。
- 標準的な食費、家賃、水道光熱費、衣服代など
- 義務教育に必要な費用
- 公立学校の学費や教材費
- 標準的な通院治療費用、入院費、薬代
- 標準的なお小遣い、娯楽費用
家庭の教育方針によっては「子どもを私立中学に通わせたい」「習い事をさせたい」などと思う人もいるでしょう。しかし養育費に含まれるのは、公立高校へ通う場合に必要な費用のみです。私立学校の入学金や授業料などを養育費に上乗せして請求することはできません。
このように、養育費の内訳に含まれていないものの、子育てで必要となる一時的な大きい出費を「特別費用」といいます。具体的な項目は次の段落で紹介しますが、特別費用に該当するのは私立高校や大学の学費、留学費用、怪我・病気による高額な医療費などです。
養育費とは別に請求できる可能性がある特別費用
先述したように特別費用とは、養育費に含まれないものの、子育てで必要となる突発的な大きい費用を指します。具体的な項目は以下のとおりです。
- 大学・専門学校への入学費・学費
- 病気・入院による高額な医療費
- 塾・習い事の費用
次の項目から、それぞれのポイントを詳しく紹介します。
大学・専門学校への入学費・学費
大学や専門学校へ進学するときにかかる入学金・学費は、特別費用に該当します。
養育費算定表では、子どもが公立高校に通ったときの平均的な学費をもとに養育費を算出しています。高校以降の学費は養育費に含まれていないため、子どもが大学や専門学校などへ進学する場合は、その費用をどちらが負担するのかを決めておく必要があります。
また私立学校への入学金や学費、留学費用なども特別費用に該当します。「離婚時に子どもがすでに私立学校へ通っている」「将来、大学入学や留学をする可能性がある」といった場合も、特別費用について夫婦で話し合っておきましょう。
病気・入院による高額な医療費
子どもが風邪をひいたときの薬代や診察代など、通常の医療費は養育費の対象となります。
しかし「大きな病気や怪我をして入院することになった」「子どもが持病や障がいを抱えている」などの場合、その治療費は特別費用となります。現在は子どもの健康状態などに問題がないとしても、子どもが将来入院するときのことなどを想定し、治療費の負担者や負担割合などを決めておきましょう。
また子どもに障がいや持病がある場合は、医療費や介護費をそれぞれの収入割合で按分し、養育費に加算することもあります。一般的に養育費の請求は子どもが20歳になるまでとされていますが、子どもに持病や障がいがあり、サポートが必要な場合など事情によっては延長することもあります。子どもに障がいや持病がある場合は、特別費用だけでなく養育費の終期についてもあわせて話し合いが必要です。
塾・習い事の費用
子どもの塾・習い事にかかる費用は、特別費用に該当します。
離婚前から子どもが塾や習い事に通っていた場合、通うことをすでに夫婦が同意している場合など、例外としてそれらが養育費として認められるケースもあります。しかし月謝が高額になりやすい特殊な習い事や受験塾などは、基本的に養育費として認められないでしょう。
たとえば、中学受験のために通う受験塾の費用、フィギュアスケートやバレエ、バイオリンなどの習い事の月謝が挙げられます。塾や習い事の費用を非監護者に請求したい場合も、特別費用として夫婦間で合意を得る必要があります。
特別費用の支払いが認められた判例
離婚時は、養育費とあわせて特別費用についても夫婦で話し合い、協議によって条件を決めるのが一般的です。
ただし話し合いでの合意が難しい場合は、調停や裁判で特別費用について争うこともあります。なかには、裁判で下記の特別費用が認められた事例もあります。
次の項目から、それぞれの判例を紹介します。
歯科矯正費用の請求
平成18年12月28日に行われた大阪高裁の判例を紹介します。子どもの骨折治療費や歯科矯正費用、眼鏡代などで約26万円が必要になり、妻が夫に対して特別費用調停を申し立てました。なお夫婦は別居しており、妻が子どもの監護養育を行っています。
大阪高裁は確定申告書の医療費控除欄に記載される金額を、夫婦で分担すべき医療費と認めました。標準的な医療費を超える部分と判断された約59,000円を、妻・夫それぞれの基礎収入の割合に応じて分担することとしました。
また、ほかの裁判でも特別費用として歯科矯正費用の請求が認められた事例があります。もともと離婚条件を定めた公正証書で特別費用について記載がなかったものの、養育費調停と特別費用調停の2回を経て、元夫が歯科矯正費用の一部を負担することが認められました。離婚時に特別費用について協議を行っていなかった場合でも、状況によっては請求が認められる可能性があります。
私立大学の学費の請求
平成27年4月22日に行われた大阪高裁の判例を紹介します。4年制の私立大学に通うことになった子どもの学費を、特別費用として請求できるかどうかが争われました。
本来、大学の入学金や学費は離婚後に養育費として請求することができません。しかし大阪高裁は、養育費を請求される側が子どもの私立大学進学を承諾している場合、収入や資産の状況を考慮すると学費を負担するべきだと判断される場合などは、請求が認められる可能性があるとしました。
今回の事例では婚姻期間中に聞いていた子どもの進学先や、夫婦の経済状況などが考慮され、公立大学の学費に相当する金額の1/3を請求することが認められました。
養育費には含まれない特別費用の決め方
特別費用を請求する方法は、以下の3つが挙げられます。
- 協議離婚時の話し合いで支払い対象や金額を決める
- 調停離婚や裁判離婚時に条件として盛り込む
- 特別費用が必要になった際に請求する
次の項目から、それぞれの詳細を紹介します。
協議離婚時の話し合いで支払い対象や金額を決める
特別費用の金額は、夫婦同士の話し合いで自由に決定できます。養育費の相場は養育費算定表の金額を参考にしますが、特別費用については特に相場が決められていません。「子どもが私立高校の入学を希望している」「大学に進学するつもり」など、これからかかる費用が想定できる場合は、協議離婚時にそれぞれが負担する具体的な金額を決めておきましょう。
また想定外の支出があったときのために、どのような項目を特別費用に含めるのか、支出があったときは誰がいくら負担するのかなどの条件を明確にすることが大切です。費用を負担する方法は費用を半分ずつ負担する方法のほか、7:3や6:4など収入割合に合わせて按分する方法、どちらかが全額負担する方法などがあります。
調停離婚や裁判離婚時に条件として盛り込む
特別費用について話し合いで合意できない場合は、家庭裁判所に調停や審判を申し立てます。
特別費用には学費など将来発生することが想定できる費用と、入院費など突発的に発生する費用があります。支払い時期や金額の目安が事前にわかっている費用は、それらを明示して調停条項に盛り込むのが一般的です。
一方、突発的に発生する費用は夫婦でその都度話し合う、あらかじめ負担割合を決めておくなどの対応が有効です。ただし話し合いがトラブルにつながるケースもあるため、あらかじめ負担割合を決めておくほうが夫婦の負担が少ないかもしれません。
特別費用が必要になった際に請求する
「離婚時に特別費用の協議や調停・裁判などを行っていない」という人は、特別費用が発生した時点で請求することもできます。協議離婚時と同じように、まずは夫婦で話し合いを行い特別費用について合意を得るとよいでしょう。
協議による合意が難しい場合は、調停や裁判にステップを進めていきます。裁判の場合、非監護者が支出について承諾していたか、非監護者にとって支払いがどの程度負担となるかなどを総合的に考慮したうえで負担割合が決定します。裁判の結果によっては特別費用が認められず、すべて監護者の負担となる可能性もあります。
養育費以外の特別費用の請求を認めてもらうポイント
特別費用の請求を認めてもらうには、以下の方法が効果的です。
- 金額を決めるときは根拠を示す
- 取り決めの際に公正証書を作成しておく
- 離婚問題に強い弁護士に相談する
次の項目から、それぞれのポイントを紹介します。
金額を決めるときは根拠を示す
特別費用について夫婦で協議したものの、条件が折り合わず「納得できる金額を請求できなかった」「請求を拒否されてしまった」というケースは少なくありません。
提示した費用をしっかりと払ってもらうには「どうしてこの金額を請求するのか」という根拠を示し、妥当性を説明する必要があります。将来発生する可能性がある特別費用の項目がわかっているのであれば、内訳を具体的に提示しましょう。また負担額を決めるときはお互いの収入などを基準とし、割合の根拠を示すことが大切です。
取り決めの際に公正証書を作成しておく
特別費用についての協議がまとまったら、取り決めの内容を公正証書に残しておきましょう。公正証書とは法的効力を持つ書類のことで、裁判をする場合は有力な証拠として扱われます。
特別費用の取り決めを公正証書化するメリットは、「強制執行認諾文書」を記載すると支払いが滞った場合はただちに強制執行手続きへ移行できることです。強制執行認諾文書とは、「公正証書に記載されている内容を守れない場合、強制執行されてもかまわない」という旨を証書に盛り込む行為を指します。確実にお金を払ってもらうために、特別費用の負担割合や期日、具体的な金額などを明記したうえで、必ず強制執行認諾文書を記載しましょう。
万が一、公正証書に強制執行認諾文書を記載できず、費用の支払いが滞納した場合、家庭裁判所に養育費調停または特別費用調停を申し立てる必要があります。家族間の紛争を解決する手段として、「親族間紛争調停」という調停もありますが、誤って親族間紛争調停の申し立てをしてしまうと、強制執行権利をつけられないので注意が必要です。
離婚問題に強い弁護士に相談する
養育費や特別費用について、話し合いがまとまらないときは離婚問題に精通した弁護士に相談するとよいでしょう。弁護士は家庭それぞれの事情を踏まえたうえで、適切な養育費を算出してくれます。相手との交渉を弁護士にすべて任せることもできるため、精神的なストレスを減らしたり、話し合いをスムーズに進めたりする効果も期待できるでしょう。
また、特別費用の請求をしたとき「相手が協議に応じてくれない」「費用が高額で支払いを拒否される」などのトラブルは少なくありません。協議離婚時に話し合いをしておらず、特別費用が発生した時点ではじめて請求をする場合、話し合いのみで合意を得るのは難しいかもしれません。なるべく早い段階で弁護士に相談し、どのように行動するべきかアドバイスをもらうようにしましょう。
まとめ
特別費用とは、養育費の対象外ではあるものの、子育てで必要となる一時的な大きい出費を指します。具体的な項目は「大学・専門学校への入学費・学費」「病気・入院による高額な医療費」「塾・習い事の費用」などです。これらは費用が高額になりやすく、家庭の事情や子どもの健康状態などによっては費用が発生しないケースもあるため、養育費には含まれません。
しかし、下記の方法で特別費用についての取り決めを行った場合は、特別費用を請求できる可能性があります。
- 協議離婚時の話し合いで支払い対象や金額を決める
- 調停離婚や裁判離婚時に条件として盛り込む
- 特別費用が必要になった際に請求する
しかし特別費用はイレギュラーの支出であることから、支払いを拒否されたり、そもそも協議に応じてもらえなかったりと交渉が難航するケースも珍しくありません。請求するときは早い段階から離婚に精通した弁護士に相談し、どのように行動するべきかアドバイスをもらうとよいでしょう。
養育費に関するよくある質問
養育費とはそもそも何ですか?
養育費とは、経済的・社会的に自立していない子どもを育てるために必要な費用です。離婚によって子どもを監護することになった親は、非監護者の親に養育費を請求できます。
養育費の金額は、原則として夫婦の話し合いで決定します。夫婦で合意が得られているのであればいくらに設定してもかまいませんが、裁判所が発表している「養育費算定表」を参考にすることもあります。
養育費算定表とは、過去の裁判実績などにもとづいて養育費の相場を記載した表です。裁判所のホームページに掲載されており、子どもの人数や年齢、親の年収などによって養育費の金額が細かく設定されています。ただし養育費算定表に記載されている養育費は、公立高校までの平均的な学費と平均的な諸経費のみが含まれています。子育てに必要な費用がすべて含まれているわけではない点に注意が必要です。
なお、話し合いで養育費の金額が決まらない場合は、調停や裁判で金額を決めることもあります。
養育費に含まれる費用の具体的な例を教えてください
養育費に含まれる具体的な項目は以下のとおりです。
項目
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内訳
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衣食住に必要な費用
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被服費、食費、家賃、水道光熱費
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教育費
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公立学校の学費、教材費
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医療費
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通院治療費用、入院費、薬代
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遊行費
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お小遣い、娯楽費用
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しかし、離婚をする時点で子どもが私立学校に通っていたり、将来的に子どもが大学に進学することが想定されたりする場合はその点も考慮し、養育費に加算される場合もあります。
養育費・特別費用とは別に請求できる扶養料とは何ですか?
「扶養料」とは養育費や特別費用とは別に、非監護者に請求できる費用です。親は子どもに対して、自分と同じ水準の生活を送れるように生活を支援する義務があります。これを「生活保持義務」といい、扶養権利者は扶養義務者に扶養料を請求できます。
たとえば親子の場合、子どもが扶養権利者、親が扶養義務者に該当します。子どもが未成年のうちは監護者が代理人となり、非監護者に扶養料を請求することが可能です。
扶養料は養育費や特別費用と同じように、夫婦の話し合いによって金額を決めてかまいません。条件が折り合わない場合は、家庭裁判所で調停を行うこともあります。
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